島島 - 島島×酒
 (○日、18:30…△屋。電話番号は…)

スケジュール帳に「忘年会」の予定を書き込みながら、早貴は感慨に耽った。

忘年会。

大人の響き。

 今までも友達同士で忘年会と称して年末に集まったりしたことは有ったが、それはあくまでも普段の遊びの延長線にある物で、ラッピングを「忘年会」に代えただけに過ぎなかった。

今回のこれは、舞が二十歳になったのを契機に、メンバー、℃-ute周りのスタッフを交えて、今年の互いの疲れを労おうという、れっきとした「職場の忘年会」である。

当然アルコールも入る予定で、なんだか会社にも一人前の大人扱いされたようで、悪くない気分だった。

会場となる店は、西麻布にあるイタリアン居酒屋である。

居酒屋…お酒。

早貴は舞美のことを思い浮かべた。
舞美は酒を飲まない。
飲めないのではなく、飲まない。
アルコールの味が好きではないと言っていた。

(でも、お母さんワイン好きだって言うし…体質的には大丈夫なんだよね?…多分)

逆に舞美の父親は下戸らしいが、今まで乾杯の付き合い程度で口を付けた時も取り合えず平気そうではあったし、飲もうと思えば飲めるはず、と早貴は踏んでいる。

 その後の撮影の空き時間に、舞美と二人きりになった早貴は、忘年会の話題を切り出した。
うちらも大人になったねえなどと話しながら、舞美にアルコールについて水を向ける。

「リーダーは、またお酒飲まないの?」
「…なんで?」

みんなよりも一足先に二十歳を超えた舞美が、四年たっても尚飲む気配を見せないのは、周囲の人間には既に当たり前の事として受け止められつつあった。
舞美にしてみれば早貴のこの質問は「何を今更」という思いだったのだろう。

早貴は苦笑しながら言った。

「…なんで?って…うーん…お酒、少しは覚えてみない?」
早貴は舞美と一緒に飲みたかったのだ。
早貴自身は酒が嫌いではないので、たまに食事時に頼んだりするが、舞美はそんな早貴の事を微笑みながら見守るだけで、自分は一切嗜もうとしなかった。

「なっきいが酔っ払ったら、あたしが面倒見るからね」

そんな言葉も確かに嬉しくはあるのだが、やはり早貴としては寂しさが勝ってしまう。

ホロ酔いのふわふわとした高揚感を、舞美と共有したいのだ。

それに、一度でいいからお洒落なバーでデートもしてみたかった。

「別に、無理にとは言わないけど…リーダーとさ、飲んでみたいんだもん…」

頬を染めながら上目遣いでぽそぽそと自分への想いを口にする早貴の表情は、物の見事に舞美の心臓を撃ち抜いた。

(確かにお酒の味はあまり好きじゃないけど、なっきいにここまで言わせて飲まないなんて、矢島、女じゃないぞ!)

心の中で握り拳を固めた舞美は、優しく早貴に微笑みかけた。

「分かった…飲むよ。確かになっきいとお酒デートもしてみたいよね」

こういう、優しい舞美が早貴は大好きだった。

早貴のいじらしい可愛らしさにときめいた舞美は、思わず抱き締める。

「…っ、ちょっと」
「少しだけ…」
「…もう……」

早貴は目を閉じて、舞美の唇の温もりを受け止めながら、リップ引き直さなきゃ…と頭の隅で思った。
 

─── 程なくして、忘年会当日。

歌番組のリハーサル終わりに、スタジオから直接メンバー全員で店に向かった。

もう既に殆どの参加者が集まっている状況で、「主役きたーー!」などと言われながら席に着く。

メンバーは何となく固まってはいたが、舞美だけはリーダーと言うこともあり、少しだけスタッフ寄りの席に座った。

早貴は二席ほどずれた斜め向かいに座る。
こういう事は普段のスタッフを交えた食事会の時にも良く有る事で、今更舞美の隣に座りたいなどという願望はない。
そこら辺のけじめはきちんと付いている早貴だった。


「かんぱーーい!」

幹事の音頭でスタートする。

最初の乾杯だけ申し分程度に付き合い、その後すぐにジュースや烏龍茶に切り替えるのがいつもの舞美のパターンである。
その事を周りも良く知っており、「やじ、何飲む?ジュース?」とマネージャーが聞いてきた。

「あ、いえ…じゃあ…何かカクテルを」

ドリンクメニューを見ながら言う舞美に、スタッフからおお!というどよめきが起こった。

『なっきいと飲みたいけど、まずは外で飲むのに慣れなきゃ。今度の忘年会でお酒頼んでみるね』

舞美の言葉を思い出しながら、早貴は微笑ましい思いで見ていた。

舞美のもとにスプモーニが運ばれる。

好物のグレープフルーツを使ったカクテルだが、当然、アルコールの味もするわけで、一口飲んだ舞美はわずかに眉根を寄せた。

「大丈夫?」

早貴は思わず声をかけたが、舞美は二口目も飲み下す。

「こういうのなら大丈夫みたい…うん、慣れると思うよ」

言葉にはしないが、早貴を見つめるその瞳は「心配しないで」と語っていた。

マネージャーが目を丸くして、舞美に話しかけている。

「まあ、そろそろ飲んでみようかなって。別に理由はないんですけど…」

にこやかに微笑みながら答える舞美の言葉は、早貴の胸に密かな優越感を沸き起こす。

(あたしと一緒に飲みに行くから、練習してるんだもんね)

早貴は幸せな思いで、自分のグラスに口を付けた。

 時間が経つにつれて、座が乱れてきた。
みんな話したい相手がいる席に移動して、いくつかの輪が出来る。
千聖などはワインボトルを手に、あちこちの輪に首を突っ込んでは話に参加していた。
早貴は席を移動することはなく、適当に近くの話題に参加しつつ、時折り舞美の方を伺っていた。

「矢島さーん」

甘ったるいハイトーンボイスが早貴の耳に入った。

舞美の隣の空いた席に、社員のNが座る。

 広報部のN。
確か現在二十歳のはずである。
噂では会長の大事な知り合いの娘とかで、絵に描いたような「超法規的な存在」の女性社員だった。つまり、広報部所属で在るにも関わらず、その仕事ぶりは多分に彼女の気分や好みに左右されることが多く、ぶっちゃけて言うと広報部には殆ど顔を出さずに、何故か℃-uteの現場にのこのこ付いてきて、サブマネージャーのような事をしているのだった。
一度、他のスタッフが遠回しにその理由を聞いたことがあった。

「理由?うーん…℃-uteが好きだから、かな?」

悪びれもせずにそう答えたのを早貴は聞いた。

しかし、嘘だ、と早貴は思う。

Nが好きなのは℃-uteではない。
舞美である。

それはものすごく直接的で、舞美に向ける好意はあからさまだった。

視線、仕草、ボディタッチ、舞美の弁当や飲物の好みを細かく把握し、果ては声のトーンまで他の人間と喋る時よりも一段階高くなる始末だった。

当然、早貴としては平常心で接することの出来る人間ではない。

しかし、大人として不快感や敵意を剥き出しにすることは憚られたし、何よりも早貴には余裕が有った。

どんなに相手に好意を向けられても、舞美は自分が心を開いた人間以外には、絶対に気安く接しない事を早貴は知っていた。

もちろん人当たりは最高に良いし、礼儀も正しい。
でも、必要以上に相手に同調はしない。気を持たせたり期待させたりする言動はしないのだ。

あの容姿であの性格である。
はっきり言って、舞美はめちゃくちゃモテた。
若い頃から不特定多数の人間から向けられる好意を角が立たないようにかわすうちに、自然に身に付いた処世術だった。

だから早貴も安心して見ていられる。

「矢島さん、今日はお酒飲んでるんですね」

Nは少し身を屈めて、下から覗き込むように舞美を見た。もちろん、計算し尽くされた角度からである。

「あ、Nちゃん…うん。口当たりいいのばっかりだけど」

優しく舞美が答える。

「えーなんか嬉しい。矢島さんとお酒飲みたいと思ってたんですよー」
「慣れてくると、けっこう飲めるもんだね」

よく見ると、舞美の前には既に空いたグラスが3つ置いてあった。早貴が見ていないうちにそれなりに飲んでいたらしい。

「でも、矢島さんの手ってすごく綺麗だから、グラス持つのが様になりますよ」
「いやあ、綺麗じゃないよ」
「綺麗ですよー。指がすごく長くて、大きくグラスを包み込む感じ?」

酒が入っている砕けた雰囲気にも助けられたのだろう。
Nはさりげなく舞美の手を取って、自分の顔の前に持ってきてしげしげと眺めるという暴挙に出たのだ。

(………!!)

さすがの早貴も目を疑った。
思わず小さく腰を浮かしかける。
「なっきい、落ち着いて」

すぐ隣で、愛理のたしなめる声が小さく聞こえた。
愛理も、このやり取りを見ていたらしい。

愛理の声のお陰で、浮かしかけた腰を下ろす。

(大丈夫、みぃたんはこういうアプローチ、さりげなくかわすの上手いもんね)

いつもの舞美なら、このようなボディタッチの類いは、相手に失礼にならない程度に優しく解いて、何事も無かったかのように振る舞うのだ。

舞美は自分の指を持っているNの手を逆の手で掴んだ。

(ほらね、ああやってすぐに………ん?)

逆の手で掴んで、包み込むようしてNの手を握りしめた。
ムニムニと感触を確かめるように、弄んでいる。

「Nちゃんの手は、小さくて可愛いね」
「や、矢島さん…」

普段とはまったく違う展開に、さすがのNも固まっていた。
舞美は手を握りしめたまま、真っ直ぐにNの瞳を見つめながら、口角を上げて微笑んだのだ。

「いつも色々お世話してくれて、ありがとうね」

早貴は舞美の目から「惚れさせビーム」が放たれたのを、大袈裟ではなく本当に見た。

Nは頬を薔薇色に染め、口を半開きにしながらボーっと舞美を見つめている。

(な、何、これ…なんなの…)

まるで蛇口の壊れた水道だった。
ダダ漏れである。
魅力が。
「なっきい、ほら、取り合えず食べな?」

向かいに座っていた舞が、慌ててピザやサラダの皿を早貴の前に置いた。

冷静にならなくては。
早貴と舞美が付き合っていることは、当然周囲(メンバー以外)には秘密である。
ここで早貴がいきなりぶちギレても、ただの酒癖の悪い危ない人としか認識されないであろう。

愛理と舞の心配そうな視線を感じつつ、早貴は冷めて硬くなりかけたピザ・マルゲリータを黙々と咀嚼した。

(単にNに普段のお礼言っただけ…うん。みぃたんはああいう律儀なのが良いところなんだから)

「舞美ちゃん!」

逆サイドから早貴の頭越しに、舞美を呼ぶ声がした。

「あ、Sさん!来てたんですね。全然気付かなかった」
「私も部外者なのに声かけてもらったの」
「いえいえ、Sさんにはお世話になってるから、部外者なんてそんな」

スタイリストのS。
℃-ute専属というわけではないが、けっこうな頻度で付いてもらっている。
仕事の腕はかなりのもので、Sが付いた撮影や番組での装いは、いつも周囲からの評判が良かった。
機転も効き、急なトラブルの対応も完璧な、仕事の出来る女性であった。

早貴も仕事上では信頼しているが、Sについてはひとつの懸念が有った。

噂で聞いたところによると、どうも同性愛者であるらしい。
その事自体は、この業界では珍しい事でもないので別にいいのだが、舞美に気が有る…ように見えるのだ。
Nのように憧れの延長線上にある視線を向けるのとは違う、ガチなやつである。

「舞美ちゃんに会えると思ってさあ、今日は楽しみにしてたんだ」

Sはそばに放置してあった椅子を掴んで舞美の隣に座ると、その距離を詰めた。

「えっ、なに?今日お酒飲んでるの!?」
「はい」
「ちょっと、やだあ。ついに舞美ちゃんも大人になる決心したのね!」

Sが言うと、どうも違う意味に聞こえる。

「さ、さ、飲んで?」

そばに有った予備のグラスを舞美に持たせると、白ワインをなみなみと注いだ。

(みぃたん、飲むの?断るよね?)

密かに、固唾を呑んで舞美を見守る。

そもそも最初に舞美に対して酒を飲んで欲しいと頼んだのは自分だという事は、この時点において早貴の頭からは消え失せていた。

「ワインは強いからちょっと…」という言葉を期待したのも虚しく、舞美はグラスに口を付けると気持ちよさそうにクイっとあおった。

「いけるじゃん!」
「はい、思ったより平気ですね、これ」

取り立てて舞美に酔っているような兆候はない。
酩酊したり、気分が悪そうな素振りも無かった。

逆に、目の縁がほんのりと色づき、僅かばかりに瞳が潤んでるように見えて、普段にはあまり見られない控えめな色気を醸し出している。

「ほんとに綺麗な顔…」

溜息をつきながらSは舞美の頬に手を伸ばした。

いつの間にかこちらの様子を観察していた愛理と舞から、息を飲む気配がする。

早貴はつついていたカプレーゼのトマトに、思わずフォークを垂直に突き立てた。

(みぃたん!いつもならそういうの、すぐに遮るよね!?)

そう、そして「そんな事ないですよ」と言いながら、やんわりと相手から距離を置くのである。
それが早貴の知っているいつのも舞美のはずだった。

舞美は頬に伸ばされたSの手を取ると、伏せていた顔を上げて正面から瞳を覗き込むように艶然と微笑んだ。

「Sさんの方が…大人っぽくて綺麗ですよ」

早貴の手に摘ままれていたグリッシーニが、バキっと音を立てて折れた。

 その時、脇から突然ワインボトルの口がニョっと現れた。

「いえーーーーーー!!飲んでるぅ?」

千聖であった。
すっかり出来上がった千聖は、舞美の肩をバンバンと叩きながら、空になったグラスに勢いよくワインを注いだ。

「ちょっとっ、リーダーが飲むなんて、あたしは嬉しいよぉ!」

突如乱入してきた千聖に、NもSも呆気にとられている。

「さ、ガンガンいこう!ガンガ…」

「千聖、バカ、やめ」と言いかけた舞の言葉は、早貴が勢いよく立ち上がった拍子に後ろの壁に激突した椅子の立てる、派手な音に掻き消された。

「………みぃたん。帰るよ」

一瞬静まり返る場に、地を這うような早貴の呟きが響き渡る。
みぃたんて、と突っ込む愛理の声が、小さく聞こえた。

舞美の手を取り強引に立たせると、二人分のコートをひっ掴み、店の出口に向かってズンズンと大股で歩く。

「…どうした、中島。酔ったのか?」

チーフマネージャーが心配そうに声をかけてきた。

「…いいえ、酔ってないです。「私」は」

抑揚のない声で答える早貴の表情は、能面のように白かった。

会費は先に払ってある。
早貴は舞美の手を引くと、そのまま店を出た。

ビルの谷間に吹く冷たい北風に頬をなぶられながら、早貴は歩く足を速めた。
ブーツのヒールが立てるコツコツという音は、早貴のすぐ後ろから忠実に付いてくる。

早貴は歩みを止めると、クルリと後ろを振り返った。

「……っ、なにか、言うことはっ?」

少し困ったように微笑む舞美に捲し立てたとたん、早貴の瞳からはポロポロと涙が零れた。

「……ごめんね」

舞美は早貴の頬に手を伸ばすと、溢れる涙を拭おうとした。
しかし早貴は顔を背けて、それを拒否する。

「……そんなに嫌われちゃったかな」

舞美は行き場の無くなった手を握りしめると、溜め息をついた。

「あたしが悪いよね…なっきいが途中から、こっち気にしてるの…何となく気付いてはいたんだけど。でも、普段はさ、素っ気なくしてる人達に、なんかそれじゃあ悪いような気がして」
「みぃたんは悪くない…」

そう絞り出すと、早貴の目からまた涙が溢れてきた。
これは自己嫌悪の涙。
自分でも分かっている。
舞美はやましい気持ちが有ったわけではないという事は。
いつもは意識的に遮っている他人からの好意を、少しだけバリアを緩めて受け入れただけなのだ。

「分かってるの…別に口説こうとしたわけじゃないって」

しゃくり上げながら、早貴は舞美に言った。

「お酒が入って…少し緩んだだけだって…みぃたんはさ、すごいモテるから…いちいちこれくらいの事、気にしちゃダメなんだよね」
「…そんな事ないよ。なっきいが嫌な思いしてるの、我慢して欲しくない」

舞美の優しさに、止めようと思った涙も止まらなかった。

「…言って?嫌だと思うこと、ちゃんと言って?」

肩を掴んで舞美が促す。

慈しむように自分を見つめる舞美の瞳を見上げたら、もう我慢出来なかった。

「……嫌なの!みぃたんが他の人にあんな風に…触ったり、笑いかけたり…するの」
「うん」
「他の人が…あんな目で、みぃたんのこと見るのも」
「うん」
「……目は見ないで。正面から瞳を合わせちゃだめ」
「うん」
「可愛いとか、綺麗とか…っ、言わないで」
「うん…ごめん」
舞美はぎゅっと自分の胸に早貴を抱き締めた。

髪を何度も撫でながら、耳元で囁く。

「もうしない」
「………」
「あたしが好きなのは、なっきいだけだよ」
「………うん」
「……お酒も、やっぱり飲まない」
「……ん?」

早貴はガバッと顔を上げた。

「飲まないの!?」
「…いや、だって、さっきみたいなの…嫌でしょ?」

確かに嫌だ。
嫌だが、しかし舞美が体質的にアルコールを受け付けると判明した以上、「お洒落なバーでデート」の魅力は抗い難いものになっていた。

「…じゃあ、今から行こうか?」

舞美の提案に、早貴は一瞬呆けた。

「へ?」
「今から、二人で行こう?」

舞美は早貴の腕を取ると、会社に程近いホテルに向かって歩き出した。

「あそこのスカイラウンジにバー有ったよね」

自分の手を引きながらやや足早に歩く舞美の横顔は、夜のネオンに照らされながらどこか無邪気に瞳を輝かせて、早貴は一瞬胸が締め付けられるほどの愛しさを覚える。

舞美と付き合っていく限り、この先もきっと自分はこの「嫉妬」という醜い感情に苛まれるのだろう。
その度に今日のようにみっともなく泣いて、自己嫌悪に苦しむに違いない。

でも、それでもいい。

世界一魅力的なこの人のそばで、泣いてわめいて、そして許して。
その後、また再び何度でもときめくのだ。

「みぃたん」
「ん?」
「飲むのは、あたしの前だけにして欲しい…ごめんねワガママで」

舞美は優しく微笑んだ。

「元々、そのつもりだったよ」

早貴は、舞美の腕にしっかりとしがみついた。

冴え冴えとした冬の空気を震わせ、二人の硬質な足音が夜の雑踏を通り過ぎて行った。