極めて容赦のない描写がメインになりますので、耐性のない方、および好きなキャラが残酷な目に遭うのがつらい方はご遠慮ください。

256 名前:名無しさん@自治スレで設定変更議論中[sage] 投稿日:2011/06/26(日) 02:12:31.16 ID:7iy0E9U2
『ほーむネーター 〜加速する狂気〜』後編
ttp://loda.jp/madoka_magica/?id=1911

なお、6話目はあくまで物語としての体裁を整えるためだけのオチです。



『ほーむネーター5 〜永久〜』
美国議員が汚職発覚を苦に自殺した夜、美国織莉子と呉キリカは誘拐された。
織莉子は父の死に衝撃を受けている間に背後から、キリカは織莉子のベッドで寝ている間に、何者かに薬物を注射されて拉致された。
気がつけば、織莉子は目隠しをされて仰向けに硬い台に横たえられていた。腕を上げた状態で手首と足首にを縛られ、口は塞がれ、さらに服は脱がされ下着だけのようだ。
突如目隠しを外される。辺りを見渡すと殺風景な、窓のないコンクリむき出しの部屋だ。隣に長机があり、その上にキリカが自分と同じように下着姿で縛られている。ひとまず無事のようで安堵した。
「目が覚めたようね、美国織莉子」
部屋にはもう一人、氷の瞳をした黒髪の美少女。彼女はキリカの目隠しを外し、頬を叩いて目を冷まさせる。織莉子とキリカは叫ぶ。が、猿轡のためくぐもった声にしかならない。
「説明してあげるから、少し静かにしてちょうだい。
 私は暁美ほむら。そこの呉キリカと同じ魔法少女よ」
少女――暁美ほむら――は、左手の甲で紫に輝く菱形のソウルジェムを見せる。
「能力はそこの呉キリカのように、時間に関する事。あなた方を誘拐したのも、時間を停止してやった事。
 さて、本題に入りましょうか。まず美国織莉子、あなたにも魔法少女の素質があるわ。どう? 嬉しいでしょ? 呉キリカと同じになれて」
ほむらは、悪意・害意・敵意、そんなものの入り交じった視線を向け、ぞっとするような微笑を浮かべる。
「でもね、貴方が魔法少女になっては困るの。
 私の能力だから解るのだけど、あなたが魔法少女になれば、大勢の罪のない人々を巻き添えにして殺すわ。そしてその中に、私の愛する人も居るの。
 だから私は愛する人を守る為、あなたがキュゥべえと契約しないうちに始末する事にしたの。ご理解いただけたかしら?」
氷の瞳の正体を知り、キリカが呻く。だが、それにしては妙だ。何故殺さずに誘拐監禁などしたのか。
「ただ、ひと思いに殺しはしないわ。だって、あなたは私の最愛の人を殺そうとする大罪人ですもの、それにふさわしい罰を受けて貰うわ」
ほむらの闇よりも暗い瞳を見て、織莉子の背に戦慄が走る。
この娘、狂ってる。
彼女の言うことの真偽はわからない。だが、邪魔者がいれば排除する、それ自体は論理的には理解できるし、その手段として殺害も選択の一つだろう。だが、まだ犯してもいない、目論んでもいない罪に対して罰を与える。それは、あきらかに異常な思考だ。
キリカと織莉子は抗議の声をあげるが、猿轡に阻まれ意味をなさない。
と、彼女はとびっきりの笑顔を浮かべる。
「ただね、虐殺をするのははあなた方二人が揃った時だけよ。だ・か・ら、あなた方二人のうち、一人だけ、助けてあげるわ」
殺意と憎悪と悪意と害意、それらの入り交じった禍々しい狂気の笑みを浮かべる。
愛しいキリカ、かけがえのないキリカを失う。そう考えただけで目の前は真っ暗になり、その後の事については何も考えられなくなる。
それは如何なる苦痛にも勝る、死よりも辛い事。そしてキリカにとっても織莉子を失う事は同様だ。
織莉子とキリカは、最高の伴侶であり別れ難き半身。もし、相手を失えば文字通り体を二つに引き裂かれたも同然。残された方は悲嘆にくれ、やがて自らの命を絶つことになるだろう。
「そうね。どっちが助かるか、あなた方自身に選ばせてあげるわ」
この狂えし少女は、織莉子とキリカの関係を知っている。知った上で選択を迫っている。二人で生きられなければ、二人で死ぬしかない。その関係を知ってて、選べるわけが無いのに、敢えて選択させようとしているのだ。
「考えは決まったかしら?」
まるで、ちょっとした悪戯でも考えているかのように、意地悪な笑みを浮かべて問う。
不意に口が自由になった。一瞬のうちにほむらの手に今まで口に有った拘束具が現れる。彼女の言う時間停止だろうか。
「さて、まずは美国織莉子、あなたからよ」
「馬鹿な真似はやめなさい。そもそも、私もキリカも罪もない人々の虐殺なんてするわけないわ」
「いいえ。あなたは必ずやるわ。魔女を滅ぼして世界を救う、という大義名分のもとにね」
「だったら、私は魔法少女にはならないわ。これでいかが?」
「残念だけど、それは信用できないわね。とくに、あなたに魔法少女の素質があると知ったら、あのキュゥべえが放っておくわけはないわ」
狂人の説得など、そもそもが不可能である。織莉子の胸に焦燥感が募る。
「もういいわ。折角チャンスをあげたのに」
ほむらが肩をすくめると、再び織莉子の口に拘束具が出現する。
「さて、次は呉キリカ、あなたよ」
同じく口から拘束具が消え去る。
「私の織莉子に何をする。織莉子を離せ。織莉子を傷つけたら許さないぞ!」
「ふうん。自分の立場を弁えてないの? それとも、それがあなたの言う無限に有限な愛?
 どっちにしろ、あなたのソウルジェムはそこよ」
部屋の隅に、キリカのソウルジェムは転がっている。
「魔法の使えないあなたが何を叫んでも無駄。もうちょっとお利口になりなさい」
「わ、私を子供扱いするのか?」
ほむらが溜息をつく。
「まったく。相変わらずの壊れぶりね。折角のチャンスだというのに……もう、美国織莉子を処分する事にするわ」
「止めろ! 織莉子に手を出すな」
「そう? だったら、あなたが処分される? それとも……」
ほむらがゆっくりと織莉子へと近づく。
「……わかった。私を殺せ。その代わり織莉子には手を出すな!」
キリカは処刑人を睨みつける。彼女は薄く笑う。織莉子が呻き声を上げる。
「いいわ。その代わり気が変わったら、いつでも言ってちょうだい。すぐにあなたの処刑をやめるから。
 ……そうね。痛いとか助けてとか、悲鳴を上げたりすれば、すぐに止めてあげるわ。その代わり……」
悪魔のような笑みで、ほむらは織莉子を見る。
「止せ! 織莉子には手を出すな! 殺すなら私を殺せ!」
「じゃあ、処刑開始ね」
ほむらが床から取り上げたのは、警棒程の大型で荒いヤスリ。キリカが息をのみ。織莉子が呻く。
そのギザギザが、キリカの腕に当てられ、そして滑る。キリカと織莉子が同時に苦痛で目を見開く。前者は肉体的な、後者は精神的なそれだ。
綺麗な肌に、赤い滴が浮かび上がる。
「大丈夫だよ、愛しい織莉子。私は魔法少女なんだ。魔女との戦いで、このくらいの傷は日常茶飯事さ」
確かに大丈夫だろう、ソウルジェムがあれば。狂気の少女は黒髪を振り乱してさらにヤスリを動かし、その傷口を広げる。
織莉子が呻くが、キリカは顔強張らせ、口を叫びの形にするだけだ。ほむらは返り血を浴びつつ、さらに加速する。
「……あ……」
こらえきれず、口から痛みが漏れる。織莉子は、ほっとした表情を浮かべる。次に責め苦を受けるのが自分であるにも関わらず。
「今のは悲鳴かしら?」
口元に笑みを浮かべ、ほむらは尋ねる。
「あ、愛してる。織莉子、愛してる」
キリカはごまかす。
「そう、強情ね」
ほむらは睨みつけ、さらに責める。織莉子が涙を流し、何かを叫ぶ。
「あ……いしてるっ。織莉……子。大大大す……きっ」
苦痛であるはずの叫びは、総て愛の言葉へ変換される。
どれ程の時間が過ぎたろうか。ヤスリ、鋏、針、ナイフ、ペンチ、幾多の道具を駆使し、呉キリカの身体は次第に削れていき、その分ほむらは血に染まる。
「好きだっ。世界で一番、大好きだっ。織莉子っ」
そして、削れる度にそれは愛の言葉へと変換されてゆく。
時折、キリカが意識を失うと、ほむらはソウルジェムを拾ってキリカへと押しあてる。生存本能による多少の自動回復が行われ、そしてまた処刑は続行される。
織莉子の呻きと涙はとめどなく溢れ、やがてついに織莉子の口の拘束具が緩む。
「やめてぇ、お願い。もう、やめて。キリカを、私のキリカを傷つけないで」
「そう? でも、呉キリカはそうは言ってないわ」
ほむらは血塗れの笑みを浮かべる。
「大丈夫だ。織莉子。私なら大丈夫だから」
既に空っぽになった眼窩と血まみれの顔で、キリカは微笑む。
「私は織莉子の騎士で、織莉子に尽くすためだけに生まれたんだ。だから織莉子、愛しい人、私に君を守らせて欲しい」
「ああ……、キリカ。大切なキリカ……」
織莉子は絶望の表情で、呟く。
「ほんと、強情よね。たった一言悲鳴を上げれば、助けてあげるって言ってるのに」
ほむらは血塗れの顔で、変わり果てた少女を蔑むように見る。
「この卑怯者! 人でなし! 気違い! あなた、本当は私を苦しめたいんでしょ! だったら、私を切り刻みなさいよ! 私を殺しなさいよ!」
「あなたって鋭いわ」
この上もなく残酷な笑みで、ほむらは織莉子の叫びを肯定する。
「ええ、その通りよ。殺戮の首謀者はあなたで、私の最愛の人を手に掛けるのもあなた。
 だから、どうすればあなたに最も苦痛を与えられるかを考えたのよ。
 どう? 目の前で、成す術もなく最愛の人が苦しみ、死んでいく気分は?」
「この……、殺してやる。殺してやるっ」
「おお、怖い怖い」
処刑人は、芝居がかったしぐさで肩をすくめる。
「あなたを処刑した方がいいのかしら?」
「やめろっ! 私はまだ悲鳴を上げてないぞ! 助けも求めてないぞ!」
すかさずキリカが叫ぶ。
「わかったわ。忠犬さん。なら……」
ほむらが軍用ナイフを取り出し、キリカの痣だらけで血塗れの腹にその刃を当てる。
「御望み通り、あなたを処刑するわ」
一気に引く。鮮血が溢れ、腹圧で腸がはみ出てくる。
「あ゛、あ゛、あ……い、し……てる。お、り……子……」
「あああああっ、キリカ、キリカ、私のキリカぁぁぁぁぁっ。お願い。もう、もうやめて……キリカを、キリカを助けて」
「いい顔ね。でも……」
ほむらは逆手に持ったナイフを、キリカの腹に数度突き立てる。肌の上に、むき出しに腸に、素早く、容赦なく、深く。
「だ……大……好き……だ。織莉……子」
哀れなる死刑囚は、決して苦痛の声は上げない。
「ほうら、もう手遅れね」
血塗れの勝利の笑み。
「あああああ、愛してる。愛してるわキリカ。愛しい人。大事な人。私のすべて。私も、私も大好きよ」
織莉子もまた、愛を叫び始めた。
「ああ……、織莉子……、私の織莉子……」
死にかけた少女も、それに応える。
それからキリカが事切れるまでの十数分間、二人は互いに愛の言葉を交わし続けた。
「キリカ、キリカ……愛しているわ。だからお願い。目を開けて。ねえ、キリカ……」
「無駄よ。もう聞こえないわ」
冷たく言い放ち、同時に濁り切ったキリカのソウルジェムをブーツの踵で踏みつぶす。
「呉キリカは、死んだわ。完全に」
「どうせ、あたしも殺すんでしょ?」
織莉子が、刺すような視線を向ける。
「ええ。当然よ。顔も名前も明かしたんですもの。生かして帰すわけ無いじゃない」
涼しい顔で受け流す。
「だったら、殺しなさいよ! さあ、早く!」
囚われの少女は、毅然と言い放つ。
「では、御望み通り」
ほむらは、キリカにしたのとと同じように、彼女の身を削り始めた。
「あ、あああ、愛、してる。キリカ。だ、大好き」
織莉子はキリカと同じように叫び始めた。
「何をしているの? 美国織莉子」
「キリカは、私の最愛の人は、私を守るために、私への愛を叫び続けたわ。
 だから、私はその愛に応えなければなりません」
ほむらは氷の瞳で、憎々しげに睨む。
「ウザい」
思わず拳銃を引き抜き、銃口を織莉子の眉間に当てる。
「あなた達って、いつもそう。二人だけの世界に浸りきって……」
「……いつも? ……あなた、時間を戻せるのね?」
冷酷な殺人者の顔に動揺が走る。
「そうなのね。
 私達があなたの最愛の人を殺したから、時間を戻して未然に防いで、さらに私達を苦しめて殺そうと、いえ、殺したのね。時を戻して、何度も、何度も。
 そして、苦しめるために、私達を引き裂こうとしたのね。
 でもお生憎様。私達の愛は永久に不滅よ。何度時間を戻して苦しめても、私達の仲を引き裂くことはできはしないわ。何度でも、何度でも、無限の愛を示してみせるわ」
引金に力が籠り、銃声が響く。織莉子は静かになった。
多分、この二人も壊れているんだろう。自分と同様に。そして、この二人の壊れた心の形が、互いへの絶対の愛となるのだろう。
さながらガラスの刃だ。
ガラスの破片は鋭い刃となる。これはどんなに砕いても、小さくなるだけで破片は鋭い刃であり続ける。
この二人の愛情とはそんなものだろう。
ほむらは、愛に殉じた二人を放置して廃ビルを後にした。やがてはネズミや虫がこの二人を無残に喰い荒してくれるだろう。


『ほーむネーター6 〜矛先〜』
月半ばに美国議員が階段から転落死して、一週間が経った。
事故そのものは衆人環視の下に起きた、ただの事故。しかしよほど打ちどころが悪かったのか、頭部や頸椎の損傷が酷く、ほぼ即死だった。
尊敬する父を亡くして嘆く間もなく、未成年の自分の代わりに親戚を喪主とした葬儀、顧問弁護士の協力による相続と不動産や有価証券の処分、そういった各種の処理が慌ただしく済み、気付けば織莉子は一人だった。
未成年であるため父の後継者になりえず、またそういった後継者との政略結婚の予定もない。ゆえに政界との縁は途切れ、それに伴い美国議員の娘という肩書も消滅した。
途端に、織莉子の周囲の人間関係は途切れた。父を通じての関係だった政界や社交界はもとより、教師や級友の殆ども織莉子からは離れて行った。
さらに、父が生前に汚職をしていた事が発覚――党ぐるみで行った事のスケープゴートではとも言われている――してからは、残り僅かな関係――親戚付き合いすら――も完全に途絶えた。
自分は一体なんなのだろうか? 父の生前どころか死後ですら、一少女の美国織莉子などではなく、『美国議員の娘』でしかないのだろうか?
転校手続きを終えて学校を後にした織莉子は、町をあてどもなく彷徨った。このまま遠い土地へ引っ越さずに、いっそ消え去ってしまった方がよいのではないか。
ふと寄ったコンビニのレジ前で、一人の少女を見かけた。ショートカットの髪に八重歯の少女は、会計の途中に財布の中身をぶちまけて困っていた。
店員と後ろに並ぶ客から、やんわりと敵意に満ちた言葉を受け、少女は相当パニクっているのか、拾う端から硬貨をこぼす。
自分と同様の四面楚歌の状態にふと同情をおぼえ、織莉子は彼女を助けることにした。
手早く小銭と紙幣を集め、彼女に渡す。
「あ、ありがとうございます」
妙におどおどしたその少女をさらに助けるため、織莉子はその手を引いて、敵意に満ちたコンビニから脱出させた。
「た、助かりました。本当にありがとうございます」
自分より少し背の低い少女の感謝の言葉、それは織莉子にとって、久々に向けられた真摯で純粋な感情。
心を固めていた氷壁が解け、こらえきれずに滴となる。
「わわわっ。あの、何か気に障る事でも……」
突然の涙に、少女が慌てる。
「ううん、違うの。その、嫌なことがあって、今まで我慢していたから、それが、ちょっと気が緩んじゃって……」
「ああああ、あの、その。あなたに、あなたみたいな、その、素敵な人に涙は似合わないと思います。
 だから、だから……、その、さっきのお礼に……、何か私で力になれる事があったら、力になりたいんです」
織莉子の胸が高鳴る。この少女は自分の肩書とは無縁だ。無縁なのに、私に好意を抱いて味方になってくれる。
「私は、織莉子。美国織莉子」
つい、名を告げる。
「私は、キリカ。呉キリカ」
少女も応える。
「そうね、キリカさん。もしよろしかったら、そこの公園で私の話し相手になっていただけないかしら?」
「よ、喜んで」
キリカは太陽のような笑顔を浮かべる。

暁美ほむらは、それを遠くから見ていた。
確かに、二人の愛は絶対の運命だ。出会い前から操作したにもかかわらず、こうして出会って互いに好意を抱いてしまう。
しかし、この時間軸ではキリカは魔法少女になってないし、その動機である織莉子への声かけもすでに達成されてしまった。
そして織莉子の方でも、美国議員の汚職による迫害はずっと弱く、さらにはこのまま見滝原を離れるようだ。
これで魔法少女殺害や、見滝原中学での魔女による大量殺人、そして何よりまどか殺害を起こす事はないだろう。
あとは転校初日の今日のうちに、学校の周りをうろついてたキュゥべえを始末するだけだ。
踵を返したほむらの視界の隅で何かが動いた。目をやると、二羽の小鳥が木の枝から飛び立ったところだった。
二羽の小鳥は囀り合い、じゃれ合うようにして飛び去ってゆく、果てしなき大空に向かって。

<了>

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