極めて容赦のない描写がメインになりますので、耐性のない方、および好きなキャラが残酷な目に遭うのがつらい方はご遠慮ください。

651 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 23:55:48.20 ID:rIH8oGur [1/8]
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等一切関係ありません。
フィクションと現実を混同してしまう方は読むのをただちにやめてください。


652 名前:カニバリズム大祭[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 23:56:58.06 ID:rIH8oGur [2/8]

「それでは本日のメインディッシュ、太腿のステーキで御座います。
 今回は視覚的なインパクトを出すため、大胆に輪切りに致しました。
 マナーなどお気になさらず、大腿骨の髄までしゃぶり尽くすのがよろしいかと思われます。」

一言で表すなら豪華絢爛。
そんな大広間に集まっているのは洒落た仮面を被った紳士淑女たち。
おそらく各々が各々の世界で成功を収めたのだろう。
上流階級の中でも特に上流の民が集ったこの晩餐会には、一般人は立ち入れない。

「先ほど説明致しましたとおり、この少女はバレーボール部に在籍しておりました。
 それだけに肉質は充分。特に鍛えたであろう脚の部分は実に締まりが良く、
 私が握っていた包丁からもぷりぷりとした弾力が伝わってきました。」

純白の平皿に彩られた各種香草。その中心には綺麗に炙られた輪切りの肉が一枚、行儀良くたたずむ。
極めて鮮度の高いその肉はあざやかなピンク色を残しており、褐色のトリュフのソースがよく映える。

それを恨めしい目で睨んでいるのは、犠牲となった少女。
解体されながらも意識はあり、食材として己の身体が切り刻まれ喰われる場面を今も見ている。


料理長、上嶋良平の話は続く。

「この少女、大会では実績を残しておりませんが、たいへんな努力家であったと聞いております。
 見てのとおり小柄でありながら、チームのみんなへの貢献を考え、人一倍の練習をしてきました。
 春夏秋冬、朝練はほぼ毎日のように行われたそうですが、自転車などは一切使っておりません。
 少しでも脚力を付けるため走って通ったそうで、その賜物が、皆様の口の中で咀嚼されている肉なのです。」

質の良い肉ではあったが、すんなり切れるかといったらそうではない。
しっかりと抵抗が返ってきて、やわらかいだけの肉とは違う、しっかりとした噛み応えを予感させる。
サイコロ状に切らなかった理由はそこにあるのだが、紳士淑女たちは純銀製のナイフを面倒そうに動かしている。
淑女の一人はソースを一滴ほど皿の外に跳ねさせてしまい、これには苦笑い。

「いまどき珍しく清純な少女であったため、先ほども申し上げた通り処女で御座います。
 このご時世にこのような食材が手に入りましたのも、皆様の気風の良さありきのことであり、
 調理を担当した私も、最高の素材の解体に携われまして誠に有難く存じております。」

ホールの奥からは支配人のチョビ髭面が物陰から覗いているが、その視線にはハラハラとした困惑が窺える。
それに構わず、良平はさらに話を続ける。


「スカートの丈は長く、折角の美脚を見せびらかすことをしなかったのは、この少女の慎み深さゆえでしょう。
 それでいながら活発な面も見せていたため、友人からの人気も高かったと聞いております。
 その少女がこうして買い取られ、惨めにも全裸に剥かれ、苦痛に喘ぎ解体されてしまうとは誰が予想していたでしょうか。
 ご覧下さい、この少女の眼を。つい先日まで青春を謳歌していたとは思えない、まるで生まれたことを後悔するかのような眼で御座います。」

紳士の一人がフォークを咥えたまま固まった。
いや、それでなくともかすかな困惑の色はすでに晩餐会全体に広がっている。
支配人はついに物陰から姿を表し、遠くから良平に合図をしているのだが、良平はそれでも話を続ける。

「ご覧のとおり、両腕両脚すでに根元まで失っており、ダルマのようなめでたさすら漂います。
 腹部もご開帳の如く切り開かれて、可憐な乙女の秘密がすべて踏み躙られた格好と言えるでしょう。
 生への冒涜と呼ぶには遜色無い、実に陰惨な場で舌鼓を打たれている皆様に、私、感動の念を禁じ得ません。」

支配人の顔は真っ青になり、奥歯がガタガタ震えている。
どうにかしてやめさせねば。そう思い必死にゼスチャーを送るのだが、円卓は360度の視界を持っており、
淑女の一人に発見された支配人は失態を避けるべく、中止の合図をオリジナルの舞いへと変えて余興とすることで難を逃れた。
だが、根本的な難の原因である良平は、それでも話を続ける。


「賢明にして聡明な皆様の前で、今更のように語るには恥ずかしさを覚えますが、
 食人、カニバリズムが、美食の生き着く究極のひとつであることは私自身、疑いの余地はありません。
 もっとも、法律でこそ固く禁じられておりますが、莫大な資金に物を言わせて人命を一つ刈り取ることは可能です。
 非合法で、非常識で、不条理で、不道徳にして、甘美な行為をお楽しみになれるのは、そう、資本を貪欲に掻き集めた皆様のみでしょう。」

そう良平が言い終える前に、支配人はあざやかなタックルを決めた。
アマレスで国体に出た経験を持つ支配人は良平の身体を軽くなぎ倒して、金切り声で叫んだ。

「こ、この、この薄汚いマルキシストめ!」
「違う。僕は活動家でも何でもないただの料理人だ。」
「黙れ、黙れ、黙れ、貴様はいったい何を言っているのか分かっているのか。
 お客様の前に出るといつもお前はそうだ。何度注意してもきかないのだな、えい、こうしてやる、こうしてやる、」

目の前で繰り広げられる取っ組み合いに、紳士淑女が呆然としたのは支配人にとって幸運だろう。
もはや良平の話を誰も憶えておらず、話題はいい年をこいた男達のケンカに集中した。
晩餐会の中止。そんなことが少し頭によぎった少女はわずかな生存の希望を見出すが、その後は会場も落ち着きを取り戻し、
あわれ、解体は続き最後はぷるぷるとした血液のプリンになって絶命してしまった。


「なんだって言うんですか、まったくもう。」
「シャラップ!お前はお前自身を料理人だと言ったがその通りだ。無駄なお喋りは料理人の仕事ではない。」

片付けを終えた厨房に支配人の説教が飛ぶ。
わずかな肉まで綺麗に落とした白骨は鍋の中でコトコトと音を立て、
浮かんできた少女のシャレコウベを良平は箸でつんっと突いて沈めた。

「僕はそうは思いませんよ。上級な店ほど料理人はお喋りなものです。
 食に対するイマジネーション、その素材となる情報を与えることはとても重要だ。人間は舌の上の感覚だけで味わっているわけじゃない。
 ましてや美食家となればより想像力を働かせて食を楽しむ。そうした高等な作業が美食家を美食家たらしめている。
 だから僕のお喋りは決して無駄なんかじゃない。」
「やかましい!いいか、よく聞け、お客様はみんな馬鹿なんだ。
 知ったかぶりの無駄知識を披露しながら「うーん」とか意味深っぽい唸り声を上げてありきたりのコメントを垂れ流せば満足。
 それだけが全てだ!だが、それでいいんだ!お客様にとってはそれが代え難いステイタスで、我々はステイタスを提供できればいいんだよ!」

先ほどの少女の目玉は、野菜くずや各種生ゴミに混じったまま二人のやりとりを睨む。
眼こそ澄んでいるがもはや何も考えず何も感じず、ただ網膜がそれを焼き付け、かろうじて繋がれている大脳へと送りつけている。


「でも、だったらわざわざ食人なんて楽しまなければいい。そこらへんの料亭を渡り歩くだけで充分だ。
 一流と呼ばれる料亭だったらそれぞれがそれぞれの独自性を発揮しているでしょう。
 その差異を語り合うほうがよほど健全な美食趣味だと思うし、知ったかぶりだってそっちのほうが恰好が付く。」
「だから、ス・テ・イ・タ・スなんだよ!いいか、お客様は馬鹿なんだ。
 中でも人間性を置き去りにしたまま金だけ手にしてしまった哀れな成金は、ステイタスが欲しいんだよ。
 それも、誰もしたことの無いような特別なステイタス。料亭だったら誰でも行ける。だが、奴らはステイタス欲しさに食人を楽しむんだ。
 だから食材への同情を誘うようなお喋りは以後厳禁。禁を破ったら即刻馘首だ!分かったな!」

良平は箸を置き、ゴミ箱から少女の脳味噌をむんずと掴み出す。
眼玉は視神経にぶらさがり、良平の足元を視てぷらんぷらんと揺れている。
その光景を見て支配人はうえっと嗚咽を漏らした。

「同情?結構じゃないですか。食人って、むしろそうした感情的なものを楽しむんでしょう?
 そもそも人間の肉なんてたいして美味いものじゃない。ほんとうに美味しい肉を食べたいなら家畜の肉でも食べればいい。
 それでも食人をしたいという気持ちが働く裏には、まさにそうした感情的な部分があるんですよ。ステイタスなんかじゃない。」


大脳は指の圧迫で刺激され、チカチカと意味不明の電気信号が流れ出した。
壊れた磁気テープのように不可思議な情報データが脳裏にバラバラと駆け廻り、
不意に、蓄積していた思い出の断片がふわっと蘇り、少女に様々な光景を見せていたが、それは誰も知る由は無い。

「それくらいは俺にだって分かる。もちろん、それすらも分からない馬鹿がうちに殺到して俺も困ってる。
 だがな、そうした馬鹿のお陰で俺たちの仕事が成り立っているのも事実だ。まこと不本意ながらな。
 しかし、今日のお前のようにお客様のことを不道徳だの不条理だの不衛生だの不謹慎だの不感症だの理不尽だの言うのはやめろ。」
「事実じゃないですか。」
「うるさい!馬鹿は事実を突き付けられると怒るんだよ!だから馬鹿は馬鹿なんだ!」
「だったら怒りをスパイスに変えればいい。」
「それすらできないのが馬鹿の馬鹿たる理由なんだ!いいか、あんな馬鹿ども相手にせずお前は料理に専念しろ!」

それを捨て台詞として支配人はぷんぷんと怒り散らして去って行った。
だが、お分かりのとおり支配人は実に優しい。良平のことを単なる労働力ではなく一人の人間と見ており、
ここまで口答えされてもきっちりと対応しているあたり人格者であって、そういう点で良平は上の者に恵まれている。
良平もそれを充分理解しているのだが、料理人として生きているだけあって食に関する理論になるとどうしてもぶつかってしまう。

良平は「ふぅ」とため息をついて大脳を再びゴミ箱に投げ入れ、ぐしゃりと潰れて少女は無になった。


良平は、はじめから食人の道を目指していたわけではない。それどころか料理の道すら大学卒業後に決めたのだ。
それまでは文学に夢中になっており、さまざまな理論や思想を学んだのだが、研究者として進むことは選ばなかった。
かといって料理人を選んだ理由は何かと問われたら、今でも良平は首をかしげるだろう。
なんとなく、という曖昧な動機ではあったが、一つの物事に没頭してしまうのが彼の性癖なのか、料理人としての腕はかなりのものだ。

とはいえ海外へ修行などへ出かけることはせず、近場にだって優秀な料理人はいると考え、
フランスやイタリアなどへ遠征する同輩たちを黙って見送ったのだった。
そうして店から店へ転々としながら修業を重ねるうちに、やがて良平は食に対する答えを見出した。

それは、美食は感覚器官のみで味わうには足りない、というものであった。
食は単純なものではないという考えがすでに念頭にあった良平にとって、美食なるものが舌の上で完結するとは始めから考えておらず、
人間の高度に発達した精神、そうした精神的な部分が重要だと考えた良平は、感覚よりもむしろ食の思想性を重視した。
舌を通じて相手の感情を動かせれば、いやむしろ食することそのものに喜びを与えることができたなら。
こうなると小手先の瑣末な問題などどうでもよくなり、考え込んだりする時間が増えてサボりがちになりレストランを馘首されたこともあった。
そんな状況の中で良平はさらに思考を繰り返し、食人、そういうのもアリだというふうに思うようになった。


食人という選択肢が良平の中に生まれたのは、「どうやら人肉を出すところがあるらしい」という、
料理人の間で流れていた都市伝説めいたものゆえであった。良平がそのショッキングな情報をすんなりと受け入れ、
むしろ「たしかにそれは美食が辿りつく一つの姿だ」と思ったのは、すでにその時点で食について考え尽くされていたからだ。

仕事が無く暇をしていた時期が良平にもあり、ふらふらと街に出てはその信憑性を確かめる作業をした。
そういえば以前に働いてた料亭はヤクザがよく利用していたと思いだし、そのヤクザが腹を満たしたところへ突撃。
まったく物怖じをしない良平の姿にヤクザは思わず口を割り、どこどこの組の誰それが関係しているらしいと漏らした。

そうしてヤクザやマフィアを転々とするうちに、ついに事実を掴み場所を割り出すのであったが、
そこは地下や僻地などではなく、意外にも知名度のそこそこ高い高級ホテルで行われていたのであった。

「ここで人間を解体させて下さい。」

いきなりの良平の言葉に支配人はぎゃあと叫んだが、話を聞いてみれば食人に真から熱意を燃やしているそうなのだ。
こんな奇特な人材は滅多にいないと、支配人は喜んで良平を雇い現在へ至る。


さて、やがて料理長へと昇進した良平であったが、普段はふつうの料理に腕を奮っている。
「もはやつまらないなぁ」と思いながらもホテルの看板に見合うほどの品を提供できるのだから、良平は意外と器用である。
むしろ本領発揮は月に1〜2度入る食人晩餐会のときであり、その時ばかりは事情を知らぬ従業員は全員締め出される。

この日も食材と人数が揃ったので、晩餐会を行うこととなったが、
さてさて、支配人にあれだけ口酸っぱく言われたことを良平は憶えているだろうか。

10時間前の時点で、良平は食材との対面を許される。
どこの誰がどうやって仕入れたのかは興味の範囲外だったので追及はしなかったが、食材に関することは別である。
はじめは「そんなこと関係あるか」と突っぱねられたが、良平の食に対する情熱がそれを曲げさせた。
いまや組織の人間は求めに応じ、食材に関する詳細なデータを積極的に提供するようにすらなっているのだから、良平は意外とすごい。
今日運んできた者は中国人風の新顔の男で、すでに厨房には食材の少女が置いてあった。

「今回も、睡眠薬や麻酔の類は使ってませんよね?」
「見ての通り縄で縛っています。故郷の上海蟹が連想されますね。」
「肌がずいぶんと黒いですが何かスポーツをやっていたとかは?」
「部活は帰宅が専門ですが、水泳が得意と言われています。私は海に行く暇などありませんでしたがね。


奥平幸子。公立中学校に通う13歳の少女。
男性経験は無し。部活には所属していないがスイミングスクールに通っていたため運動は得意。
背中には水着の日焼けあとがくっきり残っており、今年の夏を充分に満喫した様子が窺える。
落ち着きが無く成績は悪かったが、笑顔が多く、いつも友人に囲まれていたそうだ。

「うん、頬の筋肉が発達してるなぁ。」

食材に衣服など必要無く、全裸でがんじがらめにされた少女の顎を持ち上げ、肉付きを確かめる。
腕、脚、腹、背中、乳房、股間までも指で触って確かめていたが、身体をまさぐる良平の目には一切の欲望が無い。

「初潮はまだですか?」
「署長と待ち合わせていますか?」
「初潮です。生理が来ると肉の臭みが一気に変わる。
 そうなると香草をどれだけ使うか色々と事情が変わってきちゃうんですよ。」
「アイヤ、本人に聞くと一番適切です。私が調べていなかった事情もありますがね。」

良平がガムテープを剥がすと、少女の目を静かに見詰めて問いかけた。

「初潮は来ましたか?」


「いいえ。」そう素直に答えてしまったのは、良平に対する異質な恐怖ゆえだろう。
犯罪者とも異常者とも違う、殺意も無く、敵意も無い、少女の死を願っているわけでもなく。
その目はあくまで純粋で、これから殺人を犯そうという決意する者が当然持っている躊躇のかけらすらも欠落している。

「良平さん、私は色々な殺人者を見ましたがあなたが一番怖いです。」

組織の男はそう言うとそそくさと厨房を後にし、こうして少女と良平だけが残された。
全身の肉付きを一通り調べたあと、良平は実に多くのコミュニケーションを取った。

家族は優しかったですか?親友はどんな人でしたか?好きな人はいましたか?
学校は楽しかったですか?好きな食べ物はありましたか?いちばん笑った出来事は何でしたか?
勉強は嫌いでしたか?運動は好きでしたか?どの季節が好きでしたか?来年の夏は何をしようと思っていましたか?
本を読むのは好きでしたか?幼い頃のことは憶えていましたか?どんなクセがありましたか?
他人から馬鹿にされたとき怒ってしまう人でしたか?それとも泣いてしまう人でしたか?
どうして人は生きているのだろうという問いに答えは出せましたか?空を眺めるのは好きでしたか?
ボールに触るのは好きでしたか?明日世界が崩壊したらどうしようと考えたことはありましたか?
自分の身体のどの部分を愛していましたか?死にたくないと思っていましたか?

それらは全て過去形であった。
自らの確定された死を告げられている気持ちで、少女はそれらにひとつひとつ答えた。
こうした問答を1時間近く続け、良平の脳裏には料理の完成図までが浮かび上がって来た。
そして料理の準備へと取り掛かったのだ。


晩餐会は良平と他わずかなスタッフだけで機密に行われており、支配人は自らてんやわんやと働いていた。

「テーブルセットよーし。フロア清掃よーし。グラスに指紋なーし。椅子にホコリなーし。」

支配人がやたら上機嫌に動いているのはやけくそである。
もともと支配人の座は譲り受けた格好で得たものであり、裏にこうした事情があるとはこれっぽっちも知らなかったのだ。
ただ、前任の者から説明を受けたとき、その説明をもってして運命が拘束されてしまった。
つまり、知った以上は拒否権無し。拒否をすればその場にいた黒服が即座に始末していたかもしれない。
おそらく、そうした止むを得ない事情で世の中は正常に回っているのだろう。

「やや、待てよ、良平のヤツちゃんとやってるだろうな。この前のがショックでサボってたらどうしよう。あわわ。」

少女はすでに小手高に吊るし上げており、脚を八の字に広げた形で固定していた。
全身に巻き付けた薔薇の弦は客からの指定であるが、良平はセッティングしながらもセンスに欠けるなぁと思っていた。
薔薇なら青白いくらい透き通った肌に似合うのだが、元気な日焼け跡ならむしろ快活な朝顔が似合いそうな気すらしてきた。
いっそこっそり朝顔に変えてしまおうかとも思ったが、さすがに気付かれてしまうだろう。

「うん、もうちょっと内股にしてみようか。」
「良平よーし。」
「どうしましたか支配人。」
「どうしましたかじゃない!いいか、今回は余計なことはしゃべるなよ!」
「うーん。」
「うーんじゃない。ダメ、絶対ダメ。」


頭部を除く全身の毛を剃られた少女は、現実感を喪失していた。
身体は完全に固定されその時を待つばかりなのだが、ひょっとしたら自分はある種のパーティーの主役なのかもしれないと思うようになった。
全裸にひん剥かれて大股開きにされ、胸も股間も隠せない恥ずかしい格好で外に出ると思うと、急に羞恥の心が刺激された。
良平はカチャカチャと前菜を盛る器をセットしながら、少女に問いかけた。

「ちょっと時間が余ったからもう一度聞くけど、食生活は健康的だった?」
「はい。身体に悪いものはやめなさいってお母さんに言われてました。」
「そうか、じゃあ肝臓はおいしいだろうね。」
「私からも一つ聞いていいですか?」
「いいよ。」
「私はこれからどうなっちゃうんですか?」
「君は食材になる。料理になってみんなに振舞われるんだ、そして死ぬ。」
「死ぬんですか?」
「死ぬよ。生きたまま皮を剥がれ肉を裂かれ、骨を切られ内臓を抉られ、苦しみ抜いて死んでゆく。」
「あの、お願い聞いてもらっていいですか?」
「どんなお願いだい?」
「私、痛いのも怖いのも嫌です。だから楽に殺してそれからバラバラにするのではダメですか?」


「ダメだな。君は最後まで痛い思いをしながら死ななきゃダメだよ。」
「どうして?」
「過去と現在と未来を持ち、人格を備えた君というかけがえのない存在を、お客様の一瞬の快楽のため犠牲にするんだ。残酷な行為だ。
 でも食人って、まさにそんな残酷なことに価値を見出す行為なんだ。味覚のためだけじゃない。だから残酷さはむしろ隠さず見せた方がいい。
 苦痛に喘いだり顔を歪めたり、顔を赤くしたり青くしたり、歯を喰いしばったり目を見開いたり、失禁したり嘔吐したり、そういうことが必要なんだ。
 楽に殺してハイおしまい。あとはお肉になりましたってんじゃ味気が無いじゃないか。」
「よく、わからないです。」
「とにかく君にはせいいっぱいの、悲鳴と、嘆きと、呻き声を上げて貰わなきゃ困る。
 君にはそれができるだろう?君が君の人生を愛しているなら、できるはずだよ。
 でも、決して『死にたい』なんて言わないでおくれよ。人生を放棄した者の肉になんて価値は無いから。」
「生きたいと願っている人の肉は価値があるんですか?」
「そう。僕はそう思うよ。死にたいと思っている人間を殺すことは残酷でも何でもない。だから価値が無い。
 でも生きたくて必死な人間から生命を奪う事は途方も無く残酷なことで、どちらに精神の躍動があるかと問えば誰もが後者と答えるだろうね。」

少女はうーんと唸ったり、うなづいたり、首をかしげたりしていた。
手が痛いから少しのあいだ降ろしてと言うと、良平は少しだけ縄を緩めた。
とはいえ、少女に逃げ出そうという気力は無く、むしろ良平のよくわからない信念に惹かれすらしていた。


「僕も僕で努力をする。君の命をとてもたいせつに思っているからだ。
 安心して、僕の腕は確かだから君を美味しく料理してあげる。口は下手だけど君の魅力はなるべくしっかり伝えるつもりだ。」

その言葉に、そして長く鋭い包丁を研ぐ良平の横顔に、少女がキュンときた。
非常事態に恋が始まるのはありがちな話だが、俎板の鯉も板前に恋をする、なんてことが起こるのだろうか。
ともあれ、ここまで説明は無かったがこうして見ると良平の顔はなかなか凛々しいものがある。良平は意外にもスペックが高い。

紳士淑女は広い会場にわらわらと集まり始め、厨房にまで熱気が漂ってくる。
少女はシンデレラの劇を演じる女優のような気持ちで開演の時を待っていた。不思議な感覚だった。
自分の命そのものをここまで讃えてくれたくれた人など、今まで出会ったことがなかったからだ。
そして支配人の挨拶が聞こえてくる。
何度経験したかも分からないが、やはり緊張するものだなと支配人は内心苦笑いをした。
そして料理長、上嶋良平が舞台に上がる。

「料理長の上嶋良平と申します。本日は私が調理を務めさせて戴きます。
 まず初めに申し上げたいことが御座います。それは命を食べるという行為についてです。
 賢明にして聡明な皆様の前で今更のようにお話をするには恥ずかしく存じますが、暫しお時間を戴きたく存じ上げます。」


「あんのバカッ」

良平の態度は客人を褒めているのか馬鹿にしているのか分からない。
おそらく良平自身はそのどちらの意図も無いのだが、支配人はすでに止めに入る構えすら見せている。
だが良平はそれを知っていて、それでも話を続けた。

「およそ生命は尊重に値するものであることは皆様ならばご存じであると思います。
 それを奪うことが如何に残酷かは語るまでも無いと思われますが、それでも我々は肉を食べることをやめません。
 それは人間が持つ途方も無い欲望ゆえです。欲望が生命を肉と変え、舌の上でのつかの間の幸福に変えているのです。
 キリスト教圏の教義では、『家畜は神が人間のために創り出した』と言われており、それゆえに食肉を正当化しているのですが、
 そんなものは私は欺瞞でしかないと思います。自らの欲望から目をそらしているだけに他なりません。
 たとえば詩人の宮沢賢治などはその事実に自覚的であったため、生涯ベジタリアンを貫きましたが、それは彼が食の本質を見抜いていたからです。
 さて、今回、皆様がお召し上がりになるのは人間の肉です。命を快楽に変える深刻さを是非楽しんでいただきたいと・・・」

良平の話は長々と続き、紳士淑女は退屈そうな顔を見せ、それより早く少女の肉を食べてみたいと腹をすかせている。
ようやく少女が運ばれてきてようやく会場は歓声に包まれたのであった。


「それでは前菜に必要な肝臓を切り取ります。」

包丁がすぅっと脇腹の肉を裂いたとき、少女が先ほどまで抱いていた幸福感は消え失せた。
腹腔に指を差し込まれ内臓を弄られる恐怖が背筋を貫き、激痛に悶え苦しんだ。

「ご覧下さい、この赤黒いぷるぷるとした部分が肝臓です。
 今回は少しでも長い間皆様に楽しんで戴きたいため、大量出血を避け肝静脈から慎重に切り離してみましょう。」

刃が肝臓を薄切りにした瞬間、少女は「ぐえーっ」と汚らしい悲鳴を上げて飛び跳ねた。
良平はぺらっと剥がれた一枚のレバーを慎重に更に盛り付ける。ピンク色の血がじわっと純白の更に広がり、鮮度の高さを物語る。
一度に切り取らず、何度も何度も包丁を入れられるたびに少女は全身を突っ張り痙攣しながら叫んだ。

「どうぞお召し上がりください。これは少女の悲劇の味、同時に皆様の罪の味で御座います。」

軽く塩を振ったのみであり、レバーには臭みが余分なほど残っている。
良平には信念があり、臭みを消しまろやかにするよりも、それ全てひっくるめてその肉の味であることを伝えたいのだ。
ましてや人間の肉であるならば、人間の味を消してはいけない。そう考えていたが、口に運んだ紳士淑女はやや苦い顔をした。


「次は柔らかい二の腕の肉を唐揚げに致します。スイミングスクールで鍛えただけに食べごたえはあるでしょう。
 しかし少女ゆえに肉付きは少なく、わずかな量しか取れませんので大切にお召し上がり下さい。」

そう言うと良平はゴムチューブで少女の肩をきつく縛り、腕への血流を止めた。
脇の下からつつっと包丁を入れると骨の純白が覗き、一瞬の間をおいて鮮血が流れた。
「ひええええええ」徐々に解体される痛みと恐怖に少女は震え、これもあっという間に切り取られ片栗粉にまぶされた。

カラッと軽く揚がった二の腕にはパクチーと甘酢がかけられ、エスニックな風味が漂う。
これは紳士淑女にも大人気で、結局、両腕はすべて唐揚げとなった。
小手高に吊るされた腕はすでに少しの肉を残してほとんど白骨化し、だらだらと流れる血液が少女の身体を幾筋にも赤く染めた。

やがて肩関節に包丁が差し込まれ、腱や軟骨はめりめりと切断される。
「ぎゃあっ、あがっ、うがあ、」
肩関節が外されたときはごりっと大きな音が響き、脳天にまで衝撃が走った。
そして鎖骨には太いフックが貫通させられ、両腕を根元から失った少女は鎖骨で全体重を支える格好となった。


「あうっ」
ふくらはぎに包丁が刺され、ショックでこむらがえしを起こしたが腱を切断するとそれも治まり、少女は歩く機能が完全に奪われたことを悟った。
ヒラメ筋を蒸している間も良平の説明は続き、如何に少女が魅力的で幸福な人生を歩んできたのかを語っている。

「さて、頬肉は刺身に致します。涙でぬれた僅かな塩味をお楽しみください。
 表情の多い少女でしたので、それだけに歯応えは充分。かつて友達に笑顔を振りまいたその肉で御座います。」

「ひい、ひいい、」目の下を横に包丁が走ったときは気を失いそうになった。
それでも気絶せず正常な意識のまま生きながらえているのは良平の腕のお陰であろう。
背中、ふともも、腹、少女の身体は徐々に失われて食材となり紳士淑女の腹に収まる。

脾臓や膵臓、そういったものも摘出され、これはブランデーでフランベにされ振舞われた。
「ぎ、ぎぎ、ぎぎぎぎ」想像外の激痛に歯を食いしばったが、やがて声は枯れ、
「ひぃ、ひぃ」と情けない声を出しながら次第に恨めしい目で紳士淑女、そして良平を睨むようになった。
だが、少女が見たもっとも信じられない光景は、淑女の一人が「この部位はあまり美味しくないわ」と言い、手を付けなかったことである。
侮辱された。少女はそれが許せなくて仕方が無かった。
その部位は卵巣であり、少女を女性たらしめてきた重要な器官だというのに。

こうして鬼畜晩餐会の夜は更けていったのであった。


例の如く、支配人がキエーと奇声を上げて良平にタックルを決めて騒然となる場面もあったが、おおむね成功であった。
明日の仕込みも終えて無事に帰宅した時点で、すでに夜の11時を回っていた。

こうした違法な行為にはそれなりの報酬が付きものであるが、良平はそれを特に求めようともしなかったので、
組織も余計な金は払わずにいる。安アパート暮らしではあっても不自由を感じていない。
薄い壁の向こうから隣の家族の声が聞こえる。
もうこんな時間だというのに珍しいことがあるものだと良平は思った。
しかし、ベッドの上でよくよく耳を澄ませてみれば、娘の誕生日とのことである。
たしかお隣さんは母子家庭であり、慎ましく暮らしていたのだと思いだした。
帰宅するとき、隣の玄関にまだピカピカの補助輪付きの自転車が置いてあったが、
なるほど、それがプレゼントだったのだろうか、楽しげな声が響いてくる。

「うーん。親子丼なんていうのもアリだな。母親の子宮に娘の肉を詰めて胎内回帰。
 それをよーく煮込んでみても面白そうだ。いやいや、二人の繋いだ手を切り落としてオーブン焼きなんてのはどうだ。
 だめだな陳腐だ。そうだ、手の間にローズマリーを握らせておくというのはなかなか素敵だぞ。」

良平はそう言って寝返りを打った。


「ほんとうなら母親がお客様ならそれが一番いい。娘の肉を泣きながら食べるなんてすごく感動的だ。
 いやいや、娘が母親を食べてもいいな。それでお腹一杯になった娘を解体して肉にする。
 うむむ、何か違う気もするなぁ。僕が求める陰惨の極致とは程遠い。」

娘はそんなことを知らずに壁の向こうでキャッキャと笑っている。
良平の頭の中ではとっくに美味しそうなステーキになっているというのに。

「やっぱり僕には才能が無いのかもしれない。」

そう言って良平は寝返りを打ちなおした。
それでも隣の母娘の肉が美味しいであろうという直観は消えず、試しに解体してみるのも悪くないと考えた。

「今度、組織の人に頼んでみようかな。」

良平は意外と顔がきく。
なんの打算も無しに申し出るものだから、組織の人間も思わず頷いてしまう不思議な力があるのだ。
ちなみに人間一体の値段はおよそ1億5千万。人種や国籍、身分や性別によって異なるが、平均してそんなものである。
国産品が高いのは人間も同じで、逆に貧しい国の農村などからだと3千万程度で購入された例もある。
高いか安いかの判断は人によって異なるが、それだけの金が動けば命を闇に葬ることは充分に可能となるのだ。
紳士淑女が出資をすれば、隣の母娘はすぐに連れ去られてその人生を閉じることになる。

良平の願いは近いうちに実現するだろう。



674 名前:反省文[sage] 投稿日:2011/10/30(日) 00:21:26.96 ID:rTz7any0 [16/16]
処刑人の話はこうなるはずだったんだけど、
涼子がいまいち動かせなかったので改めて書き直しましたよ、といったところです。

またスレが日照りになったころに書きに来るかもしれません。

管理人/副管理人のみ編集できます