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126.名無しの天狗 - 18/07/27 17:33:12 - ID:RDSFIzoSpA
〈僚機の記憶〉
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茹だるような酷暑が続く真夏の昼間。人間達は空調が完璧に管理された基地で、凪いだ
ように静かなこの一時を過ごしていた。この時期は敵の攻勢もまるきり収まるのだ。立て
直しにかかりたい人間達はこれまでの被害に物資の補給などの状況を整理し、けしてこの
機会を逃すまいとアンドロイド達に指示を出し派遣する作業に追われる。
その基地の内部にある一室。それはとあるのらきゃっと個人に与えられた部屋。椅子に
座り長卓に肘をついているのらきゃっとは、ここから離れた場所にあるはずの修練場から
響いてくる音に耳を傾けていた。そしてグラスを手に、緩慢に揺らしながらそれを眺める。
「……。」
波打つ水面を覗けば、対流する不気味な物体を見ることができる。これは『のらショット』
というものだ。軍用エナジードリンクであるモンスターエナジーに、紅茶、ミルク、砂糖
などを混ぜた狂気の飲料である。何故このようなものが誕生したかというと、それは深夜
テンションを開放したとある軍人の賜物である。
戦況が芳しくない頃、人間達が深夜にわたってまで仕事を消化していたある日のことだ。
嗜好品でもなく、ただ燃料のようにモンスターエナジーを啜っていた男達の一人が唐突に
椅子を蹴り飛ばすかのような勢いで立ち上がりこう言った。
「そうだ、ミルクティーを混ぜよう。」
紅茶はのらきゃっとの好物であり、必需品のように倉庫で用意されている。男はミルクに
砂糖を準備し、完璧な手つきで紅茶を入れる。躊躇なくそれを同じ容器にぶちまける。直前
の所作からは考えられないほどの、暴力的なまでの行為だ。繰り広げられる奇行を前に同僚
達は恐れを含みながらもどこか期待の眼差しを向けていた。どうもテンションが上がって
きたご様子である。
その正体不明の飲料を飲みほした男は晴れやかな表情でこう言った。
「不味い。」
かくしてモンスターエナジーを飲む際にミルクティーを適量混ぜ込み、それを一気飲み
するという奇妙な文化が生まれてしまった。彼らは自らのレシピを開発し感想を言い合う
ようになったのだ。
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