-繊暦948年 夏-

運河の街アプリケにいつも通りの朝がやって来る。

「トラヴィスー!学校遅れるわよー!」
「はいはーい!」

アプリケのある家に声が響く。
トラヴィスは道具屋の青年だ。

屋根裏部屋にいたトラヴィスが下に降りると、母のリディアが朝食を食べ始めていた。

「そういえば夏休みいつから?」
リディアが尋ねる。
「えーと、あさってから。」
「じゃあそろそろお店、手伝ってもらわないとね。」
「えー」
「えー じゃありません。」

他愛もない会話の後、トラヴィスは学校に向かおうと家の扉に向かった。

突然、外から女性の悲鳴が聞こえ、外が騒然としだした。
どうやら、ツギハギが出たらしい。

家の鍵を閉めようとリディアが動きだしたその時。
「バン」という衝撃音の後、ドアを突き破ってツギハギが飛び出してきた!

丸っこいツギハギはトラヴィスを見つめ、今にも襲いかかろうとしている。
しかし、逃げる場所はない。

トラヴィスは手を構え、応戦しようとする。

「仕方ない、来い!」

するとリディアが

「ほうきが持って!何もないよりはマシだから!!でも無理しちゃダメよ!」

と小さめのほうきを渡した。

ほうきを手に取り、ツギハギに向けた。

その瞬間ツギハギはトラヴィスの腹めがけて飛びかかった。

「あぶねっ!」

ツギハギの体当たりを躱すと、ツギハギにほうきの柄の方を叩きつける。
ほうきの柄はツギハギにめり込んだ。

少しは効いたか、と思った瞬間、ツギハギは飛び跳ね、トラヴィスの腹に重たい一撃を与えた。

「ぐっ……!」

さらにツギハギは勢いよく転がりトラヴィスを撥ねとばす。

「うわっ!」

その後もツギハギの連続攻撃を受け、ついに意識が遠のいて行く。
トラヴィスが弱るのを待っていたかのように、ツギハギが噛みつき始める。
彼は反射的に目を閉じ、じたばたするしかできなかった。

「ああぁぁあ!噛み付くなっ…!」
「嫌だ…!死にコワレたくない…!」
「………」
「………」
「……?」

いつの間にかツギハギの攻撃が止んでいた。

目を開けるとそこにはツギハギの代わりに1人の男性がいる。

「私はシアーズのカイという者だ。」

カイはトラヴィスに手を伸ばし、治癒術を使った。

「さあ、ゆっくりしては居られない、できるだけ早く避難する。外に出よう。」

トラヴィスとリディアは家を出て、アプリケの街に出た。

アプリケは煙に包まれていた。建物のいくつかが燃えているようだ。
燃えていない建物もツギハギに大きな傷をつけられている。

街のあちこちで悲鳴が聞こえる。

道の上で力なく転がるヌイグルミがいる。身体の多くをツギハギに持っていかれたようだ。
その隣に座るのはその姉だろうか、倒れたヌイグルミの手をとって言葉をかけている。

家の近くではシアーズのヌイグルミが今まさにツギハギと戦っている。

そして至るところに死んだコワレたヌイグルミとツギハギがいる。
その中には学校で見たような人もいる。

そんな普段とはかけ離れたアプリケの街を、トラヴィスはシアーズの隊員とともに後にした。

-繊暦949年 秋-

トラヴィスはシアーズの新人訓練所に来ていた。
と言っても彼はまだ隊員ではない、そう、隊員になりに来たのだ。

採用の為の試験は、まずは筆記試験。次に体力による試験である。
トラヴィスはこの2つをクリアし、最後の面接試験に挑む。

試験会場に来た彼の前に座っていたのはカイだった。

「君のことは覚えているが、もちろん、だからといって評価を変える事はない、ダメだと思ったら君の為にも落とす。」
「では、月並みな質問から行こう……」





カイはトラヴィスにいくつかの問いを投げかけた。
どうしてシアーズに志願したのか、
この世界のシアーズの役割とは何か、
この世界にとって最も望ましい事は何か。

トラヴィスは答える。
シアーズに志願したのは、あの日助けられた命を、今度は他の人の命を助ける為に生かすため。
この世界におけるシアーズは、ツギハギによって危機にあるヌイグルミを1人でも多く守るため。
この世界にとって最も望ましい事は……、ツギハギがヌイグルミを襲わないようになる事。

カイは頷く。

「なるほど、それが君の考えか。それもまた正しいと言える。」

こうして試験が終わった。
結果、トラヴィスは合格し、シアーズの新人として訓練を受けることになる。

-繊暦950年 春-

新人訓練を終えたトラヴィスは、配属先のバラシア支部に向かう。
この先何が待っているのか、不安と期待の両方を抱きながら、バラシア支部の扉を開けるーー

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