ネタバレ注意
それが別れの時だと言う様に
忽然とゲートが目の前に現れた。
静は全てを知っていると言う顔で
俺を見つめ、そして頷く。
そして俺は、彼女に誘われるまま
ゲートを通り、元の場所。
ドールショップへと戻ってきた。
ここに並ぶドール達は
あの時代で生まれ、
この時代まで受け継がれた事になる。
突然ゲートが開いたあの時、
向こう側の様子を見てきて欲しいと
杠葉に頼まれた時は、
こんな事になるとは思いもしなかった。
俺はドールの、自分自身のルーツを
作るためにあの世界に行ったのかも知れない。
今までドールは単なる戦いの道具だと思っていた。
だが、そこに宿っているのは少女達の恋心。
神さえ凌駕する、切ないまでの恋心だ。
他のドールマスターは知っているのだろうか?
俺達が使うドール達の心を。
……いや、知っていようがいまいが関係ないな。
ドールマスターがこの街にいる理由はただ一つ。
名目上は街に保護されている少女達。
しかし実態は監禁されている少女達を救い出す事だ。
他の連中はその使命の為に戦っている筈だ。
だが俺には記憶がない。
何故そうしなければいけないのか、
それさえも知らないままだ。
恋心を宿したドールを使い、
言われるままに敵を倒して俺達は何をする?
少女達を救い出すのなら、
この街から連れ出せばいいだけだ。
なのに何故それが出来ない?
してはいけない理由でもあるのだろうか?
まだ知らない事が多すぎる。
戦いの果てにドール達は何を望んでいるのか、
その理由さえ俺は知らない。
この街で戦いを繰り返し、
少女達を救い続ければ、そこに答えはあるのか?
それとも、失った記憶を取り戻す事が出来た時、
俺は答えを知る事が出来るのだろうか。
いずれにせよ、この街からは逃げられない。
答えを知るのも、記憶を取り戻すのも、
戦い続けた先にしかないのなら、
今は前を向いて進むしかなさそうだ。
大丈夫、必ずやれるさ。
この世界で一番最初に生まれたドールが
俺の手の中にある。
そこに宿る彼女の恋心も。
これ以上心強い味方はない筈だ。
……まずはゲートが閉じた事を報告だな。
さっきからこっちを睨んできている視線が痛い。
ホウキとちりとりを武器に構える杠葉が
今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。
もう何も心配する事はないと告げない限り、
俺の身の安全も保証されない気がする。
そんなに気になるなら、
一緒にゲートの向こうに来れば良かったじゃないか。
……この台詞は言わない方が良さそうだな。
今まで何も知らない事で優位に立たれていたが、
今日ぐらいはいいだろう。
ドールが生まれたルーツについて
淡々と語ってやる事にしよう。