放射線防護における基本的な線量計測量は
吸収線量です。これは
単位質量あたりに吸収されるエネルギーであり、その単位は
Jkg-1で、特別な単位として
Gy(グレイ)を用います。ここでは、一つの組織・臓器内の平均線量を用います。
吸収線量の単位はJkg
-1であることからわかるように、同じエネルギー吸収量であっても対象となる臓器の重量が異なれば吸収線量は異なることに注意すべきです。
1) 等価線量
確率的影響の確率は、吸収線量のみでなく線量の原因となる放射線の種類とエネルギーすなわち線質にも依存することがわかっています。線質に関係づけられた係数で荷重された吸収線量を組織・臓器の等価線量(equivalent dose)といいます(1977年勧告の組織線量当量に当たります)。この目的のための荷重係数を放射線荷重係数ω
R(1977年勧告では、線質係数
Q)といいます。
放射線荷重係数(radiation weighting factor)を以下に示します。
放射線の種類 | エネルギー範囲 | 放射線荷重係数ωR |
X線・γ線 | | 1 |
電子・μ粒子 | | 1 |
中性子 | < 10 keV | 5 |
≧ 10 keV ~ ≦ 100 keV | 10 |
> 100 keV ~ ≦ 2 MeV | 20 |
> 2 MeV ~ ≦ 20 MeV | 10 |
> 20 MeV | 5 |
陽子 | > 2 MeV | 5 |
α粒子・核分裂片・重粒子 | | 20 |
2007年勧告では、中性子エネルギーについてより詳細に変更されています。以下に2007年勧告における放射線荷重係数の値を示します。
放射線の種類 | エネルギー範囲 | 放射線荷重係数ωR |
X線・γ線 | | 1 |
電子・μ粒子 | | 1 |
中性子 | < 1 MeV | 2.5 + 18.2e-[lnE]2/6 |
≧ 1 MeV ~ ≦ 50 MeV | 5.0 + 17.0e-[ln2E]2/6 |
> 50 MeV | 2.5 + 3.25e-[ln0.04E]2/6 |
陽子および荷電パイオン | | 2 |
α粒子・核分裂片・重粒子 | | 20 |
放射線Rによる、組織・臓器Tの等価線量
HT,Rは、次式で与えられます。
HT,R = ω
RDT,R
ここで、
DT,Rは組織・臓器Tについて平均された、放射線Rに起因する吸収線量です。また、
等価線量の単位はJkg-1であり、特別な単位の名前は
Sv(シーベルト)です。
2) 実効線量
確率的影響の起こる確率と等価線量との関係は、照射された組織・臓器によって変わります。この目的のため、組織・臓器Tの等価線量を荷重する計数を
組織荷重係数ω
Tとします。組織荷重係数ω
Tの値は、全身にわたって等価線量が均一であるとき、それと数値的に等しい線量が得られるよう選ばれています。したがって、組織荷重係数の和は1に規格化されています。
この組織荷重係数は、荷重された組織等価線量が等しければ、対象となっている組織・臓器に関係なく、大体同程度の損害をもたらすことが確実であるように定められています。
組織荷重係数を以下に示します。最新の化学的、物理的知見により2007年勧告で組織荷重係数が変更されています。
組織・臓器 | 1990年勧告 | 1977年勧告 | 2007年勧告 |
生殖腺 | 0.20 | 0.25 | 0.08 |
骨髄(赤色) | 0.12 | 0.12 | 0.12 |
結腸 | 0.12 | - | 0.12 |
肺 | 0.12 | 0.12 | 0.12 |
胃 | 0.12 | - | 0.08 |
膀胱 | 0.05 | - | 0.04 |
乳房 | 0.05 | 0.15 | 0.12 |
肝臓 | 0.05 | - | 0.04 |
食道 | 0.05 | - | 0.04 |
甲状腺 | 0.05 | 0.03 | 0.04 |
残りの組織・臓器 | 0.05 | 0.30 | 0.12 |
皮膚 | 0.01 | - | 0.01 |
骨表面 | 0.01 | 0.03 | 0.01 |
脳 | - | - | 0.01 |
唾液腺 | - | - | 0.01 |
合計 | 1.00 | 1.00 | 1.00 |
この荷重された等価線量(放射線荷重係数および組織荷重係数という、二重に荷重された吸収線量)を
実効線量(effective dose)といいます(1977年勧告の実効線量当量にあたります)。
実効線量の単位はJkg-1であり、特別な単位の名前は
Sv(シーベルト)です。