「んんっ、はぁぁっ、いっ、やぁぁん」
「おらっ、どうだ、気持ちいいかっ?おいっ」
「お、お願い、ひっ、も、もうやめてっ、許してぇっ・・・」

そこはずいぶんと暗い部屋だった。窓から外を覗けばひどい曇り空で、月も星もでていない。
闇妖でも出てきそうな、どす黒い夜。
その暗い世界で男女が二人、情交を結んでいた。いや、情交というには語弊がある。
その部屋で行われている行為には“情”というものは感じられない。

女は男に犯されていた。
無骨なベッドの外枠に両手を手錠で括り付けられている。その姿はまるで自らの不幸を神に拝み、訴えているようだった。

後ろから何度も何度も乱暴に突かれ、汚い罵声を浴びせられ、
それでも解放されず、もうすでに小一時間慰み者にされ続けている。
ギシギシと軋むベッドの無機質な音が、ただただ残酷であった。

「なにが、許してだっ、このっ、このっ、雌犬めっ、お前は娼婦だっ、売女だっっ」
男は女を刺し殺すような勢いで責め立てる。乱暴に、彼女の丸く形の良い尻に腰を打ち付ける。さらに一突きごとに女を貶す言葉をかける。

「しょ、う、ふじゃ、あ、ありません!わたしぃっ」

美しい黒髪、滑らかな白い肢体の女はそう反論する。
激しい行為の所為か、それとも陵辱的な罵声の所為かはわからないが、その翠色の瞳に涙を浮かべていた。
それでも性交によるオーガズムは押し寄せてくる。卑劣な男には屈しないとする彼女は歯を食いしばるようにして
それに抵抗する。体験などしたことの無い酷い陵辱行為に、本来の端整な顔立ちは見る影もない。

「うるさいぞっ、口答えするんじゃないっ」

一層強く男は腰を突き出す。その衝撃に女はたまらず絶叫に近い喘ぎ声をあげる。

「ははっ、まるで、犬みたいだなっ。お前の会社、和桐だったか? おらっ、雌犬の学校だなっ」
「ひ、ひど、い、こんな、も、もういやぁ・・・あぁぁぁっ」

とうとう精も根も尽き果てたのか、女は泣き崩れる。
同時に激しく腰を打ち付けていた男も限界――射精が近づいていることを感じ始める。
(・・・もう、限界だな・・・)
と、男は彼女から自分のモノを抜き取り、彼女の上半身へと詰め寄る。

「おい、こら、こっちむけ。顔にかけてやる。有難くなめろよ、雌犬っ」

そういうと男は女の頭を右手でつかみ、左手でゴムを乱暴に外した後、薄黒い棒を女の顔にこすりつけた。
容赦なく放出される精。女は成す術も無く、その顔を汚されていった。


【鵺の情】


「・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・その、・・・ど、どうでした?」
「・・・・・・えと、・・・正直、その・・・まあ、なんというか、・・・疲れた・・・かな・・・」
「・・・ですよね・・・本当、すみません・・・」

重苦しい曇り空もいつしか過ぎ去り、美しい月の光が差し込むようになった部屋で、小波と漣は“反省会”を行っていた。
まだ体温は上昇を保っていたが、とりあえずは体液で汚れた身体をふき取り、二人してベッド脇の壁に寄りかかり軽く放心していた。

「・・・こういう・・・SMプレイ?は、当分は・・・いいかな・・・はは・・・は・・・」

遠い目をした小波がつぶやく。眼に光が宿っていない。所謂レイプ眼である。

「ご、ごめんなさい!・・・私が、その、こういうのしようなんてことを無理に・・・」

ぐったりとした小波に漣は心底申し訳なさそうに謝罪する。妖しいシチュエーションにトリップしていた精神もすっかりシラフだ。
それどころかプレイ前には絶対に新しい快感を得られると確信を持っていた漣は、小波のドン引き具合にかなりのショックを受けていた。

「い、いや、別に漣がどうこうってわけじゃないよ。ただ、俺にはちょっと、合わないかなぁ〜って話で」
「うぅ。すみません。私ばっかり気持ちよくなって・・・。今日は早朝から大会で大変だったのに・・・」

日付はすでに変わっているため昨日になるが、その土曜日、漣はまるまる休日。一方小波は教え子の大会で早朝から出勤だった。

「そ、それは気にしないでよ、漣。俺は漣が気持ちよかったらそれでいいし、俺も・・・まあ、気持ちよかったしね。うん」

漣を気遣う小波だったが、その顔はどう見ても、体力ゲージもやる気ゲージもその他諸々すっからかんとわかる顔であった。


昨年夏、邪悪な電子生命体・デウエスが仕組んだ、破滅のゲームに打ち勝ちついに結ばれた小波と漣。
その後二人とも就職に成功し、順風満帆の構えで同棲を始めた。
二人で部屋を借り、二人ではじめた新生活。今まで女っ気がなかった小波にとっては夢のような日々のスタートだった。

正直言って小波にとって漣は、今までの自分では考えられないような女の子である。容姿端麗、頭脳明晰、しっかり者で家庭的。
たまに見せるドジなところも愛らしいし、そしてなによりも、自分の事を一途に愛してくれる。
世の男が考え得る“いたれりつくせり”を具現化したような女性だ。

(ああ、俺って世界一の幸せ者だよなあ〜)

漣の癖がうつったのか、幸せな時間を想像しては「でれ〜」っとすることを教え子達に気味悪がられたのはつい先日の話。
だが、そんな小波にも悩みがあった。いや、悩みというほどではないかもしれない。いやいや、逆に大きな悩みとも言えるかもしれない。
その悩みの種というのは漣の性欲であった。漣にとっても小波はついに出会えた運命の人であり初めての異性。
さまざまな“初めて”が、持ち前の好奇心や探究心をぐいぐいとかきたてるのだろうか。
小波が思うに、彼女のハマリ性は伊達じゃない。もしくは言うところのセックス依存症だろうか。
なにか・・・物の怪にでも取り付かれたかのように、毎晩性交を求めて来る。

詳しく言えば、二人で暮らし始めてからというもの、セックスをしなかった日というのは彼女の生理の日以外、ほぼない。
漣は残業で遅くなろうが、くたくたに疲れていようが、例のデータの解析がヒートアップしようが、ベッドに入れば小波を求めてくる。
さらにいえば生理の日でさえもオーラルで愛を求められる。体調が良いようならソフトかつクリーンに“する”。
生理の日でも出来るみたいですよ!とネット検索でテンションを上げていた漣は、宝クジにでも当たったかのような顔をしていた。
小波も、漣に夜、艶やかな表情で懇願されては多少疲れていようがその気分じゃなかろうが、まずもって選択肢がない。

行為の内容も次々と漣が提案していった。マニアショップで学生服やゲームやマンガの衣装を買い込んでのコスチュームプレイ。
部屋のクローゼットにはRPG風衣装や忍者服、宇宙SFの制服に海賊服などが揃えられ、他人には見せられない空間が出来上がっている。
それから初夏の花火大会の時は、漣に穴場があると連れられた人気のない場所で青姦もしたか。彼女は避妊具持参で最初からする気
だったようだ。浴衣を着た漣に行為を誘われて、正直小波も花火所ではない。彼女の買ったばかりの蒼い浴衣をドロドロにしてしまった。
また当然ながら、近隣のラブホテルなんてほぼコンプリート状態である。休日デートの都度、通っている状態だ。
ホテルのポイントカードはお得だ。ちょっと安くなるしなにやら良くわからない粗品ももらえる。・・・閑話休題。
先程のSM気味プレイも当然漣の提案である。こういうのやりたいと用意された参考資料を見て、流石の小波も漣に
こんな乱暴なことはできないと嫌悪と拒否の意を示した。が、台本を作ったり小道具を買ってきたりする彼女の異常な
熱意にとうとう負けてしまい、ヤケクソ気味に彼女の要望に応えたのだった。

(まさか雌犬だの売女だの言わされるとは・・・女の子はあれで興奮するのか?というか俺も良くこんな罵詈雑言を漣に言えたよなぁ)

先ほどの激しい行為を思い出し、彼女が用意した、異様にサディスティックでマニアックな言葉のチョイスに苦笑する。

(・・・ベッドインの前にお酒入れてなかったらまず無理だったな)
(しかし、今日のも大概すごかったけど、こういうのがこれからもずっと続いたら俺・・・腹上死するんじゃないか?)

ある種幸せな死に方である気もするがそういうわけにもいかない。愛する彼女を間接的に殺人者とするわけにはいくまいて。

(まあ、死ぬのは冗談でも漣だって朝が辛そうなときも多いし。漣の為にもちょっと言ってみようか。うん、これも彼氏のツトメだよ)

「なあ、漣。」
「・・・は、はい!なんですか?」

行為の疲労感と小波に無理強いした自己嫌悪で落ち込んでいた漣。深い翠色の眼を大きく見開き、あわてたように返事をする。

「その、さ。えと・・・エッチのこと・・・なんだけど」

びくっと肩を脅かし、まるで恐れていたことを指摘され、そして観念したように彼女は反応する。

「・・・・・・やっぱり、その、しすぎ・・・ですよね・・・」
「・・・かな。あ、いや、俺は漣のこと、ほんとにすごくすごく好きだけど、もちろん、漣とのエッチもすごく好きだけどさ」
「ごめんなさい、いつも・・・小波さんにだって色々都合があるのに甘えちゃって。私、ダメな女ですね」

シーツで顔を半分隠すようにしてちょっぴり涙目でつぶやく。

「私・・・、小波さんと出会うまで、男の人とこういう関係になったことなくて」

「恋愛は人並みには憧れてはいたんですけど、その、エッチについてはマンガとかゲームとかで知識や妄想ばっかり膨らんじゃって」

ゲーム、という言葉に引っかかりを覚えつつも小波はうんうん、と頷く。

「ずっとコンピュータの勉強とか、研究室こもりとかでいろいろと溜め込んでた分、その、タガが外れてしまったというか」
「・・・好きで好きで仕方が無いんです。小波さんを・・・感じることが。自分を感じてもらうことが」
「そして・・・なにより怖いんです」

肩をすくめ、声を少しだけ震わせる。

「怖い?」
「・・・小波さんが、・・・いなくなることが、怖いんです」
「もし明日、小波さんがどこかに行ってしまったらとか、一人の時についつい考えてしまって・・・」
「・・・デウエスがまた出てきて、小波さんを連れて行く夢とかも、何度か見たりして」
「そんなことが続いて、不安で自分が抑えられなくなって、あなたをもっともっと、感じられるだけ感じたいって・・・」
「・・・心も、身体も感じたいって・・・」
「・・・あ・・・う・・・い、言い訳ですよね。こんなの・・・。」

(あぁもう、私ったら小波さんに甘えてばかり。このままじゃいつか本当に嫌われちゃう・・・)

ぐす、とシーツで涙を拭う。彼女も小波と一緒に晩酌の酒を飲んだのだが、悪酔いがちな彼女もさすがに酔いが飛んでしまったようだ。
彼がいなくなるなどの予感は、彼女にとって嘘偽りの無い、本当の恐怖であった。怖気で身体が硬直してしまうほどの悪夢。
だが、そういう不安を性交という行為で打ち消そうとするも、それに自分の趣味や興味などを同乗させ、
自身が貪る快楽として享受してしまっていたのもまた事実だった。
己の浅はかさ、姑息さ、そしてなによりも弱さ。心臓を鷲づかみにするような自己嫌悪に胸をこわばらせる。

いつもは気丈で陽気なはずの漣。そのひどい落ち込み様に、小波は彼女の心情を察知する。

「漣・・・」

漣の顔を覗き込むと頬に涙の粒が滑り降りている。暗がりに光ったそれは、美しく見えるも小波の胸にぐっと突き刺さる。

(おいおい、こんな寂しく泣かせるために言ったんじゃないだろう。なにやってるんだ、俺は)
(・・・俺が漣に言わなきゃいけないことはこんな事じゃない。俺が言わなきゃいけないことは・・・)

ふっと頭を軽く振る。もうエッチがどうのこうのなんてどうでも良いことだ。
今、漣に言わなければいけないことを直感的に頭から引き出す。彼女の不安を取り除く、彼女のための言葉。

「・・・漣。ずぅっと前にも言ったけど、覚えてるかな?俺はさ、君がいないと、もうどうにもやっていけない男になってるんだ」

ぐいと彼女の華奢な肩を引き寄せる。突然のことに漣は初々しそうに顔を紅潮させてしまう。

「小波、さん・・・?」

「・・・もし漣がいなくなったりしたら、俺は・・・たぶん壊れると思う」
「あれだ、廃人になるな、うん。・・・つまり、俺からいなくなることはない」
「次に、デウエスの奴もあの日みんなでやっつけた。あいつはもういない。俺がワケわかんないのにやられるのも、現実問題ナシ」
「だから・・・結論。俺は君の前からいなくなるなんてことはないよ。きっと。いいや絶対、死ぬまで一緒だ。」

(お?・・・ちょ、ちょい待て。何が言いたいんだ俺。酒がまだ残ってるのかな。んあー・・・んーと、えーと、要は)

「そう、俺たちには時間はたっぷりある。飽きるほどある。だから二人でやりたいこともそう焦らなくていいんだ」

漣の潤んだ目を見ながらニコっと微笑む。その瞬間、彼女の翠色の瞳からポロポロと涙があふれ出る。

「小波、さん、すみません、私、私・・・」
「はは。よしよし。今、漣が思ってること、ちゃんと解ってるつもりだよ。俺は漣の運命の人で、漣は俺の運命の人なんだから、ね。」

泣きじゃくるように自分の胸板に顔をこすり付けている、この世で一番愛しい女性の黒髪をやさしくなでる。
いつもはしっかり者の漣だが、失敗して一度自分を責めてしまうと、途端にひどいマイナス思考に陥ることを小波はよく知っていた。

「小波さん、小波さんっ、ごめんなさい私、小波さんが好きすぎてっ、うぅっ、自分が、止まらなくなっちゃって」
「小波さんと、一緒にいられるだけでも充分なはずなのにっ!バカなことばかりして!子どもみたいにわがままばっかり!」

嗚咽交じりの懺悔。小波は大丈夫だよ、いいんだよと言うように漣の頭を優しくなで続ける。

「ううん。俺のほうこそ、ごめんね。漣の不安をちゃんと汲み取ってあげられてなかった。君の恋人として、俺はまだまだ未熟だ」
「・・・だからさ、お互いをもっともっと時間をかけて、大事にしていこうよ。じっくり、もっと好きになっていこう?」
「大丈夫。いつになっても二人は離れない。悪い予想なんて絶対、100%当たらない。ね?」

頭を撫でていた手を彼女の頬に滑らせる。流れた涙の湿り気を感じ、それを親指で拭う。

「小波さんは・・・小波さんは優しすぎます」
「・・・・・・私も、私もゆっくり、大事に、小波さんと生きていきたいです。これから、ずっと」

潤んだ上目遣いで小波を見上げる。もう涙は流すまいとぐすぐすこらえながら、彼女は精一杯の笑顔を見せる。
小波はそのあまりにも愛おしい表情に体中が一瞬で昂揚する感覚をおぼえる。そうだ、自分はこの表情をさせたかったんだと確信する。

「漣・・・。」

と、シーツの中で自分の下半身がなにやら主張をし始めていることを感じる。
先程出したばかりでまだジンジンと麻痺はしているのだが、問題ないとばかりに分身は立ち上がり始める。

(・・・う゛。漣のことになったら、俺もホントに止まらなくなるな・・・。・・・ど、どうしよう)

シーツに徐々に形が現れている。随分とかっこつけたことを言った手前、下はこんなことになってますハイは恥ずかしい上情けない。
抑えようと瞬時にエロとは程遠い経済用語を暗唱してみるが効果はない。
この状態、漣が気づきでもしたら、おマヌケなのにも程がある。

(・・・はぁ、つくづくなにやってんだ俺。必死に隠蔽するほうがバカっぽいだろ)

ふぅっと、覚悟を決めた時の深い呼吸。

「漣!ごめんっ!俺、なんかえらそうなこと言っちゃったけど・・・その、えーと、あはは、その・・・元気、でてきちゃった。ほら」

きょとんとする漣に自分の下半身を覆うシーツをめくり、分身の復帰を見せる。
元気、というかもうすでにぴくついているくらいの剛直ぶりである。
たはは、と苦笑いする小波。

(あぁぁ、俺、今めっちゃめちゃアホなツラしてんだろうなあ・・・)

「こ、小波さん・・・えへへっ、・・・え、えと、ど、どうしましょう?」

彼女もしんみりとした表情から一転、はにかみながら苦笑する。

「うぅー、そうだな・・・うーん・・・」

考えてもどうせたどり着く答えが決まっているのは知っている。
でもやっぱり言い辛い。

「んー・・・じゃ、じゃあ、えーと、なんというか、かんというか、二人の再出発というか。」
「・・・その・・・しよっか?なんていうか、初心にもどった感じで。お互いのこと、もっとしっかり理解できるように。」

セックスの回数を減らそうと言いながら結局誘ってしまい、ちょっとバツが悪そうに提案。それを聞いた漣は再び頬を紅潮させる。
頭をぽりぽりかきながらどうかな?と再度問う。漣は彼の照れた表情にクスッと吹き出し、彼の眼を見つめなおす。

「・・・はいっ!小波さんっ!この世で一番っ!大好きですよっ」

涙がまだ瞳にうっすら残る笑顔でそういうと、漣はグイと身を乗り出し小波の口に咥えつくようにキスをした。

「ん、うんん、ちゅ、んっ、んっ、ン」

月明かりが漣の白い上半身を照らす。壁にもたれかかって座っている小波の下腹部に、馬乗りになるようにして座り、
首に腕を回ししっかりとキスの感触を感じようとしている。
キスをしているときの漣は必死にミルクを飲む仔犬のようで愛くるしい。小波の唇を何度も何度もついばむようにしてその感触を味わい、
また舌を進入させては相手の口内を全てなぞるようにする。

「ぷはっ、はぁはぁはぁ」

ようやくキスから解放される。自分の口から離れた漣の口周りはすでに唾液でべたべたになっている。

「んはぁ、んふぅ、小波さん、もう少し・・・まだ・・・もうちょっとだけ、キスしたい・・・です」

長く白い指を揃え、愛おしそうに彼の頬をすりすりと撫でる。

「うん、いいよ。・・・漣。キス、すごくうまくなったよね」

そうですか?といいながら舌なめずりし唇を湿らせ直す。ぷっくりとした唇が湿り気を帯び、色っぽさがさらに増す。

「うん。初めてのころはなんか、可愛くチュって感じだった」

これですか?と小波が言ったような軽いキスを頬にする。唇を離し、えへへ、とちょっと恥ずかしそうに笑う。
大人の女性というよりは、あどけない少女のようなその笑顔を見て、つられて小波も少年に戻ったような笑みをこぼす。
だが二人ともすぐに大人の表情に戻る。二人がしているのは子どもの恋ではなく、大人の愛。

「それじゃあ、改めて、もう一回・・・。んんっ、ちゅぅっ」

再び小波の口に咥えつく。先程は漣にされるがまま、任せていた小波だが今度は自らも舌を突き出し、
愛しい彼女の舌をいじり返す。自分の口内とは違う感触。今二人の舌は味覚ではなく触覚を感じるために機能している。
先端だけで突き合い、また握手をするように絡めあう。舌を相手の口内に這わせ、歯茎や歯並びの形を触って確認していく。
そしてこの応酬によって口内にたまっていった相手の唾液を舐めとり合う。

「んんんんっ、むんー、んーっ、んはぁ、はむぅ、ちゅう、ふぅんん」

二人とも眼を瞑り、唇と舌の感覚に神経を集中させ、一心不乱にキスを楽しむ。
火照った息遣いと舌運動の音だけが響く部屋。二人はこの作業だけをすでに10分以上も続けていた。
今まで幾度と無く行ってきた舌の格闘と唾液の交換だが、今日は別段濃い内容であった。

「ぷはぁ、はぁはぁ、ちゅる、はぁ、はぁ、ん・・・ふぅ、小波さんの味・・・おいしいです」
「ごめんね、ちょっと酒臭い?」
「え?ふふ、私だってお酒飲んでますし、お酒は好きですから。あっ・・・」

口元からつぅーとこぼれてしまった、どちらが出したのかもはや解らない唾液を親指でぬぐい、ちゅぱっと音を立てて舐めとる。
そしてそのまま舐め取った手で、先程から自分の恥丘に接触し続けているモノをやさしくつかんだ。
次のステップに行きたいとの意思表示だろうか。眼を細め、妖艶な笑みを浮かべながら小波をみつめる漣。
モノをつかんだ手の親指の腹を使い、その先端部を柔らかくすりすりとさする。
すでに粘り気のある液体が分泌されていた。その液体を剛直の頭部分に塗りたくるように大きく指を動かす。
彼女の下腹部で行われている、そのいやらしい感触に小波もたまらず身震いをおこしてしまう。
淫らな行為の連続で、とろんとしている翠色の瞳を見つめる。流石に言葉なしでも解る。
どうやら、彼女は小波のGOサインを待っているようだ。

「・・・じゃあ、漣。そろそろ下の奴にも、キスしてやってくれる?」
「はいっ了解です♪」

指示を受けた漣は、よいしょと小波の下半身から後退し、そのまま彼の分身に顔を近づける格好になる。
反り返ったペニスを指で軽くつつき、微笑む漣。まるで猫が玩具で遊んでるようだ。

「ふふ、なんだか今日はいつもよりちょっと大きいみたいですね」
「きっと漣がいつも以上にかわいいから張り切ってるんだよ」

ちょっと照れくさそうに、はにかみながらペニスの裏筋にちゅっちゅっとキスをする。かわいい接吻に思わずぴくぴく反応してしまう。
そのまま漣は舌を突き出して裏側の下から上までを一舐め。舌のざらついた感触に、思わず小波の口から大きく息が漏れる。
その反応を見て漣も興奮から甘い息を漏らす。舌なめずりし、本格的にフェラチオにとりかかる。
先程まで散々指でいじめていた尿道口に舌をつけ、チロチロとつつく。少しずつあふれてくるカウパーの酸味を確かめながら
穴を広げるように優しくこねる。時折舌を離して唾液を亀頭にたらし、再び繊細な舌使いで小波を悦ばせる。

「ん・・・ん・・・ちゅ・・・。ん・・・ふぅ、ちゅぷ、はむ、うぅん、ん、はぁっ、どうですか?」
「うん・・・。すごく、気持ちいいよ。気持ちよすぎて、辛いかも・・・」
「もう。まだ先っちょしかいじめてないのに。本番はこれからですよ?」

そう言うとはむっとまるごと一気にペニスを頬張った。亀頭がこつんと彼女の上あごにあたる。
普段の清楚な彼女からは想像できない、妖艶な息遣いをしながら、漣は頭を上下させながらペニスを吸い付ける。
口の中では舌をうまく転がしながらペニス全体を満遍なく愛撫している。舌を使って浮き出た血管の感触を楽しむ。

(あ、いけない。こっちはお留守でした)

ペニスの根元からぶらさがっている睾丸に気づき、すかさず手でやさしく揉む。

(まだまだ精子を送ってきちゃだめですよ?)

自分のしている行為とは裏腹の無理難題を心でつぶやきながら、さらに彼女の頭は上下動を加速させていく。
ざらついた舌の感触と、口の中のほどよい温度が小波の加速的に限界へと誘う。

「漣、すごい、いつもよりなんか、すごい気持ちいいよ、つか、やばい、そろそろ、やばい」

それを聞いて上下動だけでなく揺さぶるような動きのパターンに切り替える。
まるで歯磨きをするように頬の内側にペニスをこすりつける。漣の頬の膨らみから、自分のモノの
形が浮き出て見えるようでなんとも恥ずかしい。咥え込まれた自分の分身は、巧みな舌使いによって前後左右に転がされている。
容赦のない快感。歯を食いしばるように我慢するも、決壊が近づいていた。

「うおぉっ、ごめん漣っ、まじで、もうっ、出るっ」

それを聞いても漣は全くやめるそぶりは無い。それどころか一層舌に力を入れてペニスを締め付ける。
と、その瞬間、とうとう小波の我慢は決壊してしまった。咥えられたまま、漣の口内に射精する。
小一時間前に漣の顔に大量に射精したというのに、それを明らかに上回る量を出してしまう。ドクドクという流出の音が
下半身から響いてくるようだった。

「んんっ、ん、ん・・・、ん、んン」

自身でも多いとわかるくらいなのに、漣は子種達を冷静に飲んでいく。んっんっと喉を鳴らし、運動後の給水のごとく、
自分の体内に流し入れている。小波も彼女の喉の音に合わせて射精をするように、ペニスに調節を加える。
すでに数え切れないほどの行為をこなしたことによる、ある種経験ありきのコンビネーションだ。

流石の大量射精も勢いが弱まってくる。その気配を感じると、彼女はストローで底に残った液体を吸いだすように精を吸い込む。
睾丸内のストックも吸いだされてしまうような勢いに小波は声にならない絶叫を上げる。
射精も完全に終わり、漣は名残惜しそうに口を離した。唇と尿道口を紡ぐ細い白糸が光る。
それを指で絡めて少し弄び、愛おしそうに舐る。

「・・・ごちそうさまでした。小波さん、どうでしたか?」
「失神するかと思ったよ。漣の口はもう凶器だな。あれだ、法規制が必要だ」

下らない冗談混じりに技術を賞賛され、ちょっと満足げに微笑む漣。自分でも小波を悦ばせられた内容だったと自賛する。

「じゃ、次は俺が漣ので遊ばせてもらおうかな」

小波はそういうと漣の肩を支えながら彼女に仰向けになるよう促した。

少し恥じらいを見せながら脚を開いていく。
白く美しい脚の根元にある、世界中で小波だけが知っている漣の二つ目の口が姿を見せた。
良く手入れされた陰毛、そして濡れて官能的な光沢をした赤い陰門。光源が月の光のみの青白い部屋でも、
その鮮やかで生々しい美しさは際立っていた。今まで何度も何度もこの門を激しくこじ開けてきたのに、一切劣化することなく、
初めて拝見した時と変わらぬ美しさを保ち続けている。

「やっぱり漣は綺麗だね」

陰門から目線を上げ、彼女の細く美しい肢体を視ながらおもわず口にする。

「小波さんがいつも、大事に大事にしてくれているからですよ。」

そう言いながら彼女は自分の陰門に手をやり、人差し指と中指で肉の穴を開かせる。来てください、ということなのだろう。
彼女の指と交替し、小波は両手の人差し指で大きく陰唇を開く。漣の匂いがうっすらと香る。彼女はいつも入浴時自分の性器を丁寧に
ケアしている。出来るだけ健康かつ清潔に保つため、ネットや医療本で情報を得て、いろいろと手入れしているようだ。

(なんというか、プロフェッショナルだな)

以前尋ねたときに小波さんに気持ちよくしてもらうためですっ、とどこか凛々しい顔で言っていたのがちょっと可笑しい。
・・・男性器についても勉強しているようで、小波さんのもちゃんと手入れしてあげましょうか、とデリケート用ソープを
手に迫ってきたときは、流石にNO THANK YOUした。嫌だったわけでなく、確実に戦闘になだれ込むからである。
風呂場で楽しむのも嫌いじゃないが、熱中してのぼせる危険性が高い。というか実際なったことがある。

彼女の濡れた門の上部にある、ぷくりとした飾りにキスをする。ひゃんっと短い嬌声が部屋に響く。そのまま舌で優しく震わせてみる。

「んあぁあっ、はぁっ!んふ、ふぅ、ふぅ、んんっ」

深夜なので声を抑えようと、口をぐっと閉じつつもかき消しきれない快感によがる。
しかし、あまりの衝動に思わず開いた脚を閉じそうになり、太ももが小波の頭に触れたところでそれをくっとこらえる。
いや、ぎゅっと挟み込んでしまうのなんかいいかもと思ったが、せっかく愛撫してもらってるのだからと咄嗟の判断であった。

(漣、感じてるな。前の借りは返したぜ)

漣の荒れた息遣いと嬌声を聞いて気分を良くする小波。
ちなみに前の借りとは先程のフェラチオではなく、随分前、シックスナインに挑戦したときのことである。
互いの性器を愛撫しあう行為であるが、漣のフェラがとにかくすごすぎて、自分は彼女にクンニを施すことがほとんどできなかった。

(俺ばっか気持ちよくなって、こっちは手も足もでなかったんだよなぁ)

ちょっと、というかかなり情けない出来事を思い出しながら愛撫を続ける。
依然舌でクリトリスを愛撫し、加えて指を使いその下の穴をくりくりとほじくる。
少しずつ、にじみ出てくる愛液の量が増えていくのを確認しながら、舌も指も動きを激しく変化させていく。

「はぁぁ、ふうぅんんん、んっはぁ、いぃ、気持ちいいです、気持ちいいっっ、小波さんっ、ふにゅううぅ」

漣の反応も、それに比例して愛液の音も大きくなっていく。
彼女の艶やかで荒い息遣いと小さな水門からあふれ出るくちゅくちゅという卑猥な音が静かな月夜に響く。
漣の興奮の音はそのまま小波の興奮に繋がっていく。先程あれほど射精したというのに、すでに小波の分身は立派に復活を果たしていた。
十分に濡れきった、いつもの場所へ入りたいとせがんでいるようであった。下々の主張を聞き入れてやる。

「漣、そろそろ・・・入ってもいい?」

愛撫を一時中断し尋ねる。対して、漣は光悦とした表情でうなずく。口元の涎の跡が小波の気持ちをさらに昂らせた。

「よーし。じゃ、ゴムを・・・」
「ふぁ、待って。すみません、わ、私が、つけてあげますから」

長距離走でもこなしてきたかのような荒れた息遣いで漣が一気に身体を起こす。そのままいそいそとベッド脇の小物棚に手を伸ばし、
お徳用パックから一枚、避妊具をちぎりとる。それを開封し、取り出した水色のゴムにふぅっと息を吹きかけ表と裏を確認。

「こ、小波さんの、その、お、おちんちんを、触る仕事は私の役目ですから」
「・・・え。・・・ナニソレ」
「や、な、なんとなくのこだわりです。ささ、こちらに・・・」

たしかに毎度毎度つけてもらっていたけど、習慣になっていたとは・・・俺の彼女はやっぱ時々ヘンなところあるよな、と苦笑する。
漣としては、行為に付き合ってくれている小波に対してのご奉仕というか、せめてこのくらいはという感覚なのだが。
彼の評価を尻目に、漣は荒れた息も整えつつ、馴れた手つきで小波のペニスにコンドームをかぶせる。
そして、よし装着完了はいOKですさあどうぞといわんばかりに、小波にメッセージ性のあるまなざしを向けながら、
再びごろんと仰向けに寝そべって大きく開脚する。

(私と小波さんの再出発・・・。初心に戻って小波さんの気持ちから、しっかりと感じなきゃ)

(・・・なんか、妙な気合いが入ってるな)

ともかく、さぁさぁ早く早くと待ち構える漣の秘所にペニスをあてがった。


くちゅう・・・と艶かしい音を立てて男女が結合する。快いほどすんなり突き進めることができ、一気に奥まで差し込んでみる。
さっきまで妙に真剣な顔をしていた漣も、下半身に心地よい異物感を感じ深い吐息をもらす。
ペニスの型をとるように、自分の膣がずずっと変形していく感覚。刺激が差し込まれた所から頭の天辺までを貫いてくる。
漣の呼吸にあわせるように、きゅう、きゅうと奥のほうから締め付けられ、小波も快楽で顔をひきつらせる。

(挿れただけでこんなに・・・なんか、すごい気持ちいいな・・・)

漣も至極幸せそうな面持ちで、小波と同じ種類の快楽を感じているようだ。

「・・・さて漣、どうしよう、動こうか?それとも、もうちょっとこのまま止まっとく?」
「えへ、知ってます。ボリネシアンっていうんですよね」

小波の問いかけに閃いたように答える漣。一方の小波は、聞きなれない横文字に少し眉をくねらせる。

「ぼ、ぼりね・・しあん??それは・・・ナニ?」
「え。あ、あぁ、えっとですね、ほとんど動かずに、その、感じるセックスです。愛や信頼のための、セックス・・・だったかと」

ネットで知ったのか、それともハウツー本で学んだかの知識を、噛み砕いて説明する。
ただ、セックスという直接的な単語に恥ずかしいのか、ごまかすように手をのばし小波の頬を優しくなでる。
小波はその甘い動きに少し呑まれそうになる。

「・・・へえ、いいねなんか。じゃあ、その・・・ボリネシアンってのをしてみる?」
「なんかさ・・・今は、挿れただけですごく・・・気持ちいいし」
「ン・・・ホントは、環境とか、結構いろいろ準備してするもの、らしいんですけどね。でも、そうですね・・・これでも十分・・・」

そういいながら小波の首に手を回し自分にのしかかるように引き寄せる。そのまま彼の唇に咥え付く。
互いの脚をしっかりと絡めて結合がほどけないようにし、再びキスの応酬を始める二人。
先程よりかは激しさを抑えながらも、ねっとりとしたディープキスをする。先程の性器への愛撫で、
双方とも口内に相方の分泌物が若干残っていたが、お構いなしの唾液交換。互いを互いの舌で征服しあう。
キスだけでなく手で相手の頭や背中を愛おしく撫でたり、時折キスを中断して結合部分に力を入れあって感触だけを感じたり。
動物の子どものようにじゃれあう。性的な刺激こそ動くセックスより少ないが、気持ちの昂揚感はしっかりと感じられる。

「なんか楽しいね。たまにはこういうのもいいかもしれない」

結合を保ったまま、漣にのしかかる形で彼女の耳元で囁く。吐かれた息を耳で感じて漣は表情を少し緩ませる。

「ん・・・じゃあまた今度、本格的なボリネシアンをしてみませんか?来週の・・・連休にでも・・・」
「うん、いいね。そうしよっか。・・・ちなみに、準備ってどんなことするの?」

先程の漣の説明について素朴な疑問。それに対しちょっと残念そうに答える。

「実は・・・その、4、5日くらい、セックスレスしてから取り掛かるんですよ。その他はその日の食事とか体位とかなんですけど」
「へえ、5日も開けるんだ。けっこうあるんだね。・・・漣」
「あ、いえ、大丈夫ですよ。私はもう・・・小波さんのおかげで大丈夫。その位は我慢できます。してみせます」

小波の眼を見ながら返す。その瞬間きゅうっと二人の結合部が引き締まる。

「・・・じゃあ、次の休みにしよっか。でも、その代わり、今日は今からいつもどおりのをしようよ。一週間分」

ぎゅぅっと彼女の身体を抱きしめる。彼からの嬉しい提案と温もりに顔がほころぶ漣。

「はいっ。来週分、がっつりしましょう!」

よっしゃと小波は身体を起き上がらせる。
漣も小波に絡めていた足を結合が解除されないように慎重にほどき、再び開脚。一般的に言う正常位の体勢をとる。
準備は整った。互いの両手をぎゅっと握り合う。頬を染め、微笑む彼女。
少女が異性と初めて繋がった時のような、少し幼い雰囲気の笑顔に小波の胸は高鳴る。

「じゃあ動くよ、漣」

十数分間、彼女の最奥部で固定されていたペニスをゆっくり引く。強烈な性摩擦に二人とも一気に気持ちを昂揚させる。
そしてまたゆっくりと最奥めざして突く。二人とも目を瞑り、性器の感触だけを感じている。

「漣・・・気持ちいいよ・・・」
「ん・・・小波さん・・・私もぉ・・・」

十数回ゆったりとしたピストンを繰り返し、そして徐々にそのスピードを上げていく。下半身全体を押し付けるように目いっぱい突き、
引くときは抜ける直前まで一気に引き抜く。腰をグラインドするように、漣の狭い膣を掘り広げるようなピストンも交えながら、
快楽的な刺激を貪る。ずちゅずちゅと甘く淫らな音が、興奮をさらに強める。
あふれ出た愛液と、激しい行為による汗で、今日洗い替えたばかりのシーツはどろどろに汚れていった。

「はぅん、はうっ、んんんんっ、こにゃみさんっ、うぅぅんっ」

嬌声をあげながら半目を開けて小波の運動を見る。一心不乱に腰を振る恋人。
口を一文字に結んで全力で気持ちよさを自分に提供してくれている。漣は彼への愛おしさで胸がさらに高鳴るのを感じた。

小波は次第に腰をのの字に回すように突き始める。ペニスのカリ首が膣内を乱暴にかき回す。
女の最大の性感帯を縦横無尽に耕され、漣は軽い痙攣を起こすように喘ぐ。

「いぃぃっ、くぅっくっ、ああああん、んんんんーっ!」
「漣っ、漣っ、かわいいっ、なんかっ、変になってるよっ、気持ちいいのっ?」

波のように押し引きを繰り返しながら漣に問う。小さな口をだらしなく開けて荒い呼吸を繰り返す漣。

「ひ、きもちいいですっ、どうしようっ、あぁっ、あそこがぁっ、気持ち、よすぎて、どう、どうしましょうっ」

口元から涎が垂れている。小波はぐっと上半身を押し付けて、その汚れをキスで舐めとる。

「こな、こなみさんっ、キスっ、キス、って、ほしいっ、ぎゅってっ、おねがいしますっ、してぇっ」

漣は握り合っていた手を解き、もたれかかってきた小波を逃がすまいと背中に腕を回してつなぎとめる。
いっぱいに開けた口から舌をぺろんと出し、キスをせがむ。その犬のようなはしたない表情に小波の理性は破壊される。
彼女の要求どおり、差し出された舌に吸い付く。しかし相手を感じるような優しいキスではない。ただただ相手の舌を千切れそうになるくらい吸い、相手の口のなかで自分の舌を暴れさせる行為。唇に噛み付き、舌を押し付け、とにかく相手の口を犯す。
そんなレイプのようなキスを漣は至極嬉しそうに受け入れている。小波の全てを受け入れられることに至福を感じているようだ。
キスをしながら小波はピストンをさらに大きくしていく。突き込む角度を変え、動きを変え、限界まで腰を押し込む。

強力な快感と感情の昂ぶりによって、漣の子宮が小波を求めて外界に向かって少し移動する。
そうしてとうとうペニスの頭が膣奥のその器官に到達してしまう。快感を塗りたくられた分身に一段と高圧の刺激が襲い掛かる。
同時に漣も、身体の芯を串刺しにされたような凄まじい快感を受け、大きくのけぞるようによがる。

「いぃっ、いいっ、ふああああああっ!すごいっすごっ、こなみ、こなみさんっ、あかっ、あかちゃんのとこっ!くゅぅううっ!!」

子宮まで突かれ、全身の力を吸い取られるような感覚に陥る。小波も最奥にタッチできたことで一気に射精の欲望が爆発してしまう。

「漣っ!漣っ!、も、だめだぁっ、イケるかっ!?俺、もうイくっ、漣っ!」
「はいっわたしも、い、イキ、イ、イッちゃえますっ、は、んぃっ、んいぃっ、一緒に、いっしょにイきましょうっ!イってくださいっ」

「う、おあああ、あぅ、あぁあああ、うぅ、うはぁ、はぁー、はぁー、はぁ・・・」
「こなみさん、んんっ小波さんっ、う、あ、ふふふっ、いっぱい、出てます、ね、えへ、えへへへ」

膣の中でペニスがポンプのように脈打っているのがわかる。彼女には避妊具越しでも、その吐かれた量の多さが感じ取れた。
目を回したわけではないのに、見上げた天井はグルグルと回っているようであった。
もしも避妊具をしていなかったとしたら、確実に妊娠しているな、と下腹部の緩やかな振動を感じながら思う。

ふと、初めて身体を重ねた日を思い出す。デウエスとの存在を賭けた決戦の前、極限状態の下でした初体験。避妊はしていなかった。
だがそれ以来、生ではしていない。二人ともまだ若い。社会人としてもまだまだ駆け出しだ。
身篭ってしまったら、きっと波にも大きな負担をかけることになるのが心配だった。
もちろん、避妊しようが回数が多くなれば確率的に“当”たってしまうことがあるのは知っている。
そもそも完璧に正しい方法をしている訳でもない。しかも毎晩のように様々な性交を嗜んでいる。
そのくせ先述したように、もし出来てしまったらという不安や心配がない訳じゃない。
・・・だが、どこかでそうなってしまうことを望んでいる自分もいる。理性と本能のジレンマ。
やはり、自分は彼をエゴやエスで翻弄しようとしている。それでも、きっといつかは。

「・・・赤ちゃん・・・」
「ん・・・?」
「・・・ん・・・なんでも、ないです・・・」

思わずいずれたどり着くであろう、反省も弁解も自己嫌悪も無い、全てを認められる幸せを予想してしまう。
でも今は、自分にのしかかっている小波の心臓の音を感じることにした。
性熱にあてられた頭を落ち着かせる、優しい音だった。今この瞬間、幸せというものはこれだけで十分であった。

射精を完全に終え、小波は剛直の残るうちにと、ずるりとペニスを引き抜く。
漣はぐったりとしながらも身体を起こし、緩みつつあるその剛直に手を添える。
そして精を大量に溜め込んだゴム皮を慎重に取り外し、その量をぷにぷにと指でつまんで確認。

「はぁ・・・はぁ・・・すごい・・・。いっぱい・・・出ましたね。あ、小波さん、そのままで。掃除・・・しますから」

ティッシュ箱に手を伸ばそうとした小波を制止し、飼い猫が水を飲むように四つんばいとなり、精に塗れた肉棒を丁寧に舐めていく。
ある程度へばりついていた精液を舐め取ったら、先程したように、尿道口に舌をくりくりとねじ込んで強い刺激を与える。
一時的に萎えたペニスも、再び血圧を上げ力強く反り返る。

「・・・漣にかかったら、あれだけ出してもすぐ復活してしまうね」
「えへっ、ふぅ・・・。それじゃあ、小波さん。もう一度・・・いいですか?今度は・・・私が上になりますね」

そう言いながら新しいコンドームを丁寧に装着させる。
今度は先程とは逆に小波を仰向けにし、彼の胸板に手をつき、剛直をめがけて腰を下ろす。

月明かりに照らされた、恋人の裸体。すでに充分貪ったはずなのに、小波は思わず見とれてしまう。
端整な顔立ち、流れ落ちるような漆黒の髪、美しい乳房、くびれた腰つき、白い肌。その全てが先程の行為で火照っている。
息を呑む視覚的刺激。彼女の存在自体が小波にとっては媚薬のようなものだった。こんなにも魅力的な女性と共に生きていける。
今更だが、冷静に省みてみると未だに信じられない。

程なくして漣は上下運動をはじめる。ぬちゃぬちゃという水音と叩きつける激しい肌の音を結合部から響かせつつ、
色めかしい嬌声を漏らす。
彫像芸術のような静の姿から激しく肉欲を求める野生動物のような動の姿に変貌する。カエルのように脚をM字に開いた姿が、
激しく揺れる長い黒髪が、震える乳房が。そしてなにより快楽によがる彼女の表情がただただ卑猥だった。はしたなかった。
普段は心を持ったAIという夢を、ひたむきに追っている漣。会社でも、彼女の熱意と能力は大きな戦力として期待されているらしい。
その彼女が自分だけに見せる、この淫ら極まりない姿に、どこか罪悪感さえ感じてしまう。

「はぁあああん、くぅうっ、うぅぅぅ、こな、小波さぁんっ、どうですかっ、気持ちっ、いいですかっ」

本当に馬に騎乗しているかのように激しく身体を上下させる漣。
顔にかかった長い髪が口元に引っかかり、その表情をさらに妖艶にする。
その全身を使ったピストンにより、ぽつぽつとその滑らかな肌に珠のような汗が浮かび上がっていく。
小波は思わずその肌に触れようと手を伸ばす。彼女の腹部を優しくつかむように撫でていき、そのまま手を上部へと滑らせる。
出会った頃に比べると幾分か膨らんだ乳房にとうとう手がかかる。漣の激しい上下運動に上手く合わせて
自分の手のひらから少しはみ出す大きさの感触を味わう。完全に勃起してしまっている乳首を手のひらで押しつぶすようにし、
丸い乳房を鷲掴みにして力いっぱいにもみしだいていく。
乳房と膣の両方からくる強烈な性の刺激に漣はとうとう大きな嬌声を上げてしまう。

「やぁあああああっ!!はぁうああああんっ!いぃっ!ひんんっ!んっ!くぅううんっ!」

そのまま耐え切れず、小波へと覆いかぶさるように、上半身を崩してしまう。拍子に長い黒髪が小波の顔にかかる。

「ふぁ、ごめ、ごめんなさい、こにゃみさんっ、ひもちが、ふぅっ、よくてぇっ」

呂律(ろれつ)があやふやになりながら訴える。気持ちよさで泣きそうになってる顔が破壊的に可愛い。
ただ、そう涙目になりながらも彼女の腰の動きは一向に止まる気配がない。
ぎゅっちぎゅっちと、膣圧から生まれでた水音がテンポを速めていく。

「よぉし、こい漣っ!俺も振るから、もっかい、ふたりでイこうっ!」

漣の腰の動きに合わせて小波も突き上げるように腰を動かす。
しっかりと両手で漣を包み、もはや物理的にひとつの存在となっているといえる。

「うぅぅぅんっ!すきっ!こなみさんだいすきぃっ!ああんっ!くぅうんっ!し、しぬ、しぬほどすきですっ!こなみさんっ」
「おれもすきだよっ!全部好きだっ!一生好きだっ!!」

さらに腰を激しく振る。思わず乗っかっている漣が飛び上がってしまうほど、力強く突き上げてしまう。
反射的にぎゅうっと彼女の背中を両手でしめつけ、ぴったりと自分にひきつける。
彼女の乳房が自分の胸板で押しつぶされそうになるが、その感触さえも気に止まらない。
小波は漣を滅茶苦茶な勢いで突き上げ、そして漣も、小波をもう一度膣の最奥までねじ込んでしまおうと下半身を押さえつける。

「おぁぁっ漣っ漣っれんっれんっれんっれんっっっ!!」
「はあぁぁっはぁぁんあっ、おな、おなか、こわれちゃうっ!こなみさぁんっこなみさぁあんっ!んんんっーーーっ!」

快楽が極限を突破し、頭の中が真っ白になった。薄暗い部屋がぱぁっと明るく感じられる。
ぶつかり合う性器、こすれあう胸、そしてどちらが仕掛けたかもわからない噛み付くようなキス。
びくんびくんと二人の下腹部が震え、本日4度目の射精を迎える。

「ふぅううううっ、んんんんっっ!んっー!んんんっっ」

もはやけだもの同士の情交であった。絶頂の快感をゆったり味わうことも無く、互いに刺激できうる肌という肌、
そして粘液部をとち狂ったようにこすり合わせ続ける。唸るように嬌声を上げ、相手を本能的に、貪れるだけ貪り続けた。
避妊具内には精液が大量に放出されている。すぐにでもペニスを抜かなければいけないのに、それもお構いなしだった。
体中が双方のさまざまな水分でどろどろになりながらも、情炎は油を注いだように燃え上がる。
今まで幾度と無くひとつになってきたはずだが、この日、二人は本当の意味でひとつになれたのかもしれない。

憑き物を徹底的に削ぎ落とすように、いつまでも心と身体を擦り合わせる。
二人が力尽いて眠りに落ちたのは、うっすらと東の空が輝き始めた夜明け前であった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(チュンチュン・・・)
「ん・・・」

まどろみを、暖かい日差しと外界の音が覚ます。まだ覚醒しきっていない眼が宙をさ迷う。
昨日の情事が夢のようだ。いや、夢のようだった、というべきか。今でも全身に思い起こせる、愛しい人の感触。
隣に眠っているはずの最愛の――。

「・・・小波さん?」

彼の姿は無い。予想だにしていなかったことに衝撃を受け顔が青ざめる。まだ少しけだるい身体をぐっと起こす。
眉を顰め、辺りを見回す。昨晩行為前に、床にソファーに脱ぎ散らかしたはずの二人の下着がなくなっている。

「小波さんっ!!?」
「ん?どうしたの?漣」

キッチンからふわっと小波が顔を覗かせる。

「あ・・・」
「おはよう、漣。いや、おそようかな」

時計に目線をやった小波につられて漣も時計に目をやる。すでに時計の針は正午をまわっていた。

「今お昼作ってるから服とか着てなよ。もうすぐできるから」

ベッド近くのタンスに視線を送りながら言った後、再びキッチンに身体を引っ込める。
(昨日のは夢じゃないですよね・・・)
小波のその普段となんら変わらぬ様子と、昨晩のがあまりに激しい内容だったためか、記憶が少しあいまいである。
服を着ておけといわれたが、けだるさと軽い混乱からか身体を起こしたまま呆けたいた。

「よし、できた。って、漣? おーい。もし、起きてるー?」

キッチンから、完成した料理を手に部屋に入るなり、小さな口を半開きにして時が止まってる漣が目に入る。

「・・・小波さん。昨日の・・・」
「ん?あぁ、あは、あははは。なんか、その、すごかったね。い、一週間分やるのって」

少しでれっと顔を緩めながらちゃぶ台に皿をならべる。その様子を見て漣もやっと安堵の表情を浮かべる。

「どうかしたの?漣。具合でも悪いのかい?」
「いえ、なんでもないです。すみません、完全にお寝坊ですね」
「今日は二人ともオフだし、気にすることないよ。起きてすぐだけど、ご飯、食べられる?」
「もちろんいただきます!ぐっすり寝てお腹すいちゃいました」

身体にかかったシーツを払い、ベッドから身体を出そうとする。・・・昨晩からの一糸纏わぬ姿まま。

「うわ、漣っ!ご飯の前に、その、流石に服は着ようよ!」
「え。あ、わわ、す、すみません・・・」

二人にしてはずいぶん初心(ウブ)なやり取りだが、彼女は慌ててシーツを手に取り裸体を隠す。
そのまま顔をぽぅっと紅潮させ、バツが悪そうに肩をすくめうつむく。

「まったく・・・。抜けてるところがあるんだから。その・・・次の連休まで禁欲するんだろう?」

小波もまた、恥ずかしそうに目線を外しながらつぶやく。昨日交わした約束。二人の愛をもっともっと深めるための儀式の約束。

「そうですね・・・。ふふっ。・・・じゃあ小波さん。ちょっと着替えますから待っててくれます?」
「うん。いいよ。じゃあ・・・こっち向いてるね」

そう言いながら小波は彼女に背を向ける。時間つぶしか、ちょうど手近にあった新聞を適当に広げ読み出す。

「・・・あっ・・・そういえば、小波さん。」

「んー?」

「大好きですよ。」

「・・・うん。知ってるよ。・・・ん、そうだ。知ってたらゴメンなんだけど、耳寄り情報」

新聞の三面記事を流し読みしながら、それとなく続ける小波。

「はい?」

「・・・俺も、漣が大好きだ。」

「えへへ、知ってます♪」

小波は背中越しに、彼女の穏やかな笑顔を感じた。    

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

――鵺という魔物がいる。闇夜に現れ、物悲しい鳴き声で聞くものを不安にさせる、古の魔物だ。
だがその正体は・・・なんてことはない、ただのか弱い小鳥らしい。トラツグミという、群れを成さずとも単独で生きていける鳥。
・・・その割にはずいぶんと寂しげな声で鳴く。夜になれば独り鳴き続ける。何故、彼らは鳴くのか。
もしかしたら、本当は孤独が嫌だと叫んでいるのかもしれない。去り行く誰かを嘆いているのかもしれない。
でも、そう鳴けば鳴くほど、他人は不安になり離れ、挙句、自身も不安になっていく。
他者を渇望しすぎたのか。止められない哀しい情。
それでも、鵺は鳴き続ける。自分の情を誰かに感じて欲しいから。そして、自分が誰かの情を感じたいから。
今宵もどこかで、深い闇から孤独の不安に泣く声が聞こえる。

「小波、さん・・・」
「うん?」
「・・・すー、すー・・・」

俺の傍らで眠るこの鵺が、不安や寂しさに泣く事はもうあるまい。
漣(さざなみ)のような、静かで優しい寝息だけが闇夜に響ていた――。

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