極めて容赦のない描写がメインになりますので、耐性のない方、および好きなキャラが残酷な目に遭うのがつらい方はご遠慮ください。

469 名前:桜色のシュシュを探して[sage] 投稿日:2013/04/03(水) 15:27:48.86 ID:UygbKfhM [1/23]
 

「桜色のシュシュを付けたポニーテールの女の子、見ませんでした?」

少女は道行く男たちに尋ねる。

男が「何歳くらいの子?」と聞けば、少女は「だいたい自分と同じくらい」と答える。

「この辺りで探してるってことは」と聞けば「そう、その子、売春婦なんです」と答える。

「君も売春婦なの?」と聞けば「今はもう足を洗ってます」と答える。

「分からないなぁ」と答えれば少女は「ありがとうございました」と頭を深々と下げて去ってゆく。
売春街に成り果てた古都の路地で彼女が探している子とは、いったいどんな子なのだろうか。

この国も、かつては先進国だったそうで、それよりずっと昔は黄金の国とまで言われたそうだ。
しかし、現在はといえばわずかに先進国らしき面影こそ残されているものの、黄金の気配などまるでしない。あるのはコンクリートの灰色のみ。
そんなもんだから、大抵の人間が人生というものにまるでやる気を見出せない。希望という遺産が残されていない。
この国が緩やかに堕落していった過程を見てきた大人たちは、なおのことである。足掻くだけ足掻いた結果がこれなのだから、みんなしてしょげかえっている。
商売のできる有能な人間はとっくに海外に逃げてしまったし、少しでも向上心のある者も希望を求めて出稼ぎへ行った。
結局、この小さな島国に取り残されたのは無能な堕落者ばかり。悪徳の華が栄えるのには、いい土壌であった。

その島国の中でも、古くから観光産業で栄えていたこの土地には、今も外国人観光客が訪れている。
かつて、この国の貨幣も大層立派な価値を持っていたそうで、諸外国の中でも小金持ちの彼らはのんびり寺院など眺めて伝統を楽しみ、ゆっくりと土産物なんぞ買っていた。
いまやその事情も変わってきた。古き良きを楽しんだあとは、現在を楽しむのだ。ほとんど公然と形成された売春街で、この国の女たちは身体を売り始めた。
なにせ、彼ら観光客の持っている金の額といえば、一桁も二桁も上なのだ。悪くすれば月収や年収に近い額を財布に入れて歩いている。
それだけこの国の貨幣価値が、いや、この国の力が落ちているのだ。彼らはほとんどファーストフードを楽しむ感覚でこの国の女を買う。

貞操観念がどうのと言う割りに何故だか昔から性風俗サービスの充実していた国である。
それがこの有様となった今、そこから道徳観念が差し引かれて、性的サービスは限度を知らずに暴走を始めている。
たとえば、プロの売春婦を雇えば通常の様態で性交できるばかりでなく、一定の金額を払えば一日中貸切で連れ回すこともできるのだ。
彼女らは拙い外国語を駆使して着物姿で観光案内などしつつ、道中で乳房などまさぐられ、物陰でたびたびセックスをし太ももに精液を伝わせながら寺院を紹介したりする。
客が用を催せば混んでいるトイレなど使わず、彼らの大きなペニスを頬張り最後の一滴まで飲み干すといったサービスも行われ、これが好評だとか。
そればかりでなく、こうした専業の売春婦以外にも、道行く素人にも交渉次第で行為に及ぶこともできる。
金を見せればすぐについてくる女は多く、そうでない女でも乱暴に腕を引っ張り連れ込んでセックスし、金を置いて行けば彼女らも文句を言わず、事後的に成立するのだ。
強姦に近い形で買う客も後を立たず、それでも枕元に残された金がそのままそっくり慰謝料になり、訴え出る女もいなければ、仮に訴えた時点でとうに男は帰国している。

この国の男性側も男性側で、自国の女がこんな扱いでいいのかとも思えるが、事実としてこうして観光客の落とす金は彼らの生活源になっているのだから止めることもしない。
むしろ、こうした売春が盛んな地域では働く男よりも身体を売る女のほうが稼ぎがあるので、男性の権威もくそもあったものではなく、女たちに頭の上がらない始末。
夫婦で寄り添って歩いているのを割り込まれ、屈強な白人黒人に連れ去られるのも指を咥えて見ている有様であるし、悪くすれば女の側に「また後でネ」とばかりに手を振られることもある。
むしろ観光客はそうした行為を楽しみにして来る場合も多く、カップルなんぞは彼氏と彼女両方に金を渡して、彼女のさんざ乱れるのを彼氏が見ているということもある。
こうなると一線を引くのが曖昧になり、タチの悪いのだと家庭に乗り込んで、そこの妻とセックスして長々と居座るほどである。文句など金で封じることができるのだ。
たしかにこんな状況となれば観光客としては夢の国で、こうしたものを目的として来ている者がほとんどではないかとすら思える。
行政は行政で、すでにまともに機能していないので看過するしかないが、一部の働き者が「非売春婦バッジ」などを配るようになった。
「私は身体を売りません」という意思表示なのだが、これがまさかの失敗。なんだかんだ言いつつも、大半の女は半ば自覚的にそれをつけず身体を売り続けるのだから行政も嫌になった。

これはまだ表層の部分であり、もっと奥まで行くと根深いものがある。
こうした性風俗産業のまだ発展していない地方都市なんぞは、もっともっと貧困に喘いでいるわけであり、育てきれなくなった娘をブローカーに売り渡して売春婦にさせる。
彼女らの扱いといえば、売られた時点で人権は皆無といえるので、かなり凄惨なことになってしまうのだ。
立派(というのもおかしいが)な売春婦となる者もわずかにいるが、大半はもっと薄暗いところへ追いやられ、合法も非合法もごちゃまぜとなった隙間に収まる。
つまり、社会的生活を送るのが困難になるようなプレイ、肉体的に、精神的に暴力を与えるようなプレイをさせられることになる。
その手の店となると、通常の風俗街よりもっと闇のほうへ追いやられ、何の変哲も無いマンションの一角や地下室など、看板すら出さないところで密かに行われるのだ。
店員は街行く観光客にそっと耳打ちを繰り返し、それとなく紹介、そこでの女性は基本使い潰しとなるので値段はやや張ることになる。
もちろん、外国人の財布にとっては安く、その国の人間とってはかなりの高価であり、儲けは女性の報酬にならないため店側のみが得をするという寸法だ。
こういう店を経営できれば裏では成功者で、通常の人々では手に入らないような額を手にして夢の国内脱出を果たすことになる。

その手の店内に入れば、ショウウィンドに並べられた女性はたいてい全裸で、鎖に繋がれていることも多い。
プレイ内容は一覧表になっている場合もあるが、よりサディスティックに、より扇情的にするため、直接女性の身体に油性マジックで書かれていることもある。
当然ながら長くいる娘は不具者同様の見た目をしており、全身痣だらけの女などは、「殴打可能」と書かれたときどんな気分だっただろうか。
もちろん顔面への殴打は商品の価値を著しく下げてしまうため通常はNGだが、それも金次第で可能となる場合もある。
凄惨な悲鳴は待合室まで届き、観光客たちは怯える女たちを見て、大層な期待で舌なめずりをしながらゆっくり品定めを始めることになる。
指名を避けるように視線を外しながらも、指名されてしまったときなどは、これから受ける暴力に恐怖し失神する女などもいるとのこと。
なにせ、悪くすれば一晩のプレイで再起不能になるほどであるから使い潰しという表現がぴったりだろう。
資源国が自国のエネルギーを切り崩して売ってゆくように、この国の一部の地域では女性という資源を盛大に消費してゆくのであった。

「このままでいいっていうの!?違うでしょ、ねぇみんな!」

さてさて、ここで立ち上がったのは莉子という一人の少女だ。苗字は無いと言い張る。
自分を売った親を恨み苗字を自分で破棄したとのことで、決して名乗ろうとはしない。

どこで立ち上がっているのか、寺院や仏閣から離れた売春街の中心地からもう少し離れた、非合法の児童買春宿である。
では、みんなとは誰なのか。そこで身体を売り続ける少女たちのことである。
莉子はまともな教育など受けていない。農村の小学校を通い終わる間も無くここへ売られてきたのだ。
ゆえに、知識などはまったく無いのだが、それでも彼女は売春の合間に本を読み続け、一応の知恵を身に付けてきた。
ところがこういう少女というのは、他の少女から見れば厄介者に他ならず、自分の境遇をどうにか受け入れようと努力している者にとっては毒ですらある。

「売るのは身体じゃなくて商品であるべきだよ。人間は商品じゃない。売買しちゃいけないものがあるってことをみんなもっと自覚するべきなの」

などといったことを滔々と説いていても、まともに聞くものはいない。
「まーた始まったよ」という視線が飛んでくるばかりである。それにめげずに今日も今日とて莉子は喚く。
そしてお約束どおり、飛んで駆けつけて来た宿のオーナーが莉子の腹にきついパンチを喰らわせ演説はお開きになる、これがここの日常風景である。

「あうっ、今日も言論人の腹が殴られたよう、げほっ、げほっ、」

身体をくの字にさせても、なおも口先は止まらないという傍迷惑な少女である。
なにせ10人ばかりの娘が6畳ほどの部屋に詰め込まれているのだ、こうも騒がれてはうるさくてたまらない。
洗濯等々の手間や経費を切り詰めたせいで、みんな全裸であり、それぞれ首輪に名前のプレートが付けられている。
体調管理のためのヒーターが備え付けられているものの、シャワーを浴びた後など寒くてたまらずお互いに肌を寄せて暖めあうといった人権無視である。
その中でもめげずに頑張り続ける莉子はたしかに偉い。偉いが迷惑だ。他の誰もがそう思っていた。

「こんなにひどい世の中なんだから変えなきゃいけない。そうでしょ、みんな、げほっ、力を合わせよう、げほっ、」

なにせ売られてきた存在だから表を出歩けず監禁状態の日々。待機部屋にずっと閉じ込められたままで暮らしているのだ。
とはいえ、そんなところから如何に自由を叫び訴えようとも、誰にも届かないので何も変わらない。
それを分かりきっているから誰も何も言わないのだ。日々の務めで体力精神力を消耗しているせいもある。
それなのになおもエネルギッシュに喋るのをやめない莉子は心底迷惑者である。誰もがそう思うように、同室の真子もそう思っていた。

「アンタうるさいんだよ!待遇の改善を求めたければ店長に言いなよ!社会が変わって欲しければ大人に言いな!あんたの話は正しいかどうかよりも宛先が違うんだよ!」
「それができないからこうしてみんなに話してるんじゃん」
「あのね、目は閉じれば見えなくなるけど、耳は塞いでもちょっとずつ漏れて聞こえてくるの。アンタ、すっごい迷惑」
「でも、大切なことだと思うの」

真子は黙って莉子の腹を殴った。どぽんと柔らかい音がした。

「仕方ないでしょ。私たちはこうやってずっとやっていくしかないんだから。それが、すべてなんだから」
「げほっ、そんなのイヤだよ、みんなだってイヤでしょ、げほっ、」
「私は、それほどイヤじゃないけどね」

真子は莉子より少しだけ年齢が上の、利発なポニーテールの娘だ。
衣服が一切無いここで、せめてものということで持ち込んだお気に入りの桜色のシュシュで常に髪を結わいている。
これがせめてものオシャレであり、振る舞いなどなるべく普通の少女らしくいようとしていた真子だが、こうして全裸のまま細い足で胡坐をかいているあたりそれも疑わしい。

「いい?ここは古くからおもてなしの心を持った土地なの。真心をもって接してきたの。それが分かる?」
「真子から毎日のように聞いてるから、分かるよ」
「性風俗っていうのもサービスの一つなの。そしてその役割を与えられた私たちは誠心誠意をもってお客様に接する必要があるの」
「それは毒された考え方だよ、ふげっ、」
「みぞおちを庇ったから脇腹に喰らわせてやったわ。黙って聞いてなさい」
「言論人の肝臓が痛いよう」

「私たちが愛をもってキスをする。愛をもって手で擦る、股で擦る、薄い胸で擦る。愛をもって口で受け止め、膣で受け止め、後ろで受け止める。するとどうなると思うかしら?」
「そのお客さんはまた来る」
「そう!そうすれば、ワァオ、この店は素晴らしい、この土地は素晴らしい、この国は素晴らしい、そう言って、帰国した後もウキウキ気分でまた来てくれるかもしれない!」
「来ないかもしれない」
「来てくれるように一生懸命サービスするの!で、お客様がもう一度来れば、飛行機も使うし、バスも使うし、電車も使うし、宿も使うし、」
「食べ物も食べるし、お土産も買うし、」
「その通り、そしてその度に彼らはお金を払ってゆくの。するとどうなるかしら?」
「私たち以外の人たちが収入を得てご飯を食べられるようになる」
「いいや、私たちだってそれで生活してるじゃない。現にこうやって貧しい地方から出てきても、この店にいる限り餓えることはないの」
「どんなに頑張っても毎日のようにオニギリの中身は鮭だけど」
「店が潤えばいずれイクラになるかもしれない」
「資本は末端に配分されないのが世の常だよぅ、あっ、ひっ、おえっ、」
「脇腹に来ると思ったでしょ?でも残念、その喉一度潰しておきたいと思ってね」
「言論人の命が苦しい」
「なにが言論人よ。あんたの言ってることは正論かもしれないけれど、そうやってみんなのやる気を殺ぐのが本当に言論人?違うでしょ?」
「偽りの希望をぶら下げて馬車馬のように腰を振らせるのは言論じゃないよう」
「偽りじゃない。事実、全国的にロクな雇用が無く、失業者ばかりで溢れかえっている中で、この古都だけは賑わっているじゃないのよ」
「そんなのイヤだ。犠牲の上に成り立ってる生活ってだけで心は貧しい」
「何事にも犠牲は必要なの。どうしてみんなこんなに一生懸命股を開いてると思ってるの?この国の人々が淫乱だからじゃない。みんなで、少しずつ痛みを分け合っているからなのよ。
 それが絆ってやつじゃない。しばらくはそれで食い繋いでゆくって決めたの。だらしない政治家が決めたんじゃない。みんなでそうやって決めたの」
「良いように良いように解釈するなよう!」
「悪いように解釈するのが悪いのよ!アンタはいつだってそう!言論人気取りのアホ連中は人々の希望を喪わせるのが仕事なの!?だとしたらヤクザだわ!」
「あっ、言ったな!ヤクザっていうならこの店のオーナーがそのまんまヤクザだ!」

オーナー、兼店長が飛んで駆けつけて、莉子と真子の腹を殴って去っていった。

「げほっ、オ、オーナー、この店はそういうサービスは行ってないじゃないですか、殴るのは莉子の奴だけにして、げほっ、」
「嗚呼、論客の腹が殴られてる、げほっ、もうお開きか、」

鉄格子の向こうにはぴったりと雑居ビルがそびえており、陽の光が直接射すことは無い。
しかし、うすぼんやりと外が明るくなってきたのを知ってか、それとも二人のやりとりに呆れたせいか、他の少女はすでに寝ていた。
毛布だけは支給されているがそれも天日干しもしないため薄っぺらくなっており、心許ないものがある。
オーナーに殴られ仕方なく床についた莉子に、桜色のシュシュをほどいた真子が語りかける。

「莉子、まだ起きてる?」
「莉子はうるさい子だと言われたから応えません」
「そのままでいいから聞いて。さっき言ったのってね、みんなお母さんから聞いた話なんだ」
「知ってるよ」
「私の家ね、四人姉弟だったんだ。長女が私で、娘の中で売られていったのは私だけ」
「それもこの前に聞いた」
「でも、これは言ってないでしょ。お母さんも自分の身を売ったんだ。残されたお父さんと残りの妹を食べさせるために」
「それは、初めて聞いたかな」
「でね、そのブローカーの男が東南アジア系の人でね。昔、自分の故郷の子供が買われてたってことを怨んでいたみたいで、そのせいか、ひどい仕打ちを受けたの」
「どんな仕打ち?」
「お母さんは若くて綺麗なの。でも、私たち四人を産んだ身体だから『使える』かどうかって、試したのよ。一家全員の目の前で。
 普段みんなでご飯食べてた畳の部屋でね、お母さんが全裸になって、知らない男の人と重なり合って交わり合った。
 お母さん立派だった。自分の旦那と娘を目の前にして泣きそうになりながらもね、涙を振り切ってからは跪きながら唇で何度もペニスに熱烈なキスをしてたの。
 腰だって、こんな華奢な人のどこにそんな力がってくらい一生懸命振って、その姿見てお父さんも泣いてた弟も勃起しててね、アハハ。
 で、結局最後は笑顔を浮かべて三つ指ついてお礼を言ってお終い。あまりに見事だったのか、買値に少しだけオマケしてもらったみたい」
「…真子」
「なあに?」
「それってさ、その、なんていうか、」
「言いたいこと当てて見せようか?そのお母さんがただビッチだったってだけかもしれない、でしょ?」
「う、うん」
「この話には続きがあるの。お母さん、自分たちを養いきれなかったお父さんを軽蔑して、売られる日までセックスしなかった。
 その代わりに、そのとき勃起してた弟とお別れのセックス。お母さん国外に売られるっていうからね。たぶん二度と会えないし、きっと向こうで死ぬんだと思う。
 それでね、そのセックスに私も参加して、色々と教えてもらったわ。手や口の使い方とか。やっぱり私もビッチなのかな?アハハハ」

「真子、悪いけど、私ドン引きしてる」
「それが正常な反応でしょ。でもね、私はお母さんが言ってたもてなしの心っていうのは本当だと思うの。少なくとも、そうやって信じることでこれから先が違うじゃない?」
「うん…」
「できるだけ前向きに生きようよ。こんな地獄にまで落ちてもさ」
「あのさ、真子」
「ん?」
「さっきは、なんかごめんね」
「あはっ、気持ち悪い」
「私は私の言ってることを撤回する気は無いけど、でも、言論を振り回して暴れるのはちょっと控えようかな、って気に、なった」
「なにが言論よ。まぁ、アンタは好き勝手やってなさい。そういう子だし。それより、あまりお客様に気に入られないと異動されちゃうわよ?」
「なるべく気をつける。おやすみ」
「おやすみ」

太陽が高く昇ってきたなら、それは彼女たちにとって深夜である。
故郷での日焼け跡もすっかり消え、青白い肌には、昨晩の行為の跡だけが残っている。

この時代の国々は、勝者が敗者に、敗者が勝者にひっくり返るなど起こり、どこか秩序というものが世界的に失われてしまった。
それまで築き上げてきた世界共通の道徳観念は新規覇権を握る国が変わるたびに変わりゆき、常識というものが曖昧になってしまう時期も訪れたりする。
そんな混乱期に、力を失ったこの小さな島国は笹舟の如く煽られ、転覆するたび獰猛な諸外国に食い物にされてしまうのだ。
特に、かつて売る側だった国は、買う側になった途端に大喜び。品性が無い連中までもわざわざ足を伸ばして女を食べにやってくる。
そんなわけで、児童買春宿は東南アジアの人々を中心として多く訪れ、客が途絶えない。莉子も真子も彼らを相手に腰を振るのに忙しい。

何人もの客の相手をして待機部屋に戻った莉子は、ふらふらになりながらも毎回決まった方角に向かって手を合わせる。

「今日のお客さんがみんな疫病に罹って死にますように」
「アンタも暇な奴だね」
「いいの、日課なんだから」
「そうやって毎日を呪いながら暮らしてると呪われちゃうよ。そんでもって、精液はちゃんと拭ってから祈ること!もう、畳がベトベトじゃない」

こんな状況に置かれても少女たちは次第に環境に慣れてゆくもので、日々の務めによる精神的ダメージも緩和されつつある。
こうなると、彼女らは十代前半らしいキャイキャイした部分を見せ、待機部屋は賑わう。
こうした適応能力は直視するには厳しい現実へ対応してゆくために、自分の感覚を麻痺させているためだろうか。時折びっくりするくらい深刻さが消えてゆく。
真子も男性器を受け入れることに抵抗がなくなってきたし、作業のように腰を振るようになってきつつある。
しかし、莉子はといえば来た当初からこの呪いの儀式などを続け、今日まで来ているという執念深さだ。すでにみんな呆れ返り、相手にするのは真子くらいだろう。

「ちなみにね、そっちの方角に神社とか無いから」
「えっ、うそ」
「正しくはもうちょいあっち」

小柄な莉子の身体は脇の下から抱えられ、くるっと20度ほど回転させられた。
真子はといえば莉子よりもかなり大人びた体格を持ち、胸こそ薄いもののだいぶ成人女性に近い身体をしている。そのため、莉子の身体をそれとなく気遣うこともある。
欧米人を数人同時に相手にする仕事が莉子に回ってきたときなどは、代わりに真子がやると言い出したほどだ。
結局、これが通ってしまったのは、莉子の客に対する態度の悪さが原因だろう。真子なら安心ということで店長も頷き、客からも了承を得た。
プレイ中、(このサイズじゃ莉子には入らなかったろうな)と思いながら、一方では、(余計なことしちゃったかな)と後悔もしていた。

ところが戻ってみると、莉子は複雑そうな表情を浮かべながらも意外にも素直に謝辞を述べたではないか。
そのとき、真子は(あれ、色々言ってる割に、分かってない子なのかな)と思った。仕事を奪われて立場の悪くなるのは莉子のほうだというのに。
この店は非合法ながらも、ある意味で健全な店なのだ。年少者が働いているというだけであり、サービス内容に過激なものは揃えていない。
なので対応が悪ければ客を回されることが減るし、客を取れなくなれば、さらに悪質なところへ売り飛ばされることもある。そうなれば健常者でいることすら難しくなる。
(なんていうか、そういうのを察することができないのがこの子なんだよね)と、口に出さねど率直にそう感じた。
莉子の身体の小さいのも手伝い、真子は出来るだけ、口だけ大きいだけのこの少女を守ってやりたいような気にもなった。

こんな莉子だが、時折、驚くほど深刻な表情で俯いていることもある。それを見たとき、本当はすごく傷だらけの子なのではないかとも思った。
大抵の少女は先述のとおり慣れてゆくものだが、もう二年も経とうかというのに未だ疑問を口にするし、自分を売った母への恨みを引きずり続けている。
どうにかならないのかと考えて真子が口出しすることもある。それもいつものやり取りになり結局はオーナーのボディアッパーで決着がつく。
そんなこんなで、二人の関係は続き、迷惑者とその世話役という立ち位置を、お互いに否定しながらも受け入れているのだ。


そんなある日に事件が起こった。乱交をすることになったのだ。
この店ではたびたびこうした注文が入ることもあり、真子を含め複数の少女が同時に男たちの相手をすることもあったが、この日は莉子と真子の二人が指名された。
両者の対極的な身体を楽しもうといったところだろうか。年齢の割りにかなり胸の大きな真子に対し、莉子はぺったんこで二次成長が始まっているのかも疑わしい。
ともあれ、こうしたことは初めてであった。
真子も戸惑ったが、莉子も戸惑っている。他の少女となら同僚的な関係なため気にもならないが、真子も莉子も、いつの間にか互いに友情らしきものを覚えている、
久しぶりに、真子の心臓が高鳴っている。あの母親との一件を見て心のヒューズが外れてしまったものと思っていたが、またこんな感覚を味わうことになるとは。
桜色のシュシュを巻き直し、ポニーテールを整えて気合を入れた。

「よろしくね、莉子」
「…うん」

待機室を出てからというもの、ずっと莉子の表情は強張っていた。
いつになく伏し目がちになり、こうした感情をまるで隠せないのが莉子なのだと真子は思う。

「莉子、そんな顔してお客様に会っちゃ絶対にダメだからね」
「え?なんで?」

きょとんとしている莉子を見てきょとんとしてしまった真子である。
(あれ?この子、ひょっとしたら本当におかしいのでは?)と、真子はそう思った。

「ねえ莉子、ひょっとして、いつもいつも、そんな顔でお客様に接してきたの?」
「なんで?なんでそんなこと聞くの?」
「なんでって、分かるでしょそれくらい」
「そんなの、分からないし、考えたくもないよ」

真子は待機室を出るまでの莉子の姿しか知らなかった。
もちろん、誰だって明るい表情で出て行くわけではない。それでも客の前ではそこそこの表情を演じているはずである。
この店の需要はそういうところにある、ということを知らずに、莉子は何を一端に語っていたのだろうと呆れ、真子の中に怒りが込み上げてきた。

「…このバカ!そんなんだからアンタ人気出ないのよ!あーだこーだ垂れる前に自分の置かれた状況考えなさい!」
「なんで、真子にそんなこと言われなきゃ、」
「アンタ自分で役立たずなの自覚してる!?あの部屋でのアンタの立場も危ういし、オーナーだって、そのうちアンタをもっと酷いところへ売り飛ばしちゃうよ!?
 おかしいと思った!アンタ髪の毛だって整えようとする気まったくなくて、いっつもボサボサじゃない。自覚が足りないのよ自覚が!」

真子は思わず莉子の髪の毛を鷲掴みにしていた。
身長にして10cm近く違うと、莉子はいくら抵抗しようとも振りほどくことができない。

「放せ、放せ、」
「グダグダと自分の境遇に嘆いてる暇あるならっ、目の前の仕事のことをもう少し考えてよねっ」
「なにが、なにが仕事だよ、なにが役目だよ、なにが、なにが、立場だ、売春婦の自分を認めるのが、そんなに、そんなに立派だっていうのかよ!?」

ようやく莉子を開放した真子は吐き捨てるように言った。

「立派だよ」

肩で荒く呼吸をしながら睨み合う二人は、やがてどちらともなく客の待つ部屋へと歩みを進めていった。
まるで唾でも吐くように言い放った「立派」という言葉は、他でもない真子自信の胸に違和感として残っていたのだった。

先に待っていたのは欧米人風の男が四人。
背丈も高く、恰幅が良く、精と脂でギトギトした風貌で、この性欲をすべて受け止めるのは大変な仕事になると真子は思った。
先程までの苛立ちを振り払うと笑顔を浮かべ、首元に付けられた奴隷の証を見せつけ、おそらくはカタコトとしか受け取られないであろう英語で挨拶をする。
すると返ってきたのは聞きなれない言語。まいったな、これじゃ意思疎通は図れなさそうだ、と思いふと莉子のほうを見ると、さっきまでの勢いは消えて怯えた顔で固まってた。

「莉子、ここはそういう店じゃないんだから挨拶しな」
「…なんで?」
「誤解されちゃうんだよ」

誤解、という言葉がきちんと莉子に通っていたかはあやしい。
男たちとシャワーを浴びている間も、身体をまさぐられるたびに莉子は露骨に嫌な顔をして身をよじる。
きっちりと愛撫を受け止めていればいいものを、真子は次第に広がる危険な雰囲気から注意を逸らそうと、四人の男たちの手を一身に引き受けた。

「そこに一人で立ってちゃ不自然でしょ。莉子も背中側からでもいいからサービスするんだよ」
「…うん」

たぶん莉子が動いたのは莉子自身の意志ではないだろう。そんな顔をしていた。それが真子を苛立たせる。
ベッドへ向かってからも同じで、笑顔を絶やさない真子に比べて莉子は常に無愛想な表情を浮かべていた。

「莉子、もういいからさ」
「え?」
「そのままの顔で構わないから、アンタ、ずっと咥えてな」
「…分かった」

不安や怯えが表面に出てきてしまうのがこの子なんだろうなぁと真子は思った。
きっとこの子は順応性が極端に低く、他の子たちのように感覚を麻痺させるということを知らないのだろう。
だからこそ今更のようなつまらない疑問などを口にしてしまい、いつまで経っても痛みを感じ続けてしまう不幸な子だ。
あんな小さな唇が、サイズの大きな男根を包み込んでゆく。ふだんああやって好き勝手やっている莉子を知る真子はなんともいえない気分になった。
真子自身は淫乱を気取って喰らい付くようなディープキスなどを演じ、やがて自分の指でペニスをあてがい、軽快な音を立てて腰を振り始めた。
奥深くまで食い込んでくる痛みを感じながらも、わざとらしいくらいの甘美な喘ぎ声を上げて男たちを喜ばせるのだ。
莉子が口で立たせて、真子が膣で受け止める。そうした流れでいいでしょ?という真子の考えは、言語にしなくても男たちの間でも了解を得られた。
ところが、一人目が射精したときのことであった。

「莉子、こっちの人、終わったから綺麗にしてあげて」
「口で?」
「そう、ちゃんと舐め取ってあげな」
「…イヤだよ。真子ので濡れてるし」

この言葉にカチンときた。笑顔を忘れて、つい莉子の耳を乱暴に引っ張ってしまった。これが男たちにどういうふうに受け取られたか。
(いけない)と思ったときにはその雰囲気は広まっており、このサービスの悪い陰鬱な少女に、サディスティックな感情がぶつけられた。
真子の行動に便乗する形で、男の一人が莉子の頭を大きな手の平で引っ叩いた。それに対し、莉子は怯えよりも反発の顔で向き直った。
こういう生身の反応を見た彼らの目に、暴力的な支配欲が灯る。

「やめな、莉子!」
「もうやだよ、こういうの」
「莉子、黙って咥えなさい。もう喋らなくていいから」
「…なにが立派だよ。自分から進んで嬲られることの、どこが立派なんだよ」

莉子はいつだってそうだ。真子のように、考え方を変えて自分を満足させるということを知らない。
莉子の話を聞いていると、時折真子も無性に不安になってしまうことがある。心の生傷を覆うかさぶたをバリバリと剥がされて外気に触れて痛んでしまう。
母親が目の前で乱れた姿を見て、母と弟と乱交して、売春宿で腰を振って、そんな境遇に立派な解釈を付け加えても、痛いものは痛い。
しかし、それらを覆い隠さなくては生きていけないのだ。誰だって、みんなそうやっているはずだ。生身で生きている莉子はすでにボロボロなのではないか。
はたして莉子は変わり者なのだろうか。ひょっとしたら、あの奇行の数々は、ここに来ておかしくなってしまったせいではないだろうか。

「分かった。分かったけど莉子、それでも目の前の仕事は果たしな、それでないと、アンタ、」
「仕事だっていうなら給与と自由くらい欲しいよ。選択だってしたいよ。なのに、売られて身体を食い尽くされて、それで誇りなんておかしいんだ、間違いだらけなんだ、」
「莉子、だから言葉の宛て先が違うんだよ。そういう文句は外へ出て社会全体へ言いな」
「外へ出ることすら無理だからここで訴えてるの!分かってよ!」
「莉子!黙ってさっさと舐めな!」

次第に男の興味は真子の身体よりも、莉子のほうへ移っていった。
二発目の平手は柔らかい頬を叩いた。重みのあるビンタで、衝撃のあまり莉子の首は曲がる限度まで回転した。
今度は向き直るよりも早く三発目のビンタが飛んだ。立て続けに腹に蹴りが入った。熱気はエスカレートする一方であった。

「待ってよ、そういうことしていい店じゃないの、お願い、誤解しないで、」

そんな言葉はまるで届かず、さっそく男がうずくまる莉子を仰向けにし喉奥に濡れた男根を捻じ込み始めていた。喉仏のあたりが不自然に盛り上がった。
細い手足で苦しみを訴えるものの、それすらも巨体にのしかかられあっさり絡め取られてしまった。小さな身体は圧迫されそれだけで莉子の生命力は奪われてゆく。
これは争いではなく一方的な暴力だ。室内にはピリピリした興奮が満ちて真子は竦んだ。それでもどうにか冷静さを保ちながら、内線電話を取った。

「オーナー、暴力行為が始まってます。莉子が襲われて危ない状況です。サービス中止してもいいですか?」
「―――真子、お前は大丈夫なのか?」
「はい、私はなんとか平気ですけど、」
「―――お客様へ繋げ」

莉子の犯されるのを手持ち無沙汰に見守っていた男の背を叩き、電話を代わった。
数分間、なにやら話している様子であったが、その数分の間にも莉子は抵抗する力を失い、どんどんと壊されてゆく。
男根を乱暴にねじ込んだだけで膣の入り口は裂けてしまった。男が腰を叩きつけると内臓が振動したのか、先程喉奥に出された精液が胃液と共に溢れてきた。
何かしらの判断をし、適切な処置をしないと、おそらく莉子はダメになる。肉体的にも精神的にも、風俗嬢としても人間としても。早く、早くしないと。
そして電話の男は他の男に何度か確認を取り、受話器を置いた。
その次に灰皿の中身をぶちまけ、なんの躊躇いも無く莉子の頭に叩き付けた。

「え?」

莉子は悲鳴を上げてのた打ち回っていたが、それも絡め取られ、もう一度灰皿の角で殴られた。
更に殴られた。三度殴られ鮮血が飛び散った。

「なんで、どうして、もう終わりでしょ」

真子には手で『お前は帰れ』というサインを送ってきた。
真子は理解した。この男たちは莉子の身体を壊す権利を買ったのだ。そして店長は金で売ったのだ。
どこまで売り払ったのかは分からないが、莉子の身体は莉子のものではすでになく、オーナーと客との契約の中でのみ生殺与奪が決められている。
あのオーナーも結局のところは私たちを商品としか見做しておらず、金になると分かれば人情など介入する余地も無く、血を売って金に換えるのだ。
きっとこの部屋を出たらどこかもっとハードな店へ売り飛ばされ、二度と莉子には会えないだろう。そう理解した。

「莉子!」
「…真子、痛い、た、たすけて、」

腰を持ち上げられ後ろから突き刺されるたびに血は飛び散り、莉子の肺から呼吸が押し出された。
他の男たちはといえば、その様子をタバコをふかしながら眺め、その表情は珍しい土産物を見るような熱の低い興奮しかなかった。
大したことではないのだ。ちょっとした気まぐれで踏み躙っただけなのだ。きっと母国へ帰ってからは日常に戻り、土産話として語る程度かもしれないし、忘れるかもしれない。
莉子の負うダメージの深刻さに比べ、突く男の表情は娯楽じみていて、時折ロデオのような雄叫びを上げて楽しんでいる。
そんな程度なのか、私たちの存在なんて。あんまりにちっぽけすぎて、そして惨めだ。真子の中から今までの理念が吹っ飛んだ。

「真子、あっ、うっ、真子、真子、たすけてよ、ぐっ、いっ、痛いの、」
「ごめん、きっと、無理」
「…あっ、あっ、むっ、無理なの?」
「ごめんなさい」
「だったらさ、おっ、教え、教えてっ、こういうとき、どういう考え方をすればっ、あぐっ、うっ、真子みたいにっ、前向きになれるのっ、私、分からない」
「どういう考え方をすればって、」
「きっと、私っ、これからっ、もっとひどいところへ行くんだと思うっ、あっ、あっ、私、きっとっ、今のままじゃ耐えられないっ、耐えられないのっ、
 もう意地とか張らないから、なんでも信じるからっ、受け入れるからっ、だから、真子みたいに、つらくならない考え方っ、教えてっ、あぐっ、がっ、あっ、あっ、」

繋がったまま起き上がらせられ騎乗位になった。力を失った頭は突き上げられるたびにがくんがくんと振れ、血を撒き散らす。
ぱっくりと割れた傷口から伝う鮮血は額を赤く染め、ぽたぽたと身体や太ももに零れ落ちていった。壊れてゆくのは身体ばかりでなく、心もだろう。
やがて周囲の男は莉子に腰を振れと命じ、動けない莉子の頭をさらに灰皿で打った。悶える莉子の背や腹を他の男たちが殴った。

「…真子、真子、私、どうすればいいのかな」
「どうすればいいかって、そんなの、」
「真子みたいになればいいの?」
「え?」
「真子の笑顔、すごく綺麗だったよ、私ずっと見てた」
「莉子…」
「真子みたいにさ、笑顔で腰を振ってれば、私、助かる?救われる?」

途端。
莉子は真子が乗り移ったかのような笑顔を浮かべた。私、こんな綺麗な表情してたっけ、と真子は思った。
パチン、パチン、と軽快な音を立てて、腰を振り、大いに乱れ、瑞々しい喘ぎ声を上げた。

「どう?なかなか上手く演じてると思わない?」
「うん、上手だよ莉子」
「こうしてれば、私もう、つらくない?」

血塗れの笑顔に男たちは盛り上がり、おそらくはキチガイだキチガイだと囃し立てているのだろう、室内に雄叫びが広がる。
その頬に今度は横から灰皿を叩き付けた。ベッドから離れたところに、奥歯の落ちるコツンと陶器のような音が響いた。
それに怯む様子も無く、莉子は笑顔を浮かべていた。それどころか余計に腰を振り、身体をくねらせ口から吐いた血を胸に塗りたくった。
きっとどんな暴力や理不尽を受けようとも、この莉子ならば受け止めるだろう。受け止め続けるだろう。
でも、それでいいのだろうか。言葉にできない違和感が真子の胸を覆った。

「あははっ、みんな喜んでる、喜んでくれてる、これで、これでいいんだよね」
「莉子、聞いて」
「なあに?今ね、私、全然痛くないの、身体の痛みも、心の痛みも、ちっとも脳に届いていないの」
「聞いて莉子、そんなのはね―――」
 


狂乱の部屋を後にした真子は、ほどいたポニーテールの後ろ髪を掻き上げた。
「ちっとも正しくなんてないよ」と、言い放ってしまったことは残酷だったのだろうか。さらなる地獄へ突き落としただけだろうか。
振り返ることはできなかった。それを聞いた莉子がどんな顔をしているか、確かめるのが怖かったからだ。
売春婦として堕ちてからずっと張り詰めていたものが切れて、真子は顔を覆いうずくまった。

「ごめん、正しい答えなんて私も知らないのにね」

それから数日後、真子が売春宿から逃亡した。
もとから脱出の方法は知っていたのだろうか。莉子が他の店へ移り、自分も行きたいというのを断られたその早朝に姿を消していた。
「どうして許可をしたのか」などとオーナーとしばらく言い争っていたのを他の少女たちが聞いている。「ブローカーへ売り渡したので莉子の行き先は知らない」と言っていたのも。

古都に四月が訪れていた。
今年も桜を目当てに外国人観光客で溢れ、仏閣や寺院を巡り、土産物に目を輝かせる。
夜が更ければ一部の男たちは風俗街へ行き、その国の女を買い漁り、精を放って満足してゆく。
社会風紀の乱れたのは当分収まりそうも無く、プロも素人も身体を売って糧とし、女たちは家に帰って稼ぎを誇らしげに見せ付ける。
行政の機能しないのも変わりそうもないが、一部の熱心な働き者が「NO!性病バッジ」なんぞというものを作った。
これが案外にもヒットで、医療機関で性病の無いのを確認した者がこれを取得できるという寸法だ。なけなしの財源は性病検査を格安で行うための補助金として使われた。
売春目的で来た観光客はそれを胸に付けた女性のみに声をかけるようになり、その女性が売春目的か否かの区別が付きやすくなった。
観光客の側も、バッジを付けていなければ店に入れないし、声をかけても断られることもある。
ただ、バッジを密造して売りつけるという手口も蔓延るようになったが、その辺りは如何ともしがたいと市職員は頭を抱えていた。
ともあれ、結果として性病は減りつつあり、三流言論人は「行政は正しい方向へ堕落をした」と、讃えてるんだか皮肉なのかよくわからない言葉を新聞に寄せた。

「たしかに三流だね。こんなの莉子でも思い付きそうな文句だ」

真子はそこで読むのをやめて新聞を投げ捨てた。
ロッカーに置きっぱなしになっていたオーナーの着衣を盗んで脱出した真子であるが、今はふつうの少女の身なりをしている。忌まわしい首輪も切断した。
売春宿で鍛えたテクニックを使い日銭を稼ぎ、住居こそ無いものの、真子のように元売春婦をしていた女たちと共に寺で暮らしている。
真子のように五体満足のまま逃げ出した少女もいれば、使い潰された、つまり、商品として使えなくなって捨てられた女が大半だ。
彼女らは心身に深刻な傷を負い、精神が壊れてしまった者、手足の切断や病気など再起不能になってしまった者、様々である。
住職はまっとうな道で働けるような技術を身に付けさせようとあれこれ提案しているが、彼女たちは一度覚えた売春を繰り返している。
悪くすれば境内で男を誘い出す始末で、そのたびに頭を引っ叩かれ連れ戻されるのだ。
時折、逃亡者を連れ戻そうとブローカーの類がやってくるが、なんとか和をもって退散してもらっている。単純に金を渡しているのかもしれないが。

「桜が散る前に見付けなくっちゃ、急がなくっちゃ」

ポニーテールを結わかなくなった真子は、伸ばしっぱなしの髪の毛を掻き上げて風俗街へ出た。
あまりのんびりとしている時間も無いのだ。伸び続ける髪の毛は焦燥感を思い出させてくれる。探せど探せど証言は手に入らない。
あの時、乱交部屋に置き去りにしたシュシュを、きっと莉子は受け取ってくれただろう。髪の結わいているのを見たと店長が言っていたから。
あれだけちっぽけで間抜けな自称言論人はまだ無事だろうか。廃人となる前にどうにか救い出して、また宛先の間違った文句を聞きたいのだが。

「あの、桜色のシュシュを付けたポニーテールの女の子、見ませんでした?莉子っていうんですけど」

真子は古都の路地で人に尋ね、またどこかへ彷徨い消えていった。
再会できたなら、このくだらない世の中を楽しく生き抜くための答えを見付けたいと思った。莉子と一緒に、見付けてゆきたいと思った。



491 名前:反省文[sage] 投稿日:2013/04/03(水) 16:33:33.86 ID:UygbKfhM [23/23]
うーむ。このサイズになると投稿するのも一苦労。

やっぱ女の子を中心に据えたほうが明るい雰囲気になりますな。
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