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重い鞄を抱えて、町を歩いた。
思い出す日々。あの人がいた頃。

あの日、窓から見える大きな木の枝から声をかけて来た彼。
嘘つきと町中からいわれていた少年。たくさんの夢のような冒険譚。
作り話だってわかってた。でも・・・楽しかったの。
彼が来るのを毎日心待ちにして。
布団から出ることのできなかったあの頃の私にとって、
彼の話を聞く時間は最高の宝物だった。
両親が不慮の事故でなくなり、私自身体を壊して。
外に出ることすらできなかった。両親の残してくれた財産はあったし
執事やメイドが何でもしてくれたから、生活に困るようなことは無かったけれど。
でも、あの頃の私の世界は窓から見える景色だけだった。
そこに現れた思いもかけなかった訪問者。私の世界に彼の口から紡がれる世界が加わった。
たくさんの冒険。嘘で固めたつくり話。でも優しくて。
彼の紡いだ世界は眼を閉じれば浮かんでくる。
私の信じていたものが崩れてしまったあの日。彼は傷だらけになって私を守ってくれた。
だから私は答えた。傷だらけの体を抱きしめて。まだ乾いていない傷口に舌を這わせ。
私から唇を奪った。彼の長い鼻が少しわずらわしかったけれど。
彼は優しく抱きしめてくれた。壊れ物を扱うように。少し震えながら。
あなたになら・・・私は。
私の大事なものを、私の大事な人に渡した。
次の日、彼は航海にでた。麦わらを被った少年の船に乗り込んで。

「今度は嘘じゃない。うそみたいなほんとの冒険譚を聞かせてやるよ!」そういって笑った。
ねぇ・・・私の大事に嘘つきさん。あなたは帰ってきてくれるよね?
その言葉は嘘じゃないよね?私・・・待ってていいんだよね?
わたし、あなたとは違う夢を追いかけることにしたんだよ?
あなたが夢と嘘のような本当の冒険譚を抱えて帰ってきたときに、
あなたに胸を張って会えるように。
だから早く帰ってきてね?私は待ってる。あなたの帰りを。
あなたが広げてくれた私の世界。あなたが与えてくれた私の未来。
願いをかなえて。私の願いは。貴方と共に歩いていくこと。
嘘つきが嘘ではない冒険を終えたとき。私のところに帰ってきてくれること。
そして・・・またあの暖かな腕に抱かれること。

願いをかなえて。私の愛しい嘘つきさん。私は・・・頑張ってるよ。

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