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浪漫王国物語 ホテル編 2


 10月のことだ。りんごとなるみとひかりは「東の都」にある軍の指令総本部に呼ばれた。

 3人とも浪漫王国軍の詰め襟の軍服を着ていた。ただ、暖かい日だったので春秋用の薄いマントは着ておらず、女性の上官、ようこから許可が出ていたので上着を脱ぎ、上官の部屋のハンガーに掛けた。3人とも白いブラウス姿になった。

 今回の報告には支配人のアメリアが付き添う予定だったが、ホテルの仕事が立て込んでいたため、オンラインで報告に参加することとなった。

 まず、パソコンの画面に映っているアメリアがホテルの状況について報告。続いてりんごが、業務改善の内容と成果を報告した。なるみとひかりは、新しいホテルの宿帳の管理システムについて説明した。

 上官は軍の総務部管轄の、福利厚生課の課長で、軍に入る前は「東の都」内の大手のホテルに勤務していた。10年前より軍の指令総本部が軍以外からの民間人材を積極的に登用する方針を進めたため、軍に入り、現在はこのポストに就いている。

 りんごのような未経験の人間をホテルに派遣するのは正直不安だった、と上司は言った。りんごの派遣の件は、アメリアの強い要望があったという。アメリアがりんごの適応能力を見ていたのだ。タノハラの軍のホテルが改善されたのは、彼女にとっても嬉しい事だった。

 りんごからはホテルのさらなる改善すべき点の報告もあった。全室禁煙に出来ないか、とか、朝食レストランのさらなる拡充の要望、ベッドの新品への入れ替え、などだ。上官は総務部に伝えることを約束してくれた。

 上官はなるみとひかりとは初対面だったので、少し雑談する場面もあった。

 りんごは去り際に上官から「あと半年よろしくね」と言われた。軍人の仕事とはイメージが違うが、人のために仕事をしていることを実感した。去り際の敬礼を行うとき、自然に笑顔になった。

 浪漫王国は70年以上も他国を侵略する戦争をしていない。海外派遣、国境警備、災害時の救援が主な任務の状況が続いている。それでも、福利厚生は重要だ。昔は軍の病院くらいしか福利厚生の施設はなかった。ホテルの再建の成功は、軍にとってもプラスになると、りんごは信じていた。

 3人は指令総本部近くの軍のホテルに泊まった。これは上官からの「命令」だった。「作業禁止令」も出た。2日間休暇になったのである。首都のホテルだけあって、部屋数も1000室と多く、夕食が食べられるレストランや大浴場、広いロビーもあった。3人はトリプルルームに一緒に泊まった。タノハラのホテル同様、清潔な部屋だった。3人は部屋で時が過ぎるのも忘れておしゃべりに耽った。
 また、そこで、大学の同級生であった「れもん」「こゆき」「むらさき」「みかん」の話題になった。みかんは軍の病院に看護師として勤務しているとのこと。れもんとこゆきは軍の総務部の福利厚生課に勤務しているとのこと。むらさきはつい最近まで南方共和国との国境の警備に当たっていたが、任務を終えて第七部隊に異動になったとのこと。

 3人が会うと必ずする話題がある。それは大学の卒業式前に行う「宣誓式」である。宣誓式では正方形の黒いタムをかぶり、白いブラウスに黒いスーツを着て、足にパンプスを履いて、大きな襟のついた大学指定の色とりどりのマントを着て、学生有志の前で感謝と今後の抱負をスピーチするという会である。りんごはこの行事が嫌だったが、やってみたら良かった、と話していた。
 学生のマントは、昔は大学の裏の公園で燃やしてしまう学生が多かったそうだ。しかし最近は、インターネットのオークションで売ったりする卒業生や、そのままずっと持っている卒業生が多いとのこと。りんごたちは、マントをずっと持っているという。

 学生のマントは大学の現役生の証しである。普通の授業にも、試験にも、学生総会にも着ていく。カシミアで出来ているので、夏は着ない場合が多い。
 昔は学生のマントは黒一色であった。やがて校章などのシンボルが付いていればどんな色でも良い、という感じに、レギュレーションが変えられた。さらに最近はマントのデザインも変わり、アームホームが付いていて、頭を覆うフードが付いたデザインに変わっている。マントの裏地に隠れたトグルを締めて、ポンチョのように着ている学生も見かける。
 また、夏の制服が恥ずかしかったとの話もした。白いスキニーなブラウスに灰色のタイトスカート。そんな話をして大笑い。

 ※浪漫王国では50年前に大規模な学生運動が起こり、学生の服装の乱れが問題になったことから、多くの大学で制服が導入された。近年は制服を着る機会が式典や試験のみという感じになっている。男女ともに黒いスーツという大学が多いが、紺のスーツや灰色のスーツという大学もある。

 朝食は当然、ここで食べた。明日からの仕事に備え、3人は同じ弾丸列車に乗り込み、それぞれの寮に戻った。

 秋から冬、そして3月になってもホテルの仕事は続いた。

 10月は情報センターに立ち寄る軍人が多く、そのため忙しかった。情報センターに勤務しているなるみが軍のホテルに泊まった事もあった。朝食レストランのスタッフが一人産休になり、その穴はりんごが埋めた。キャベツの千切りは昔から得意だった。アメリアが指令総本部に出張のため不在の時は、副支配人が支配人代理となるが、りんごが副支配人をサポートする役割を担った。

 11月は観光目的の軍人が多かった。ツインルームやトリプルルームの稼働率が高かった。

 12月はクリスマスのため、りんごはホテル近くの軍が管理している食堂のスタッフと共同でクリスマスのディナーの調理に参加した。

 翌年の1月は正月のため、クリスマス同様の体制で食堂のスタッフと共同で正月のディナーの調理に参加した。

 2月は宿泊者が少なく、かなり暇になると思いきや、テレワークを行う軍人が多く宿泊に来た。インターネットのインフラも宿帳のシステムを更新する時にリニューアルした。そのためインターネット環境は大幅に改善。ビデオ会議も苦にならないほど速い回線で、軍人からは大好評だった。

 そして3月。りんごは軍のホテルから「東の都」の第一部隊に戻る事になった。ホテルに残る選択肢もあったが、支配人のアメリアが第一部隊の隊長に任命されたため、異動を申請した。最終日のあいさつでは、他のスタッフからの拍手を浴びて、思わず涙を流してしまった。アメリアは涙を見せなかった。
 後任の支配人は副支配人が務める事になった。りんごの後任は、新人部隊から異動する女性の軍人が務めるのだそうだ。副支配人は掃除担当のチーフの男性が務める事になった。
 最終日はホテルのスタッフ全員で二人のお別れ会を行った。
 アメリアからは「ミズ・アカサカはこのままホテルにいて支配人になっても良かったんじゃないかな……」と言われた。りんごは笑った。

 お別れ会のあと、ホテル近くの寮を引き払い、「東の都」の外れにある養父母の待つ「実家」に戻った。ほとんどの家財道具は新しい寮に移した。
 養父は出張のため不在だった。養母はこの1年間は戦闘に駆られる事もなかったので、ほっとしていた、と話していた。養父母ともに軍そのものを嫌っているため、りんごの子供部屋に軍服姿の写真は無い。その代わり角帽とアカデミックガウンを着たりんごの写真が飾ってある。
 学生時代に着ていた、浪漫大学の校章の付いた正方形のタムと臙脂色のマントは、学習机のそばに立て掛けてあった。

 りんごは4月に第一部隊に合流する前に、20日間の有給休暇を取って南の島に行くことにした。なるみやひかりも一緒であった。

 なるみは情報センターから第二部隊に異動になるとのこと。ひかりは寮の管理部から第三部隊に異動になるとのこと。どちらの部隊も第二部隊は「中の都」、第三部隊は「西の都」と第一部隊から離れているため、3人が顔を合わせる機会は少なくなる。

 つづく

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