ここは街の深い処にある飲み屋。外見は古びかけているものの、店内には面白そうな2人の客が興味を惹かせてくれる。 
「ミーナさん」長身の女性が、褐色肌の女性に声をかける。 
「なんです? カズさん」声をかけられた女性は、声の持ち主に振り向く。 
「若さへの秘訣って…あります?」彼女は酒が入ったグラスを揺らしながら、質問をする。 
「それなら私が知りたいですよ」ミーナは、当たり障りが無い解答をする。 
「え〜? 年上のミーナさんが、若く見えるやないですかあ。…羨ましっ!!」彼女は緩やかに器を手首で回す。まるで、気の迷いでもあるかのよう。 
「カズさんだって、顔立ちがかわいいですよ。日本人取り柄です」 
「ん〜? …比べて、ミーナさんはええカラダをしとるやん」カズはふてくされている。彼女がそう感じるのも、無理もない。 
カズの身長は約2メートルに及ぶ。一般的な高身長としても、大きすぎる身体。逆にミーナは背が小さめで、華奢とともにメリハリがある体型。俗に染まる男には、手を出したいものだろう。 
「唯一言うなら…秘訣は、ありますよ」その言葉を聞いた瞬間、カズは目を大きく見開いた。 
「ホンマ!? ちょっ…何か書きこむもん…ミーナさん!! 手帳の隙間に書くけどええ!?」 
「え、ええ…」さっきまで酒と憂鬱で潰れていた彼女が、素早い動きを見せた。まるで入まるで入社したての記者が、目をキラキラさせてインタビューをする様だった。 
「え…えーっと、ずばり……ドキドキする事、ですかね」ミーナはカズに微笑みながら、言った。 
対してカズは、ペンを手帳に放り投げた。 
「はぁ〜…こういう時、恋愛とかウサン臭いもんじゃなくて、美容法とかを聞きたいんですぅ」


と、ミーナは口を小さくして、こう言った。 
「……人は、恋愛をしないといきていけませんか?」彼女はカズに問う。 
「そりゃ無くても生きてこれます。けど…あったほうがええやないですか…」彼女は手を組み、寝かせながら質問に答えた。これは深刻な問題だ。 
「私達はジャーナリストに超能力者。幾度も命を狙われています。なのに、こうして食べて、お酒を飲める事は嬉しいものです」 
「うな〜ん…大層な事はええです。ただ…」 
「活き活きとはできない…ですよね?」ミーナは、カズのもやもやとした気持ちを汲み取る。 
「カズさんを護衛に選んでよかったです。そしてまた、助けてください」彼女の言葉で過敏に反応するカズ。 
「ええ!? なんでえ…ウチより男と付き合った方が楽しいですよ」カズは謙虚に答える。 
「いいえ、単に話が合うからですね。私は職業柄、恋人を持てません。カズさんだってそれを嘆いているのでしょう?」 
ミーナの言っている事は的確であった。裏社会に生きる者は、貧弱であってはいけない。 
弱い者ほど、そのルールからは逃げられない。 
「ですから…今後もよろしくおねがいしますね」彼女がカズにそう言うと、 
「うぅ〜ん。いつの間にむっずかしい話になったんやろ…。店員さん、すんません!! 度がキッツいのを一本!!」カズのオーダーにミーナは驚きを隠せない。 
「そ、そこまでは付き合いませんからね!! カズさんはお酒強い方ですし」 
「大丈夫ですって。今のミーナさんは自分に酔っとる。だからウチにも酔わせてくださいな。ふわふわとしてて、無重力の世界に…」 
「…それって意識が飛ぶまで呑むんですか!?」 
夜は長く、一人で過ごすには寂しい。だけど、こうして楽しい二人を見ていると、酒と人が孤族を打消してくれると感じさせてくれる。 

終わり。

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