おむつ的妄想新代理保管庫 - それぞれの道5
「まだですね」
「え・・・?」
「もっと汚しなさい。洗う気にもなれないくらい、徹底的に汚しなさい」
「そんな・・・、まさ・・・か・・・?」
「う・・・」
 中沢の命令に、みなみがさすがに青ざめた。
 何をさせるのかを汲み取ったのだろう。麻尋が口を押さえ、晃揮があわてて抱き寄せた。
「どうしました? あなたの覚悟はそんなものですか?」
「き、きゅうに言われても、無理・・・です」
「そうですか、残念ですね。ご褒美も用意していたのですが」
「ご褒美・・・?」
「言葉で責めるばかりではかわいそうですからね。こんなものを用意したんですよ」
「あ・・・」
 中沢が取り出したものに目を奪われる。
 男を模した細長い棒。
 自分でも持っている、しばしばお世話になっているものが、卑猥な動きを見せている。
「こんなに火照って、濡れ光って。これでかき回したら、どれほど気持ちいいでしょうね?」
「ほ・・・しい。それ、それ欲しい・・・」
「そうですか、残念です。私はもう帰るので、あげられません」
「そんな・・・。下さい! ここに、ここにくださいっ!」
 立ち上がったみなみが、足を拡げて腰を突き出した。
 両手を己の秘所に添え、淫らに濡れる穴を拡げる。
 悲痛なまでの叫びにも、中沢は冷たい笑いを返した。
 見た目だけはにこやかに、床に置かれたバケツを指差す。
「します! しますから、帰らないで!」
 縋る瞳を中沢に向けたまま、後ろ歩きでバケツに跨る。
 再び中腰になり、膝に手を置いたみなみの姿に、中沢は小さく頷き傍らにしゃがんだ。
 後ろからお尻を覗き込み、窄まったままの肛門を見つめる。
「始めなさい」
「は・・・いぃ・・・」
 膝に置かれた手に力が篭った。お尻の穴が盛り上がり、お尻が小刻みに震える。
 唇を歪め、顎を突き出したみなみの姿に、中沢が低い笑いを零し、口元を緩めた。
 ぷすぅぅ・・・
「ひうっ!」
 気の抜けたおならが漏れ出し、みなみがあわててお尻をすぼめた。
 恥ずかしさに震える女性を冷たく見据え、中沢が火照ったお尻に手を添える。
「続けなさい」
「はい・・・。ん・・・うぅ・・・」
 静かな命令に、逆らうことは出来なかった。
 みなみは再び力を込め、息をつめた。お尻の穴が盛り上がり、戻り、また盛り上がる。
 それを何度繰り返しただろう。短いおならを時折零したみなみの肛門から、
茶色い塊が顔を覗かせた。
「はう・・・で・・・るぅ・・・」
「ふふ、やっとですか」
「はうぅ・・・、太・・・太いぃ・・・」
「ほう、これはまた・・・」
 つやつやと濡れ光った塊が、ゆっくりとせり出してくる。
 ジュースの細缶ほどはあるその太さに、中沢が目を見張った。
 太く、固い便は、肛門を限界まで張り詰めらせたまま、ゆっくりと長さを増している。
 力を入れたら肛門が切れてしまうだろう。
 それを感じたみなみは、鼻から押さえた息を吐き、加減しながら押し出している。

「いい格好です。中腰でお尻から太いものを垂らして」
「い・・・言わない・・・で・・・」
「言われたくありませんか。なら、自分で言いなさい。あなたは何をしています?」
「そん・・・な・・・」
「言いなさい。あなたは何をしています?」
「う・・・うん・・・ち・・・」
「どこでです?」
「お部屋で・・・、人前で・・・」
「どうしてです?」
「め、命令されたから・・・」
「ちがうでしょう? あなたはこれが欲しくてしているんでしょう?」
「あ・・・う・・・」
 半泣きの女性の目の前に、蠢くバイブが突き出される。
 お尻をうんちで拡げたまま、身動きの取れないみなみは、鼻水を零しながら頷いた。
「改めて言いなさい。あなたは何を、どうしてしているんです?」
「み、見られながら、うんちしてます。バイブが、バイブが欲しくて、うんちをしてます」
「良く言えましたね。ご褒美をあげましょう」
「ひあっ、ああっ!」
「あまり動いてはいけませんよ。零れてしまいます」
 いきなりバイブを挿入され、みなみが仰け反った。
 お尻にぶら下がるうんちが揺れ、バケツの縁に当たる。
 鈍い音が響き、中沢が嘲りの声を上げた。
「さあ、続けなさい」
「ひっ! いひっ! や、やああっ! いやああっ!」
「何がです?」
「い・・・くのっ! いっちゃうの! いやっ! こんなのっ!」
「気持ちよくなれるのに、何が嫌なのです?」
「う、うんちで! うんちでいっちゃうなんて! うんちでえっ!」
 拒みながらも、抗いきることはできなかった。
 太いうんちがようやく抜け落ち、柔らかなものを吐き出し始めた瞬間、
みなみは膝を落とし、バケツに座り込んでいた。
 惚けた顔で天井を見上げ、体を震わせている。
 お尻の下からは湿った音が鈍く零れ、鼻に堪える異臭が広がっていた。
「これだけの姿を晒したのです。おむつぐらい、見られても平気でしょう?」
「あ・・・うぁ・・・」
 冷たい言葉に、ゆっくりと頷く。
 中沢は満足げに頷き、みなみをその場に四つん這いにさせた。
 ウェットティッシュでお尻を拭き、仰向けに転がらせる。
 その股間に刺さったままのバイブを見やり、リモコンを使って一番弱い設定で動かした。
「今日は、私があててあげましょう」
「お・・・お願い・・・します」
 反応の鈍さは、衝撃の証だろう。
 まだ立ち直れないながらも、みなみは自ら足を開き、膝を抱えた。
 これほどに無防備で、これほどに恥ずかしい格好もそうはない。
 見ている麻尋が顔をそむけたのは、部屋に漂う臭いだけが理由ではないだろう。
「いい心がけですね」
 紙おむつを拡げて置くと、求めるように尻を持ち上げる。
 そんな従順さに褒詞を与え、中沢がおむつを滑り込ませた。
 みなみがゆっくりと尻を下ろし、柔らかさに息を吐く。
「あうっ!」
 弱く震えるバイブが、奥まで押し込まれた。
 淫らな露が零れ、あてられる前のおむつに染みを作る。
 そんな様を薄笑いで見下ろした中沢が、無造作に前あてを持ち上げ、
みなみの股間をおむつで包んだ。

「これがあなたの普段着です。家ではこの姿でいなさい」
「・・・はい」
 下半身をおむつに包んだ女性に、臍までしかないタンクトップを与える。
 形のいい胸が強調され、おむつとのアンバランスが酷く目立った。
 いっそ上は裸でいたほうがましだったろう。
 自分を見下ろすみなみの瞳も、そんな気持ちを覗かせていた。
「とりあえず、これを始末しておきなさい。さすがに臭いますからね」
「は、はい!」
 汚物がたまったバケツを指差され、みなみが慌ててそれを持ち上げた。
 体の後ろに回し、麻尋や晃揮の目から隠す。
 今さらとはいえ、やはり出したものを見られるのは嫌なのだろう。
「流せる分はトイレに。それ以外は新聞に包んでゴミに出しなさい」
「・・・判りました」
 ここまで汚したものを、洗って履く気にはなれない。
 捨てるしかないのは判っていたが、改めて命じられると辛かった。
 もう普通の格好はできないのだと、認識せざるを得ない。
「失礼します・・・」
 弱々しく頭を下げ、部屋を出ようとする。その背中に、中沢が穏やかな声を投げた。
「私はこれで帰ります。いい子にできていたら、明日また愉しませてあげましょう」
「・・・はい。お願いします」
 振り向いたみなみは、期待に満ちた笑顔で、深く頭を下げた。


 帰り際の中沢が言い残したとおり、晃揮はみなみの両手を背中で縛り、居間に放置した。
 部屋の隅に向ったみなみは、軽く足を開いて三角座りをしている。
 その背中が時折もぞもぞと動き、眉が切なげに寄せられる。
 弱すぎるバイブの刺激がもどかしいのだろうが、それを助ける理由は無かった。
「麻尋・・・」
「なに?」
 おむつを晒して喘ぐ女性を見ていては、男の部分が昂ぶっても仕方ないだろう。
 股間をたぎらせ、肩を抱いた晃揮を、麻尋が苦笑で見上げる。
「さっき、ゴムを買ってきた」
「あ・・・」
 それがどういう意味なのか、問い返すほどバカではなかった。
 麻尋はほのかに頬を染めて俯き、小さく頷く。
「じゃあ、おフロ・・・」
「そうだな。でもその前に・・・」
「ひゃんっ!」
「これを使っておけよ」
 晃揮の手が不意にお尻を撫で回した。
 いきなりのことに、麻尋が可愛らしい悲鳴と共に飛び上がる。
「な、なにすんのよ!」
「確かめたんだよ。おむつをしてるかどうか」
「し、してるよ・・・。かわいいって・・・言われたし・・・」
 口ごもってそっぽを向く。そんな麻尋を抱きしめながら、晃揮が優しく囁いた。
「証明させてくれ。俺の言葉を」
「・・・でも」
「これからの俺たちに、ずっと関わってくることだ。俺がお前に相応しいか、
 ちゃんと受け止められるのか、お前の目で確かめて欲しい」
「・・・判った」

 優しい言葉に小さく頷き、背中に手を回す。
 背中がこんなに大きかったのかと驚きながら、顔を胸に埋めた麻尋は、
見られないようにそっと眉を寄せた。
 背中を抱く手に力がこもり、顔が強く押し付けられる。
 柔らかな髪をなでていた晃揮が、頬を緩めて問いかける。
「出てるのか?」
「聞くな・・・、バカ」
 怒っているよりも照れているその声に、晃揮が密かに肩を竦めた。
 そっと麻尋の頬に手のひらをあて、不意をうって唇を奪う。
 お漏らしの最中にキスをされ、驚きに固まった麻尋が、少しずつ表情を緩めた。
 大きな体にしっかりと抱きつき、全てを任せる安らぎに浸る。
「ん・・・」
 細身の体がぶるっと震えた。
 晃揮がようやく唇を離し、目元を赤く染めて視線を泳がせる麻尋を見つめた。
「外そうか」
「ん・・・」
 優しい笑顔に小さく頷く。
 スカートを捲くり、おむつを晒した麻尋が、その場にちょこんと尻を着く。
 その背中を支えて寝かせた晃揮が、足元に回って膝をついた。
(麻尋・・・)
 もどかしい刺激に翻弄され、朦朧とする意識の中で、みなみはその光景を見ていた。
 晃揮を信じ、自ら足を開いていく麻尋。
 その姿に、自分の役目が終わったことを、否が応でも知らされる。
「開くぞ・・・」
「く、臭いよ? ほんとに、嫌わない?」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
 できれば、もっと違うシチュエーションで聞きたい台詞だった。
 それでも、麻尋にとっては十分喜ばしいものだったらしい。微笑を浮かべて小さく頷く。
「さて・・・」
「ひうっ!」
 晃揮の手がおむつに伸び、テープを外した。
 止め具を失った前あてが掴まれ、隙間から冷えた空気が流れ込む。
 信じていても、体が竦んだ。
 女として、見せてはいけない姿を見られる。嗅がれてはいけない臭いを嗅がれる。
 いくら晃揮でも、嫌になって見捨てられるのではないか。
 そんな不安が一瞬で全身を包んだ。
「・・・なんか、やばいことしてる気になるな」
 おむつを開いての感想はそれだった。
 みなみに毛を剃られた麻尋の股間は、くっきりとしたスリットを晒している。
 おむつに載せられた幼子のような股間に、背徳を感じるのは仕方ないことだろう。
「ごめん。あの、く、臭い・・・よね?」
「ん、まあ、多少は・・・な」
「はう・・・ぅ・・・」
「気になる程じゃない。それに、これも麻尋の匂いだしな。嫌だとは思わないぞ」
「晃揮・・・」
 お漏らしを見ても、おしっこを嗅いでも、本当に晃揮は受け入れてくれた。
 本当の自分を受け入れてくれた初めての異性に、麻尋が涙を溢れさせ、
仰向けのまま顔を覆った。
「ああ、泣くな。ほら、フロに行くぞ」
「あっ!」
 おむつを抜き取った晃揮が、下半身を丸出しにしている女性を両腕で抱き上げた。
 いわゆるお姫様だっこだが、これもこんな状況以外でしてほしかっただろう。
 両腕を首に回してつかまりながらも、麻尋が微妙な顔をしている。
「いっしょに入るか?」
「・・・恥ずかしいけど」
 はにかみながらも頷いた麻尋と共に、晃揮は浴室へと消えていった。 

 入浴の後、二人は揃って麻尋の部屋に向ったらしい。
 居間に残されたみなみには、詳しい事情は判らない。
 だが、一時間ほど後に現れた麻尋は、恥ずかしそうに、それでいて誇らしげに、
晃揮の腕に掴まっていた。
「麻尋・・・」
 仲良く並ぶ二人を見上げたみなみが、苦しげな声を漏らした。
 悲痛に顔をゆがめながら、しきりに体を揺すっている。
 かつての親友をどこか辛そうに見下ろす麻尋が、みなみの前にしゃがみ込んだ。
「なに?」
「お願い。腕、解いて」
「ダメだよ。中沢さんがくるまでそのまま」
「じゃ、じゃあ、おむつ外して。バイブ、動かして」
「やだよ。なんでそんなこと」
「辛いの。もうダメなの。こんなの、こんなままにされたら、おかしくなっちゃう・・・」
 微弱な刺激を送り続けるバイブは、凶悪な拷問具だった。
 ひたすら情欲を煽るだけで、決して満たしてくれない。
 こんなことを続けられては、まともでいることなどできなくなってしまう。
 だが、痛々しいほどの訴えに、麻尋は冷たく首を振った。
「なればいいよ」
「麻尋?」
「おかしくなっちゃえばいいんだ。おかしくなって、むかしのみなみに戻ってよ・・・」
 麻尋からすれば、今のみなみは既におかしくなっている。
 もう一度狂ってくれれば、昔の優しいみなみが帰ってきてくれるのではないか。
 そんな願いが胸に沈んでいた。
「お願い・・・。おむつ外して。ねえ、オナニーさせてよ。あそこ、かき回させてよ」
「うるさい。・・・黙ってよ」
「オナニーさせて! ねえ、オナニーしたいの! オナニー、オナニーしたいっ!」
「黙れっ!」
「ねえっ! 立木くんでもいいよ! お願い、バイブを動かして! 気持ちよくしてっ!」
「しゃべるな! もうしゃべらないでっ!」
 みなみの声を聞きたくないのだろう。麻尋は耳を塞ぎ、小走りに居間を出て行った。
 自分の部屋に飛び込み、交合の余韻が残るベッドにうつぶせる。
「麻尋」
「晃揮・・・?」
 追いかけてきた晃揮が、傍らに腰掛けた。
 麻尋の気持ちは判っているのだろう。黙って背中をさすってくれる。
「少し早いが、用意をするぞ」
「・・・ほんとにするの?」
「久留米を突き落とす。お前のためには、それが必要だ」
「・・・でも」
 中沢が用意した、最後の責め。
 みなみから尊厳を奪い去り、絶対服従の精神を植え込むための仕上げ。
 みなみから離れ、晃揮の下に走るには、しておかなければならないことだと判っている。
 みなみの口を封じるために、必要なのだと判っている。
 それでも、踏み切るのは躊躇われた。
 ずっといっしょだったみなみの、明るく健康的な笑顔が頭に浮かび、
また涙がこみ上げてしまう。
「やるぞ。それが恐らく、あいつのためにもなる」
 とことんまで突き落とすことで、みなみはきっと救われるだろう。
 堕ちたのは麻尋のせいだと言い訳しながら、欲望に素直に生きていけるだろう。
 互いに幸福になるために、それぞれの道に分かれるために、
必要なのは思い出を汚す覚悟だけだった。

「・・・うん、判った」
 長い逡巡の後、麻尋はようやく顔を上げた。
 晃揮に支えられて立ち上がり、みなみの部屋へと向う。
 麻尋にとって不愉快な、ひどく恥ずかしい作業の後、二人は連れ立って居間に戻った。
 喉を嗄らし、かすれた声で自慰を求めるみなみの前に立ち、じっと見下ろす。
「オナニー・・・させて。オナニー・・・許して・・・」
「それはできんが、一度は満足させてやる」
「してくれるの? バイブ、動かしてくれるの?」
 死にそうだった顔に生気が戻り、輝いた瞳が上げられる。
 晃揮は苦笑しながら足の紐を外し、みなみを立ち上がらせた。
 背中を押して歩かせ、自分の部屋に連れて行く。
「ねえ、早く! 我慢できないよ! 早く、バイブ!」
「いいから、そこに寝ろ」
「なに・・・? これ?」
 示されたのは、いびつな形のクッションだった。
 シーツに何かを適当に放り込み、丸めただけの代物。
 訝しく思いながらも、満たして貰いたい一心のみなみは、クッションに背中を預けた。
 頭と背中が沈み込み、同時に怪しい臭いが鼻に飛び込んでくる。
「こ・・・これ・・・?」
「何か判るか?」
「おむつ・・・。麻尋のおむつ・・・?」
「そう、お前のコレクションだ」
 みなみが隠し持っていた、麻尋の使用済みおむつ。
 乾いたおしっこが怪しい臭いを放っているそれを、まとめてシーツに放り込んだのが、
このクッションだった。
 まともな人間ならば耐えられないだろうが、みなみには最高の家具だった。
「麻尋のおしっこ・・・。あぁ・・・麻尋に包まれてる・・・」
 うっとりと目を細め、異臭の源に顔を埋める。
 麻尋が悲しげに首を振り、みなみの足元にしゃがみ込んだ。
「足、開いて」
「は、はいっ! お願いします!」
 足を大きく開き、期待に満ちた目で麻尋を見上げる。
 麻尋は無言で足の間に膝を突き、みなみを包むおむつに手を掛けた。
「早く! 早くうっ!」
「・・・判ってる」
 腰を突き出し、淫らに動かす。それを押さえて止め、紙おむつのテープを外した。
 ずっしりと重い前あてを掴み、ゆっくりと開く。
「はふぅ・・・」
 蒸れた感触から解放され、みなみが大きく息を吐く。
 開かれた紙おむつを見下ろす麻尋は、その惨状に息を呑んだ。
 おしっこに染まり、愛液にべっとりと濡れ、重たくなっている紙おむつ。
 その全ては、バイブに犯されているみなみが生み出したものだった。
「う・・・」
 根元までぬめった雫に包まれ、生暖かくなっているバイブ。
 触れるには勇気のいる代物だった。
 麻尋は目を逸らしながらそれを掴み、ゆっくりと抜き出す。
「はうぅう・・・」
 ようやく与えられた動きに、みなみが歓喜の声を上げた。
 逃げていく擬似男根を惜しむように締め付け、麻尋の手に不気味な手ごたえを伝える。
「くっ!」
 自分の手で同性を犯すなど、考えてもいなかっただろう。
 想像以上の嫌悪に包まれながら、麻尋がバイブを押し込んだ。
 嫌な柔らかさが手に伝わり、背筋を寒気が走る。
 みなみとなら少しぐらいはいいかもなどと思っていたこともあるが、
所詮は想像の中でのきれいな交合でしかなかった。
 現実のもつ生々しさに、震えが止められない。

「もっと! もっと動かして!」
「ひうっ!」
 みなみの哀願に、目をつぶってバイブを動かす。
 乱暴なだけのその動きにも、火照りきったみなみの肉体は悦びを示した。
 柔らかく形を変えてバイブを受け止め、女の雫を撒き散らしている。
「はああっ! もっと! もっとおっ!」
「ひっ! いやっ! もういやあっ!」
 責められる側よりも、責める側の限界が先だった。
 麻尋は早く終われとばかりにバイブを押し込み、乱暴に抉った。
「はうっ! はんぅうっ!」
 みなみの背中が反り、胸が突き出された。瞳は歓喜に見開かれ、涎が頬を伝っている。
「はあああ・・・」
 背中がクッションに落ち、臭いを振りまいた。
 顔をしかめた麻尋が鼻を押さえ、晃揮を振り返る。
「あててやれ」
 新しいおむつを差し出し、みなみを指差す。
 麻尋があらかじめの予定通り、リモコンでバイブの動きを強め、おむつを床に敷いた。
「はうっ! んううっ!」
 今までと比べられないバイブの強さに、みなみが声を高めた。
 蠢くバイブを咥え、淫らに震える穴から目を逸らし、麻尋がおむつでみなみを包む。
「はああっ! ああっ! もっと! もっとおっ!」
「後は勝手に楽しんでろ」
 面倒を見切れるかと吐き捨て、顔の横にリモコンを放り出す。
 みなみが慌てて体を起こし、背中に回された手でそれを掴んだ。
 手探りでボリュームを動かし、最強に切り替える。
「んああっ! す、すごっ! すごいいっ!!」
 動きの激しさが、おむつ越しにも見て取れた。
 みなみはコントローラーを握り締め、身もだえしながら顔をクッションに押し付けた。
 至福の表情で息を吸い、突き上げた尻を振っている。
「・・・いくぞ」
「・・・うん」
(お別れだね、みなみ)
 その激しさに気おされた晃揮が、立ちすくむ麻尋の肩に手を載せた。
 心の中で別れを告げた麻尋は、かつての面影を失った親友を悲しげにみつめ、
晃揮と共に部屋を去った。


 翌日、中沢の訪れを待ってみなみの部屋に入った三人は、
クッションに顔を埋めたまま動かないみなみを見出した。
 気を失ったのか、疲れて眠ったのか、傍らにコントローラーが転がり、
染み出したおしっこがおむつと床を濡らしている。
「相当に乱れたようですね」
 惨状に声を失う晃揮と麻尋をよそに、中沢は冷静にみなみを見下ろした。
傍らにしゃがみ込み、ぶくぶくに膨れたおむつを撫でる。
 じっとりとしたその感触に笑みを見せ、うつぶせている体を仰向かせる。
「う・・・ん・・・?」
「おはよう。よく眠れましたか?」
「わたし・・・眠って・・・?」
「バイブの電池が尽きて、あなたも力尽きたというところですか?」
 図星なのだろう。みなみが恥ずかしそうに頷き、自分を包むおむつを見下ろした。
 愛液に塗れ、おしっこを染み出させたそれを、体を丸めて隠そうとする。

「何回漏らしたんです?」
「・・・判りません」
「これではおむつの意味がありませんね。仕方の無い人だ」
「・・・換えて、下さい」
「いいでしょう。ただ、私の家でです」
「え・・・?」
 思いがけない言葉に、みなみが呆然と中沢を見上げた。
 惚けたままで麻尋を見やり、再び中沢に目を戻す。
「麻尋さんとの同居は終わりです。今日から、私の家に来なさい」
「どうして・・・?」
「当たり前でしょう? 自分が麻尋さんに何をしたか、忘れましたか?」
「・・・・・・」
 言われて悄然と俯く。確かに、麻尋に見捨てられるだけのことをした覚えがある。
「急に追い出されては、行き場がないでしょう? 昨夜片付けて、
 あなたのための場所を作りました。遠慮はいりませんよ」
「・・・はい。お願いします」
 みなみがその場に正座し、両手を縛られたまま額を床に押し付けた。
 中沢は微笑で腕の戒めを解き、服を着るよう命じる。
「あの、シャワーを・・・」
「必要ありません」
「おむつも・・・、このまま?」
「ええ、そうです。歩いていける距離ですから、大丈夫ですよ」
 立ち上がった太ももを、染み出したおしっこが伝っている。
 髪にも体にもおしっこの臭いが染み付き、近づくだけでそれと判る。
 どう見ても大丈夫では無いが、これもプレイだと受け入れたのだろう。
 みなみは言われるままにスカートを履き、ジャケットを纏った。
「そうそう、大事なことを忘れていました」
 準備を終えたみなみを振り返り、中沢が思い出したように麻尋を示す。
「お別れの前に、誓約をしておきなさい。麻尋さんの秘密を、絶対他人に漏らさないと」
「・・・はい、誓います」
「忘れてはいけませんよ? あなたの昨日の姿は、全て記録に残っています。
 あなたのこれからの秘密を、この二人は全部知っています」
「・・・判っています」
 消え入りそうな声に、心の奥がずきずきと痛む。
 辛そうに目を落とした麻尋を労わり、晃揮が肩を抱き寄せた。
「荷物は近く取りに来ます」
「あの・・・」
 みなみを促し、部屋を出ようとした中沢に、麻尋が不意に呼びかけた。
 唇をかみ締めて立つ麻尋の様子に、微笑で問い返す。
「これだけ、残しておいて」
 指差す先に、一枚のユニフォームがあった。
 陸上の県大会で、みなみが着ていた赤色のランニングシャツ。
 麻尋といっしょに走りたいと言われ、拙い手つきでゼッケンを縫いつけた、
思い出のユニフォームだった。
 その傍らでは、トロフィーを手にしたみなみと、応援に駆けつけた麻尋とが、
抱き合って笑っている。
 麻尋にとっても、みなみにとっても大切な、美しい思い出がそこにあった。

「あたしのみなみは、一番の親友は、この写真の女の子だから・・・」
「・・・ごめんね、麻尋。ありがとう」
 自分を信じ、慕ってくれた親友を裏切ったのは、間違いなくみなみだった。
 思い出すら汚し、踏みにじったのも、みなみ自身。
 だが、そんな穢れを忘れ、思い出だけは美しく残してくれた麻尋に、
みなみは侘びと感謝を口にした。
「ばいばい、みなみ」
「じゃあね、麻尋」
 幾度と無く交わしてきた挨拶。だが、それは今までとは違う意味を持っていた。
 共に笑い、過ごしてきた日々はもう戻らない。
 受け入れがたい性癖を知ってしまった以上、昔のようには付き合えない。
 大学で顔を合わせることはあっても、互いに距離を持ち続けることになるだろう。
 二度と交わることの無い、それぞれの人生が始まっていく。
「ばいばい・・・」
 小さな声が、玄関のドアにぶつかった。
 悄然とした小さな背中を、晃揮がそっと抱きしめる。
「これからは、俺が一緒だ」
「・・・うん」
 晃揮の手を握った麻尋が、泣き笑いで振り返る。
 その小さな唇を、晃揮はいとおしげに唇で塞いだ。