残された手記 - 素晴らしきかな、労働!
1.はじめに Introduction

このシナリオは『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック(以下『ルールブック』)』に対応したシナリオで、探索者3〜4人向けにデザインされている。
プレイ時間は探索者の作成時間を含まずに3〜4時間程度だろう。
舞台は1928年のデトロイトだ。探索者は大企業の幹部から依頼を受けて、とある自動車工場を調べることになる。
この導入と整合がとれるのであれば、探索者の年齢や職業に制限はない。
典型的なのは、調査や潜入に慣れた探偵、行動力のある退役軍人、金次第でなんでもこなす放浪者、フォード社や依頼人に伝手のあるエンジニアなどだ。
いずれにせよ真実へと至るためには、積極的で大胆、必要に応じて法の垣根を乗り越えられる人物である方がよいだろう。なお、労働意欲の有無はさほど問題にならない。

2.シナリオ背景 Keeper Information

太陽系外縁天体のユゴスでは、人類文明が勃興する遥か以前より、ミ=ゴによる鉱物の採掘がおこわなれてきた。
しかし近年はミ=ゴの生殖能力の低さ、および地球への動員により、ユゴスにおける労働力の不足が顕著になっていた。
そこでミ=ゴたちは、地球の人間を労働力として徴発することにした。
しかしユゴスでの労働力となるためには、過酷な環境への肉体的・精神的な適性が必要となる。
そういった人材を選抜あるいは育成するため、あるミ=ゴが1927年ごろ、人間の手下を使ってミシガン州デトロイトに自動車工場と従業員宿舎を建設した。
当時のアメリカでは、ゼネラルモーターズやフォード社などが牽引する自動車産業が著しい発展を見せており、デトロイトには移民を含めた労働者が大勢集まっていたのである。
ミ=ゴによって作られた自動車メーカーはエクセレント・パワーと名づけられた。
高度な科学技術を組み込んだ製品と利益度外視の経営によって、エクセレント・パワーは市場シェアを急速に拡大し、創業から1年あまりで数百人の従業員を抱え込むことに成功した。
 このころ業績に陰りが見えはじめていたフォード社は、エクセレント・パワーの事業を快く思わなかった。
一方で、製品の質や生産性の高さには強い興味を持っていた。
そのうちに社の上層部は、幹部のひとりであるクリス・ミラーに、エクセレント・パワーの内情を調査するよう命じた。
クリスはこの種の仕事に不慣れだったが、やがてわずかばかりの伝手や心当たりを頼りにして、めぼしい者たちを呼び寄せることにした。

3.主なNPC NPCs

クリス・ミラー
探索者たちの依頼人となるフォード社の男性幹部。知的で身なりもよいが、雰囲気は苦悩する中間管理職といった風である。
金払いはよく、探索者たちの要望にも柔軟に対応する。ただし大きな面倒ごとや積極的な関与は可能な限り避けようとする。

イライジャ・アクセルロッド
エクセレント・パワー設立以前からミ=ゴに協力してきた男。高度な科学技術を持つミ=ゴに心酔し、忠誠を誓っている。
現在はエクセレント・パワーの社長兼工場長として、ユゴスでの労働に適した人間のリクルートおよび選抜を行なっている。
彼が使用するミ=ゴの電気銃については『ルールブック』P265を参照のこと。

容姿の描写:小柄で小太り。日中は仕立てのよいスーツ、もしくは清潔な作業着を身につけている。
特徴:態度は柔和で洗練されており、熟練した販売員のような印象を与える。
ロールプレイの糸口: 多くの優秀な労働者をユゴスに送ることと、敵対者を排除することが目的。ミ=ゴの利益になるのであれば、自らの命も惜しまない。

イライジャ・アクセルロッド(43歳)、ミ=ゴの手先
STR 65 CON 75 SIZ 70 DEX 70 INT 80
APP 70 POW 65 EDU 80 正気度 0 耐久力 14
DB:+1D4 ビルド:1 移動:8 MP:13
近接戦闘(格闘)40%(20/8)、ダメージ 1D3+DB
小型電気銃 50%(25/10)、ダメージ 1D10+スタン
回避 35%(17/7)
技能:言いくるめ 50%、経理 45%、心理学 50%、説得 50%、魅惑 65%、法律40%、
呪文:《記憶を曇らせる》《犠牲者を魅了する》《支配》《破壊》

タキオ・トドロキ 
真面目で勤労意欲に溢れたエクセレント・パワーの男性工員。面倒見がよいため新しい工員の世話を任されることが多い。
ミ=ゴの存在や狙いについては知らず、疑念を抱いてもいない。両親は日本からの移民であるが、本人は流暢な英語を話す。

容姿の描写:日本的な顔立ち。爽やかな短髪と眩しい笑顔。中背ながらも逞しく頑健な肉体を持っている。工場の外では冬でも袖のない服を着ている。
特徴:異常なまでに労働を賛美することを除けば、明朗快活で親切な好人物。怒ったり不機嫌になったりすることはほとんどない。
ロールプレイの糸口: 新しい工員(探索者たち)をエクセレント・パワーの生活に順応させ、より優れた労働者へと成長させるべく世話を焼く。職場に不和をもたらす行動に対しては懸念を示すが、社長であるイライジャの命令がない限り、暴力に訴えるようなことはない。

タキオ・トドロキ(27歳)、パワフルな同僚 
STR 90 CON 80 SIZ 80 DEX 50 INT 50
APP 75 POW 45 EDU 40 正気度 15 耐久力 16
DB:+1D6 ビルド:2 移動:8 
近接戦闘(格闘)25%(12/5)、ダメージ 1d3+DB
回避 25%(12/5)
技能:機械修理 35%、精神分析 20%、説得 35%、電気修理 35%、ほかの言語(日本語) 35%、魅惑 35%

ジェームズ・ブレイク
大手探偵社であるピンカートンに所属する探偵。自動車メーカーのゼネラルモーターズから依頼を受け、エクセレント・パワーに潜入している。
経験豊富だがクトゥルフ神話にまつわる事件を扱ったことはなく、ミ=ゴの存在も知らない。
本名はアラン・カートライト。ジェームズ・ブレイクは潜入の際に使っている偽名である。
なお彼が所属するピンカートン社は、アメリカに古くからある有名な探偵社のひとつであり、身辺警護や労働者のストライキ妨害など手広い仕事を請け負っている。

容姿の描写:鉤鼻で額が広い。背丈は普通だが肉体は引き締まっている。周囲に溶け込むような目立たない服装をしている。
特徴:一見して温和だが、ときおり瞳に鋭い知性が光る。はじめは誰にでも中立の態度を保ち、慎重に言葉を選んで話す。
ロールプレイの糸口:エクセレント・パワーの真実を明らかにしようとする。探索者たちの動機や性質、能力を見極めて、協力すべきかそうでないかを判断する。

ジェームズ・ブレイク(36歳)、ピンカートンの探偵
STR 75 CON 75 SIZ 60 DEX 70 INT 85
APP 55 POW 65 EDU 65 正気度 65 耐久力 13
DB:+1D4 ビルド:1 移動:9 
近接戦闘(格闘)65%(32/13)、ダメージ 1D3+DB
38口径リボルバー 65%、ダメージ 1D10
回避 55%(27/11)
技能:言いくるめ 66%、運転(自動車)40%、応急手当 40%、隠密 75%、鍵開け 70%、心理学 66%、手さばき 45%、変装 80%、法律 50%  

4.シナリオの導入 Get Starting

シナリオは冬のデトロイトではじまる。探索者たちはある日、フォード社幹部のクリス・ミラーに召集される。
クリスから声がかかった経緯は、プレイヤーが自由に決めてよい。
探索者は以前に彼と関わったことがあるかもしれないし、知人の紹介ではじめて会うのかもしれない。
あるいは単に、他の探索者の手伝いでついてきたのかもしれない。
クリスは探索者たちをフォード社の応接室に通し、座り心地のよい皮張りのソファに腰を据えて、まずは以下のような話をする。

1年ほど前、デトロイトに新たな自動車メーカーができた。
エクセレント・パワーという社名で、製造する自動車はフォード社を含めた他のメーカーより高性能、かつ廉価であった。
製品は当然のことながら人気を博し、ただでさえ低迷しているフォードの利益をさらに圧迫している。
聞くところによると、エクセレント・パワーの工員はほとんどが非熟練労働者だが、不可解なほどに高い生産性を発揮している。
フォード社上層部はこの企業について可能な限り情報を集め、今後の対策を立てたいと考えている。

そしてクリスは本題として、探索者たちに以下のような条件で仕事の依頼をする。

■エクセレント・パワーに工員として潜入し、生産技術や教育方法などの具体的な情報を得ること。
■また、企業間の交渉材料となるような弱みや(もしあれば)不法行為の証拠を得ること。
■上記を片方でも達成すれば1人あたり400ドル、両方を達成すればさらに400ドルを報酬として支払う。
■期限は設けず、方法は問わない。法律的な支援も可能な限り提供する。

クリスは探索者たちにエクセレント・パワーの工場と従業員宿舎の場所(デトロイト市街東部)を示し、さっそく仕事にとりかかって欲しい、と口にする。

5.事前調査 Preliminary Investigation



公的な情報
探索者たちは役場で登記簿や住民票を入手して、エクセレント・パワーの存在について裏を取ることができる。
エクセレント・パワーは通常の法手続きに則って設立された会社(株式は発行していない)であり、
社長のイライジャ・アクセルロッドも実在の人物であることが分かる。
もし探索者が警察関係者であったり、そういった人物と繋がりを持っていたりするならば、
〈信用〉〈法律〉に成功することで、イライジャの訴訟歴や犯罪歴を照会することもできる。
とはいえ、イライジャが過去におこなったおぞましい所業は、ミ=ゴの協力によってうまく隠蔽されているため、
上記の記録を参照してみても目ぼしい手掛かりを得ることはできない。

出回っている製品
工場から出荷されたエクセレント・パワーの製品は販売店に卸され、デトロイトだけでも数百台が出回っている。
探索者たちが望むなら、店先で販売されている車、あるいは街中にある車を調べることができる。
エクセレント・パワーの主な製品は2人乗りのリベレイションM、および小型トラックのリベレイションESである。
これらは似たような型の大手メーカー製に比べ、燃費、加速性能、操作性などにおいて数十パーセントの優位性を持っている。
〈機械修理〉〈電気修理〉〈科学(工学)〉などに成功した探索者は、
リベレイションシリーズのエンジンや部品に画期的な機構が採用されていることに気づくだろう。
ただしそれらを量産するためには非常に精密な加工機械が必要であり、一般的なメーカーが(仕組みを理解したとしても)商品化するのは困難だということが分かる。

ハンドラーの食料雑貨店
探索者たちがエクセレント・パワーの従業員宿舎へ向かうなら、すぐ近くにあるこの食料雑貨店が目に入るだろう。
店主はハワード・ハンドラーという男で、各所から商品を仕入れ、まとめて宿舎に納めている。
またエクセレント・パワーの従業員たちもしばしばこの店を訪れ、細々とした商品を購入している。

ハンドラーの食料雑貨店は赤レンガ造りの二階建てだ。二階部分はハワードの住居として使われており、一階部分が店舗にあたる。
広く取られた間口の上部には、黒いブロック体で店名が記されている。
デトロイト中心部にある個人商店に比べると店舗は広く、レイアウトもゆったりしている。
品揃えは一般的な食料雑貨店と変わりなく、商売のやり方もごくまっとうなものである。
朝7時から夕方の17時までの営業時間中、探索者たちは店内で働いているハワードと話すことができる。
また店舗の一角には、エクセレント・パワーの工員を募集する旨の求人広告が貼られている。

ハワードは四十歳過ぎの独身男性だ。妻と死別したあとデトロイトにやってきて、十年間この場所で店を構えている。
彼は穏やかで誠実な性格をしており、金儲けよりも読書や社交を好む人間である。探索者たちが質問すれば、その内容に応じて次のような事柄を口にする。

■エクセレント・パワーの社長はイライジャ・アクセルロッドという感じのいい中年男性で、いくつかの品物を従業員宿舎へ定期的に納めるよう、ハワードと契約を交わしている。
■宿舎で生活している従業員たちはみな礼儀正しく、生き生きしており、日々の労働を苦とも思っていない様子である。彼らが購入するのはもっぱら生活必需品の類で、タバコやポルノなどはまったく人気がない。
■エクセレント・パワーが求人広告を出すと、大勢が応募するため、採用されるのは簡単でない。ただし明らかな傾向として、地縁や身寄りのない者が採用されやすいようである。
■ハワードは上記の傾向について、社長のイライジャが慈善的な精神を発揮しているためであろう、と解釈している。

求人広告
探索者たちはハンドラーの食料雑貨店やその他の場所で、エクセレント・パワーの工員を募集する求人広告を見つけることができる。
広告には輝くばかりの笑顔を見せる工員の姿が描かれているほか、常識的な労働時間、平均より2割ほど高い給与、提供される宿舎の概要、などの条件が提示されている。
また応募時の連絡先として、エクセレント・パワーの電話番号、および工場の住所も記されている。
エクセレント・パワーを外部から調べることも可能だが、内情を詳しく探るには、やはり工員として潜り込むことが必要だ。
探索者たちが工員に応募するため電話をかければ(あるいは直接工場を訪問して応募を申し出れば)、
よほど非常識な時間でない限りは事務員が対応し、イライジャによる採用面接に進むことができる。
面接の場面やその後の流れについては、「6.採用面接」および「9.朝礼」以降を参照のこと。


6.採用面接 Job Interview

おおまかな事前調査を終えた探索者たちは、いよいよエクセレント・パワーへの潜入を試みることになるだろう。
探索者たちから連絡あるいは訪問を受けた事務員は、終業間際の時間に工場を訪れるよう求め、イライジャとの面接をセッティングする。
探索者たちが指定の時間に工場へやってくると、事務員によって応接室まで案内される。
イライジャは既に待機していて、にこやかな態度で探索者たちを迎える。
そして着席を促してから、探索者たち個々人に対して、主に来歴や生活環境などを尋ねる。
彼が気にするのは、工員としての適性以上に、探索者たちが失踪してもトラブルにならないかどうか、ということだ。
探索者たちは正直に答えてもよいし、これまでに得た情報をもとに、イライジャが気に入るような回答をでっちあげてもよい。
よほど不適切な態度を取らない限り、探索者たちは工員として採用される。
もし面接の際、イライジャに対してハードの〈心理学〉(彼は65%の〈魅力〉を持っている)に成功した探索者がいれば、
イライジャがなにか重要なことを隠していると確信できる。
しかし面接の場でそれを持ち出すことは、当然ながら求職者として望ましい態度ではない。

面接の際、イライジャは自らの労働観を喜々として語る。それはざっと以下のような内容である。

「我々の文明は組織化された労働によって支えられている。政治家や資本家ばかりの社会など、とても成り立たないだろう」
「労働だけが真に価値あるものを生み出す。君たちにはエクセレント・パワーでそれを実感してもらいたいのだ」
「かのヘシオドスも言っていたではないか。労働は恥ではない。働かないことこそ恥だ、と」
「ならば、懸命な労働とはすなわち比類なき名誉である。違うかね?」

探索者の職業や価値観によっては、これらの言葉に強い嫌悪や苛立ちを覚えるかもしれない。
しかしそれを表情や言葉で表すのは、当然ながら求職者として望ましい態度ではない。

一通りのやりとりが終わると、イライジャは書面での労働契約を交わしたあとで、おおまかな一日のスケジュールを説明し、
具体的な指示はタキオ・トドロキという者から受けるように、と告げる。
そして彼は非常に面倒見がよいので、探索者たちをうまく導いてくれるだろう、と付け加える。

〈一日のスケジュール〉
5:30  起床   13:30 休憩終了
6:00  朝食   16:00 終業
7:00  朝礼   17:30 夕食
7:30  始業   22:00 消灯
12:00  休憩開始

このほか、午前に2度、午後に1度、15分ずつの小休憩がある。また勤務は日曜を除く週6日となっている。


面接を終えると、イライジャは仕事中のタキオを呼びにやらせる。
やってきたタキオは爽やかな笑顔で新たな工員を歓迎し、共に従業員宿舎へ向かう。
到着後は宿舎の中を案内し、今日は緊張しただろうから早めに休むよう勧める。
探索者たちにはタキオと同じ居室が割り当てられるが、女性の探索者がいた場合には、別室が用意される。
どちらにせよ、翌日の始業までタキオは探索者たちにくっついて回るため、この日は自由に探索するのが難しいかもしれない。
その後の展開については、「9.朝礼」以降を参照のこと。

7.工場 The Factory
この項では、エクセレント・パワーの車が製造される工場について記す。



敷地と建物
工場がある一帯は市街の辺縁に位置し、工業施設や倉庫、資材置き場などが多く建てられている。
エクセレント・パワーの工場敷地に塀や柵はなく、部外者でも比較的容易に出入りすることができる。
敷地内には数台のトラックが停まっており、物資搬入のために働く人の姿も見える。
建物は住宅や商店に比べて大きいが、自動車メーカーの工場としては小規模なものだ。
出入口は正面と裏手にはひとつずつあり、これらは夜間施錠されている。
高い位置にある窓はまったく開閉できないか、あるいはほんの少ししか開かないようになっている。
ただし応接室と事務室窓は、一般的な住宅のものとそう変わりない。

ロッカールーム
出勤してきた工員が着替えたり、私物を保管したりするための部屋。
個々人が使えるスペースは小さく、工場が稼働している時間は非常に雑然としている。
安全のための保護具はこの時代あまり一般的でなく、せいぜい皮手袋や前掛けを着けるくらいだった。
探索者たちが望むなら、ここでハンマーやスパナといった工具が手に入れられることにしてもよい。

応接室
来客の応対や商談、従業員や求職者との面談を行うための部屋。
コーヒーテーブルや革張りのソファ、立派な額に入れられた油絵や観葉植物が置かれた小奇麗な空間である。

事務室
原材料の仕入れや製品の販売、従業員への給与支払いなどに関する事務が行われる部屋。日中は10人ほどの事務員が働いている。
中にはいくつかのデスクと椅子、タイプライターや書類の束などがある。
この部屋を1時間ほどかけて調べ、〈図書館〉〈経理〉〈法律〉などに成功した探索者は、エクセレント・パワーの経営に明白な不正はないことを理解する。
一方で、従業員の雇用に関する資料の中に変わった点があることに気づく。

雇用に関する資料には、求人に応募してきた者、実際に雇用された者、現に所属している者、既に会社を去った者などのリストがある。
退職した者や解雇された者はほとんどいない。その代わり、名前の部分に「B」と印された工員が目につく。
日付を確認すると、およそ1週間に2人程度「B」の者が出て、リストから外される。そしてそれを補うように、新しい工員が補充されている。

「B」がなにを意味するのか、上記の資料から知ることはできない。
事務員たちはこの印について、「イギリスのブリチェスターにある支社への栄転」と説明されている。
しかし実際には、ユゴスでの労働力として連れ去られたり、工作機械の制御装置に使うため脳を摘出されたり、その他おぞましい生体実験に供されたりしている。
「B」の対象となる工員は、肉体の頑健さ、知能の高さ、従順さ、ミ=ゴの外科手術との親和性、などの基準によって選ばれている。
原則として事務員が「B」の対象となることはない。彼らは比較的しっかりとした身元を持ち、教育水準も高いため、使い捨てるにはリスクやコストが大きすぎるのだ。

探索者たちが望むなら、事務員と話す機会を作ることもできるだろう。
しかし彼らはエクセレント・パワーの隠された真実を知らず、恵まれた条件で働いているために、愚痴として余計な話をすることはない。
しかし〈心理学〉に成功した探索者は、事務員たちの労働に対する姿勢が、工員のそれに比べて冷静で常識的なものであることに気づく。

車庫
組み立てや塗装が完了した製品を出荷まで置いておく場所。
ここには常時、数台から数十台の車両が運転可能な状態で保管されている。
そのほかガソリン入りの缶、水道設備とホース、清掃用具などもある。

製造区画
日々リベレイションシリーズが製造されている現場。
日中はここで200人ほどの工員が働き、部品の製造から車両の組み立て、塗装や点検までを行なっている。
特にエンジンや変速機といった重要な部品の製造には、ここにある特別な工作機械が不可欠となる。

製造区画に置かれている工作機械は、金属を切断したり、プレスしたり、削り出したり、研磨したりするために使用される。
〈機械修理〉〈電気修理〉〈科学(工学)〉などに成功した探索者は、これがいまの技術水準からは考えられないほどの、極めて高性能かつ多機能な機械であることが分かる。
この工作機械にはミ=ゴが持つ地球外の技術や素材が使われている。
特徴的なのは、動作を制御するための部品として人間の脳を利用していることだ。
それは機械のほぼ中心部にあって、培養液に満たされた容器に入れられ、電気的なエネルギーによって生かされている。
ただし脳は数週間で処理能力が低下するため、定期的な交換が必要となる。
もし探索者が適切な工具を使い、イクストリーム難易度の〈機械修理〉に成功したならば、
加工機械に組み込まれた人間の脳を見つけられるかもしれない(1/1D6の正気度ポイントを失う)。
脳を破壊したり回収したりすると機械は動作しなくなる。そうなればイライジャが異変に気付き、夜間に修理や部品の交換を試みることになる。

トイレ
十数個の小便器や個室が並ぶトイレ。規模が大きいことを除けば、一般的な造りのものと変わりない。

食堂兼休憩室
工員たちが食事や休憩をとるための部屋。中央にある大きな調理場を囲むようにカウンターと座席が並んでいる。
提供される食事はやや単調で味気ないものの、量という点では充分すぎるほどだ。
主なメニューはベイクド・ビーンズ、タラのクリーム煮、ポークチョップ、マカロニ・アンド・チーズなどである。

8.従業員宿舎 The Excellent Home

この項では、エクセレント・パワーが所有している従業員宿舎について記す。
工員たちはこの宿舎を「エクセレント・ホーム」あるいは単に「ホーム」と呼び、強い愛着を持っている。
なお、宿舎を利用しているのはもっぱら工員で、事務員はほとんどが別に住居を持ち、そこから工場に通勤してきている。
荒事を想定した探索者が武器や爆発物を持ち込もうとする場合、よほど大きなものでない限り〈手さばき〉は必要ない。
ただもちろん宿舎の中でそれらを所持している場面が見つかれば、理由を尋ねられたり、安全上問題があるとして没収されたりするだろう。

敷地と建物
従業員宿舎は工場から500mほどの場所にある。敷地には2つの居住棟が管理棟を抱え込むように建っており、どことなく排他的な印象を受ける。
ただし、門や柵などで物理的に閉鎖されているわけではない。
建物はすべてレンガ造りだが、工場よりいくらか明るい色合いをしている。
居住棟はいずれも平屋で、ほとんど同一の構造になっているため、見取り図には片方のみ記載してある。
管理棟も一見して普通の平屋だが、こちらは地下に秘密の空間を有している。

居住棟
出入口は正面と裏の二か所あり、いずれも夜間は施錠される。
しかし探索者が工員として潜入しているならば、内側から開けることは容易だろう。
また各居室には窓があり、そこからこっそり出入りすることもできる。



居室
工員たちが寝起きする部屋。1つの棟あたりおよそ140人を収容できる。内装は全体に白っぽく無機質な印象を与える。
中には簡素な二段ベッドが3台、金属製ロッカーが6個置かれている。
ロッカーの中に保管されているものは様々だが、大抵は替えの衣服や洗面用具、菓子といった面白味のない物品ばかりである。
聖書や手帳、家族や恋人の写真といったものはない。工員たちにとってはエクセレント・パワーこそが愛すべき家庭であり、精神的な拠り所なのだ。

倉庫
種々の物資を保管するのに使われている部屋。工具、食材、若干の医療品、トイレットペーパーや石鹸といった消耗品のほか、
「9.朝礼」で使われる奇妙なスピーカーも、この場所に置かれている。
スピーカーは直径30cm、高さ40cmの円筒形で、全体が軽量の金属でできている。
上部にあるスイッチを押すと、側面のざらざらした薄板から、あらかじめ定められた音楽が流れる仕組みだ。
もし迂闊にこれを押した場合、倉庫の外まで音が響くことになる。
〈機械修理〉〈電気修理〉で分解を試みても、音楽を記録するための媒体を発見することはできない。
しかしなんらかの理由で探索者が〈電子工学〉を持ち、またそれに成功すれば、機械から音楽のデータを吸い出すことができるかもしれない。

ミーティングルーム
工員たちが「エンパワメント」と呼ぶミーティングをおこなうための部屋。
明るい色味のフローリングとクリーム色の壁紙が温かな印象を与える。木製のスツールが十数個置かれているほかに目立つものはない。

浴室・洗面所
10室のシャワールームと、鏡を備えた横に長い洗面所がある場所。一般的な造りのものと変わりない。

トイレ
いくつかの個室と小便器が設置されたトイレ。一般的な造りのものと変わりない。

食堂
食事スペースと厨房から成る食堂。食事スペースには木製の長テーブルがいくつも置かれ、100人が同時に利用できるだけの広さが確保されている。
厨房も一般家庭のそれより広く、大量の食事を調理できるだけの設備や道具、食材が揃っている。
なお、工員たちが酒を飲むことはない。エクセレント・パワーでの生活以上に陽気さを提供するものはないからだ。

朝食は主にトーストとミルク、コーヒー、ボイルドエッグ、ベーコンや若干のフルーツなど。
夕食メニューに関しては工場で出る昼食とあまり変わらないが、メープルファッジやドーナツなどの甘味が加わる。

またそれぞれの長テーブルには、錠剤入りのボトルが置かれている。
これらは透明なプラスチックでできた広口のもので、サイズはマグカップよりひと周り大きい。
中には薄ピンク色の錠剤が詰まっている。錠剤には人体に由来するビタミンやペプチド、そのほか未知の化学物質が添加されている。
これを継続的に摂取することで食後の眠気を感じにくくなり、幸福感と健康が増進し、労働者として理想的な状態が維持されるのだ。
この錠剤の主な原材料は、脳を摘出された工員の肉体だ。
もし霊的な感受性の高い(イクストリームのPOWロールに成功した)探索者が錠剤を口にした場合、自分の身体が肉挽器にかけられるような白昼夢を見て、0/1の正気度ポイントを失う。
工員たちは錠剤の詳細や原材料について疑問も持っておらず、日々の疲れを癒すための栄養剤だと考えている。
この錠剤を噛み砕くと、強烈なチェリーの風味が口一杯に広がる。

談話室
工員たちが交流するための部屋。ダーツセットやビリヤード台、書架、ソファなどが置かれている。
これらは集中力や器用さを養い、テクノロジーに対する理解を深め、語らいによって相互の絆を強めるために利用される。
他方、この部屋に限ったことではないが、喫煙は暗黙のうちに禁止されている。
社長のイライジャがタバコ嫌いを公言しているからだ(さらに言うならば、ミ=ゴもタバコの煙、すなわち毒性のある大気中の微粒子を嫌う)。

ホール
従業員宿舎に入ってすぐの空間。正面の壁上方には輝く真鍮でできた横長の板が掲げられており、
そこにはイライジャが考案した「Industry is always the best policy(勤勉は常に最善の策)」という標語が刻まれている。
これは初代アメリカ大統領ジョージ・ワシントンの「Honesty is always the best policy」をもじったものである。

前庭
従業員宿舎と管理棟の間にあるスペース。
庭といっても植木や花壇があるわけではなく、灰色の石材で舗装されたシンプルな広場である。
朝礼の際に工員たちが集まる場所として使われている。

管理棟1階
特別な用件や許可がない限り、管理棟に工員が立ち入ることはない。
1階を使っているのは主に社長のイライジャと、雇われ医師のベネットだ。
夜間は出入口に鍵がかけられている。



医務室
工場や宿舎内で負傷したり病気になったりした者に治療を施すための部屋。
3床のベッド、診察台や処置台、薬品や医療器具の入った棚などがある。
ここで処置を受けるのは比較的軽症の患者だけで、重症の者は市街にある病院に送られる。
日中、この場所にはベネット・ウィーラーという40歳くらいの男性医師がおり、退屈そうに雑誌を読んでいる。
彼は仕事熱心でも好奇心旺盛でも、またとりたてて親切というわけでもない。
しかし、少なくともイライジャやミ=ゴたちの邪悪な企てとは無関係だ。
とはいえ、イライジャの不審な行動についてなにも気づいていないわけではない。
ベネットから詳しい話を聞くためには、ハード難易度の〈言いくるめ〉〈説得〉〈法律〉に成功する必要がある。
もしなんらかの証拠(工場で見つけた缶入りの脳や、雇用に関する資料)を提示すれば、このロールの難易度はレギュラーになる。
ベネットが話す内容は以下の通りだ。

■週に2人ほどのペースで、怪我人でない工員がイライジャとともに社長室へ入っていく。その後イライジャは出てくるが、工員が出てきたのは見たことがない。
■医務室にいると、時折細かな揺れや音を感じることがある。どうも地下でエンジンのようなものが稼働しているようだが、地下室があるとは聞いていない。
■ごくたまにイライジャと話すとき、彼は医学や工学に関するやけに詳細で高度な知識を有していると感じるときがある。それについて語るイライジャはどこか熱っぽく、不気味である。

探索者たちが詳しい事情を説明すれば、ベネットにさらなる協力を求めることもできる。
たとえば劇物を分けてもらう、隠れ場所として医務室を利用させてもらう、といったことだ。
彼は楽な職場としてエクセレント・パワーを選んでいるにすぎないので、充分な金銭や働き口の世話といった明確な報酬を与えれば、イライジャへの裏切りにも加担する。

社長室
イライジャが執務をおこなう部屋。重厚な木製のデスクやいくつかの書棚、絵画など若干の装飾品が置かれている。
イライジャが不在のとき、出入口は常時施錠されており、その鍵は彼自身が常に所持している。
探索者はここで書類を漁ることもできるが、発見できるのは経営に関する書籍や一般的な契約書の類である。
鋭敏な探索者であればむしろ、全体の雰囲気に違和感を抱くかもしれない。
〈心理学〉〈人類学〉もしくはINTロールに成功した探索者は、この場所が不自然なほど「社長らしい」部屋に見えるよう造られていると感じるだろう。
もちろんそれは、イライジャが自身の不埒な本性を隠すために施した工夫だ。

プライベートルーム
イライジャが寝起きしているスペース。キッチンやトイレ、シャワールームなど、生活に必要な設備が一通り揃っている。
しかし気鋭の経営者が使う住居としてはあまりに狭く簡素で、趣味や嗜好といったものがまったく窺えない。

部屋の中央には背の低い丸テーブルがあって、そこには高さ30センチの金属でできた直方体が置かれている。
これはある種の通信装置であり、イライジャとミ=ゴのやりとりに使われている。
内容は主に工作機械の不調や、生体実験に利用する人間や動物の手配に関することだ。
使用するには特殊な操作が必要であり、イクストリーム難易度の〈幸運〉
もしくはINTロール、ハード難易度の〈機械修理〉〈電気修理〉、レギュラー難易度の〈クトゥルフ神話〉などに成功する必要がある。
通信装置を使用した場合、50%の確率で地下もしくはユゴスにいるミ=ゴが英語で応答する。
もし〈変装〉で声真似をするのでなければ、ミ=ゴは探索者たちがイライジャでないと気づき、通信を打ち切るか、
「対話の用意がある」と言って(もちろん嘘だ)危険な地下へおびき寄せようとする。

またプライベートルームの一角には把手のついた上げ蓋があって、それを外すと地下に繋がる階段が現れる。
階段の先は(イライジャがそこにいない限り)暗く、そこからはうっすらとガソリンや機械油のにおいが漂ってくる。

工員がこの部屋に招かれ、さらに地下へと連れ込まれたとき、察しのよい者はイライジャの意図や行動に疑念を呈することがある。
その際、イライジャは魔術や隠し持っていた小型電気銃で犠牲者を無力化し、そのまま地下へ運んでいく。
探索者が踏み込むタイミングによっては、その場に焦げたようなにおいが残っていることだろう。

管理棟地下
ここはエクセレント・パワーにおいてもっとも重要な場所だ。
イライジャは探索者たちを可能な限り地下から遠ざけておこうとする。もちろん、彼が望んだ場合は別だ。
地下空間の壁や天井はコンクリート製で、非常に堅牢だ。



テストルーム
プライベートルームから階段を降りると、まずこの場所に辿り着く。ここはミ=ゴたちが試作品の動きを確かめるための部屋だ。
ミ=ゴは暗闇でも平気だが、イライジャが不便をしないよう、部屋には簡素な照明が備えつけられている。
照明のスイッチは階段を降りてすぐの場所にあり、探索者たちは苦労なくそれを見つけられるだろう。
テストルームは非常に殺風景で、設備や調度の類は一切ない。
あたりに破損した金属部品がいくつか転がっているほか、隅の方に休止状態の奇妙な機械がある。
ここに立ち入ったとき起こる出来事については、「14.クライマックス」を参照のこと。

処置室
ここはミ=ゴたちが種々の生体実験、手術、機械の設計や組み立てなどを行なう場所だ。
無力化された工員は、ここでユゴスの環境に適応できるよう手術を受けたり、脳を抜き取られて制御装置に組み込まれたりする。
部屋の中には奇怪な作用をもたらす化学薬品や、ミ=ゴの手腕に合わせて作られた異形の工具や手術器具、生体組織を保存しておくための溶液や容器などがある。
ストックされた工員の脳や、不要な肉体のパーツを錠剤に加工するための機械(大きな肉挽き器に似ている)などもある。
これらを目にした探索者は、ここで行なわれてきた身の毛もよだつ所業に気づき、0/1D3の正気度ポイントを失う。
探索者たちの行動やタイミングによっては、処置台に探偵のジェームズが固定され、脳を摘出された状態で横たわっているかもしれない(1/1D4の正気度ポイントを失う)。

またこの場所には常時1体の科学者ミ=ゴがいる。
この個体は戦闘能力が低く慎重であるため、よほどのことがない限り姿を現さず、騒ぎが起こればすぐさま〈門〉を通ってユゴスへと逃げてしまう。

科学者ミ=ゴ
STR 50 CON 45 SIZ 45 DEX 45 INT 120
POW 60 耐久力 9
DB:+0 ビルド:0 移動:8
攻撃
1ラウンドの攻撃回数:1
攻撃方法:小型電気銃もしくはかぎ爪。
小型電気銃 30%(12/5)、ダメージ 1D10+スタン
近接戦闘(格闘) 25%(15/6) ダメージ 1D6+DB
装甲:なし。ただしミ=ゴの身体は地球上のものではないため、すべての貫通武器は最低限のダメージしか与えない。
正気度喪失:科学者ミ=ゴと遭遇して失う正気度ポイントは0/1D6
技能:医学 99%、隠密 30%、機械修理 99%、聞き耳 50%、電気修理 99%、他の言語(英語)80% そのほかキーパーが必要と考えるもの。

このミ=ゴを生け捕りにして尋問することも不可能ではないが、
ミ=ゴは得てして個という感覚が希薄であり、情報が漏れることを防ぐため、自死装置や自爆装置を身体に組み込んでいる可能性がある。
ミ=ゴが死んだ場合その身体は速やかに溶解し、証拠は残らない。また生きている状態であれ死んでいる状態であれ、ミ=ゴは普通の写真に映らない。

処置室にあるものでとりわけ奇妙なのは、部屋の隅に存在する不可思議な力場だ。
これは一見すると陽炎のように見えるが、実のところ《門の創造》(『ルールブック』P257)で作られた、ユゴスにあるミ=ゴの拠点と繋がる出入口である。
この〈門〉をくぐる探索者は、9マジックポイントと1正気度ポイントを費やさなければならない。
〈門〉の先は縦横3メートルほどの小部屋になっているが、そこはまったくの暗闇であり、気温は摂氏マイナス100度以下、気圧も真空に近い。
そのような環境に入り込んでしまった探索者は0/1D3正気度ポイントを失い、さらに10秒もしくは1ラウンドごとに1D6の耐久力を失う。
〈門〉を通って元の場所へ帰る際には、ふたたび9マジックポイント(不足した場合はその分を耐久力から減らす)と1正気度ポイントを費やさなければならない。
 
9.朝礼 Morning Assembly 

毎朝5時半になると担当の工員がベルを鳴らして回り、ほかの者を起こす。
始業の30分前に前庭で行なわれる朝礼は、探索者にとっていささか奇異な体験となる。
整列したおよそ200人の前には、円筒形のスピーカーが置かれ、そこから音楽が流れる。
そして工員たちは音楽に合わせて声高く社歌を唱和する。
この種の朝礼には消極的な義務感や惰性が付き物だが、エクセレント・パワーの工員たちは退屈や気だるさなどを一切感じさせない。
誇らしげで、堂々としており、熱狂的でさえある。まるで重要な試合の前に国家を斉唱するメジャーリーガーのようだ。
新人である探索者たちにはタキオから歌詞カードが渡され、恥ずかしがらずに歌うよう励まされる。そこに書いてあるのは以下のような歌詞である。

仰げば宙(そら)に遥かなるユゴス
至る道は険しく辛く
なれど我ら燃ゆる鉄(くろがね)なれば
いつの日か掴む喜びを
素晴らしき労働 素晴らしき人生
素晴らしき労働 素晴らしき人生
灼熱の気迫この身に宿して
ああ 素晴らしきかな、労働!

強く想え昏き優しきユゴス
魂のやがて帰る場所
寄る辺なき我ら腕(かいな)に抱いて
とこしえの愛を授けん
素晴らしき労働 素晴らしき人生
素晴らしき労働 素晴らしき人生
清きまごころの導く先へ
ああ 素晴らしきかな、労働!

素晴らしき労働 素晴らしき人生
素晴らしき労働 素晴らしき人生
素晴らしき労働 素晴らしき人生
ああ 素晴らしきかな、労働!

スピーカーから流れる音楽はある種の呪文となっており、それを聞いて歌う者の肉体と精神に作用する。
一時的に体力を向上させ、気分を高揚させ、労働への意欲と幸福感を喚起するのだ。
タキオの勧め通り歌に加わった探索者は1正気度ポイントを失い、
続く12時間の間CONロールにボーナス・ダイスを1つ、POWロールにペナルティ・ダイスを1つ与えられる。
タキオの勧めに従わず、なおかつ〈聞き耳〉〈芸術(歌唱や各種楽器)〉に成功した探索者は、
この音楽と歌が工員たちに奇妙な作用を及ぼしていることを客観的に理解できる。
たとえ探索者が歌うことを拒否した場合でも、タキオは気分を害したりせず、そのうち恥ずかしがらずに歌えるようになる、と微笑みかける。
朝礼が終わると、スピーカーは速やかに倉庫へ戻される。
なお「ユゴス」とはなんなのかについて、工員たちは明確に認識していない。
多くの者はぼんやりと、理想の労働環境、労働意欲の先にある境地、至高の監督者、といった観念の名称であろうと考えている。

10.労働時間 Worktime

朝礼のあと、探索者たちはほかの工員と一緒に徒歩で工場へ向かうことになる。
そしてロッカーで作業着に着替え、製造区画でその日の仕事をはじめるだろう。
おそらくは出来上がった部品の組み立てや塗装など、さほど熟練を要しない作業を割り当てられることになる。
このとき、〈機械修理〉〈電気修理〉を30%以上持っている探索者がいれば、有望な新人として扱われるだろうし、
50%以上であれば熟練者として尊敬されるだろう。75%以上であれば、そのような逸材がいったいなぜ工員をしているのか、と不思議がられるだろう。

工員たちは各種の作業において、非常に高い生産性を発揮する。
それは従業員宿舎での食事とともに摂取する錠剤のおかげであり、毎日の朝礼で唱和する社歌のおかげである。
またもちろん人間本来の性質として、会社への忠誠心、仕事への誇り、仲間との絆、といった要素も影響を与えている。
もし探索者が工員とあまり馴染めなかったり、失敗したり、怠惰を示したりしても、工員たちがそれを責めることはない。
彼らは探索者たちを励まし、近いうちに自分たちの同様の存在になれるだろう、と期待に満ちた目を向けるのである。

不幸な事故 
探索者たちが働きはじめた日の、終業が近い15時ごろ、工場内で一件の重大な事故が起こる。
部品を製造する工作機械の1台が誤作動を起こし、アームに取り付けられたドリルが操作していた工員の頭部を貫いてしまうのだ。
工員は鮮血や骨片、脳組織をまき散らして即死してしまう。

探索者は偶然近くにいて何が起こったのか目撃したことにしてもよいし、少し遠くの方で騒ぎに気づいたことにしてもよい。
事故をつぶさに見てしまった探索者は0/1D4、死体のみを見た探索者は0/1D3の正気度ポイントを失う。
事故を目撃した工員たちはしばし騒然と、あるいは呆然としているが、やがてタキオが進み出て、声を上げる。

「事故が起こってしまったのは残念だ。でも、彼は労働の中で死んだんだ。こんなに名誉なことがあるだろうか!」
「彼の遺志を継いで、僕たちはより懸命に働かなければならない!」

そしてタキオは労働に殉じた工員を称えて、力強く拍手をする。
やがて工員たちもそれに加わり、「頑張ろう!」「素晴らしいことだ!」などと声を上げる。
しかし、その日の業務は終了となり、工員たちはいつもより少し早く従業員宿舎へと戻る。

工員の死体は一般的な現場で労働災害が起こったときと同様に扱われる。
法律的な手続きについても、特別に隠蔽されるようなことはない。
派手に破損し、多くの者に目撃された死体を利用することは、イライジャやミ=ゴにとってリスクとなるからだ。
当事者や目撃者にとって、労働災害は非常にショッキングな出来事だ。
しかし多くの労働現場において、この種の悲劇は常に起こり得る。
エクセレント・パワーにおける労働災害の発生率は、他の自動車メーカーと大きく変わりない。
工作機械の不具合は多いものの、疲労や不注意による事故が少ないからだ。

イライジャは工作機械による事故を真剣に防ごうとは考えていない。
制御装置として組み込んでいる脳は個体差が大きく、寿命を正確に予測することは困難だからだ。
しかし不具合を放置しておくわけではない。事故のことを耳にしたイライジャは、脳の入った制御装置を携えて、真夜中に工場を訪れる。
そして工作機械から古い制御装置を取り出して、新しいものと交換する。
もし探索者がここでイライジャを捕えた場合、彼はすっかり観念したふりをして、
「事情を説明する」「真実を見せよう」などと口にすることで、探索者たちを従業員宿舎管理棟の地下へ連れていこうとするかもしれない。

11.自由時間 Free Time

従業員宿舎に戻った工員たちはひと休みしたり、シャワーを浴びたりしたあとで、夕食を摂る。
それ以降は基本的に自由時間で、探索者たちにはあちこち調べて回る余裕がある。
ただし、場所や時間帯によっては工員たちの目があることを忘れてはならない。
あまり強引なことをすれば彼らに警戒されたり、制止されたりするだろう。

エンパワメント
この出来事は探索者たちが一日の労働を終えた(悲惨な事故を目撃した)あとに起こることを想定しているが、
キーパーが適切と考えるなら、探索者たちが採用された日の夜に発生させてもよい。 
工員たちはしばしば、自分たちが「エンパワメント(Empowerment)」と呼ぶミーティングを開催する。
これは個々の工員に自信をつけさせたり、組織への帰属意識を植え付けたり、他の工員との繋がりを感じさせたりするために行なわれる。

タキオは探索者たちにエンパワメントへの参加を強く勧め、探索者たちが了承した場合、自らも同じグループに加わる。
エンパワメントは従業員宿舎のミーティングルームで行なわれる。
8〜10人の工員が円となるようスツールに座り、生い立ちや労働に関するこれまでの考え、
エクセレント・パワーで自分がどのように変わったか、といったことを順番に話していくのである。
下記は、エンパワメントの中で話されるエピソードの例である。

「改めて自己紹介する。おれはウィリー・ギア。出身はテキサス州だ。両親はトウモロコシ農家で、きょうだいは8人いる」
「テキサスってのは黒人差別の酷いところで、おれはそれに長く苦しめられてきた」
「当然のように貧乏で、いっつも社会を憎んだり、絶望したり、ドラッグや犯罪にも手を出して、警察の世話になったりもした」
「とにかく不幸で、怒りを感じていたんだ。真面目に働こうなんてことも考えなかった」
「社会がおれに冷たくするのに、どうしてそれに貢献しようなんて思える?」
「おれはなにかから逃げるように街を移った。カンザスシティからセントルイス、シカゴ、そしてここデトロイトだ」
「エクセレント・パワーの求人広告を見つけたのは、本当に偶然だった」
「この場所は故郷とまったく違った! 肌の色に関係なく、みんなが同じものを作り、仲間として尊敬し合ってる」
「まっとうに評価されて、充分な給料を貰えるんだ」
「そうしたら、おれも一生懸命やろうって気が起きてくる。社会に報いたいって気持ちになってきたんだ」
「おれはもう過去のおれじゃねえ。もう憎しみも絶望もねえ」
「いまはもっといい人間に、素晴らしい労働者になりたい。そういう意欲と希望が満ち溢れてるんだ」

工員がこういった話をするたびに、グループのメンバーは盛大に拍手し、話し手を賞賛し、その人生がよい方へ変わったことを祝福する。
中には話し手に強く共感し、涙にむせぶ者もいる。
エンパワメントに参加している探索者たちにも、自らの生い立ちや今後の抱負を話すことが求められる。
どのようなことを話しても(あるいは話すことを拒絶しても)、批判に晒されることはなく、すべてがよいように解釈される。
エンパワメントは2時間ほど続き、大抵の場合は爽やかで満ち足りた雰囲気のまま解散となる。

工員を扇動する
探索者たちの中には、特定のイデオロギー、思想、宗教などを背景に持ち、巧みに民衆を扇動する才能を持つ者がいるかもしれない。
あるいは生まれながらのリーダーであり、類まれなるカリスマを持つ者がいるかもしれない。
エクセレント・パワーの工員たちは忠誠心旺盛だが、彼らを抱き込んで調査の手伝いや陽動をさせることも不可能ではない。
もしハードの〈魅力〉〈説得〉〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、そのたびに1D6人の工員が協力者となる。
ただしタキオを味方に引き入れる場合、難易度はイクストリームだ。
もし20人以上の味方を作った場合には、工場や従業員宿舎で大規模な騒乱を起こして、イライジャをおびき出すことができるかもしれない。

エクセレント・パワーの平均的な工員
STR 65 CON 65 SIZ 60 DEX 60 INT 55
APP 45 POW 45 EDU 45 正気度 20 耐久力 13
DB:+1D4 ビルド:1 移動:8 
近接戦闘(格闘)25%(12/5)、ダメージ 1D3+DB
技能:機械修理 30% 聞き耳 20% 電気修理 30% 目星 25% 

探索者が扇動のためのロールを行なうたび、イライジャにその行動を察知される可能性がある。
探索者がはじめてロールを行なったとき、イライジャに察知される確率は10%だ。
2回目以降、その確率はさらに10%ずつ増えていく。
イライジャが扇動を察知した場合、探索者たちはイライジャから管理棟に呼び出される。
場合によってはタキオを含めた忠実な工員たちに命じて、力づくで探索者たちを連行するかもしれない。

12.ピンカートン Pinkertons

どのようなタイミングであれ、探索者たちはジェームズ・ブレイクと接触する可能性がある。彼はピンカートン社から送り込まれてきた探偵だ。
探索者とジェームズは仕事中に同じグループで作業をするかもしれないし、自由時間中に偶然顔を合わせるのかもしれない。
あるいは前述した「エンパワメント」も、両者が話をする適当な機会になるだろう。

探索者とジェームズがはじめて会ったとき、素性や目的は分からずとも、互いが異質な存在であることを嗅ぎ取る。
探索者がハードの〈心理学〉〈目星〉〈変装〉に成功すれば、
ジェームズが探索者たちと同じような存在であると確信を持てるだろう(もちろん、ジェームズも同じような詮索を行う)。
ジェームズは無条件に探索者と協力関係を結ぶわけではない。彼の雇い主はフォード社のライバルなのだ。

キーパーにとって、ジェームズは比較的自由に動かすことのできるキャラクターである。
もし必要ならば彼を使って探索者たちを妨害したり、逆に手伝ったりして、シナリオの進行を調整してもよいだろう。下記は彼が取り得る行動の例だ。

■探索者たちが人目のある場所を調べたいとき、ジェームズが囮になってくれるかもしれない。あるいは彼を目的の場所に先行させて、鍵を開けさせたり、侵入を手引きさせたりすることができるかもしれない。
■探索者たちがあまりに早く真実に至ってしまいそうなら、ジェームズを管理棟の近くでうろつかせればよい。探索者たちを追い払ったり騒ぎを起こしたりして、管理棟への接近を遅らせることができるだろう。
■ジェームズがイライジャにうまく騙されて、早々に始末されてしまうこともあり得る。管理棟に入っていく彼の姿や、直前に残したメッセージなどで、探索者はうまく誘導されてくれるだろう。

ジェームズから情報を得る
探索者たちは探偵と話をして、彼が知っている情報を得ようとしてもいい。
しかし彼は曲がりなりにもプロフェッショナルなので、充分な協力関係や信頼関係になければ、ぺらぺらと喋ったりはしない。
下記は彼が持っている情報であるが、これはあくまでシナリオの序盤におけるものだ。時間が経つにつれ、彼はより多くのことを知るだろう。

■ジェームズはゼネラルモーターズに雇われたピンカートン社の探偵だ。探索者たちと同様、エクセレント・パワーの秘密を探るよう依頼を受けている。
■ゼネラルモーターズを退職してエクセレント・パワーに採用された工員の幾人かがその後行方不明になっている。
■イライジャによれば、優秀な工員はイギリスのブリチェスターにある別の工場に栄転するらしい。しかし調べた限り、そのような工場は存在しない。

13.イライジャへの接近 Approach The Evil
 
探索者たちはかなり早いうちに、イライジャをもっとも真相に近い人物だと判断し、様々な方法で接触を試みるだろう。
しかし探索者たちが強引な行動を嫌うならば、敢えてイライジャからのアプローチを待ってもよい。

警戒させる
「11.自由時間」で述べた扇動は、当然にイライジャの注意を引く。
そのほか、いなくなってしまった工員に関心を持つこと、管理棟を調べること、夜間の工場に忍び込むことなどは、
イライジャが探索者たちを警戒し、始末しようとする理由になる。
それらの行為を察知したならば、彼は朝礼の直後や夜間など、探索者たちが油断しているタイミングを見計らって、地下へと連れ込もうとする。
彼は常に不意打ちの機会を狙い、また探索者たちの不意打ちにはいち早く反応するだろう。物陰に科学者ミ=ゴを一匹潜ませて、自らの掩護をさせるかもしれない。

感心させる
優れた能力や順応性を見せた探索者も、イライジャの注意を引くことになる。
そのような者の脳と肉体は、工作機械の制御装置として搭載されるのではなく、もっと特別な用途に使われる。
イライジャは探索者を(可能であれば1人ずつ)管理棟の社長室に呼び出し、にこやかに話したり、酒を振舞ったりして、緊張と警戒を解こうとする。
もちろん、社長室に鍵をかけ直すことを忘れたりはしない。
それからイライジャは標的とした探索者を地下へと連れ込み、魔術や小型電気銃などで無力化し、ミ=ゴに引き渡そうとする。

14.クライマックス Climax

探索者のうち誰かが管理棟地下に立ち入った段階で、シナリオのクライマックスとなる出来事が発生する。
イライジャがそこにいようといまいと、テストルームに置かれた機械が侵入者を感知し、探索者たちに襲いかかってくるのだ。
この機械はミ=ゴが造った労働用のものをベースにしているが、警備に使うため若干のカスタマイズが施されている。
低いながらも知能を持ち、イライジャやミ=ゴの命令、もしくは自らの判断で探索者たちを抹消しようと試みる。
戦闘に際してその場にイライジャがいれば(なおかつ自由の身であれば)、彼は出入口を塞ぐように立ち、小型電気銃などで探索者たちを攻撃してくる。
労働機械の起動に際して、キーパーは以下の文を読み上げること。

はじめ歪な部品の山と見えたそれは、実のところひとつの巧妙な機械だった。
蜘蛛を思わせる8本の脚が、音も立てず滑らかに展開される。
無骨な工具がついた多関節の両腕が、動力を得て駆動する。
しかし頭と左右の肩に取り付けられた半透明の筒、その中に浮かぶ人間の脳が、この機械をひどくおぞましいものにしていた。
そしていま、奇怪ねじくれ、鋭く尖ったテクノロジーの指先が、あなたたちの柔らかい命を、無慈悲に破壊せんと迫ってくる!


ザ・デモリショニスト
STR 240 CON 60 SIZ 240 DEX 30 INT 40
POW 40 耐久力 30
DB:+5D6 ビルド:6 移動:3
攻撃
1ラウンドの攻撃回数:2
攻撃方法:掘削ドリルと火炎放射器による攻撃を1回ずつおこなう。
掘削ドリル 35%(17/7) ダメージ 3D6
火炎放射器 30%(15/6) ダメージ 2D6+炎上
装甲:10ポイントの合金。
正気度喪失:起動したザ・デモリショニストを目撃して失う正気度ポイントは1/1D8

この労働機械を構成しているのは、自在に折りたためる8本の脚、武器にもなる工具がついた2本の腕、
背中に負ったガソリンタンク、そして頭部と両肩についた3つの制御装置(工員の脳が入っている)である。

探索者がザ・デモリショニストに攻撃を命中させた場合、ダメージの算出とは別に、プレイヤーは1D20をロールする。
その結果が1〜15だった場合は、なにも起こらない。結果が16〜19だった場合、制御装置の1つが破壊される。
制御装置が破壊されるごとに、ザ・デモリショニストの攻撃や応戦にはペナルティ・ダイスが1つ与えられ、
3つの制御装置が破壊されると、ザ・デモリショニストは完全に停止する。
ダイス・ロールの結果が20だった場合、攻撃はガソリンタンクを破損させ、そこからガソリンが漏れはじめる。
そして1D6ラウンド後、気化したガソリンは微小な火花や静電気で爆発し、地下にあるものをすっかり焼失させる。
そうなる前にザ・デモリショニストが停止した場合、キーパーは爆発の危険がなくなったということにしてもよいし、時間通りに爆発させてもよい。
起動したザ・デモリショニストを目撃して狂気に陥った探索者、もしくは〈機械修理〉〈電気修理〉〈科学(工学)〉およびINTロールなどに成功した探索者は、
制御装置やガソリンタンクを攻撃した際にもたらされる結果を正確に推測できる。
もし制御装置を意図的に狙うならば、攻撃のためのダイス・ロールにはハードの成功が要求される。
ガソリンタンクはザ・デモリショニストの背面に位置しているため、狙い撃つにはイクストリームの成功が要求される。
しかしダイナマイトや連射火器、高圧電流などによる大雑把な攻撃ならば、キーパーはこれらの難易度を一段階下げてもよい。

戦闘によってガソリンの爆発が起こらなければ、探索者たちはさらに調査を続けることができる。
テストルームの奥にある処置室で見つかるものについては、「8.従業員宿舎」の部分を参照のこと。

15.結末 The Conclusion

ミ=ゴたちにとってエクセレント・パワーは数ある拠点のひとつに過ぎず、信仰の上で意味のある場所でもない。
危険が迫ったり、社会の関心を引いたりするような事態になれば、彼らはすぐさま拠点を放棄するだろう。
管理棟の地下にあるものを探索者たちに見られたり、管理棟そのものが燃えてしまったりすれば、エクセレント・パワーの事業が継続されることはない。
数百人いる従業員たちは、なんの補償もなく放り出されることになる。
エクセレント・パワーに愛着を抱いていた多数の工員、とりわけタキオは肉親を喪ったかのように悲しみ、絶望する。
それでもひとたび労働の喜びに目覚めた者たちは、遠からず別の働き口を見つけ、狂おしいほどの情熱を持って仕事に打ち込むだろう。
イライジャがどのような末路を辿ったかは探索者たちの行動による。
死んでしまったかもしれないし、地下で違法行為を行なっていたとして逮捕されるかもしれない。
あるいはまんまと逃げおおせて、ミ=ゴへの奉仕を続けるのかもしれない。

探索者たちの行動によってエクセレント・パワーが解体されれば、
依頼人であるクリス、およびフォード社の上層部は大いに満足し、機密が回収できたかどうかに関わらず、提示した報酬をすべて支払う。
彼らにとってどのようにライバルが排除されたかは問題にならず、フォード社の力が及ぶ限り、探索者たちの不法行為は隠蔽されるだろう。
現実主義のビジネスマンは道徳や法の順守より、利益の最大化にこそ価値を置くのだ。
もちろん、エクセレント・パワーの技術や生産性の秘密を持ち込めば、充分以上の報酬で報いられる。

生き残った探索者たちはその後、クリスやフォード社とよいパートナーになるかもしれないし、事件のショックで療養を必要とするかもしれない。
あるいはミ=ゴたちに付け狙われ、遠からず危険な目に遭うかもしれない。
なんにせよ、エクセレント・パワーの秘密を暴き、依頼を遂行した探索者は、1D8正気度ポイントを獲得する。
またザ・デモリショニストの破壊に成功した探索者は、追加で1D3正気度ポイントを獲得する。