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  「EXTRA JOKER」

 遠目にわいわい騒ぐルフィたちを見て、重いため息をついた。
 鬱陶しい。いまいましい。
 ルフィたちじゃない。その傍に、当たり前のようにいる女。
 繊細な造りの怜悧な容貌。猫のような黒い瞳。細い鼻梁。
 身長は高いが、骨格は華奢。凛とした独特の雰囲気が妙に人目を惹く女だ。
 勝手にこの船に乗り込んできて、そのまま居座り続けている。
 危機感のないルフィやチョッパー、ウソップ。金で懐柔されたナミ。コックは論外。
 何を馴れ合ってるんだ。敵だった女だろ、そいつ。
 鬱陶しい。苛々する。
「いいわね…いつもこんなに賑やか?」
 カツ、と靴の音を鳴らして近づく女が言った。
「…ああ、こんなもんだ」
「そ」
 ふふっ、と子供のような顔で笑う。何だ、この女は。
 さっきまで、不敵な印象を与えるように笑ってたじゃねえか。
 何企んでやがる。気にくわねえ。
 睨むと、表情が元に戻って視線を逸らされた。たったそれだけのことで、驚くほどに癪に障った。

 それからだ。いつも視線を感じるようになった。
 食事の時、鍛錬をしている時、果ては甲板で寝ている時も。
 今もダンベルを置いて汗を拭うと、刺すような視線。
 見回せば程近い場所に女が本を読んでいる。ただし眼は俺に向けて。
 椅子に腰かけて、黒い眼を細めておもしろそうに笑いながら。
 何だってんだ。俺のどこを、何を見て笑うんだ。
 不機嫌そうに女に向けて顎をしゃくると、目線を本に戻す。
 だが、しばらくすればまた見られている気配。
 今度は遠慮なく睨んでやる。すると、真っ向から受け止めて眼を逸らそうとしない。
 それどころか眉を下げて笑いかけてきた。呆れた女だ。話しかけるのも面倒なので、無視することにした。
 意図はわからねえが、見たいならいくらでも見ていればいい。
 向こうが俺を見ているのなら、俺が見張る手間も省けるだろうさ。

 夜中に目が覚めた。水でも飲もうと、ラウンジへ足を運んだ。
 扉を開けると、目に入ったのはチョッパーの後ろ姿。
 真ん丸い目をして振り返ったチョッパーと、それに隠れていた女が続いて視覚に現れる。
 女は上半身に何も纏っていなかった。肌の白さが、まず目についた。
 そして形の良いふたつの膨らみ。服の上からでもわかっていたが、でかい胸だ。
 しかし、俺を惑わせたのは右胸と鎖骨の間にある生々しい傷痕。
 刺し傷か? 決して浅くはない、古くない傷。
「ゾロ!」
 チョッパーの怒鳴り声にハッとした。知らず、俺は凝視していたらしい。
 机の上に包帯やら消毒液やらが置いてある。治療中だったのだろう。
「悪い」
 ぼそっと、それだけ言って部屋を出た。そのまま、壁にもたれかかってずるずると座り込んだ。
 胸の辺りがざわざわとする。何か言い知れぬ感情が湧きあがった。
 頭をかきながら、なぜかこの湧きあがったものを捨ててしまいたくないと感じていた。

 少しの時間が経って、扉が開きチョッパーが出てきた。
「ゾロ、ロビンの傷のことは誰にも言うなよ」
「…わかった。なあ…あの傷、深いのか?」
「すぐに治るよ、酷そうに見えるけど。急所は綺麗に外れてる。痕は…残るかもしれないけどね」
 そう言うチョッパーは医者の顔をしていた。
「ああ、あと謝っとけよ」
 それだけ言って、チョッパーはとてとてと男部屋へ入っていく。
 言われなくてもわかってるけどよ。あいつとふたりで何話せってんだ?

 俺は迷ったが、結局ラウンジに進むことにした。
 女は既に服を着ていて、俺がいることに不審そうに片方の眉を上げた。
 椅子に座って、黙って茶を飲んでいる姿が、すっかりこの船に馴染んでいるように見えた。
 女は一瞬何か言いたそうにしたが、口を閉じ、古ぼけた本に眼を落とす。
「…悪かったな」
「何がかしら。もしかすると裸を見られたこと? なら、気にしていないわ」
 確かに、気を悪くしているようには見えない。
「お前、女だろ。気にするもんじゃないのか、普通は」
 少し口をへの字に曲げて、何も言わずに俺を見る。その態度に、また苛立った。
「おい」
「…あなたが思う女の普通がどんなものかは知らないけれど、本当に気にしていないのよ」
 視線が痛い。なんでこの女は俺を見る。いつも、今も。俺ばかりを。
 女のひとつひとつの言動が苛つく。
 それでも何か言葉を吐き出さなければいけないような気がした。
「その傷は、どうしたんだ?」
「クロコダイルにね」
 言われた名前に眉をしかめた。
「仲間割れか」
「…そうなるかしら。彼は私のことを仲間だと思っていなかったようだけれど」
「相棒じゃなかったのかよ」
「仕事上はね。でも、私にも仲間意識はなかったわ。利用しただけよ、お互いに」
 淡々と事実だけを話しているようだった。ルフィからは事の顛末を詳しく聞いていない。
 国王から聞いた話も切れ切れで、クロコダイルとこの女に何があったかなんてわかりはしない。
 だが、その言葉が事実と言うのなら。
「今もそう思っているんだろ? 俺たちを利用しようと」
「信用ないわね…仕方がないかしら」
 否定をしないことに、またむかっとする。この女、俺を怒らせることに関しては天才的だ。
 古びた本を閉じて、女は立ち上がった。俺にはゴミにしか見えないその本を抱え込む。
「はっきり言えば、俺はお前が嫌いだ」
 つい、そんな言葉が口を出た。
 そうだ。こいつにこんなにも苛々するのは、そうとしか考えられないだろう。
「そう…」
 囁くようにそれだけ呟いて、俺の顔を今度は見ようともせずにラウンジを出て行った。
 俯きながら出ていった女の顔が、苦しそうに見えたのは気のせいに違いない。
 いつも余裕たっぷりって顔してやがるじゃねえか。
 女の表情に、何か大事なものが削ぎ落とされるような気持ちになった。
 それすらも気のせいだと、思った。思い込むことにした。


 次の日だ。ラウンジでルフィたちがトランプをしていた。
 チョッパーが何かを聞いたらしく、女が長ったらしい講釈を垂れる。
 理屈っぽい言葉を並べたてて、知識を振りかざす女の鼻っ柱をへし折りたくなる。
 コックがへらへらした顔で、女に話しかけるのが、俺を逆なでさせた。
 何かっちゃ、女に話しかけては俺のことをからかってくる。
 ナミが、そのたびに不機嫌になるのを気づかねえで、阿呆みてえに。
 素直にナミの尻だけ追っかけてりゃいいのによ。
 日誌を書いているナミの機嫌が、みるみるうちに降下していく。
 とばっちりをくうのはご免だ。くだらねえことで絡んでくるコックを適当にいなして立ち上がった。
「どこ行くんだよ、ゾロ」
 ルフィが聞いてきた。振り返ったら女と目が合ってしまった。
 コーヒーカップを片手に、女は少しだけ瞼を震わせた。
「どっかの女のくだらねえ講釈なんか、聞きたくねえんだよ」
 それだけ言ってラウンジを出た。手荒に音をたてて扉を閉めてやった。せいせいする。
 扉の向こうからは、コックのがなりたてる声が聞こえたが、それは無視する。
 甲板に出た俺は、いつも通り鍛錬を開始しようとした。
 ラウンジの扉が開く音がして、振り返れば女が近づいてくるところだった。
 ちっ、と舌打ちしてぶっきらぼうに言う。
「何の用だ」
「…ごめんなさい、と言いにきたの」
 女の眼が俺の目を捉える。なぜ謝られたのか、わからなかった。
「嫌いな女に、近くにいられたり、喋られたりしたら不快よね。ごめんなさい」
 ざわざわと嫌な感情がせり上がってくる。
「わかってんなら…」
「嫌いでも構わないわ。けれど、船医さんたちを困らせないであげてくれる?」
「チョッパーがどうかしたのかよ」
「剣士さんがああいった態度をとると悲しむのよ。演技でもいいから普通にしていて?」
 そういえば、こいつはチョッパーを可愛がってやがるな。
「これからは剣士さんの傍にはできるだけ行かないようにするし、話しかけたりもしない。
 余計なことも言ったりしないわ。それでいいでしょう?」
 思いもよらない言葉だった。
「いや、そこまでは…」
 俺の言に、女は不服そうにため息をついた。
「私にどうしてほしいの? 言ってくれなきゃ、わからないわ」
 どうしてほしいかだって? そんなの、俺が聞きてえよ。
 ただ、女にこの船から消えてほしいとか、俺に関わるなとかいうことじゃねえんだ。
 女の存在すべてを手放したいわけじゃねえ。
 手放す? 何考えてんだ、俺は。別にこいつは俺のもんじゃねえのに。
「…避けたところで、また何か言われるだろ。コックの居るところで延々と喋らなきゃいいさ」
「コックさんの居るところ? 剣士さんではなくて?」
「お前とコックが話してると、ナミの機嫌が悪くなんだよ。それくらいわかれ」
 そう言うと、さも俺が不可思議なものだと言わんばかりに、しげしげと眺めてくる。
「あなたは、嫌いな女が、今まで通り接しても構わないの?」
「…必要以上に馴れ馴れしくしなけりゃ、それでいい」
 そっけなく返した。
「わかったわ」
 消えそうな声で眉を寄せて笑う女に、いたたまれなくて目を逸らす。畜生、俺が悪いのかよ。
「お前を警戒すんのは、当然じゃねえのか?」
「…そうね。私は、あなたたちと一緒に居るにはあまりにも異質だしね」
「んなことは…」
 ねえだろ、と続けようとしてやめた。俺がこいつを擁護する必要はねえんだ。
「私は…ジョーカーだから」
 いきなり訳わからねえことを言うな、こいつは。ジョーカーってのは、あれか?
「あ? ババ? 歳くってるからか」
「…あなた、失礼ね」
 能面のような表情だった女が、眉根を寄せてちょっと唇を尖らせる。へえ。
「…そんな顔もできるんだな」
「馬鹿にされてるのかしら、ひょっとして…」
 今度は頬に手をあてて考え込んでいるので、思わず笑いがもれた。
「そういう顔してりゃあ、多少可愛げがあるぜ」
「あら本当?」
 俺を見て無邪気に笑う女に、昨夜覚えた感情がまた湧き出したが、それについては考えない方がいいのだろう。

「いいですっ! そんなナミさんが大好きだー!」
 コックが相も変わらず、叫んでやがる。
 ナミが満足そうに笑った。コックは気づいちゃいねえだろうが。
 あいつらは何が楽しいのか、さっぱりわからねえ。どう考えても、まともな関係じゃねえだろう。
 好きなものを好きと言わねえナミと、過剰に好きと言いやがるコック。
 ナミがこっちに歩いてきたので言ってやった。
「たまには素直に、あの馬鹿に答えてやったらどうだ?」
「アンタにだけは言われたくなかったわ」
 珍しく上機嫌で、怒りもせずに笑いながら俺に近づく。気味が悪いな。
「いいの、私は。問題はアンタでしょ。アンタは私と同類だけど、ロビンとサンジ君は違うんだからね」
「は? どういう意味だよ」
 そう言ったら目を見開いた。
「アンタ…まさか無自覚? 救いようがないバカだわ…」
「何がだよ」
 呆れたように、肩をすくめて首を振った。
「自分で気づかなきゃ意味ないわよ。女ってね…弱い生き物なのよ?」
「お前のどこが弱いんだ」
 つい突っ込むと鋭い目で睨まれた。
「ロビンよ、ロビン! アンタと真面目に話した私が馬鹿だったわ」
 そう言って、ルフィたちがはしゃいでる方へ歩いてった。
 何だ、あいつ? あの女こそ、弱いわけがねえじゃねえか。
 無理やり仲間に入れてくれだとか、敵のくせに言ってきた女だぜ。鉄面皮ってえ言葉がぴったりだろ。
 苛々しながら刀を振っていると、今度はチョッパーが近づいてきた。
 いつもは鍛錬中に誰かが寄ってくることもないのに今日は千客万来だ。
「ゾロ、ちょっといいか?」
「何だ?」
「ロビンのことなんだけど…」
 また、あの女か。何だってこう、揃いも揃ってあんな女のことを気にしやがる。
 俺にどうしろって言うんだよ。
「あのね。人から嫌悪を与えられるのって、すごい悲しいことなんだ」
 チョッパーは俺の目を見て、真剣な面持ちで言う。
「俺は生まれた時から、周りの皆から嫌われてきたんだ。何もしてないのに。俺は皆を嫌ってなんかいないのに」
 思い出して悲しくなったのか、涙がうっすらとチョッパーの目に滲んでいる。
「俺は、それが嫌で皆を避けてた。でもね、ロビンは仲間になりたいって言ってきたんだよ。
 近づこうとしてくれたんだ。それなのにゾロがそんな態度じゃ可哀想じゃないか!」
「お前は、あいつが敵だった時のこと、知らねえからそんなこと言うんだ」
 そうだった。チョッパーは、船に乗り込む前のあいつと会ったことはない。
 女を最初に見たのは、ウイスキーピークを出てすぐのことだ。次に見たのは、カジノの地下の檻の中。
 どちらも何か企んでいるのがまるわかりの、張りついた笑顔で。
 最初の時は、ルフィもあの女を信用してなかったのにな。最初…待てよ。
 記憶の片隅で何かがひっかかった。この船に女が乗り込む前のふたつの場面。
 あの時、あいつは?
「ゾロがロビンを嫌いでも、ロビンはゾロを好きだと思うんだ」
「はあっ!?」
 思考の波に捕らわれていると、チョッパーがおかしなことを言ってきた。
「気にしてるから、いつも。それにゾロに冷たくされた後、すごい悲しい顔をするんだよ」
 女に見られていることは知っていたが。それが好意だとでも?
 さっきの女の態度と相まって、俺は混乱してきた。
 難しいことで悩むのは好きじゃねえんだ。わからねえことは本人に聞いてやる。

 夜、今日の見張りはあの女だとウソップが言っていた。
 全員が寝静まった頃を見計らって甲板へと出た。
 見回すと、女は俺がいつも鍛錬をしている場所で明るい月明かりの下、本を読んでいた。
「おい」
 ダンベルだとかが転がっているのを跨いで女に近づく。
「こんばんは。珍しいわね、剣士さん」
「聞きてえことがあったから来ただけだ。正直に答えろよ」
「…何かしら?」
 本を閉じて、女は俺と向かい合う。初めて会った時の顔だ。この顔に苛々する。
「ウイスキーピークを出た後、お前は亀でこの船に乗り込んできたよな?」
「そうだったわね」
「次に会ったのは檻の中だ。あの時、コックの助けがなかったら俺たちは死んでいたかもしれない」
「それはそれは。コックさんがいてよかったわね」
 からかうように言う女に近づいて、至近距離で睨みつける。
「あの時クロコダイルはコックを知らなかった。だから出し抜けたんだ。
 お前、チョッパーはともかく、コックには会ったろ? なぜ、クロコダイルに言わなかった?」
「ああ…そのこと。そうね、あなたたちに生き残ってほしかったからよ。理由にならないかしら?」
「…生き残ってほしかった理由ってのは?」
 女が冷たく笑った。その顔に、縛りつけられたように体が固まった。
「興味があったからかしら。特に剣士さん、あなたにね」
「俺?」
「クロコダイルに会う前から、私は心から笑うなんてこと忘れていたの。でも、あなたが笑わせてくれたから。
 だからエターナルポースを渡したのに。ルフィが壊してしまって…」
「待てよ。俺はお前とそれ以前に会ったことなんかねえぞ」
「ええ。会ったことはないわ」
 眼を細めて、今度はあの子供のような顔で笑う。この眼から目を逸らさなければと思ったが、できなかった。
「私、BWの副社長をやっていたのよ? 当時のMr.7が倒されたとあれば報告もあるわ。
 ふふ。『俺を社長にするなら入ってやる』だったかしら。声を出して笑ってしまったわ」
 言った言葉を後悔した。妙に、居心地が悪くなる。
「愉快なことを言う剣士が、東の海にいると思ったのよ。まさかその男が海賊になっているなんてね」
 女はまだ笑うのをやめない。いつも見ていたのは、俺のことが可笑しかったからかよ。
「この船に乗り込んで仲間にしてと頼んだ時も、あなただけ最後まで反対したわね。それが普通だけれど」
「当たり前だ」
「だから…」
 瞬間、視界が反転した。女の手が俺の体に纏わりついて、床に仰向けで押さえつけられる。
「うわっ!」
「あなたなら私を殺してくれると思ったのよ」
 こいつの何十本と生えた手に拘束されてしまった。迂闊だった。
 女の言っている意味がわからない。この状況で、殺されるのは俺のほうじゃねえのか?
「ごめんなさいね。こうでもしないと、あなたは話を聞いてくれないと思って」
 刀を取られる。身体は関節を押さえつけられて、びくともしねえ。
「何しやが…」
 あがきながら叫ぼうとすると、女が自分のシャツを脱ぎ捨てた。
 次々と着ているものを脱いでいく。昨夜、チョッパーが巻いた包帯も。終いには、下着1枚で俺のほうを向く。
「…何で、脱いでんだ、お前」
「死ぬ前に、あなたとセックスしてみたいの」
「な…に?」
 答えることなく、俺の服をどんどんと手が脱がしていく。理解できねえ、何だ、この女は。
「ふざけんな。洒落にならねえよ」
「洒落にするつもりはないわ」
 下着の上から、股間を撫でられる。
「お前みてえな女なんかとっ…!」
「ねえ…敵だった女になら、何を言っても傷つかないとでも思った?」
 女にまっすぐに見つめられて、しばし呆然としてしまう。
「私を欲しいと思わない?」
 豊満な乳房。腰のくびれは、柔らかな曲線を描きながら臀部へと延びている。
 そこからさらにその曲線は壊れることなく腿へと続いている。滑らかな肌。
 月明かりに浮かぶ姿を、綺麗だ、と単純に思った。
「なぜ死にたい?」
 気づいたら訊ねていた。女はくるりと後ろを向いて、肩甲骨の辺りを生やした腕が指し示した。
 そこには昨夜見た正面からのものよりも深い傷。背中から刺されたのだろうか。
「この傷をつけられた時に、夢を諦めたの。死のうと思ったわ。でもルフィに助けられた…」
 振り返り、ゆるやかに笑った。かがんで俺の顔を覗き込む。
「生きていると、また叶わない夢を望んでしまう。この傷を見るたびに、無駄なことだと思い知るだけなのに」
 俺の胸から腹にかけての傷は、女とは逆。夢を叶えるために、忘れぬために、見れば刻まれた屈辱を思い出す。
「この傷を見ると死にたくなるの。痕が残るとしたら…ずっと。こんな気持ちを抱えて、生きていくのは嫌なのよ」
 クロコダイルのつけた傷に捕らわれている女。俺には見えない、女の枷。
 ここに居ない男が、この女を縛っていることが、無性に許せなかった。
 動かない手足の代わりに、自由な首から上を思いっきり起き上がらせて、女の傷に喰らいついた。
「あああっ!」
 塞がり始めた傷の上から、周りの肉ごと噛み千切る。
 新たに生えた女の手が俺の額を抱え込んだので、頭を床にぶつけた。
「痛えな…」
 肉片を口からぺっ、と吐き出す。女の胸の上からは鮮血が流れていた。
「何を…するのよ」
「これでその傷はお前の死ぬ理由じゃなくなっただろ? それは、俺がつけた傷だ」
 女は、ぽかんと俺を見た。そして傷口を見下ろして、しばらくして、くくっと笑い出した。
 俺の脇から手が生えて、俺の頬を引っぱった。
「あなた…本当に愉快な人ね。とても素敵よ」
 ちゅ、と短く唇を合わされた。
「やっぱり、ここであなたとしたいわ。動かないでね、剣士さん」
 そう言うと、女は俺の目の前で下着をゆっくりと下ろしていった。
 下着と女の間を透明な糸が伸びて切れる。露わになる濡れた女の部分。
 理性が本能に抗おうとするが身体は縛られて動かない。視線だけ女から逸らした。顔が燃えそうなほどに熱い。
「ちゃんと私を見て」
 それは残酷な命令だった。女と視線を絡ませることに激しく躊躇する。
 今、女の眼を見てしまったら、自分がどうなってしまうのか、もうわからない。
 誘惑に勝てない気がする。女にいい様にされる今の立場が腹立たしい。
 だが俺の興奮は高まっていて、既に勃起している。女が俺の下着をするすると脱がし、俺も全裸にされた。
 こんな様でも、先端から根元まで赤黒く染まって小刻みに脈動している。
「あら大きいのね。ご立派」
 褒められてるのか、馬鹿にされてるのか、判断に苦しむ口調と表情で、女は俺のそそり勃った欲望を握る。
 軽く柔らかな圧迫感。俺の背筋に、ぞくりとしたものが走った。
 既に、充分なほど勃起しているはずのものが、さらに一回り巨大化し、ついでに硬度が増した。
 俺のその部分の変化を確認すると、女は手を少しずつ動かし始める。
 陰茎を細く柔らかな指が擦ることで生み出される感触は、いつも自分で擦っているのとは、まるで違う。
 指だけとはいえ、心地良い感触、しかもこの信用ならねえ女に。
 手も足も拘束されているのに、女に自分の性器を触られて、俺は興奮している。
 唇で俺の輪郭をなぞる。愛しそうに女はそれを手で包み、先端に口づけた。
 ゆっくりと唇に収めていく。もう一つの心臓のように、女の熱と手と唇をそこで感じる。
 喉の奥まで飲み込まれて、そのまま舌で舐め上げられた。
「うっ…」
 口から呻きが飛び出る。この女の愛撫に感じてしまう。
 小さな口内には入りきらないそれを、唇を締め上げて上下に舐る女の姿に欲望が煽られる。
 女は熱い陰茎をしゃぶり続ける。先端から出てくる汁を丁寧に舐め取られた。
 俺の幹を舐め上げて、カリ首に舌を這わし、根元まで飲み込み粘膜で締めつける。
 気持ちいいんだよ、くそっ。
 女は亀頭に口づけたままで、ぐっと俺の顔を跨ぐように、俺の上にかぶさった。
 赤く濡れた女の秘処が、俺の目の前に晒される。一体、どんな拷問だ、こりゃあ。
 既に花はぱっくりと開いて、ひくつき蜜を流す卑猥な光景に、生唾をごくりと飲み込む。
 弄くって、舐って、突っ込みてえ。だが、戒めは緩むことがない。
 俺の頭から手が生えて、指先が女の花弁の表面に触れる。自分が触れているような錯覚に陥る。
「あ…ああぁ」
 声が上がり、女の全身が感電したのかと思うほど、小刻みに震えた。
 震えながらも、その指は動きを止めようとはしない。
 いやそれどころか、次第に擦る速度を増して、溢れ出た愛液がその指を濡らしている。
 際限なく溢れ出す愛液は、指を濡らすだけでは飽き足らず、内腿を伝わって流れていく。
 桃と赤との中間色に染まった小さな芽を、ひとさし指の腹で、ゆっくりと優しく撫でている。
 女は肉芽を刺激しながら、別の指で花弁の割れ目をなぞるように擦る。
 包皮に覆われたままの芽を、ひとさし指と親指で、軽く摘む。
「う…んぅ」
 摘んだところで、女の身体が跳ねるように大きく震え、割れ目から噴き出すように愛液が流れ出た。
 目の前で繰り広げられる自慰に見入っていると、俺の身体を再び快感が襲った。
「うっ…っ」
 わざと音をたてて俺自身を啜りあげる。俺は、女にされるがままだ。
「手…どけやがれ、こん畜生っ!」
 下半身から伝わる快感で力が上手く入らねえ。
 身を捩ろうとしても、しっかりと捕まえられていて動くことができない。
「ん…んっ…」
 女のくぐもった声を聞きながら、次第に自分の快感に意識が集中していく。
 女は俺に激しくしゃぶりつく。じゅるじゅるっと、わざと淫靡な音をたて、触覚、視覚、聴覚で俺を追い詰めていく。
 俺は唇と舌と手で蹂躙され続ける。指がぬるりと女の蜜壷に入り込む。
 身体はじっとりと汗ばんで、全身が震えだす。女の指使いは次第に激しさを増していった。
 女に追い上げられて、頭の中は真っ白になっていく。
「くそっ! イっちまっ…」
 女は仕上げとばかりに唇をすぼめて激しく陰茎を強く吸い上げる。
「うあっ!」
 捕らわれた姿勢のまま、熱い奔流に襲われた。頭の中で白い光が破裂して消えていった。
 どくどくと精を、女の口に吐き出す。女はそれを零すことなく、喉を鳴らして飲み下しやがった。
 全身の力が一気に抜けていく。肩で息をする俺に、女が向き合う。
「満足したかよ? 外せ…」
「嫌よ」
 俺を拘束する力はそのままに、なおも女は自分で胸や秘処を弄くっている。
 たった今、イったばかりなのに、その行為にまた疼いてくる自分がいる。
「ずいぶんと、好き勝手やってくれるじゃねえか」
 そう言いながらも、硬度を上げようとするものを見て、女は笑う。
「ふふ、いいコね」
 女は生やした手で俺の頭を撫でながら言う。
「せっかく剣士さんが私に欲情してくれたんだもの。たっぷり感じてもらわないとね」
 優しい口調の一方で、拘束して男を強姦すると宣言する。あやうい不調和。
「…なら、好きに動かせろ」
「あら、嫌いな女を抱いてくれるの?」
 俺の中の何かが、その言葉に反応する。確かに、そうだと思ったんだ。
 この女が嫌いだと…だが…そうではないのだろう。
「嬉しいけど、私があなたを犯したいのよ」
 女は自分の垂れ流れる血を掬い取ってぺろりと舐める。
 吐き気がする。この女を美しいと思う、俺の感情に吐き気を覚える。
 なぜ、お前はこんなことをする。
 そのまま、俺に跨って、俺に見せつけるよう脚を大きく広げた。
「ここに。剣士さんの、挿れていいでしょう?」
 俺の視線を誘い込むように、ぱくぱくと指で入り口を開けたり閉めたりしている。
 答える間もなく熱が先端に触れた、と思ったら、ずぷっと亀頭から埋め込んでいった。
 柔らかく蕩けた膣内は、難なく、俺を受け入れた。女にすべて頬張られ、充足感を感じる。
「あ…すごい…一度、イったのに、とっても硬いのね」
「っ、そんなに吸いつくな」
 たまらず呻いた。こいつの中は、欲深く吸いついて、俺をもっと奥に誘い込もうとしている。
 熱くひくつく肉襞と、ゆるく回し始めた腰に飲み込まれそうになる。
 指と口でもあれほど感じまくったのに、肉襞で擦られる快感は、それとは桁違いだった。
 床に押さえつけられた屈辱的な格好を強いられているくせに、俺の分身は女の中でずくずくと激しく脈打っている。
「あ…あぁ…」
 浮かせた尻をほとんど直角に、串刺しにするように、ずんっと降ろす。
 感じちまう。女が激しく動くたびに、ぐちゅぐちゅと卑らしい音。
 何もかもがめちゃくちゃなこの状況に、呼吸が止まりそうだ。
「待てっ…待っ」
 しかし女は動きを止めず、激しく喘ぎながら、俺の胸の上に、熱い汗をぽたぽたと滴らせる。
 鳥肌がたつような眺めだった。欲情にぎらついた牝の眼。
 浮かんで光る汗が、激しく上下する乳房を流れ落ちてくる。
「剣、士さん…」
 腰をぐっと押しつけながら呼ばれ、内部で素直に跳ねてしまった。
 押しつけられたまま腰を回され、女の声が止まらなくなった。
「いいっ…剣士さん、あぁ…」
 身体が前にのめりそうになりながらも、女は俺を激しく攻めたて続ける。
 腰は揺すられ、目の前には震える乳房と、尖った乳首。
 床が軋み、ふたり分の荒い呼吸が混ざり合う。
「ん…ん…いい、あ…あぁっ、いいっ!」
「っ、すっげ…」
 肉棒を絞り上げるようなきつい締めつけに、また唸った。
 こいつの中はうねってやがる。どうやってんだよ。
 揺れる乳だけ見てりゃよかったんだ。だが思わず、顔を見上げてしまった。
 さっきまでは、ただの飢えて獲物にしゃぶりつく牝の顔だった。
 手足をがんじがらめにされて抵抗もできない俺を、犯しているはずのこの女。
 それなのに。
 なぜ、犯しているお前のほうがそんな苦しそうな顔をしている? なぜ、お前は泣いている?
「なんで…っだ」
「…き、なの」
「何?」
 よく聞こえなかった。
“ロビンはゾロを好きだと思うんだ”なんでチョッパーの言葉を思い出した、俺は?
「何て、言った?」
 女は答えず、涙を零して笑った。ふざけるなよ。
 もし今、この腕が自由になったとしたら、俺はどうするのだろう。
 そうやって、俺を犯しながら辛そうな顔をして。縋るように視線を合わせて。
 ふっと腕の拘束がなくなった。驚きながらも、女にそろそろと腕を伸ばす。
 たぶん俺は抱きしめようと思ったんだ。背中に腕を回そうと。この女を逃がすまいと。
 しかし、気がついたら俺の両手は女の首を絞めていた。白く柔らかい細い首に、俺の指が食い込む。
 俺の意思じゃなかった。俺の腕から生えた俺のものではない腕が、両手を操っていた。
 何だ、こりゃ。自分を俺に殺させようとでもしているのか。
 手をはがそうとした。だが仰け反る白い首と、噴き出す胸の血に、見入ってほどけなかった。
 女の口から、ひぅっと息がもれ、俺を呑み込む胎内がきりきりと収縮する。
 細かな痙攣が、波打つように大きくうねりながら女の全身に広がった。
 そこかしこに生えた腕が消えたとともに、汗にぬめった裸体が俺のものを絡めたまま崩れ落ちた。
 達せなかった砲身を女の身体から、ずちゅりと抜き取る。
 女の首は、俺の手の形にくっきりと赤くなっている。おそるおそる、さすった。
 死んだのかと思った。だが、息はある。きつすぎた縊りにオチただけだ。
 一方的に犯されたくせに、この女に対する俺の怒りは消えていた。
 俺がつけた首の手形と、胸の歯形に、多少の罪悪感を感じる。
 ラウンジから、水と酒を。倉庫からタオルを何枚か、持ってくる。
 起きねえ女の頬をぺちぺちと叩く。胸の傷口を舐めると、身体がびくりとした。
「ん…」
「…起きたか?」
 眼を開けた女は上体を起こすと、げほっと咳きこんだ。
「無理すんな。水でも飲め」
 さし出せば素直に飲む。俺は酒を飲みながら、苦笑を浮かべて聞いてみた。
「何しやがるんだ? てめえは」
「剣士さん…悦くなかった?」
「あんな顔されたら、萎えるんだよ。イけるか、阿呆」
 女はまた、涙を流して、ごめんなさい、と小さく言った。
「なぜ謝る? 俺が、お前を嫌いと言ったからか」
 女が頷いたので、理解した。女を追いつめたのは、俺だった。
“アンタは私と同類”“女ってね…弱い生き物なのよ”ナミの言葉が、頭をよぎった。わかったよ、うるせえな。
「俺はお前が嫌いじゃない…だから、泣くな」
 そうだ。嫌いどころか、恐らくは…ともかく、こいつが泣くのをやめてほしかった。
「大体、お前は死ぬ気がねえだろ。死にたい奴はそんな眼はしねえ」
「そう…ね、ジョーカーは本来“愚か者”という意味なの」
 涙を乱暴に拭って、女は自嘲するように眼を伏せた。
「一度は死を決意したのに、助けられて…まだ夢を諦めきれない私は愚か以外の何者でもないわ」
「そう簡単に諦められねえから、夢なんだろ」
 ずいぶんと年上のはずの女だが、子供にするように頭をぽんぽんと叩いてやった。
「でも…あなたになら、殺されてもいいと本気で思ったのよ。抱かれながら死ねば悔いはないかと」
「死ぬのは、いつでもできるだろ」
「そうね。もう少しだけ生きたいと思うわ。今夜のことは忘れてね、剣士さん」
「忘れねえ」
 立ち上がろうとする女の腕を掴んで、抱き寄せ拘束する。さっきとは逆の立場で。
「今度は俺がお前を抱いてやる」
 囁くように宣言すると、もの珍しそうに女は笑った。
「…んっ」
 女の唇を、俺の唇で塞いでやる。片腕で身体を、片腕で頭を抱きかかえ、柔らかな唇を優しく吸う。
 まるで女の唇が美味い食い物であるかのように捕食する。なんで、こんな口づけをしているんだろうな。
 それだけで身体中に痺れるような快感が駆け上がってくる。
 自由に動けて、この女を抱けることを、俺は喜んでいた。
 女は女で、手を生やすこともなく、夢中で俺にしがみつく。
 ふっと唇が離れ、閉じていた目を開けると、女は能面じゃない笑みを湛えて俺を見上げていた。
「死にたいなんて考える暇もやらねえ」
 俺の言葉にびりっと女の身体が反応する。
「俺も好きにするからな。抵抗しても、やめねえぞ」
「んっ…」
 何か言う間もなく唇を塞いでやる。女の柔らかな舌を絡め取り、吸い上げ、啜る。
「…う…ふぅっ」
 口づけだけで女の息が荒くなる。いいな。おぼこみてえな、反応がいい。
 さっきまでの淫猥さは微塵も感じられねえ。直感では、こっちの女が本来の姿。
 まるで媚薬でも仕込んであるかのような舌は、俺もまた、痺れさせる。
 首筋に唇を這わし、乳房にそっと触れる。そこから舌を下ろして胸の傷に触れた。
「っあ…」
「敏感だな…これは、俺の傷だぞ」
 低く囁き、俺がつけた傷を舐り、なぞる。
 どうも、この女に所有の証をつけられるのは、俺だけでいいと思い始めているらしい。
「くだらねえことは忘れて、俺のことだけ考えてりゃいいんだ」
 ひでえ独占欲だ。こいつにだけなんだろうけどな。こんなふうに乱されるのは。
 傷口から流れる血をたいらげた後は、白い胸を撫でるように揉む。手触りがいい。
 その先端を、唇で捕らえる。震える肢体。感度も言わずもがな、か。
「はっ…んっ」
 敏感な突起を含み、舌で転がす。女が足の先まで、快感に緊張させるのがわかる。どうやら俺も緊張している。
 そういや、最近は情事とは無縁の生活だったな。思わず女の頭を、かき撫でてしまった。
「こっち見ろよ」
 固く尖った乳首を舌で弄ぶ。俺の言葉に従って、見下ろしてくる綺麗な顔。
「…あっ」
 視線が合うと、恥らうように逸らす。もっと卑らしいことを、してきたくせに。
「さっきは、できなかったからな。悪かないだろ?」
 いっそうねっとりと舌で愛撫すると、女の身体が震える。
 仰向けに押し倒し、ついでに倉庫から取ってきたゴムをつけようとした。
「いらないわ…昔から、ずっと薬飲んでるから…」
 その言葉だけで、女が今までどんなふうに生きてきたか、伝わってきた。
 ガキの頃から20年、とても言えないこともあるだろう。
 何を言えるか、思いつかなかった。きっと、何も言わなくていいんだろうな。言えやしねえんだ。
 舌打ちして、力無く開いた太腿の間の潤みきった秘処に、熱い固まりをそのまま押しつける。
 濡れそぼって充血した割れ目に、亀頭をぬらぬらと往復させる。
 女の様子を見ると、潤んだ眼で俺を見つめ哀願している。この顔を、何人の男が知っているのか。
「欲しいか?」
「お…願…」
 そのまま女に口づける。やべえな。興奮してはいるんだが、どうもムカついてきた。
 こいつが過去にどれだけの男に抱かれようが関係ない。そう言い聞かせるしかないと、わかっていても。
「は…やく…」
 唇の端からもれ聞いた女の言葉に、陰茎がぴくんと反応した。今すぐにでも、突っ込みてえと疼いている。
 今は、ここにいる女のことだけを考えよう。女に軽く唇を寄せて、潤みきっている蜜壷に先端を押しつけた。
「ああぁっ!」
 柔肉の中に熱い固まりを少しずつ進入させる。俺を迎えることに、何の滞りもないらしい。
 女が俺にしがみついてきた。拘束され、犯されていた時より、断然いい。
 埋め込みを深くしていくにつれ、行き場のなくなった愛液がじわりと溢れ出す。
 女の身体の中心に促され、じんと痺れるような快感が広がった。
 根元まで、すべて女の中に埋めた。腰をきつく押しつけたまま、女をしっかりと抱きしめ唇を吸う。
 女の胎内が快感を求め、ひくついて締めつけてくる。貫いただけで、イっちまいそうだった。
「いいな…お前の中…」
 ゆっくりと腰を動かし始めると、自然とそんな言葉が出た。
 肉襞の感触を味わうように、ゆっくりと引き抜き、深く挿入する。俺を離すまいと吸いついてくる。
 閉じた柔肉をこじ開けるように入っていくと、熱くひたりつく感触がして、俺の思考を次第に奪っていく。
「ああっ! い…いっ!」
 女の呼吸が荒くなるにつれて、俺も腰の動きを速く、激しくしていった。
 腕できつく抱きしめながら、身体ごと揺さぶるように女を突き上げる。
 女の開かれた太腿が縋るものを探して震える。
 喘ぐ唇を塞ぐ。舌と下半身両方で貪って、沸き上がる快感に身を浸す。
 快楽に眉根をひそめ、頬を赤く上気させる女の姿は、俺の中の征服欲を大いに満たした。
「剣士…さ…ん」
「あ?」
「めちゃくちゃに…して…」
 身体をすり寄せ絡みつきながら熱に浮かされたようにそう呟く女に、思わず相好を崩した。
「はっ…言われなくても、そのっ…つもりだ」
 最初は可愛げのねえ女だと思った。だが、やべえな。嵌りそうだ。いや、もう遅えか。
 深い口づけを続けながら、腕を、脚を、可能な限り絡ませる。
 正しい抱き方なんざ知らねえ。ただ繋がるだけだ、深く、深く。
「はあぁっ!」
 もっと深く挿れられねえかな。ずぶずぶと女の中心に向かって侵入しながら、馬鹿げたことを思った。
「う…あぁっ…」
 身体が熱い。女に火をつけられて、燃えたぎっているようだ。
 思えば、女も熱かった。全身にどっと汗が噴き出していく。
 女が俺を喰い千切らんばかりに締めあげている。俺は女を壊さんばかりに貫いている。
「あ…ああっ…」
 突き上げるたびに、俺の中の何かが弾けて散っていく。意味をなさない言葉が口を突いて出る。
 ひどく自由で、ひどく不自由だ。濡れた肉のぶつかりあう音が高く響く。
「あ…あっ、おかしく…なりそうっ!」
 力の限り腰を打ちつけると、荒い呼吸の合間に女が叫ぶ。
「めちゃくちゃにして…って…言ったろが」
 貫くごとに、互いの汗が飛び散り、交わる。抜けられない。息をつくことすらままならないほど激しい。
「ああぁっ! や…やめっ」
 今さら、やめられるかよ。女を突きまくって、剥き出しになった肉芽を指で嬲る。
 汗を滴らせ上気する女の顔には快感が。俺の顔には愉悦が踊っているだろう。
「やめてえっ…こ、壊れちゃ…!」
 叫びとも泣き声ともつかない嬌声。悪くない、その顔と声。
「イくっ! 剣士さ…んっ!」
「俺も…だ!」
「あああぁっ!」
 結びついた場所から、狂いそうなほどの熱い炎に、灼き尽くされた。
 呆れるほどに、すべてを女の中に吐き出した。

「…どうして、私を抱いたの?」
 熱もだいぶひいてきて、涼しげな風に身体を浸していると、女が聞いた。
「わからねえよ…ただ、抱かなきゃいけねえ気がしたんだ」
「嬉しかったわ」
 日中、この女といると居心地が悪かったのが嘘のようだ。今は、少しでも長く傍にいたい。
「いつか…私が、どうしても夢を追えなくなった時には、殺してくれる?」
「この船の中で俺だけがお前を殺してやれる。だから安心して生きろ」
 なぜか、きっぱりと言えた。こいつの命は俺が握ってやる。
「では、誓いを…そうね」
 俺の傍に立てかけてある、3本の刀を指さした。
「その中で、私に一番ふさわしい刀はどれかしら?」
 真剣に聞いてくるので、まともに考えた。
 身体も心も解放されたためか、頭もすっきりしている。こいつと、一緒にあるべき刀は。
 選んで、一振りを女の目の前に差し出した。女は意外そうな顔をした。
「てっきり、妖刀を選ぶのだと思ったわ」
 それでもよかったかと考えたが、今のこいつからは妖しい気配はしない。
 また犯されたりするのはこりごりだからな。
「こいつは雪走って名前だ。雪と、月と、お前。揃ってひとつにしてやるよ。だから俺の傍にいろ」
「どういう意味が? わからないわ」
「雪月花。知らねえのか? 四季折々の美しいものを指す。冬の雪。秋の月。春の花だ」
 月を指さして、答えてやる。俺の故郷の言葉だったか、これは。
「花はどこに」
「お前だろ。酒の肴にぴったりだ。酌くらいはしてくれよ」
 季節も何もかもが出鱈目なグランドラインで、雪走と月とお前。
 刀はいつも俺の傍にある。夜、晴れた日には月の下で。そして、花であるお前を抱こう。
 女は両手で顔を隠すように抑えた。
「何だよ、隠すなよ。その顔、見てえんだ」
 腕を掴み、ずらして表情を窺うと、頬を染めている。けっこう馴れてもいねえのか。
「…反則だわ」
「俺は理解したら、美しいモノは美しいとはっきり言う。いいから誓え」
 コックの口説き文句の失敗作みてえな言葉を吐き出すと、女は俺の目を見て笑った。
「抜刀して?」
 素直にすらりと鞘から抜くと、女は刀の正面に立ち、切先を口許に持っていく。
 柔らかく、そっとふくらに口づけた。血が一筋、唇から流れ落ちる。
「誓って。いつか夢を見られなくなった時に、私のことを殺してくれると」
 その率直さが、俺には心地がいいらしい。
「誓ってやる…だから、お前も誓え。俺が殺してやるまで、勝手に死なねえと」
 女の口角が歪んで、唇から流れる血が、床にぽたりと落ちた。
「誓うから…また、寂しい夜は抱いてくれる?」
 刀についた女の血を、舐め取った。刀を鞘にしまいながら、女の問いかけに答える。
「寂しくなくても、いつでもな。お前は、ただ悦がってりゃいい」
「愚か者には、ふさわしいかもね。こんな私が、この船に乗り続けていても?」
 俺に興味があると言った女。もし、こいつが夢を再び知って、本当の仲間になれたとしたら。
 その時には、湧き上がった言い知れない感情を、伝えてやってもいいかもしれない。
「ババがなきゃ、できねえゲームもあるだろが」
 愚かで、淫らで、そのくせ儚い。月下の雪に咲く花を、手折らぬように抱きしめた。
 笑う女の綺麗な顔に、また煽られて、誓いをたてた俺だけの唇にむしゃぶりつく。

 だが、どうなんだ?
 女の唇の傷を舐めて血の味を楽しむ俺のほうが、よっぽど頭がキレてんじゃねえか。
 ああ、そういえばトランプの中にババは2枚あるんだっけな。
 ならば、俺もお前と同じ愚か者だ。


   ━終━
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