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「やっと来てくれましたね、小波先輩。わたし、待ちくたびれちゃいましたよ」 

 小春日和の日差しが傾き始めた頃、俺は部室の扉を開けて、その中に滑り込んだ。 
キイキイと貧乏くさい音を立てる蝶番の音が、よく響くぐらい静かだった。 
 俺をここに呼び出した野球部のマネージャー――にして俺の彼女――の由紀ちゃんは、いつもより堅めの声音だった。 

 「ごめん、ちょっと遅くなっちゃって……それで、その、今日ちょっと来て欲しいって言うのは?」 

 部室は電気が点いていないらしく、陰っている感じがした。由紀ちゃん以外の人影がなかった。 
 元々ここは野球部の部員以外は立ち寄らない場所であるし、その野球部員にしても、今日は昼の練習だけで、 
 放課後の練習は休みになっている。俺が来るまで、由紀ちゃんはひとりで待っていたんだろうか。 
 今日の昼練の終わりに、由紀ちゃんは不意に俺に言葉をかけてきた――今日の放課後、部室に来てくれませんか、とだけ。 
 殊更顔を近づけるだけでもなく、俺が聞き返す間も無いぐらいだったので、他の人は由紀ちゃんの行動に気づかなかっただろう。 

 「と、というかその前にその格好は……その……」 
 「何ですか?」 

 由紀ちゃんは窓に映る秋空を背にして、部室の長机に座りながら、俺に目を向けていた。 
その姿に焦点が合った瞬間、俺は腰の砕けた呟きを漏らしていた。窓の外の日光を背にしていて、彼女の表情は分かりにくいが、 
いつもと勝手が違う気がした。まず声音が違っていた。さらに俺をまごつかせたのは、彼女の姿勢だった。 
 彼女は極亜久高校の制服のまま、両足のローファーを脱いで床に放っていた。 
そして机の上に座りながら、膝下まである紺色の靴下に包まれた左足を床の近くでぶらつかせて、 
 右足の方は、彼女に両腕で抱え込むようにして机の上に乗せていた。 

 「何がって、その……目の遣り場に困るというか」 

つまり、あまり長くない制服のスカートが捲れ上がって、由紀ちゃんの足が膝上から太腿まで丸見えの状態だった。 
そんな姿勢だから、由紀ちゃんに抱えられた脚の踵が少しでも動こうものなら、俺の見てる側からでも下着が見えてしまいそうだ。 
つい目を止めてしまった。普段の由紀ちゃんはこんな格好は絶対にしない――少なくとも俺には一度も見せていなかった。 
 今までに無かった彼女の挑発的な姿態に、俺は扉を閉めたきり部屋の入口で釘付けになっていた。 

 「今日は、どうしても小波先輩に聞きたいことがありまして……それでここまで来てもらったんですよ」 

 聞きたいこと、と言われても俺には何の心当たりもなかった。 

 「今日のお昼の練習前に、わたしはさとみ先輩と部室の片付けをしてたんですが……そこで、あるものを見つけちゃったんですよ」 
 「あるものって……?」 

 由紀ちゃんは背中から薄い本を手で引き寄せると、折り畳まれた脚線のすぐ横にそれを置いた。 
 部屋が薄暗い上に、彼女が表紙に右の手のひらを乗せているのでよく分からない。 
 彼女はおもむろに、その本の表紙を右手でぽんぽんと叩いた。勿体ぶった仕草に応じて、俺は彼女のそばまで足を進めた。 
 近くまで寄って俺はその表紙に愕然とする。それは紛れもなくエロ本だった。 

 「これ……って、部室に、あったんだよね?」 
 「それ以外でわたしがこんなものを持っていて、しかも小波先輩に見せるなんてことがあるんですか。 
  これ、ご丁寧にロッカーの裏に隠されていましたよ。ねぇ先輩、これはどういうことなんでしょうかね」 

 由紀ちゃんの声は不自然に平坦だった。すぐ近くから放たれるそれに、俺はなんとも反応が返せなかった。 
いや、何だコレは。何だこの展開は。というか、誰がこんなもん持ち込んだんだ。 

 「さとみ先輩なんて呆れてましたよ。“あーあ、男なんてみんなこんなものよね”ですって。そうなんですか?」 
 「い、いやその、コレは……す、少なくとも俺は、部室にこんなもの持ち込んだりしないよっ」 
 「そうですか。いや、そうですよね。まさか、小波先輩がこんな不潔なものを部室に放置するなんてこと、ありえませんよね」 

 白々しい口調に嫌な予感がしたが、俺は為す術もなかった。コレは確かに俺の物じゃない。が、抗弁すると言い訳がましく聞こえそうだ。 
こういう場合、智美や明日香なら生暖かい目で見られるぐらいで済みそうだが――それはそれで精神的ダメージがあるが、 
 由紀ちゃんは何だかそれで済む気がしない。もしかして、俺コレでかなり幻滅された? 
 何も喋れない俺の顔を一瞥すると、彼女はおもむろに机から降りた。そのまま揃えて並べたローファーを履き直す。 
 爪先を床で叩く靴音がする。耳は働いていてもまだ動けない俺に向かって、彼女は軽く背伸びしてささやいた。 

 「ところで、さっきこの部屋に入ってきたときは、どこ見てたんですか?」 

 俺は頭から視界まで真っ白になった。 


 「別に隠さなくてもいいと思いますよ? この間の夏休み、小波先輩と一緒に海に行ったことがありましたね。 
  その時も、わたしのことそういう目で見てたのは分かってましたから」 
 「いや、あの、これ、これはね由紀ちゃん」 
 「これって何ですか。その本は小波先輩のものじゃありませんでしたよね。それなら、これというのは?」 

 由紀ちゃんは俺の正面に向かって経つと同時に、俺の腕を捕まえた。着替えた制服越しでは、彼女の体温は伝わらなかった。 
 顔が、息のかかりそうなところまで来ている。俺より頭ひとつ低い背から見上げてくる瞳が眩しい。 
 彼女が面映ゆく見えるのは、決してきまりの悪いこの状況だけではないと思う。俺にとって彼女の視線は、他の人のそれとは明らかに違う。 
 音が無いせいで、目の前のことしか頭に入らない。時間が薄くなっていく。世界がこの部室だけになったみたいだ。 
そうして黙って見つめ合うことに耐えられなくなったのは、俺のほうが先だった。俺は率直に告げる覚悟を決めた。 

 「……俺は、正直な話、由紀ちゃんをそういう……やらしい目で見た覚えがあるよ。 
  確かにさっきも、つい目が見てしまった……それでイヤな思いをさせたなら、ごめん」 

 由紀ちゃんは黙っていた。顔色を変えた様子も無かった。再び沈黙がやってきた。彼女は俺に目線を貼りつけたままだった。 
 許してくれるのか、許してくれないのか、いい加減俺がじれったくなった頃に彼女は、 

 「さっきのは何色でしたか?」 
 「白――あっ」 
 「あの薄暗い中でよく見えましたねー。小波先輩の、そういう変に言い訳しないところ、素敵だと思います」 

 今までのやりとりのどこから、素敵なんて形容が出てくるんだろう。単純な俺がいいようにされてるだけではないだろうか。 
しかしそうした疑問も、その直前の葛藤も、すぐに有耶無耶になってしまう。主導権は由紀ちゃんが持っていたから。 
 彼女はすぐに膠着を破った。掴んだままの俺の腕を引いて、そのまま彼女自身の身体に押し当てる。 

 「分かりますか? わたしの心臓が、どきどきしてるの」 

 分かってしまった。いくらボールやバットを握って分厚くなった手の皮でも、由紀ちゃんの制服越しであっても、 
 彼女の胸の柔らかさ、体温、言葉通りの脈拍を、俺の手のひらと指はしっかり知覚していた。 
それらは、今まで俺が触ったことのあるどんなものよりも、俺を昂らせた。半ば無意識に指が動く。 
 対して彼女は、なんと一層強く俺の手を自分の胸に押し付けてきた。 

 「うん、伝わってくる。服越しなのにね。相当どきどきしてるのかな」 
 「……たぶん、今までで一番、ですね」 

この期に及んでは、俺の本心を隠す気は完全に失せていた。由紀ちゃんから言わせるつもりも無かった。 

 「俺……今、由紀ちゃんとえっちなことしたいと思ってる」 

 瞬間、由紀ちゃんが俺の腕を掴む力が強まった。見つめ合っていた瞳を、彼女は軽く伏せた。 

 「優しくしてくれたら……いいですよ、小波先輩」 


 俺は由紀ちゃんの肩口を正面から掴んで、彼女にくちびるを押し付けた。逸る気持ちに背を押されていた。 
 彼女が少し背伸びしてくれてたのが、さらに俺を勢いづけた。 

 「キス、しちゃいましたね……先輩と学校でキスするのって、初めてですよね。どうですか?」 
 「どうって……由紀ちゃんと俺以外誰もいないからなぁ。それより、私服じゃなくて制服って方が」 

 舌を突っ込むとか、過激なことをする余裕は、俺には無かった。 
 彼氏彼女の関係といっても、デートでそれらしい雰囲気になった時に何回かしたくらいで、キスはまだ不馴れだった。 
ここで外さずにくちびるを合わせることができるだけでも、俺にとっては結構な進歩だった。 
 頃合いを図ってくちびるを離すと、彼女は俺の学生服に身体を擦り寄せてきた。 

 「そういえば、先輩の制服姿ってちょっと新鮮です。わたしは野球部でユニフォーム姿を見てる方が多いですし」 
 「だって学ランは夏場暑苦しいのに、冬もそんな暖かいわけじゃないし」 
 「そんなこと言い出したら、女子高生の制服なんてどこも駄目ですって」 

とりとめもない話の間にも、由紀ちゃんの感触は、二人の服越しに俺に迫っていた。 
ショートカットの彼女の髪先に指を添えたり、頭を撫でたりすると、くすぐったがって身体を捩ってくる。 

 「先輩なら、もっと触ってもいいんですよ」 
 「もっとってどういうこと?」 
 「それ、わたしに言わせるんですか?」 
 「そういうつもりじゃ……それに、何だか由紀ちゃんいい匂いするから」 
 「もう、先輩ったら、そんな恥ずかしいこと言わないでくださいって」 

 女の子特有のふわりとした匂いを、ここまではっきり認識したのは初めてだった。 
まばたきの音が聞こえそうなくらいくっついたことは前にもあったが、そのときは緊張で感覚が麻痺してた気がする。 

 「先輩の息、荒くなってないですか? 先輩もどきどきしちゃってたりして。おんなじですね」 
 「電気、つけてもいいかな。由紀ちゃんのこと、もっと見たいから」 
 「だーめです。恥ずかしいし、それに……今は、他に誰も来て欲しくないですから」 

 窓の外は薄墨っぽい黒に染まり、廊下から部室に差し込む光で、どうにか由紀ちゃんの顔色が見てとれる。 
 俺は彼女の胸に指を伸ばした。いきなり触られて驚いたのか、やや着崩したブレザーのシャツから覗く首もとが強張る。 

 「怖い?」 
 「あ、いえ……ちょっと落ち着いてきたかなって気分はしてたんですが」 
 「嫌だったら言ってくれよ。これは俺が言い出したことだしね。それじゃ、脱がすよ」 

 実のところ、俺は早く由紀ちゃんのおっぱいに直に触れたかった。 
さっき胸に手を押し付けられたときの、上着を通してやって来る彼女の高鳴りをはっきり確かめたかった。 
シワの寄ったブレザーとシャツと、俺のまだ知らない下着が、俺と由紀ちゃんの最後の日常だった。 
この布切れ何枚かを取り去ってしまえば、ただの野球部主将とマネージャーには戻れない。 
ブレザーから腕を抜いてもらって、リボンみたいな結び方のネクタイを解き、ボタンを外してシャツを肌蹴ると、 
 少ない光の中でも眩しい肌が顕になる。うなじから肩の曲線も色っぽい。シャツに合わせた白いブラジャー。 
 実は俺は、それを雨に濡れて透けてる時ぐらいしか見たことがない。けれどここまで来て止まることは考えられなかった。 
わずかに躊躇った後、俺は脇腹の横から由紀ちゃんの背中に手を回そうとして、 

 「あのっ、小波先輩」 
 「え、な、何かな由紀ちゃん」 
 「これはフロントなんですが……」 
 「…………」 

 余程その時の俺の顔がひどかったのか、由紀ちゃんはしばらく俺を慰めてくれた。上半身ブラ姿で。 
 思うところはあったが――例えば、不慣れなのが却って可愛いってのはあまり慰めになってない、とか―― 
これ以上脱線させると雰囲気が完全にぶち壊しになりそうなので、何も言わないでおいた。 



いつもなら野球のボールも見えなってきて、そろそろ練習を終わらせるぐらいの空模様だった。 
そんな空を映す窓を背にして、由紀ちゃんは立ったまま俺に胸を晒している。 
 部室の机の上には、俺が脱がせた彼女のブレザーとシャツが、水たまりみたいに無造作に置いてある。 
まだ脱がせていないスカートと、そのすぐ上の素肌のギャップは、異様だと思ったが悪くはなかった。 

 「先輩……わたし、変じゃないですか……?」 

 由紀ちゃんは、俺たちと同じグラウンドで日に照らされてるとは思えないほど色白だ。その肌が形作るおっぱいから俺は目を離せなかった。 
 俺はしばらく黙って見入っていた。触るのが畏れ多いぐらいの美しさと、触ってみたいという魔力が、危ういところで均衡していた。 

 「変、って言われても。由紀ちゃん、すごく綺麗だと思うけど」 

 俺は自分の中の均衡を破って、由紀ちゃんの胸に手を伸ばした。あったかい、というのが最初の感想だった。 
 人肌の温度を掬うように、俺はぎこちない手つきで指を埋めていった。 

 「やっぱり変じゃないと思う……まぁ、強いて言えばこれは。でもこれはこれで可愛いかな……」 

 指をずらすと、触り心地が変わるところがある。由紀ちゃんの息を吐く様子が変わった。 
 彼女の、肌と比べるとくすんだ色合いの乳輪の上に指を滑らせる。そのまま人差し指で軽くいじめてやる。 
 由紀ちゃんのそれは、いわゆる陥没乳首というやつだった。それを恥ずかしがっている様子を含めて、つい口から可愛いなんて言葉が出た。 
そんな普段あまり使わない言葉が俺から自然に出てきたのは、さっき由紀ちゃんに可愛いと言われた意趣返しかもしれない。 

 「それとも、これじゃ何かいけないことでもあるの。気にしてた?」 
 「あ、それは、その……何と言いますか……んんっ」 
 「そういえば陥没乳首って、えっちな写真にはあまり出てこないね。もしかしてあの本読んだの」 
 「――っ、ど、どうしてそういう考えに行き着くんですかぁ……」 

 薄明かりの中でも、由紀ちゃんが顔を赤らめているのが見えて、俺は一層興奮した。 
 胸を揉んでいること自体も楽しかったが、俺の手の動きに合わせて彼女が呼吸を乱すのがたまらなかった。 
 夢中になって弄っているうちに、だんだんと肌が汗ばんでいった。乳輪に強張った感じが出てきた。 

 「ひあっ……そこ、はっ……出ちゃってますから……」 
 「ホントだ。最初は引っ込んでたのにね……ここ、いじってもいいよね」 

 口に出すと同時に俺は、手のひらを由紀ちゃんの勃起し始めた乳首に擦りつけた。 
 彼女は息を乱すのを超えて、明らかに悶えていた。もっと彼女のそういう顔が見たくて、顔をわずかに出した乳首を指先でなぶる。 
その度に彼女の声と表情が乱れていく。小さい頃の、好きな女の子をいじめたくなる気持ちを思い出した気さえした。 
こんなどろどろしたものじゃなかったはずなんだが。 

 「ひ、いあっ、だめ、だめですっ、そんなにいじっちゃ、これ以上はっ……!」 

 既に血が十分に通っているらしく、由紀ちゃんの乳首は俺の指先を跳ね返すぐらいの弾力を持っていた。 
 倒したり、摘んだり、摩ったり、調子にのって抓ってやったりもした。これはもう喘ぎと言ってもいいんじゃないか。 

 「今の由紀ちゃん、すっごいいやらしい声出してたけど……」 
 「だ、だって小波先輩が……だめって言っても、やめてくれないんですもん」 

 顔を伏せて口を尖らせる由紀ちゃんは、やや日常の顔を取り戻していた。それが俺の中でさっきの蕩けた顔と二重写しになった。 
あまりに印象深くて、これから昼間に彼女の顔を見るときにも、ついオーバーラップさせてしまいそうだった。 




 「せんぱーい、学校にこんなもの持ってきてるなんて、これはあの本以上に見られたらまずいかも知れませんよ。 
  本当に、いつか学校でこんなことするつもりだったんですか?」 
 「これっ……えー、これはね、財布に入れてただけだよ。男の子の嗜みってやつだって」 

そんなことを、前に三鷹君が言ってた覚えがある。それで気まぐれに入れておいたコンドームが活用される日が来るとは。 
 由紀ちゃんは興味津々といった様子で、俺が持っていたコンドームの銀の包みを爪で切っている。 

 「まったく、わたしのことをいやらしいだとかなんだとか言ってましたけど。小波先輩こそ、いつもわたしのことをそんな目で見てるんですよね」 
 「いつもってのは余計だよ……」 
 「じゃあ、そろそろ先輩も。わたしだけ服脱いでるのは……」 

 部室で脱衣するのは、練習後の着替えとかで何度もやっていたが、由紀ちゃんがそこにいるというだけで変な気分がした。 
 寄せ集めの野球部だけど、この部室は女性の目がそれなりに入るところなので、むさ苦しいものを見せない配慮はしているんだ。 
 光が少なくて見えそうで見えない身体、喉奥まで染み付く女の子の匂い、荒くなってしまった吐息と声、 
ひとつだけでも勃ってしまうだろう刺激をいっぺんにもらっているので、俺のペニスはもう先走りまで出していた。 

 「こ、これが小波先輩の……あれ、男の人も興奮すると濡れるんですか?」 

 俺は部室の机に座ったまま、絶好調に反り返ったそれを由紀ちゃんに真正面から晒している。 
ここからついにゴムを装備してセックスする……俺が机に座っているのは彼女の発案である。対面座位で抱き合ってしようということらしい。 
 寝転がる場所も敷物も無いから対面座位、ってのはそのエロ本読まなきゃ出ない発想だな――と思ったが黙っていた。 
 俺にも他にいい対案が見つからないから。こういう知識では俺も大差ないレベルだった。 

 「確かにわたしは初めてですけど……先輩だって経験無いですよね。それなら、わたしにやらせてください!」 
 「う、うん、そうだけど、そうなんだけどね……」 
 「それに……これだと、わたしがあげるって気分になるんですよ」 

 俺が揃えた両股の間を、横から机に登った由紀ちゃんが膝立ちで跨いできた。スカートも下着も取り去っている。 
この頭の位置なら、彼女の大事な場所を含む生まれたままの姿のほとんどが、首を動かすだけで眺められる。 
それでまた陰毛がまばらなので、女性器がよく視認できてしまう。すぐ下には俺のペニスの亀頭が待ち構えている。 

 「というか、これ実際入るのかな」 
 「今更そんな不安なこと言わないでくださいっ、わたしだって、上手く出来るか分からないんですから」 
 「あ、ごめん。でも無理はしちゃだめだよ。相当痛いって聞くし」 
 「無理なんかしてませんって」 

 由紀ちゃんの台詞は明らかに強がりだった。ゴムをおっかぶせるあたりまでは臆した素振りは無かったけれど、 
これを挿入するという段階になると、この大きさ――特別大きくはないはず――でも恐怖心が湧いてきたんだろう。 
 彼女の性器は彼女自身が指で拡げているにもかかわらず、それを拒絶しているかのようだった。 

 「それじゃ、行きますよ。あの……」 
 「由紀ちゃん?」 
 「……小波先輩のこと、本当に大好きですから」 

この一瞬、猛烈に由紀ちゃんを俺の手でめちゃくちゃにしてしまいたいという衝動がどこからか奔った。 
たぶん、胸を弄ってた時のいたずらめいたものとは違うものだと思う。もっともそれが俺の身体を突き動かす前に、由紀ちゃんは処女を捧げにいった。 
 中はあり得ないぐらいキツかった。万力で締められたか、とさえ思えた。 



 「先輩……手、いいですか」 
 「手か。組む、それとも握る?」 
 「組む、方で、お願いします」 

 言われて、由紀ちゃんと両手の指を組み合わせる。生命線の付け根あたりに重みがかかる。彼女の泣き笑いの顔に焦点が合った。 
 痛みと圧力で、処女膜をいつ破ったか感じ取れなかった。恐る恐る視線を落とすと、俺のペニスにも赤い物がこびりついていた。 
 彼女は脂汗を浮かせながら息を切らしていた。全力疾走した後でもここまでにはならないだろう。 

 「先輩っ……小波先輩に、はじめて、あげちゃいましたよ……どう、ですか、先輩っ……」 

 由紀ちゃんが俺に絡ませていた指は、真っ白になるぐらい力が入っていた。無理するな、との一言も口に出せなかった。 
 彼女にこんな顔をさせておきながら、相変わらず勃ちっぱなしのペニスに、俺は我ながら呆れていた。 
 例の衝動はへし折れてどこかに行ってしまっていた。想像していたよりもめちゃくちゃだったからか。 

 「ね……由紀ちゃん、キス、してもいいかな」 

 俺は机に座っている――つまり足を床に付けていない――ので腰が上げられない。 
キスするといっても、由紀ちゃんが上背をかがめてくれないと微妙に届かなかった。 
 気持ち良い、とは返せなかった。やせ我慢を口に出させるのが口惜しかった。だから、くちびるを塞いでしまいたかった。 
 服を脱がせる前にしたキスは、それなりにムードもあったはずなんだが、今のそれは痛々しかった。 

 俺は由紀ちゃんのくちびるにむしゃぶりついた。口内に舌を突っ込んで、歯列の奥まで押し入って犯した。 
ペニスが動かせないのを贖うように、下品な音をさせて、ずっと、ずっと犯して回った。唾液は喉にいがつく後味だった。 
 息が苦しくなってからやっと彼女のくちびるを解放すると、半開きになった彼女の目と視線がぶつかった。 
 銀の橋なんてものはできなかった。顎のあたりまで唾液でてらてらと濡れていた。 

 「えへ……おとなのキス、って言うんですよね、こういうのっ」 

ペニスを挿入されたまま、破瓜の痛みを抱きながら、今も笑いかけてくる彼女に、かけられる言葉はひとつしか思いつかなかった。 

 「さっき、言いそびれたんだけどさ……俺も、由紀ちゃんのことが本当に大好きだよ」 




 結局、あれ以上は行為を続けられなかった。後始末は衣服を整えるのが精一杯で、二人でしばらく放心状態になっていた。 
 余韻に浸っているといえば聞こえはいいが、実際は肉体的にも精神的にもくたくただった。これが既成事実ってやつなのか。 

ぎこちない歩き方の由紀ちゃんを、俺は家まで送っていった。歩いている途中、彼女が肩を寄せてきたので、肩に手を回してくっついて歩いた。 

 遅い時間になっていた。由紀ちゃんの家には、適当な理由を並べて誤魔化した。 
“こんな遅い時間まで付き合ってくれるなんて、できた人じゃない”とか家のお母さんに言われたが、 
とても顔なんか見れたものじゃなかった。全て見透かされているんじゃないか、という妄想さえしていた。 
というか、それは普通彼氏の目前で言うことじゃないと思うんだが。 

 由紀ちゃんの処女を奪ったことは、彼女の思いに応じた時から、頭にちらついていた事だった。後悔はしていない。 
が、まさかこんな形になるとは思わなかった。もう少し先輩らしくリードしてあげたかった、とか思ったが、すぐに頭から消した。 
 彼女については、最初から主導権とられてるか、途中で奪われてしまっているパターンが多かったから……告白の時とか。 
それに部室で交わった次の日に、 

 「あの、小波先輩っ、次はわたし、もっと上手くやれるようにしますから……」 

とかなんとか声をかけられて、由紀ちゃんに対して主導権とろうとか俺には無理だ、って諦めるのはしょうがないよなぁ。 
 出会った時もそうだった。亀田君の口車で野球部のマネージャーになったっけ。どこか危なっかしくてほっとけないところは、関係がここまで進んでも変わらない。 

ちなみに、エロ本は俺達が片付け忘れていたので、翌日水原君に再発見されて、また部内で一悶着あった。 
“そんなもの持ち込んだのがあの教頭にバレたら、どんな尾鰭が付けられるか分からんよ”とか言われたけど、 
 既に尾鰭がつくでは済まないことを仕出かしている俺は、ただ苦笑いを返すしかなかった。 .
 


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