ネタバレ注意
ドールショップには静寂が流れていた。
誰も、何も口にしない。
ただ、テーブルの上にある一枚の紙に
全員の目が釘付けになっていた。
どうやらファックスが送られて来たらしい。
差出人は伊吹和花。
つい最近ドールショップ専属になったナースだ。
俺はその紙を覗き込んでみた。
書かれていたタイトルは、
ほとばしる加齢臭(葉月新作)
……確か葉月はどこにもいない筈だ。
なのに何でこんなファックスが?
そう思って俺はそれを手に取り、
書かれていた内容全てに目を通した。
内容をかいつまむとこうだ。
葉月がフィーリング料理を炸裂させ、
タイトルの名が示す
おぞましいクレープを開発した。
その試食会をドールショップで開こうとしている。
そこで起きるであろう阿鼻叫喚は、
俺でもすぐに想像がつく。
選択肢は2つ。
今すぐここを逃げるか、
和花一人を犠牲者にするか。
全員が後者を選択したのは
驚くべき事実だった訳だが……
つまり和花は、おぞましいクレープの試食会を
ある場所でセッティングし、
葉月を上手く呼び出した上で監禁。
そしてたった一人で犠牲者になった訳だ。
送られて来た日付を見ると、
ちょうど先月の話らしいな。
その紙には最期にこう括られていた。
今まで一回も自分で食べた事のない葉月ちゃんと
二人で試食会をします。
葉月ちゃんには責任を持って一緒に食べて貰います。
でも多分、葉月ちゃん”だけ”は平気です。
私にはきっと地獄が待ってます。
胃腸の働きが正常に戻るまで、
当分帰って来られそうもありません。
最悪の場合、肝臓、腎臓、脾臓にまで
ダメージが及ぶかも?
生きて帰る自信は全くないです。
多分、この世の物とは思えないマズさで
死んじゃいそうです。
この際なので、葉月ちゃんの味覚を
治療してみようと思うんですけど……
無駄ですか? 無駄ですよね?
ええ、解ってます。
女には、例え無駄だと解っていても
やらなきゃいけない治療があるんです。
例え死ぬと解っていても
食べなきゃいけないクレープがあるんです。
多分、治療そのものが命懸けな気がします。
みんなには伝えて下さい。
ぶっちゃけ、かなり無理っぽいです。
最悪の場合はもっとおぞましい
クレープを開発する可能性があります。
それを止める事は出来そうもないです。
多分私はその頃グロッキーですし。
なので、私達二人は当分死んだ事にしておいて下さい。
それじゃ、死ぬ気で頑張ってきます。
生きて帰って来たらまたお会いしましょう。
帰ったら最初に夜遊びがしたいです。
出来れば全員の奢りを希望。
この怨み、晴らさでおくべきか。
のどか。
……最期の一文に言いようのない何かを感じたが、
この際それは忘れよう。
成る程、ついこの間杠葉が泣いてたのはこれか。
つまり
「葉月ちゃんが!(新作を完成させた)」
「死んじゃう!(私達が死ぬ程酷い目に遭う)」
「もう手遅れ(だから和花を犠牲にした)」
って言う事だったんだな。
全員が暗い顔をしていたのは、
和花一人を犠牲者に仕立てようとしてたからか。
あるいは最期の一文に何かを感じたんだろうな。
いや、結果はどうあれ俺も被害者になる所だったんだ。
和花には感謝しなきゃいけないな。
奢る金はないが、夜遊びぐらいは付き合ってやるか。
とにかく、二人は死んだ事にしてくれって言ってる事だし、
俺達もそれは徹底しておいた方がいいだろう。
くれぐれも誰かに葉月達が生きている事は伝えない様に、
帰って来た時は葉月の治療が終わった時だと言う事で、
それまでは本当に死んだ事にしておこう。
そう釘を刺しておいた。
何故か満場一致でそれが決定したのは
最悪の場合を恐れての事だったのかも知れない。
ともかく、決定は決定だ。
俺が和花からのファックスを
誰にも見られない様に、
そっとポケットにしまい込んだ。
ちょうどその時、花梨がドールショップにやって来た。
杠葉が花梨の到着を遅いと言っていた事から、
花梨がドールショップに来る事は随分前から
決まっていた様だ。
杠葉が言うには、花梨は組織を裏切り、
ドールショップに合流しようとしていたらしい。
その為の連絡を杠葉にしていたと聞いた。
そんな事なら最初から俺に教えてくれていれば
こんな面倒な事にはならなかった気がするんだが、
いや、知っていたとしても、
やはり同じ事になっていたんだろうな。
表の顔をした花梨との出来事、
裏の顔をした花梨から聞いた事。
それらは全て、必要な事だ。
そして裏の顔を知ってしまった以上、
俺にはそれを背負う責任がある。
この事については誰かに語るつもりはない。
俺だけが知っていればいい事だ。
だから進もう。
今はその事を語っていても仕方がない。
その為にも、今を大切にしなきゃいけない。
クレープひとつで大事件になる。
そんな平和な今を。
その覚悟を知ってか知らずか、
杠葉と花梨は俺に近づいて来た。
ドールショップに集まって来ている
少女達もそれに続く。
葉月の件については黙して語らず、
どうやら和花一人に全てを押し付けて
葉月を死んだ事にする作戦は継続中だ。
嘘泣きにも程がある。
そう言いたいぐらいに号泣した姿を
杠葉と少女達は花梨に見せ、葉月の死を悼んだ。
花梨は葉月の死を知らなかったらしい。
かなり驚いていた。
いずれバレる嘘だとは解っていたが、
おれもそれに調子を合わせ、
何とか葉月の死を徹底する事に成功した。
ドールショップ内の照明はさほど明るくはない。
陰影がハッキリしている分、
嘘泣きの演技にも拍車がかかるんだろう。
それにしても、嘘をついている時の女性は
気のせいか輝いて見えるな。
俺を見る全員の目が
ちょうど星空を見上げた時の様に
キラキラと輝いて見える。
もしかすると女性と言う物は
思った以上に残酷なのかも知れない。
俺はふと手の中のドールを見る。
女性と言えばドール達も女性だ。
俺にはドール達の会話が聞こえないが、
もし聞こえたのだとしたら、
やっぱり輝いた目で
嘘をつくんだろうか……
どう思う?
手の中のドールに聞いてみる。
当然答えが返って来る事はない。
いや、俺にはドール達の声が聞こえない。
何かを喋っているのかも知れないが、
ドールはただただ静かだった。
ドールの静けさはいつもの事だ。
だから俺は気にせず話しかけた。
準備はいいか?
当然ながらドールは反応しない。
持っているドールを花梨に見せ、
俺が話しかけても反応しない事、
声が全く聞こえない事を告げながら、
花梨にも何かを話してくれと
ドールを花梨の顔まで近づける。
花梨は快く話しかけてはくれたが、
ドールは相変わらず静かだ。
解ってるさ。
やるべき事は理解してる。
だから俺はドール達にこう問いかけるんだ。
準備はいいか?
声は聞こえなくとも解る。
後はやるべき事をやるだけだ。
さあ始めよう。
全てを終わらせるのは、
逆襲を始めるのはここからだ。
このページへのコメント
[こっこ用最終進化素材]ユリアって1回しかもらえないのでしょうか?
ガチャでユリナとかユリナスとか出たのでうっかり育てて、進化させようと思ったら[こっこ用最終進化素材]ユリアは既にナシ・・・。
育て損?
これ97万って[強化素材]Lip10+1を17セットも買わないと無理なんだけどwww
5万も課金しねーよ糞運営www
進化用マーサってどこで手に入りますか?
>運営は何がしたいのか
少女達(プレイヤー)に絶望を
97万・・・。
運営は何がしたいんだ?