極めて容赦のない描写がメインになりますので、耐性のない方、および好きなキャラが残酷な目に遭うのがつらい方はご遠慮ください。

※FE 聖戦の系譜のリレーSSの続き


「………な、何を!?」
唐突な要求に我が耳を疑わざるを得なかったフュリーは不明瞭な問いを
発したが更に非情な答えが返ってきた。
「解りませんか? 着ている物を全て脱いで…まあ要するに真に無防備な姿
 ……全裸になって戴きたい」
幾分苦笑しながらの男の言葉を信じられないと言う表情で聞いたフュリーの
美貌が蒼く変わる。今男の要求、いや命令に背けばアイラの身がどうなるかは
容易に想像出来たが、さりとて黙って従った所で二人共、或はアイラだけでも
助かると言う保障は何一つ無い。しかも自分は文字通り丸裸の状態となり
男達の手中に墜ちるのだ。その後どうなるかは自分の知識範囲外だが
無事に済まされない事ぐらいは察しがつく。

(全てを奪われては二度と抵抗する事も出来ない。
 ……でも、私が一時の恥を耐えれば、少なくともアイラ様だけは……)

悲壮な断を心中で決意したフュリーは、沈んだ口調で自らの運命の扉を開ける。

「そうします……全てを脱ぎ去りますから、約束は守っていただきます」

予想通りの返事に幾分気を良くしたのか口元を歪めた男が明らかに機嫌の良い
対応を返す。
「それは殊勝な心掛けで…では早速脱いで戴きましょう、少しでも手を止めたら
 あれに一筋ずつ傷を付けましょうか?」
取り押さえられてるアイラを顎で指す男の卑劣な言葉に憤りを感じながらも
反論を許されないと察したフュリーは震える手で白い鎧を外し、それを見てた
下男達が口笛を吹き囃し立てる。
「おー、おー、美人騎士様の脱衣ショーかよ!こりゃ良い見世物だぜ」


下品で粗野な男の前で肌を晒さねばならない……未だどこかも分らぬここに
拉致されるまで考慮の外であった事が、今現実に起きている。
意識が途切れそうなのを必死に堪えながらフュリーが鎧を床に落として
次の衣服に手を掛けるも、流石に逡巡せざるを得ない。
フュリーの手が止まるのを見た男が意地悪く声をかけた。
「騎士が前言を翻すのですか? シレジア天馬騎士は誓約すら守れない
 イカサマ騎士の集まりで? これは傑作ですね……くくく」
低く笑う男に反発したくなるのをかろうじて堪える。命より大事な祖国、
そして長年自らの寄り処であった天馬騎士を愚弄される事は普段のフュリー
には当低耐えられない屈辱だが、それを今口に出せばアイラの命は無い物と
思わねばならない。開こうとする口を何とか閉じたフュリーは怒りに身を
震わせながら身に纏っていた物を一枚、また一枚と脱ぎ去る。

「ほう? 白一色の下着ですか。清純な貴女には良く御似合いで」
褒めた様な軽蔑した様な言葉を吐いた男の前ではその指摘通り上下の下着
のみとなったフュリーが身をよじらせながら棒立ち同然になっていた。
決意していた事とは言え、卑劣な敵の前で半裸を晒すという事がこれまで
精神的な苦痛を伴うとは思いも寄らなかったが、時を置かず更なる恥辱を
受けねばならない。

「フ、フュリー………」
側で仲間の醜態を見る事を強制させられていたアイラが血を吐く様に呟く。
自らの無力が招いた結果とは言え、見るに耐えない光景に気丈な彼女の
漆黒の瞳から涙が頬を伝わるのを下男達は嗜虐の快感に背筋を震わせながら
片方のと同時に観賞する。


「何を泣いてんだよ! 辛気臭えな!!」
下男がアイラの涙を咎める様に荒々しく怒鳴ると同時に短刀の先端を
彼女の右腕に幾分突き刺し、一条の鮮血の糸を滴らせる。
「くうっっ……!」
苦痛に呻くアイラを見たフュリーが堪えきれず抗議の声を上げた。
「や、辞めて下さいっ!! 言いつけ通り脱いでいるじゃありませんか!?」
切実なそれを言い終わる間も無く男の手がフュリーの白い頬に勢い良く飛んだ。
「…………!!」
石床に倒れ落ちたフュリーの碧色艶やかな髪を荒々しく掴み、自らの顔に
彼女の美貌を近付けた男が薄ら笑いを浮かべていた表情を一変させて
憎悪を剥き出しにして言った。
「…貴女が早く脱がないから、あれが痛い目を見るのが解らないんですか?
 それとも、あの者達の手で服を引き裂かれたいのなら、そうしても宜しいの
 ですよ。尤もその時はそのまま勢いに任せるという事も考えられますがね」
「勢い……?」
幾分怯えの色を見せるフュリーが問う様に呟くと男が明らかに侮蔑を隠さずに
「解らないのですか? 貴女を輪姦すると言う意味ですよ……
 そうそう、念のために確認しておきますが、貴女……主君と寝たのですか?」


突然、全くの予想外の質問に狼狽を隠せないフュリーは咄嗟に方向を
そらそうとする。
「あ…貴方達なんかに関係の無い事です。それよりアイラ様に手当を早くっ!」
不快気に目を細めた男が下男の方に振り返り一言「おい」と言い捨てると
黄色い前歯を見せて頷いた下男がアイラの右腕に刺したままの短刀をさらに
奥深く突き入れる。
「ギャアアァッ!!」
一際高い声と同時に紅の糸が更に太さを増して石床に赤い点を作る。
その様を見て鼻で笑った男が言葉を続けた。
「そのまま腕肉を抉ってやれ。松明で炙って焼肉として食べさせるのも
 面白いからな……ここに運んでから食事を与えていないので二人共空腹
 だろうから丁度いい」
常人の発する言葉と思えぬそれを聞いたフュリーは髪の痛みをも忘れて
狂わんばかりに哀願する。
「も、申します! 申しますから、そんな酷い事言わないで……下さい。
 いえ、考える事も、どうか……どうか……」
エメラルドと見紛う深緑の瞳に涙を溜めて請うフュリーに満足げに頷いた
男が再度の問いを幾分の修正を加えて発する。
「では、もう一度訊ねましょう。貴女の主君であるレヴィン…でしたっけ?
 出奔した無責任かつ女性に節操の無い無能王子と何度褥を共にしましたか?」
「……レ、レヴィン様を馬鹿にしないでっ!!」
何よりも大切な主君の悪口に無反応でいられなかったフュリーが半ば無意識に
抗弁を吐いたが、即座に酬いが返って来た。前は平手だった男の手が今度は
握り拳の形となってフュリーの頬に再び三度程叩きつけられた。
「……うっ!」
僅かに赤く腫れた頬を手で庇い、蹲るフュリーを見下す様に立った男が
三度目の質問を冷厳な口調でしつこく問う。
「寝たか、寝ていないか。どちらかを求めているのですが?」
もし次も拒めば、間違い無く前述の脅迫を実行するだろう……そう感じた
フュリーは意を決して訊問に返答した。
「そんな畏れ多い事…考えた事もありません」


「ほう……この期に及んで虚言でごまかすと言うので?」
冷たく言い返し、全く信じていない男の様子に必死で弁解するフュリー。
「ほ、本当です。嘘なんて……こんな時に言える筈ありません。
 お願いです…信じて下さい」
「ふん…なら他の男とは何度寝たのですか。包み隠さず申して頂かないと
 貴女に好ましくない今の状況が更に悪化しますよ」
表面上穏やかながら威圧を含めた質問を繰り返す男の真意をフュリーは
測りかねる。他の事ならまだしも何故自分の男女関係などを執拗に訊問
するのかを。

(一体、この人物は私に何を……)

疑問と不安が頭をよぎるも、即答せねば男の言う通り状況が更に泥田に足を
取られる様に陥るばかりだ。
そう思い知らされたフュリーは真実を吐露せざるを得なかった。
「…どなたとも、寝所を共にした事等無いんです。本当の事を全て申しました
 から、どうかアイラ様を…」
「では、貴女は男性を知らない純潔を保たれて来た女性と言うのですね。  
 ……これは望外、いや意外でしたよ」
嘲る様に低く笑う男に嫌悪感を持つフュリー。
自分が未通女だからどうだと言うのか。そう問い返してやりたかったが
後難を恐れて口をつぐみ、顔を背けて幾分かでも嘲笑から逃れる。
「まあ…後で確認させれば解るのですし、ここは置いておきましょう。
 では先程の続きで、残りの物を脱ぎ去って貰いましょうか
 ……無論今更嫌とは言わせませんがね。フフ…」


その言葉で自分が今、憎むべき卑劣な男たちの前で半裸を晒している事に
気付いたフュリーは慌てる様に肌を隠そうと手で覆うも、再び髪を掴まれ
立ち上がらせられて衆目の集中する辛い立場に置かれる。
「へへへ…さっさと全部脱いだ方がいいぜ。騎士のお姉ちゃんよ」
男の尻馬に乗って脅す下男の野卑な声を耳に入れられ、諦めた様に手をそのまま
下着にやり、躊躇して身から引き剥がす。

(……………)

鎧や服の上からは解らない、美麗かつ豊満な乳房が全容を表す。
余りの恥辱にその場に蹲りたくなるのを唇を噛みつつ堪えるフュリーは
意を決して、腰の物をも脱ぎ、敬愛して止まぬ両親から与えられた姿を
十中十敵である男達の前に晒す事となった。
「……これで、良いのでしょう」
屈辱の余り抑え切れない涙を瞳に溜め、両手を横にした直立の姿勢で立ったまま
男の方を向き気丈を装うフュリー。だがその裸身は僅かに震えており、それが
恥辱か、或はこれから己が身に降りかかるであろう事への本能的恐怖かは当の
本人にも分らなかった。


惨めなフュリーの姿を見るに耐えず俯いて砕けんばかりに歯がみするアイラ。
震える裸身を卑猥な笑みを洩らしつつ観賞する下男。それとは対照的に
憎悪の色とも言える表情で見る男と様々な様相が部屋を飾る。
一時の沈黙の後、お琴が重く口を開き立ち竦んだままの全裸のフュリーに
言葉をかけた。
「なるほど……この様に美しい女性が無数の兵を殺してきたのですね。
 さぞ彼らも無念を通り越して、憎んでも余りある事でしょう」
近付き出す男に一瞬、怯え反射的に胸と下腹を隠そうとするフュリー。
だが、それを待っていたかの様にアイラを嬲っていた三人の内二人が
素早くフュリーの両手を抑えた。
「……な、何をするのですか!?」
思いがけぬ咄嗟の反応に声を上げて抗議しようとするフュリーに冷笑で応えた
獣は、彼女の両手を強引に背中に回させて押さえ付け、その間に相方が鉄製の
手鎖を持ち出して、フュリーの手首に嵌めようとする。
「嫌っ! 離してっ!!」
手を封じられると悟り激しく首を振り抵抗するも、所詮は無駄なあがきに過ぎず
ガチャリと言う金属音と共に、両手の自由を奪われた。
「フン…それらしい姿になった様ですね」
鼻で笑った男がフュリーの頤を手で上げて、その美貌をゆっくりと堪能するかの
様に見る。


「………………!!」
碧眼に激しい怒りを込めて見返したフュリーがここに連れて来られてから
抱いていた疑問をぶつけるかの様に問い掛ける。
「貴方たちは何者なのですか? 一体私達に何故こんな事を……」
「うるせえっ! 余計な口叩くな!!」
下男が横から怒声を入れ、先程までアイラを苦しめるのに使用していたナイフを
フュリーの程好く整った太腿に突っつく様に脅しをかける。
「やめておけ。今すぐする必要も無い」
予想外の言葉に、渋々ナイフを離した下男を尻目に男が言う。
「まあ……今夜は大人しく裸になって頂いたのでここまでにしておきますか。
 おい。そこに転がっている雌犬を元の部屋に戻しておけ」
命令に従い、アイラを抑えていた下男が家畜を引き立てる様に室外に出そうと
すると耐えられなくなったのか大声を出す。
「き、貴様っ! フュリーをどうする気だ!? こんな事をしてただで済むと
 思っているのか!」
「黙りな。ほれ、さっさと這い蹲って歩くんだよ」
髪の毛を掴まれ強引に連行されるアイラの背中にフュリーの哀切な声が
降りかかった。
「アイラ様! 私のことは構わず、どうか諦めないで…決して早まった事を
 為さらずに」
あらん限りの声を張り上げるフュリーを嘲笑するかの様に男が言い捨てる。
「…それは貴女の方ですよ。まあそうされない様に私達も最善の策は
 とりますがね。さて、貴女専用の特別室に案内するとしますか」
言い終わると、二人の下男がフュリーの肩を掴み、アイラが連れ出された後の
出口に引き立て、同時に滑らかな双臀に無粋な手を触れさせる。
「へへ…、たまらねぇ綺麗な肌してるぜ。こりゃ嬲り甲斐があると言う物だぜ」
だらしなく開けた口から涎を流す下男の力に抗えず、連れて行かれるフュリーの
背中を幾分目を細めてみる男の口元には期待感に満ちたかの如き邪悪な笑みが
毀れていた。 


「触らないで下さいっ!」
けたたましい声を出して抗うフュリー。自分をどこかに連れ出す下男の
無粋な手が美麗な双乳に触れたからだ。
「けっ、減る物じゃあるまいし、大声出すなよ」
「そうそう。今からそんな調子じゃ生きていけないぜ」
口々に嘲笑を返す二人の下男。下卑た視線に晒されるだけでも鳥肌が立つのに
誰にも触れられた事の無い身体の箇所に、脂ぎった手や骨の浮き出たそれに
何の遠慮も無く手を触れられるだけでなく、時には力を入れて抓ったり或は
握ったりと、無礼極まる所業を咎めてはいたが、二人は手を止めるどころか
その初々しい反応を楽しむかの様に益々図に乗る。
「全く、輪姦す事が禁止されていなければ、ここでもいいから犯したいぜ」
「本当だな。高嶺の花とはこの事だぜ」
下男の何気ない会話が性的知識が皆無のフュリーには死刑宣告に似た恐ろしい
響きで耳に入る。手で抑えて聞こえない様にしたくても、両手を背中に回され
全ての抵抗を封じられている今では何も出来ない。
余りの惨めさに溢れる涙も、敵に弱みを見せるなと言う天馬騎士の教示に従い
かろうじて嗚咽に留める。

(…どこでもいい。早くこの人達の手から開放されたい)

未だ知らされておらぬ目的地――自分専用の特別室とやらに一刻も早く到着する
事を心中で願うフュリー。


「さあ、ついたぜ。ここがお前が今日から過ごす部屋だ」
下男の声で俯いていた顔を上げたフュリーの視界に目的の部屋が入る。
部屋――いや、部屋とはとても呼べないそこは、人一人が横になって一杯と
言う程度の広さしか無い牢獄――フュリーの知っている範囲内のだが
それすらと比較しても酷い有様の所だった。
――窓一つ無い四方石壁
――所々に血痕の付着した不気味な石床
――馬小屋の如く申し訳程度に隅に敷き詰められた寝藁
――おそらくは排泄物を入れるための壺が一つ

「ひ……酷すぎます。こんな所に人が住める筈ありませんっ!」
耐え切れずに恨めしい目と言葉を向けるフュリーに下男は冷笑で応える。
「最初は大抵そう言うんだが、すぐに慣れるさ。それに手前にそんな選り好みが
 許されると思っているのか? ええ?」
鉄扉を開けて、必死に身を動かして抗うフュリーの背中を押して強引に室内に
叩き入れ、同時に扉を閉め錠前を下ろした。


「せめて……せめてこの鎖だけでも外して下さい。お願いです!」
声を振り絞る様に懇願するフュリーの姿を、覗き窓から眺めて愉快な表情を
見せる下男が冷淡に言う。
「明日の朝まで大人しくしていな。舌を噛むとか変な気を起こすなよ。
 …その時は例の足無し女も死出の道連れにしてやるぜ。へへへ……」
「それに、今にこの部屋に居る時間が楽に感じる程の扱いを受けるんだから
 早い所、慣れるんだな。そうそう……これが今夜の飯だ。大した物じゃないが
 せいぜい味わって食べな。尤も騎士の姉ちゃんの口に合うかは知らんがな」
覗き窓から放り込まれたのは、一個のパンのみだった。
触れてみた所、時間が経過している物なのか、固くなっておりとても美味とは
感じられない代物だ。
「一体…私に何の恨みがあってこの様な仕打ちを…」
「今に分るさ。嫌と言うほどな。それじゃゆっくり寝る事だな。
 夢を見る事だけは自由なので、せいぜい王子様の夢でも見る事を薦めるぜ」
揶揄し終わった下男が遠ざかると、今まで抑えていた涙が溢れ出るのを
フュリーは感じざるを得なかった。

「ううっ……」

悲哀をかもし出す嗚咽が苔が見える石壁に響く……


下男達の気配が完全に消え、闇に包まれた部屋――牢獄に一人残された
フュリーは、丸一日何も食べていない空腹感に負け、与えられたパンを
口にした。いや、せざるを得なかった。
予想通り、堅くなって味一つしない物であったが、これしか無い以上
何を言っても始まらない。第一抗弁を吐く相手すらいないし、仮にいても
聞き届ける訳も無い。
砂を噛むに似た感触を終え、食べたと言う僅かながらの満足感を得たが
状況が好転した訳でも無く、逆に敵の施しを受けたと言う敗北感がフュリーの
幾分落ち着きを取り戻した思考を支配しつつあった。
壁に取り付けられた数本の蝋燭の灯りのみが頼りの、この暗黒の空間では
先程、下男が半ば罵る様に言った、寝る事ぐらいしか無い。
嫌でも思い知ると言う明日に己に降りかかる災難――災難で済むのなら
どれ程良いか。明らかに自分を憎んでいると思われる男らの手によって
自分はどう扱われるのか。
アイラの様に足、もしくは手を切断された上で慰み物に墜とされるのか。
今まで、考えた事も無い己の行末が交錯する中、訪れた眠気と共に
一つの結論を出す。

(例え、何をされようとも…必ずアイラ様をお助けして、ここを出る。
 それ以外に無いわ……)


「起きていますか?朝食を持って来ました」
聞き慣れぬ声がフュリーを安眠――御世辞にも寝心地は良くなかったが。
から覚めさせた。
扉が開かれ、幾分の陽光が差し込むそこには、メイド姿の若い女性が盆を
持った姿で立っていた。
衣服を着ている女性を見て、改めて自分が全裸なのに気付いたフュリーは
慌てて背を向けたが、背後から女性の優しげな声が聞こえた。
「大丈夫です。同じ女ですし、私は貴女に危害を加えません」
その声に応え、振り向いたフュリーの視界に女性の邪心が感じられぬ笑みと
床に置かれた食事が入った。昨夜とは打って変わってスープとパン。
それに若干の肉と野菜と言う、今の自分の境遇には似つかわしくないメニュー
だった。
「何も変な物は入っていませんから、どうぞお食べ下さい」
「はい……」
悪意が感じられない女性の言葉に、ようやく警戒を解いたフュリーが
食事に手をつける。それを同じ視点で見ていた女性が、
「私はリジー。侯爵様より貴女の身の回りを扱う様に仰せ付かった者です」
「そうですか。私は……」
「フュリーさんですね。名前は伺っております」
言葉を遮った女性――リジーは食べ終わった食器を取り、続けて言う。
「余り詳しい事は申せませんが、決して諦める事の無い様に。
 私は朝と夜、食事を運んできますので、何かあれば御遠慮無く」
「あ、有難うございます……」
思いがけない言葉に目頭を熱くするフュリー。その姿を見ながら立ち上がった
リジーは部屋を出て行く際に「では……」と軽く頭を下げて去った。
(こんな所にも、あんな人もいる……)
全てが闇の中で一筋の光明を見出したかの様な気持ちになったフュリー。
しかし、数分後の乱入者により、その余韻が中断された。
「おい、出ろよ!侯爵様がお呼びだ!」
先程のとは全く逆の粗野な下男の声がフュリーを再び闇に貶める。


再び縛めで手を封じられ、朝だと言うのに陰気な暗い回廊を下男に引き回され、
時に歩みが遅いだのと難癖をつけられる。
「おらっ!さっさと歩けよ。騎士様がそんなへっぴり腰じゃ先が思いやられるぜ」
ピシャピシャ白い双臀を平手打ちにして、あたかも家畜を追いやる様に無理矢理
歩かされるフュリーの素足には、冷たい石の感覚が伝わり、先程の下男の乱入から
抱かされてきた不安を更に増長させる。

ようやく到着した部屋の頑丈な扉が開かれ、その中の光景を垣間見たフュリーの
白磁の美貌に浮かんでいた不安の灰色が確信の黒に変化した。
天井から降ろされた滑車やその先に垂れ下がる鎖や荒縄。
フュリーには何に使うか全く見当もつかない大仰な道具が幾つも壁に立てかけられ
中には赤褐色の錆か何かがこびり付いた物まである。
昨夜一晩を過ごした牢獄同様、いや、それ以上に血痕が床に散乱しており、
漠然ながら、この部屋が拷問部屋だとフュリーも悟った。

「やあ、御早よう御座います。よく眠れましたか?」
ふと、声がした方向を振り向く。すると昨夜アイラと自分を辱め尽くした男が
全身黒服の人物三名に囲まれ、ワイングラスを片手にこちらを微笑を浮かべて
見ていた。夕べと異なり、貴族らしい豪壮な衣服を着ており侯爵と呼ばれていた
男がこの人物と気付いたが、侯爵がワインを飲みながら眺めていた物を見た
フュリーは愕然とした。

「………そ、それは!?」

「ん? 別に貴女には関係ないですよ」
軽口で応じた男のそばに在る物――それは女性の原形を留めていない屍骸だった。
両眼はくり抜かれ、鼻は削がれ女性は愚か人間の顔と判別するのも困難な状態で
特にフュリーの瞳に焼き付いたのは、女性の象徴とも言える乳房が両方とも
無惨に抉り取られ、赤黒い断面が痛々しく露出していた。
その余りの惨状に一目見て、即座に顔を背けたフュリーだったが、徹底的に破壊された
屍骸の惨たらしさに、強烈に目と脳裏に焼きつかざるを得ない。
「こ…この人は誰なのです? 何故こんな酷すぎる真似を……」
震える声で詰問するフュリーを愉快気に見ながら言葉を返す侯爵。
「随分好奇心が強い事で。これは貴女を捕える前日まで楽しんでいた玩具でして。
 だが、目的の物が手に入りましたので、用済みとなった訳ですよ……」
グラスに口をつけ、幾分啜り飲んで宙吊りの屍骸を手で玩弄する。
見るだけでおぞましい光景に鳥肌を浮かべつつ震えるフュリーを尻目に口を動かす。
「私の領内で、租税を納められぬ貧民の娘でして、今年の税を猶予する代わりに
 受け取ったのですが、下賎の者にしては、まあまあ耐えましたね。
 まあ……、貴女までのつなぎにはなりましたよ。くくく…」


無気味に低く笑う侯爵の言葉で、憤りを感じ、吐き出さざるを得なかった。
「ひ、酷い。そんな事、領主として…いえ、人の所業ではありません!」
必死に抗弁するフュリーの様子を楽しそうに見ながら冷やかに返答する。
「そうですかね? 実に人間らしい事と思いますが。まあ貴女には理解できない
 でしょうね。尤も今はね……」
言い終わると同時に指で合図する侯爵。それに応じた黒服が下男と交代する様に
フュリーを取り押さえる恰好になり、再び圧迫に似た不安を覚える。
「な、何を……離して!」
「さて…この部屋の状態で気付かれたでしょうが、貴女には今までの所業に
 相応しい罰を受けて貰いましょう。尤も手間をかけてここに招いたのですから
 せいぜい私を失望させないで頂きたい」
丁度、部屋の中央に置かれてある人一人が寝られる大きさの台を指差した。
木製のそれには、何箇所かに固定するために使うと思われる金具が取り付けられており
何の台かは見て瞬時に理解できた。
「……そこに縛り付けろ。暴れられない様、慎重にな」


一端、手鎖を外されたが、眼前に吊るされている屍骸が百言に勝る脅迫となって
フュリーはなす術も無く黒服達によって台に縛り付けられた。
所々に黒く変色した血が、この台上で何が行なわれてきたかを如実に物語っており
彼女の類稀な美貌が蒼白になるも、残った気力を振り絞ってキッと目を見開いて言う。
「……私とて、天馬騎士の一人。拷問に掛けられた所で貴方達の望む事など、一切
 言うつもりはありません」
「最初は大抵の者がそう言いますよ。尤もその態度を続けられるかは別問題ですが」
素っ気無く返す侯爵に、フュリーは唇を噛み締める。
「…………」
反応をからかう様に見る侯爵が椅子に腰掛けると、黒服達が準備に取り掛かる。
壁にかけられていた鞭の中から、乗馬用に使う短めのポピュラーな物を取り
大の字に固定されているフュリーの太腿に、軽く一撃を与えた。
「くうっ!」
瞳と開きかけた口を閉じて、下半身に走った痛みにフュリーが耐える。
白い太腿に、一筋の赤い線が刻まれたが、それに黒服が手を触れると染みる様な
感触が襲い掛かり、眉をしかめるフュリーの楽しそうに見る侯爵が声をかけた。
「そういえば貴女はペガサス乗りでしたね。鞭を受ける気持ちは如何ですか?」
「こ、これくらい……何て事はありません」
「でしょうね。では他の箇所にも…」
黒服が再び鞭を降ろすと共に、他の二人も同様にそれぞれの担当の箇所に休み無く
叩きつける。
「くうっ……、うっ!ううっ!」
断続的な苦痛に、咽喉元まで出かかっている声を必死に抑える。一度出してしまうと
それがこの男達を喜ばせるのは明白だ。
思う通りの反応が返って来ない事に苛立った黒服の一人が、フュリーの美しい顔に
これまでより幾分強めの一撃を加える。
(………!)
顔を大切にする女性の本能で恐怖を感じたフュリーが首を動かし避けようとするも
無駄なあがきに過ぎず、無情にも鞭がフュリーの右頬に叩きつけられ、彼女の美貌に
痛々しい傷が刻まれる。


「おやおや…せっかくの綺麗な顔に傷がつきましたね。見るに忍び無いですよ」
心にも無い事を言いながら椅子から立ち上がった侯爵が近付き歩き、何か小箱を
黒服から受け取り、身動きの出来ぬフュリーに見せ付ける。
「………それは?」
「なあに、単なる傷薬ですよ。この城の城主である私が直々に塗って差し上げ
 ましょう。これも、貴女への想いの深さと受け止めて下されば幸いです」
歯が浮く様な台詞と共に、箱の蓋を開け、中の不気味な色をした粉状の薬を
指で掬い、フュリーの裸身の各所にある傷跡の一つに塗りつけた。

「!?……きゃあぁぁ!!」
その瞬間、焼きつける様な感覚がフュリーを襲い、余りの激痛に耐えられず
声を上げた。
「くくく……、どうですか?濃い塩と各地方の香辛料を調合した傷薬は。
 さぞ効果充分でしょうね。他の傷にも塗ってあげますよ」
侯爵の手が更に他の傷に伸び、量を増して塗りたくる。
「い、嫌ぁ!ああぁぁっ!!」
全身を焼かれる様な痛みに動きすらままならぬ己が身を振りたてて喘ぎ叫ぶ
フュリーの姿に侯爵始め居並ぶ嗜虐者達がほくそ笑み、或は声を上げて嘲笑する。
「実に聞き心地の良い悲鳴で……流石はシレジアの誇る四天馬騎士の生き残り。
 苦労してここに招いた甲斐があったと言う物ですよ。フフフ…」
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