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『バカな男』

ルフィたちが、アーロンパークを壊滅し、延々の宴。そのまた後。
大騒ぎの挙句、ココヤシ村を出た、これは、その夜のお話。

女部屋の扉を叩く音がした。
これからの、自分の城として暮らしやすいように、地元の大工に頼んであれこれ改装してもらったけれど、
まだ、どこかよそよそしい感じのする部屋で、私は真新しいノートに航海日誌をつけていたところだった。
ここから、何もかも新しく始める。ワクワクするのと同時に、不安も多い。
そんな、なんとも腰の座りの悪い状況で。
誰かと話してそういうのを紛らせるのも、アリかなって思うじゃない?
だから。
入ってもいいわよって言ったんだけど。
「……なにやってんの?」
いつまでたっても入ってこないもんだから、跳ね板あげて顔だけ出すと。
床にあぐらかいて、仏頂面のゾロがいた。
「よぉ」
「よぉじゃないわよ、入っていいって言ってんのに」
「男は立ち入り禁止って言われたの思い出した」
「…あんたバカなの?」
「何でだ」
「主人が入っていいって言ったら、入っていいのに決まってるじゃないの」
「そういうもんか」
「そうよ」
「じゃあ邪魔する」
へんなやつ!
冷静に考えてみたら、こいつじゃ、話相手としてはちょっと不足かも。ラウンジに行くんだったかしら。
入ったら入ったで突っ立ったまま、こっち見てるし。適当に座れば、と言うと、ああ、とソファに腰掛けて。
…………挙句だんまりよ?なんなの、一体?…き、気味悪いわね。
しょうがないから日誌、書き上げちゃったわよ。その間、じーっとこっち見てるの。見てるだけ。
あー、もう!
「あのね?あんた私に用があって来たんじゃないの?」
「…用がなきゃだめか?」
「普通そうでしょ!」
「そうか」
「そうよ!!!」
何?何なの?イライラする。こんなに歯切れの悪い男だったっけ、こいつ!いつもだったら、もっとこう…。
………う。ケンカばっかりしてたんじゃないの、私たち。…もういい、叩き出そう。
そう思った瞬間だった。
「じゃあ、やらせろ」
「…は?何をよ」
「おまえを抱かせろ、つってんだ」

…………はぁあああ?!!

なんか…もう…私、頭のどっかキレたわ。

「信じらんない!言うに事欠いてそれ?!何がどうしたら"じゃあ"そういうことになるのかキッチリご説明くださいます?!」
「落ち着け。おまえが、用がなきゃだめだって言ったんだろ」
「これが落ち着いてられるかっていうのよ!じゃあなに!後付けの用なの?!それが!よりによってそれ?!」
「いや、最初からその予定だったんだが…」
「!!!イヤッ!何それ!じゃああんたそこに座ってる間中、ずーっとそのことばっかり考えてたっていうの?イヤらしい!信じらんない!変態!スケベ!出てって出てって出てってよ!!!」
手当たり次第に物を投げつけて、近寄れないように威嚇するんだけど、全部受け止めやがるのよ、コイツ!キー!!
憎ったらしい!!…あ!投げるものなくなっちゃった!
最後に投げた本を持ったまま…………や、やだ…近寄ってくる………。
「おしまいか?」
「大声出すわよ!」
「もう出してんじゃねェか。こっちの話も聞けよ」
「命令しないでよ!」
「…じゃあ頼む。聞いてくれ」
「頼みごとは一件一万ベリーよ」
「高ェな!あー…、ツケといてくれ」
「ツケですって?何の冗談?誰に向かってもの言ってんの?」
「真剣だ。…おまえ以外に誰かいんのか?」
キョロキョロあたり見回してる。ああ、もう…!
「…言ってみなさいよ」
「おまえとやりてェんだよ」
ああ!もう!振り出しに戻ってんじゃないのよ!!本格的なバカだわこいつ!
「どうして私が相手しなきゃなんないわけ?溜まってんなら一人で処理すればいいじゃない」
「処理…あァ、そりゃぁ必要に応じてやっちゃいるんだが」
「っ!そんなの聞いてないわよ!"いるんだが"何よ!」
「………………………………………………………………………あー…」
……なに。
口、への字に結んで。困ったような拗ねたような顔して。…そんな顔、初めて見るわよ。
ど、同情買おうったって売るほどないからねっ。
「いや、驚かせたのは悪かった。だが……」
「…だが?」
「…………………」
話すすまないじゃないの、これじゃ。呆れて見てたら、はーっと大きな溜息。
溜息つきたいのはこっちだっていうのよ。
「言いなさいよ。どうして私が相手しなきゃなんないの?」
「…それは言えねェ」
「なんでよ!」
「言ったら負けだからだ」
「はぁ?!」
何の勝負よ、一体。…ムリヤリ乱暴働くつもりはなさそうだけど。
さっきから妙な緊張感が漂ってるのよ。
思わず身構えると、ますます溜息をついた。

「…わからねェか」

………。

…わかってるわよ。ほんとは。わかっちゃったわよ!この…バカの本音。
それで、…どうしてだか私もジリジリしてんのよ。だけど。
「まさかあんた、"目を見りゃわかる"だの、時代錯誤なこと信じてるんじゃないでしょうね?」
私そんなに優しい女じゃないわ。
「バカなんじゃない?人間同士のコミュニケーションは言語が大半以上をしめてんのよ」
知りたいわ。
「難しかったかしら?言わなきゃわかんない、って言ってんの」
聞かせてよ。
「大体何に負けるっていうのよ。誰と勝負してんの?何の勝負なの?何を言ったら負けなの?」

「あァ?…おまえ知らねぇのか。"惚れてる"って先に言っちまったほうが負けなんだぞ。………………ん?」

…!
やだ。なんで。

「あんた、バカ王でも目指してんの?言っちゃってるし。おまけにそれ微妙に違うし。"惚れたほうが負け"でしょ?」
「………………そうなのか」
「…そうよ」

顔、熱いの?

腕、引き寄せられて。抱きすくめられたら、もう、身動きできない。
「すごい音」
「うるせェ」
「あんたの心臓が、よ」
「言うな」
「いつから?」
「知るか」
顎掴まれて、乾いた唇が塞いできた。

お世辞にも上手いとは言えない。ぎゅうぎゅう押し当てるだけじゃだめよ。もっと…。
「んっ」
歯を、こじあけるようにして入ってきて。舌が…。
!?!?!?!?!
なに?なに?これ?どうして、やだ、嘘、や…………
……怖いっ……!
食い散らかされて、血みどろの肉塊だけになった自分のイメージが、頭の中に浮かび上がる。
足がガクガク震えて、止まらない。腰のあたり、支えられて、抱きしめられてるのに。
墜落しそう………!

「…お、おい?」
「っ…は…ァッ」
「嫌なのか」
「違…。ァ…は……」
息があがって、まともに顔見られない。胸に埋めて隠した。
…やだ。ちょっと…。
……濡れちゃってる……。
スリルを味わうキスだなんて、初めて…。
「嫌でも、俺ァ止まらねェぞ」
「…だから、嫌じゃ…」
「じゃあ好いのか」
「…!バカ!」
「おまえ、あんまバカバカ言うな」
「えっ?」

Tシャツの裾から手が入ってきて…。!!!やだ、ほんとに?このまま?しちゃうの?嘘!
「あっ、コラ!やだっ…」
バカ力!下から撫で上げる勢いだけで、ブラまでずり上げられちゃって…あぁっ!ヤだっ…!
「…すげぇな」
あァ!やだ!や……見…られ、ちゃっ…
「んぁあっ!」
ヤだ、ダメ!舐めないで!
さっきのキスを思い出して、ざわっと背中を何かが這い上がった。とたんに、腰のあたりが覚束なくなる。
ゾロの熱い唇が、乳首を吸って、舌先で転がしている。千切れるほど揉みしだかれるんじゃないかと思っていたのに、
予想外に優しかった。壊れ物に触れるように、そっと撫で上げて。…嘘。ちょっとじれったくなっちゃうわ。
「破裂しそうだな」
「っ…何よ、それ…」
「パチン、と」
「…ゴム風船じゃないんだから……怖い?」
この程度よ、こいつが考えることなんて。繊細なガラス細工だのなんだのなんて単語は出てこないわよね。…出てきたらそれはそれで怖いけど。

「…つぅか。おまえが怖がらないようにしてやりてェな」

口の端だけで笑う。…そういうこと、言えるのね…。
なんて思っていたら、突然の浮遊感。足が床から離れ、横抱きに抱え上げられた。
ソファにそのまま腰掛けて、私はゾロの膝の上。背中を片手で支えられた。
「あ、ちょっと…服」
「いんだよ。脱がさせろ?」
…恥ずかしい。たくし上げられてたTシャツを首から引き抜かれて。
「ん」
両手を後ろに回して、抱きしめた姿勢で、ホックと格闘してる。
首筋に熱い息。それほど苦戦はしなかったようで、ほどなくブラも脱がされた。
「痛むか?」
「え?」
左肩に巻かれた包帯を指先でなぞりながら、言う。……心配してくれてるの?
「女が体に傷作るもんじゃねェ」
「泥棒稼業が長かったんだから、しょうがないじゃない」
「は。これからは海賊だしな。でも……ま、キレイなもんだ」
「当然でしょ」
「エラソーに。…ほっせェ腰だな」
ぷつん、とスカートのホックを外すと、ジッパーを下ろして脱がせてくる。
腰を浮かせて手伝うと、ニヤリと笑った。…や、やだ。そんなんじゃないわよ。
ムリヤリ脱がされたら傷んじゃうから…。
「あっ…」
背中から回された手が、胸を包み込んだ。乳首の下側を骨ばった指がなぞるように動いて…。
「…あ……あ……ぁ…」
「好い声だな」
「や…」
「ずっと聞いていたくなる」
「あ…ぁ、ね…もうちょっと…強く、して…」
「…こうか」
「あっ…!」
人差し指と中指の背でキュっと挟まれて、親指の腹で撫ぜまわされた。やだ…気持ち、イイ…。
「口、吸わせろよ」
「っ…待って。私に、させて」
さっきみたいなの何度もされたら、どうなっちゃうかわかんない。手出ししないでね、と釘を刺して、やんわりと吸った。
ちょっとさかむけになってるところを舐めて。柔らかく食みながら、綺麗な歯列をなぞる。熱い舌先を探せば、ここだ、と知らせるように微かに差し出してきた。うっすら開けて見ると…目が…合っちゃった。普段はちょっと見ない、優しい感じで笑ってる。ずっと見てたの?
恥ずかしくて、でも止められなくて。どうして私、こんな泣きそうな気分になるの…?
ゾロは、ずっと私の胸の先を触っていて。首から、頬から、熱くなる。夢中で舌を絡めて、熱を移しあって。息苦しさに微かに離せば、もっとしろよと強請った。
もうどれくらい、そうしてたんだろう。
ゾロの手のひらが、いつのまにか胸からお腹まで移動してて。あっと思う暇もなく、脚の間に滑り込んだ。
「……いつから濡れてた?」
「っ、バカ…」
「バカって言うな。ぐしょ濡れだぜ。教えろよ」
「…最初に…キス、されたとき…」
「へェ」
下着の上から、くにゅ、と押されて。窪む、私のそこは、もうとっくに刺激を求めてた。
「あ、ぁ、……直に…して」
「ん」
脇から指が滑り込んで、掻き分けて行く。待ち望んでいたそれを、あっけなく受け入れてしまって。
「…入っちまった」
「あっ!や…や…!」
内側を掻くように動かされて、どうしたらいいのかわからなくなる。いやらしい音まで聞こえてきて…。
ああ!そこ、ダメ!
「はんっっぅ!」
「あァ、ダメだ。舐めさせろ」
「…っえ?」
「イっちまうおまえを見てェ」
膝からソファの上に移動させられて、下着に手をかけたゾロの顔は、頬が上気して、命令口調なのに、まるで哀願するかのようだった。
こんなの、絶対他の誰にも見せたくない。
頼りない、小さな下着はあっというまに脚から抜き取られてしまって…。
あ!ヤダ!!!
そうよ、あんなキス、そこにされたら…!ああっ!
「やぁっ!あァ!ア!ダメッ、ゾロっ!」
音高く啜りあげられて、頭のなかがグラグラ煮えたぎる。もう、もう、なにされてるのかわからない。
ラビアを、クリトリスを、熱い熱い舌先が、舐めて、抉って、噛みつくみたいに、吸って、吸って…。
「や、や、ァ!ア!ダメ!ゾロ!ダメ…ァアッ!!!」

…高いところから、突き落とされるような感じがした。
意識を取り戻して、目を開けると。
シャツを脱いでいるゾロの背中が見えた。包帯でぐるぐる巻きの体。そうよ、あんただって怪我人じゃないの。
ほんとうなら全治二年の。バカみたい。そんな体で、私を抱きにくるなんて。
「ぁンだよ」
偉そうな顔したって、笑っちゃうわ。あんたが私に、惚れてるんじゃない。
「バーカ」
「おまえなぁ」
ぐっと上からのしかかってきて、ちょっと考えるような顔をした。私の背中を抱き上げて。
…やだ、傷を庇ってるの?私の?
こんなの、縫合だってすませたし、新しいタトゥーの腫れが引くまで、隠してるだけのものなのに。
「しがみついてろ」
私の両腕を首に巻きつけて、真剣な顔。
「…あっ!」
脚を、大きく割られて、熱い塊が押し当てられた。入り口をヌルヌル擦ってる…。
「ヒクついてるぜ。欲しいか」
「…っ…ぁ、知らな…」
「何だよ。"言わなきゃわかんない"んだろ?」
「…バカ…ぁ」
「……そういう声で言われんなら、悪くねェな」
「え…?」
「バカってよ」
腰を抱え上げられて、ぬっっと入り込んできた。熱い熱いそれが、前後しながら、私の内側を拡げて行く。
「あっ…んぁっ…おっ…きぃっ……!」
「…狭い、な」
最奥までたどり着いたと思ったら、じっと動かない。な、なに…顔、見て…やだっ…。
思わずギュッっと目をつぶった。
「俺が動かしてねェのに、ヌメヌメ動いてる…おまえの」
「やっ…!」
指先でクリトリスをくちくち擦られて、思わず腰が揺れてしまう。ダメ、ダメ、恥ずかしい…!
見ないで、こんな顔見ないで…。
「目、開けろよ。こっち見ろ」
知らずに零れた涙を拭われて、目を開けば。見上げてくるゾロの瞳、濡れたその鏡面に、私が映りこんでいた。
情けない顔。眉根が寄って、涙落としながら、口で息して…。ああ、耳の後ろまで熱い。
ゆっくり抜き差しされて、その映像もユラユラ揺れる。ぬちゅっぬちゅっと、卑猥な音が聞こえて。
見詰め合ったまま、気が狂いそう、こんな…。
「好い顔だ…他のヤツには見せんなよ」
言うなり、強く揺さぶられた。私も、もうすっかり限界で。突き上げてくるリズムにあわせて、腰が踊る。
「あっ、ダメ、また…!」
「イけよ。イけ…」
「ぁアッ、んっ!んっ!…一緒に…っ!ゾロ…」
「…あァ」
大きな手が、腰を掴んで、最奥を抉るように突き上げてきた。意識が、奔流となって流れ出す。
激しい渦に巻き込まれ、上昇していく………もう、何も考えられない。
「ンあァァッ!イッ…っ…ゾロ、好き…好きィ…っ!!!」
「……っ……!」
私の中で、ゾロは全てを吐き出した。

髪を撫でられている感触で、目を開ける。
狭いソファの上、ゾロの脇の窪みのところに頭が預けられていて。…不思議ね。あつらえたみたいにぴったりよ。
ゾロは私の体の、熱の名残を指先で確かめるようになぞっている。ダメよ、また熱くなっちゃうから。
手を封じると、不満げな顔になった。
「ねぇ、教えてくれる?どうして私なの」
「理由がいるのかよ。面倒だな、女は」
「聞きたい」
「…おまえだからだ」
「理由になってないわ」
「そうか?」
「そうよ」
もういいだろ、と抱きしめられる。温かい体温。包帯越しの、生きている、体。
この男が、死ななくてよかった。思うと、涙が滲んでくる。
「なぁ。おまえ、さっき言ったな」
「…え?」
「好きだってよ」
「……………………バカ!!!」
ガン!と頭を拳骨で殴ると、うがっ、とうめいた。
「…ってぇ…おまえ今日だけで何回バカって言ったよ」
「バカにはバカって言うしかないじゃないのよ!」
「だからバカバカ言うな!やっちまうぞ!」
「エロ魔獣!ケダモノ!!やっ…………………ァあん!!!」

…ニヤニヤ笑ってるんじゃないわよ!もぉ!バカ!

                                             end.
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