極めて容赦のない描写がメインになりますので、耐性のない方、および好きなキャラが残酷な目に遭うのがつらい方はご遠慮ください。

173 :暇人 ◆R5GSeiYY :02/05/26 00:46 ID:BIrGVF1y

「……父と子と聖霊の御名において。アーメン」
一同「アーメン」
すすり泣きや囁きあう声が曇り空に消えていく。
黒い喪服姿のグリシーヌと花火は呆然と、肩を落としていた。
グリシーヌが疲れたような声で、誰に言うでもなくぽつりと呟く。
「…まさか、あの男の言葉が実現するとはな…」
「……ええ。こうなってしまったからには、他の皆さんにも相談して…」
「そうはいかん! 他の者にはともかく、あのロベリアにでも…」
その時。
「ん…? この私に何かようでもあるのかい…? アンタ…ひっく」
グリシーヌはロベリアから漂う、酒気の匂いに対し不快げに眉を顰める。
「何でもない…! こちらの事ゆえ…口出しは無用に願おう」
花火はそっと、グリシーヌの肩に手を置き、ロベリアにぺこりと頭を下げる。
「ロベリアさん。実は、折り入って相談したい事があるのですが…」
「花火…!」
急に真剣な眼差しになり、ロベリアは問いかける。
「待ちな。根暗女が私に話し掛けて来たんだ。まあ、話ぐらいは聞いてやる
さ」

そうして、次の日曜日。
グリシーヌの邸宅のダイニングルームにて、グリシーヌと花火とロベリアが
無言で待ち続けていた。
「お館さま。あの…またこの間の男性が…」
「此方に通すが良い」



男は、丁重にハットを脇に抱え、深く頭を下げてから部屋に入ってくる。
「おやおや、お初にお目にかかる方もおりますな」
グリシーヌは男が椅子に腰を掛けたのを見計らい、男の方へと顎をしゃくり
ロベリアに示す。
そして、ロベリアはその男…サン・ジェルマンに対し、炎の洗礼を浴びせ掛
けた。
花火のか細い悲鳴と、紅蓮の炎のじりじりとした音が響く。
「炎はサラマンドラの吐息であり、ウンディーネの甘き囀りで打ち消され、
かように、4大の力は無化されん」
男もロベリアも何事も無かったかのような、表情を浮かべている。
ロベリアはにやりと、妖艶な笑みを浮かべ男を促す。
「ま、余興はここまでにして。私にも聞かせてくれるかい? アンタの壮大
なヨタ話を…ね」

サン・ジェルマンは花火の瞳を覗き込みながら、悲しげにゆっくりと首を振る。
そうして。
「…では、欧州の血を引いた…日本の乙女のお話でも致しましょう」
花火は肩を細かく震わせながらも、男から目を逸らす事も、口を開くことも出
来なかった。


<花火の物語>

狭い貨車に大勢の人間が詰め込めていた。
ひといきれや、熱気、汗や呼吸の臭いが充満し、息をする事すらままならない。
その中で、彼女…北大路花火は、少しでも新鮮な空気を求め、静かに喘いでい
た。

192×年…仏蘭西による、独逸ルール工業地帯への侵攻から第二次大戦が勃発。
仏蘭西軍は短期間で独逸ワイマール共和国を支配下に置く。
そこに傀儡政権を築き、英国との泥沼の戦争を続けていた。
フランスのファシストは、白人至上主義の立場から、民族浄化に邁進し国内国外
を問わず、非欧州人への弾圧を強めていた。

「さっさと降りろ!」
貧相な仏蘭西兵が、銃を振り回して、貨車から降りるように促している。
皆、絶望を深く刻んだ表情をし、彼等を区分ける為の軍医の元へと列を作って行
った。
その時。
「いやぁぁぁぁッ!!」と叫びながら、まだ年端も行かないユダヤ人と思しき少
女が列から逃げ去る。
ばぁーん。
花火は目を瞑りながら耳を塞ぎ、この現実から逃れようと努力する。
しかし、彼女のか細い心は砕ける寸前であった。

花火は軍医の前で、薄い胸を自らはだけさせる。
欧州人と比べ、幼い感じのする胸を、軍医はいやらしい手つきで触診し、ゆっく
りと彼女を値踏みする。
「…君、年齢は?」
「…今年で、22歳になります」
「ほぅ。てっきり、15歳ほどかと思ったよ」
花火は意を決して、口を開く。
「お願いします…。助けて下さい…! 私は間違えて此処に連れて来られたので
す」
軍医を五月蝿そうに手で、彼女の言葉を遮る。
彼女は構わず「私は祖母が仏蘭西人です! それに…」
「それに…何だね? まあ、話は後でゆっくりと聞いてあげよう。特別にね」
その時下士官らしき男が、軍医に対し激しい口調で抗議する。
「馬鹿な…!? 軍医殿…貴方はこの薄汚い劣等民族の話に耳を傾けるのですか!
どうせ、嘘に決まっていますっ!」
「君はまだ此処に来て間もない。此処には此処のやり方がある。医者としての立場
から、この女を調べる。これで良かろう…?」


花火は地下へと連行される。
そして、扉を開けるとそこには。
「あ、貴方は…!」
「お久しぶりですね。マドモァゼル。私の言葉、嘘では無かったでしょう?」
忘れるはずも無い…この男を。
数年前に彼から、自分自身の物語を聞いたグリシーヌ。
それから、彼女は変わってしまった。
エリカさんも、メルさんも既に亡くなって久しい。
「今日は、モドモァゼルにお話した、貴女の物語を完結する日です。覚えておられ
るでしょう? あの※年前の、麗らかな日曜日にお話した事を」
花火は必死に今来たドアのノブを回し、この男から逃れようと足掻く。
何故なら、これから自分の身に降りかかる災厄を、※年前に聞いていたから。

ふるふると、そのほっそりした肩を震わせ、花火は幼子のように大粒の涙を浮かべ
ている。
彼女は全裸で、部屋に設えていた石壇に仰向けにされ、手足を縛りつけられている。
その部屋は薬品の刺激臭が充満し、四方の壁には薬棚や本棚が屹立していた。
「そうです。もっと嘆いて下さい。悲しんで下さい。そうして…痛みを苦しみをゆっ
くりと味わって下さい」
そうして、サン・ジェルマンは花火の身体に油のようなぬらぬらとした、粘液状の物
を塗りつけて行く。
まずは、その美しい顔面に。
花火の堅く瞑った瞳の奥の眼球が、ぶるぶると震えているのをその手に感じながら、
男は高く通った鼻梁、そして小振りな唇へと手を這わせ行く。
そうして、うなじからほっそりとした首筋へと。
そして、下へと辿り、その小振りだが仰向けになっても形の崩れない、乳房へ手を這
わせ行く。
「……ん」
「おや、失礼」
そう言いながら、執拗に乳房に手を這わせて、ゆっくりと…もみしだく。
花火は頬を真っ赤に赤らめ、息が浅くなる。


「処女の乙女の血に含まれる、種々の成分。それは、感情の状態によって絶対量が変
化致します。だから…色々とね」
花火の片足を高く持ち上げ、その足の甲からふくらはぎ、そして太ももへと粘液での
愛撫を続ける。
もう片方の足も同じように、かき抱くようにしながら高く持ち上げ、ゆっくりと手を
全体に這わせていく。
花火は唇を噛みながら、何かと必死に戦っていた。
その見開いた碧の瞳は、淡く潤んでいる。

そして、両の足の付け根へと、手を這い登らせる。
「そんな事…そんな事……いあぁ!」
頭をいやいやさせながら、少しでも男の手から逃れようと、身をよじり悶える。
「……ぁ…ふぅ」
はぁはぁと、荒い息を付きながら、花火は男の手による陵辱から紛れの無い、快楽を
感じ取っていた。
にちゃにちゃと、そのにこ毛が生えている部位の奥までも、指を入れてかき混ぜる。
花火は背を軽く反らせ「…ぅ…ぁ」と言う、秘めやかな吐息と共に、身体を弛緩させ、
ぐったりとする。

その白い肌がほんのりと、朱に染まっているのを見計らい、サン・ジェルマンは様々
な言語(ラテン語やギリシャ語、神代文字やルーン語等々)が刻まれた、大斧を振りか
ぶり、花火の足を太ももから一気に切り落とす。
「ぁ。──ぎゃぁぁぁ!!」
快楽の余韻に浸っていた花火は、突然の痛みに目を見開き、絶叫のコーラスを上げる。
サン・ジェルマンは構わず、そのほどばしる血を銀の盆に受けながら、何やらぶつぶ
つと詠唱を繰り返していた。
「快楽と痛みの狭間にて。それは、生と死の縮図でもある。それは、欠かせぬもの。
決して、欠かすことは出来ぬもの」
もう片方も同様に切り落とし、血を受ける。


両足を無くした花火は、激しい痛みと喪失感に苛まれ、口の端から涎を垂らしながら、
泣き喚くばかり。
「おやおや。先ほど身体に塗らせて頂いた膏薬は、ミュルラの秘薬。だから、貴女
はもう、私が望むまでは死ねないのですよ。擬似的な不死ですな」
男は、太ももから切断されて、その肉と骨の断面を曝け出している足の骨の骨髄をナ
イフで抉りながら、それも盆で受けて行く。
花火は気が触れたかのように、口の端から泡を浮かべ…悶え苦しむ。
「痛痛痛ぁっぁ…! 足の先が痛ぅ…ぅあ…」
「足の先なぞ、もう無いのですがね。ああ、幻肢痛…ファントムペインですな」
そう言いながらも、足の断面から骨の髄を抉り取って行く。
ぐちゃぐちゃと。

「ど、どうしてこんな…事を…っ?」
苦しい息の中、花火は一言一言を搾り出しながら、言葉を紡ぐ。
「憶えていませんか? あの日、私が話した事を」
「ぅ…は、話した…事?」
「そうです。私の依頼人からの注文品。万能の不死薬エリキシィールの作成の為」
そう言うと、メスを取り出し花火の紙のように白い腹へと、そぅっとあてがう。
花火は怯えきった表情で、涙を流しながら懇願する。
「お願いします…。殺すなら一思いに…お願い致します…。もう、苦しいのも痛い
のも…嫌ぁぁーぁぁッ! もう…もう」
「これまで私は、幾百での場所。幾千の時。幾万の人間から、同じような懇願を聞
いて参りました」
シーツを引き裂くような音が、狭い地下室に響く。
彼女の腹は一文字に引き裂かれて、腹圧によりどろりと臓物が外へ零れ落ちる。
花火は瞳をこれ以上開かないほどに見開き、激しく震える両の手でその零れ落ちる
内臓を必死にかき集めるのだが、かき集めてもかき集めても、どろどろと外へはみ
出して行く。
ぺちゃ。
とうとう、腸が床に落ちた。
「ふふ…もう、嫌。こんなの…嫌ぁぁぁぁっッ!!」


「まだ、狂わないで下さいよ。では、肝臓と腎臓を失敬」
スパチュラ(微量スプーン)で、肝臓と腎臓を一掬い二掬いする。
男はそれを大事そうに、硝子瓶に収めながら縋るような目付きで彼を見詰めている、
花火の髪をそっと梳る。
「誰が私の依頼人か…思い出せましたか? 貴女の良く知っている人ですよ」
「助けて…大神さん。助けて…フィリップ。助けて…グリシーヌ……」
「これは、限界が近いようですな。では、最後のエッセンスを頂きましょう」

ぎぃ…ぎぃぎぃ。
硬い骨を削る音。
大きな鉋で、花火の頭蓋を外科手術の要領で削り、ディナーの盆を外すようにぱかっ
と…外す。
黒ずんだ桃色の魂の座が、暗い室内灯の光を反射し、そのぬらぬらとした脳の表面に
周囲の物を映し込んでいる。
「まだ、思い出せませんか? これも、貴女の心を守る為の自我防衛機制ですな」
「助けてグリシーヌ。助けてグリシーヌ。ふふ…」
「今回の大戦の裏には、ブルーメール家が深く関わっています。そして、現在の当主
はグリシーヌ・ブルーメール。これでも、まだ分かりませんか?」
脳を露出させたまま、それを振り落とそうとするが如く、花火は激しく首を振る。
「嫌です。私は…何も……嫌ァァ…。この香りはプラチナム?」
「幻の香り。でも、ようやく現実を認め出したようですね」
「プラチナム…? グリシーヌ? それでは…そんな…」
サン・ジェルマンが脳液を取る為に、カニューレを差し込む準備をする。
「私の依頼人はグリシーヌ・ブルーメール。そして、エリキシィールの原料に必要な
物は…不死を望む者にもっとも近しい者の、死の間際の絶望を感じた時に分泌される
脳液なんですよ」
花火は絶望の表情を浮かべ、声を限りに叫ぶ。
「…呪ってやる…グリシーヌ…! 貴女を絶対呪ってや………」
その瞬間、カニューレは脳に挿入され、勢い良く脳液がほどばしり出た。


はっ、と気が付くと彼女達3人はテーブルに突っ伏していた。
夕日の赤い光が、薄暗い室内を燃え上がらせている。
グリシーヌは蒼白な表情に、汗を滴らせながらかすれたような声を出し、呟く。
「そ…んな…馬鹿な…。何故…私がそんな…正義にもとる…。嘘だ! 嘘に決まって
いる! サン・ジェルマン! 貴様…!」
そしてようやく気が付く。
彼がいない事を。
その時。
「お館様。どうなさいましたか?」
「ローラ! 先ほどの男は何処へ消えうせた!」
「お客様なら、暫く前にお帰りになりましたが…」
がくりと、その場で膝を付くグリシーヌ。
花火は意識を取り戻すと、グリシーヌに対し今まで使った事が無いような、罵詈雑言
を浴びせかけ、テーブルに飾ってあった花瓶の中の水を彼女に浴びせかけ、早足で部
屋から走り去る。
グリシーヌは何も出来ず、呆然としている。
「…あはは! 普段から奇麗事ばかり抜かしているアンタの正体、よぅく分かったよ。
あーいい見世物だった。何がパリの悪魔だ…! アンタの方がよっぽど悪魔だよ!」
ロベリアの痛烈な罵倒と、高らかな嘲笑は何時までも続くようであった。

…その日、花火はグリシーヌ邸を去った。

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