猟奇・鬼畜・グロ・嗜虐・リョナ系総合スレ 保管庫 - 11-647
 彼と出会ったのは高校時代だった。
切っ掛けが何だったのか、今となってはもう覚えていないと彼には言ったが、忘れることなど出来ない。
当時の私は、今思うと結構イヤな子だった。
我侭ばかり言って、周囲を振り回してばかりな、イヤな子。
でも、彼は私の我侭を嫌な顔ひとつしないで聞いてくれた。
彼は私に惚れているから我侭を聞くのだと自惚れていた私が、いつしか、惹かれて行き、
意外にも私から告白して、私達は恋人として付き合うようになった。

 当初、私の『告白』という我侭に彼が付き合ってくれているだけなのかも…と不安になったりもしたけれど、それは杞憂だった。
それからの高校生活は、ずっと彼と一緒だった。
放課後の部室(部長とマネージャーという権限が有効に作用した)でした初めてのキスも、
その先の、色々な言えない様なことも、時には喧嘩もしたけれど、私達はいつも一緒だった。

 彼が遠方の大学に入ったことによる遠距離恋愛も難なく乗り越えて、郷里に戻った彼と私は就職から程なくして同棲を始めた。
私が、ずっと彼と居たくて我侭を言って、押し掛け女房のように、同棲が始まった。

 同棲を始めて1年が経つ前に、私達は結婚した。
私は一分でも一秒でも早く、彼の奥さんになりたかった、妻になりたかった。
彼は私の『我侭』を、優しく聞いてくれ、改めてプロポーズしてくれて、私達は、夫と妻になった。

―――今にして思えば、私は無意識に感じていたのかもしれない。

 結婚を機に退職した私は、夫と2人きりの幸せに満ちた夫婦生活を送った。
最初の結婚記念日を過ぎてしばらくして、私の中である思いが生まれた。
「夫の子を産みたい」という、妻として、女として自然な、欲求が、私の中で次第に大きくなっていった。
2度目の結婚記念日の夜、私は夫に、赤ちゃんが欲しいと、告げた。
まだ、もう少し2人きりの生活を楽しもう―――
夫はそう言って渋ってみせたが、私は『我侭』を押し通した。
実のところは、ベッドの上で初めは拗ねてみせ、涙ぐみ、最後は赤ちゃんが欲しいと泣きじゃくるまでに至った私を、
夫が抱きしめて、その勢いのままにコトに及んだ結果ではあったが。

 その夜、夫が私の中で果てた瞬間、私は赤ちゃんが出来たことを直感した。
理由を聞かれても分からない、ただ、私の中に、夫と私の子が生まれた事を、感じることが出来た。
子宮に注がれた熱を感じつつ、私の胸に顔を埋めた夫を抱きしめていた私は、
例えようも無く幸せなはずなのに、悲しくて寂しくて涙を流して、
それを知られぬよう夫を抱きしめる腕に力を込めていた。

 その夜の直感は当たっていた。
妊娠検査薬の反応が出てすぐに産婦人科を受診した私に、医師は妊娠していることを告げた。
帰宅した夫はそれを聞いて私を抱きしめて喜んでくれた。
まだ何ら変化はない私のお腹を優しく撫でながら私にキスして、一緒に喜んでくれた。
私のお腹を撫でる彼の手に、私も手を重ねて彼に愛されている喜びと幸せで胸がいっぱいになった。

 初めての妊婦検診は夫が帯同してくれた。
私より夫の方が緊張していて、病院内でも落ち着きがなくて、つい笑ってしまって怒られたりもした。
「すぐに終わるから、いい子にしててね」
まるで、お腹の子の他にもう1人、子供が居るような気分になりながら、夫に告げて私は検診を受けた。

 検診が終わって、病室から見えた不安げな夫の姿に笑みが浮かび、そして愛されていることに幸せを感じもした。
併せて受けた検査の結果は翌週の検診で、と告げると夫はそれにも着いてくると即答し、ついつい笑ってしまったりもした。

 翌週、検査結果が出た。
医師は病室に夫を呼び、私達に告げた。

「今回の妊娠は諦めてください。」

 医師の説明を、私は妙に冷静に聞いた。
曰く、まだ自覚症状は出ていないが胸に病巣が存在する。
進行が早ければ、出産はおろか妊娠中に死に至る可能性が高い。
中絶し、治療を開始すれば延命の可能性は高まる。
―――延命の可能性

「完治しますか……完治したら、また妊娠できますか……」

私の問いに医師は、真摯に答えてくれた。

曰く、再発が多く、再度の妊娠は望みが薄いこと。
もし運よく完治しても身体への負担は軽いはずもなく妊娠は困難であろうこと。

「考え……させて下さい…」

出来るだけ早く結論を、という医師の言葉を聞きながら、実のところ私の意志は決まっていた。
夫との子を産みたい、ただ、それだけだった。

 家について玄関の戸が閉まると同時、夫は私を抱きしめてくれた。
「嫌だ…俺は、どちらも失いたく…ない…」
私を抱いたまま、夫が搾り出した言葉に私は顔を上げて夫を見上げる。
「うん、でも、私…」
私を見つめて、目を真っ赤にした夫が言葉を遮って。
「あぁ、判ってる。 俺も…産んでほしい…」
私も夫を見つめたまま、応える。
「私、ちゃんと赤ちゃん産んで、抱っこして、おっぱいあげるから……頑張るから……ね」

 考えることなど無かった。
私達、夫婦の結論は初めから一つだったのだから。

 私は出産まで入院生活を送ることになった。
妻として家庭の事を何もしてあげられないことに罪悪感を感じたものの夫は
「無事に赤ちゃんを産むことだけを考えよう」
と、私の気持ちを察して労わってくれた。

 妊娠の経過は順調だった。
特殊な事情から、私は個室に入れてもらえた為、週末には夫と2人きりで産まれて来る子の事を話し合ったり、
その先のこと―――私が死んだ後のことなど―――まで大切な時間を過ごすことが出来た。

 安定期に入った頃には、2人きりの病室であるとはいえ少々、いや、かなり大胆な行為にも及んだりした。
手や口でするだけのこともあれば、ベッドの上で愛し合うことも幾度かあった。
もちろん、お腹の子に配慮して、いつもよりずっとずっと静かな、ゆったりとした行為だったが、
私も夫もお互いに愛を満たしあった。
 名前を考えたのもこの頃だった。
出産後に考える時間があるとは限らなかったから、性別を調べ(男の子だった)名前を決めた。

 順調な経過の一方で、病魔もまた、私を着実に蝕んでいた。
病巣は拡大し続けていたし、胸の痛みが増し、呼吸が苦しくなることも増えていった。
胸の痛みは、時に意識が遠のき、痛みによって意識が呼び戻されるような激痛もあったが、
鎮痛剤は使えなかった。
それほどまでの痛みを抑える、強い薬は副作用も強いため、妊婦に投与できる性質のものではなかった。
私は、ある時は一人で、ある時は夫に手を握ってもらったまま、痛みに耐え、赤ちゃんを育み続けた。

 9ヶ月目から臨月に掛けて、私は寝たきりに近い状態だった。
病魔は私の胸を冒し続けていたが、医師も驚くほどに私は余裕を見せていた。
「母の強さですよ」
なんて言ってみせることすらしたが、内心は不安でいっぱいだった。
このまま何事も無く出産を終え、叶うならば育児を……と思って、それは欲張りな願いだと思いなおして泣いたりもした。

 病室で一人で居る間、私は、遺書を書いた。
夫への感謝、死後の処置についてのお願いや、赤ちゃんへの手紙は書いても書いても足りなかった。
そして、沢山の我侭を言い続けてきた私の、最後の我侭。
とても口に出しては言えないそれを、ようやく書き終えたのは予定日の2週間。
その日のお昼前のことだった。

 陣痛が訪れた。
まるで、赤ちゃんが私を気遣って早く産まれようとしてくれたかのように
予定日より早く訪れた出産は、あっけなく終わった。
初産ながら、陣痛も分娩も滞りなく進み、私は分娩室で夫に見守られながら、赤ちゃんを産んだ。
私の手を握る夫の手に力が入り、産声が聞こえ……

「……ンぁ………」
目を覚ました時、私はいつもの病室のベッドに横たわっていた。
「ご気分悪くありませんか? もうすぐ御主人と赤ちゃんが来ますからね」
ベッドの脇に立っていた看護婦さんが気付いて教えてくれる。
私は分娩室に入る前と同じブラウスと、下は……出産直後だからだろうか、あまり感覚が無いが
シーツに覆われた下は下着だけのようでちょっと居心地の悪さを感じていたが、不思議と胸の痛みも息苦しさも消えていた。
「お身体、起こしますね。」
看護婦さんがベッドを起こして私の上体を起こしてくれたのは、赤ちゃんを抱きやすいようにという気遣いだろう。

 ノックの音が響き、看護婦さんが開いたドアから夫と、そして、夫の腕に抱かれた赤ちゃんがやってきた。
「あぁ……」
言葉にならない思いが胸いっぱいに広がるのを感じながら、私は夫から赤ちゃんを受け取り胸に抱いて頬を寄せた。
私の手の中の、小さな命から暖かい熱を感じて、私は夫と目を合わせて微笑んだ。
と、赤ちゃんの小さな小さな手が私の胸を弄るように動いた。
「ん、ちょっと待ってね、今、おっぱいあげるから…」
赤ちゃんを夫に返し、ブラウスのボタンを外そうとして
「あ……あれ……指、震え………」
それが何なのか、私は判りたくなかったから、恥ずかしいフリをして夫に頼む。
「ごめん、ボタン、外してくれる」
夫が、赤ちゃんをベビーベッド(ベッドのそばにあったのに気付かなかった)に寝かせ、
ブラウスのボタンを外してくれる。
「うん、全部外しちゃって、そう…ブラも、そう、左だけ」
夫に全てお願いして、授乳用のブラのホックも外してもらうと、ブラのカップ部分が捲れて乳房が露になった。
ブラウスとブラを肌蹴て露になった左胸、その乳頭を赤ちゃんが口に含み、強く吸った。
「あっ………はぁ………ハァッ……ハァッ……」
赤ちゃんにお乳を吸われるのを夫に見守られながら、私は息が荒くなるの懸命に抑えようとしていた。

 赤ちゃんが、満足げに乳頭から口を離して、ちいさく息を吐いた。
「もう……いいの?……」
愛おしかった、ずっと抱いていたかった、もっとお乳を飲ませてあげたかった、もっともっと…
だが、私はもう赤ちゃんを抱いていることが困難になりつつあった。
夫が私の手から赤ちゃんを受け取り、ベビーベッドを私の近くまで寄せてくれた。

 夫が私の手を握ってくれた。
もう、誤魔化せなかった。
神様がくれた猶予はもう尽きたのだ。

―――死ぬんだ、私

 苦痛は感じなかった。
ただ、夫の手がとてもとても熱く感じられた。
「約束……守れ……たよ……ね……」
―――無事に赤ちゃんを産んで、抱っこして、おっぱいをあげて…
「あなたの……子を………産めて……わた…し……しあわせ……」

ごめんなさいとは言わないと決めていた。
「ありがとう、産んでくれて」
夫が、握る手に力を込めて言ってくれた。
「……ありがとう……産ませてくれ……て……」
隣で私を見上げてくる赤ちゃんにも
「ありが……と……産まれて……きて……くれて………」

 夫の手を握り返そうとして、もう、力がほとんど入らなかった。
「だい……す…き………」
夫に微笑を向けて、私は、死んだ。

 私の意識は、身体から離れ、病室を上から見下ろしていた。
ベッドに横たわっていた私の身体は夫に抱かれ、名を呼ばれながら揺さぶられていた。

 医師と看護婦が部屋に飛び込んできて、私の脈を取り、夫に何か確認していた。
私はすぐに思い至った。

 蘇生措置は行わないと、私は予め決めてあった。
延命の可能性の無い患者への蘇生措置は、結果的に患者を長く苦しめるだけになる。
私が、死を迎えた時、蘇生措置を行うか否かという選択で夫を苦しめたくは無かったから、
事前に私はそれを決め、医師にも夫にも伝えてあった。

 だが、実際にその瞬間を迎えた夫は、逡巡の後に医師に願い出ていた。

「蘇生措置を…お願いします…」

夫がその一瞬で何を迷い、そして決断したのか、私には痛いほど伝わってきた。
死の苦しみを長引かせることになると、見て、理解して、それでいてなお、
妻に生きて欲しいと願ってくれている夫の思いが、ただただ嬉しかった。
例え、どれほど苦しくても、私は夫の願いに応えたかった。

 意識が身体に強く引き寄せられる感じがした瞬間、私は、蘇生していた。
「…………ッハァ……ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…」
胸が破れてしまったかのように、早く浅い呼吸を繰り返しても苦しさが収まらない。
靄の掛かった視界に夫の泣き顔が映った。
「ごめん……ごめんな……」
泣きながら告げる夫の言葉に、私は必死に笑顔を作ろうとしていた。
「ハァッ…ハァッ…いいの……ハァッ…貴方に……ハァッ…もういち…ど…」
2度目の死は、さっきよりずっとずっと苦しくて、私は言葉を紡ぐのに精一杯だった。。
「…ハァッ…ハァッ…逢えて…ハァッ………うれし……かっ………」

 そこまでしか言えなかった。
私の意識はまた身体から弾き出され、自分自身を見下ろしていた。
泣きじゃくる夫に抱かれた私の顔。
苦しかったけれど、ちゃんと夫に笑顔を向けてお別れ出来たことに、私は安堵していた。

 2度目の蘇生措置は行われなかった。
夫が、もう十分だと医師に伝え、措置が止められたからだ。

 そして夫は今、赤ちゃんとともに部屋を出ていた。
私は、私の身体が看護婦さん達によって処置される様を見守って?いた。
下半身を覆っていたシーツが取り払われて、死ぬ前に感じた居心地の悪さの正体が判明した。
もう身体の自由が利いていなかったのだろう、出産時に汚れたショーツにカテーテルが挿入されていた。

 下半身が拭われ、用意しておいた換えの下着とブラウス、スカートが着せてもらえた私の身体は夫と再会した。
胸の上で手を組み、静かに眠る私に夫は優しい眼差しを向けてくれた。
その目が真っ赤になっていることに、私はとても辛い思いと幸せな思いが混ざった感覚を得た。

 赤ちゃんは病院にお泊りし、私は夫とともに自宅に運んでもらえるとのことだったが、
私は夫宛ての遺書が気掛かりだった。
出産直前に書き終えた、私が死んだ後、すぐに読んで欲しくて書いた遺書。
ベッド脇のテーブルに置かれたそれは、夫の目にも留まってくれた。
夫は、それを私の組んだ手の下に置いて、帰宅の途に着いた。


 久しぶりの我が家には綺麗に整えられていた。
私が入院してから、慣れない家事を夫に強制していたことに今更ながら申し訳なく思う私の視界の中で、
私の身体は夫に抱かれて家に運び込まれた。
夫は、私の身体を2人の寝室に運び、ベッドに横たえてくれた。
病室より明るい照明に照らされた身体は、既に血の気が失せつつあった。

 夫は、件の遺書を手に取り、封を切った。
今でなければ出来ない、直接伝えることの出来ない、私の最期の我侭。

―――もう一度、抱いてください
――――――あなたの好きなように、滅茶苦茶に私を、抱いてください

私は夫にもっと抱かれたかった、抱かせてあげたかった。
夫の愛を身体の隅々まで浴び、夫を気持ち良くさせてあげたかった。
妊娠してからは、お腹の子を気遣った優しい穏やかな行為しか出来なくて、
それすらも私の体調によっては徐々に難しくなっていった。

私は妻として、女として、夫に、彼に、抱いて欲しいと、願っていた。
もう私は何もしてあげられないのだから、せめて、私の身体を使って………

 遺書を読み終えた夫は何も言わず、遺書を封筒に戻してヘッドボードに置いた。
少しの間、夫は、私を見つめ、そして組まれた手指を解き解した。

 夫の唇が、私の唇を吸い、その口付けが首筋から胸元へと移っていく。
いつもの、夫の愛撫。
私の気持ちを高めて、幸せな瞬間へと導いてくれる、夫の優しいキス。
張りを増した胸の膨らみに引っ張られているブラウスのボタンを外しながら、
露になった肌に吸われた痕が残っていく。

目立つお腹をふっくらと包み込むロングのスカートも、胸がちょっときつくなったブラウスも、
妊娠した後に夫と選んだお気に入りだった。

ブラウスのボタンが全て外されると、淡いピンク色のブラにすっぽりと包まれた乳房がまろび出た。
張って敏感になった胸を包んでくれるブラにあしらわれた小さなレースがお気に入りの。

スカートを脱がされると、ブラとお揃いの、こちらも艶やかさとは無縁のショーツがお目見えしていた。
目立つお腹とお尻が優しく包み込まれたその姿は、正直なところ、少し、その…

―――恥ずかしい…な…

私の声が通じたのか、夫が明かりを落とし、ヘッドボードのランプを灯してくれた。

 夫はたっぷりと時間を掛けて私を抱いてくれた。
いつもより、少しだけ激しく私を求めてくれて、気持ち良くなってくれて、嬉しかった。

全身に口付けられて、高められた私の、赤ちゃんを産んでぽっかりと空いた子宮に
夫から注がれた愛情が満たされて、お腹の中のその熱が私にも伝わってくるようだった。
赤ちゃんを産んでも、私の膣は夫の形にぴったりと吸い付いて、夫に快感を与えられたようで、私も安心した。

ずっと前に1度だけ求められて、私が嫌がって以来触れなかった、お尻も夫に捧げることができた。
「いいよね?」
そっと囁いて夫が私の後ろの処女を貫いていくのを見ているのはとても恥ずかしかった。
出産前にきれいにしてあったから、夫に後ろでも気持ち良くなってもらえたようだ。
―――生きている間にしてあげたかったと、後悔した

口も、激しくされた。
抱き起こされ、頭を掴まれ、喉の奥の奥まで深く突き入れられて、その度に胸が揺れてちょっと恥ずかしいと思っていると
夫が喉に注ぎ込み、私の中へと熱いものが流れ込んでいった。
―――舌できれいにしてあげたかったが、それはもう叶わなかった

私の身体をベッドに横たえた夫が、胸に、赤ちゃんにおっぱいをあげたのと反対の、右の胸に口をつけた。

 乳頭を甘噛みされ、赤ちゃんより強く吸われて、私の胸に溜まっていた母乳が一気に溢れ出した。
もう、肌は熱を失いつつあったが体内のお乳はまだ温かさを残していて、
夫に吸われる度に私の胸から夫の中に流れ込んいくそれは、まるで私の命の残り香を夫に吸われるようで……。
胸の張りが無くなるまで、夫はまるで子供のように私の胸を吸い続けた。
愛しいその、夫の頭を抱いてあげたくて、でも、もう身体を動かすことは叶わなくてもどかしかった。

胸に残っていたお乳を飲み干して、キスしてくれた夫の口から、ほのかに甘い乳の香りがした。
私の全身を愛してくれて、抱いてくれて、夫は満足してくれたようだった。
そのまま私達は抱き合って、夜明けまで、眠った。


葬儀の前の、静かな時間が過ぎていった。

 通夜の夜だった。
私の身体は、友人達によって薄化粧され、妊婦向けのスリップ(それもブライダル向けの)を着せてもらっていた。
棺に入った私の身体には、結婚式でつけた、夫と選んだドレスが掛けられている。
こちらの風習で、私達は翌日の葬儀まで2人きりで過ごすことになっていた。

 その私の身体が、夫に運び出されたのは深夜をまわってからだった。
夫はドレスをそっと取り出し、その下の私を優しく抱いて棺から運び出した。

棺のそばに設えれた夫の寝床に横たえられた私。
体温を失い、力無く横たわる私のスリップの中に手を差し入れて、夫はショーツを脱がした。
息を飲む私の前で、夫は私の膣に詰められていた綿を取り出し、そのまま挿入していた。
突き入れたまま、化粧が崩れないようにそっと口付けて、夫は私を抱いていた。
妊娠中よりも、もっともっと優しい、静かな行為。
冷え切った私の奥底に、夫から熱い愛が注がれて、それは終わった。

夫は、私の膣にもとのように綿を詰め、ショーツを穿かせて棺に横たえると、もう一度キスしてくれた。

 私は夫の熱を感じながら荼毘に付された。

 あれから、長い年月が過ぎた。
夫は、1度だけ別の女性と肉体関係に及び掛けはしたものの、独身を通して息子を育て上げた。
息子はといえば、夫に似て素敵な男性となり、素敵な女性を奥さんに選んだ。
お正月など、家族が集まる時は、夫の隣に私の席を用意してくれる気遣いの出来る、素敵な女性だった。
やがて孫も出来て、また時が過ぎた。

夫は2度の大病を患い、私は夫が無事助かるようにと祈った。
私の分まで夫には息子とその家族とともに幸せな時間を過ごしてもらいたかった。
願いが通じたのか、夫は2度とも乗り越えた(その度に「お母さんに会うのが遠のいた」なんて冗談を言った)。

 だが、老いることだけはどうにもならなかった。
「お母さんに、会いに行くよ」
息子夫婦と孫、私に看取られて、眠るように夫は息を引き取った。

―――やっと逢えたね

私は夫に包まれるように抱きしめられているのを感じた。
身体が大きくて温かい愛情に包まれて、意識が夫と交じり合い蕩けていく……

―――また…夫と…ひとつに…

―――
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――――――――――――――――――――― episode end

”選択されたエピソードを完了しました。”
”安楽死シーケンスを開始します Y/N? (Y)”

表示されたメッセージに対して、私は静かにエンターキーを押下する。

「奥さん幸せですねぇ、御主人に命まで捧げられるなんてw」
いつの間にか私の助手兼愛人が部屋に入ってきていた。
「『妊娠中に流産、オマケに2度と妊娠出来ない身体になって、精神を病んで自殺』でしたっけ?」
意地の悪い笑みを浮かべて私に抱きついてくる。
「そう、事故だ、事故」


 西暦が2100年を超えたあたりで、先進国の平均寿命は300歳を超えるものとなった。
若年での肉体固定技術は年齢に関わらず生殖を可能とし、人口は増加傾向に拍車が掛かった。
惑星の人口キャパシティの観点から見れば危機的な状況であったことから、安楽死が合法化されたものの、
一部の論者から上がった「精神の安楽」とやらまで法制化さて面倒なことになった。
神経科学・心理学の分野から「幸福値」の測定と、それが一定値を上回る状況下での死、それが安楽死と定義された。
簡単に言えば、脳に幸せな夢を見せながら死に至らしめるというそれだけのことだ。

 その技術において先端を走る企業の研究員である私は、妻より愛人を選び、妻を被験者として使うことにした。
仕事柄、役所など公的機関との繋がりも深いことが幸いし(妻にとっては災いし)、事は簡単に進んだ。

妊娠したがっていた妻は、私がその気になったことに歓喜し、無事妊娠した時は小躍りして喜んだ。
順調に経過を辿る妻を薬物で眠らせ(それ自体、妊娠禁忌薬だったが)暴行して流産させると、
妻は子宮を損傷し、妊娠出来ない身体にまでなって、そして、精神を病んだ。

後は私が安楽死の手続きを進めるだけで、全てが整った。

面倒なのはここからだ。
マイナス方向に沈みきっ妻の精神を、プラスに転じさせ安楽死させる基準値を超えさせるにあたり、
通常使われるエピソードの10倍近い密度と深度のものを用意した。
妻に投与した、幾つかの未承認技術を含んだそれは、予想以上の効果を叩き出していた。

「凄いじゃないですかぁ、奥さんの幸福値平均、これって承認されたら売れますよぉ」
データを見た愛人が感嘆しているが、経緯が経緯だけにこのまま発表出来るものではない。
後々、臨床実験の基礎データとして紛れ込ませようとは思っているが、難しいだろう。

「あ、奥さん御臨終ですよw」
私と、私の膝の上で抱かれた愛人の前で、妻は幸せな夢とともに息を引き取った。


                                       おわり


孕ませスレに投下しようかと思わないでもなかったけど
ちょっとアレなのでやっぱりこちらに投下

産んで死ぬのも、産めずに死ぬのもどっちも良いよね