おむつ的妄想新代理保管庫 - それぞれの道
 念願の二人暮らしを始めて三ヶ月。
 大学近くのマンションのベランダで、みなみは洗濯物を干していた。
 小さな布を広げ、緩んだ顔でうっとりと見つめる。
 洗う前にもこっそりと匂いを楽しんだその下着は、同居している親友のものだった。
「んふぅ、かわいいなぁ・・・」
 同性の下着に対して抱くには、いささか危険な感想を呟く。
 みなみはしばらくそのまま下着を握り締めていたが、やがて我に帰って作業を続けた。
 引き締まった体をしなやかに弾ませながら、楽しげに洗濯物を干していく。
 高校時代には陸上部の主力だった少女は、ショートカットの髪とすっきりした顔立ちから、
快活なイメージばかりが強い。
 意外と家庭的な面があるのを知るのは、ごく親しい友人だけだった。
「みなみ!」
「ん?」
 部屋に飛び込んできた透き通った声に、みなみが干しかけの下着を手に振り返った。
 わたわたと部屋に飛び込み、焦った様子で自分を探す少女に声を返す。
 背中まである柔らかな茶髪を揺らしてうろつくのは、幼稚園時代からの親友。
 今はルームシェアの相方ともなっている相良麻尋だった。
 勝気な性格が出ているが、造形は整っており、黙っていれば男の視線を釘付けにする。
 細身で胸が少しだけ残念な感じだが、十分に女らしいシルエットを持ち、
声を掛けてくる男には不自由しないらしい。
 ただ多くの男は、その容赦の無い舌鋒と鋭い視線に腰が引けるらしく、
付き合うに至った例はいまだにない。
 みなみに言わせればあれこそが麻尋の一番の魅力なのだが、
それはM気質を隠し持つが故の意見だろう。
 あの冷たい瞳に睨まれ、容赦の無い言葉を投げつけられたら、
堪らない快感が背中を走るに違いないと思っている。
 とはいえ、そんな願望は付き合いの長い親友に明かせるものではなかった。
 目覚める前からの付き合いが、その願望を押さえつける。
 できるのは、他人に向けられ無い甘えた声と表情に満足することだけだった。

「麻尋、どしたの?」
「み、みなみ! ど、ど、どうしよう!?」
「ちょ、ちょっと。落ち着こうよ」
 てんぱった様子の少女を、両手で宥める。
 手近にあったクッションに座らせ、いっしょになって深呼吸をする。
「で、どしたの?」
「あのっ、あのねっ! あの・・・」
 不意に声のトーンが落ちた。ほのかに赤くなって口ごもる。
 首を傾げたみなみの前で、麻尋は指をもじもじと絡め、消えそうな声で呟いた。
「告白・・・されちゃった・・・」
「へ・・・?」
 今更な話だった。なにしろ見た目がいいものだから、言い寄ってくる男は数多い。
 その全てを冷たく睨み、鼻先で笑い飛ばしてきたのが、麻尋の恋愛遍歴のはずだった。
 高校時代には、みなみとあまりに仲良くしていたこともあり、
レズだとの噂が流れたこともある。
 それなのに、今回に限ってこんな態度を見せるのは、明らかに不自然だった。
「相手は?」
 麻尋の態度がおかしいのは、告白の相手が理由だろう。
 大体見当はついているが、念のために確認する。
「あの・・・、晃揮・・・なの」
「はぁ、やっぱりねぇ」
「な、なによ、やっぱりって?」
「麻尋がそんなふうになるなんて、立木くん以外にありえないもん」
 高校時代の同級生で、今は同じ大学に通っている男子。
 ごついというほどではないが背が高く、やや面長だがそこそこ見られる顔をしている。
 一番の特徴は精神的な打たれ強さで、麻尋の容赦ないもの言いを平然と受け流していた。
 その頃から互いに憎からず思っている雰囲気はあったが、
結局思い切れないまま高校を卒業し、今にいたっている。
「なんで今更?」
 それは当然の疑問だった。
 高校時代にずっと麻尋とつるんでいながら、晃揮は微妙な距離を取り続けていた。
 それがどうして、ここにきて踏み切ったのだろう。
「わかんないよ、そんなの。ああー、どうしよ、どうしよっ!」
 頭を抱えて丸くなる。
 麻尋がどうしたいのかは、判っていた。その後押しをしてあげるべきなのも判っている。
 だが同時に、どうして困っているのかもみなみは知っていた。
 それを利用して、二人の邪魔をしたいと願う自分の本心と共に。
「おねしょの話はした?」
「できるわけないでしょっ!?」
「でも、隠し切れないよ? 一緒に朝を迎えることだってあるだろうし」
「だから困ってるんじゃない!」
 晃揮からの告白が、嬉しくないはずが無い。
 外見だけでなく、中身までを理解した上で、それでも離れなかったただ一人の男。
 わがままの全てを受け入れ、時に受け流し、たしなめてくれた少年。
 単なる友達でなく、一組の男女となれたらと、すっと願っていた。
 だが、その日が目の前に来ると、単純に喜べない自分がいた。
 みなみだけが知っている、麻尋の秘密。
 大学に入ってなお続く夜尿症が、大きな問題となって立ちはだかっている。
「うぅ、言えないよぉ。おねしょなんて、ぜったい嫌われちゃう」
 そもそも、友人を作らないのも、男を近づけないのも、それが理由だった。
 隠すために攻撃的になり、敵を増やしたが故によけい隠さざるを得なくなる。
 そのスパイラルの中にあって、晃揮という特異な要因は、対処に困るものだった。

「返事はいつするの?」
「決めてない。しばらく待ってとだけ言ってある」
「立木くんはなんて?」
「三年言うのを躊躇った。三年待っても構わないって」
「はぁ、立木くんらしいなぁ」
 人のいい笑顔が頭に浮かんだ。晃揮なら、本当に三年でも待っているだろう。
「でも、そんなに待たせられないでしょ」
「うう・・・、どうしよう。みなみ、どうしたらいい?」
「麻尋は、立木くんとお付き合いしたいんだよね?」
「・・・うん」
「じゃ、特訓だ!」
 高々と右手を突き上げて宣言する。
 陸上部時代の血が騒ぐのだろう。瞳が決意に燃えている。
「とっくん? なにを?」
「決まってるでしょ。おねしょを治す特訓だよ!」
「無理・・・だよ。ずっと治らなかったんだよ? ずっと隠してきたんだよ?」
「そんなの知ってるよ。でも、今回は今までより必死になれるでしょ?」
「それは・・・うん、もちろん・・・」
「わたしも手伝うから。うーん、燃えてきたあっ!」
 この機会に、押さえていた願いを叶えてしまおう。
 晃揮に奪われる前に、麻尋の全てを自分のものにしてしまおう。
 そんな本心を隠し、拳を握って立ち上がる。
 みなみの内心を知らない麻尋は、当事者以上の決意を見せる親友を唖然と見上げていた。


「み、みなみ。なに、これ?」
 その日の夜、就寝前に部屋を訪れたみなみが、大きな包みを床に置いた。
 ビニールパッケージに書かれた文字とイラストに、麻尋が真っ赤になって問いかける。
「ん、紙おむつだよ?」
 問われたほうは、平然と答えた。ビニールを破いて一つを取り出し、拡げてみせる。
「なんでそんなの持ってくるの?」
「特訓その1だよ」
「え・・・?」
「麻尋は今日から、これをつけて寝るの」
「ええーっ!?」
 妥協の無い宣言に、全力で首を振る。
 だが、みなみは容赦なく麻尋の腰に手を伸ばし、柔らかなパジャマを引きずり下ろした。
 夜用の下着として身につけていた、パンツタイプの紙おむつが顔を見せ、
麻尋が両手でそれを隠す。
「こんなのに頼ってちゃダメ! いつまでも治らないよ!」
「だったら、オムツでもいっしょじゃない」
「違うんだなー、これが。んふふぅ」
 不気味な笑い声に、背筋が冷えた。
 そおっと後ろに下がった麻尋の腰に、みなみが両手でしがみつく。
「麻尋はこれに慣れちゃってるからダメなの。おねしょしても、
 脱いでシャワーで終わりでしょ? おむつだって、平気でゴミ箱に捨てるし」
「だって、燃えるごみだし・・・」
「わたしに見られて恥ずかしくないっていうのが問題なの」
「だって、みなみは知ってるし・・・」
「そうじゃなくて、おねしょは恥ずかしいっていう、基本に戻ろうってこと」
「そりゃ・・・恥ずかしいけど・・・」
 俯いてぼそぼそと呟く。

 もともと、おねしょを気にしないようにと言ってくれたのは、みなみだった。
 おねしょのせいで全てに自信を失っては、あまりにつまらない。
 シャワーを浴びて切り替えるというのも、みなみに教えられた方法だった。
 それをいきなり否定され、麻尋の声に不満が篭っている。
「確かに、気にしないでって言ったのはわたしだよ。でも、今は状況が違うもん。
 治すのが最優先でしょ」
「・・・うん」
「だから、おねしょに抵抗を感じるようにしようよ。麻尋だって、これはいやでしょ?
 恥ずかしいでしょ?」
「嫌! ゼッタイいやっ!」
「だから使うの。嫌だったら、しないようにって思うでしょ?」
「だからって・・・」
「それと、おむつはわたしがあててあげる」
「いっ! そ、それはだめっ!」
「これも特訓メニューだよ。おねしょしてたら、お仕置きもするからね」
「やだーっ! そんなのやだっ!」
「そんなだと、わたしにも考えがあるよ?」
 みなみが声を落とし、麻尋を見上げた。
 真剣な表情に気を飲まれ、おねしょパンツを晒した麻尋が固まり、親友を見下ろす。
「おねしょのこと、立木くんに話しちゃうから」
「ひ、ひどいよ、そんなの!」
「治すつもりがないんでしょ? だったら話すしかないじゃない。
 それで嫌われるなら、仕方ないと思うよ?」
「う・・・うぅ。そんなの・・・いや」
「じゃ、特訓しようよ」
 打って変わった穏やかな声に、麻尋が縋りつくような瞳を向ける。
 優しくうなずいたみなみが、麻尋の腰に手を添えた。
「特訓、する?」
「・・・うん」
「厳しくするよ。麻尋のためだし」
「あぅ・・・」
 目の前にしゃがんだみなみが、ゆっくりと紙パンツを下ろした。
 同性相手とはいえ、見せ付けるような場所ではない。
 薄い毛に飾られた割れ目をまともに見られ、麻尋が真っ赤に染まっている。
(んふぅ、かわいいなぁ・・・)
 スリットを隠し切れないでいる薄く柔らかい陰毛。
 身長こそ人並みだが、胸もここも未成熟な麻尋が、かわいくて仕方ない。
 思わず見とれてしまうが、そんな内心を見抜かれてはやりにくくなってしまう。
 これからの楽しみだと自分にいい聞かせ、ゆっくり背中を向ける。
「じゃ、こっちに来て」
 紙おむつを床に広げ、麻尋を手招く。
 両手で股間を隠し、背中を屈めた少女は、自分の為に用意された紙おむつを、
情けない顔で見下ろした。
「ほら、早く」
「うぅ・・・」
 おねしょをすると知られていても、やはりおむつは恥ずかしいらしい。
 麻尋は顔を真っ赤に染め、股間を隠しながら尻を着いた。
 紙おむつの柔らかさにほうっと息を吐き、視線を感じて表情を消す。
「倒れて・・・っていうより、こうだよね」
 にんまりと企んだ笑みを作り、わざわざ言い直す。

「麻尋ちゃん、ねんねしようねぇ」
「み、みなみっ! ふざけないでよっ!」
「ふざけてないよ。おねしょが治らないような娘は、赤ちゃん扱いされて当然でしょ?」
「ひ、ひどいよ・・・」
「おねしょを治そうって気になるでしょ?」
 拗ねた親友ににっこりと笑う。そう言われては、受け入れざるを得ない。
 麻尋は不満げに唇を尖らせ、ゆっくりと背中を倒した。
「おむつするよ。ほらぁ、あんよ開いてぇ」
「ううっ・・・」
 屈辱的な扱われ方だった。
 おねしょなどという秘密を持っているが故に、麻尋はかえって自尊心が強い。
 みなみにとはいえ、これほどの侮辱を受けて平気ではいられなかった。
 固く握った拳を震わせ、必死に自分を押さえる。
 それでも少しずつ足を開いたのは、これを試練として受け入れたからだろう。
 麻尋がきつく目を瞑り、唇を噛みしめる。
 それを見下ろすみなみの目には、尋常ではない昂ぶりが宿っていた。
 麻尋の屈辱的な姿に、気持ちを押さえきれなくなっているらしい。
 Mの気が強いみなみだが、それだけに他人が虐げられる姿に興奮を覚えるらしい。
 いま麻尋が目を開けば、親切めかしていた親友の、本当の姿を見ることになっただろう。
「はーい、いい子いい子。じっとしててね」
 肩幅ほどに開かれた膝が、ふるふると揺れている。
 足元に回って見上げるそこは、堪らない絶景だった。
 まだ幼さすら感じさせる綺麗な秘肉。
 うっすらと口を開いた女の場所を、じっくりと堪能する。
「みなみ・・・まだ・・・?」
「あれぇ? おむつを我慢できないの?」
「ちが・・・。恥ずかしくて・・・」
「おむつが早く欲しいんだね? ふぅん」
 意地悪く言いながら、おむつを股間に通す。
 柔らかく厚ぼったい紙に股間を覆われながら、思わず安堵を浮かべていた。
 そんな自分に気づき、麻尋が改めて顔を赤くする。
「はい、できたよ」
「・・・うん」
 体を起こし、自分を見下ろす。オムツに包まれた己の情けなさに、涙が滲んだ。
 唇をかみ締める友人を見つめながら、みなみはパジャマのズボンを畳む。
「みなみ、パジャマ返してよ」
「ダメダメ。そのままで寝るの」
「ま、丸見えじゃない」
「おねしょが治ったら返してあげる」
 何を言っても、そう返されてしまう。卑怯といえばそうだが、有効なのは確かだった。
 今度も麻尋は黙り込み、上着の裾を引っ張っておむつを隠そうとしている。
「おねしょをするたびに、ちょっとずつ恥ずかしいことをしてもらうからね」
「な、何をするの?」
「どんどん赤ちゃんになってもらうの。何をするかは、その時のお楽しみ」
 言うほうは楽しげだが、聞くほうは暗い顔で俯いていた。
 そんな親友を笑顔で抱き起こし、ベッドに連れて行く。
「明日から、昼にも特訓するから。そのつもりでいてね」
「・・・うん」
「お休み、麻尋ちゃん」
 ベッドに寝かせ、毛布をかける。
 オムツに膨れた股間の上をぽんぽんと叩き、みなみは部屋を出て行った。
 残された麻尋は、現実から逃げ出すように目をつぶり、程なく眠りに落ちていった。