僕は車道へと飛び出し、欄干にしがみついて、夜の田園を見下ろした。
暗くとも、青白い光に仄明るい一面は水底のようである。風で波打つ無量大数の稲穂は、キメの細かな砂に見えた。その中を、一匹の龍が、這うように泳いでいた。
『いなだま』より。【引用元】
エブリスタ
「ねえ、それは、いつでも換えられるんだ」
あなたは続ける。
「駄目になっても、ほんとは全部大丈夫だったかもしれないんだ。けど、抱えきれないなら、旧のようにしておくのも大事なのかもね」
『宝の山』より。【引用元】
エブリスタ
―――伝うための光は淡い黄色をしていた。
それは一生分で、これからの一切の光を奪うかと思うほどまぶしかったが、彼女らの瞳孔はきゅっと細くなり、しかと虹色の反射を受け止めた。
空の青、山の翠、谷の褐、花の赤...それらは折り合い、照り返しあって、様々な色を為している。そしてそれは一定でなく、不断の変化を持っている。
『雨に覚めて』より。【引用元】
エブリスタ
古今東西変わらないのは、夜と見えざるものへの畏れ。闇夜に蠢くモノどもを、決して崇高と見紛うな。一目悪かりものだとしても、決して卑小と侮るな。
『怪部《あやしべ》』より。【引用元】
エブリスタ
ふと頬に、ひとつ雨垂れが当たった。
そうか、わかった。
腰を下ろすことにした。荷台の扉はよい庇になる。風は少なく吹き込む雨はない。ただしとしとと、しかし気持ち多めに降っている。
雨はいいよ。
と、思わず呟いてしまったので、ここに書き込むことにした。
『楽隊の最後尾、濃い鼠色』より。【引用元】
エブリスタ
噛み切った唇は酷いだろうか。僕はどんな表情をしているんだろう。
―――けれどああ、鏡を見なくてもわかることがある。
「僕は今、この違和感だけにすがりついて、生きている」
瞳だけは、卑しい感情を兆した化け物のような緑色に、違いない。
『トリミング』より。【引用元】
エブリスタ
空がほんのりと白み始めたように見えたのは、彼らが長く、夜にいたからだ。
ストワはこれ以上、そこに身を置くつもりは無かった。
さあ、暗澹たる夜の霧を吸い込もう。
吐く息は、銀のホイッスルに流れ込み―――――未明を切り裂いた。
『パレードは水平線に向かう』より。【引用元】
エブリスタ
「生姜、いれなかったの?」
「いれたよ」
姉は、濁りのない満足げな笑みを浮かべている。どういう細工をしたのか、僕は問わずにいられなかった。姉は「ツブショウガ」と、脈絡無く、聞いたことのない言葉を言った。
『粒生姜』より。【引用元】
エブリスタ
あんなに青く透き通っていた海が暗く深い紺色に身を染めて、夕陽がただ一条しがみつくように朱色の橋を水平線から渡してきているとき、風を受けて立っている彼女の姿には言いようのない儚さがありました。潮風にさらわれてしまわないかと、ピエトロは不安な気持ちでいっぱいになっていました。
『聖者』より。【引用元】
エブリスタ