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『Balance of…』

どんちゃん騒ぎの後片付けを済ませ、深夜のラウンジで一服していた時に意外な来客があった。
扉の開く気配に振り向くとにっこりと微笑んでくる。俺も笑顔を返すと吸いかけの煙草を消した。
「どしたのロビンちゃん。喉渇いた?」
「というより少し飲み足りないみたい。何か貰えるかしら。妙に目が冴えちゃって」
「だろうね。今日は酒豪が二人欠けてるから、早々にお開きになったし。俺で良ければ付き合うよ?」
「そうね。一人で飲むのも味気ないし」
おっと、そっけないな。ま、そこが良いんだけど。
チョッパーの誕生祝いで散々サービスした後で、微妙に疲れてはいたんだが、俺は棚からワインを選んで
コルクを抜いた。彼女の好みは香りが華やかで重厚な赤。船の財政的には、残念ながら名のあるシャトーの
ヴィンテージなんか揃えられるはずもない。昼前に駆け込んだ市場で買ったのを、デキャンタージュした。
若いワインでも空気に触れさせるとそれなりに香りが広がるからだ。まずは自分のグラスへ注ぎ、一口含ん
でティスティングする。余韻が長い…値段の割には良いワインだ。良い買い物したな、俺。自画自賛と共に
一人頷くと彼女のグラスへと注いで勧めた。
「どうぞ♪」
「ありがとう。ふふ、ソムリエも勤まるのね」
「本職じゃないけどね」
自分のグラスへ注ぎ足して乾杯する。彼女は、一口飲んで僅かに口元をほころばせた。…どうやら気にいっ
てもらえたようだ。断って煙草に火をつけると、一瞬沈黙が流れる。ふと目を向けると頬杖をついて俺を
見つめていた。
「何だい?」
「帰ってこないわね、二人」
「朝まで帰ってこないよ、多分。…ああ、日付変わったね。メリークリスマス♪ロビンちゃん」
「メリークリスマス。…意外に冷静なのね」
「何が?」
「航海士さん、剣士さんに取られちゃったのに」
「あぁ〜。キツいなぁ、ロビンちゃん」
へら、と笑ってみせると、ふふっと笑う。
二人を焚きつけたのは俺だ。彼女もきっと気がついている。知っててからかうつもりなんだろうか。
「私はてっきりあなたは航海士さんに本気なんだと思ってたのだけど」
「嫌だな、俺はロビンちゃんにだって本気だよ?」
「そうは見えないけど」
「あは、ショック〜」
…気楽で良い。疲れないで済む。

俺は面倒事は嫌いだ。
その俺が何だってあの二人のことに首を突っ込んだかといえば、彼女の言う通りナミさんに本気になりかけ
たからだ。
「なりかけた」のは、ゾロがナミさんを抱いていることを知ってからのことだった。
知ったときはそれなりにショックだったし、落胆もした。けれど、彼女がそれで良いなら良いと思った。
俺は、体だけの交わりを決して否定しない。
そういうことが必要なのなら、然るべき相手に求めて構わないと思う。そしてそれが容易く手に入るのなら、
むしろ喜ぶべきことじゃないか。
…けれど、ナミさんが本当はゾロを好いていて、あいつの性格を慮って想いをひた隠しにしたことが、俺に
はわかってしまった。あいつのクソ真面目な融通の聞かない性格を知りつつも、どうしようもなくつながり
たくて、体だけの関係を装ったことも。
痛々しかった。同時に羨ましかった。そこまで一人の男に情熱を注げるナミさんに、強く惹かれた。けれど、
俺はその感情にブレーキをかけた。
あの想いはきっと、とても重い。

「どうしてけしかけたりしたの?」
「あ、やっぱ知ってたんだ」
「だって昼食の時、剣士さんが航海士さんと出かける、って言ったのに、こともなげに話を促したじゃない」
「あー…そっか。…まぁ、そうだね。言わなくて気分害したんだったら謝るよ。御想像通り一枚噛んでマス」
「どうして?」
「…ほんとに聞きたい?」
「興味あるわ」
「誰に?…俺?」
「そう受け取ってもらって結構よ」
ひゅう、と口笛を吹くと、くすりと笑った。ワイン片手に機嫌も良さそうだ。彼女なら話しても構わないだ
ろうか。…大人だもんな。
俺は一口飲んでグラスを置くと、指の間に煙草を挟んだまま頬杖をついた。
「まぁ…見てられなかったっつうか。不毛だろ?お互い好き合ってんのにずっと誤解してるのってさ。
おせっかいかも知れねぇけど。そんな感じ」
「あなたがつけいる隙はもう無い?」
「はは、見込みは薄いね。正直ちょっと手が出ないよ」
「あら、弱気」
「かもなァ」
苦笑いすると、じいっと見つめてくる。漆黒の瞳。理知的な眉の下のアルカイックスマイル。まるで全てを
見透かすような。
瞬間、ピリッ、と背筋を何かが走った。
…おかしい。この感覚はなんだ。
「優しいのね」
「俺は何時だってレディに優しい男だよ?」
「そうじゃなくて、あなたの本質が」
「…あ〜、難しい話は苦手だな」
「わかりやすく言いましょうか?優しいっていうのはね、人の痛みがわかるってことよ」
「あれ?俺、褒められてるの?」
「そうね。でもそれって…」
…なんだ。
この追い詰められてるみたいな感覚は。
「相手が一番痛いところを瞬時に察知できるってことよね」
「…何が言いたいのかわからないよ」
「あなたは言葉一つで致命傷を負わせることができる種類の人間だってことよ」
まるで射抜くような視線に、室内の空気が急に下がって体の芯に冷たく突き刺さるような感覚を覚えた。
…ダメだ。
こういうのは良くない。頭の中で警鐘が鳴る。十近く年が離れてるってのに安心して甘く見ていた。
まさか、こんなガキっぽいことをする人だとは。おかしい。だってこんな会話。
…青臭い。
「………ロビンちゃん、こういう話して、楽しい?」
「楽しいわ」
「良い趣味とは言えないな」
「あなたに興味があるの」
「…それは嬉しいけど……レイプされてるみたいな気分だよ」
「されたことが?」
「はッ、ないよ。ものの例えさ」
「私はあるわ」
「っ!ごめん!…………今の例えはまずかった…謝るよ」
………ヤバイ。目をそらしたら負ける気がする。でも…負けるって一体、何に。
俺の左手は知らないうちに口元の煙草から離れて、座っているベンチの端を握り締めていた。
彼女は俺の顔からやんわりと視線を外しながら、グラスを傾け、こくりと飲み下した後で口角を僅かに
上げ、小さく笑った。
「謝らなくていいわ。そのかわり話して?あなたのこと」
「…俺の何を?」
「真実を」
ピタリと視線が合う。
煙草がすっかり短くなっていた。灰皿でもみ消して、新しく咥えたのに火をつける。一口吸って、長く息を
ついた。
「…ロビンちゃん、俺ぁね、料理人だよ。それだけが俺の真実だ」
「どういうこと?」
「人にメシ食わせてなんぼってことさ」
「それだけ?」
「あー…どう言ったら良いかな……人に与えるのがコックの真実だけど、同時に奪うのも真実、とか。
…そういうことかい?君が聞きたいのは」
「少し核心に近づいたわ」
悪戯っぽく瞳が輝く。俺は少し芝居がかった風に両手を彼女の方へ広げて見せた。
「牛も豚も捌いたし鶏の首も捻ったよ。偉大なる航路に入ってからこっちは、海王類やらトカゲやら、
食えそうな生き物は山ほど。…俺のこの両手はあの寝腐れマリモと張り合えるくらい、実は血みどろだ」
「奪うって、そういう意味」
「そういう意味。料理人は動物相手に情けはかけねぇ。長年やってると麻痺してくるんだな」
「…でも深層では疲れる?」
「バレた?」
これぐらいで満足して欲しいもんだ。興味の先を上手い事逸らせたと、俺は安堵の溜息を誤魔化すために、
ふーっと煙を吐く。彼女はグラスを玩びながら微笑んだ。
「やっぱり優しい人だわ」
「いや…まぁほら、最近はチョッパーがいるから余計かな。捌いて良い動物と良くない動物と区別しなきゃ
なんねぇし」
「人に優しくするのは、人から優しくされたいから?」
「…そう言う話だったっけ?」
「言い方が悪かったかしら。人を傷つけられないのは、自分が傷つきたくないから?」
「もっと酷くなってない?」
「違うの?」
ダメだ、踏み込むな。
頭は制止を命じるのに、もうずっと瞬きを忘れたかのように彼女の瞳から目を離せないで、唇が勝手に
続きを促してしまう。
「…君、何がしたいんだい?」
「その高そうなプライドを壊したいわ」
ダメだ。もう本当に、これ以上は。酔ったわけでもないのに、自分で自分がわからなくなる。
「…そうか、君はそう言う種類の女性なんだね。…悪いけどこれ以上は付き合えないな、ごめんよ」
振り切るように煙草をもみ消し、立ち上がろうとして右腕を掴まれた。テーブルから咲いた一輪。はっと
目を向けると、涼しい顔でグラスを傾けている。優雅な仕草で飲み干して、顔の前に掲げて見せた。
「おかわりもらえるかしら?」
「…喜んで」
掴まれてない左手でデキャンタを持ってサーブする。思わず震えてグラスがカチカチと音を立てた。
…クソッ、みっともねぇ。いったい、今、俺は上手く笑えているか?
……落ち着け。
「どうぞ。…まだ何か聞きたいことが?」
「女の子に本気にならないのは、疲れるから?」
「…嫌だなぁ、ロビンちゃん。俺は何時だって本気だよ?」
「嘘」
「嘘って。…弱ったな」
「聞かせて」
「…誠実さが足らないとはよく言われるけどね」
「それは他人の評価ね」
「俺はこんなに誠実なのに人はわかってくれない…」
「…………」
「…と、強い男がへこんでるの見てソソられるタイプなわけ?」
「そうね、挫折を知ってる男性はセクシーだわ」
「なら俺はダメだ。ロビンちゃん向きじゃないよ」
「あら」
「…仲間だから忠告しとくよ。俺は本気でろくでもない。下手に手ェ出さないほうがいいですよ、お姉さま」
忠告と言うよりは、脅しに近いな。本意じゃないが、これくらいじゃないと諦めてくれそうにない。
デキャンタを置いて、掴まれた腕を解こうと左手を重ねようとして、その手も掴まれた。
…どうしても逃がしてくれないのか。
「…拘束してどうするつもりだい?」
「焦ったわね。あなた自分を卑下するタイプじゃないのに」
「俺の話聞いてる?」
言った途端に、次から次へと手が咲いた。後ろ手に掴み上げられ、脚もベンチにがんじ絡めにされて、
動けなくなる。テーブルを挟んでまっすぐ向かい合わせになったまま、俺は彼女の顔を見た。

―綺麗だ。
こんな無理強いをされているのに、ぼんやりとそう思った。彼女は酷く穏やかな目をしている。
けれどそれが逆に怖い。
…怖い?
ふいに浮かび上がった自分の考えを奥底へ塗りこめるように隠して、俺は頬に薄ら笑いを浮かべた。
…知られたくない。
俺が―

「人の心を推し量ることが出来る人間って、哀しいことに自分が一番死んでしまうのよね」
「…それって俺のこと?俺ほど主張が激しい男もなかなかいないと思うけど」
「本当のことが言えなくなるわ」
「俺はいつも本当のことしか言わないよ」
「そう思い込んでいるんじゃない?その場その場であなたは他人が一番望む言葉を選んでいるはずよ」
「買いかぶりすぎだ、そこまで優しい男じゃないよ」
「どんな言葉を人が望んでいるかわかってしまう。そしてそれを言うのが自分の役目だと信じている。
言葉だけではないわ、行動も、全て人のため」
「そんなご大層なもんじゃないって。だったら俺は宗教家か占い師になったほうが大成するな」
「与えすぎて、与えすぎて。人のことで手いっぱいになって、あなた自身にはもう夢しか残ってない。
…違う?」
「…まさか。……何言ってるんだよ…俺は…」
「認めたほうが楽になることがあるわ」
「どうしてそんなこと言うんだよ」
「私もずっと夢しかなかったからよ」
カタン、と音を立てて立ち上がると、テーブルを回り込んでくる。目で追いながら、俺は呆然としていた。

そうだ、夢しかない。オールブルーへの夢しかないんだ、俺は。
クソジジイと会って、嵐に遭って。凄まじい飢えと渇きに、俺は世界中から「要らない」と言われてるよう
な思いがした。それでも夢への執念だけを頼りに生きた。だから、八十五日に渡る遭難の七十日目、俺だけ
の夢じゃなかったと知った時、心底救われた気がしたんだ。けれど、俺を救うためにジジイが払った代償は
でかすぎた。いつ叶うかわからない夢よりも、俺はレストランを守ることに自分の存在意義を見出した。
だって俺はちっぽけな、ちょっと料理を齧っただけのただのガキだったし、生きるのに必死だったんだ。
いつか、いつかと夢を見るのは楽しかった。現実的じゃねぇと思いはじめるより先に、ルフィに出会えた
のはまったくのラッキーだ。あの事件に尻を蹴飛ばされなければ、俺は未だにあそこから一歩も動けて
なかったろう。
だから俺はルフィに感謝してる。信念を貫くために命がけで生きるゾロに嫉妬もする。守りたいものがある
からと一人戦ってたナミさんや、ビビちゃんに惹かれた。漠然とした目標へ、惑いながらも前へ進もうと
するウソップはとても近しく思える。好奇心旺盛で、そのくせ人一倍ビビリだけどひたむきなチョッパーを
見守ってやりたい。
個性的なやつらばかりだ。出来る奴が目配りしなきゃ、こんな狭い船ではすぐに人間関係が破綻する。
俺がバランスをとらなきゃ。その一瞬、一瞬で、一番良い方法で。誰も真実傷つけることなく、航海を
順調なものに。それが夢への一番の近道だと思ったからこそ…。

「…辛かったでしょう?」
細い手指が、目頭を覆った。…違う、辛いなんてことも俺は。
「感じたことがない」
「可哀想に」
「同情されるのは趣味じゃないよ。君が言うように俺のプライドは無意味に高い」
「させて頂戴。…あなた、泣いてるわ」
彼女の手のひらを濡らしているこの液体の正体。
「この涙だって君が望んだから俺は流しているのかもしれないよ」
「泣かせたいと思ったわけじゃないわ」
「嘘つきだな。…俺を泣かせたいと君は思ってた」
「知ってたの」
「わかるのさ」
目を覆っていた手をそっと外してくる。外気に触れて目元がひやりとした。涙が落ちるのも構わず、
まっすぐに彼女を見た。仄かに笑みを浮かべているのを見て、俺は唇を噛んだ。
まるでこれでは懺悔のようだ。救いが得られるという確証も無いのに。
「疲れるんだ。人を傷つけたくない…だから女の子にも本気になれないんだ」
「嫌われるのが怖いのね」
「…そうだね。人に嫌われるのが一番怖い」
「心が見えすぎるのが嫌なら目を閉じてしまえばいいわ」
背後から腕が咲いて、俺のネクタイを引き抜き、目隠しに縛ってくる。閉ざされた視界の向こうに感じる
彼女の気配は、温かかった。暗闇に残像のように浮かぶ表情は、寸前に見た穏やかな笑み。低く落ち着いた
声が耳元で囁いた。
「恋は目を閉じてするものよ」

視覚が奪われた分、他の感覚に意識が集中する。衣擦れの音、呼吸、顔に触れてくる指の温度や柔らかさなどに。
蛇口から水滴が落ちた音が酷く大きく聞こえて、思わず膝が戦慄いた。小さく笑う気配に顔が熱くなる。
テーブルからワイングラスが持ち上げられる気配がした。次の瞬間、顎を掴んで上を向かされるとワインの
香りが近づいて唇が重ねられた。口移しにアルコールを飲まされ、むせないようにするのが精一杯だ。
ようやく飲み下すと、舌が滑り込んできて、初めて俺は風味を味わうことを許される。芳醇な香りは舌の
上で暖められ唾液と混ざり合って淫らな輪郭を露にした。与えられる感覚に縋るように、俺は夢中で舌を
吸い口腔を舐った。それも束の間のことで、すぐに気配が遠ざかる。全身を縛められて抵抗することも
出来ないまま、俺は自分が僅かに興奮しているのに気がついた。
「…世界に君と俺しかいないみたいだよ」
「そうね」
短い応えに、彼女が俺の膝の間に移動したのが知れた。もっと何か伝えて欲しい。今どんな顔をしている
のか、どんな姿をしているのか、何を考え何をしようとしているのか。言いかけたのに彼女の指がベルトを
外しにかかっているのを察して何も言えなくなった。ジッパーが引き下ろされる音に続いて、やんわりと
握りこんでくるのを感じる。半勃ちになったペニスが取り出され、尾骨のあたりがむず痒いような感覚を
覚えた。表面を掠るように指が擦り上げ始め、湿った吐息が吹き付けられる。ただそれだけで体中の血液が
誘われて彼女へ向かって流れ出すように感じた。
いつしか指は楽器でも奏でるかのように自在に上下している。
「ロビン、ちゃ……」
「なぁに」
「…………」
声を聞いた瞬間に、喉がつかえるような心地がした。既に固く勃ち上がったペニスを擦り上げながら、彼女
は小さく笑う。
「…口が利けなくなってしまったの?」
そうなのかもしれない。何もかもを縛められて、受け入れるしかないと諦めたら声を発することすら不自由
になった。
やがて柔らかなぬめりが亀頭に押し当てられる。食むように数度唇を這わせ、離れたかと思うと裏筋をなぞ
り上げるように、尖らせた舌が強く当てられる。鈴口を抉るように舐ってくるのに膝が痙攣した。やがて
ペニスはすっぽりと咥えこまれ、微妙な捻りを加えながら、唇が上下しているのを感じる。唾液を絡みつけ
るように舌をねっとりと這わせ、俺に聞かせるためにわざと卑猥な音を立てた。棹全体を包み込むように
啜りながら、舌先が鈴口を割るようにして責め立てる。頭の中で、レコード針が飛ぶような感覚がした。
きつい吸い上げに腰が戦慄いて、たちまち放出の予感に襲われる。
「っ…出…」
「まだよ」
突然、指と口が離れて、お預けを食らったまま一人暗闇に放置される。
…自分のこの情けない姿を他の仲間が見たらどう思うだろう。
その想像は俺の羞恥を掻き立てるのに十分だった。彼女は俺のプライドを壊したいと言った。そのくせ表情
は、視界を閉ざされる寸前まで優しく穏やかで、まるで聖母のようだった。どれが本心か知りたくとも、
今は何も見えない。
「…ロビンちゃん?」
暗闇に問い掛けても応えは無い。
確かに気配はあるのに、一体彼女はどこで何をしているのだろう。すぐ傍にいるようにも思えるのに、
ものすごく遠くにいるような気もする。呼吸を止めて、必死に探る。
瞬間、耳に届く微かな水音。だがそれが、肉体から発せられるものだと気付くのにそう時間はかからなかった。
―この俺の姿を見て、一人でしている。
僅かに息が乱れるのを聞いて、俺は確信した。かっと血が滾り、思わずごくりと唾を飲み込む。
「…どこに、いるの」
暗闇の中で彼女の淫らな姿を思い浮かべた。まだ見ぬ裸体は空想の中でぼんやりと浮かび上がるだけで、
曖昧ではっきりしない。淫猥な空想は思考を混乱させ、放置されたペニスが虚しさと切なさにひくりと硬度
を増す。誘うように水音が大きくなったのを聞いて、俺は思わず立ち上がりかけた。その瞬間、脚の縛めが
なくなって、つんのめるようにテーブルの上に倒れる。
果たして、そこに彼女はいた。
俺が倒れこんだのは、テーブルではなく、彼女の体の上。豊かなふくらみに、胸に頭を抱かれているのだと
気がついた。
「…ごめん」
「何を謝るの」
咄嗟に出た言葉に笑う彼女の体を、腕を拘束されたまま唇で探った。ペニスが当たった箇所が太腿だとわか
って、彼女が既に全裸だと悟る。胸の突起に唇が当たって、俺はむしゃぶりつくように吸った。途端に彼女
は甘い溜息を漏らす。髪を撫でられ、手でペニスを泥濘に導かれた。当てた途端に、蜜を垂らしたヴァギナ
がひくつくように奥へと誘い込む。ずっと求めていた快感に、腰が震えた。自由になるのが下半身だけとい
うのがあまりにも滑稽だが、俺はもう考えるのをやめた。彼女の内側は熱く絡みつき、ぬるぬると蠢く別の
生物のように思われた。快楽だけを追い求めろ、と脳のどこかが命令する。深く浅く抜き差しを始めると、
彼女は嬌声を上げた。
「あァッ……ん……熱いっ…」
「っ…く、……ふっ…」
言葉もなく、ただ揺すぶりつづける。グラスが倒れ、テーブルから転がり落ちて砕ける音が聞こえた。余裕
などどこにもなかった。思考は千切れ飛び、頭の中がワインを零されたクロスのように真っ赤になる。絡み
つく肉襞が悦楽を訴えて収縮を強めた。力任せに突き動かしながら、俺は目隠しの内側が湿っていくのを
感じていた。
見えないことがこんなに哀しいことだとは思わなかった。こんな風に女を、ましてや仲間である彼女を
抱きたくなどなかった。それなのに俺は今快楽を求めつづけるだけの、ただの肉体でしかない。
彼女の腕が首の後ろに縋りつき、激しく唇を貪られた。次第に入り口がきつく窄まり、彼女は一際高い声で
叫ぶ。俺も終わりが近いのを感じた。最後に奥へぶつけるように突くと一気に抜き去り、暗闇にむかって
精を放った…。


ベンチにへたりこむと同時に腕の縛めを解かれた。痺れて重い腕を持ち上げて、ネクタイを外す。眩しさに
思わず目を閉じると、一瞬見えた光景が、幻のようにも思えた。
テーブルの上に、俺が吐き出した精液塗れになった彼女の裸体。
じくりと胸が痛むのとともに、どっと疲れがきた。テーブルクロスで残滓を拭い、身支度を終えると、
俺はテーブルの下で粉々に砕けたワイングラスを片付け始めた。彼女を直視する気になれなかった。
破片をゴミ箱へ捨てて、行儀が悪いと思いながらも、デキャンタに残ったワインを直接煽ると、ふと違和感
を覚えた。こんな味だったろうかとぼんやり思っていると、背後から袖を引かれる。振り向くと、ワインと
精液で汚れたテーブルクロスを体に巻きつけただけの姿で、彼女が立っていた。
「一口もらえるかしら?」
反射的に腰を抱き寄せて、口移しに飲ませた。舌を絡ませながら、合点が行った。この味の印象が余りにも
強かった所為だ。唇を離すと、微笑んでくる。
「…満足したかい?」
「なにが?」
「俺の心も体もレイプして、満足していただけましたか?」
「そうね…セックスの最中に泣き出す男の子は初めて見たかしら」
「…気がついてたのか。本当に意地が悪いな」
「あなた自身は何か新しい発見はあった?」
首を傾げながら聞いてくるのに、苦笑いする。
「ロビンちゃんさ」
「なぁに?」
「こうまでして俺の関心を引こうとするのはなんで?」
「あら、興味を持ってくれたの。嬉しいわ」
…白々しい。俺がやられたらやりかえす性質だってことは見抜いてたはずだ。そういう形でしか相手に強い
感情をぶつけられないことも。
しかし。
「これは恋愛に発展しうるのかな」
「さぁ」
「さぁって…酷いよ、ここまでズタズタにしといて」
「でもあなたは立ち直るわ」
「…何が言いたいのさ」
「人はそれほど簡単に傷ついたりはしないものよ。あなたはもう少し自分勝手になると良いわね」
ぎゅ、と鼻をつままれて、すぐに傍を離れていく。妙に納得しながら、脱ぎ散らかした服を拾い集める彼女
の姿を見て、俺は煙草に火をつけた。
一朝一夕にはどうかなるとも思えないが、考えてみる価値はありそうだ。まぁ、とにかく。
「…目隠ししてセックスするのは二度とゴメンだな」
「そうね、それは恋愛とは言えないものね」
「………話違くねぇ?」
思わず顔を見ると、ラウンジの扉を開けるところだった。振り向いて意味深に笑うと、すり抜けていく。

どうやら俺は、本格的に面倒事に首を突っ込んだらしい。

                                                    end.

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