エロパロ板「おむつ的妄想」スレッドに投下された作品のまとめwikiです。

僕がその病院にいたのは、雨音が耳に残る六月ごろだった。
病名は肺炎。季節外れの風邪に罹り、その日のうちに悪化して、そのまま病院まで直送になった。
二日ほど寝込み、目が覚めたのは三日目の昼過ぎ。ベッド越しに見た最初の景色は、窓の外の曇り空だった。
「んっ……くぅっ、ててて」
まだ眠い体を無理やり起こして、寝ぼけ眼で辺りを窺う。
白に統一された世界は、清潔感と同時に、なぜか淋しさや冷たさを感じるものだ。それは最後に見た光景とはどうにも離れていて、少しばかり困惑して頭が揺らぐ。
「ここは……そうか、僕、救急車呼ばれたんだっけ」
言葉にすることで、ようやく記憶が追い付いてきた。次々と視野が明るくなっていき、頭も回りだす。無機質な白の世界にブルーのパジャマ。
傍らには母さんの書置き。机の上は整頓されていて、生活感は全くなかった。どうやら個室のようで、広々とした空間に、大きめのベッドが配されている。
冷蔵庫にテレビと至れり尽くせりなのはいいけど、見覚えのない世界におかれて、どうにも居心地の悪い気がする。
「――トイレ」
ボソッと呟いた声は無意味に反響して消えていった。それすらも淋しさを助長させる気がして、体が動くことを確かめて、リハビリがてらトイレへと歩いて行った。

用を済ませてトイレを出ると、今度は眠っていた好奇心がむくむくと起きてきた。
普段と違う場所にいるという昂揚感。
またベッドに戻るということに対する嫌気。
眠気から解放された体はやけに元気で、動きたがっているように感じた。
だからか、僕の足はふらふらと彷徨い始める。
売店やレントゲン室の前を通り、いろんな渡り廊下や階段を巡り、迷路みたいな一般病棟を抜けて、屋上へ。
開ける景色に吹き抜ける風が、何とも清々しい。肌寒いようにも感じるけど、ちょっと病み上がりで息を切らした体には、この涼しさが心地良かった。
手すりまで駆け寄り、眼下を見下ろす。カラフルな屋根がおもちゃの街のように、いくつも並ぶ住宅街。
晴れていれば光輝いて見えるんだろうけど、今は曇りのせいかくすんでいた。
「あの辺が僕の家かな?あ、あそこに又吉じいちゃんのパン屋があるな――あっちが学校か。
みんな、今日も学校だろうな……そういや中間の結果、貰い損ねちゃったな」
手すりから体を乗り出して、子供のように燥いでしまう。
どうにもまだ熱に浮かれているような感じだ。その興奮した気持ちのままで、今度は反対側のほうへ走った。

息を切らして同じように、体を乗り出して眼下を見る。
そこにあるのは、病院の中庭だ。
箱庭のように完成された、理路整然とした雰囲気の空間。
狭さを感じさせないように工夫された、くねくねとした散歩道。
その傍らにある花壇には、可愛らしい花が植えられ、人々に癒しを振りまいている。
中庭の入り口にあるベンチでは、休憩中なのか看護婦さんたちが談笑していた。
他にも腰の曲がったおじいさんが、杖を突きながらぐるぐると散歩していたり、足を折ったおばさんが、ベンチとは別に用意された喫煙スペースで、ぷかぷかとタバコをふかしたりしている。
その中で一人、目につく少女がいた。

腰先まで届く長い黒髪に、華奢な体つき。大きな瞳はぱちりと開いているが、どこか気弱な感じがする。整った顔は、多くの人が美人と言ってくれるものだろう。
その端正な顔に淋しそうな笑みを張り付けながら、散歩道を時折、花を触りながら歩いている。
そんな彼女が何より目につく理由は、その特異な服装にあった。
紺地の和服に、大輪の白百合が咲き誇る。美しく刺繍されたそれは、この天気でも鮮やかに目に焼き付いた。
しかし、普通の和服と違うようで、スカート状になっていて、淵にはレースが刺繍されている。
和洋折衷。
そんな言葉が似合う服装だ。
「どうして、そんな恰好――」
しているんだろうという前に、彼女と目があった。
それは偶然だろうか。それとも必然だろうか。
目を見開いて固まってしまうほど驚いた僕に対して、彼女は軽く瞬きした後、ただ柔らかく微笑み、唇を動かした。
――こっちに、おいで。

一度病室で着替えて、彼女がいた中庭に急ぐ。久しぶりに走ったせいか、思ったよりも体が重い。
何度も足がもつれて転びそうになり、周りから変な目で見られてしまう。それでもなぜか、僕は走ることを止めなかった。
何となく、運命みたいなものを信じたかったんだと思う。
それほどまでに、彼女の姿に心が揺れた。
「はぁ……あの子は……」
中庭に入るころには、大きく肩で息をしていた。うまく顔が上げれず、膝に手を置き荒い呼吸を繰り返す。
バクバクと鳴る鼓動。
それは久しぶりの運動という理由だけで、高鳴っているわけではなかった。
「――お疲れ様。早かったね」
声がする方を振り向くと、先程まで看護婦がいたベンチに腰掛けながら、彼女は僕に微笑みかけていた。

思ったよりも、線の細い子だった。
肉というものがついていない、そんな感じがするような体つき。日をあまり浴びていないのか、白さが際立つ肌。
服装も相まって、なぜだか幼く思えてしまう顔立ち。まるで今にも手折れてしまいそうな、そんな儚さが感じられた。
生きているのか死んでいるのか――幽霊のような不確かで、曖昧な存在だ。
言葉にするとしたら――幽雅、だろうか。
そんな彼女に見惚れていると、臙脂に似た色の瞳が輝き、ベンチから立ち上がって僕に近づいた。
好奇心に満ちた顔で、こちらを覗き込みながら問う。
「名前」
「名前……誰の?」
「君の。私のは、真莉亞。寿真莉亞だよ」
「僕は九能雨流。みんなから『ムノウ君』って呼ばれてる」
「むのう?役立たずってこと?」
「別にそんなことないんだけど、あんまり取り柄とかないからね。まだ彼女とかもいないし」
「ふぅん……あのさ、うりゅ君」
「うん……ん?」
「私の部屋、来ない?」

「へ……?――あ」
気づいたら彼女に腕を握られて、引っ張られていた。その柔腕からどこにあるんだという力で、僕を引きづってずんずんと進んでいく。
その強引さに面を喰らうが、それが頼もしくも思える。何より、話し相手ができたことが嬉しかった。だから僕は、抵抗なんてしなかった。

彼女もまた、個室の病室にいた。しかし、僕の病室とは、趣きが少し、いや、大きく異なっていた。
部屋の構造は変わらないものの、私物が多すぎるのだ。
それは彼女がずっとここにいるということを示しているようで、なんだか淋しく思ってしまった。
「そこに椅子があるよ。座って」
彼女はベッドに入り込むと、息を荒くしながら傍らを指差す。
僕は言われるがままに座ると、彼女は大きく息を吸いながら、胸に手を当てていた。まるで呼吸を、鼓動を確かめるような仕草をしながら、その瞼を閉じて瞑想し、僕に微笑みかける。
「何から、話そうかな?」
「え、えっと……その」
「服のこと?それとも病気のこと?先に私のことを、話した方がいい?」
「そんなに次々と言われても、困るよ」
「ごめん――あんまり、同年代の人と、話したこと、なくて」
真莉亞は少しばかり息苦しそうに、それでも嬉しそうに話す。
本当に、嬉しそうで。

だから僕は彼女に言う。
「君の好きなように、話していいよ」
「そう?――じゃあ、私のことについて、話すから、次は、うりゅのこと、話して」
僕が頷くと、彼女は静かに話し始める。自分が重い心臓病を患っていること。
ようやく手術の目処が立って、今、体力作りのために歩いていること。その時に僕と出会ったこと。
彼女の着ている服は、同じ病気で亡くなった彼女の祖母の残してくれたものだということ。
それを彼女の要望に合わせて、母親が縫い直してくれたこと。他にもいっぱい、いろんなことを話してくれた。
同じように、僕も自分のことを話した。それだけじゃなくて、彼女にせがまれるまま、世間のことや学校のことなんかも話していく。
彼女はそれを、とても楽しそうに、そして憧れるような、そんな眼差しを向けながら聞いていた。
そんな時だった。
「それでね、すぐに――あっ」
真莉亞は言葉を止めて、恥ずかしそうに俯いた。ベッドのシーツを握り、時折嬌声を漏らしながら、必死に何かに耐えているようだった。
「真莉亞?」

「――んんっ、ふぅ……ふぅ……」
最後に息を詰めると、体をふるふると震わせた。まるで絞り出すかのような行為に、自然とこっちも顔が赤くなる。
大方、予想が出来てしまったから。
「あのさ、うりゅ君」
「あ、部屋、出るからさ。ナースさん――」
「違うの。そこの箪笥、上から三段目、開けてくれる?」
「えっと、この段?」
「うん。その中からさ、新しい奴、五枚くらい出して。後、横のカバーも」
僕の予想通り、中から出てきたのは布のおむつだった。

少しばかりごわごわした触感と、横にある防水性に優れたカバーが、それを物語っている。
「これで、いい?」
「いいよ、ありがと。じゃあ、次は――」
「えっ、ちょ、ちょっと待って!」
徐にベッドの掛布団を取り外した彼女に、僕は取り乱してしまう。
真莉亞はいきなりの声にぽかんとした顔をした後、すぐに納得したような顔をすると、ベッドの横に畳んであった水色のシーツを広げる。
「これで、大丈夫だよ。だから、うりゅ――」
「いや、大丈夫になってないって!というか、こっちが全然大丈夫じゃないって!」
「え……?もしかして、熱とか、あるの?」
「いや、そうじゃないけどっ!」
「なら、平気だね。よかった」
ホッと胸を撫で下ろす真莉亞。
その姿は、なぜだか可愛らしくて、愛おしくて。
そしてそのまま、彼女の言葉に流されてしまった。

彼女は来ている着物スカートの裾――彼女曰く、和風ゴスロリ――を捲り、自らの下着を露わにする。
それは、着物に合わせたような水色のおむつカバーで、前あての部分にデフォルメされた兎とひまわりの絵が描かれていた。
「どう、かわいいでしょ?」
「ま、まあ……」
正直のところ、おむつのデザインなんてよくはわからない。でも、彼女の言うとおり、かわいい気はする。
「ママは紙おむつのほうがいいって、言ったんだけど、無地の奴なんて、かわいくないの、穿きたくない」
彼女が拗ねたように口を尖らせる方が、よっぽど可愛らしかった。
「換え方、わかる?まずは、そこの前あてのぽっちを、外すの」
不器用な僕にアドバイスしながら、彼女は顔を赤らめる。言われた通りにスナップをはずし、お腹の紐を解いていく。
封が解かれた途端、甘酸っぱいにおいが鼻の奥を刺激した。

「開くけど、本当に、いいの?」
「うん。早くしないと、かぶれちゃうから」
もう一度確認をとってから、前あてを下ろす。と同時に中のおむつが広がり、その様子が露わになった。
綺麗にぴたりと閉じた割れ目を中心に、白地の布は黄色く染まっていた。うっすらと朱を帯びた割れ目一帯は、毛一つ生えておらず、おむつを充てられるに相応しい姿となっている。
実は、まじまじと女の子のそれを見るのは、初めてだった。
「うりゅ君、早く、その、――見つめられると恥ずかしいから」
「あ、ああ。ごめんごめん」
凝視していたせいか、手が止まってしまっていた。すぐさま汚れたおむつをカバーごと専用のバケツの中に放り込み、汚れた割れ目を丁寧に拭いてから、新しいおむつを充てていく。
今度のカバーは、白地にイチゴの絵が描かれたもので、こちらも可愛らしい絵柄となっている。さらにお尻にはリンゴの絵が描かれているという、少しばかり凝ったものだった。
思えば、これは彼女なりのオシャレなのかもしれない。

この無味乾燥とした世界にずっといるからこそ、こだわりたいぐらいに。
「ちょっと、へたっぴだけど、合格点、かな」
さっきとは逆の手順でおむつを留めると、真莉亞は静かに裾を降ろして、具合を確かめていた。
そして、ニコリと微笑み、厳しい評価を下す。でも、その顔はどこか嬉しそうだった。
「ごめん……ちょっと疲れちゃった。眠っても、いい?」
「――わかった。おやすみなさい、真莉亞」
彼女が横になるのを見届けてから、僕はそっと病室を出る。
閉まり際に、声が聞こえた。
――また、明日も、来てくれる、よね?

それから僕は、暇を見つけては、彼女に会いに行った。
真莉亞は僕の来訪を喜び、くだらない話でも最後まで聞いてくれた。
逆に、真莉亞は病院のことを僕に教えてくれた。
自然と話す内容がなくなっても、僕は彼女のもとを訪れるのを止めなかった。
何度も通っていけば、自ずと彼女の境遇も見えてくる。
彼女はあまり話さないけど、それでも肌で感じることがあった。
それは病気のことだけではない。彼女の――真莉亞の家族についてもそうだ。
出会ってから、彼女の家族と会ったことが一度たりともなかった。
彼女の家族に関する話も、そのほとんどが過去形だ。そしてその時はいつも、懐かしむような、淋しそうな表情をしていた。

僕の話を聞くときとは対照的な、悲しい感情の発露。
そして時折、彼女は僕の服の袖を掴む。
彼女自身は気づいてなくて、すぐに離れてしまうけれど。
けどそれは、彼女の淋しさの、象徴のような気がした。
だからこそ、僕は彼女の傍にいてあげたかった。
そして気づいたら、彼女のことを好きになっていた。
いつしか考えることが、彼女を中心に回り始めた。

病院という無機質な空間が、僕を加速度的に変えていった。
無邪気に笑う笑顔も、淋しそうに微笑む姿も、時折見ることのできる穏やかな寝顔も、何もかもが愛おしく感じる。
このままずっと、彼女と共にいたい。
そう願わずにはいられなかった。
でも、彼女といれる時間は、刻一刻と無くなっていく。
自分が元気になれば、この病院を去らなきゃいけなくなるし、彼女の手術もまた、近いうちにあることだろう。
どちらも喜ばしいことだけど、それによって僕らは引き離されてしまうだろう。
現実は、僕らに非情だ。
待ってと、止まってと願っても、受け入れてはくれない。
そして、その夜は来た。

その夜は昼間からずっと雨が降っていたおかげか、珍しく澄み切った夜空だった。
煌々と月明かりが病室を照らし、普段は意味もなく淋しくなる風景を、幻想的なモノへと変えていた。
僕は全く寝付けずに、目が冴えてしまっていた。
それは、昼間、彼女に聞かされたことのせいだった。
――手術が、明々後日に決まったの。
彼女は神妙な顔をして、告げた。そして、寂しそうに、続ける。
――親族以外、明後日からは面会謝絶だって。多分、会えなくなると思う。
僕は、その言葉にどう返せばいいか、わからなかった。
励ませばよかったのだろうか。
希望を持たせたらよかったのだろうか。
でも、彼女の病気を聞くと、そんな安い言葉は出せなかった。
何より、自分にそんな期待を抱かせるのが、一番怖かった。

僕は彼女なしには、生きられなくなりかけている。
だからこそ、失ったときのことが、怖いのだ。
眠ろうにも頭の中にある不安が、瞼を閉じさせてはくれなかった。
仕方なく横になっていると、誰かが部屋に入ってくる音が聞こえた。
僕はそれが誰だか、すぐにわかった。
「うりゅ君……」
「真莉亞、どうして――」
「頼みが、あるの」
強い意志を纏った口調に、僕は動くことができなかった。
月明かりに照らされた彼女は、いつも以上に美しく、儚く見える。
ごくりと唾を飲み込む間に、彼女は僕のベッドの上に上がっていた。
出会った時の服装のままで。
けど、それはあの時とは違って見えた。
ゆっくりと僕を覆いながら、彼女は意を決して、言う。
「私を、女に、してほしいの」

私の言葉を聞いて、彼は石のように固まってしまった。
――そんなに驚かせちゃったかな?
茶化した気持ちが言葉になって出そうになるのを封じ込め、別の言葉で続ける。
「急なこと、だと思うけど、聞いて。私ね、子供のままで死ぬの、嫌。だからお願い、私を、抱いてくれる?」
彼は、戸惑っているようだった。目を泳がせてはわたしのことを見て、唾を飲み込んでいる。それでも、手を出してきたりはしない。
やっぱり駄目なんのだろうか。
――……こんな雰囲気もないような病室だとか、何もそそるモノがない体だとか。顔はお婆ちゃん譲りで自信あるけど。
考えてみると、ダメな理由ばかり浮かぶ。
勇気を出して言ってみたけれど、今更になって恥ずかしくなった。

それと同時に、目の前にいる彼の、ヘタレさ加減に対する怒りもこみ上げてくる。
何だか自分が、よくわかんなくなってきた。
でも、決心は変わらない。
――手術することを聞いてから、ずっと、決めていたんだもの。
産れてからほとんど、私は病院を家にして過ごしてきた。
学校も、公園も、商店街も、自分の家でさえ、私は良くは知らない。
ここにあるのが、私の全て。
昔も、今も、ずっとそうだと思ってた。
でも、彼を見つけて、何かが変わった気がする。
彼は、私の知らないことを、いっぱい教えてくれる。
笑うことが、楽しいことだって教えてくれたのも、誰かといることが楽しいと思えたのも、彼のおかげ。
だから私は、もっと知りたい。
本や漫画の知識じゃなくて、本当の「こと」を。
彼なら、きっと教えてくれる。
――彼は、優しいから。
ここでダメ押ししたら、きっと、ううん、確実になると思う。
――もう、限界も近いし。

彼女は瞳を潤ませて、僕の手を取った。
そのままバランスを崩してのしかかってくる。
布越しに感じる、女性特有の柔らかさ。
けど彼女はそれ以上に、頼りない感じが強いものだった。
その布の間を、蛇のように手が滑る。
誘われるままに彼女の股間へと到達すると、彼女は僕の手を自らの手と絡ませて、上から股間――割れ目のあるあたりへと押し付けた。
おむつカバーの特殊な感触が、彼女の手のぬくもりごと伝わる。
「準備、いい?」
間近に聞こえる、彼女の声。
それが色のついた花のように、艶やかに変わる。
雰囲気に吸い込まれるように、僕は頷いた。

「そう、なら、出すよっ――ん」
力のこもった声とともに、手の当たる向こう側から、何かが跳ねる感触が届く。
それは掌越しに跳ね返って、どんどんとおむつを固くしていくものだった。
「どう、うまく、当たってる?」
心配そうに声を出す姿が、変に愛らしく思えた。
勢いが波のように変わり、そのたびに掌をくすぐっていく。
汗ばむような熱さが、重なった手の中で広がっていくのがわかった。
「うんっ、まだ、でる、よぉっ」
力みでほんのりと朱に染まった顔を眺めながら、彼女のおもらしを直に感じる。
漏れる吐息は、いつもよりも熱っぽくて。
耳や首筋を撫でる度、僕の鼓動を跳ねあげさせた。
倒錯したような世界。
病院内という背徳。
僕はその全てに、どんどんと飲まれていく。

おしっこを全部出し終えて、一息吐く。
もうおむつには慣れたけど、直接おしっこを出すところを確認させるのは、これが初めてだ。
そのせいか、すごく緊張したし、なんだか恥ずかしかった。
「どう、だった?」
彼も少しばかり赤い顔をしている。
ちょっとは興奮したということだろうか。
なら、ここがダメ押し時だ。
「もっと、触っても、いいんだよ?」
彼の手越しに、おむつをもみくちゃにする。
力強く押し返すたびに、ぐじゅじゅと音を立てて、吸収されたおしっこが逆流する。
それがおまたを撫で、濡らし、擦っていく。
そのたびに混じる、電撃のような感覚。
余韻のような気持ちよさを残して、それは私の頭を揺さぶった。
――抱いてもらえば、もっと気持ちよく、なれるのかな。
期待と不安が胸をチクチクと痛ませる。
思わず空いている手で胸を触ると、彼が心配そうにこっちのことを見ていた。
そんなに心配しなくても、大丈夫だよ。
私はまだ、ここにいるもの。

そんな顔をしていてほしくないから、心配そうに伸ばす手を取り、そのまま彼の体を引き寄せた。
そして、そのまま唇を重ねる。
これも私の「初めて」だ。
その唇から舌を潜り込ませ、彼の舌と絡ませる。
そのまま唾液を掬い取ると、抱え込むようにこちらの口の中へと流し込んだ。
ちょっと苦いけど、これが彼の味だと知ると嬉しく思える。
今度は彼の舌を、私の口の中にねじ込ませた。
驚いて目を見開く彼、そう、そんな表情がいい。
あなたは、私を心配する必要などないんだから。
だって、これも私のわがままなんだから。

息が続かなくなって、唇を離す。
唾液が糸を引いてシーツの上に落ち、痕が私と彼の間をつなぐ。
「真莉亞、君は――」
「うりゅ君。私、今、すごく、ドキドキしてる」
「でも、僕で、いいの?」
「あなただから、いいの」
正直、本当は分からないけど。
けど、間違ってはいない気がする。
「もう一度、言うよ……?」
だから、私は告げた。
「私を、女に、してください」

彼女の言葉を受けて、ようやく僕も、決心がついた。
いや、本心がわかったというのか。
素直な気持ちを、言葉に表わす。
「うん、僕も、真莉亞を抱きたい」
言葉にするだけで、恥ずかしさが増した。
一気に顔が熱くなって、なんだか今にも逃げ出したくなる。
でも彼女は華やいだ笑顔で、僕に抱きつきながら言った。
「うれしい……そう言ってもらえるだけで」
その笑顔が、ちょっとだけ淋しく見えた。
少しだけ頭を撫でた後、僕は彼女とともに体を起こす。
「おむつ、開けるよ?」
彼女は僕の足の間にまたがって腰を落ち着けると、ぴらりとスカートを捲った。
ぷくりと膨らんだおむつカバーは、仲がおもらしで満たされていることを主張している。
今一度触れると、ぐちゅりぐちゅりと空気と水の混ざる音を奏でた。
「あっ、やっ、んっ」
そのたびに、真莉亞は嬌声を上げる。
いつまでも聞いていたいけど、それじゃ先に進まない。
熱い吐息を背に受けながら、カバーを外して、中の布おむつを露わにさせる。

黄色く熟成された筋の間から、茶色い粘着質の液体が零れていた。
前とは違った、甘さと苦さが混じりあった臭い。
それは言うまでもなく、女の匂いだった。
「うりゅ君のあそこも、すごくおっきくなってるね……」
トロンとした瞳で、彼女は僕の股間を見ながら言った。
そこにはパジャマ越しに怒張し、立派なテントを築く肉棒がある。
「すごく苦しそう……開けていい?」
答えを言う前に、彼女の手がズボンとパンツを下ろしていく。
解き放たれた肉棒は、天に向かってそそり立つ。目の前の姿に、彼女は目を丸くさせていた。
「これが、私のあそこに入っちゃうんだぁ……」
感慨深げに呟きながら、彼女はその肉棒を無理矢理おむつとの間にねじ込んだ。
そのまま無意識に腰を振り、肉棒を股で擦っていく。
「ひゃぁぁぁっ!」
悲鳴にも似た声に、僕の鼓動は沸騰する。

聞かれるんじゃないかという恐怖に、思わず彼女の口を塞いだ。
「ちょ、大声出しすぎだって」
「あ、ごめん、なさい、つい、気持ちよすぎて」
顔を紅くしながら、彼女はそれでも腰を振るのを止めなかった。むしろどんどん早くなって、肉棒が液まみれになっている。
「あ、ビリッてきて、あ、そこ、そこ弄るの、気持ちいいよ、っ、もっと、もっとこすって、いい?」
「いいよ。僕も、気持ちよくなってきた」
柔らかい肉に擦られて、僕自身もこみ上げそうになる。それでも、彼女より先にイかないように、何とかギリギリのところで抑え込む。
そのじりじりとした焦燥感が、余計に責めを強くさせる。
「あ、でる、でるの、でちゃうよっ」
「僕ももう我慢が、くぅっ」
彼女が一度達するのと、僕が射精するのは同時だった。
腰が抜けてしまったのか、彼女は僕の肉棒を挟んだままおむつの中へへたり込もうとする。
それを僕の市がせき止めた。
宙に浮いた格好となった彼女の股から、透明な液が零れ落ち、おむつの中に小さな水溜りを作る。その後ろにはどろりと白い液体がこびりついていた。
そのまま倒れこんでくる彼女の体を支え、抱きとめる。

ほんのりと香る甘い匂いと、大きな頭を支えきれるのかというほどの、柔い体。
それは花弁が大きい花の姿に似ていた。
そして細い肢体が、存在が、とても愛おしかった。
「大丈夫?まだ、続ける?」
「ごめんなさい……大丈夫、まだ、本番じゃ、ないから……」
失いそうなほどの儚さに怯えて、つい心配することが出てしまう。でも彼女は、やんわりと否定した。
少しばかり憔悴しているようだが、彼女の意思は固かった。
「無理だけは、しないで」
「うん、迷惑は、かけないよ」
「迷惑だなんて思ってないさ。ただ、心配なだけ」
「ありがと。じゃ、ここからだね――」
そう言うと彼女は僕から少し離れ、猫のように丸まる。
そして徐に萎えてしまった肉棒を、その小さな口に頬張った。
「ちょ――!?」
温かい彼女の咥内に包まれて、肉棒は筋が入ったように強張った。
脳天直下の衝撃。
舌で亀頭を刺激され、裏筋をこそばれる。
転がされるたびに奔る電撃が、脳を瞬く間に溶かしていった。

「こっひふぉ、したほうは、いいの?」
快感に貫かれて、どう答えればいいか考えられない。
それどころかこっちが応える前に、彼女の手が蓑袋をもみしだき始める。
拙くも柔らかな手つき。
時折口から出され、外気に触れる度に感じる侘しさ。
熱を帯びたか彼女の口の中で、肉棒は沸騰していく。
「こんなに大きくなれば、大丈夫かな……?」
その言葉とともに、彼女は肉棒を咥内から解き放つ。
再度怒張した肉棒は、既に彼女の口を裂きそうなほどの大きさだ。
それが切なげに脈動し、今にも中身を吹き出しそうにしている。
――うっ、早くしてくれ、僕は……
さっき出したばかりなのに、体の奥で次の子種は作られ、今か今かとその噴射の時を待っている。
それを無理矢理押さえつけ、僕は筋肉に力を入れた。

主役は僕じゃない。あくまでも彼女だ。
彼女は猫の姿から居直り、ゆっくりとその切っ先に腰を下ろそうとしていた。
怖いのか、それとも武者震いか。プルプルと体を震わす姿は、本当に初心であることの証のようだった。
「ほら大丈夫。僕がいる。だから……」
「うん。ちょっとだけ、胸、借りるよ……」
体を支える柔腕を背中に回され、僕が代わりに彼女を支える。
はらりと袖が空を凪ぎ、和服特有の優しい肌心地が腰に舞い降りた。
胸と胸が触れ合い、お互いの鼓動を響きあう。
熱に浮かされ、雰囲気に酔ったまま、僕はついに彼女と重なった。

体の中に違う何かが入ってくる。
それだけで私の体は硬直してしまった。
「んっ、あうっ……すごい」
その先は、言うことができなかった。
貫かれる痛みは、それほど強くない。
けど、その肉棒の熱さが、耐えられなかった。
お腹の中が火傷しそうで、今にも声を上げて叫びたくなる。
でもそれすらも、うまくいかなかった。
お腹を刺し貫かれ、呼吸がおぼつかない。
酸素がほしいと口をだらしなく開き、肉棒が進むたびに涎と嬌声を撒き散らしてしまう。
恥ずかしいまでの行為に、ちらと彼の様子を窺った。
「うおっ、きつぅ……っ」
彼が、苦悶の表情で呟く。
自分でも驚くほどの力で、彼の肉棒を捕えているのがわかる。
時たま走る痛み混じりの快感は、彼が肉ひだを擦る時に生じるものだった。
――ここまで、漫画の通り……だと思う。
痛みと快楽に融かされそうになっても、意識だけははっきりとしている。
思い描いたのとはちょっと違うけど、そんなことは気にならない。

むしろ、驚くことがいっぱいだ。
自分の体がこんなになるなんて、思いもよらなかった。。
腰は自然と動き、彼の肉棒を迎え入れようとする。
進むたびに来る衝撃は、そのまま嬌声へと直結した。
彼の体に回した腕は折れるほどの強さで、ギュッと強く抱きしめている。
内側をこぞり落とすように動く肉棒は、痛みと快楽で思考をめちゃくちゃにさせた。
言いようのない浮遊感が、自分を自分でなくさせる。
気持ちのいいことと、そうでないことの境界があいまいになって、混ざりあった。
襲い掛かってくる情動。
それでも、怖い気持ちはない。
でも、体が言うことを聞いてくれない。
戦慄くように全身が痙攣し、どこに力を込めていいかわからなくなっている。
股の奥は壊れたようで、さっきからなんかよくわからないものが垂れ流し状態だ。
それが肉棒との滑りをよくして、ずんずんと先に進ませていく。

「あ、そこ、きて、あっ、あうっっ!?」
そして最後の砦を崩すように、肉棒がその場所へと到達した。
「いま、すごい固いのがあるんだけど……」
「うん、処女、膜……っ」
「痛い?」
「ううん。びっくり、しただけ」
「…………破るよ?」
「――うん。覚悟、できてる」
自分に言い聞かせながら、瞳を閉じる。
視界がなくなって、一気に自分だけが取り残される気分。
とても淋しいけれど、こうしないとできないことだから。
ゆっくりと聴覚が鮮明になってから、聞こえてくる、弱弱しくも確かな、大事な音。
私の、鼓動。命の、証。
――生きてる。まだ、ここにいる。
ドクンドクンと波打つ音が、とっても心地いい。
いつもより早くて、無理しているような気もするけど。
でも、まだ私はここにいる。
ここにいるんだ。

眠るように瞳を閉じる彼女の頭を撫でてから、僕は彼女の粘膜を――処女膜はがした。
メリメリとした音がはっきり聞こえ、肉棒の先は固いものを貫いた感触がこびりつく。
透明だった液体に血の鮮やかな赤が混じり、彼女の表情も苦しそうなものへと変わった。
でも、彼女は痛みに声を荒げなかった。
僕よりもずっと痛いはずだ。これだけ血も流している。
でも彼女は、逡巡するように頷くと、その大きな瞳を潤ませながら、言った。
「ありがと、うりゅ君。私、女に、なったんだね……」
そこにあるのは、穏やかな笑みだった。
強がりなのかもしれない。
本当は、すごく怖かったのかもしれない。
でも、彼女はその潤んだ瞳から、涙を零さなかった。
だから僕は、そんな彼女と唇をかわす。
今度は僕から、自分の意志で。
苦しませないように、悲しませないように。
彼女が抱える痛みを、少しでも分かち合いたくて。
彼女は驚いて目を見開いていたが、長い口づけのうちに、観念したかのようにもう一度瞳を閉じた。
潤んだ瞳から溢れた雫が、一粒、頬に痕を作った。
それは、百合の花につく、夜露のようだった。

口づけの後、彼はわたしに問う。
「どうする?このまま中に出して、いいの?」
熱を纏った肉棒は、私の膜を破りさらに奥のところを小突いていた。
感覚で言うならば、そこは紛れもなく子宮口だろう。
自分でも触れたことのないところを小突かれ、変なむず痒さを感じてしまう。
そこからくる疼きで、体がどんどんと火照ってしまう。
「……私のわがままに付き合ってくれたから、いいよ」
言い方が少しだけずるいけど、その辺は女の特権ということで許してほしい。
けど私ももう、このまま止められるとどうしようもなくなる気がする。
いっそのこと、果てたい。
心も体もすべて、蕩けてみたい。
だから私は。最後の言葉を告げた。
「わたしに、なかだしして、いいよ」
言葉を受けた彼は、貪欲だった。
激しく抜き差しを繰り返し、私の意識を断続的に奪っていく。
痛み、疼き、快楽、切なさ。
代わる代わる訪れる感情のうねりに、いつしか頭が何も考えられなくなっていく。

理性なんていう堰は簡単に決壊して、残ったのは、「気持ちいい」ということだけだった。
「あっ、そこ、そここすっちゃ、やああ、きちゃう、ばかになっちゃう、きもちよく、んあっ」
「簿、僕ももう、無理だっ、あつくて、で、でるぞぅ」
お互い何を言ってるのかわからないけど、けど、「気持ちいい」のは確か。
だからいい。
これでいい。
「うっ、うぉ」
――あ。
刹那の静けさの後、彼と私は同時に達した。
体の奥底に注がれる熱い液体は、疼いている場所を焦がし、満たしていく。
私の小さな体では抑えが利かなくて、簡単に溢れ、おむつの水溜りの中に零れ落ちた。
と同時に聞こえる水音。
体の力が抜けて、残っていたおしっこが漏れ出てしまったみたいだ。
腰も抜けてしまい、服も彼も汚してしまうのを、止められなかった。
「ごめんなさい……わたし――」
謝ろうと口を開くのと同時に来る、強烈な眠気。
力を失って抗うこともできずに、起きたら彼に謝ろうと決めて、瞳を閉じる。
その時聞こえる、彼の音。
それが私と重なると、すごく気持ちいい。
堕ち行く意識の中で、私は満足しながら反芻する。
――知らなかったな、こんな気持ち。

肩越しに聞こえる、穏やかな寝息。
確かな重みは、彼女が安心している証。
ゆっくりと体から抜いてあげると、ごぼぼっと精液が逆流する。
零れた精液は、おむつの上で水飛沫を上げる。
ツンとする匂いが病室内に広がり、僕を一気に現実へと引き戻させた。
――えっと、どうしよう、これ……
目の前の惨状にあたふたしてしまうが、ベッドとは少し離れたところに彼女が持ってきたのか、見慣れぬトートバックが置いてあった。
彼女が汚れないようにおむつをどけてから、自分のベッドの上に眠らせる。その後トートバックの中身を確認すると、やっぱり換えのおむつやらがいっぱい入っていた。
そのことに少しだけ安堵して、すぐさま彼女に新しいおむつを充ててあげた。来ている服は色んなところが汚れてしまっているが、さすがに替えは入ってなかった。
一通り身支度を整えてあげると、彼女はゆっくりと目を覚ました。むくりと起きあがり、数度瞬きをしながら辺りを見回している。

寝惚けたように半眼で僕のことを見ると、ようやく思い出したのか瞳が大きく見開いた。
「あ、えっと、うりゅ君……その」
途端に顔が真っ赤になり、口ごもる。何か言いたげだったが、それよりも重要なことを彼女に言った。
「えっと、今日はありがとう。で、そろそろ病院の見回り来ちゃうから……」
「――あ、えと、そうだね。ごめん……今日は、わたしこそ、ありがと。――じゃ、私、行くね――バイバイ」
最初は困惑していたが、途中で合点がいき、慌てたようにベッドから下りた。
目を逸らし気味に一礼すると、軽く手を振り、足早に部屋から立ち去ってしまう。
ちょっと名残惜しいけど、今は仕方ない。
手術が終わったら、また会えるだろうし。
さっきの余韻を反芻しながら、気持ちよくベッドの中に入る。
さっきまでの不安はどこへやら。今日はゆったり眠れそうだ。
目に焼き付いた彼女姿を思い浮かべ、僕はゆっくりと床に就いた。

それが、僕が病院で彼女を見た、最後だった。

「本当にうちの子が、お世話になりました」
そして、僕の退院の日。
あの時のことはバレなかったけど、あれからずっと真莉亞には会ってない。
手術が成功したかどうかも、聞く勇気は持てなかった。
ただあの病室に言っても、そこには空のベットがあるだけだった。
今日も何だか名残惜しくて、また彼女の病室に足を運ぶ。
けどそこはもう、誰の名前も書いてはいない。
あるのは整えられたシーツと、誰もいないベッド。それだけだった。
彼女の残り香も、清潔なベッドからは感じられない。
それが何だか虚しくて、居た堪れなくて外を眺めた。
今日も生憎の梅雨空で、僕の心のように晴れ間は見当たらない。
下を見ると、中庭で咲いていた花々は、もうすぐ別の季節のものに変わりつつあるようだ。
時間は、彼女と僕を置いて着実に進んでいた。
そして僕もまた、彼女を置いて進みだす。

最後に主治医と挨拶し、病院を出る時だった。
母さんが先に行きタクシーを捕まえて、僕は呼ばれて外に出る。
と同時に誰かが、病院に駆け込んできた。
彼女に似た、髪の長い女性だった。
前髪に覆われているせいか、表情までは窺えない。
胸に見たことある模様のトートバックを抱えていて、綺麗な茜地の和服が上の部分を覗かせていた。
――彼女の親族だろうか。
そんなことを思いながらその女性とすれ違った。
頬に当たる雫。
気になって振り返った時には、もうその姿は遠くに消えていった。
――泣いて……?
触れた雫を拭うと、同時に頭に水滴が当たる。
地面にもポツリポツリと模様がつき、それはやがて辺り一面を濡らし始めた。

「ほら、何してるの!」
母さんは呆れながら僕の腕を引っ張り、タクシーの中に押し込む。タクシーはすぐさま発車し、病院をぐんぐんと小さくしていった。
「全く、また病院行きになったら困るのよ、もう」
母さんがタオルを出しながら、僕の体を拭いていく。
その時漸く僕は、現実に、元の僕の世界に戻ったことを知った。
気づかぬ間に、頬を一筋の雫が流れ落ちる。
体を拭き終わった母さんが、それを見て不思議がりながら聞いた。
「なんで泣いているの?流ちゃん」
そこでようやく雫に気づき、僕は強がるように微笑みながら答えた。
「違うよ。――ちょっと、ふられただけだよ」
                       おわり 

メンバーのみ編集できます