最終更新: op_eroparo 2010年10月26日(火) 14:56:42履歴
「だからあなたと夢を見る」
退屈な夜の見張り番。他のクルーは、船内で就寝中だろう。
それでも例外が私以外にただひとり。
今日も今日とて、船尾で寝る彼は、夢から覚めることがないまま、いまだに寝続けている。
彼の両揃えの足と、背中でやはり両揃えにされた手は、緊縛されている。
寝ている彼自身はそれを知らない。
ちょっとした、おふざけの緊縛ではあるのだけれど。
「まったく…このサボテンは、呼吸と光合成と寝ることしかしないな」
夕飯の後、すぐに眠る剣士さんに向かって、コックさんが呆れたように呟いた。
「俺は明日のパン種の仕込みをしたいのに、この緑が視界に入ると、どうもやる気が出ない」
キッチンに立ったら隠れている片目からは見えないのではないだろうか。
しかし、コックさんが頬を歪めて笑いながら言う訳は、そういうことではないのだろう。
苦笑して、お伺いをたてた。
「…彼を、どこへ運べばいいのかしら、コックさん?」
「ああ、ロビンちゃんの御手を煩わすことはできません! 労働はウソップに任せればいいんです!」
「おい!」
冗談とも本気ともつかない彼の言葉に、横にいた長鼻くんがびしっと突っ込んだ。
「構わないわよ。空島でも運んだことがあったし…男部屋でいいのかしら?」
「えー、男部屋で今からウソップたちと枕投げするんだよ、ゾロ邪魔」
船長であるルフィはずばっと、酷いことを言う。どう反応すればいいのかしら。
「いいんじゃない。まだ皆が寝るには早いでしょ。甲板にでも転がしとけば?」
「おお、ナミさん! なんと素晴らしき提案!」
手を叩いて、ルフィに次いで酷いことを言う航海士さんを絶賛するコックさん。
「風邪ひくかもしれないじゃないか」
眠りから覚めることのない剣士さんを気遣うのは、小さな船医さんだけだった。
「気候も安定してるし、平気よ。それにゾロが風邪ひくと思う?」
「それもそうだな」
けれど、もっともな科白を続けられ、納得してしまっている。
窓から射し込む西日は、だんだんと明るさを失っていった。
ほの赤く照らされる彼の顔には、議論の対象となっている自覚など見えるはずもなく。
「では、甲板ね?」
静かな寝息をたてている彼に近づきながら、誰にとはなしに聞いた。
「おう、じゃあロビン、よろしくな! ウソップ、チョッパー、枕投げだあ!」
騒ぎながら、この船の年少組が、船長の号令と共にラウンジを飛び出していった。
ラウンジの明かりと西日が、彼の顔に陰影をつける。
私は、視線をいつも私のことを食む彼の唇へと落としながら、彼の身体に手を触れる。
「ロビンちゃん、なぜ、そいつに触るんですかぁ」
「足で運ぼうと思うんだけど、一度、椅子から下ろさなくては…」
叫ぶコックさんに目を向けたら、剣士さんが私の胸に倒れこんできた。
いつも私に触れる熱を帯びた弾力のある唇が、シャツの上から肌に押しつけられる。
「む…」
胸の上で、もぞりと頭を動かす剣士さんが可愛かった。
「寝ていれば何でも許されると思ったら大間違いだ、このエロマリモ!」
コックさんが怒りながら剣士さんの身体を床に引き倒した。なぜ、それでも起きないのかしら。
「ああ、ロビンちゃん、安心してください。この不埒な野郎は、簀巻にして海に捨ててきます」
にかっと笑うコックさんは、口を挟む間もなく、剣士さんの手足を縄で縛りあげていく。
「…そのまま落ちたら、いくら剣士さんでも死ぬと思うわ」
「大丈夫でしょ、ゾロだし」
「ですよねえ?」
紅茶を啜りながら、興味なさげにのたまう航海士さんに、でれっとした顔で微笑むコックさん。
「私に免じて、海へ捨てるのだけは勘弁してあげてくれないかしら?」
「お優しいなあ、ロビンちゃん。それでは、甲板に捨てておきます」
結局、なんだかんだでコックさんが、縛りつけられてもなお眠る男を担ぎ上げた。
「ナミさん、しばしのお別れです」
キスを投げるコックさんに、目もくれず、日誌を書き続ける航海士さん。
つれないナミさんも素敵だあ、と謳いながら、ラウンジを出て行った。
「彼はいつもストレートね。愛情をあれだけ素直に、口に出せるのは一種の特技だわ。羨ましいわね」
「…冗談でしょ? 毎日、あれよ? たまに鬱陶しいわ」
僅かに顔をひそめる彼女は、軽い溜め息をついた。
「愛されてると、いつでも認識できるんじゃない? 嬉しくないの?」
「…ロビンの口から、そんな言葉を聞くとは思わなかったわ」
日誌を閉じると、航海士さんは私に顔を向けて、彼女らしい笑みを浮かべた。
「今夜、見張りでしょ。頑張ってね」
まだ長くはない付き合いなのに、どうやら考えていることを読まれたようだ。
「ありがとう」
くすりと笑い、立ち上がった彼女は手を振って、ラウンジを出ていった。
結局、彼はこの船のクルーに愛されているのだ。
今日の昼、水が足らなくなったと言う航海士さんの命令で、彼が水を汲んでいた。
水汲みあげマシーンとクルーが呼ぶ自転車に似た機械を、延々とこぎ続けていた。
変わりましょうか、と言えば、鍛錬の一環だと断られ、かなりの量の海水をひとりで汲み上げた。
この船にはろ過装置もついているので、蒸留する必要のない生活水には充分に事足りただろう。
飲み水や調理に使う水とするために、蒸留させるのはコックさんの仕事だ。
それでも昼間は鍛錬か寝ているかの剣士さんが、狭い階段下に篭っているのは珍しい。
だからこそ、ゆっくり寝かせてあげようという気遣い。
大声を出しても、多少の痛みでも目の覚めない剣士さんではあるが、アルコールの匂いには敏感だ。
パン種の仕込みには、アルコールの匂いがつきまとう。
勿論、コックさんが彼を見たくないのも、ルフィが彼を邪魔だと言うのも本音ではあるのだろうが。
そういった若い彼らの、素直で、それでいて素直でない心配りが、少し羨ましい。
「ナミさん、ただいま〜って、あれ?」
「航海士さんなら、出て行ったわよ」
「残念。おやすみの挨拶してないのになあ…ロビンちゃんは今日、見張りでしたよね?」
くるくると表情の変わる人だと思う。しょぼんとした次には、明るい笑顔で聞いてくる。
「ええ」
「夜食、作って冷蔵庫に入れておきますね。ふたりぶん。酒も一本か、二本までなら平気。
食べられなかったら残してください。どうせ明日、ルフィが食うから」
「ふたりぶん…ね?」
「ロビンちゃんは、いらなかったですか?」
新しい煙草に火を点けて、笑いかけてくる。悪くない生活。
「普段ちっとも働かねえからサービスするのも癪なんだけど。ロビンちゃんが見張りだから、特別に」
苦笑して、そろそろ仕事に行くわと言うと、寝る前にコーヒー持ってきますよ、と返してくる。
海賊船なのに、他のクルーを思い遣ることのできる仲間たち。
苦痛を感じたことなど一度もない、とてもいい船だ。
温かいコーヒーを舌に滑らす。とても美味しい、濃い目のマンデリンブラック。
“コーヒー豆を半日、水につけておくのが一番旨いんですよ”
いつだったかコックさんが話してくれた。
自分の専門外の知識を楽しんで聞けるようになったのも、そういえばこの船に乗ってからだ。
ひとりひとりの好みを熟知していて、ひとりで飲む時には必ず私好みのコーヒーを淹れてくれる。
“貴女の美しさに見合うものを用意しなければ”
気取ったような、コックさんの言葉を思い出す。
愛を謳うコックさんの言葉は、聞いていて心地よいけれど、それほどの感慨を呼ばない。
私への言葉は本気ではあるだろうが、そこに実の篭った意はないからだろう。
コックさんの普段の言葉は、女を良い気分にさせるためのスパイスだ。
本当に愛した女性とふたりの時には、もっと真摯な、それでいて愛情溢れる言葉を囁くのだろう。
同い年だと聞いたけれど、まったく彼とは正反対の性質の男だ。
剣士さんは、何も言わない。
恐らく恋人同士なら大半の者が言う科白を、なぜ言わなければならないのか、と思っているに違いない。
唇が触れ合う時、身体を重ね合う時に、今まで知らなかった甘やかなものを確かに感じているのに。
件の彼を見下ろしながら、溜め息をついた。よくもまあ、あれだけ寝られるものだ。
彼はどんな夢を見ているのだろう。楽しい夢か、それとも夢の中でも鍛錬しているのか。
私は未だ、過去の夢を見る。忘れたくても忘れられない、忘れるなと言わんばかりに、執拗に。
彼と共に過ごす夜くらい、甘えて忘れることができればいいのだけれど。
そんなことを考えていたら、壁に寄りかかっていた剣士さんの身体が、身じろいで床に転がった。
コックさんは、ふざけて彼の手足を戒めたのだろうが、海に落ちたらどうするのだろうか。
甲板にいるのは剣士さんと私だけ。私は海へ飛び込めない。
とりあえず起こして、戒めを解いておこうか。幸い、海は穏やかだ。
緑色の髪をした剣士に近づいて、肩を揺すった。
それでも起きないのに気をよくして、指先で頬に触れる。
すす、と輪郭をなぞって、次第に掌全体で彼の顔の形を確かめる。
彼がどういう経緯を辿って、この船に乗るに至ったのかを私は知らない。
私も彼もお互いのことは、あまり聞かず、自分のことは話さない。
一緒に航海している剣士さんと、こんな関係になったのはつい最近だ。
まったく信用もしてくれなかった当初は、とりつく島もないほど警戒されていた。
でもいくつか言葉を交わすうちに、冷たい態度とは裏腹に、とても優しい人だと知ってしまった。
いつの間にか、興味を持っていた。
彼が見張りの時に、冗談混じりに迫ったら、少し考え込んで「試しにやるか」などと言い出した。
そして勢いで私たちは、抱き合った。
それ以降、夜に他のクルーたちの目を盗みながら、逢瀬は続いている。
剣士さんは、私の顔が気に入ってるとか、身体の相性がいいとは口に出す。
けれどなかなかそれ以上の言葉は言ってくれない。
セックスだけではなくて、彼自身に好意を持っているのは私だけのように思える時がある。
いつかは、身体と顔だけではない私のこともいいと思ってもらおう。
それを彼の口から聞くまでは、私も何も言わずにいようと考えた。
しかし、ここまで頑として言わないのは、やはり好意など存在しないのかもという疑問が何度も浮かぶ。
平然とした顔で、いつも私を求めてくる彼に、静かに口づけた。
いきなり空気の気配が変わった。彼が起きたのだとわかった。
「ふふ。おはよう、剣士さん」
「お、朝…じゃねえな」
「そうね。夜中だわ」
寝ぼけているような剣士さんは、目を擦ろうとしたのか、ようやっと自分のおかれた状況に気づく。
「あ? 何だ、こりゃ?」
「じっとしててね」
そう言って彼の両足を縛りつける縄を解いていく。なぜ、こんなに頑丈に縛っているのかしら。
「…なぁ」
「なあに?」
「何かの罰ゲームか?」
彼は動じず、怪訝そうに私の顔を覗きこむ。
「いいえ。コックさんの優しい心遣いよ。私が見張りだから、特別サービスですって」
「…お前が頼んだのか?」
「どうかしらね」
「ま、どうでもいいけどな」
本気を出したら、こんな拘束なんて彼にとってはものの数にはならないのだろうけれど。
抵抗もせずに、私が解いてくのをじっと見ている。
足の拘束を取り去ると、動きを確かめるように曲げたり伸ばしたりを繰り返した。
「痺れてない?」
「少しな。だが、これくらいなら問題ない」
後ろ手で器用に上体を起こして、あぐらをかく。
「では、次は手ね。それにしても海賊狩りの名が泣くわよ。いい様ね」
きっ、と睨んでくるので、悪戯心が湧いた。
手の出ない剣士さんのあぐらの上に座りこみ、抱きつくように背中に腕を回した。
縛られている両手に手を添えて、首筋をぺろりと舐める。
「お前…こんな状況で何してんだ?」
「目の前にあったから、つい。ふふ…せっかくだから、楽しませて」
温かな手に別れを告げて、手は胸板に、唇は頬に這わせる。
うっとりとして、広い胸に手を滑らせながら、唇を合わせて、舌を滑り込ませる。
彼とのキスは、すごく気持ちがいい。舌を深く絡めると、体温がどんどん高くなってくる。
「…お前なあ、これ縛ったまんまかよ」
呆れたような声で言ってくるくせに、舌と歯を使って私のシャツを脱がしにかかる。
「たまには、こういうのもいいんじゃないかと思って」
「趣味悪ぃな」
にやりと笑って器用に私の服の前をはだけさせる。
それでも、さすがにその下のブラジャーまでは、口だけでは外せないらしく渋い顔をする。
「てめえで脱げよ」
「難儀なコ…」
そこが可愛いんだけど、と囁くと、心外だというように眉根が寄せられる。
ブラを取って、ぎゅっと抱きしめて、また唇を重ねる。
合わさった胸で、ふたりの心臓が高鳴っているのがわかる。
彼のシャツをそっと脱がすと、キスに夢中になっていた彼がぴくん、と動いた。
露わになった素肌の上で、傷痕を触れるか触れないかの距離で辿る。
「くっ、ロビンッ」
焦って私の胸を頭で押し返そうとする彼の声に、ぞくりとした。
「なあに、剣士さん?」
鋭い眼が、不満そうに細められ、彼の顔が私の肩に埋められる。
鎖骨からするすると舌を下ろして、乳首をくいっと薄い唇で挟まれた。
「んっ」
「…お前の、汗の味がするな」
「え、そんなに汗かいているかしら? 嫌だわ」
「いや、いい味だ」
大げさに舌なめずりまでする姿が可愛くて、こめかみに口づけた。
私の胸で、彼は舌先を遊ばせている。手の戒めは、もう気にならないらしい。
息がかかるだけでも震えてしまいそうなのに、焦れったいだけの緩慢な動き。
直接的な刺激が欲しくて、彼の唇にもどかしい部分を押しつける。
「擦りつけんなよ、素直に言えばいくらでも舐めてやるぜ」
「ん、馬鹿…」
「歯で軽く噛んでほしいか? お前、吸われんのも好きだしな」
欲しい刺激を与えてくれず、言葉で嬲る男に抱きついた。
あなただからいいのに、と真っ直ぐに言えるだけの若さもない。
言葉を探しあぐねていると、耳朶を食んでくるので、身体を離して私たちは見つめあった。
すると、剣士さんはじっと動かずに、私のリアクションを待っている。
彼は特に整った顔というわけではない。不器量ではないけれど。
いつも顰められている眉と、笑うときには片側だけを歪める唇。
全体的には精悍な男前といったところかしら。
短く刈り込まれた深緑の髪に、左耳の三連ピアスが、不釣合いなようで、ひどく似合っている。
そして彼の何に惹かれるかというと、眼だ。
鋭い光を湛える、濃い茶緑色の眼には、何か特別性の磁力でも備わっているようだ。
視線が合えば、外すことなどできず、見つめられれば身体が熱くなってしまう。
「おい、続けねえのか?」
溜め息交じりの催促だった。
拘束を解かない私と、解けと言わないあなた、ずるいのはどちらかしら?
やはり欲しがっているのは私だけなのだと、突きつけられているように感じて。
意地の悪い顔で見上げる男を、つい軽く睨んでしまう。
すっと指先で彼の頬をくすぐるように触れると、剣士さんの眼が官能を湛えて細まる。
二度、三度と誘うように優しく撫でて、彼のほうからせがんでくるのを待つ。
「おい、お前から誘ってきたんだろ。早くしろよ」
それでも、にやりとした笑みを浮かべながら言う彼の身体を再び抱きしめた。
首筋を今度はじっくりと舐め上げ、彼の胸に顔を埋める。
「素直にしていれば可愛いのに…剣士さんの汗もいい味ね」
「どこがだ…」
抱きついた胸板からは、少しだけ日向の匂いがした。
嗅いだだけで、私はぞくりと背筋を震わせてしまう。
彼の手は解いてやらない。彼が見ている目の前で、自分から一糸纏わぬ姿になった。
露わになった素肌のあちこちに彼の視線が這う。
あぐらをかく彼の前に立ち、秘処を開いて見せつける。
「…ねえ、もっと味見して?」
彼の上体が傾いて、遠慮なくむしゃぶりつかれた。
ねっとりとした舌の感触が私を狂わそうとする。
常ならば、刀を支える強靭な顎の筋肉が、私を乱れさせるためだけに可動する。
「ああっ…上手よ、剣士さっ…素敵…んっ」
「お前、本当に感じやすいのな」
余裕たっぷりに、愛撫の間にも平気でからかいの言葉をかける男。
食むように上下する唇と、舐りつくすような舌に、身体をくねらせる。
いつも私が冷静でいられなくなるパターン。もっと彼を惑わせたい。
子供が飴を舐っているように私を味わう剣士さんの頭を離して、そろそろとしゃがみこんだ。
彼の腹巻をすぽんと抜いて、ズボンのジッパーに手をかける。
半勃ちになっていた彼のものに、口づけた。
「私を舐めただけで、こんなに勃たせてるなんて、いけないコ」
「…っ」
ぴん、と軽く指で弾くと、彼は小さく呻いて、仰け反った。
くちゅ、と卑らしい音をさせながら、昂った陰茎を両手で握る。
先端で溢れている雫を全体にまぶすように指を動かす。
優しく触れるだけの動きをすると、焦れたように彼が腰を揺らした。
「剣士さん…腰、動いてるわよ?」
「あ? 嘘つくなよ」
「強情ね。イきたいなら、イってもいいから」
高まりきったものを口中へ運び入れ、深く咥えると、彼の顔が蕩けるように歪められた。
熱い彼のものを口内へ迎え入れただけで、跳ねる様子が愛しい。
雫が溢れて、ぬめる彼の陰茎に私の舌を絡ませる。
「うっ」
カリ首の周りを弄くる舌の動きと、扱く両手の動きで陰茎がどんどん膨らんでくる。
その刺激に身体を震わせる彼に欲望の芽が生えてくる。
唇を外して彼に顔を向け、にこりと笑みを浮かべた。
陶然としていた彼の表情が、目が合った途端に挑むようなものに変わる。
それがおかしくて、いとおしそうに陰茎に頬ずりし、亀頭の裏側に舌を這わせた。
くぐもった声を鼻から漏らす彼の顔を見上げて、舌の動きを速める。
髪が落ちてくるのをかき上げて、頬を窄めながらしゃぶり続けると、欲情のうねりが高まってくるのがわかる。
「だ…めだっ」
突然びくっと陰茎が脈打ち震え、鈴口から精液が迸り、口中にどろりとした精液が流れ込んだ。
はぁと息を整えている剣士さんのべっとりとした精液を飲み下す。
「まだ、平気よね?」
舐めあげれば問題ないというように、ぴくんと震えて再び首をもたげる。
咥え直すと、口の中でぐぐっと大きくなるので、あやすように舐め回した。
「おい…俺も続き、舐めてやるから、尻、こっちに向けろよ」
気持ちよさそうな声で、そう言って後ろ向きに倒れる彼。
「一緒に? 腕、痛くない?」
「ん…」
咥えたまま喋ると、呻くような返事。彼の顔を跨いで、温む秘処を眼前に晒した。
「お前の、もの欲しそうだな。赤くなってひくひくしてるぜ」
「それを見た途端に、はち切れそうになっているのは、どこのどなた?」
意地悪しか言わない口より、よほど正直な欲を零す鈴口に舌を押しつける。
震えるような吐息が、私の脚の間の湿地にかかった。
少ししか身体に触られていないのに、充分なほど潤っている。
「…手、使えねえんだ。もっと腰落とせよ、届かねえだろ」
彼だけを気持ちよくさせようと思ったのに。
言うとおりに腰を落としていくと、彼の舌が中に潜りこんできた。
「やっ…」
くちゅりと粘質の音が響く。蕩けている中をかき回されて、散々に舐められる。
くちくちと音をたてて、かき回されると、蕩けるようにあわいから蜜が零れ落ちてくるのがわかる。
「あっ…」
官能を湛えた小さな溜め息が漏れ出る。
「卑らしい身体だよな、お前。俺の舌締めつけて、奥へ引きずりこもうとするんだ、知ってたか?」
「んっ、そんなの…知らないっ…」
嘘、知っている。きっと私の肉襞は彼を誘うようにひくりと動いているだろう。
おかしくなりそうなほど感じているのは、私だけなんだろうか。
すべてを曝け出しているのは、私だけなんだろうか。
私がもの欲しそうだと言うのなら、こんな身体にさせたのはあなたなのに。
ぷくりと勃ち上がる小さな突起を舌先で、ついと軽く舐め上げられた。
「ひんっ! ふっ…剣士さぁ…」
小刻みに舌を振動させられて、それに呼応するように身体が跳ね上がってしまう。
電流のように走る快感が、四肢から力を奪っていく。
「やぁ…ん…あ、いい…っ」
肉芽を吸い上げられ、口に含まれ、舌で嬲られると、太腿で彼の頭を締めつけるしかできなくなる。
「あっ…も…んんっ」
「お前が咥えてるのを、挿れてほしくてたまらねえんだろ?」
舌で開いてる場所をさらに濡らして開かせられる。
快感で咥えることもできなくなっているのに。悔しいから、ぎゅっと目の前の欲望を握りしめた。
手を縛られているから、舌だけで攻められているのに、なぜ劣勢になるのだろう。
「おまっ…おい、ちょっとこっち向けよ」
剣士さんの顔を跨いでいた脚を外すと、彼は起き上がって、私と向き合う。
睨むように視線を投げかけると、にっと微笑を浮かべる。
「来いよ」
その声で言われたら逆らうことができなくなる。
あぐらの上にそのまま跨って、ぴったりと胸を合わせて彼を感じる。
とても嬉しそうに、私の髪に口づけてくる。
「お前、その顔で俺を煽ってるだろ?」
口を開く間もなく、唇を塞がれて、宥めるように何度も柔らかくキスされる。
こういう時だけは優しい彼。愛されているようだと勘違いしてしまう。
いっそのこと痛くしてくれれば、まだ抱かれている確かな実感を得られるのだろうか。
「んんっ…」
徐々に深くなるキスに、また身体が熱くなる。ふたりの間で反り返った彼のものがぴくりと動く。
「硬いのね…あなただって、挿れたいんでしょ? 人にばかり言わせていては駄目よ」
「はっ」
「言えないの? 私は挿れてほしくてうずうずしてるわ。でも、何もしなくてもいいかしら?」
じろっと睨まれた後に、頬に何回もキスされる。
「ロビン…お前の好きにしろ」
また、いつもの声でごまかされてしまう。頑として言わないのは、何か信念でもあるのだろうか。
わざとらしく溜め息をついて、騙されることにした。
「ね、このまま挿れていい?」
「いいぜ。早くしろよ」
落ち着いた声を出す彼の熱く滾ったものを掴んで、私の濡れている場所へ誘導する。
「あ、ふっ…」
少しずつ沈めていくと、彼の頬にも微かに赤みが差してくる。
その興奮したような表情だけを後押しに、私は徐々に体重を落としていく。
「お前の中、熱いな…いい」
笑いかけてくるから、ぎゅっと抱きついた。思考が徐々に痺れていく。
彼が少しでも私と抱き合いたいと思っているのなら、もうそれでいいのかもしれない。
「ああっ」
下からずくっと腰を入れられて、さらに結合が深くなった。
私の中は、熱い剣士さんで一杯に埋まっている。
「お前も気持ちいいか?」
「あ、うん…んっ」
“お前も”? 自分に都合のいい幻聴かしら。
ゆっくりと下から突き上げを始められ、揺らされるたびに強い刺激を感じる。
「あ、あっ、そこっ…」
「ここ、いいだろ?」
「ん、ああっ」
容赦なく弱みを抉ってくる彼に、私は恥ずかしい声を出しながら、彼自身を締めつける。
勝手に腰が動いてしまう。しゃくるように、前後に。
私の中で剣士さんが、あちこちに擦れて、気持ちよくてしかたない。
ふたりが繋がっているところから卑らしい音が聞こえる。
「ねえ…剣士さん…見て…」
太い首に絡ませていた手を外して床につき、上体を後ろにゆっくりと倒していく。
結合部分を、見せつけるようにゆっくりと抽挿する。
「あなたと私…こんなふうに繋がってる…全部入ってるのよ…」
「よく呑み込めるよな」
かなり思い切って恥ずかしい行動に出たのに、動じてくれない。
そのままの姿勢で、身体をくねらせれば、ぴくんと動く彼に感じてしまう。
「んっ…あん…すごく…気持ちいいっ」
中でどくどくと脈打つ剣士さんを、思いきり締めつける。
「…すげ…きついぞ、お前」
ゆっくりと奥まで腰を落とすと、彼の顔が苦しそうに歪む。
ぐいっと何回も深い場所を抉るように動かすと、涙が出そうになる。
「くそっ…その顔で煽んな、イきそうだ…」
「まだ駄目よ」
達することは許してあげない。震える彼の根元を、咲かせた手で強く握って射精を止める。
「…っ!」
「まだ…私がイって…ないでしょ? 一緒じゃないと嫌…」
手が使えないあなたには酷かもしれないけれど、我侭を今日だけ許して。
眼を瞠り、苦しそうな声を漏らす彼に申し訳ないと思いつつも、腰を振って悦を求めてしまう。
「もうちょっと我慢してぇ…」
抱きついて密着しながら揺れる。彼の胸板を、こするように乳房を往復させる。
その感覚に追い詰められ、頭の中が快感で支配される。
こんなにも私から求めてしまうなんて、昔の私からは考えられない。
ボキャブラリーが欠けていく。言葉にならない音だけが漏れ出てきて、名前も呼べない。
「んっ…んっ…ん」
辛そうに顔をしかめる彼の上で踊りながら、私も崩れ落ちるように上りつめていく。
抱きしめる手に力を入れて、繋がっているところを軸にめちゃくちゃに揺さぶる。
「あああっ!」
「くっ」
絶頂が訪れる。彼の欲望も一緒に解放させる。
天を見上げたままの姿勢で身体が硬直する彼とその身に身体を預ける私。
精を送り出す器官と、それを受け止める器官だけが、意思を持っているように蠢く。
その快感を、その心地よさを失いたくなかった。
ずっとこのまま繋がっていたかった。
「ロビン?」
「うん、ごめんなさい」
身体中の力が抜けてしまって、動くのが億劫になる。やはり、離れがたい。
のろのろと彼の分身を抜き取ると、離れた私を追うように彼の唇が触れてきた。
優しいキスに、頭がふわふわとする。事後に寂しさを感じなくなったのも彼のおかげだ。
「手、外すわね」
彼の後ろに回り、手の縄を解いていく。ずっと縛って無理な動きをさせたから、赤くなっている。
痛々しくて、悲しくなった。馬鹿なことを思わずに、外していればよかった。
「ごめんなさい、痛かったわよね」
いつも私のことを支えてくれる腕をそっと撫でる。
この人に出会えたことが、奇跡とさえ思えてしまう。
彼の拘束をすべて解くと、向き合って抱きしめてくれた。そして、キス。
「別に謝らなくていい。それより、初めてお前の本音が聞けたようで…その、嬉しかった」
顔を見上げる前に、強く抱かれる。
「お前、いっつも淡々としてるからよ、抱きてえのは俺だけなのかと」
信じられない言葉を囁かれている気がする。夢を見ているのかもしれない。
「剣士さんも、不安だったの?」
「ん、ああ…お前もか? いつでも、仕掛けんのは俺からだったじゃねえか」
真っ向から顔を見据えられて、真剣な眼差しに責められた。
どうせ、逃げ場はないのだ。言いたいことを、この際言ってしまおう。
「最初に誘ったのは私だったから。あなたはいつも余裕そうだったし、何も言ってくれなかったわ」
眼を逸らそうとする彼の顔を固定する。あなたも逃がしてあげない。
「私自身に好意を持ってはいないのかと、不安だったわ」
「そんなの、わかるだろうが」
「わからないわよ。コックさんは、毎日好きだと言ってくれるしね」
「コックみてえに、ふざけて言えってのか?」
「別にふざけてなんて言ってないでしょ。彼は彼で結構本気よ?」
「だったら、これからもコックに言ってもらえばいいだろうが」
「好きな人に言われなきゃ、意味ないでしょう? あなたじゃなきゃ駄目なの」
子供みたいに言い合っていたら、私がそう言った瞬間に、彼が固まった。
口をぽかんと開いて、心なしか頬が赤い。
その薄い唇を見つめていたら、キスの感触を思い出す。
身体の奥のほうに、小さな火が灯ったように感じた。
そっと口づけて、もう一度確かな言葉で告げる。
「あなたが、好きよ」
再び唇を押しつける。温かくて、その温かさが恐い。離して、また彼を見る。
しばらくぼうっとしていて、ようやく頷きながら口を開いた。
「俺も、好きだよ…畜生、二度と言わねえぞ」
「あら残念。最初で、最後なの?」
抱きついて、せがんでみる。
照れくさげに眼を細めた彼の表情は、初めて見るので、どきどきして俯きたくなった。
「だから、わかるだろ。わかれよ」
「言ってくれなければわからないわ」
「ゆっくり話してりゃ、その隙に拒まれるかもしれねえだろ」
「拒まないわよ。そんなのわかるでしょう?」
「言われなけりゃわからねえよ」
ぎこちなく笑い合った。いつも通りではない、温かい雰囲気が流れている。
「私たち、言葉が少なすぎるのね」
「性に合わねえんだ…まあ、だが…これからは努力してみる」
ぼそぼそと呟く彼に、落ち着かない奇妙な空気。これを幸せというのだろうか。
慣れていないからわからない。それでも。
「嬉しいわ」
ふたりで過ごす夜を、これからは怖れない。誰よりも愛しい人と過ごす夜。
「お腹空かない? 夜食があるそうよ、お酒も。あなたのぶんもコックさんが作ってくれたわ」
「あ? なんで俺のぶんまであるんだ」
「コックさんが優しいからよ。あなた、果報者だわ」
衝動的になってしまった今夜の私を、コックさんは端から予想していたのだろうか。
私は、自分の言動すらも予測できないというのに。
「他の男、褒めんな」
ラウンジへ行こうと立ち上がると、後ろから抱きすくめられ、耳元で囁かれた。
ああ、一番予測不可能なのはこの男だ。でも、それは甘い混沌。
しばらく無言で抱き合いながら、広がる夜空の下で、ふたりの時間を楽しんだ。
次の日も、海は穏やかで、空は晴れ渡っていた。気持ちのいい風が吹く。
ふと、その風に乗ってきた香りを辿って、煙草をくゆらせる男に話しかけた。
「お夜食、美味しかったわ。ありがとう、コックさん」
「気に入って頂けたなら何よりですよ、レディ? 昨日の夜より良い笑顔ですね、ロビンちゃん」
にっと煙草を咥えながら笑うコックさんが、私の顔を覗き込む。
「あなたのおかげかしら。ありがとう」
「魔獣にゃ勿体ねえ、女神の笑顔さ。それが見られるだけ、俺は幸せですよ」
ふいに肩に私より高い体温が触れる。振り返れば彼が居た。
背中に彼の感触。肩を抱かれていると感じ、鼓動が速くなる。
「昨日、見張りで寝てねえんだ。こいつ、休ませるぞ」
そのままコックさんとは反対方向へ引きずられるように歩かされる。
どうしたんだろう、彼は。
「おいおい、乱暴だな。レディはもっと優しく扱え。愛しい女性なら尚更だ」
投げかけるコックさんの声と顔は優しい。というより困った子供をあやすような口ぶりだ。
「剣士さん?」
「そんな顔、他の奴に見せるな。特にあのエロコックには」
真剣に言うので、噴き出しそうになった。見れば耳が赤い。
「可愛い」
「馬鹿にしてんじゃねえよ。いいから、後甲板ででも寝てろ。昼寝も悪くねえ」
これが、きっと彼の言う努力なのだろう。
素直に従って、甲板へと歩みを進めていると、航海士さんに会った。
「ああ…やっと認識できた?」
「知ってたの?」
「サンジ君に向ける敵意で気づきそうなもんだけどね。ロビン、あんた鈍くて幸せ者だわ」
航海士さんは、眼を細め、風を受けて、空を仰いだ。
「今日は順調だから寝てていいわよ。今日だけね。荒れたら、叩き起こすけど」
じゃあ、ごゆっくり、とくすくす笑って手を振った。
後甲板へ着くと、眉をしかめて彼は聞いてきた。
「何の話だ?」
「あなたに愛されてるという認識。コックさんと航海士さんは、とうに気づいていたみたい」
「はっ。だから、お前は鈍いんだ」
「あなたもね」
言い返そうとする彼の口を手で塞いで、そのままの気持ちを告げる。
「でも幸せ者だわ」
ぴん、っと額を軽く弾かれる。そのまま壁にもたれて座り込んだ彼は腕を広げる。
向き合ってしゃがみこむと、逆を向かされ、後ろから大きな腕に包まれる。
「俺も寝る」
こんな体勢で耳元で囁かれ、寝られるわけがないのに。
それでも背中から伝わる鼓動は、私と同じくらいに速い。それに気づけてよかった。
何分も経たないうちに、規則的な寝息が聞こえてきた。
昼寝なんてしたことがないからできないだけなのかしら。目を瞑れば、眠れるだろうか。
温かい体温と、気持ちのいい風に包まれて、目を閉じれば眠気が襲ってきた。
しばらくすれば陽は高くなり、陽射しが眠気を遮るだろう。
それとも、その前に気の利く長鼻君あたりが、パラソルでもかざしてくれるだろうか。
他のクルーはこの光景を見て、どう思うのだろう。
その表情が見られないことが残念だと、そう思うくらいに眠くなってきた。
毎日ではないけれど、たまにはこういう日があってもいいだろう。
楽しい生活と、大好きな人に包まれている幸せ。夢見もいいに違いない。
ああ、なんだか、とても眠いわ。
いつもは彼ひとりが寝ている甲板で、ふたりで同じ夢を見る。
心地のいい長い夢。
━終━
退屈な夜の見張り番。他のクルーは、船内で就寝中だろう。
それでも例外が私以外にただひとり。
今日も今日とて、船尾で寝る彼は、夢から覚めることがないまま、いまだに寝続けている。
彼の両揃えの足と、背中でやはり両揃えにされた手は、緊縛されている。
寝ている彼自身はそれを知らない。
ちょっとした、おふざけの緊縛ではあるのだけれど。
「まったく…このサボテンは、呼吸と光合成と寝ることしかしないな」
夕飯の後、すぐに眠る剣士さんに向かって、コックさんが呆れたように呟いた。
「俺は明日のパン種の仕込みをしたいのに、この緑が視界に入ると、どうもやる気が出ない」
キッチンに立ったら隠れている片目からは見えないのではないだろうか。
しかし、コックさんが頬を歪めて笑いながら言う訳は、そういうことではないのだろう。
苦笑して、お伺いをたてた。
「…彼を、どこへ運べばいいのかしら、コックさん?」
「ああ、ロビンちゃんの御手を煩わすことはできません! 労働はウソップに任せればいいんです!」
「おい!」
冗談とも本気ともつかない彼の言葉に、横にいた長鼻くんがびしっと突っ込んだ。
「構わないわよ。空島でも運んだことがあったし…男部屋でいいのかしら?」
「えー、男部屋で今からウソップたちと枕投げするんだよ、ゾロ邪魔」
船長であるルフィはずばっと、酷いことを言う。どう反応すればいいのかしら。
「いいんじゃない。まだ皆が寝るには早いでしょ。甲板にでも転がしとけば?」
「おお、ナミさん! なんと素晴らしき提案!」
手を叩いて、ルフィに次いで酷いことを言う航海士さんを絶賛するコックさん。
「風邪ひくかもしれないじゃないか」
眠りから覚めることのない剣士さんを気遣うのは、小さな船医さんだけだった。
「気候も安定してるし、平気よ。それにゾロが風邪ひくと思う?」
「それもそうだな」
けれど、もっともな科白を続けられ、納得してしまっている。
窓から射し込む西日は、だんだんと明るさを失っていった。
ほの赤く照らされる彼の顔には、議論の対象となっている自覚など見えるはずもなく。
「では、甲板ね?」
静かな寝息をたてている彼に近づきながら、誰にとはなしに聞いた。
「おう、じゃあロビン、よろしくな! ウソップ、チョッパー、枕投げだあ!」
騒ぎながら、この船の年少組が、船長の号令と共にラウンジを飛び出していった。
ラウンジの明かりと西日が、彼の顔に陰影をつける。
私は、視線をいつも私のことを食む彼の唇へと落としながら、彼の身体に手を触れる。
「ロビンちゃん、なぜ、そいつに触るんですかぁ」
「足で運ぼうと思うんだけど、一度、椅子から下ろさなくては…」
叫ぶコックさんに目を向けたら、剣士さんが私の胸に倒れこんできた。
いつも私に触れる熱を帯びた弾力のある唇が、シャツの上から肌に押しつけられる。
「む…」
胸の上で、もぞりと頭を動かす剣士さんが可愛かった。
「寝ていれば何でも許されると思ったら大間違いだ、このエロマリモ!」
コックさんが怒りながら剣士さんの身体を床に引き倒した。なぜ、それでも起きないのかしら。
「ああ、ロビンちゃん、安心してください。この不埒な野郎は、簀巻にして海に捨ててきます」
にかっと笑うコックさんは、口を挟む間もなく、剣士さんの手足を縄で縛りあげていく。
「…そのまま落ちたら、いくら剣士さんでも死ぬと思うわ」
「大丈夫でしょ、ゾロだし」
「ですよねえ?」
紅茶を啜りながら、興味なさげにのたまう航海士さんに、でれっとした顔で微笑むコックさん。
「私に免じて、海へ捨てるのだけは勘弁してあげてくれないかしら?」
「お優しいなあ、ロビンちゃん。それでは、甲板に捨てておきます」
結局、なんだかんだでコックさんが、縛りつけられてもなお眠る男を担ぎ上げた。
「ナミさん、しばしのお別れです」
キスを投げるコックさんに、目もくれず、日誌を書き続ける航海士さん。
つれないナミさんも素敵だあ、と謳いながら、ラウンジを出て行った。
「彼はいつもストレートね。愛情をあれだけ素直に、口に出せるのは一種の特技だわ。羨ましいわね」
「…冗談でしょ? 毎日、あれよ? たまに鬱陶しいわ」
僅かに顔をひそめる彼女は、軽い溜め息をついた。
「愛されてると、いつでも認識できるんじゃない? 嬉しくないの?」
「…ロビンの口から、そんな言葉を聞くとは思わなかったわ」
日誌を閉じると、航海士さんは私に顔を向けて、彼女らしい笑みを浮かべた。
「今夜、見張りでしょ。頑張ってね」
まだ長くはない付き合いなのに、どうやら考えていることを読まれたようだ。
「ありがとう」
くすりと笑い、立ち上がった彼女は手を振って、ラウンジを出ていった。
結局、彼はこの船のクルーに愛されているのだ。
今日の昼、水が足らなくなったと言う航海士さんの命令で、彼が水を汲んでいた。
水汲みあげマシーンとクルーが呼ぶ自転車に似た機械を、延々とこぎ続けていた。
変わりましょうか、と言えば、鍛錬の一環だと断られ、かなりの量の海水をひとりで汲み上げた。
この船にはろ過装置もついているので、蒸留する必要のない生活水には充分に事足りただろう。
飲み水や調理に使う水とするために、蒸留させるのはコックさんの仕事だ。
それでも昼間は鍛錬か寝ているかの剣士さんが、狭い階段下に篭っているのは珍しい。
だからこそ、ゆっくり寝かせてあげようという気遣い。
大声を出しても、多少の痛みでも目の覚めない剣士さんではあるが、アルコールの匂いには敏感だ。
パン種の仕込みには、アルコールの匂いがつきまとう。
勿論、コックさんが彼を見たくないのも、ルフィが彼を邪魔だと言うのも本音ではあるのだろうが。
そういった若い彼らの、素直で、それでいて素直でない心配りが、少し羨ましい。
「ナミさん、ただいま〜って、あれ?」
「航海士さんなら、出て行ったわよ」
「残念。おやすみの挨拶してないのになあ…ロビンちゃんは今日、見張りでしたよね?」
くるくると表情の変わる人だと思う。しょぼんとした次には、明るい笑顔で聞いてくる。
「ええ」
「夜食、作って冷蔵庫に入れておきますね。ふたりぶん。酒も一本か、二本までなら平気。
食べられなかったら残してください。どうせ明日、ルフィが食うから」
「ふたりぶん…ね?」
「ロビンちゃんは、いらなかったですか?」
新しい煙草に火を点けて、笑いかけてくる。悪くない生活。
「普段ちっとも働かねえからサービスするのも癪なんだけど。ロビンちゃんが見張りだから、特別に」
苦笑して、そろそろ仕事に行くわと言うと、寝る前にコーヒー持ってきますよ、と返してくる。
海賊船なのに、他のクルーを思い遣ることのできる仲間たち。
苦痛を感じたことなど一度もない、とてもいい船だ。
温かいコーヒーを舌に滑らす。とても美味しい、濃い目のマンデリンブラック。
“コーヒー豆を半日、水につけておくのが一番旨いんですよ”
いつだったかコックさんが話してくれた。
自分の専門外の知識を楽しんで聞けるようになったのも、そういえばこの船に乗ってからだ。
ひとりひとりの好みを熟知していて、ひとりで飲む時には必ず私好みのコーヒーを淹れてくれる。
“貴女の美しさに見合うものを用意しなければ”
気取ったような、コックさんの言葉を思い出す。
愛を謳うコックさんの言葉は、聞いていて心地よいけれど、それほどの感慨を呼ばない。
私への言葉は本気ではあるだろうが、そこに実の篭った意はないからだろう。
コックさんの普段の言葉は、女を良い気分にさせるためのスパイスだ。
本当に愛した女性とふたりの時には、もっと真摯な、それでいて愛情溢れる言葉を囁くのだろう。
同い年だと聞いたけれど、まったく彼とは正反対の性質の男だ。
剣士さんは、何も言わない。
恐らく恋人同士なら大半の者が言う科白を、なぜ言わなければならないのか、と思っているに違いない。
唇が触れ合う時、身体を重ね合う時に、今まで知らなかった甘やかなものを確かに感じているのに。
件の彼を見下ろしながら、溜め息をついた。よくもまあ、あれだけ寝られるものだ。
彼はどんな夢を見ているのだろう。楽しい夢か、それとも夢の中でも鍛錬しているのか。
私は未だ、過去の夢を見る。忘れたくても忘れられない、忘れるなと言わんばかりに、執拗に。
彼と共に過ごす夜くらい、甘えて忘れることができればいいのだけれど。
そんなことを考えていたら、壁に寄りかかっていた剣士さんの身体が、身じろいで床に転がった。
コックさんは、ふざけて彼の手足を戒めたのだろうが、海に落ちたらどうするのだろうか。
甲板にいるのは剣士さんと私だけ。私は海へ飛び込めない。
とりあえず起こして、戒めを解いておこうか。幸い、海は穏やかだ。
緑色の髪をした剣士に近づいて、肩を揺すった。
それでも起きないのに気をよくして、指先で頬に触れる。
すす、と輪郭をなぞって、次第に掌全体で彼の顔の形を確かめる。
彼がどういう経緯を辿って、この船に乗るに至ったのかを私は知らない。
私も彼もお互いのことは、あまり聞かず、自分のことは話さない。
一緒に航海している剣士さんと、こんな関係になったのはつい最近だ。
まったく信用もしてくれなかった当初は、とりつく島もないほど警戒されていた。
でもいくつか言葉を交わすうちに、冷たい態度とは裏腹に、とても優しい人だと知ってしまった。
いつの間にか、興味を持っていた。
彼が見張りの時に、冗談混じりに迫ったら、少し考え込んで「試しにやるか」などと言い出した。
そして勢いで私たちは、抱き合った。
それ以降、夜に他のクルーたちの目を盗みながら、逢瀬は続いている。
剣士さんは、私の顔が気に入ってるとか、身体の相性がいいとは口に出す。
けれどなかなかそれ以上の言葉は言ってくれない。
セックスだけではなくて、彼自身に好意を持っているのは私だけのように思える時がある。
いつかは、身体と顔だけではない私のこともいいと思ってもらおう。
それを彼の口から聞くまでは、私も何も言わずにいようと考えた。
しかし、ここまで頑として言わないのは、やはり好意など存在しないのかもという疑問が何度も浮かぶ。
平然とした顔で、いつも私を求めてくる彼に、静かに口づけた。
いきなり空気の気配が変わった。彼が起きたのだとわかった。
「ふふ。おはよう、剣士さん」
「お、朝…じゃねえな」
「そうね。夜中だわ」
寝ぼけているような剣士さんは、目を擦ろうとしたのか、ようやっと自分のおかれた状況に気づく。
「あ? 何だ、こりゃ?」
「じっとしててね」
そう言って彼の両足を縛りつける縄を解いていく。なぜ、こんなに頑丈に縛っているのかしら。
「…なぁ」
「なあに?」
「何かの罰ゲームか?」
彼は動じず、怪訝そうに私の顔を覗きこむ。
「いいえ。コックさんの優しい心遣いよ。私が見張りだから、特別サービスですって」
「…お前が頼んだのか?」
「どうかしらね」
「ま、どうでもいいけどな」
本気を出したら、こんな拘束なんて彼にとってはものの数にはならないのだろうけれど。
抵抗もせずに、私が解いてくのをじっと見ている。
足の拘束を取り去ると、動きを確かめるように曲げたり伸ばしたりを繰り返した。
「痺れてない?」
「少しな。だが、これくらいなら問題ない」
後ろ手で器用に上体を起こして、あぐらをかく。
「では、次は手ね。それにしても海賊狩りの名が泣くわよ。いい様ね」
きっ、と睨んでくるので、悪戯心が湧いた。
手の出ない剣士さんのあぐらの上に座りこみ、抱きつくように背中に腕を回した。
縛られている両手に手を添えて、首筋をぺろりと舐める。
「お前…こんな状況で何してんだ?」
「目の前にあったから、つい。ふふ…せっかくだから、楽しませて」
温かな手に別れを告げて、手は胸板に、唇は頬に這わせる。
うっとりとして、広い胸に手を滑らせながら、唇を合わせて、舌を滑り込ませる。
彼とのキスは、すごく気持ちがいい。舌を深く絡めると、体温がどんどん高くなってくる。
「…お前なあ、これ縛ったまんまかよ」
呆れたような声で言ってくるくせに、舌と歯を使って私のシャツを脱がしにかかる。
「たまには、こういうのもいいんじゃないかと思って」
「趣味悪ぃな」
にやりと笑って器用に私の服の前をはだけさせる。
それでも、さすがにその下のブラジャーまでは、口だけでは外せないらしく渋い顔をする。
「てめえで脱げよ」
「難儀なコ…」
そこが可愛いんだけど、と囁くと、心外だというように眉根が寄せられる。
ブラを取って、ぎゅっと抱きしめて、また唇を重ねる。
合わさった胸で、ふたりの心臓が高鳴っているのがわかる。
彼のシャツをそっと脱がすと、キスに夢中になっていた彼がぴくん、と動いた。
露わになった素肌の上で、傷痕を触れるか触れないかの距離で辿る。
「くっ、ロビンッ」
焦って私の胸を頭で押し返そうとする彼の声に、ぞくりとした。
「なあに、剣士さん?」
鋭い眼が、不満そうに細められ、彼の顔が私の肩に埋められる。
鎖骨からするすると舌を下ろして、乳首をくいっと薄い唇で挟まれた。
「んっ」
「…お前の、汗の味がするな」
「え、そんなに汗かいているかしら? 嫌だわ」
「いや、いい味だ」
大げさに舌なめずりまでする姿が可愛くて、こめかみに口づけた。
私の胸で、彼は舌先を遊ばせている。手の戒めは、もう気にならないらしい。
息がかかるだけでも震えてしまいそうなのに、焦れったいだけの緩慢な動き。
直接的な刺激が欲しくて、彼の唇にもどかしい部分を押しつける。
「擦りつけんなよ、素直に言えばいくらでも舐めてやるぜ」
「ん、馬鹿…」
「歯で軽く噛んでほしいか? お前、吸われんのも好きだしな」
欲しい刺激を与えてくれず、言葉で嬲る男に抱きついた。
あなただからいいのに、と真っ直ぐに言えるだけの若さもない。
言葉を探しあぐねていると、耳朶を食んでくるので、身体を離して私たちは見つめあった。
すると、剣士さんはじっと動かずに、私のリアクションを待っている。
彼は特に整った顔というわけではない。不器量ではないけれど。
いつも顰められている眉と、笑うときには片側だけを歪める唇。
全体的には精悍な男前といったところかしら。
短く刈り込まれた深緑の髪に、左耳の三連ピアスが、不釣合いなようで、ひどく似合っている。
そして彼の何に惹かれるかというと、眼だ。
鋭い光を湛える、濃い茶緑色の眼には、何か特別性の磁力でも備わっているようだ。
視線が合えば、外すことなどできず、見つめられれば身体が熱くなってしまう。
「おい、続けねえのか?」
溜め息交じりの催促だった。
拘束を解かない私と、解けと言わないあなた、ずるいのはどちらかしら?
やはり欲しがっているのは私だけなのだと、突きつけられているように感じて。
意地の悪い顔で見上げる男を、つい軽く睨んでしまう。
すっと指先で彼の頬をくすぐるように触れると、剣士さんの眼が官能を湛えて細まる。
二度、三度と誘うように優しく撫でて、彼のほうからせがんでくるのを待つ。
「おい、お前から誘ってきたんだろ。早くしろよ」
それでも、にやりとした笑みを浮かべながら言う彼の身体を再び抱きしめた。
首筋を今度はじっくりと舐め上げ、彼の胸に顔を埋める。
「素直にしていれば可愛いのに…剣士さんの汗もいい味ね」
「どこがだ…」
抱きついた胸板からは、少しだけ日向の匂いがした。
嗅いだだけで、私はぞくりと背筋を震わせてしまう。
彼の手は解いてやらない。彼が見ている目の前で、自分から一糸纏わぬ姿になった。
露わになった素肌のあちこちに彼の視線が這う。
あぐらをかく彼の前に立ち、秘処を開いて見せつける。
「…ねえ、もっと味見して?」
彼の上体が傾いて、遠慮なくむしゃぶりつかれた。
ねっとりとした舌の感触が私を狂わそうとする。
常ならば、刀を支える強靭な顎の筋肉が、私を乱れさせるためだけに可動する。
「ああっ…上手よ、剣士さっ…素敵…んっ」
「お前、本当に感じやすいのな」
余裕たっぷりに、愛撫の間にも平気でからかいの言葉をかける男。
食むように上下する唇と、舐りつくすような舌に、身体をくねらせる。
いつも私が冷静でいられなくなるパターン。もっと彼を惑わせたい。
子供が飴を舐っているように私を味わう剣士さんの頭を離して、そろそろとしゃがみこんだ。
彼の腹巻をすぽんと抜いて、ズボンのジッパーに手をかける。
半勃ちになっていた彼のものに、口づけた。
「私を舐めただけで、こんなに勃たせてるなんて、いけないコ」
「…っ」
ぴん、と軽く指で弾くと、彼は小さく呻いて、仰け反った。
くちゅ、と卑らしい音をさせながら、昂った陰茎を両手で握る。
先端で溢れている雫を全体にまぶすように指を動かす。
優しく触れるだけの動きをすると、焦れたように彼が腰を揺らした。
「剣士さん…腰、動いてるわよ?」
「あ? 嘘つくなよ」
「強情ね。イきたいなら、イってもいいから」
高まりきったものを口中へ運び入れ、深く咥えると、彼の顔が蕩けるように歪められた。
熱い彼のものを口内へ迎え入れただけで、跳ねる様子が愛しい。
雫が溢れて、ぬめる彼の陰茎に私の舌を絡ませる。
「うっ」
カリ首の周りを弄くる舌の動きと、扱く両手の動きで陰茎がどんどん膨らんでくる。
その刺激に身体を震わせる彼に欲望の芽が生えてくる。
唇を外して彼に顔を向け、にこりと笑みを浮かべた。
陶然としていた彼の表情が、目が合った途端に挑むようなものに変わる。
それがおかしくて、いとおしそうに陰茎に頬ずりし、亀頭の裏側に舌を這わせた。
くぐもった声を鼻から漏らす彼の顔を見上げて、舌の動きを速める。
髪が落ちてくるのをかき上げて、頬を窄めながらしゃぶり続けると、欲情のうねりが高まってくるのがわかる。
「だ…めだっ」
突然びくっと陰茎が脈打ち震え、鈴口から精液が迸り、口中にどろりとした精液が流れ込んだ。
はぁと息を整えている剣士さんのべっとりとした精液を飲み下す。
「まだ、平気よね?」
舐めあげれば問題ないというように、ぴくんと震えて再び首をもたげる。
咥え直すと、口の中でぐぐっと大きくなるので、あやすように舐め回した。
「おい…俺も続き、舐めてやるから、尻、こっちに向けろよ」
気持ちよさそうな声で、そう言って後ろ向きに倒れる彼。
「一緒に? 腕、痛くない?」
「ん…」
咥えたまま喋ると、呻くような返事。彼の顔を跨いで、温む秘処を眼前に晒した。
「お前の、もの欲しそうだな。赤くなってひくひくしてるぜ」
「それを見た途端に、はち切れそうになっているのは、どこのどなた?」
意地悪しか言わない口より、よほど正直な欲を零す鈴口に舌を押しつける。
震えるような吐息が、私の脚の間の湿地にかかった。
少ししか身体に触られていないのに、充分なほど潤っている。
「…手、使えねえんだ。もっと腰落とせよ、届かねえだろ」
彼だけを気持ちよくさせようと思ったのに。
言うとおりに腰を落としていくと、彼の舌が中に潜りこんできた。
「やっ…」
くちゅりと粘質の音が響く。蕩けている中をかき回されて、散々に舐められる。
くちくちと音をたてて、かき回されると、蕩けるようにあわいから蜜が零れ落ちてくるのがわかる。
「あっ…」
官能を湛えた小さな溜め息が漏れ出る。
「卑らしい身体だよな、お前。俺の舌締めつけて、奥へ引きずりこもうとするんだ、知ってたか?」
「んっ、そんなの…知らないっ…」
嘘、知っている。きっと私の肉襞は彼を誘うようにひくりと動いているだろう。
おかしくなりそうなほど感じているのは、私だけなんだろうか。
すべてを曝け出しているのは、私だけなんだろうか。
私がもの欲しそうだと言うのなら、こんな身体にさせたのはあなたなのに。
ぷくりと勃ち上がる小さな突起を舌先で、ついと軽く舐め上げられた。
「ひんっ! ふっ…剣士さぁ…」
小刻みに舌を振動させられて、それに呼応するように身体が跳ね上がってしまう。
電流のように走る快感が、四肢から力を奪っていく。
「やぁ…ん…あ、いい…っ」
肉芽を吸い上げられ、口に含まれ、舌で嬲られると、太腿で彼の頭を締めつけるしかできなくなる。
「あっ…も…んんっ」
「お前が咥えてるのを、挿れてほしくてたまらねえんだろ?」
舌で開いてる場所をさらに濡らして開かせられる。
快感で咥えることもできなくなっているのに。悔しいから、ぎゅっと目の前の欲望を握りしめた。
手を縛られているから、舌だけで攻められているのに、なぜ劣勢になるのだろう。
「おまっ…おい、ちょっとこっち向けよ」
剣士さんの顔を跨いでいた脚を外すと、彼は起き上がって、私と向き合う。
睨むように視線を投げかけると、にっと微笑を浮かべる。
「来いよ」
その声で言われたら逆らうことができなくなる。
あぐらの上にそのまま跨って、ぴったりと胸を合わせて彼を感じる。
とても嬉しそうに、私の髪に口づけてくる。
「お前、その顔で俺を煽ってるだろ?」
口を開く間もなく、唇を塞がれて、宥めるように何度も柔らかくキスされる。
こういう時だけは優しい彼。愛されているようだと勘違いしてしまう。
いっそのこと痛くしてくれれば、まだ抱かれている確かな実感を得られるのだろうか。
「んんっ…」
徐々に深くなるキスに、また身体が熱くなる。ふたりの間で反り返った彼のものがぴくりと動く。
「硬いのね…あなただって、挿れたいんでしょ? 人にばかり言わせていては駄目よ」
「はっ」
「言えないの? 私は挿れてほしくてうずうずしてるわ。でも、何もしなくてもいいかしら?」
じろっと睨まれた後に、頬に何回もキスされる。
「ロビン…お前の好きにしろ」
また、いつもの声でごまかされてしまう。頑として言わないのは、何か信念でもあるのだろうか。
わざとらしく溜め息をついて、騙されることにした。
「ね、このまま挿れていい?」
「いいぜ。早くしろよ」
落ち着いた声を出す彼の熱く滾ったものを掴んで、私の濡れている場所へ誘導する。
「あ、ふっ…」
少しずつ沈めていくと、彼の頬にも微かに赤みが差してくる。
その興奮したような表情だけを後押しに、私は徐々に体重を落としていく。
「お前の中、熱いな…いい」
笑いかけてくるから、ぎゅっと抱きついた。思考が徐々に痺れていく。
彼が少しでも私と抱き合いたいと思っているのなら、もうそれでいいのかもしれない。
「ああっ」
下からずくっと腰を入れられて、さらに結合が深くなった。
私の中は、熱い剣士さんで一杯に埋まっている。
「お前も気持ちいいか?」
「あ、うん…んっ」
“お前も”? 自分に都合のいい幻聴かしら。
ゆっくりと下から突き上げを始められ、揺らされるたびに強い刺激を感じる。
「あ、あっ、そこっ…」
「ここ、いいだろ?」
「ん、ああっ」
容赦なく弱みを抉ってくる彼に、私は恥ずかしい声を出しながら、彼自身を締めつける。
勝手に腰が動いてしまう。しゃくるように、前後に。
私の中で剣士さんが、あちこちに擦れて、気持ちよくてしかたない。
ふたりが繋がっているところから卑らしい音が聞こえる。
「ねえ…剣士さん…見て…」
太い首に絡ませていた手を外して床につき、上体を後ろにゆっくりと倒していく。
結合部分を、見せつけるようにゆっくりと抽挿する。
「あなたと私…こんなふうに繋がってる…全部入ってるのよ…」
「よく呑み込めるよな」
かなり思い切って恥ずかしい行動に出たのに、動じてくれない。
そのままの姿勢で、身体をくねらせれば、ぴくんと動く彼に感じてしまう。
「んっ…あん…すごく…気持ちいいっ」
中でどくどくと脈打つ剣士さんを、思いきり締めつける。
「…すげ…きついぞ、お前」
ゆっくりと奥まで腰を落とすと、彼の顔が苦しそうに歪む。
ぐいっと何回も深い場所を抉るように動かすと、涙が出そうになる。
「くそっ…その顔で煽んな、イきそうだ…」
「まだ駄目よ」
達することは許してあげない。震える彼の根元を、咲かせた手で強く握って射精を止める。
「…っ!」
「まだ…私がイって…ないでしょ? 一緒じゃないと嫌…」
手が使えないあなたには酷かもしれないけれど、我侭を今日だけ許して。
眼を瞠り、苦しそうな声を漏らす彼に申し訳ないと思いつつも、腰を振って悦を求めてしまう。
「もうちょっと我慢してぇ…」
抱きついて密着しながら揺れる。彼の胸板を、こするように乳房を往復させる。
その感覚に追い詰められ、頭の中が快感で支配される。
こんなにも私から求めてしまうなんて、昔の私からは考えられない。
ボキャブラリーが欠けていく。言葉にならない音だけが漏れ出てきて、名前も呼べない。
「んっ…んっ…ん」
辛そうに顔をしかめる彼の上で踊りながら、私も崩れ落ちるように上りつめていく。
抱きしめる手に力を入れて、繋がっているところを軸にめちゃくちゃに揺さぶる。
「あああっ!」
「くっ」
絶頂が訪れる。彼の欲望も一緒に解放させる。
天を見上げたままの姿勢で身体が硬直する彼とその身に身体を預ける私。
精を送り出す器官と、それを受け止める器官だけが、意思を持っているように蠢く。
その快感を、その心地よさを失いたくなかった。
ずっとこのまま繋がっていたかった。
「ロビン?」
「うん、ごめんなさい」
身体中の力が抜けてしまって、動くのが億劫になる。やはり、離れがたい。
のろのろと彼の分身を抜き取ると、離れた私を追うように彼の唇が触れてきた。
優しいキスに、頭がふわふわとする。事後に寂しさを感じなくなったのも彼のおかげだ。
「手、外すわね」
彼の後ろに回り、手の縄を解いていく。ずっと縛って無理な動きをさせたから、赤くなっている。
痛々しくて、悲しくなった。馬鹿なことを思わずに、外していればよかった。
「ごめんなさい、痛かったわよね」
いつも私のことを支えてくれる腕をそっと撫でる。
この人に出会えたことが、奇跡とさえ思えてしまう。
彼の拘束をすべて解くと、向き合って抱きしめてくれた。そして、キス。
「別に謝らなくていい。それより、初めてお前の本音が聞けたようで…その、嬉しかった」
顔を見上げる前に、強く抱かれる。
「お前、いっつも淡々としてるからよ、抱きてえのは俺だけなのかと」
信じられない言葉を囁かれている気がする。夢を見ているのかもしれない。
「剣士さんも、不安だったの?」
「ん、ああ…お前もか? いつでも、仕掛けんのは俺からだったじゃねえか」
真っ向から顔を見据えられて、真剣な眼差しに責められた。
どうせ、逃げ場はないのだ。言いたいことを、この際言ってしまおう。
「最初に誘ったのは私だったから。あなたはいつも余裕そうだったし、何も言ってくれなかったわ」
眼を逸らそうとする彼の顔を固定する。あなたも逃がしてあげない。
「私自身に好意を持ってはいないのかと、不安だったわ」
「そんなの、わかるだろうが」
「わからないわよ。コックさんは、毎日好きだと言ってくれるしね」
「コックみてえに、ふざけて言えってのか?」
「別にふざけてなんて言ってないでしょ。彼は彼で結構本気よ?」
「だったら、これからもコックに言ってもらえばいいだろうが」
「好きな人に言われなきゃ、意味ないでしょう? あなたじゃなきゃ駄目なの」
子供みたいに言い合っていたら、私がそう言った瞬間に、彼が固まった。
口をぽかんと開いて、心なしか頬が赤い。
その薄い唇を見つめていたら、キスの感触を思い出す。
身体の奥のほうに、小さな火が灯ったように感じた。
そっと口づけて、もう一度確かな言葉で告げる。
「あなたが、好きよ」
再び唇を押しつける。温かくて、その温かさが恐い。離して、また彼を見る。
しばらくぼうっとしていて、ようやく頷きながら口を開いた。
「俺も、好きだよ…畜生、二度と言わねえぞ」
「あら残念。最初で、最後なの?」
抱きついて、せがんでみる。
照れくさげに眼を細めた彼の表情は、初めて見るので、どきどきして俯きたくなった。
「だから、わかるだろ。わかれよ」
「言ってくれなければわからないわ」
「ゆっくり話してりゃ、その隙に拒まれるかもしれねえだろ」
「拒まないわよ。そんなのわかるでしょう?」
「言われなけりゃわからねえよ」
ぎこちなく笑い合った。いつも通りではない、温かい雰囲気が流れている。
「私たち、言葉が少なすぎるのね」
「性に合わねえんだ…まあ、だが…これからは努力してみる」
ぼそぼそと呟く彼に、落ち着かない奇妙な空気。これを幸せというのだろうか。
慣れていないからわからない。それでも。
「嬉しいわ」
ふたりで過ごす夜を、これからは怖れない。誰よりも愛しい人と過ごす夜。
「お腹空かない? 夜食があるそうよ、お酒も。あなたのぶんもコックさんが作ってくれたわ」
「あ? なんで俺のぶんまであるんだ」
「コックさんが優しいからよ。あなた、果報者だわ」
衝動的になってしまった今夜の私を、コックさんは端から予想していたのだろうか。
私は、自分の言動すらも予測できないというのに。
「他の男、褒めんな」
ラウンジへ行こうと立ち上がると、後ろから抱きすくめられ、耳元で囁かれた。
ああ、一番予測不可能なのはこの男だ。でも、それは甘い混沌。
しばらく無言で抱き合いながら、広がる夜空の下で、ふたりの時間を楽しんだ。
次の日も、海は穏やかで、空は晴れ渡っていた。気持ちのいい風が吹く。
ふと、その風に乗ってきた香りを辿って、煙草をくゆらせる男に話しかけた。
「お夜食、美味しかったわ。ありがとう、コックさん」
「気に入って頂けたなら何よりですよ、レディ? 昨日の夜より良い笑顔ですね、ロビンちゃん」
にっと煙草を咥えながら笑うコックさんが、私の顔を覗き込む。
「あなたのおかげかしら。ありがとう」
「魔獣にゃ勿体ねえ、女神の笑顔さ。それが見られるだけ、俺は幸せですよ」
ふいに肩に私より高い体温が触れる。振り返れば彼が居た。
背中に彼の感触。肩を抱かれていると感じ、鼓動が速くなる。
「昨日、見張りで寝てねえんだ。こいつ、休ませるぞ」
そのままコックさんとは反対方向へ引きずられるように歩かされる。
どうしたんだろう、彼は。
「おいおい、乱暴だな。レディはもっと優しく扱え。愛しい女性なら尚更だ」
投げかけるコックさんの声と顔は優しい。というより困った子供をあやすような口ぶりだ。
「剣士さん?」
「そんな顔、他の奴に見せるな。特にあのエロコックには」
真剣に言うので、噴き出しそうになった。見れば耳が赤い。
「可愛い」
「馬鹿にしてんじゃねえよ。いいから、後甲板ででも寝てろ。昼寝も悪くねえ」
これが、きっと彼の言う努力なのだろう。
素直に従って、甲板へと歩みを進めていると、航海士さんに会った。
「ああ…やっと認識できた?」
「知ってたの?」
「サンジ君に向ける敵意で気づきそうなもんだけどね。ロビン、あんた鈍くて幸せ者だわ」
航海士さんは、眼を細め、風を受けて、空を仰いだ。
「今日は順調だから寝てていいわよ。今日だけね。荒れたら、叩き起こすけど」
じゃあ、ごゆっくり、とくすくす笑って手を振った。
後甲板へ着くと、眉をしかめて彼は聞いてきた。
「何の話だ?」
「あなたに愛されてるという認識。コックさんと航海士さんは、とうに気づいていたみたい」
「はっ。だから、お前は鈍いんだ」
「あなたもね」
言い返そうとする彼の口を手で塞いで、そのままの気持ちを告げる。
「でも幸せ者だわ」
ぴん、っと額を軽く弾かれる。そのまま壁にもたれて座り込んだ彼は腕を広げる。
向き合ってしゃがみこむと、逆を向かされ、後ろから大きな腕に包まれる。
「俺も寝る」
こんな体勢で耳元で囁かれ、寝られるわけがないのに。
それでも背中から伝わる鼓動は、私と同じくらいに速い。それに気づけてよかった。
何分も経たないうちに、規則的な寝息が聞こえてきた。
昼寝なんてしたことがないからできないだけなのかしら。目を瞑れば、眠れるだろうか。
温かい体温と、気持ちのいい風に包まれて、目を閉じれば眠気が襲ってきた。
しばらくすれば陽は高くなり、陽射しが眠気を遮るだろう。
それとも、その前に気の利く長鼻君あたりが、パラソルでもかざしてくれるだろうか。
他のクルーはこの光景を見て、どう思うのだろう。
その表情が見られないことが残念だと、そう思うくらいに眠くなってきた。
毎日ではないけれど、たまにはこういう日があってもいいだろう。
楽しい生活と、大好きな人に包まれている幸せ。夢見もいいに違いない。
ああ、なんだか、とても眠いわ。
いつもは彼ひとりが寝ている甲板で、ふたりで同じ夢を見る。
心地のいい長い夢。
━終━
タグ