猟奇・鬼畜・グロ・嗜虐・リョナ系総合スレ 保管庫 - 1-756
756 :TWOPAM ◆1wCeMWo5Go :03/12/21 21:43 ID:nW9ysh8q


[プロローグ」

古来から人間は魔法により多くの恩賞と悲劇をもたらされてきた・・・・・・・

長年にわたり続いてきた光魔法と闇魔法の対立は、ここ数十年で急激に悪化の一途をたどり、
10年前、闇魔法陣営が今まで暗黙のルールの上で禁忌となっていた、一般大衆の大量無差別殺戮を
行ったことをきっかけに本格的な武力衝突へと発展、世界を二分する人類史上なき大規模な戦争
「世界魔法大戦」が勃発した。
5年以上に及ぶ長期の争いによって両陣営が致命的な打撃をうけた事により、戦局は現在休戦状態にあるが、
争いの火種は今も消える事は無く、表面下で徐々に膨れあがりながら再び爆発する機会をうかがっている・・・・・・・

冷戦状態に入って3年立つ今、ほとんどの地域が無法地帯同然となったこの世界では
無力な一般市民が生き抜くためには、皮肉にも争いの根源であるはずの魔法の力が不可欠であった・・・・・




うっそうと木が生い茂った森を二人の少女が歩いている。
一人は14,5歳、金髪が混じった薄い茶色の髪を後ろで縛りポニーテールにしている。
服装は上は厚手のシャツ、下はところどころ擦り切れたズボンというラフな格好で、脇には木刀を携えていた。
もう一方は10歳前後と思われる外見おしており、髪は完全な金髪で肩口あたりで切りそろえられている。
少女らしいワンピースの上に上着を羽織り、下は長いスカートを履いている。二人は姉妹だった。
姉妹の家族は大戦が原因で家を焼かれ、離散状態となり、両親とは生き別れとなった。
彼女達は遠縁の親戚を頼ったが、厄介者扱いされ、一日中働かされながらろくに食事も与えてもらえない
悲惨な生活を送るはめとなり、耐え切れなくなった姉妹は1年前その家を飛び出して二人だけで生きてゆく道を選んだ。
年端もいかぬ姉妹がこの時代を生き抜くことができたのは、彼女達に生まれながら高い光魔法の資質があったからである。
二人は両親を探すため世界中をを旅しながら、各地で困窮している人々に力を貸し、その人たちの誠意によって
生活をしてきた。しかし、当然彼女達の生活は決して楽なものでは無かった。
戦争の原因となった魔法を快く思わない人も多く、幾度と無く迫害、差別を受け。
また、過激派の闇魔法団体からリンチを受け死にかけた事もあった。
そして引き受けた仕事内容も多大な危険、苦痛をともなうものも少なくないのだ・・・・・


「ルティア、大丈夫?疲れてない?」
姉のイティアが後ろを歩く妹に話しかけた。
「私は大丈夫・・・・・でも、お姉ちゃんこそ無理しないで。昨日の傷、まだ治ってないでしょ」
妹のルティアは小声で答えた。
「もう治っちゃったよ。ルティアの回復魔法は最近磨きがかかってきたからね。」
姉が嘘を言っている事をルティアはわかっていた。昨晩、イティアの傷を癒している途中で自分の方が体力が尽き、
気を失って倒れてしまったのだ。
その日は彼女も日中多く魔法を使ったため、とうに限界に達していた。
しかし、治療が終わらぬうちに気絶し、負傷した姉に逆にベッドまで運んでもらったことを、ルティアは酷く恥じ、
申し訳なく思っていた。また、そのことが頭によぎる。
(お姉ちゃんがあんなにがんばってるのに・・・・私は・・・・・・)
だが、ルティアのその思考はイティアの大きな声で中断された。
「あっ・・・!!町が見えた。結構大きなトコだね。お父さん達の事・・・なにかわかるかなぁ。」


その町は、今まで二人が訪れた中でもかなり大きく、道が舗装され、大分開けた印象だった。
しかし今の時代、どこの地域でも貧富の差は激しく、現に町を歩く人々の姿を見てもそれは容易に伺えた。
ここで良い暮らしをしている人間はごく一部なのだろう。
「お姉ちゃん、警察署があるよ。ここは治安が良さそうだね。」
殆どの国が司法能力を持たない今、町に警官の姿など見かけなくなってしまったのが現状である。
「平和に越した事はないけど、ここでは私ができるような仕事はないかもね・・・・・あんまり長くはいられないかな?」
イティアはそう言うと小さな財布の中身を寂しそうに見つめた。
「病気や怪我で困ってる人はどこかにいるよ。私、がんばるからお姉ちゃんもたまには休んで。」
ミティアは姉にこれ以上傷ついてほしくなかった、しかしここは巡回中の警察官の姿も見える、
姉が無理をする必要もないだろうと思い安堵していたが・・・・・・


「嫌!やめて!やめてください!!」
突然女性の悲鳴が聞こえた。姉妹が目を向けると、長い黒髪の女性を二人組みの男が襲っていた。
その女性の娘と思われる幼い子供が。片方の男の袖を引っ張り。
「やめて、ママに乱暴しないで!」
と訴えかける、するとその男は女性を放し、幼女に視線を向け、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。
「へっお前も好きだねぇ、この変態め。」
もう片方の男が楽しそうに悪態をつく。襲われたいた女性は表情をより蒼ざめさせた。
「な・・・ダメ!その子には手を出さないで!お願い!私はどうなってもいいから!その子だけはぁ!!」
女性のよりいっそう悲痛な叫びがあたりに響く。

母娘を襲っている二人組みは警察官だった。


(な・・・・なんでお巡りさんが・・・・・・・・・)
ルティアが呆然と立ち尽くしている隣で、イティアは木の鞘から木刀を素早く抜く。
すると剣から、刃の様な衝撃波が生まれ猛スピードで警官に向かって飛んでいった。
「うげっ!!」
幼女の腕をつかもうとしていた警官は強力な衝撃波によって吹っ飛ぶ。。
「なっ・・・・・・。!!」
呆気に取られていたもう一人の警官の間合いにイティアは一瞬で入り込むと、その鼻柱を木刀の柄で殴りつけた。
「が・・・・・・・・・」
男は鼻を押さえることもできずに失神し、そのまま倒れこんだ。
「・・・・ママー!!」
幼女が母親の女性に駆け寄る。
イティアは「ふう、」と息をつき母子に声を掛けようとした。だが、その時ルティアが叫んだ。
「お姉ちゃん後ろ!!!!」
パンッ・・・・・・・
「あうっ・・・・・・・・・!!」
衝撃波を浴びせた方の警官がイティアに向かって発砲したのだ。
銃弾はイティアの右肩に当たり、たちまち彼女の服が赤く染まっていった。
イティアの攻撃魔法はまともに使えば普通の人間は造作なく殺す事が出来る。
それゆえイティアはさっきの攻撃は手加減をしていた。
まして、遠距離の魔法は目標が離れているほど威力が落ちるため一層力加減が難しい。
「気絶・・・・させたと・・・思ったのに・・・・」
「このガキぃ!俺たちにこんな真似しやがってただで済むと思うなぁ!!」
警官は再び銃口をイティアに向けた。しかし、その引き金を引かれるより早くイティアは体を反転させ、
木刀から再び衝撃波を放った。全力でこそなかったものの、今度は加減はできなかった。
警官の手は拳銃もろとも砕け、あたりに血が飛び散り。警官は獣のように絶叫するとそのまま泡を吹いて今度こそ気を失った。


「お姉ちゃん!!」
ルティアがイティアの元に駆け寄った。
銃による負傷は刃物や打撲よりタチが悪い、貫通していればまだマシだが、傷に弾がめり込んだままだと
そのまま回復魔法を使うと体内に銃弾が残ってしまう。
「ごめん・・・・イティア・・・・お願い、自分ではちょっとできないんだ。」
苦しそうに肩で息をしながらうずくまったイティアは妹に言った。
「うん・・・・お姉ちゃん、痛いけど我慢してね・・・・・」
ルティアは懐から小さなナイフを取り出すとイティアの肩の傷口にそっと差し込む。傷口の銃弾をえぐり出すのだ。
「うあぁぁぁっ!!!!」
声を上げないつもりだったが、あまりの激痛にイティアは大声で悲鳴を上げた、ルティアの手が止まる。
「・・・・・大丈夫・・・・ごめん、続けて・・・・」
ルティアはなるべく姉の傷口を広げないように、ナイフを動かし続けた。
銃弾が肩の骨にめり込んでいたためなかなか取り出せない。
「っ・・・・!!うぅ・・・・くぁっ・・・・・うぐぅ・・・・・・」
必死に声を押し殺しても口から苦痛のうめきが漏れてしまう、激痛に自然と体が震え、結果余計に傷口が広がる。
しかし、今本当に痛いのは、ルティアの方だとイティアは思い、ただ苦痛に耐える。
(痛い・・・・・・痛い・・・・・・・痛いぃ・・・・・・・・)


コトン・・・・・・
抉り出した弾が地面に落ちた、しかし、骨に当たった事で弾は砕け、細かい破片がイティアの真っ赤な肉にめり込んでいた。
「・・・・ああぁ・・・お姉ちゃんごめんね・・・・・もうちょっとだけ我慢して・・・・・・」
ルティアは姉の傷口に自分の指を直接突っ込み、銃弾の欠片をかき出し始めた。
「!!!・・・・・・・・・ああっ!!・・・・ひぃっ・・・・ぎぃぃぃ!!」
発狂しそうなほどの激痛がイティアを襲う。一連の騒ぎをかぎつけ集まった野次馬もあまりの光景に目を背ける。
時間にしてわずか3分足らず。しかし姉妹にとっては何時間とも思える地獄が終わった。
「はぁ・・・・・お姉ちゃん終わったよ、ごめんね、私、下手で・・・・・
最後までナイフでできれば良かったんだけど・・・・・怖くて。ホントにごめんなさい。」
「ううん、ありがとう・・・・・じゃあ、あと回復もお願いね・・・・・」
ルティアの手が光り、その光りをイティアの肩にかざすと、出血が止まり、徐々に傷口がふさがってきた。
「ああ・・・・・・楽になってきたよ・・・・ありがとうルティア」
イティアは常々、激痛が和らいで行く事以上の肉体的快感は無いと思っていた。
そして、ルティアの魔法によって傷が癒されるその時が姉妹の絆を最も感じられる時だとも・・・・・・



「あ、あの・・・・大丈夫ですか・・・・・・」
先ほど警官に襲われていた女性が声を掛けてきた。
「うん、もう治ったよ。あなたの方こそ大丈夫?どこも怪我してない?そっちのお嬢ちゃんも」
先ほどの惨状からは想像できないほど明るく平然とイティアは答えた。まだ、多少傷は残っていたが、痛みは無いに等しい。
「は・・・・・はい、・・・あ、ありがとうございました。た・・・・助けていただいて・・・・・」
女性は明らかに怯えていた。例え恩人とはいえ目の前であれほどの光景を見せられては仕方ない。
身を守る術を持たない一般市民にとって、ここまでの魔法を使える姉妹は脅威以外の何者でもないのだ。
周りからも好奇と恐怖の入り混じったどよめきの声が絶えなかった、姉妹が居心地の悪さを感じて立ち去ろうとしたその時。
「お姉ちゃん達、ありがとう。これあげる」
助けた幼女がイティアの手に何か握らせた。それは二つの飴だった。
ただ、砂糖を固めた様ないかにも安っぽいお菓子だったが、母子の着ている服を見ればこれがいかにこの娘にとって大切な
飴なのかは安易に想像できた。
「・・・・・・ありがとう!妹と一緒に食べさせてもらうよ」
イティアは目の前の幼女に劣らぬ無邪気な笑みを浮かべながら言った。
娘のおかげで緊張も薄れたのか、再び母親が話しかけてきた。
「・・・・助けていただいたのに何もお礼できなくてすみません。あの。せめて、服だけでも」
イティアの服は血で真っ赤に染まっていた。ちょっともう人前では着れないだろう。もっともイティアの服は3日ともたない
事が珍しくない。そのたびに報酬ついでに古着を譲ってもらうのだが。この母子から服をもらうのは少々気がひけた。
「お礼ならもうこの子から貰いましたよ。これは私が勝手にやった事だから気にしないで」
「あ、は・・・・はい。あの・・・・早くここから立ち去られた方がよろしいです。
この町で警察の人といざこざを起こすと面倒な事になります。本当に私達のせいで申し訳ありません」
「気にしないでって言ったでしょ。・・・・・そんじゃ行こうかルティア。じゃあね、お嬢ちゃん」
「バイバイお姉ちゃん!またねーーー!!」
幼女は元気に手を振り、イティアもそれに応えた。


「またね・・・・・か・・・・・」
先ほどもらった飴を口の中で転がしながらイティアはぽつりと言った。
「お姉ちゃん、ホントに早くこの町出た方がいいよ・・・・警察の人が私達のコト探してるかもよ・・・・」
ルティアはまだ飴を手に握ったまま不安そうに姉に言った。
「まだここでお父さん達の事なんにも調べてないじゃん」
「仕方ないよ。またいつでも来れるじゃない。こんなコトになったらどの道探せないよ」
「心配性だなぁ。ヤダよ。痛い目にあっただけで出て行くんじゃ馬鹿みたいじゃない。・・・・・飴はもらったけどね」
「でも・・・・・・」
ルティアが言いかけた時、背後から男の声がした。


「なぁ、アンタ達・・・・・・」
「ひっ・・・・・・」
いつ警官に見つかるかと怯えていたルティアは思わず声を上げたが、振り返るとそこにいたのは
物静かな、一般人と思われる30半ばの男だった。
「あぁ、脅かしてすまない、・・・さっきの騒ぎを見てたんだ・・・・・君達は魔法が使えるんだね。
なぁ、唐突ですまないけど頼みがあるんだが・・・・」
男がいきなり話を切り出した。
「何?私達にできること?」
「子供が病気なんだ・・・・・それで薬剤師に頼んでおいた薬の代金を払いに行くんだが、その場所がこの町で一番治安が悪い
スラム街なんでまとまった金を持って歩くのは危険でね。いっしょについてきてくれないか?お礼はするから」
「いいですよ」
イティアは即答した。
「ちょっ・・・・お姉ちゃん・・・」
「困ってる人は放って置けないよ」
「ありがとう、僕の名前はアズだ。よろしく。じゃあさっそく行こう」
アズと名乗った男の後に姉妹はついて行った・・・・・・・


3人は昼間でも暗い路地裏を歩いていた。道には腐臭やカビの臭いが漂い、すれ違う人間はみな浮浪者の風貌であった。
今の時代においてはこんな町の方が普通である。姉妹はここよりはるかに酷いスラム街やゴーストタウン化している廃墟にも
訪れた。全体が疫病にかかった村を訪れ、危うく命を落としかけた事もあった。
ルティアの治療魔法がなければ本当に命をおとしていたかもしれない。
確かにここより酷い所はいくらでも見てきたが、しかし、姉妹は今までにないほど歩いていて落ち着かない気分になった。
「お姉ちゃん・・・・・」
ルティアが姉の服をギュッと掴む。
「大丈夫・・・・アズさん、まだなの・・・・?」
「もう着く・・・・あそこだ」
東洋の文字が使われていたため姉妹は何と書いてあるのかはわからないが。古びた看板がかかった小さな店があった。
「よかった、何事もなかった・・・・・」
アズがほっと胸を撫で下ろす。しかし、その次の瞬間。
「・・・・・・待てよ!」


突然、乱暴な男の声が響いた。声の方を見るとそこには長身の男が立っていた、目の下には隈ができ、明らかに危ない風貌だ。
「アンタ確か数日前もその店から出てきたよな。なんか薬を頼んで、そいつを取りに来たのか?
っつー事は当然金を持ってきてるんだよな?そこのオヤジはがめついからなぁ」
いつの間にか左右の路地からその男の仲間と思われる連中がゾロゾロ出てきた。
「やっぱりね。ずっとジロジロ見られてる気がしてたんだ。
ルティアとアズさんは早く中に入って、ここは私がなんとかするから」
イティアは大した同様も見せずにそう言った。
「だ、大丈夫なのかい・・・・?」
アズが不安そう問う。いくら魔法が使えると言っても、まだ年端もいかない少女だ。
うろたえるアズをルティアうながす。
「私達がいても邪魔になるだけです。行きましょう。お姉ちゃん気をつけて・・・・・」
「おっと!どこ行くんだよ。」
瞼と舌にピアスをした男が二人の行く手を阻もうとする。
ゴッ!!
しかし、イティアの木刀を脳天に落とされ、男はそのまま倒れこんだ。
「やりやがったなこの糞女ァ!!!」
途端に怒声が巻き起こり数人の男が一斉にイティアに襲い掛かった。
「ルティア、速く行って!!」
ルティアはアズと共に店の中に入っていった・・・・


「ぐえあっ!!!」
イティアに襲い掛かった男達はみな、あっさりはじき飛ばされた。
「もう怪我したくなかったらやめなよ。」
静かな、しかし強い口調でイティアは地面に倒れた男達を見下ろす。
「こ・・・・この女・・・・戦闘魔法の使い手だ・・・・・」
力の差を見せ付けられた男達はみな戦意を喪失したように見えた。しかし。
「てめぇら、たかが女のガキ一匹になにビビッてんだ?行けよ。」
最初に声をかけてきた一団のリーダー格と思われる先ほどの長身の男が周りの仲間に命令した。
「で・・・でもあの女・・・」
「あぁ?あいつにやられるか俺に殺されるか選ぶか?」
男がそう言って睨み付けるとあたりにいた男は震え上がりやけくそになったのか
「うわあああーーーー!」
と獣の様に絶叫しながらイティアに向かっていった。
イティアはとっさに木刀を横なぎにする。すると木刀から光が放たれ、4人の男が一度に吹き飛ばされる。
それと同時にイティアの視界は赤く染まった。
「い・・・・・・・・ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁ・・・・・・・・!!!!」
イティアの右目には深々と折りたたみナイフが突き刺さっていた。
次の瞬間胸に激しい衝撃を受け、一瞬呼吸が止まる。そしてイティアの体は宙を舞う。
「くくく・・・・魔法が使えるのはお前だけじゃないぜ・・・・・・?」
リーダー格の男はニヤリと笑うと自分の足元でもがく少女を冷たく見下ろした。


何が起こったのか理解できなかった。ただ、胸の衝撃により呼吸困難に陥っている事と、
右目に気を失いそうになるほどの激痛が走っている事から、自分に好ましくない事態が起こっている事だけは疑いようが無かった。
とりあえず立たねば。そして無事な目で相手を見据えて戦わねばならない。しかし、残った左目も涙が溢れまともに見えない。
幸い木刀は手から離さずにすんだ・・・・・
「あぐぅっ・・・・!!」
しかし、すぐさま木刀を持った右手首を思い切り踏みつけられた。ミシッと骨が軋む感覚が痛みとともに伝わってくる。
ここで木刀から手を離すわけにはいかない。イティアは半分麻痺した右手の握力を強める。
そして、左手で自分の右目に刺さったナイフを引き抜いた。抜いた瞬間どろりとした感触の抵抗が残る。
血よりももっと固形物に近い液体の感触だ。以前魚のカブト焼きを食べた時、口の中で魚の目玉を潰した時流れ出てきた
液体が頭によぎり、吐き気がしてきたが同時に凄まじい痛みでかき消された。
「うああああぁぁぁぁっっ!!!」
痛みを紛らわすため、そして、渾身の力を込めるためイティアは叫び声を上げながらナイフを振り下ろした。
自分の右腕を踏み潰している男の足めがけて。
ザシュッ・・・・・・!!


「・・・・ひぎぃいっ!・・・・・うあっ・・・・・な・・・・なんでぇ・・・・?」
振り下ろしたナイフは相手の足ではなく、自身の右の二の腕に突き刺さっていた。
もちろん、イティア自身の意思ではない。痛みのせいで手元が狂ったのだろうか?
イティアの疑問は次の瞬間さらに増幅された激痛によって解決された。
「うぎゃっ・・・・ぎぃ・・・・があぁっ・・・・・ひっ・・・・うあああぁ・・・・・!!!」
右腕に刺さったナイフが狂ったように暴れて傷口をかき回す。
傍目にはイティアが自分で傷口を広げている様にしか見えないが実際に動いているのは彼女の左手ではなく、
手にしたナイフだった。イティアは理解した。この男は魔法でナイフを操る事が出来るのだ。
このままでは右腕をもっていかれかねない。イティアは自らの魔法をナイフに送り込み内部から破壊させた。
この方法はできれば避けたかった。分散したナイフの残骸と、放出された自分の魔法によって腕の傷口はさらに悪化した。
「ぐううぅぅぅ・・・・・・」
ようやく右手から男の足が上げられる。しかし、すぐさま今度は木刀を握っていた拳を思い切り蹴られる。痛みは無かった。
二の腕と右目の傷の痛みでそれどころではなかったからだ。しかし、木刀を失ったという事実はイティアを絶望の淵に追い込んだ。
(こ・・・・殺される・・・・・・!!)


「お前ら、後は適当に遊べ。ただし殺さず後で連れて来い。あと、店に入った奴らも女の方は殺すな。」
リーダー格の男はそう言った。手下の男達はすでにヨロヨロとしながらも立ち上がっていた。まだ、無傷なのも2,3人いる。
「ヘイ、兄貴、流石でした。お疲れ様です。」
「さてと、さっきやられた傷のお返しをしなくちゃあな。」
「ヘイ!さっきの威勢はどうした姉ちゃん、オラ!立ちな!」
一人の男がイティアの髪を乱暴に掴み、むりやり立たせると腹に拳をめり込ませてきた。
「うぐっ!」
一瞬息が止まり、イティアがうめく。男達は代わる代わるイティアを殴り、イティアはされるがままになっていた。
しかし、これは彼女の演技であった。先ほどの男がこの場を離れるまで反撃に出るのは危険だと考えたからだ。
それに、この程度の攻撃なら休んでいた方がむしろ体力の回復になる。
だが、殴られる事には耐えられても男達が服を脱がそうとしてきた事には耐えられなかった。
ぐしゃっ・・・・・
自分の胸に手を伸ばしてきた男の顔面をイティアは左手で思い切り殴りつけてしまった。
男は歯が何本も歯茎ごと折れ、うめき声すらあげすに気絶した。
イティアは続いて、そばにいたもう一人の男の股間を蹴り上げた。
残る敵は8人・・・・・・


「このガキィ!!」
殴りかかってきた男のパンチをあっさり左手で受け止めると、そのまま、敵の集団に向かって投げる。
投げた男の手首か肩が脱臼しただろう事をその時、感触で悟った。
飛んでくる仲間を慌ててかわす男達、イティアはその中で自分の木刀を持っている男を目標に定めていた。
イティアの魔法は身体能力を上げる以外は基本的に木刀を媒介とする。所持しているか否かで戦闘能力は段違いだ。
イティアは男の持っている木刀を掴んだ、しかし、この男の力は思ったより強く、左手一本ではなかなか奪えない。
仕方なく、激しい痛みにうずく右手を使おうとする。その瞬間、
「このバケモノが!!」
右側頭部に衝撃が走る。男達の一人に鉄パイプで思い切り殴られたようだ。死角だったため反応に遅れ、
直撃を喰らってしまった。流石にこれは効いた。
「あぐっ・・・・・」
痛みとともにめまいがし、イティアはたまらず膝をつく。男達はそれを期に一斉に殴りかかって来た。
先ほどとは違い、完全に本気だ。イティアの背中や頭部を手にした鉄パイプやスパナで滅多打ちにする。
「うっ・・・・あううぅ・・・・・・くぁ・・・・」
イティアの口から苦痛の声が漏れる。
「いい加減、手を離しやがれ!!」
袋叩きにされながらも木刀から手を離さないイティアに木刀を握っていた男が怒鳴る。だが、その時木刀が光りだした。
慌てて男は手を離すがもう遅い。木刀から放たれた衝撃で男は吹っ飛ぶ。
ようやくイティアは木刀を取り戻した。そして、最後の力を振り絞り木刀を振り回した。
「ぎゃあっ」
「ぐわっ」
「たわばっ」
たったの3振りで周りの敵は全滅した・・・・・・・・・・・・・・・
そして、イティアもその場に倒れこんだ。

(くあぁ・・・・痛い・・・・痛いよ・・・・・・助けて・・・・助けてルティア・・・・・・・)


ルティアは店の中でずっと聴いていた。外から聞こえる騒動を。姉の悲鳴を。
だが何もしなかった。何も出来なかった。自分が出て行った所で何も出来ない。むしろ姉の足枷となるだけだ。
そんなことはここ数年でとうに理解している。だから、ただ終わるのを祈るように待っていた。
しかし、ルティアはその何も出来ない自分の弱さ自身が罪であると感じていた。

外から聞こえていた騒動が収まと、ルティアは急いで店の入り口まで戻る。どの様な結果にしろ
姉は無事ではないだろう。恐る恐る外の様子を伺うと男達が何人も倒れていた。そして、その中に姉の姿を見つけた。
「お・・・・・お姉ちゃん!!!」
血まみれのイティアの姿を見たルティアは急いで姉のもとに駆け寄る。
イティアは顔の右半分が血に染まり、右腕は肉が裂かれ骨が露出していた。
脳内分泌によって抑制されていた痛覚が戦闘が終わって一気に高まり、イティアを容赦なき生き地獄に叩き落していた。
「あぅう・・・・かはぁ・・・・・痛いぃ・・・・・・うぁぁ・・・・・あぁ・・・」
自分の作った血溜りの中を呻きながらもがく姉にルティアはすぐさま全力で回復魔法を送り込む。
「お姉ちゃん、もう大丈夫だよ・・・・!ありがとう・・・・守ってくれて!」
イティアの全身を蝕んでいて痛みが急激に和らいできた。快楽に表情が緩む。
30秒程すると無残に裂かれていた右腕の筋肉と皮膚はわずかな傷跡を残して完全に塞がった。


「ふうぅ・・・・・・もう平気。ありがとうルティア・・・・」
イティアは起き上がると顔にこびりついた血をごしごしと拭うと左目を閉じ右目を数回しぱしぱと瞬きさせた。
まだ少しぼやけているがしばらくすれば見える様になるだろう。右腕を軽く回してみる。こちらも問題はない。
「だ・・・・・大丈夫かい?」
店から出てきたアズが声を掛けてきた。
「うん、もう平気。薬はもらえたんですか?」
「それが・・・・もらえなかった・・・・と言うより、最初から薬なんか無かったんだよ・・・・!」
アズは最初は静かに終わりの方は吐き捨てる様に言った。
「えっ!それどう言うこと!?」
イティアが驚いたように問いかけると、アズは近くに倒れている先ほどイティアと戦った一人の男を見下ろしながら言った。
「僕にここの薬屋を紹介したのはこの男だ・・・・最初からこいつらとここの薬剤師はグルだったんだよ。
薬を渡すと言って、金を持ってきた客をこいつらが襲うって寸法だ。僕はバカだ、少し考えればここじゃ当たり前の事なのに。」
アズの言葉を聞いてイティアは唖然とした、そして、怒りがこみ上げてきた。
自分が茶番に巻き込まれた事ももちろんだが、病気の子供を助けようとしている親を騙して
金を巻き上げるなど絶対に許せなかった。
「ここの店主ぶちのめしてきますか?」
「いや、もういいんだ・・・・それより、すまなかったね。君達をこんなことに巻き込んでしまって。これは報酬だ。」
アズはイティアに金の入った袋を渡してきた、おそらく薬代だったのだろう。結構な額だった。
「・・・・結局薬が手に入らなかったんなら私達は何もしてないも同じだし、こんなにはもらえませんよ。
これは、お子さんに他に治療法が見つかった時のためにとっといてください。」
イティアはそう言って袋を返そうとした。


「待って!私なら、お子さんの病気、治せるかもしれません。」
今まで沈黙していたルティアが突然叫ぶ様に言った。
「・・・・ホントなのかい!君は病気も治せるのか!?」
アズの表情が驚愕と歓喜が入り混じったものとなった。反面、イティアの表情はやや不安気に曇る。
イティアは、病気の治療魔法をあまりルティアに使わせたくはなかった。怪我と違い多様な症状を持つ病気は
ひとくくりにはできない。病気によってさまざまな副作用が術者のルティアに代償としてふりかかる。
以前、姉妹が疫病にかかった時に魔法で治療を行ったルティアは両眼を数日間失明してしまった。
幸いにも今は後遺症も無いが、その時はもう一生ルティアの目は見えないのだろうと思った。
それ以来、未知の病気への魔法による治療は極力避けるようにしてきたのだ。
話から察するにアズの子供の病気はかなり深刻かつ、特殊なものと思われた。自分はともかく妹に危険が及ぶのは
極力避けたいイティアだったが、今更目の前にいる一人の父親に向かって断る事は彼女には出来なかった。
何より、妹自身が危険を承知で決心した事だ。イティアは自分も決心を固める事にし、言った。
「あの、でも先にお願いがあります。この子は今日すでに二度、私のそう軽くない負傷を治してます。
お子さんの症状が未知な以上、これ以上魔法を使わせるのは妹も危険です。だから今日一晩はお宅で休ませてもらえませんか?」
アズはひざまずいて二人の手を握りながら言った。
「ああ、もちろんだ、望みがあったら何でも言ってくれ。だから、頼む!娘を助けてくれ!」
こうして姉妹はアズの家に向かう事となった。


「ここだ・・・・・さあ入ってくれ・・・」
アズの家は先ほどの路地裏と対照的な明るい通りに面していた。
彼は姉妹を椅子に座らせ、茶を出すと
「娘の様子を見てくるよ、妻がもういないもんで一人で置いてきてしまって心配なんだ。」
と言い。家の奥に行こうとした。
「あ・・・・私達も行きます・・・・」
アズの子供の症状を知りたかった二人は後に続く。
「帰ったよマリー・・・・入るよ・・・・」
その部屋のドアを開けると、異臭が漂ってきた。姉妹の表情がこわばむ。
そして、ベッドの上にいた「それ」を見たとき、二人は思わず息を呑んだ。
「な・・・・・なんで・・・・病院につれていかないんです・・・・・・・?」
ルティアがあと少しで逆流した胃液を吐き出しそうになりながら言う。
おそらく少女と思われるマリーと呼ばれたその人間の顔面は皮膚がただれ、変色し、
目も鼻も口もどこにあるのかわからない様な常態だった。
これでは瞼がふさがれ目が見えず、しゃべる事もできず呼吸すら困難な状態であろう。
「連れて行ったさ・・・・・・でも、ここだって今は医者も病院のベッドも足りない。
治る見込みの無い患者はいつまでも置いておけないと言われたんだよ!!」
「そんな・・・・・」


「う・・・・うあ・・・・・・あぁ・・・・・・」
ベッドの上の少女が悲痛なうめき声をあげ、3人の方に向かって顔面以上に皮膚がただれ、
腫瘍に覆われたもはやその形をなしていない手をゆっくり伸ばしてきた。
何かを必死に訴えるような苦痛に満ちたその声が部屋を満たす。
イティアが耐え切れず目を逸らそうとした時、今まで隣で震えていたルティアがベッドの上の少女の方に歩み寄った。
「・・・・・・辛かったでしょう。今助けてあげるから・・・・」
ルティアはベッドの上の少女に手をかざすと、全力で魔法を注ぎ込んだ。
「何してるの!ダメだよルティア!あなたの体の方が・・・・・!」
「お姉ちゃんだってそうじゃない!!」
妹を止めようとしたイティアは、普段のおとなしい妹とはかけ離れた強い口調に驚き、足を止めた。


「お姉ちゃんは、いつだって自分の事は忘れて、目の前の苦しんでる人を助けるじゃない!
私を守るためにいつも傷だらけになってくれるじゃない!
・・・・・・・私だって、今、目の前で苦しんでるこの子を明日まで放っておくことなんてできない!
わたしは、お姉ちゃんの妹だもの!」
ルティアは叫んだ、今まで胸の奥にあった言葉をぶちまけた。イティアも妹の気持ちを理解し、見守ることに決めた。
しかし、ただでさえ残り少なかったルティアの体力は急激に奪われていく。
かざした両手はまるでそれぞれの手に子供が一人ずつぶら下がっているかのように重くなり、
まるで何日も不眠不休で重労働したかのような異常なまでの疲労と睡魔が襲ってきた。
このままでは昨日のように気を失ってしまう。ルティアは舌を噛み、意識を留めようとするがその程度では焼け石に水だった。
「あぁっ・・・・・・!!痛ぅぅぅ・・・・・・・」
だがその時、幸か不幸かルティアの意識は突如襲ってきた激しい頭痛によって繋ぎ止められた。
「ルティア!!」
悲鳴を上げた妹にイティアは駆け寄り、その体を支える。


ルティアの体は小刻みに震え、服の上からでも凄まじい熱を放っている事が解った。
「大丈夫・・・・だよ、お姉ちゃん・・・・・」
そうは言ったものの、頭の痛みはさらに増していく、頭が内側から破裂するような激痛に眼球が飛び出すのではないかとすら思えた。
鼓膜がやぶれそうな痛みに両耳が悲鳴をあげ、全ての歯が、いっそへし折った方がマシかと思えるほどに痛み出す。
「ぐ・・・・・ぎいいいぃぃ・・・・・あ・・・・・がぁあ・・・・・・・」
どんなに歯を食いしばっても耐え難い苦痛にうめき声が漏れる。
「ルティア!もうやめて!本当に死んじゃう!」
「あと少し・・・・・・あと少しなの・・・・・」
そう言いながら、なおもルティアは治療を続けた。
ようやく魔法の放出が終わすと、ルティアは力尽き、自身の体を支えられなくなって、姉の体にもたれながらその場に崩れ落ちる。
そして全身を疲労と苦痛に蝕まれながらも、達成感に満ちた笑みを姉にむかって浮かべた。
「お・・・・姉ちゃん・・・・私・・・・やったよ・・・・・」
「うん・・・・・!!ホントに・・・・ホントによく頑張ったね!・・・・・ルティア・・・・・」
イティアは涙を浮かべながら妹をきつくその胸に抱きしめた。


「パ・・・・・パ・・・・・」
ベッドの上の少女が信じられないという表情で起き上がった、今まで開く事の出来なかった瞳で
自分の父親と、腫瘍に覆われ、満足に動かなかったはずの自分の両手を交互に見比べる。
長い闘病の影響でやや頬がこけているものの、先ほどまでとは似ても似つかない愛らしい顔がそこにあった。
「あ・・・・・ああ・・・・・!!!」
アズの瞳から涙が溢れた、そして彼も自分の娘を抱きしめ、子供の様に泣いた。
「ああマリー!良かった、本当に良かった!・・・・・・」
「パパ、どうして?なんで私・・・・?」
「そうだ!ありがとう!君たちには何とお礼したらいいか・・・・・・大丈夫か!?」
病人は逆転していた、ルティアは「はぁはぁ」と荒い息で姉の腕の中で苦しんでいる。
「向こうの部屋のベッドに運ぼう。・・・・・この人がマリーの病気を治してくれたんだ。」
父親にそう言われた病み上がりの少女は、ベッドから這い出て
「ありがとう、ありがとう!!」
と泣きながらルティアに礼を言い続ける。
ルティアは少女にわずかに微笑みかけるとそのまま意識を失った。

その時、家の外の通りでは、警官と思われる男達が聞き込みをしていた。
「二人組の女を見なかったか?先ほど向こうの通りで傷害事件を起こした。
二人ともまだ子供だ、片方は15,6歳、もう一方は10歳前後。服装は・・・・・・・・・・・」


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