島島 - 一般人パロ4
一般人パロ(つづき)



「ごめん、待った?」
「全然。私も今来た所だよ」
「良かったぁ」

寒さが厳しくなりつつも晴れやかな青空の下、早貴は急いで舞美に駆け寄る。
休みが合うとき、こうして二人でどこかに出掛けることも増えた。といっても、たいていは早貴の行きたいところに舞美がついてきてくれる形になってしまっている。
「申し訳ないし舞美ちゃんの行きたいとこにも付き合うよ」と伝えてはいるのだが、その度に「私も同じ所に行きたかったからちょうどいいよ」と言われてしまうのが常となっていた。

「じゃあ行こっか」
「うん。こっちだよ」
出掛けるようになってからというもの、気付いたことがある。
確かに舞美は優しくて素敵だ。今も自然に車道側を歩いてくれているし、入ったお店で早貴がメニューを決めかねていてもちゃんと待ってくれる。それは本当に嬉しいし、舞美に惹かれる理由の一つなのだが、色んな意味で不器用なのだ。

方向音痴なのは早貴がしっかりしていればいいだけなのだが、
駅のトイレにカバンを忘れて大騒ぎするわ待ち合わせの時間を勘違いして盛大に遅刻するわ大根おろしをおしぼりと間違えて握り潰すわと、数えだしたらキリがないほどエピソードが出てくる。
そういえば前回映画を観に行った時も買うチケット間違えかけてたなぁ…と思い出してほのぼのしつつ、お目当てのカフェに入った。

最近オープンしたこのお店は駅から離れた場所にある。条件的には不利なのだが、その代わり店内の雰囲気や提供される料理が素晴らしく
逆に隠れ家的な人気を獲得しつつある…らしい。
時間が合わずなかなか来れなかったのだが、今日ようやく来ることができた。
先に運ばれてきたカフェラテに口をつけながら、バレないよう舞美をうかがう。

もう一つ気付いたことがあった。
舞美はよく自分を見つめている。
最初は気のせいかと思ったが、何度も会っている内に気のせいではないと悟った。ふとした瞬間に感じるその視線は時々優しく、切なげで、でもたっぷりの愛情が含まれていて、
決して嫌じゃないのに、それを感じるといつもそわそわして落ち着かなくなる。どうしていいのか分からなくなって、どこかに隠れたくなってしまうのだ。

(あー、また、だ…)
視界の端に映る視線に、胸の鼓動が高鳴ってうるさい。
そんな優しい瞳で見ないでと言いたいが、それで全く見つめられなくなるのも寂しい気がするし
万が一気のせいだった場合の恥ずかしさを思うと言い出せない。思考は堂々巡りから抜け出せず、結局は見つめられ続けることを選ぶしかないのだ。

「最近お仕事はどう?」
「え?あ、あぁ……うーん、まぁまぁかな」

正直上司なんてもうどうでもいいし、今はあなたに困ってる、とは言えず曖昧に笑う。料理がおいしいと聞いていたのに、結局あまり味は分からなかった。

話は盛り上がり、お店を出る頃には日は既に傾き始めていていた。青とオレンジのグラデーションを眺めながら、川沿いの道を並んでゆっくり歩く。

「もうちょっと暖かかったら土手に降りて水切りでもしたいんだけどなぁ」
「なっきぃは意外とそういう遊び好きだよね」

少し意地悪っぽく笑われた。なんとなくその笑顔を見たことがある気がしたが、それこそ気のせいだと思い直す。以前から度々感じていたが、この既視感はいったいなんなのだろう。
急に黙った早貴を見て寒がっていると勘違いしたのか、舞美は自分が巻いていたマフラーを外して早貴の首に巻いてくれた。

こういう時、ズルいなと思う。「風邪引いちゃうよ」って笑う顔も、さりげなく歩幅を合わせてくれているところも。これで付き合ってないってどういうことよとは思うものの、時々触れ合う手を自分から繋ぐ勇気が出るかと言われればそれはまた別の話だ。

「今度遊ぶ時さ」
不意に舞美が口を開く。バレないように横顔を見ていたせいで反応に遅れたが、そのことには気付いていないようで安心した。

「ちょっと、その、行きたいところあるんだけど…いい?」
「え、全然いいよ!初めてじゃない?舞美ちゃんの行きたいところ。めっちゃ楽しみ」


どんなとこだろ〜と無邪気に喜ぶ早貴に薄く微笑んだ。早くも緊張し始めていることに気づかれないように。ともすればネガティブな方向に向かってしまう思考を、現実に引き戻すために。