おむつ的妄想新代理保管庫 - それぞれの道4
「う・・・く・・・」
 言葉も無く抱き合う二人の耳に、くぐもった声が届いた。
 忘れていたというより、無視していたのだろう。
 麻尋が眉をひそめてみなみを窺い、縋る瞳を睨みつけた。
「どうした。顔色が悪いぞ?」
 薄く汗を滲ませながら、落ち着き無く体を揺すっている。
 その態度がなにを意味するか知りながらも、晃揮は殊更に問いかけた。
 みなみが悔しさに歯噛みし、鋭くにらみ返す。
「言いたいことがあるなら言えよ。聞くだけ聞いてやる」
「・・・トイレに」
「トイレに行くような事情があるのか?」
 嘲りの声にも反撃できない。晃揮だけでなく、麻尋までもが薄笑いを浮かべている姿に、
悔しさに歪んでいた顔に涙が滲む。
 それでも、今までの友誼にすがるしかなかったのだろう。
 みなみは上目で麻尋をみつめ、膝立ちになって近づく。
「お願い、麻尋。もう、限界なの」
「そのためのおむつでしょ?」
「やだ。やだよ、お漏らしなんて・・・」
「あたしと違って、我慢ができるんでしょ? 我慢すればいいじゃない」
「もう・・・無理。無理なの。ねえ、トイレに行かせてよ。トイレでさせてよ!」
「うーん、そうだねぇ・・・」
 受けた仕打ちを思えば、許す理由はどこにも無い。
 それでも考え込んだのは、この優位をどう活かすか決めかねたからだろう。
「まず、トイレでなにをするのか、説明してもらおうかな」
「そんなの、決まってるじゃない!」
「どう決まってるの?」
「おしっこだよ! おしっこするに決まってるでしょ!」
 男の前で口にするような言葉ではない。
 みなみは固く目をつぶり、吐き出すように叫んでいた。
 その姿に麻尋が薄く笑い、晃揮が目をそらす。
「なに考えてんの?」
「いや、別に・・・」
「正直に言ってよ。怒らないから」
「まあ、なんと言うか・・・。女のトイレってのは、男からすると、そそるというか、
 興味が湧くというか・・・」
「へえ、見たいんだ」
「いや、あのな。トイレでしゃがんでる姿とか、堪らんわけだよ、男としては」
 あくまで一般論だと言いたいのだろうが、偏向した趣味なのは否めない。
 麻尋のジト目に居心地悪く身じろいだ晃揮は、わざとらしく咳払いをし、後ろに下がる。
 そんな姿に微笑を浮かべた麻尋が、荒い息を吐くみなみを振り返った。
「じゃあ、ちょっと見せてあげてよ。おトイレでどんな風にしてるのか」
「や、やだよ・・・」
「しゃがむだけでいいよ。その格好で一分我慢したら、トイレに連れて行ってあげる」
「約束だよ」
 今、そんな姿勢を取れば、漏れかねない。だが、それを乗り切ればトイレに行ける。
 それだけを心の支えに、みなみは麻尋の前に立った。
 肩幅に足を開き、そのままゆっくりしゃがんでいく。
 こんもりと膨らんだおむつの股間を晒し、じっと和式での放尿ポーズを取り続ける。
「これで満足?」
「い、いや、まあ・・・」
 腕を組み、冷たく睨む麻尋の前で言葉を失う。
 それでも視線はみなみを窺い、男にとっては酷く卑猥で魅惑的なポーズを観察していた。

「ねえ、早くトイレ!」
「ん、そうだね」
 晃揮の目を奪われるのが嫌なのだろう。
 まだ一分は経っていないが、みなみの求めに大きく頷く。
「おいでよ」
「あ、ありがとう」
 半信半疑でいたのだろう。
 先に立った麻尋がドアを開くと、みなみは驚きながら立ち上がった。
 歩くのも辛いらしく、顔をしかめてゆっくりと足を踏み出す。
(もう・・・ちょっと・・・)
 麻尋がトイレのドアを開いて待っている。
 あそこまで行けば、見られはするだろうが、ちゃんとトイレで用を足せる。
 一人の女として、最低の姿を晒さなくて済む。
「麻尋! 早く外して!」
「外す? 何を?」
「お、おむつだよ! このままじゃおしっこできない!」
「できるでしょ?」
「何で? 酷いよ! トイレに行かせてくれるって約束だったじゃない!」
「だから、連れてきてあげたじゃない」
「トイレでさせてくれるって・・・」
「言ってないよね。連れて行くって約束しかしてないはずだよ」
「あ・・・」
 凄惨な笑みに、絶望を浮かべる。
 最初からそのつもりだったのだろう。
 麻尋はみなみを便座に座らせ、晃揮と並んでその姿を見つめた。
「で・・・ちゃう。もう・・・漏れちゃう・・・」
 あふれ出た涙が頬を伝う。
 拭うことも、顔を覆うことも出来ない少女は、用を足すための場所に座りながら、
屈辱的な排泄に追い込まれていた。
 唇をかみ締め、恨めしげに麻尋を睨みながら、細かく震えている。
 だが、瞳の奥には歓喜が潜み、苦悶の喘ぎに甘さが混ざり始めていた。
 忌まわしく、恥ずかしいからこそ感じる甘美さ。
 あれほど嫌がり、拒んでいた行為に潜む快楽に、気づき始めていた。
「う・・・うぅ・・・」
「んー、でてるのかなぁ?」
 涙を零しながらも、かろうじて堪えていた顔が歪む。
 小さな部屋に嗚咽を響かせるみなみの姿に、破綻を確信しながらも麻尋が首をかしげた。
 膨らんだ股間に片手を伸ばし、確かめるようにしっかりと押さえる。
「ああ、出てるね。暖かくなってる」
「う・・・うぇ・・・え・・・」
「どう、トイレに座りながらおむつにする気持ちは?」
「うっ、うああっ! こんなの! こんなのおっ!」
 あまりの屈辱に取り乱し、麻尋に頭突きを食らわせる。
 こんなことをされて感じた自分を許せなかったのもあるだろう。
 不意をうたれた少女がよろめき、晃揮が慌てて背中を支えた。
「なにすんのよっ!」
「だって! だってえっ!」
 みなみの髪を掴んで立たせる。睨みつける瞳には、もう憎しみしか残っていなかった。
 泣き叫ぶみなみを引っぱり、自室の布団に突き倒す。
「さーて、お漏らしおむつを外さないとね」
 鈍く痛む胸を押さえ、揶揄に満ちた声を叩きつける。
 晃揮がみなみの背後に回り、肩をふとんに押し付けた。
 暴れる足に手こずる姿を見かねたか、腕を伸ばして右足を抱える。
 麻尋は左足を開かせて跨り、尻で押さえつけた。

「お漏らしをじっくり観察してあげるからね」
「やだ・・・。見ないでよ。許してよ・・・」
「あたしがそう言ったとき、許してくれてればねぇ」
 やられたことをやり返しているだけだと告げる。
 文句はその時の自分に言えと、強い瞳が語っていた。
「さぁて、どうなってるかなぁ?」
「ひっ、いっ、やあっ!」
 二つのテープのうち、右側を摘む。
 わざとゆっくりそれを剥がし、反対のテープに手を伸ばす。
 鈍く響く剥離音に、みなみが顔を青ざめさせ、緩やかに首を振った。
 これを開かれたら見られてしまう。この恥辱に、この屈辱に、昂ぶり濡れる女の場所を。
「ふふっ」
 テープを外し、左右の羽を開く。
 隙間から零れるおしっこの臭いに、思わず笑みが零れていた。
 自分が見られていた姿を、とてつもなく惨めで無力な姿を、みなみにさせられる。
 密かに自分を見下し続けていた相手を、同じ目にあわせてやれる。
 その興奮が手を震わせ、息を乱した。
「もう、これだけだよ。すぐにみなみの恥ずかしいところが丸見えになっちゃう」
「あ・・・あぁ・・・」
「晃揮も楽しみにしてるよ。さ、見てもらおうね」
「や・・・だ。やだよお・・・」
「・・・あたしだって嫌だけどね」
 恋人の目の前に、他の女を晒すのは嫌に決まっている。
 小声での呟きに晃揮が肩を竦め、さりげなく目線をそらした。
 上目でそれを確かめた麻尋が、ほのかに頬を緩めて前あてを開いていく。
「おしっこの臭いがすごい。おむつも重たいし、たくさん出したんだね」
「やああっ! 見ないで! 見ないでよおっ!」
「うわ、まっ黄色。すごいなぁ・・・」
 我慢ができないせいか、麻尋のおしっこは量が少なく色も薄かった。
 それに比べると、みなみのおむつは色も臭いもずっと強い。
 恥ずかしさにみなみの全身が赤く染まり、叫ぶ声が枯れていた。
 だが、麻尋が見つめるその先で、みなみの股間は雫を垂らし、淫猥に口を開いていた。
「で、お漏らししたらお仕置きだったっけ?」
 妙な気持ちになりかけた自分を押さえ、殊更に意地悪い声を出す。
 怯えるみなみを立たせた麻尋は、晃揮の助けを得てうつ伏せにさせた。
 膝を突かせ、尻を突き上げさせる。
「そういえば、おしっこが好きなんだったね」
 顔と肩で体を支えるみなみの姿に、何かを企んだらしい。
 麻尋は汚れたおむつを拾い上げ、それをみなみの目の前に置いた。
 晃揮にみなみを持ち上げさせ、それを顔の下に敷く。
「ひっ! 外して! 汚い! 汚いっ! ぐっ、ごほっ!」
 湿ったおむつに押し付けられ、みなみの顔が嫌悪に歪む。
 染み出したおしっこに頬を濡らし、強い臭いに咽せて咳き込む。
 そんな姿を冷たく見下ろす麻尋が、無慈悲に頭を押さえつけた。
「おしっこがすきなんでしょ? たっぷり愉しめばいいじゃない。ほら、ほらっ」
「んぐっ! ぐっ、自分のはイヤ! ごほっ! こんなのっ、は、イヤ・・・なのっ!」
「じゃあ、ちょっとだけ我慢しなさい。十回叩いたら許してあげるから」
 みなみの反応に満足を浮かべ、お尻へと回る。
 高く突き上げられた尻を撫で、手を振り上げた麻尋は、太ももを伝う雫に手を止めた。
 嫌がっているが、みなみの体は悦んでいる。
 そんな姿を目の当たりにし、改めて嫌悪を浮かべる。

「ほんと、最悪」
「はや・・・く。早く、終わりにして・・・」
「判ってる。あたしだって、さっさと終わりたいよ」
 解放を願っての言葉が、催促に聞こえた。
 音高く舌打ちを響かせた麻尋が手を振り下ろし、白い臀部を平手で打つ。
 鋭く高い音が響き渡り、みなみが息をつめて歯を食いしばった。
「どんどんいくよ」
「ひぎっ! ぐぎい! いひっ!」
 食いしばる歯の間から、聞き苦しい悲鳴が零れる。
 だが、スパンキングが五回を超えたところで、声の中に甘い響きが篭り始めた。
 股を伝う雫は量を増し、瞳にも陶酔が浮かんでいる。
「なに・・・こいつ・・・」
「・・・ねえ、あと五回だよね・・・」
 思わず手を止めた麻尋に、こんどはあからさまな催促がなされた。
 性癖を隠す必要を無くしたのか、ここにきて受け入れたのか、
みなみは痛みを求めて尻を振り、麻尋に惚けた顔を向けている。
「晃揮っ!?」
「・・・とりあえず、五回打ってやれ」
 麻尋は気味悪さに竦み、怯えた顔で首を振る。
 肩を竦めた晃揮が、代わりにみなみの背後に回り、柔らかい尻に手を当てた。
「代わりにやってやる。ちょっときついかもしれんがな」
「はぁ・・・、お願い・・・します」
 被虐に浸る少女が、尻を突き出した。
 晃揮は軽く振りかぶり、スナップを効かせて尻を打つ。
 麻尋のときより鈍い音が響き、みなみの体がぐらついた。
「難儀な奴だな。尻がこんなに赤くなってるのに、なにを悦んでる?」
「痛いけど、痛いけど・・・気持ちいい。臭くて、恥ずかしくて、情けなくて、
 だけどすごく気持ちいいの・・・。なんでなの? どうして、わたし・・・?」
「マゾなんだよ、お前は。自分でも気づいてたんだろ?」
「そうかもって思ってた・・・。だけど、ちょっとMっぽいだけで・・・」
「そんなわけがあるか。ドMだ、お前は」
 決め付けて、さらに一発叩く。
 その瞬間こそ耐えるが、すぐうっとりと目を細め、尻の熱さと痛みを愉しみ始める。
 そんなみなみに晃揮が呆れ、麻尋は軽蔑をあらわにした。
「これで終わりだ!」
「ひぐっ! うぅ・・・ぁ・・・」
 ひときわ強いスパンキングを受け、みなみが体を強張らせた。
 ぶるぶると震え、不意にぐったりと倒れこむ。
 荒い呼吸と満ち足りた惚け顔が、みなみの絶頂を物語っている。
 尻を叩かれて達したかつての親友を、麻尋は気味悪そうに見下ろし、
困り顔で晃揮に寄り添った。
「ねえ、こいつどうしよう?」
 報復の熱狂が、異常な性癖に醒まされてしまった。
 冷静さを取り戻して考えると、みなみの始末は問題が多い。
 このまま一緒に暮らす気にはなれないが、かといって野放しにするには、
麻尋の秘密を知りすぎている。
「逆らえないようにして監視するしかないだろうが・・・」
「やだよ、毎日こんなことするの」
「俺もだ。ここまで来ると、俺の手には余る」
 もともとSの気は持っている。
 逆上していたとはいえ、そうでなければみなみにあんなことはできなかっただろう。
 だが、麻尋のおむつぐらいは受け入れられるが、あまりディープなプレイは荷が重い。
 みなみを満足させ、従属させるのは難しいだろう。

「手が無いことはないが・・・」
「どんなの?」
「知り合いにこういうのの相手が得意そうな奴がいる」
「・・・どんな知り合い?」
 問いかけてくる声が冷たい。
 常識的に考えて、あまりまっとうな付き合いではないと感じたのだろう。
 思い当たる節が無いわけでもない晃揮としては、非常に居心地が悪い。
「その手のゲームをやり込んでるんだ。たまーに、軽めのやつを借りるんだがな」
 できるだけ傷を小さくしようとしてみたが、やはり無理があった。
 いわゆるエロゲーというものに対し、女性が寛容である理由は何一つ無い。
 案の定、麻尋は冷めた目で晃揮を見やり、この変態がという言葉を喉にまで上げていた。
「いや、ほんとにたまにだ。それも、ごく一般的なやつでな・・・」
「そのお友達がやってるのに比べれば・・・だよね?」
「・・・もうやらないから、許してくれ」
 観念して頭を下げる。こういうとき、女に対しては素直に謝っておくに限る。
「まあ・・・ね。今まではあたしも相手をしてなかった訳だし・・・」
 性欲盛んな年頃に、発散対象を求めるのは仕方ないと判ってはいるのだろう。
 釈然としないものを感じながらも、しぶしぶといった感じで妥協する。
 何とか破滅を免れた晃揮は、おむつに顔を乗せて惚けている少女の傍らに、
真顔でしゃがみ込んだ。
「さて、久留米」
「んあ・・・?」
 涎に汚れた顔が上げられ、濁った瞳が開かれる。
 晃揮は麻尋を傍らに抱き寄せ、ゆっくりと語りかける。
「お前みたいなド変態の相手は、俺や麻尋には荷が重い」
「変態・・・? わたし・・・?」
「自覚がないのか? 自分のションベンに塗れてイクような女のことを、そう呼ぶんだよ」
「変態・・・、わたし、ドMで・・・」
 自分の振る舞いを思い出したのだろう。真っ青になり、ぶるぶると震える。
 だが、吐く息は熱く乱れ、乳首も固く尖っている。
 思い出すだけで、体が昂ぶり始めているらしい。
「責めて欲しいんだろう? 罵って欲しいだろう? 痛めつけられ、拘束され、汚される。
 そんな自分を想像すると堪らないだろう?」
「うあ・・・」
 言われているだけで、心臓が高鳴った。
 冷静に考えることなどできず、思わず足を開いてしまう。
 自分の全てを見て欲しい。欲望に溺れる姿を見て欲しい。
 その欲求に抗いきれず、足を開いて全てを晒す。
「さいってー・・・」
 吐き捨てる麻尋の声に、びくりと震える。
 蔑みの言葉を褒美とするマゾヒストがそこにいた。
 麻尋は晃揮の目を塞ぎ、自身は不機嫌に目をそらした。
「この通り、俺はお前の相手をできない。麻尋もそんな趣味はない。
 で、どうするかという話になる」
 訪れた沈黙に、みなみが怯えた。
 マゾとしての自分を突きつけられた今、二人に捨てられては行き場がない。
「幸い、知り合いにお前みたいな女が好きな奴がいる。どうしてもと言うなら、
 紹介してやるぞ」
「え、Sの人?」
「ドSだ。お前がどんな目に会うか、俺には全く想像できん」
「あ・・・あぁ・・・」
 予想も出来ない責め。その言葉に怯えながらも、昂ぶっていた。
 返事を待つまでもありはしない。晃揮は麻尋に小さく頷き、みなみに笑いかけた。
「すぐに呼んでやる。来るまでの間、もう一度おむつをあてていろ」
 このまま放っておいたら、淫液で部屋が汚れて仕方ない。
 晃揮は麻尋におむつを当てるよう告げ、自身は携帯を手に部屋を出て行った。

 二時間ほどの後、晃揮は一人の男性を伴って戻ってきた。
 中肉中背で理知的な顔つき。丸い眼鏡の下に、人当たりの良い微笑を浮かべている。
 外見に気を使うタイプでは無いらしく、髪は床屋で済ませたままで、
ジーンズにTシャツという適当な格好をしている。
「中沢です。よろしく」
 初対面に備えて、準備をしたのだろう。
 麻尋もみなみもちゃんと衣服を整え、居間で晃揮たちを待っていた。
 さわやかに微笑む中沢の姿に、それぞれスカートを揺らして立ち上がり、頭を下げる。
「いきなりの話で驚きました。どちらがみなみさんですか?」
 柔らかく微笑みながら、丁寧に問いかける。
 その姿からは、とてもサディズムを秘めているとは思えなかった。
 みなみが安堵と失望を混ぜ合わせたような表情で小さく手を挙げ、改めて頭を下げる。
「久留米みなみです。あの、よろしく」
「ええ、よろしく。それで立木、すぐに始めていいのかな?」
「そうしてくれ。いいよな、麻尋?」
「いいけど・・・、大丈夫なの?」
 予想外に紳士的な態度に、失望を覗かせている。
 そんな麻尋に頷きを返した晃揮は、細い体を抱き寄せて壁際のクッションに座った。
「では、さっそく見せてもらいましょうか」
「な、なにを?」
「判りませんか? スカートを捲くるようにと言っているんです」
「・・・そんな、いきなり」
「大体の話はもう聞いてます。面白い趣味をしているそうじゃないですか」
「これは・・・、趣味なんかじゃ・・・」
「趣味だといえるようにしてあげますよ。さあ、見せなさい」
 穏やかな声のままだが、要求が命令に変わっていた。
 静かな微笑の中で、僅かに細められた瞳が強く光っている。
 思いがけない威圧感に、みなみが一瞬惚け、おずおずとスカートに手を下ろした。
 ゆっくりと前を持ち上げ、へそ上までを覆っている紙おむつをさらけ出す。
「あ・・・あぅ・・・」
「ふふ、話には聞いていましたが、変わった下着を使っていますね」
「これは・・・、これは・・・」
「説明してくれるのですか? では、聞きましょう。それはなんという下着です?」
「これ・・・は、好きでしてるんじゃ・・・」
「下着の名前を聞いています」
 穏やかに、しかし毅然と言い訳の声を遮る。
 みなみが怯えを含んだ顔で口をつぐみ、自分を包む紙おむつを見下ろした。
「おむつ・・・です」
「聞こえませんよ」
「おむつです。紙おむつです」
 言いたくない言葉を強いられ、鼻声で答える。
 そんな姿にも中沢は表情を動かさず、穏やかに頷いた。
「どうして履いているんです?」
「無理やりに、イヤだったのに履かされて」
「どうして脱がないんです?」
「だって、勝手に外したら・・・」
「どうなるんです?」
「・・・」
 言われて初めて、外さないようにとは言われていなかったと気づいた。
 当然、罰則など決まっているはずが無い。

「外せるのに、好きであて続けていたんですね?」
「ちがう。そんなのちがう・・・」
「おむつはどうなっています?」
 必死に否定する声を無視し、質問を変える。
 緩やかに歩を進めた中沢がおむつに触れ、じっとみなみを見つめた。
「この中はどうなっているんです?」
「・・・濡れて・・・ます」
「どうしてです?」
「おしっこ・・・したから・・・」
「どうしてトイレに行かなかったんですか?」
「だって、トイレになんて・・・」
「行くなとは言ってないよ」
 中沢のやり方が飲み込めてきたのだろう。背後から麻尋が口を挟んだ。
 その言葉に中沢が満足そうに頷き、みなみが追い詰められて青ざめた。
「トイレに行けたのに、わざわざおむつにしたんですね?」
「・・・知らなかったから」
「聞くまでも無かったんですね? トイレに行けなくても構わない。おむつにすればいい。
 そう思ったんでしょう?」
「そんなこと・・・」
「おむつをあてられ、お漏らしさせられる。そんな惨めな自分に悦びを見出したでしょう?
 耐えながら、漏らしながら、愉しんでいたでしょう?」
「ちがう・・・。そんなことない・・・」
「そうですか?」
「そうだよ。当たり前じゃない」
「では、賭けをしましょう」
 薄く哂いながら、おむつを撫で回す。
 みなみが嫌悪に体を竦め、引きつった顔を背けた。
「このおむつを開いて、あなたが悦びを見せていなければ外してあげましょう。
 ですが、もし濡れていたなら、あなたはこれからずっとおむつです。いかがですか?」
「そん・・・な・・・」
「おむつや失禁で感じるなど、よほどの変態です。あなたはそうではないんでしょう?」
「そう・・・だよ」
「では、見せてもらいましょう」
「ひっ!」
 中沢の手がテープを剥がした。おむつが重力に引かれて開き、床に落ちる。
 黄色い内側を晒すおむつの上で、みなみはスカートを捲り上げたまま立ち尽くした。
「さて、どうでしょうか?」
 聞くまでもありはしない。
 おむつを晒し、言葉で責められ、みなみは隠しようも無く昂ぶっていた。
 おむつをしている間は吸ってくれたが、外されてしまった今、
みなみの雫は太ももを伝い、淫らに光っている。
「よく判りませんね。そこにしゃがみなさい」
「い・・・や・・・」
 口では拒みながらも、体は命令に従っていた。
 その場にしゃがみ、尻を着き、大きく足を拡げる。
 己を晒す喜びに目覚めた少女は、破滅に向うと知っていながら全てを自ら晒した。
「判断は同性に任せましょうか。麻尋さん、どうですか?」
「・・・濡れてるよ。ぐしょぐしょになってる」
 巻き込まれるのは迷惑なのだろう。嫌そうに吐き捨てる。
 その言葉に中沢が不吉に笑い、みなみが絶望に酔った。
「どうしてこれほど濡らしているんです?」
「それ・・・は・・・」
「おむつをあてられ、お漏らしをさせられて、どうしてこんなに濡れているんです?」
「あ・・・あぁ・・・」
「おむつをあてられて、どう思いました? お漏らしした時、どう感じました?
 ここがこんなになるようなことを感じていたんでしょう?」
「は・・・い・・・」

 執拗な言葉に、みなみが追い詰められた顔で頷いた。
 もう言わないでくれと訴えながら、涙を零して頷き続ける。
 だが、中沢は鋭い笑みを浮かべると、更に言葉を重ねた。
「説明しなさい。おむつをあてられたとき、どう感じていましたか?
 立木や麻尋さんの前で、正直な気持ちを話しなさい」
「おむつをあてられて・・・」
 弱々しい声が零れる。自分を失ったような様子で、ぼうっと虚空を見上げるみなみが、
スカートをまくり、股間を見せつけたままでゆっくりと語る。
「すごく恥ずかしくて・・・、すごく情けなくて・・・。なのに、なんだかどきどきして、
 あそこが・・・熱くなって・・・」
「漏らした時はどうでしたか?」
「おしっこ・・・我慢して・・・。痛くて、苦しくて・・・。お漏らしだけはイヤだって、
 ずっと我慢して、できなくて・・・。出ちゃった時は、もうダメだって、
 すごく情けなくなって・・・。おむつが熱くて、あそこが熱くて、おしっこの臭いに、
 なんだかすごく興奮して・・・」
 語りながらもじもじと股を擦り合わせる。そんなみなみに、中沢は穏やかに声を投げた。
「おむつに、お漏らしに興奮したんですね?」
「・・・はい」
「変態ですね。否定も出来ないでしょう?」
「・・・はい。できません・・・」
 涙を浮かべながら、深く頷く。
 言葉だけでみなみを屈服させた中沢を、麻尋が唖然と見つめた。
「認めたところで挨拶をして貰いましょう。まず、裸になりなさい」
「・・・・・・」
 おずおずとスカートを下ろし、自由になった手で上着を脱ぐ。
 スカートを落とし、ブラを外し、上目で中沢を窺う。
「おむつを拾いなさい」
「はい・・・」
 床に広がっていたおむつを拾い上げる。
 汚れた内側を隠すように丸めた女性に、中沢がゆっくりと首を振った。
「見てもらいなさい。あなたが汚したおむつを、立木に、麻尋さんに」
「い・・・やぁ・・・」
「見せなさい」
「ひ・・・ひっ・・・ぅ」
 静かな、しかし強い命令を受け、みなみがおむつを拡げた。
 端を持って体の前にぶら下げ、黄色く染まった内側を見せ付ける。
 自分のお漏らしを見られるのが辛いのだろう。
 みなみの体は真っ赤に染まり、おむつを持つ手が震えていた。
「すいませんが、しばらく付き合ってください」
「・・・うん」
 あらかじめ了解していた晃揮が無言で頷き、遅れて麻尋が了承した。
 二組の視線がみなみを、その前に晒されているおむつを見つめている。
 みなみが泣くのを堪えるような顔になり、口を引き結んで俯いた。
「さあ、お願いしなさい。これから、面倒をかけるんですから」
「これから・・・?」
「さっきの約束を覚えているでしょう? あなたはこれからずっとおむつですよ?
 麻尋さん以外、誰に換えてもらうつもりですか?」
「麻尋に・・・? いや・・・。そんなの、そんなのはいや・・・」
「どうしてです? おむつは好きでしょう? 麻尋さんに見て欲しいんでしょう?
 嫌がる理由がどこにあります?」
「あたしは・・・お世話をする側なの・・・。されるのはイヤ・・・。
 要らなくなるのはいやなの・・・」
「ああ、そういうことですか」
 己の被虐性向を認めながらも、おむつやお漏らしを拒もうとする。
 その理由を耳にし、中沢が大きく頷いた。
 仕方ないといった顔で肩を竦め、やれやれと首を振る。

「それはしかたありませんね」
「え・・・?」
「そんな理由があるのなら無理強いはできません。私はこれで失礼しましょう」
「なん・・・で?」
 思いがけない成り行きに、誰よりもみなみが驚きを浮かべた。
 中沢は穏やかに微笑み、みなみが脱ぎ落とした服を拾い上げる。
「どうぞ」
「そんなの・・・。ここまでしといて・・・」
「おや、どうしました?」
 おむつを見せ付けたまま、立ち尽くしている。
 そんなみなみに微笑を捧げ、中沢が服を差し出した。
 緩く首を振る少女を、意地悪く見つめる。
「服を着ていいんですよ? おむつなんか、もう捨ててしまいましょう」
「い、いやっ!」
 中沢の手が、汚れたおむつを奪おうと伸びた。
 さっきよりも切実な悲鳴をあげ、みなみがそれを避ける。
 そんな反応を予測していたのだろう。
 中沢は悠然と腕を組み、おむつを抱きしめるみなみを見据えた。
「おむつをするのも嫌、捨てるのも嫌。いったいどうしたいんです?」
「し・・・ます」
「はい?」
「おむつ・・・します。ずっと、おむつをあてます」
「いいんですか? 麻尋さんのお世話をできなくなりますよ?」
「・・・もう、いいです。麻尋は、立木くんに任せます。麻尋を守るより、
満たされることが出来たから・・・。気持ちいいことを見つけたから・・・」
「無理をしなくてもいいんですよ?」
「無理じゃないです。おむつ、気持ちいいから・・・。お漏らしが恥ずかしくて、
 ぞくぞくするから・・・。だから、おむつが欲しい・・・」
「そうですか。そこまで言うなら、叶えてあげましょう」
 完全な屈服を見せたみなみの告白に、中沢が満足そうに頷いた。
 服を投げ落とし、泣き笑いのみなみを麻尋に正対させる。
「では、あらためて挨拶をしなさい。あなたに相応しく、思い切り惨めに」
「・・・はい」
 己のマゾヒズムを認めた人間は、ここまで安らかな笑みを浮かべるのだろうか。
 涙に汚れるみなみの顔には、全てを晒したが故の穏やかさがあった。
 堕ちる道を選んだ、全てを諦めた笑顔。
 貪欲に快楽を求め、その妨げとなる理性も羞恥も投げ打っている。
「隠しててごめんなさい・・・。あたし、マゾでした。麻尋・・・様のおしっこ嗅いで、
 おむつを履いて、汚してもらった気になって、オナニーしてました」
「なに・・・言ってるの?」
 突然の告白に、麻尋が不快を顕にした。
 既に知ってはいたが、改めて告白されると気持ち悪さが湧き上がるらしい。
「わたしは変態です。おしっこの臭いが大好きで、汚されるのが嬉しい変態です。
 おむつをして、お漏らしをして悦ぶ変態です。今日から、ずっとおむつで過ごします。
 おしっこも、全部おむつにします」
「ふふ、いい挨拶ですね」
 自分の言葉に酔うみなみの前に、笑顔の中沢が立ちはだかった。
 顎を摘んで顔を上げさせ、新しいおむつを見せ付ける。
「これをあてたら、この先ずっとおむつです。覚悟はできていますね?」
「はい・・・。どうか、あててください・・・」
「いいでしょう。でもその前に、あなたの覚悟を見せてもらいましょうか」
「かく・・・ご?」
「簡単なことですよ」
 穏やかに微笑み、短く命じる。
 裸のままで自室に向うみなみを見送り、中沢は麻尋にも依頼を投げた。

「・・・嫌な予感がするんだけど?」
「ええ、先に謝っておきます。ですが、付き合ってもらいますよ」
 みなみを屈服させるために、この三人に逆らえなくするために、立ち会っていて欲しい。
 そんな中沢の言葉に、麻尋はしぶしぶと頷いた。
 小走りに浴室へと向い、バケツを手に戻ってくる。
 中沢が敷いた新聞の上にそれを置き、その様子に麻尋が憂鬱そうに首を振った。
「持ってきました・・・」
 麻尋に遅れること数分、みなみが戻ってきた。
 両手に女性用の下着を抱え、恥ずかしそうに俯いている。
 二十枚ほどの下着の中には、なかなかに気合の入ったものも混ざっている。
「全部ですか?」
「はい」
「では、それをそこに入れてください」
「・・・はい」
 抱えてきた下着を、バケツの中に落とす。
 何をさせられるか、おおよその見当はついているだろう。
 お気に入りらしい下着を一枚残し、躊躇いながら隅に置いた。
「何を躊躇うんです? あなたにはもう、必要ないものでしょう?」
「・・・はい。もう、履かないものです」
「その言葉を、形にしてもらいましょう。二度と履く気がおきないように、
 あなた自身で汚してしまいなさい」
「・・・うぅ」
 予想はしていたが、惨い命令に涙が滲む。
 視線が集まる中で、みなみはおずおずとバケツを跨ぎ、ゆっくり腰を落としていく。
 震える膝を手で押さえ、中腰に尻を浮かせて止まる。
「く・・・ぅう・・・」
 中途半端な状態で固まる。
 体がぷるぷると震えるのは、姿勢の辛さか、恥ずかしさからか。
「い・・・やあぁ・・・」
 小刻みに震えるお尻から、力の無い雫が垂れ落ちた。
 俯いた顔から弱々しい悲鳴が零れ、首まで真っ赤に染まる。
 雫が細い流れとなり、緩い放物線を描いた。
 しゅおしゅおと鳴りながら、バケツの中に注がれていく。
「いいですね。お気に入りのパンツがぐしょぐしょになっていますよ」
「あう・・・う・・・」
「ちゃんと確認しなさい。あなたの下着がどうなっているか」
「は・・・い・・・」
 惨い命令に、目じりに涙を滲ませる。
 それでも足の間を見下ろしたみなみは、おしっこに染まった下着を目の当たりにした。
 昨日まで、普通に使っていた下着。今日からは、二度と足に通すことの無いショーツ。
 自分の堕ちざまを見せ付けられ、みなみが泣きそうな顔になる。
 その瞳が僅かに細まり、どこかうっとりとした顔つきに変わった。
「わたし・・・、おしっこしてる。自分のパンツ・・・汚してる。
 みんなの・・・みんなの前で、おしっこで感じてる・・・」
「ふふ・・・、どうしようもないひとですね」
 恥辱を快楽に転化し、背中を這う歓喜に震えている。
 そんなみなみを中沢が嬉しそうにあざ笑った。
 この二人はお似合いだ。
 気味悪そうにみなみを見やっている麻尋が、心の中でそう呟いた。
「おしっこ・・・、終わりました。パンツ、履けなくしました・・・」
 力を失ったおしっこがだらしなく垂れ、雫がお尻を伝った。
 わざと大きくお尻を振ってそれを落としたみなみが、惚けた声で主に報告する。
 中沢はゆっくりと眼鏡を押し上げ、目を細めてバケツを覗き込んだ。