極めて容赦のない描写がメインになりますので、耐性のない方、および好きなキャラが残酷な目に遭うのがつらい方はご遠慮ください。

135 : ◆COP8/RAINs :04/12/13 00:01:50 ID:8ROitkc/

それには足がなかった。
それには腕がなかった。
それには、ただ露出した性器と、乳房、瞼、唇以外を持っていなかった。
髪の毛以外の、体毛を全てそられたその女の姿は、煽動する軟体動物を思わせる。
両瞼は、厚い綿糸で縫い合わされ、角張った輪郭が直線的な鼻梁を際立たせている。
本来ならば、美人であったであろうその面相も縫い合わされた瞼が台無しにしている。
両側に少しとがった小さな耳は、鋭利な刃物で切られたと思しき、痕が残っていた。
時折、うーうーとうめくその唇の奥に、舌は無い。切断されたのだ。
四肢を切断されたその姿は達磨のようだ。首につけられた首輪にはこうかかれている。
「藤堂 志摩子」
 達磨になる前は、一体どんな女性だったのだろう。 ミロのビーナスのように、欠落した美ではない。ただ両腕が無いのである。
 このダルマは、正気を保っているのだろうか。 声をかけてみても、ただうーうーとわめくだけでは、正気を確かめる方法は無い。
 古来、四肢を切断され、舌を切り取られ、瞼を縫い合わされた人間のことを人豚と呼んだのだという。
話すことも、みることもできない歩くことも、物をつかむこともできないその姿が豚そのものだったからだ。まさしく言いえて妙と言う奴だ。
 床に転がされた人豚の前に腰を下ろした。わたしは、この人豚に性的虐待を与えたことはない。生きているオブジェと言うべきだろうか。
切断された腕の断面に移植された皮膚の温かみや、柔らかな乳房の感触が、唯一人豚が生きていることを証明している。
死んでいたら、温かみも感触もないだろう。わたしは、人の温みと言うものを知らない。
人の肌の感触や、息遣い、仕草。わたしと、他の人間とは、一枚の壁を隔てられて接触しているように思う。
この人豚と、わたしとの違いのように。わたしは人豚、ロサ・ギガンティアであったものに触れた。


 「あなたは、この格好になっても幸せなのだろうか。食事をすることも、話すことも、見ることもできない。」
 人豚の切断面近くにジャックがついている。ここに注射針を打ち、栄養を注入する。それは、わたしの仕事だ。
 わたしは、栄養剤の入った点滴袋を取り出し、点滴欠けにかけた。袋の先端に、点滴針を刺し、栄養剤が針から飛び出たことを確かめる。
 ピッと先端から、黄変した栄養剤が孤を描いて飛び出した。針をつかみ、人豚のジャックに刺した。
 「食事代わりに、栄養剤だ。あなたの意見が聞きたいよ。」
 クククッ。それだけ言って笑いがこみあげてくる。
 この体にした張本人はわたしだと言うのに、人豚に意見を聞くだなんて、まるきり阿呆の所業ではないか。
 り返しのつかないものになった藤堂は、 意識のあるうちに何を考えたのだろう。
 クククッ。私はそこで思考を打ち切った。窓の外に次の獲物を見つけたからだ。
 赤茶けた両刃のナタを担ぎ、わたしは次の仕事に取りかかることにした。



 無言電話が目覚ましの代わりを務めることになるなんてな。
 佐藤聖と藤堂志摩子が失踪してからずっと、携帯はコールを続けている。
 出れば切れ、出なければ無限のコールを続ける。
 ピリリイピリリイピリリイピリリイ
 どうかしてしまいそうだ。
 
 「ヤァっ。エイッ。タァッ。ヤアッ」
 早朝の、剣道場の空気が引き締まる。
 振り上げる竹刀が爽快に風を切る。
 ここの所溜め込んでいた鬱憤が、軽い疲労とともに溶けていく。
 こんな朝方にくる生徒はいない。
 ゆえに一人没頭して、竹刀を振ることができる。
 ダンッ。ダンッ。
 床を蹴り、仮想した敵を打つ。打つ。打つ。
 今なら、わたしの前に現れたすべてを倒すことができそうだ。 
 ダンッ。
 踏み込み、打つ。
 ガタン。と。
 道場の入り口で、見ている少女に気づいた。
 福沢祐巳である。
 「あのっ令様。由乃さんが放課後、道場裏で待ってますって。言ってます」
 「そうか。ありがとう」
 「祐巳ちゃん。今度来るときは、ペットにしてあげるよ」
 少女の体を下から上からぬめまわす。
 祐巳はわたしの視線に気づいたのか
 「ヒッ。つっ、次があれば」
 すぐに去っていった。


 放課。道場裏で待つ。
 裏手の雑木林近くのベンチに腰掛け、早二時間。
 来ない。いまだに由乃は来ない。
 曖昧な時間の約束だったが、それでも彼女はここまで待たせたりしない。
 何かあったのだろうか。

 ピリリイ。
 メールだ。
 由乃だろうか?
 受信先は。
 ピリリイ。
 ロサ・ギガンティア―――
 
『死ぬ二人 死ぬ二人
 地獄でまた
 いっしょにね   』

 ピリリイ。
「なに……これは……」
 震えが止まらない。握っていたはずの携帯が手のひらから落ちる。
 ありえない。ありえない。ありえない。
 死ぬ二人。二人のロサ・ギガンティア。佐藤聖と藤堂志摩子?
 ―――いやっ。そんなことあるはずがない。
 わたしにメールを送る意味が無い。
 では。わたしと……誰のこと?
 ザワザワ……
 …………ザワザワ
 雑木林が風に揺られて不気味な葉音を立てる。
 そのざわめきの中、雑木林からかすかな衣擦れの音がした。 
 誰か……いる?
 「よしの……なの?」


 ガサガサ……と。
 そいつは雑木林から現れた。
 「いいえ。よしのは死にました」
 ギラリと。
 赤茶けた両刃のナタが、黄昏の落ちた日差しを受けて光る。
 「ふざけるなっ。よしのが死ぬわけないっ!」
 その剣呑な道具は、ついさっき仕事を終えたみたいに真っ赤に濡れている。
 「うそじゃないわ。もうあの子には。首がないんです」
 ケタケタケタ。少女が狂ったように笑う。
 目出し帽に隠れたその表情をうかがい知ることは出来ない。
 ただそいつが歓喜し、狂気の笑みを浮かべていることだけは簡単に想像できた。
 わたしは剣道場から持ってきた竹刀を構える。
 殺意が……めばえる。
「あなたはだれ」
「ロサ・ギガンティア。でもない。それもハズレ」
 また少女は笑った。
「これ。あなたにあげる」
 そういって少女は私に投げてよこした。
 手首を。
 喉元から吐き気がせりあがってくる。
 わたしはこの手首に見覚えがあった。
「支倉令。あなたも死ぬべきなのよ」
 少女は笑うのをやめた。彼女の持つ剣呑な武器が振り上げられる。斧。
 受け太刀をした竹刀は真っ二つにへし折られた。
 ナタが。肩に。


「グッ。アァァァァァァァッ」 
 灼熱感がこみ上げてくる。肩が溶けてしまったみたいに熱い。
 でも、いまだ殺意は衰えず。
 「殺してやる。殺してやる」
 逃げなければ殺される。
 手負いの女に戦う力はない。
 それでも、わたしは折れた竹刀をそいつに向かって突き入れた。
 「グウウッ」
 体が動かない。
 竹刀は、そいつの太ももを少し裂いただけだった。
 「バカだね」
 そいつは私に刺さったナタをさらに体の深部へと押し入れる。
 「ギッ。アアアアアッ」
 痛みが体を引き裂く。
 ひざが折れる。
 体に突き刺さったナタのせいで、もうたつ事も腕を動かすこともできない。
 わたしは体にどういう変化が起きたのかを知った。
 きっと、もうわたしは立ちあがれない。
「ひぃっ。ひっ、ひぃぃっ。タス……けて……」
ドッ。
傷口から血が吹き上がる。
赤茶けたナタが引き抜かれたのだ。
「ただでは死なせませんわ。両足を切って、その上で、犯して差し上げます」
ナタが大腿に振り下ろされる。


「ギッ。ギャァァァァァッ」
再び激痛が走った。
ジャッ。ジョボボボボッ。
スカートが濡れる。なんて生暖かいんだろう。
「あら?令さま。お漏らしをするなんて、あなたらしくないですね」
グシュッ。ナタが引き抜かれる。
血が噴き出し、泥のような血がドクドクと溢れ出した。
「その血とあなたのおしっこ。自分で吸いあげたら助けてあげますわ」
そいつは斧を振り上げてみせた。
「やめて……おねがい」
耐え切れなかった。
だからわたしは地面を這って、わたしのこぼした失禁後を舌でなめとった。
口の中に砂とアンモニアの味が広がった。
きっとロサ・ギガンティアたちも同じ痛みを受けたのだ。
そう思い至ったとき、ナタは右腕を切り払っていた。
「うぐっ………ひぅぅぅ」
激痛が私の意識をかっさらっていく。 
死ぬのか……わたしは。
「痛いですか?苦しいですか?死にたいですか?でもダメ・・・」
「まだ殺してあげない 」
そいつは唇を歪めて低く笑った。

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