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浪漫王国物語 ホテル編 1


 りんごは、軍のホテルに異動になった。これからは、1年間の期限付きで軍のホテルのスタッフとして働くことになった。

 軍のホテルは東の都の中央駅から弾丸特急で西の方向に1時間の距離にある、タノハラ市(たのはらし)という人口約10万人の都市の中にある。

 タノハラは湘州(しょうしゅう)の西の方に位置している。一般的には、1000年前に没落した有力貴族が建てた城がある所として知られている。タノハラには軍の情報センターがあり、そこに立ち寄る軍人たちの拠点として軍人専用のホテル、通称「軍のホテル」が建てられた。

 りんごは「東の都」の外れにある軍の寮に住んでいたが、タノハラにある軍の借り上げ住宅に住むことになった。その借り上げ住宅は明らかにホテルのツインルームを改造したような物だった。上官のアメリアに聞いたところ、現在は潰れてしまったが、タノハラで有名なシティホテルだったとのこと。

 タノハラにはいろいろな建物があった。タノハラの駅ビル、日帰りの温泉施設、州の副庁舎。

 ホテルでは軍服を着ることは全くないので、基本的に部屋の中に飾っておく事になった。その代わり、白いブラウス、紺のブレザー、灰色のタイトスカート、黒いローヒールの制服を着る事になった。初日は4月初めということもあって寒かったので、軍の制服の黒いマントを着てホテルに向かった。アメリアにはその姿を見て、「トレンチコートくらい買いなさい」と言われた。後で彼女の着ていたお下がりのトレンチコートを1着もらった。

 アメリアの服装もホテルの制服だった。アメリアはこのホテルの支配人に着任したとのことだ。支配人はブレザーの右胸に赤いピンバッチを付ける。

 アメリアも大学時代にスカウトされてからずっと軍服姿しか見たことがなかったので、ホテルの制服姿は新鮮だった。

 1日目は20人位のスタッフにあいさつをした後、アメリアと一緒に男性の副支配人によるオリエンテーションを受けた。スタッフは副支配人のほか、フロント業務担当が女性4人、清掃担当が男性6人、残りの女性9人が朝食キッチンの担当だ。副支配人は、ホテルが建ってから10年間ずっとここで働いているそうだ。軍のホテルを任される前は、タノハラのホテルで働いていたのだそうだ。当然、全員が軍の職員である。

 りんごは、主にホテルのフロント業務や客室の清掃を行う事になった。フロント業務の時はホテルの制服を着たが、清掃の時は、灰色の作業着を着て行った。ホテルの部屋数は290室位あった。それを、りんごを含む5人で担当した。

 軍のホテルのチェックインは煩雑だった。用紙に名前や所属部隊などを書いて、それをホテルのパソコンのデータと照らし合わせる……という物だった。また、上の階にある部屋の水の出が悪かったことを、宿のアンケートで知った。また、休みに街を歩いていると、若い男性軍人が軍のホテルに泊まらず、駅に併設されている他のホテルに泊まっている所をたまたま目撃した。

 りんごは副支配人に改善を提案したが、「残念ながらこのホテルには予算がないんですよ……」と言われた。我慢するしかないのか、とりんごは思った。

 アメリアにも同じ事を話した。しかし、支配人のアメリアの反応は違った。「一緒に報告書を作りましょう」と言われた。ホテルの改善要望を報告書にまとめ、軍の本部に伝えた。アメリアは軍の中でもなかなかの実力者で、提案力と説得力が他の軍人を圧倒していた。ただ、今回の改善要望には、りんごが大部分の要望に関する報告書を作成した。

 りんごは大学の4年の時に浪漫王国内の各地に旅行に行き、そこのホテルに泊まった事がある。設備が整ったホテルもあれば、そうでない所もあった。りんごはホテルが大好きであった。それを大学の卒論のテーマにした位である。その経験を踏まえた上で報告書を作成した。報告書は「ホテルを改善すれば、軍人たちの士気は確実に上がります」と締められていた。報告書を提出した結果、軍が補助金を出す事が決まった。

 ホテルのチェックインのシステムは、軍のスマートフォンアプリに表示される自分のIDを含めたQRコードを読みとると、コンピュータのプログラムが軍人のIDをキーにして宿泊日や泊まる日数などのデータをサーバーのデータから引き出し、宿帳のデータと合致すればチェックインが出来るというプログラムに変えられた。歳を召した軍人はフロントで紙に名前を書いてチェックインするという事もあったが、ほとんどの軍人はスマートフォンのアプリからチェックインするシステムを使用している。フロント前の混雑は解消した。

 このプログラムを開発したのがりんごの友人である「なるみ」である。当時はタノハラにある軍の情報センターに所属していた。当初は軍のスマートフォンに内蔵されたICを読み取る仕組みも考えたが、「QRコードを読み取る形式にした方がコストが掛かりにくいよ」という「ひかり」の提案を受けて、このような仕組みにした。ひかりはタノハラにある軍の寮の管理を任されている部署にいた。なるみとはよく会う間柄であった。

 なるみは黒いスカートスーツ姿で軍の情報センターに勤務していた。ひかりは紺色の軍服姿だった。紺色の軍服は、警備や戦闘に参加しない軍人の証しであった。

 りんごはホテルの制服姿であった。3人とも忙しかったが、休日は休みが取れた。久しぶりに3人そろってカフェで語り合う余裕もあった。これは浪漫大学を卒業して以来初めてであった。日によってはタノハラの温泉施設に行って入浴する事もあった。3人は貴重な楽しい時間を楽しんだ。

 ホテルのボイラー室の湯沸かし器やポンプも前より優れた物に交換された。しかも、以前よりも燃料費や電気代が安い物であった。さらに結果として、水の出が悪いという不具合による客からの苦情は無くなった。エアコンも今までの集中管理方式から個別空調に改められた。そのため、季節外れの気温だった日でも宿泊者が体調不良に陥る事は無くなった。

 ホテルの客室や通路の内装も、白とグレーと青を基調にした物に変えられた。以前は真っ白い閉鎖病棟のような感じだった。これはアメリアのデザインした物であった。

 りんごの発案で、女性軍人専用のシングルルームも設けられた。マイクロナノバブルが発生するシャワーヘッドを導入したり、マント専用のハンガーを導入したりした。マントの皺を気にする女性軍人から好評を得た。なお、マント専用ハンガーはその後全室に導入された。

 浪漫王国の軍人は軍服の着こなしが美しいとされる。マントの着こなしは着ている人間のイメージに関わる。この国は学生や軍人がマントを着るのが完全に定着している。西の遠くにある民主巨大国家ではマントを着る軍人はまず見ないと言う。

 ホテルの朝食も大幅に改められた。まず、タノハラの特産であるかまぼこが導入された。野菜サラダも素材から見直された。タノハラの隣町の農家からホテルが直接仕入れる事になった。キャベツも、レタスも、トマトも、大根も地元産になった。魚もタノハラの漁港で獲れた物を仕入れる事になった。ハムや牛乳も地元産に切り替えた。それ以前はホテル近くのスーパーマーケットで賞味期限の近い物や安い物を調達していた。朝食の改革も大成功だった。これは、食堂のスタッフからの提案だった。

 タノハラの街中にある温泉施設と提携し、通常より安い値段で入場チケットを販売した。軍人の昼ご飯や夕飯のために、ホテルの隣の空き店舗に軍人専用の食堂を新設した。食材はホテルの朝食の物が回されたり、別個に調達されたりした物だった。これは、ホテルの常連客からのアイデアだった。

 様々な改革の結果、軍のホテルには多くの軍人が泊まるようになった。軍の用事が無くても泊まる軍人まで現れた。軍服姿ではなく、私服の軍人も見られるようになった。彼らはタノハラや、その周辺の街に観光に出かけるつもりだと言う。

 つづく

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