周本紀第四

はじめに

　殷の暴君、紂王を放伐して武王が建てた周のお話です。
　周は後に東周・西周分れたり、秦や韓など、聞きなじみのある国々も登場します。
【参考文献】
①
書籍名二大漢籍国字解: 史記本紀. 第1巻
寄与者早稲田大学出版部
出版社早稲田大学出版部, 1928

②
書籍名史記, 第 1 巻
寄与者遷(145-86B.C.)·司馬, 哲三·塚本
出版社有朋堂書店, 1920

西周

后稷　

周后稷，名棄。其母有邰氏女，曰姜原。姜原為帝嚳元妃。姜原出野，見巨人跡，心忻然說，欲踐之，踐之而身動如孕者。居期而生子，以為不祥，棄之隘巷，馬牛過者皆辟不踐；徙置之林中，適會山林多人，遷之；而棄渠中冰上，飛鳥以其翼覆薦之。姜原以為神，遂收養長之。初欲棄之，因名曰棄。

棄為兒時，屹如巨人之志。其游戲，好種樹麻、菽，麻、菽美。及為成人，遂好耕農，相地之宜，宜穀者稼穡焉，民皆法則之。帝堯聞之，舉棄為農師，天下得其利，有功。帝舜曰：「棄，黎民始饑，爾后稷播時百穀。」封棄於邰，號曰后稷，別姓姬氏。后稷之興，在陶唐、虞、夏之際，皆有令德。

周の后稷名は弃、其の母は有邰氏の女なり。姜原徒と曰ふ。姜原帝嚳の元妃と爲す。姜原野に出でて巨人の蹟を見、心欣然として説び、之を踐まんと欲す。之を踐めば、身動きて孕める者の如し。居ること期にして子を生む。以て不祥と爲す。之を隘巷に弃つ。馬牛の過ぐる者、皆辟けて之を踐まず、之を林中に徒し置く。適適山林人多きに會ふ。之を遷して渠中の氷上に弃つ。飛鳥其の翼を以て覆薦す。姜原以て神と爲す。遂に収めて之を養長す。初め之を弃てんと欲す。因りて名づけて弃と曰ふ。弃の児たる時、屹として巨人の志の如し。其の游戲するに好みて麻・菽を種樹す。麻・菽美なり。成人と爲るに及び、遂に耕農を好み、地の宜しきを相る。穀に宜しき者は稼穡す。民皆之を法則とす。帝堯之を聞き、弃を擧げて農師と爲す。天下其利を得て、功有り。帝舜曰く、「弃は黎民始めて饑えしとき、稷に后として百穀を播し時きたり。」と。弃を邰に封ず。號して后稷と曰ふ。別姓は姬氏。后稷の興るや、陶唐・虞夏の際に在り。皆令徳有り。

后稷　官職の名。　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8E%E7%A8%B7

周の后稷の名は弃、その母は有邰氏の娘だった。姜原徒と言った。姜原は帝嚳の正妃となった。姜原は野原に出て巨人の足跡を見て、喜んでこれを踏みたいと思った。これを踏むと、身震いして妊娠したようだった。一年後に子供を産んだ。一年もかかったことから不吉だと思った。この赤ちゃんを狭い道に捨てた。馬車牛車で道行く人は、皆避けてこの赤ちゃんを踏まず、この赤ちゃんを林の中に移して置いた。たまたま山林に人が多くて、また移して堀の中の氷の上に捨てた。飛ぶ鳥がその翼で赤ちゃんを覆って守った。姜原はこれを見て神と思い、とうとう家で養い成長させた。はじめは赤ちゃんを捨てようとしたことにちなんで、弃と名付けた。弃が子供になったとき、大人のような振る舞いだった。好きな遊びとして、麻と豆とをまいて遊んだ。麻と豆は美しく育った。成人になるに及んで、農耕を好んで、地が良い感じか観察した。穀物でその時期にちょうど良いものを植えた。民は皆植えているのをみて法則として一緒に植えた。帝堯はこれを聞いて、弃を登用して農師とした。天下はその利益を得て、成果をあげた。帝舜が言うには、「弃は庶民が初めて餓えたとき、農業の長官として百穀を蒔いて民を救った。」と。弃を邰に封じた。名づけて后稷と言った。別姓は姬氏。后稷がいた時は、陶唐・虞夏のときであり、皆徳があった。

不窋・慶節・皇仆・差弗・毀隃・公非・高圉・亞圉・公叔祖類

后稷卒，子不窋立。不窋末年，夏后氏政衰，去稷不務，不窋以失其官而犇戎狄之間。不窋卒，子鞠立。鞠卒，子公劉立。公劉雖在戎狄之間，復修后稷之業，務耕種，行地宜，自漆、沮度渭，取材用，行者有資，居者有畜積，民賴其慶。百姓懷之，多徙而保歸焉。周道之興自此始，故詩人歌樂思其德。公劉卒，子慶節立，國於豳。慶節卒，子皇仆立。皇仆卒，子差弗立。差弗卒，子毀隃立。毀隃卒，子公非立。公非卒，子高圉立。高圉卒，子亞圉立。亞圉卒，子公叔祖類立。公叔祖類卒，子古公亶父立。

后稷卒して、子の不窋立つ。不窋の末年に、夏后氏の政衰ふ。稷を去りて務めず。不窋其の官を失へるを以て、戎狄の間に犇る。不窋卒して、子の鞠立つ。鞠卒して、子の公劉立つ。公劉戎狄の間に在ると雖も、復た后稷の業を修め、耕種を務む。地の宜しきを行りて、漆沮より渭を度りて材用を取る。行く者は資有り。居る者は畜積有り。民其の慶に頼り、百姓之に懐き、多く徒りて保歸す。周道の興れるは此れより始まる。故に詩人歌樂して其の徳を思ふ。公劉卒して、子の慶節立つ。豳に國す。慶節卒して、子の皇僕立つ。皇僕卒して、子の差弗立つ。差弗卒して、子の毀隃立つ。毀隃卒して、子の公非立つ。公非卒して、子の高圉立つ。高圉卒して、子の亞圉立つ。亞圉卒して、子の公叔祖類立つ。公叔祖類卒して、子の古公亶父立つ。

周王家の人物表
周朝君主列表
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%91%A8%E6%9C%9D%E...

后稷が亡くなって、子の不窋が跡を継いだ。不窋の末年に、夏后氏の政治は衰えた。稷を廃止して仕事を失った。不窋はその官職を失ったので、異民族の土地に逃げた。不窋が亡くなって、子の鞠が跡を継いだ。鞠が亡くなって、子の公劉が跡を継いだ。公劉は異民族の土地にいるといっても、また后稷の仕事をして、畑仕事をした。地の適当なときに農業をして、漆水・沮水から渭水を渡って南山に至り、材木を取った。外に行く者は資本があり、内へ留まる者は貯蓄した財産があった。民はその慶に頼り、人民はこれに懐き、多くは公劉の所に行って付き従った。周の勢力が起こったのはこの時から始まった。だから詩人は詩や歌でその徳を思うのだ。公劉が亡くなって、子の慶節が跡を継いだ。この時、豳に居所をうつした。慶節が亡くなって、子の皇僕が跡を継いだ。皇僕が亡くなって、子の差弗が跡を継いだ。差弗が亡くなって、子の毀隃が跡を継いだ。毀隃が亡くなって、子の公非が跡を継いだ。公非が亡くなって、子の高圉が跡を継いだ。高圉が亡くなって、子の亞圉が跡を継いだ。亞圉が亡くなって、子の公叔祖類が跡を継いだ。公叔祖類が亡くなって、子の古公亶父が跡を継いだ。

古公亶父

古公亶父復修后稷、公劉之業，積德行義，國人皆戴之。薰育戎狄攻之，欲得財物，予之。已復攻，欲得地與民。民皆怒，欲戰。古公曰：「有民立君，將以利之。今戎狄所為攻戰，以吾地與民。民之在我，與其在彼，何異。民欲以我故戰，殺人父子而君之，予不忍為。」乃與私屬遂去豳，度漆、沮，踰梁山，止於岐下。豳人舉國扶老攜弱，盡復歸古公於岐下。及他旁國聞古公仁，亦多歸之。於是古公乃貶戎狄之俗，而營筑城郭室屋，而邑別居之。作五官有司。民皆歌樂之，頌其德。古公有長子曰太伯，次曰虞仲。太姜生少子季歷，季歷娶太任，皆賢婦人，生昌，有聖瑞。古公曰：「我世當有興者，其在昌乎？」長子太伯、虞仲知古公欲立季歷以傳昌，乃二人亡如荊蠻，文身斷髪，以讓季歷。

古公亶父復た后稷公劉の業を修め、徳を積み義を行ふ。國人皆之を戴く。薫育戎狄之を攻め、財物を得んと欲す。之を予ふ。已にして復た攻め、地と民を得んと欲す。民皆怒りて、戰はんと欲す。古公曰く、「民有りて君を立てるは、將に以て之を利せんとす。今戎狄の攻戰を爲さんとする所は、吾地と民をとを以てなり。民の我に在ると、其の彼の在ると何ぞ異ならん。民我が故を以て戰はんと欲す。人の父子を殺して之に君たる、予爲すに忍びず。」と。乃ち私屬と遂に廟を去り、漆沮を渡り、梁山を踰え、岐の下に止る。豳人國を擧げ、老を扶け弱を携え、儘く復た古公に岐の下に歸す。及び他の傍らの國も古公の仁なるを聞き、亦多く之に歸す。是に於いて古公乃ち戎狄の俗を貶し、城郭室屋を營築し、邑別して之を居き、五官有司を作る。民皆之を歌樂し、其の徳を頌す。古公に長子有り。太伯と曰ふ。次を虞仲と曰ふ。太姜少子李歴を生む。李歴太任を娶る。皆賢婦人なり。昌を生みて聖瑞有り。古公曰く、「我が世つぎに興る者有る當に、其れ昌に在らんや。」と。長子太伯虞仲、古公が李歴を立て、以て昌に傳へんと欲するを知り、乃ち二人亡げて荊蠻に如き、文身斷髮して李歴に讓る。

古公亶父　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E5%85%AC%E...
薫育　匈奴の別名？　コトバンク　https://kotobank.jp/word/%E8%91%B7%E7%B2%A5%E3%83%...
太伯・虞仲　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E4%BC%AF%E...
太姜　Wikipedia　https://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E5%A7%9C
季歴　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%A3%E6%AD%B4
太任　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E4%BB%BB

古公亶父は再び后稷・公劉の仕事に復帰し、徳を修めて善行を行った。国の人民はみな君主とした。野蛮人は古公を攻めて、財物を奪おうとした。古公は地と財物を野蛮人に与えた。やがてまたせめて地と民を奪おうとやってきた。民は怒って、野蛮人と戦おうとした。古公が言うには、「民がいて君主が立つのは、ちょうど天が君主を使って民に利益をもたらそうとしているということだ。今、蛮族と交戦するということは、私の地と民をもってのことだ。民が私の下にいるのと、また別のところにいることは、どうして違いがあるだろうか、いや違いはない。民は私のために戦おうとする。人の父子を殺して、君主の地位を守ること、私は我慢できない。」と。そうして、一族と共に先祖代々の地を去って、漆水・沮水を渡り、梁山を越えて、岐山の麓に行きついた。現地民は古公の徳を慕い、国をあげて老人を助け、子供を支え、皆また古公のもとに服従した。それから他の周辺国も、古公が仁義のあることを聞き、多く服従した。そうして古公は蛮族の風習を貶して、城郭家屋を築いて、集落を区別して定住し、五官有司を作った。民は皆このことを歌い楽しんで、その徳を褒めた。古公に長子がいた。名を太伯と言った。次子を虞仲と言った。太姜は少子の李歴を産んだ。李歴は太任と結婚した。皆良い婦人であった。昌を産んだときに、聖人の兆しがあった。古公が言うには、「我が後継者にあたる者がいるなら、それは昌だろう。」と。長子の太伯、次子の虞仲は、古公が李歴を跡継ぎに立て、次の代を昌に与えようとしていることを知り、二人は荊の蛮族の地に逃げて入れ墨をいれて断髪して李歴に後継者争いの地位を譲った。

公李・昌（西伯・文王）

古公卒，季歷立，是為公季。公季修古公遺道，篤於行義，諸侯順之。
公季卒，子昌立，是為西伯。西伯曰文王，遵后稷、公劉之業，則古公、公季之法，篤仁，敬老，慈少。禮下賢者，日中不暇食以待士，士以此多歸之。伯夷、叔齊在孤竹，聞西伯善養老，盍往歸之。太顛、閎夭、散宜生、鬻子、辛甲大夫之徒皆往歸之。

崇侯虎譖西伯於殷紂曰：「西伯積善累德，諸侯皆向之，將不利於帝。」帝紂乃囚西伯於羑里。閎夭之徒患之。乃求有莘氏美女，驪戎之文馬，有熊九駟，他奇怪物，因殷嬖臣費仲而獻之紂。紂大說，曰：「此一物足以釋西伯，況其多乎！」乃赦西伯，賜之弓矢斧鉞，使西伯得征伐。曰：「譖西伯者，崇侯虎也。」西伯乃獻洛西之地，以請紂去炮格之刑。紂許之。

西伯陰行善，諸侯皆來決平。於是虞、芮之人有獄不能決，乃如周。入界，耕者皆讓畔，民俗皆讓長。虞、芮之人未見西伯，皆慚，相謂曰：「吾所爭，周人所恥，何往為，秖取辱耳。」遂還，俱讓而去。諸侯聞之，曰「西伯蓋受命之君」。

明年，伐犬戎。明年，伐密須。明年，敗耆國。殷之祖伊聞之，懼，以告帝紂。紂曰：「不有天命乎？是何能為！」明年，伐邘。明年，伐崇侯虎。而作豐邑，自岐下而徙都豐。明年，西伯崩，太子發立，是為武王。

西伯蓋即位五十年。其囚羑里，蓋益易之八卦為六十四卦。詩人道西伯，蓋受命之年稱王而斷虞芮之訟。後十年而崩，謚為文王。改法度，制正朔矣。追尊古公為太王，公季為王季：蓋王瑞自太王興。

古公卒して、季歴立つ。是を公季と爲す。公季古公の遺道を修め、行義を篤くす。諸侯之に順ふ。公季卒して、子の昌立つ。是を西伯と爲す。西伯は文王なり。后稷公劉の業に遵ひ、古公公季の法に則り、仁を篤くし、老を敬ひ、少を慈しみ、賢者に禮下し、日中まで食するに暇あらず、以て士を待つ。士此れを以て多く之に歸す。伯夷・叔齊孤竹に在り。西伯善く老を養ふと聞き、蓋ぞ行きて之に歸せざると。太顛・閎夭・散宜生・鬻子・辛甲・大夫の徒、皆往きて之に歸す。崇侯虎西伯を殷紂に譖りて曰く、「西伯は善を積み徳を累ぬ。諸侯皆之に嚮ふ。將に帝に利なからん。」と。帝紂乃ち西伯を羑里に囚ふ。閎夭の徒、之を患ひ、乃ち有莘氏の美女・驪戎の文馬・有熊九駟・他奇怪物を求めて殷の嬖臣費仲に因りて之を紂に獻ず。紂大いに説びて曰く、「此の一物だも、以て西伯を釋すに足れり。況や其の多きや。」と。乃ち西伯を赦し、之に弓・斧・鉞を賜ひ、西伯をして征伐することを得しむ。曰く、「西伯を譖る者は崇侯虎なり。」と。西伯乃ち洛西の地を以て紂に炮格の刑を去らんことを請ふ。紂之を許す。西伯陰に善を行ふ。諸侯皆來りて平を決す。是に於いて虞・芮の人に獄有りて決すること能はず。乃ち周に如く。界に入るに、耕者皆畔を讓り、民の俗は皆長に讓れり。虞・芮の人、未だ西伯に見えず、皆慙づ。相謂て曰く、「吾が争ふ所、周人の恥づる所なり。何ぞ往くことを爲んや。秖に辱を取らんのみ。」と。遂に還り倶に讓りて去る。諸侯之を聞きて曰く、「西伯は蓋し受命の君なり。」と。明年犬戎を伐つ。明年密須を伐つ。明年耆國を敗る。殷の祖伊之を聞き、懼れて以て帝紂に告ぐ。紂曰く、「天命有らずや。是れ何ぞ能く爲んや。」と。明年邘を伐つ。明年崇侯虎を伐つ。而して豐邑を作り、岐下より徒りて豐に都す。明年西伯崩じぬ。太子發立つ。是を武王と爲す。西伯蓋し位に卽きて五十年なり。其の羑里に囚れしとき、蓋し易の八卦を益して、六十四卦と爲す。詩人道ふ、「西伯は蓋し受命の年に王と稱す。虞・芮の訟を斷ず。」と。後十年にして崩じぬ。諡して文王と爲す。法度を改め、正朔を制す。古公を追尊して太王と爲し、公李を王李と爲す。蓋し王瑞は太王より興れり。

西伯　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E7%8E%8B_(...
伯夷・叔齊　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%AF%E5%A4%B7%E...
孤竹　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%A4%E7%AB%B9%E...
太顛　Wikipedia　https://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%A2%A0
閎夭　Wikipedia　https://zh.wikipedia.org/wiki/%E9%97%B3%E5%A4%AD
散宜生　広辞苑無料検索　https://sakura-paris.org/dict/%E5%AD%A6%E7%A0%94%E...
崇侯虎　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B4%87%E4%BE%AF%E...
耆國　百度百科　https://baike.baidu.com/item/%E8%80%86%E5%9B%BD/95...
祖伊　Wikipedia　https://zh.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%96%E4%BC%8A

古公が亡くなって、季歴が跡を継いだ。これを公季とした。公季は古公と同じような政治を行い、忠義を篤くした。諸侯はこれに従った。公季が亡くなって、子の昌が後を継いだ。これを西伯とした。西伯は文王のことだ。后稷・公劉の行いを尊んで、古公・公季の行いを法則として、仁を篤くして、老人を敬い、子供を慈しみ、賢者には礼をもって接し、日中は食事の暇もとらず人と面会などした。このようなことから、多くの人が文王に従った。伯夷・叔齊が孤竹というところにいた。西伯はよく老人を養うと聞いて、「どうして文王のところに行って服従しないのか、いや、行くしかない。」と言って行った。太顛・閎夭・散宜生・鬻子・辛甲・大夫の徒は、皆行って文王に服従した。崇侯虎という者が、西伯のことを殷の紂王に告げ口して言うには、「西伯は善行を積んで徳を修めた。諸侯は皆これについていった。生かしておいて、帝にいいことはないでしょう。」と。紂王はそこで西伯を羑里に監禁した。閎夭の徒がこれを心配して、そこで有莘氏の美女・驪戎の名馬・熊や驢馬・その他珍しいものをさがして、殷の家臣の費仲を頼りに紂に献上した。紂は大いに喜んで言うには、「この中の一つでさえも、西伯を許すのに足りる。まして献上品が多いなら、なおさらだ。」と。とうとう西伯を許し、これに斧・鉞を与え、西伯に諸部族を征伐させることが出来た。ある者が言うには、「西伯のことを告げ口したのは崇侯虎だ。」と。西伯は洛西の地を献上して、紂に焙烙の刑を止めるよう請願した。紂はこれを受け入れた。西伯はこっそり善行を積んだ。諸侯は皆集まってきて争いごとの仲裁を頼んだ。それから、虞・芮の人に揉め事があって、結果を決められなかった。そこで周の国に赴いた。国に入ると、百姓は皆あぜ道を譲って、民の習慣は年長者を敬っていた。虞・芮の人は、まだ西伯に会っていないのに、皆恥じた。互いに「私が争っていることは、周の人なら恥じたことだ。どうしてこれから西伯の元へ行くだろう。会っても、ただ恥ずかしいだけだ。」と言った。とうとう国に帰り立ち去った。諸侯はこれを聞いて、「西伯は天命を受けた者だ。」と言った。翌年、犬戎を討伐した。その翌年、密須を討伐した。その翌年、耆国を討伐した。殷の祖伊はこれを聞いて、「周の勢力拡大を恐れて紂王に諫言した。紂王が言うには、「天命は向こうにないだろう。なのにどうして王朝を倒すなどできようか。」と。その翌年、西伯は邘を討伐した。その翌年、崇侯虎を討伐した。それから、豐邑を作り、岐山の麓から移動して豐に都をおいた。翌年、西伯が崩御した。太子の發が即位した。これを武王と言った。西伯は位に就いてから五十年だった。羑里に囚われていたとき、占いの八卦を改良して、六十四卦とした。詩人は、「西伯は天命を受けた年に王と称した。虞・芮の訴訟を仲裁した。」と。囚われてから十年で崩御した。諡を文王とした。法度を改め、正しい暦を制定した。古公を追尊して太王として、公季を王季とした。素晴らしい王の兆しは、太王のときから興った。

發（武王）　在位　前1046年? - 前1043年

１

武王即位，太公望為師，周公旦為輔，召公、畢公之徒左右王，師修文王緒業。

九年，武王上祭于畢。東觀兵，至于盟津。為文王木主，載以車，中軍。武王自稱太子發，言奉文王以伐，不敢自專。乃告司馬、司徒、司空、諸節：「齊栗，信哉！予無知，以先祖有德臣，小子受先功，畢立賞罰，以定其功。」遂興師。師尚父號曰：「總爾眾庶，與爾舟楫，後至者斬。」武王渡河，中流，白魚躍入王舟中，武王俯取以祭。既渡，有火自上復于下，至于王屋，流為烏，其色赤，其聲魄云。是時，諸侯不期而會盟津者八百諸侯。諸侯皆曰：「紂可伐矣。」武王曰：「女未知天命，未可也。」乃還師歸。

居二年，聞紂昏亂暴虐滋甚，殺王子比干，囚箕子。太師疵、少師彊抱其樂器而奔周。於是武王遍告諸侯曰：「殷有重罪，不可以不畢伐。」乃遵文王，遂率戎車三百乘，虎賁三千人，甲士四萬五千人，以東伐紂。

武王位に卽き、太公望は師と爲り、周公旦は輔と爲り、召公・畢公の徒は王師を左右し、文王の諸業を修む。九年に武王上畢を祭る。東の方兵を觀す。盟津に至り、文王の木主を爲り、載するに車を以て中軍す。武王自ら太子發と稱す。文王を奉じて以て伐ち敢て自ら専らにせざるを言ふ、「乃司馬・司徒・司空・諸節に告ぐ。齊栗し信なれや。予無知にして先祖の有徳の臣を以ふ。小子先功を受け、畢く賞罰を立て、以て其の功を定めん。」と。遂に師を興す。師尚父號して曰く、「爾の衆庶と爾の舟楫とを總べ、後れ至る者は斬らん。」と。武王河を渡る。中流にして白魚王の舟中に躍り入る。武王俯して取りて以て祭る。卽にして渡る。火有り。上より下に復へり、王屋に至り、流れて烏と爲る。其の色は赤。其の聲は魄と云ふ。是の時諸侯期せず、盟津に會する者、八百諸侯あり。諸侯皆曰く、「紂を伐つべし。」と。武王曰く、「女未だ天命を知らず。未だ可ならざるなり。」と乃ち師を還して歸る。居ること二年にして紂の昏亂暴虐滋滋甚だしく、王子比干を殺し、箕子を囚へ、太師疵・少師彊は其の樂器を抱きて周に犇れりと聞き、是に於いて武王徧く諸侯に告げて曰く、「殷に重罪有り。畢く伐たずんばあるべからず。」乃ち文王に遵ひ、遂に戎車三百乘・虎賁三千人・甲士四萬五千人を率ゐ、以て東の方紂を伐つ。

太公望　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%82%E5%B0%9A
周公旦　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%A8%E5%85%AC%E...
召公　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%AC%E5%85%AC%E...
畢公　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%95%A2%E5%85%AC%E...
師尚父　太公望（呂尚と同じ。）　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%82%E5%B0%9A
比干　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%94%E5%B9%B2#:...
箕子　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%95%E5%AD%90
虎賁　こほん　コトバンク　https://kotobank.jp/word/%E8%99%8E%E8%B3%81-204011...

武王が即位して、太公望が師となり、周公旦は輔となり、召公・畢公の徒は左右の王師となり、文王の諸業を修めた。九年に武王は上畢に祭事を行った。東のほうで閲兵した。盟津に至り、文王の木像を作り、載せるのに車を使って部隊を作った。武王は自らを太子發と称した。文王を奉じて、自分を専らにしなかった。「諸君司馬・司徒・司空・諸節に告げる。よく聞きなさい。私は何も知らないので、先祖より徳があるとされた家臣を登用した。私は先祖より功績を受けたが、すべて褒賞と罰則を作り、それでその功績の大小を定めよう。」と。そうして軍師を興した。師尚父が命令して言うには、「諸兵と船を並べて、行軍に後れる者は皆斬りましょう。」と。武王は淮河を渡った。渡っている最中、白い魚が王の舟の中に飛び入った。武王は下を向いてこれを手に取って祀った。やがて渡った。次に火があった。上から下に揺れて、王の小屋のそばに至り、鳥となった。その色は赤。その声はゆるやかだった。この時諸侯は思いがけず、盟津に集まった者が八百人いた。諸侯皆言うには、「紂を伐つべき。」と。武王曰く、「そなたらはまだ天命を知らない。まだだめだ。」と。そうしてとうとう軍を引き返して帰っていった。その二年後、紂王の虐政はますます酷くなって、王子比干を殺し、箕子を監禁し、太師疵・少師彊は自分の楽器を抱いて周に逃げてきたと聞き、それから武王は広く諸侯に告げて、「殷に重罪あり。絶対に伐たなければならない。」と言った。そうして文王を思いながら、とうとう車三百両、直属の部隊三千人、歩兵四万五千人を率いて、東方の紂王を討伐した。

２

十一年十二月戊午，師畢渡盟津，諸侯咸會。曰：「孳孳無怠！」武王乃作太誓，告于眾庶：「今殷王紂乃用其婦人之言，自絕于天，毀壞其三正，離逖其王父母弟，乃斷棄其先祖之樂，乃為淫聲，用變亂正聲，怡說婦人。故今予發維共行天罰。勉哉夫子，不可再，不可三！」

二月甲子昧爽，武王朝至于商郊牧野，乃誓。武王左杖黃鉞，右秉白旄，以麾。曰：「遠矣西土之人！」武王曰：「嗟！我有國冢君，司徒、司馬、司空，亞旅、師氏，千夫長、百夫長，及庸、蜀、羌、髳、微、纑、彭、濮人，稱爾戈，比爾干，立爾矛，予其誓。」王曰：「古人有言『牝雞無晨。牝雞之晨，惟家之索』。今殷王紂維婦人言是用，自棄其先祖肆祀不答，昏棄其家國，遺其王父母弟不用，乃維四方之多罪逋逃是崇是長，是信是使，俾暴虐于百姓，以姦軌于商國。今予發維共行天之罰。今日之事，不過六步七步，乃止齊焉，夫子勉哉！不過於四伐五伐六伐七伐，乃止齊焉，勉哉夫子！尚桓桓，如虎如羆，如豺如離，于商郊，不御克奔，以役西土，勉哉夫子！爾所不勉，其于爾身有戮。」誓已，諸侯兵會者車四千乘，陳師牧野。

十一年十二月戊午、師畢く盟津を渡る。諸侯咸會す。曰く、「孳孳として怠ること無かれ。」と。武王乃ち太誓を作りて衆庶に告ぐ。「今殷王紂、乃ち其の婦人の言を用ひ、自ら天を絶ち、其の三正を毀ち壞り、其の王父母兄弟を離し逷ざく。乃ち其先祖の樂を斷ち弃て、淫聲を爲りて用て正聲を變亂して、婦人を怡び說ばしむ。故に今予發、維れ共しみて天罰を行ふ。勉めよや夫子、再びすべからず、三びすべからず。」と。二月甲子の日の昧爽に、武王商郊の牧野に至り乃ち誓ふ。武王左に黄鉞を杖つき、右に白旄を秉り以て麾きて曰く、「遠かりき西士の人。」と。武王曰く、「嗟、我が有國の冢君・司徒・司馬・司空・亞旅・師氏・千夫長・百夫長及び庸・蜀・羌・髳・微・纑・彭・濮の人、爾の戈を稱げ、爾の干を比べ、爾の矛を立てよ。予れ其れ誓はん。」と。王曰く、「古人言へること有り。牝雞晨すること無し。牝雞の晨するは惟れ家の索なり。今殷王紂、維れ婦人の言を是れ用ひ、自ら其の先祖の肆祀を弃てて、答へず。其の家國を昏弃し、其王父母兄弟を遺して用ひず、乃ち維れ四方の罪多くして逋逃するものを、是れ崇び是れ長とし、是れ信じ是れ使ひ、百姓を暴虐し、以て商國を姦軌せしむ。今予れ發維れ共て天の罰を行ふ。今日の事、六歩七歩に過ぎざれ。乃ち止りて齊へ。夫子勉めよや。四伐五伐六伐七伐に過ぎざれ。止りて齊へ。夫子勉めよや。尚はくは桓桓たること虎のごとく羆のごとく豺のごとく離のごとく商郊に干せよ。犇れるを禦克せず。以て西土に役せん。勉めよや夫子、爾の勉めざる所あれば、其れ爾の身に干て戮有らん。」と。誓ひ已り、諸侯の兵會する者、車四千乘、師を牧野に陣す。

十一年十二月戊午、兵は全員盟津を渡った。諸侯は一同会した。言うには、「しっかりと念を入れて怠ることがないように。」と。武王はここで太誓という書を作り、庶民に告げた。「今殷の紂王は、その夫人（＝妲己）の言うことを何でも聞いて、自ら天命を遂行せず、君主のあるべき姿を破り、その王は兄弟父母を虐めた。殷の代々の繁栄を断ち、みだらな音楽を作り、正しい音楽を乱して、夫人を喜ばせている。だから私、發はそなたたちと天罰を下そうとしている。頑張りなさい。紂のような行いを二度としてはいけない。三度してはいけない。」と。二月甲子の日の夜明けに武王は商郊外の牧野に至って、そこで誓った。武王は左に鉞を杖のようにつき、右に旗をもって言うには、「遠い西土からきた人よ。」と。続けて、「ああ、我が諸侯の家臣・司徒・司馬・司空・亜旅・師氏・千夫長・百夫長および庸・蜀・羌・髳・微・纑・彭・濮からきた人よ。そなたたちの戈を持ち、剣を持ち、戈を立てよ。私は誓おう。」と。また、「昔の人が言ったことがある。女が男に代わって権勢をふるい、災いを招くと。女が権勢をふるうのは、家だけで良い。今殷の紂王は、夫人の言うことを何でも聞いて、自らの先祖の祭祀も捨てている。その国を乱し、その父母兄弟だけを登用して、四方の罪多くあって、人民を虐げ、商の国を麻痺させている。私、發はそなたたちと天罰を下そうとしている。今日の戦い、六歩七歩だけでやめるな。頑張りなさい。七人倒しただけでは足りない。虎のように、羆のように、豺のように、離のように商郊に戦え。もし頑張らなければ、そなたが殺されるだろう。」と。誓いが終わって、諸侯の兵で合流する者、車四千両、将軍は牧野に陣を置いた。

３

帝紂聞武王來，亦發兵七十萬人距武王。武王使師尚父與百夫致師，以大卒馳帝紂師。紂師雖眾，皆無戰之心，心欲武王亟入。紂師皆倒兵以戰，以開武王。武王馳之，紂兵皆崩畔紂。紂走，反入登于鹿臺之上，蒙衣其殊玉，自燔于火而死。武王持大白旗以麾諸侯，諸侯畢拜武王，武王乃揖諸侯，諸侯畢從。武王至商國，商國百姓咸待於郊。於是武王使群臣告語商百姓曰：「上天降休！」商人皆再拜稽首，武王亦答拜。遂入，至紂死所。武王自射之，三發而後下車，以輕劍擊之，以黃鉞斬紂頭，縣大白之旗。已而至紂之嬖妾二女，二女皆經自殺。武王又射三發，擊以劍，斬以玄鉞，縣其頭小白之旗。武王已乃出復軍。

其明日，除道，修社及商紂宮。及期，百夫荷罕旗以先驅。武王弟叔振鐸奉陳常車，周公旦把大鉞，畢公把小鉞，以夾武王。散宜生、太顛、閎夭皆執劍以衛武王。既入，立于社南大卒之左，［左］右畢從。毛叔鄭奉明水，衛康叔封布茲，召公奭贊采，師尚父牽牲。尹佚筴祝曰：「殷之末孫季紂，殄廢先王明德，侮蔑神祇不祀，昏暴商邑百姓，其章顯聞于天皇上帝。」於是武王再拜稽首，曰：「膺更大命，革殷，受天明命。」武王又再拜稽首，乃出。

帝紂武王の來れるを聞き、亦兵七十萬人を發して、武王を距ぐ。武王師尚父と百夫とをして師を致さしむ。大卒を以て帝紂の師に馳す。師衆と雖も、皆戰ふの心無し。心に武王の亟かに入らんことを欲す。紂の師皆兵を倒にして以て戰ふ。以て武王を披く。武王之に馳す。紂の兵皆崩れて紂に畔く。紂走りて反り入る。鹿臺の上に登り、其の珠玉を蒙り衣きて、自ら火に燔きて死す。武王大白旗を持ちて以て諸侯を麾く。諸侯畢く武王を拜す。武王乃ち諸侯を揖す。諸侯畢く武王に從ひて商國に至る。商國の百姓、咸郊に待つ。是に於いて武王羣臣をして商の百姓に告げ語らしむ。曰く、「上天休を降ろせと、商人皆再び拜稽首す。」と。武王亦答拜す。遂に入りて紂の死所に至る。武王自ら之を射る。三たび發ちて後車を下り、〔軽〕剣を以て之を撃ち、黄鉞を以て紂の頭を斬り、大白の旗に懸け、已にして紂の嬖妾の二女に至る。二女皆經れえて自殺す。武王又射て三たび發つ。撃つに剣を以てし、斬るに玄鉞を以てす。其の頭を懸け小白の旗に懸け、武王已にして乃ち出でて軍に復る。其の明日、道を除ひ、社を修め、商紂の宮に及ぶ。期に及びて百夫罕旗を荷ひ、先驅す。武王の弟叔振鐸は常車を奉陣し、周公旦は大鉞を把り、畢公は小鉞を把り、以て武王を夾めり。散宣生・太顛・閎夭は皆剣を執りて以て武王を衞る。卽に入り社の南に立つ。大卒の左右畢く從ふ。毛叔鄭は明水を奉じ、衞の康叔封は茲を布き、召公奭は采を贊け、師尚父は牲を牽き、尹佚は策祝して曰く、「殷の末孫李紂、先王の明徳を殄廢し、神祇を侮蔑して祀らず、尚邑の百姓を昏暴す。其れ章顯して天皇上帝に聞こえたり。」と。是に於いて武王再拜稽首す。曰く、「大命を更くるに膺り、殷を革め、天の明命を受けよ。」と。武王又再拜稽首して、乃ち出づ。

紂王は武王が攻めてくると聞いて、兵士七万人を発して、武王を妨げた。武王は師尚父と百夫に軍師をさせた。大卒を帝紂の軍師とさせた。軍師や兵士といっても、皆戦う心が無かった。本心に、武王に攻め入ってほしいと思っていた。紂の兵士は武器をさかさまにして戦った。それで武王の進路をあけた。武王はこれを通って突撃した。紂軍の兵は総崩れで紂に背いた。紂は走って逃げた。宝物庫の上に登り、中にあった金品を身に着け、自ら火に入って自害した。武王は大きな白旗を以て、諸侯に振った。諸侯は全員武王に服した。諸侯は全員武王に従って商の国に赴いた。商国の人民は、皆郊外で帰ってくるのを待っていた。そうして武王は家臣に、商国の人民に語らせた。曰く、「天帝は喜んでいる。」と。商の人民は皆武王に服した。武王はまたそれに答礼した。それから、紂王が死んだ場所に行った。紂を車から矢で三発撃った。それから、車を下りて剣で切り、鉞でも切った。その首を大きい白旗の先にかけた。それから、夫人だった二人の女のもとへ行った。二女はもう首をくくって自害していた。武王はまたこれを矢で三発撃ってから、剣で切って、首を取るのに鉞を使って、小さい白い旗にかけた。武王は連れていた軍のところへ戻った。その次の日、祭事などをして、商紂の宮に行った。入城式を行い、武王の弟の叔振鐸は常車に任命され、周公旦は大鉞を持ち、畢公は小鉞を持ち、それで武王を挟んで護衛した。散宣生・太顛・閎夭は皆剣を持って武王を護衛した。卽に入り社の南に立った。左右の大卒が従った。毛叔鄭は明水を奉じ、衞の康叔封は茲を布き、召公奭は采をほめて、師尚父はいけにえを連れ、尹佚は今回の策を祝って言うには「殷の末王紂は、先祖代々の明徳を侮り無駄にし、神をおろそかにして祀らず、国民を暴虐した。それは天皇天帝にも聞こえていた。」と。それから武王に最敬礼した。言うには、「大きな命を受ける時期が来た、殷を改め、天命を受けよ。」と。武王はまた最敬礼をしてから、その場から退出した。

４

封商紂子祿父殷之餘民。武王為殷初定未集，乃使其弟管叔鮮、蔡叔度相祿父治殷。已而命召公釋箕子之囚。命畢公釋百姓之囚，表商容之閭。命南宮括散鹿臺之財，發鉅橋之粟，以振貧弱萌隸。命南宮括、史佚展九鼎保玉。命閎夭封比干之墓。命宗祝享祠于軍。乃罷兵西歸。行狩，記政事，作武成。封諸侯，班賜宗彝，作分殷之器物。武王追思先聖王，乃褒封神農之後於焦，黃帝之後於祝，帝堯之後於薊，帝舜之後於陳，大禹之後於杞。於是封功臣謀士，而師尚父為首封。封尚父於營丘，曰齊。封弟周公旦於曲阜，曰魯。封召公奭於燕。封弟叔鮮於管，弟叔度於蔡。餘各以次受封。

武王徵九牧之君，登豳之阜，以望商邑。

商の紂の子の禄父を殷の餘民の封ず。已して召公に命じて、箕子の囚を釋し、畢公に命じて、百姓の囚を釋し、商容の閭に表し、南宮括に命じて、鹿臺の財を散じ、鉅橋の粟を發し、以て貧弱の萌隷に振し、南宮括と史佚とに命じて、九鼎保玉を展べ、閎夭に命じて、比干の墓を封じ、宗祝に命じて軍に享祠せしむ。乃ち兵を罷めて西に歸る。行く行く狩りし、政事を記して武成を作る。諸侯を封じ、宗彜を班ち賜ふ。分殷の器物を作る。武王先聖王を追思し、乃ち褒じて神農の後を焦に、黄帝の後を祝に、帝堯の後を薊に、帝舜の後を陳に、大禹の後を𣏌に封ず。是に於いて、功臣謀士を封ず。而して師尚父首封と爲す。尚父を營丘に封じて、齊と曰ひ、弟の周公旦を曲阜に封じて魯と曰ひ、召公奭を燕に封じ、弟の叔鮮を管に封じ、弟の叔度を蔡に封じ、餘は次を以て封を受く。武王九牧の君を徴して、豳の阜に登りて、以て商邑を望ましむ。

商の紂の子である禄父に殷の民と土地を封じた。それから、召公に命じて、箕子の監禁を解き、畢公に命じて、人民の監禁を解き、商容の門に徳を表し、南宮括に命じて、鹿臺の財産を開放し、鉅橋の粟を放出して、それで貧困弱者に食事を振る舞い、南宮括と史佚とに命じて、九鼎保玉を並べさせ、閎夭に命じて、比干の墓をつくり、宗祝に命じて軍に祀らせた。そうしてから兵をやめて西に帰った。行く行く狩りし、政治を記して武成という書を作った。諸侯を封じ、宗廟の祭器を分けて組にした。「分殷の器物」という書を作った。武王は先祖の聖王を追思し、そうして褒めたたえて神農氏の子孫を焦に、黄帝の子孫を祝に、帝堯の子孫を薊に、帝舜の子孫を陳に、大禹の子孫を𣏌に封じた。それから、功績をあげた家臣や兵士も諸侯として封じた。師尚父が首封となった。尚父を營丘に封じて、斉と言い、弟の周公旦を曲阜に封じて、魯と言い、召公奭を燕に封じ、弟の叔鮮を管に封じ、弟の叔度を蔡に封じ、餘は次を以て封を封土として受けた。武王は九牧の君を召して、豳の丘に登って、商邑を望ませた。

５

武王至于周，自夜不寐。周公旦即王所，曰：「曷為不寐？」王曰：「告女：維天不饗殷，自發未生於今六十年，麋鹿在牧，蜚鴻滿野。天不享殷，乃今有成。維天建殷，其登名民三百六十夫，不顯亦不賓滅，以至今。我未定天保，何暇寐！」王曰：「定天保，依天室，悉求夫惡，貶從殷王受。日夜勞來定我西土，我維顯服，及德方明。自洛汭延于伊汭，居易毋固，其有夏之居。我南望三涂，北望嶽鄙，顧詹有河，粵詹雒、伊，毋遠天室。」營周居于雒邑而後去。縱馬於華山之陽，放牛於桃林之虛；偃干戈，振兵釋旅：示天下不復用也。

武王已克殷，後二年，問箕子殷所以亡。箕子不忍言殷惡，以存亡國宜告。武王亦醜，故問以天道。

武王病。天下未集，群公懼，穆卜，周公乃祓齋，自為質，欲代武王，武王有瘳。後而崩，太子誦代立，是為成王。

武王周に至り、夜より寢られず、周公旦王の所に卽きて曰く、「曷ぞ寢られざる。」と。王曰く、「女に告げん。維れ天下殷に饗け、發の未だ生まれざるより今に於て六十年、麋鹿牧に在り、蜚鴻野に滿てり。天下殷に亨け、乃ち今成る有り。維れ天の殷を建るや。其れ名民三百六十夫を登せり。顯さず、賓滅せず。以て今に至る。我未だ天保を定めず、何ぞ寢るにあらんや。」と。王曰く、「天保を定めば、天室に依り、悉く夫の惡を求め、貶しめて殷王受に從はしめん。日夜我が西土に勞來し、我れ維れ服と徳とを顯にして方に明かにせん。」と。洛汭より伊汭に延ぶまで、居ること易くして固め毋きは、其れ有夏の居なり。我南の方三途を望み、北の方嶽鄙を望み、顧みて有河を瞻る。粵に雒伊を瞻る。天室に遠かること毋し。周居を雒邑に營みて後に去る。馬を華山の陽に縦ち、牛を桃林の虛に放ち、戈を偃せ、兵を振へんと旅を釋きて、天下に復た用ひざるを示すなり。武王已に殷に克ち、後二年に箕子に殷の亡びし所以を問ふ。箕子殷の惡を言ふに忍びず、國を存亡するの宜を以て告ぐ。武王亦た醜づ。故に問ふなり。天道を以てす。武王病す。天下未だ集らず。羣公懼れ穆みて卜す。周公乃ち祓齋し、自ら質と爲り、武王に代らんと欲す。武王瘳ゆる有り。後に崩じぬ。太子誦代り立つ。是を成王と為す。

武王は周に着いてから、夜も眠れなかったところ、周公旦が王の所に行って言うには、「どうして眠れないのか。」と。王が言うには、「お前に告げよう。私は天下の殷を天命で平らげ、發がまだ生まれていなかったときから六十年、麋鹿牧にいた。蜚鴻野にいた。天下殷に受け、そうして現状がこうある。これは天が殷を建国したからだ。その名民三百六十人を登らせた。私は未だ政治を安定して行えていない。どうして眠れるだろうか、いや、眠れない。」と。周公旦がいうには、「政治を安定させることは、天室により、すべての人の悪事を探し、貶しめて殷王受に従わすだろう。日夜私の西方の土地に赴き、私は服従と徳とをあらわにして明かにしよう。」と。洛汭から伊汭に及ぶまで、居やすいのに、政治基盤を固めないのは、そこが夏の本拠地だったからだ。私は南方に三途を望み、北方に嶽山の南を望み、振り返っては有河を注視する。粵に雒伊を注視する。天帝のいる所に遠いことはない。周居を雒邑に営んで、後に去る。馬を華山の陽に放し、牛を桃林の虛に放し、戈を伏せて、兵を集めようとする旅をやめて、天下に再び軍を使わないことを示すのだ。武王はもうに殷に勝ち、その後二年に箕子に殷が滅んだ理由を質問した。箕子殷の悪行を言うことが我慢できず、国の存亡の宜を告げた。武王亦反省した。だから質問したのだ。天道をもってした。武王は病気になった。天下未だ集らず。羣公懼れながら占いをした。周公はそうして身を清めし、自ら人質となり、武王の身代わりになろうとした。武王は病気が良くなった。しかし後に崩御した。太子の誦が代わって即位した。これを成王とした。

誦（成王）　在位　前1042年 - 前1021年

成王少，周初定天下，周公恐諸侯畔周，公乃攝行政當國。管叔、蔡叔群弟疑周公，與武庚作亂，畔周。周公奉成王命，伐誅武庚、管叔，放蔡叔。以微子開代殷後，國於宋。頗收殷餘民，以封武王少弟封為衛康叔。晉唐叔得嘉穀，獻之成王，成王以歸周公于兵所。周公受禾東土，魯天子之命。初，管、蔡畔周，周公討之，三年而畢定，故初作大誥，次作微子之命，次歸禾，次嘉禾，次康誥、酒誥、梓材，其事在周公之篇。周公行政七年，成王長，周公反政成王，北面就群臣之位。

成王在豐，使召公復營洛邑，如武王之意。周公復卜申視，卒營筑，居九鼎焉。曰：「此天下之中，四方入貢道里均。」作召誥、洛誥。成王既遷殷遺民，周公以王命告，作多士、無佚。召公為保，周公為師，東伐淮夷，殘奄，遷其君薄泵。成王自奄歸，在宗周，作多方。既絀殷命，襲淮夷，歸在豐，作周官。興正禮樂，度制於是改，而民和睦，頌聲興。成王既伐東夷，息慎來賀，王賜榮伯作賄息慎之命。

成王將崩，懼太子釗之不任，乃命召公、畢公率諸侯以相太子而立之。成王既崩，二公率諸侯，以太子釗見於先王廟，申告以文王、武王之所以為王業之不易，務在節儉，毋多欲，以篤信臨之，作顧命。

成王少し。周初めて天下を定む。周公諸侯の畔かんことを恐る。周公乃ち政を攝行し國に當る。管叔・蔡叔・羣弟、周公を疑ひ、武庚と亂を作して周に畔く。周公成王の命を奉じ、伐ちて武庚・管叔を誅し、蔡叔を放ち、微子開を以て殷の後に代らしめ、宋に國す。頗る殷の餘民を収め、以て武王の少弟の封を封じて、衛の康叔と爲す。〔晋〕唐叔嘉穀を得て、之を成王に獻ず。成王以て周公に兵所に歸る。周公禾を東土に受け、天子の命を魯ぶ。初め管・蔡の周に畔くや、周公之を討ち、三年にして畢く定まりぬ。故に初めに大誥を作り、次に微子の命を、次に歸禾、次に嘉禾、次に康誥、酒誥、梓材を作る。其の事は周公の篇󠄀に在り。周公政を行ふこと七年、成王長じぬ。周公政を成王に反し、北面して羣臣の位に就く。成王豐に在り、召公をして復た洛邑に營ましめて、武王の如くせんとす。周公復た卜ひ、申べ視す。卒に營築して、九鼎を居う。曰く、「此れ天下の中、四方より入貢するに、道里均し。」と。召誥・洛誥を作る。成王旣に殷の遺民を遷す。周公王命を以て告ぐ。多士・無佚を作る。召公保と爲り、周公師と爲り、東の方淮夷を伐ち、奄を殘ひ、其の君薄姑を遷す。成王奄より歸りて宗周に在り。多方を作る。旣に殷の命を絀け、淮夷を襲ふ。歸りて豐に在り。周官を作る。禮樂を興正し、度制是に於いて改り。而して民和睦し、頌聲興る。成王旣に東夷を伐ち、息愼來賀す。王榮伯に賜ふ。賄息愼の命を作る。成王將に崩ぜんとす。太子釗の任へざるを懼れ、乃ち召公・畢公に命じて、諸侯を率ゐ以て太子を相けて之を立てしむ。成王旣に崩じぬ。二公諸侯を率ゐ、太子釗を以て先王の廟に見えしめ、申べ告ぐるに文王武王の王業を爲し、之易からずして、務めは節儉にして、多欲毋く、篤信を以て之に臨むに在りしことを以す。顧命を作る。

成王は年少だった。周は初めて天下を統一した。周公は諸侯が周に背くことを恐れた。そこで周公は、摂政として国政にあたった。管叔・蔡叔・羣弟は周公を疑い、武庚と反乱を起こしえ周に背いた。周公は成王の命令を奉じ
、鎮圧して武庚・管叔を殺し、蔡叔を追放し、微子開に殷だった地の統治を代わりにさせて、宋に国を置いた。おおいに殷の余民を受け入れ、そうして武王の弟の封を封じて、衛の康叔とした。晋の唐叔は良い稲を得て、これを成王に献上した。成王はそうして周公の陣所に送った。周公は稲を東土に受けて、天子の命を陣に告げた。初め管叔・蔡叔が背いたのを、周公が制圧し、三年で全ておさまった。だから、初めに大誥を書き、次に微子の命を、次に歸禾、次に嘉禾、次に康誥、酒誥、梓材という書物を書いた。そのことは周公の巻に書いてある。周公が政治をして七年、成王は成長した。周公は政治の権限を成王に返し、家臣の一人になった。成王は豊にいた。召公に再び洛邑に都を営ませて、武王のようにしようとした。周公は再び占いをして見た。とうとう完成して、九鼎を置いた。そのときに言うには、「ここは天下の中で、四方から入貢するのに、道のりが等しい。」と。召誥・洛誥をという書を作った。成王は旣に殷の遺民を移動した。周公は王命をもって命令を告げた。多士・無佚という書を作った。召公は保となり、周公は師となり、東の方淮夷を制圧し、奄を平らげ、その長である薄姑を移動させた。成王は奄から帰って宗周にいた。多方という書をった。旣に殷の命を絀け、淮夷を襲った。帰って豊に着いた。周官という書を作った。祭りや音楽などを正しく興し、法則などはそうしてから改まった。なので民は和睦し、王を褒める声があがった。成王は旣に東夷を制圧し、息愼は周に來賀してきた。王榮伯に位を授けた。賄息愼の命という書を作た。成王がまさに崩御しかけた。太子釗が公認に選ばれないのを恐れ、おこで召公・畢公に命じて、諸侯を率いて太子を助けてを釗を立てさせた。成王はとうとう崩じた。二人の公は諸侯を率いて、太子釗に先王の廟に参詣させ、褒めたたえるのに文王・武王の王としての業績をなし、これは容易ではなくて、務めは厳しく困難で、多欲なく、篤信を以て政治に臨んでいたことを言わせた。顧命という書を作る

釗（康王）在位　前1020年 - 前996年

太子釗遂立，是為康王。康王即位，遍告諸侯，宣告以文武之業以申之，作《康誥》。故成康之際，天下安寧，刑錯四十餘年不用。康王命作策畢公分居里，成周郊，作《畢命》。

太子釗遂に立つ。是を康王と爲す。康王位に卽き、徧く諸侯に告ぐ。宣べ告るに文武の業を以てし、以て之を申す。康誥を作る。故に成康の際は、天下安寧にして、刑錯を四十餘年用ひず。康王命じて策を作らしむ。畢公居里を分ちて周郊を成す。畢命を作る。

太子の釗がとうとう即位した。これを康王とした。康王は即位して、広く諸侯に宣言した。宣言したことには、文王・武王の偉業を語った。「康誥」という書を作った。だから、成王・康王のときには、天下は安定していて、処刑を四十数年行わなかった。康王は命令して民生安定の策を練らせた。畢公は村や町の区画を分けた。「畢命」という書を作った。

瑕（昭王）　在位　前995年 - 前977年

康王卒，子昭王瑕立。昭王之時，王道微缺。昭王南巡狩不返，卒於江上。其卒不赴告，諱之也。

康王卒しぬ。子の昭王瑕立つ。昭王の時、王道微しく缺く。昭王南に巡狩して返らず、江上に卒しぬ。其の卒せるを赴告せざるは、之を諱てなり。

康王が崩御した。そして子の昭王の瑕が即位した。昭王の時、王道が少し衰微した。昭王は南方に巡幸し、都に帰らず、漢水を渡る時に溺死した。昭王が崩御したことを天下に知らせなかったのは、昭王の王者としての終わり方を忌んだからだった。

滿（穆王）　在位　前976年 - 前922年

1

立昭王子滿，是為穆王。穆王即位，春秋已五十矣。王道衰微，穆王閔文武之道缺，乃命伯臩申誡太仆國之政，作臩命。復寧。

昭王の子の滿立つ。是を穆王と爲す。穆王位に卽き、春秋已に五十、王道衰微せり。穆王文武の道の缺けたるを閔ひ、乃ち伯臩に命じて太僕に國の政を申誠せしむ。臩命を作る。復た寧し。

そして昭王の子の滿が即位した。これを穆王とした。穆王が即位したとき、年齢はすでに五十歳。王道は衰微した。穆王は文王・武王から受け継いだ王道が衰退しているのを憂い、そうして伯臩に命じて太僕に国の政治を述べさせた。「臩命」という書を作った。再び世の中は安らかになった。

2

穆王將征犬戎，祭公謀父諫曰：「不可。先王燿德不觀兵。夫兵戢而時動，動則威，觀則玩，玩則無震。是故周文公之頌曰：『載戢干戈，載櫜弓矢，我求懿德，肆于時夏，允王保之。』先王之於民也，茂正其德而厚其性，阜其財求而利其器用，明利害之鄉，以文修之，使之務利而辟害，懷德而畏威，故能保世以滋大。昔我先王世后稷以服事虞、夏。及夏之衰也，棄稷不務，我先王不窋用失其官，而自竄於戎狄之閒。不敢怠業，時序其德，遵修其緒，修其訓典，朝夕恪勤，守以敦篤，奉以忠信。奕世載德，不忝前人。至于文王、武王，昭前之光明而加之以慈和，事神保民，無不欣喜。商王帝辛大惡于民，庶民不忍，訢載武王，以致戎于商牧。是故先王非務武也，勸恤民隱而除其害也。夫先王之制，邦內甸服，邦外侯服，侯衛賓服，夷蠻要服，戎翟荒服。甸服者祭，侯服者祀，賓服者享，要服者貢，荒服者王。日祭，月祀，時享，歲貢，終王。先王之順祀也，有不祭則修意，有不祀則修言，有不享則修文，有不貢則修名，有不王則修德，序成而有不至則修刑。於是有刑不祭，伐不祀，征不享，讓不貢，告不王。於是有刑罰之辟，有攻伐之兵，有征討之備，有威讓之命，有文告之辭。布令陳辭而有不至，則增修於德，無勤民於遠。是以近無不聽，遠無不服。今自大畢、伯士之終也，犬戎氏以其職來王，天子曰『予必以不享征之，且觀之兵』，無乃廢先王之訓，而王幾頓乎？吾聞犬戎樹敦，率舊德而守終純固，其有以御我矣。」王遂征之，得四白狼四白鹿以歸。自是荒服者不至。

穆王將に犬戎を征せんとす。祭公謀父諫めて曰く、「不可なり。先王徳を懼れて兵を觀しめさず。夫れ兵は戢めて時に動く。動けば則ち威あり。觀せば則ち玩る。玩るれば則ち震るること無し。是の故に周文公の頌に曰く、『載ち戈を戢め、載ち弓矢を櫜む。我懿徳を求めて、時の夏に肆ぶ。允に王之を保つ。』と。先王の民に於けるや、茂めて其の徳を正し、其の性を厚くし、其の財求を阜かにし、其の器用を利し、利害の鄉を明らかにし、文を以て之を修め、之をして利を務め害を辟り、徳を懷きて威を畏れしめ、故に能く世を保ちて、以て滋々大なり。昔我が先王后稷を世にして以て虞夏に服事したり。夏の衰ふに及び、稷を弃て、務めず、我が先王不窋を用て其の官を失ひ、自ら戎狄の間に竄れ、敢へて業を怠らず、時に其の徳を序で、其の緒を遵ひ修め、其の訓典を修め、朝夕に恪勤して、守るに敦篤を以てし、奉ずるに忠信を以てし、奕世徳を載して、前人を忝めず。文王・武王に至り、前の光明を昭かにし、之に加ふるに滋和を以てし、神に事へ、民を保んじ、欣喜せざる無し。商王帝辛大いに民に惡まる。庶民忍びず、武王を訢載し、以て戎を商の牧に致す。是の故に先王武を務むるに非ざるなり。民隱を勸恤して、其の害を除きしなり。夫れ先王の制が、邦内は甸服なり。邦外は侯服なり。侯衞は賓服なり。夷蠻は要服なり。戎翟は荒服なり。甸服の者は祭し、侯服の者は祀し、賓服の者は享し、要服の者は貢し、荒服の者は王す。日に祭し、月に祀し、時に享し、歳に貢し、終に王するは、先王の順〔祀〕なり。祭せざる有れば、則ち意を修め、祀せざる有れば、則ち言を修め、享せざえる有れば、則ち文を修め、貢せざる有れば、則ち名を修め、王せざる有れば、則ち徳を修む。序成りて至らざる有れば、則ち刑を修む。是に於いて不祭を刑し、不祀を伐ち、不享を征し、不貢を讓め、不王に告ぐる有り。是に於いて刑罰の辟有り。攻伐の兵有り。征討の備有り。威讓の命有り。文告の亂有り。令を布き亂を陳べ至らざる有れば、則ち徳を增修すして、民をして遠きに勤らすこと無し。是を以て近きものは聽かざる無く、遠きものは服せざる無し。今大畢・伯士の終りしよりや、犬戎氏其の職を以て來王す。天子曰く、『予れ必ず享を以て之を征せん、且つ之に兵を觀さん』と。乃ち先王の訓を廢てて、王幾頓する無からんや。吾聞く、『犬戎樹つ敦く、舊德に率ひて守り終に純固なり。』と。其れ以て我を禦ぐ有らん。」と。王遂に之を征し、四の白狼、四の白鹿を得、以て歸る。是より荒服の者至らず。

祭公謀父　Wikipedia　https://zh.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%AD%E5%85%AC%E...

穆王が今にも犬戎を征服しようとした。祭公謀父が諫めて言うには、「それはだめです。先代の王は徳を輝かせ、兵で威嚇しなかった。そもそも兵は平時は動かさず、動かせば威力を行使するものだ。兵を無駄に出せば、兵力が疲弊して威力を恐れる人はいなくなる。この理由に周の文王の言葉がある。曰く、『武器を収め、弓矢を包む。私は美徳を求めて、繁栄を歌にする。本当に王はこの美徳を保有して、民に輝かすのだ。』と。先王が民に行ったように、努めて王の徳を正し、民の生命を守り、民の財産を豊かにし、民の使う器具を作って便利にし、民の利害が向かうところを明らかにし、礼法をもって民を治め、民に利があるよう、害を避けさせ、徳をもって懐かせ、威をもって畏れさせる。だから治世を保つことが出来、また益々大きくなる。昔、周の先祖は后稷を代々受け継ぎそうして夏に服従し、夏が衰退したときに、稷の職を捨てて務めなかった。不窋はその官職を失ったことで、自分で蛮族のいるところへ隠れた。しかし、決して仕事を怠ったのではない。たまにその徳を整え、その事業を修め、その訓典を学び、朝も夕も働き、これをあつい心で守り、忠信の心で働いた。このようにして、代々徳を修め輝かせて、先祖に恥をかかせなかった。その後、文王・武王の代に至り、先祖の光明を明らかにして、それに滋和の徳を加え、神に仕え、民を安らかにし、神も民も喜ばない者はなかった。商の王、帝辛は大いに民に怨まれた。庶民は我慢せず、武王を戴いて、商の牧で戦いをいたした。だから、先王は武力をむやみに用いなかった。民の苦痛をいたわり、その害を除いただけだ。そもそも昔の王の代にあった制度は、国内は甸服として、国外は侯服として、遠い諸侯の地は賓服として、さらに遠い野蛮人の土地は要服として、そのまたさらに遠い野蛮人の土地は荒服とした。甸服の者は天子の日祭の供え物を貢ぎ、侯服の者は天子の月祭の供え物を貢ぎ、賓服の者は天子の四時祭の供え物を貢ぎ、要服の者は天子の歳祭の供え物を貢ぎ、荒服の者は来朝したときに儀式をしたことは、先王にならってのことである。日祭の貢物をしない者がいれば、天子の自分の意志を改めて、月祭に貢物をしない者がいれば、天子は法令を改め、四時祭に貢物をしない者がいれば、天子は自分の礼法を改め、歳祭に貢物をしない者があれば、自分の名前を改め、来朝しても儀式をしない者がいれば、自分の徳を修めた。まずこうして改めても貢物や儀式にやって来ない者がいれば、始めて処罰した。こうして、日祭に来ないのを罰し、月祭に来ないのを討伐し、四時祭に来ないのを征服し、歳祭に来ないのを責め、来朝して儀式しないのを説得した。そうして、日祭に来ない者には罰則があり、月祭に来ない者には攻撃の兵を送り、四時祭に来ない者には征服するための兵を配備し、歳祭に来ない者には権威をもって叱るための法令もあり、儀式に来ない者には説得するための言葉もあった。法令をしき、説得にも応じない者がいれば、自分の徳を修めて増し、民に遠征させることもなかった。こうして王都の近くにいる者で聴かない者はおらず、遠くの者で服従しない者はいなかった。今、犬戎の君主である大畢・伯士が亡くなってから、犬戎はその職務を全うして来朝してくる。我が天子であるあなた様は『私は必ず犬戎が来朝してこないことを理由に、これを征伐しよう、そして我が国の兵を見させて威嚇しよう。』と言う。先王の訓を捨てて、王は廃れることが無いのだろうか、いや、廃れる。私は『犬戎は国民性が親切丁寧で、今の君主は以前の徳を引き継ぎ、その職を最後まで守ろうとしている。』と聞いている。それは我らを守ろうともしているのだろう。」と。王は聞かず、とうとう犬戎を制圧し、四匹の白い狼、四頭の白い鹿を手に入れ、帰還した。このことがあって、荒服の者は貢物をしてこなかった。

3

諸侯有不睦者，甫侯言於王，作修刑辟。王曰：「吁，來！有國有土，告汝祥刑。在今爾安百姓，何擇非其人，何敬非其刑，何居非其宜與？兩造具備，師聽五辭。五辭簡信，正於五刑。五刑不簡，正於五罰。五罰不服，正於五過。五過之疵，官獄內獄，閱實其罪，惟鈞其過。五刑之疑有赦，五罰之疑有赦，其審克之。簡信有眾，惟訊有稽。無簡不疑，共嚴天威。黥辟疑赦，其罰百率，閱實其罪。劓辟疑赦，其罰倍灑，閱實其罪。臏辟疑赦，其罰倍差，閱實其罪。宮辟疑赦，其罰五百率，閱實其罪。大辟疑赦，其罰千率，閱實其罪。墨罰之屬千，劓罰之屬千，臏罰之屬五百，宮罰之屬三百，大辟之罰其屬二百：五刑之屬三千。」命曰甫刑。

諸侯睦まじからざる者有り。甫侯王に言て刑辟を作修す。王曰く、「ああ、來れ、有國有土、汝に祥刑を告げん。今に在りて百姓を安んずるは、何をか懌ぶや。其の人に非ずや、何をか敬む。其の刑に非ずや、何をか居く。其の宜に非ずや、兩造具備、師五辭を聽け、五辭簡信なれば、五刑に正せ。五刑簡ならずんば、五罰に正せ。五罰服せずんば、五過に正せ。五過の疵は官獄内獄となり、其の罪を閲實せよ。維れ其の過を鈞しうせよ。五刑の疑しきは赦す有り、五罰の疑しきは赦す有り、其れ之を審克せよ。簡信にして衆有らば、維れ訊を稽ふる有れ。簡無きは疑はず、天威を共嚴せよ。黥辟の疑しきは赦す。其の罰百率、其の罪を閲實せよ。劓辟の疑しきは赦す。其の罰倍灑、其の罪を閲實せよ。臏辟の疑しきは赦す。其の罰倍差、其の罪を閲實せよ。宮辟の疑しきは赦す。其の罰五百率、其の罪を閲實せよ。大辟の疑しきは赦す。其の罰千率、其の罪を閲實せよ。墨罰の屬千、劓罰の屬千、臏罰の屬五百、宮罰の屬三百、大辟の罰其屬二百、五刑の屬三千。命じて甫刑と曰ふ。」と。

諸侯で仲が睦まじくない者がいた。甫侯は王に申し出て刑罰を作った。王が言うに、「ああ、来い。国を持つ者、封土を持つ者よ。お前たちに良い刑罰の運用方法について告げよう。今、お前たちが人民を安心させることに、何を選ぶか。それが賢人でないなら、何を敬うのか。それが刑罰でないなら、何を処罰しようというのか。それがちょうどよい物でなければ、役人は囚人と証人を取り調べて、十分に信用できれば、五刑に正せ。五刑が十分でないなら、五罰に正せ。五罰で応じないなら、五過に正せ。五過の刑とは牢獄入りのことである。そうしてその罪を明らかにせよ。その罰と罪は等しくせよ。五刑の疑わしいのは許すこともあり、五罰の疑わしいのも許すこともあるが、それはよく審議せよ。審議して吟味し、上申する証人もいたら、尋問して再考することもしなさい。吟味することがなければ、疑わず、天の威光を恐れて刑を実行しないようにせよ。入れ墨の刑で疑わしいのは許し、代わりに金六百両を出させ、その罪を明らかにせよ。鼻を削ぐ刑で疑わしいのは許し、代わりに金千二百両を出させ、その罪を明らかにせよ。足を削ぐ刑で疑わしいのは許し、代わりに金二千四百両を出させ、その罪を明らかにせよ。宮刑で疑わしいのは許し、代わりに金三千六百両を出させ、その罪を明らかにせよ。死刑で疑わしいのは許し、代わりに金六千両を出させ、その罪を明らかにせよ。墨罰が一千か条、鼻削ぎが一千か条、足削ぎが五百か条、宮刑が三百か条、死刑が二百か条、合わせて五刑で三千か条の罪がある。これを命じて甫刑と言う。」と。

繄扈（共王）　在位　前922年 - 前900年

穆王立五十五年，崩，子共王繄扈立。共王游於涇上，密康公從，有三女奔之。其母曰：「必致之王。夫獸三為群，人三為眾，女三為粲。王田不取群，公行不下眾，王御不參一族。夫粲，美之物也。眾以美物歸女，而何德以堪之？王猶不堪，況爾之小醜乎！小醜備物，終必亡。」康公不獻，一年，共王滅密。

穆王五十五年にして崩ず。子共王繄扈立つ。共王涇の上に游ぶ。密の康公從ふ。三女有りて之に犇る。其の母曰く、「必ず之を王に致せ。夫れ獸三を羣と爲し、人三たりて衆と爲し、女三たりて粲と爲す。王の田には羣を取らず、公の行には衆を下にせず。王の御は一族を參にせず。夫れ粲は、美の物なり。衆美物を以て汝に歸る。而何の徳有りて、以て之に堪へん。王だも猶ほ堪へず。況や爾の小醜をや。小醜物を備へる、終に必ず亡びん。」と。康公獻ぜす、一年にして共王密を滅す。

涇　涇水。　コトバンク　https://kotobank.jp/word/%E6%B6%87%E6%B0%B4-116283...
密　諸侯の国。　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%86_(%E8%A5%BF...

穆王は五十五年で崩御した。子の共王である繄扈が即位した。共王は涇水に行幸した。密の康公が同行した。三人の女がいて、王に向かって走ってきた。その母が言うには、「必ず三女を王に差し上げよ。そもそも、獣を三匹合わされば羣となり、人を三人合わされば衆となり、女は三人合わされば美しくなる。王の田では獣の群れを狩らず、諸侯の行列には衆を下に見ず、王の婦官は三人以上用いない。粲は美しい物のことをいう。多く美しいものをお前に属するが、なんの徳があって、美物の誘惑に耐えられるか。王でさえ耐えられない。ましてお前のような小物で醜い者にはなおさらだ。小物が物を自分の物にそようとすると、結局必ず亡びるだろう。」と。康公は献上せず、一年後に共王は密国を滅ぼした。

囏（懿王）在位　前899年 - 前892年・辟方（孝王）在位　前891年 - 前886年・燮（夷王）在位　前885年 - 前878年

共王崩，子懿王艱立。懿王之時，王室遂衰，詩人作刺。懿王崩，共王弟辟方立，是為孝王。孝王崩，諸侯復立懿王太子燮，是為夷王。

共王崩じて、子の懿王囏立つ。懿王の時に、王室遂に衰へぬ。詩人剌を作す。懿王崩じて、共王の弟辟方立つ。是を孝王と爲す。孝王崩じて、諸侯復た懿王の太子燮を立つ。是を夷王と爲す。

剌　風刺の詩。

共王が崩御して、子の懿王である囏が即位した。懿王のときに、周の王朝はとうとう衰えてきま。詩人は風刺の詩を作った。懿王が崩御して、共王の弟（懿王のおじ）の辟方が即位した。これを孝王とした。孝王が崩御して、諸侯は懿王の太子である燮を立てた。これを夷王とした。

胡（厲王）　在位　前877年 - 前841年

夷王崩，子厲王胡立。厲王即位三十年，好利，近榮夷公。大夫芮良夫諫厲王曰：「王室其將卑乎？夫榮公好專利而不知大難。夫利，百物之所生也，天地之所載也，而有專之，其害多矣。天地百物皆將取焉，何可專也？所怒甚多，不備大難。以是教王，王其能久乎？夫王人者，將導利而布之上下者也。使神人百物無不得極，猶日怵惕懼怨之來也。故《頌》曰『思文后稷，克配彼天，立我蒸民，莫匪爾極』。大雅曰『陳錫載周』。是不布利而懼難乎，故能載周以至于今。今王學專利，其可乎？匹夫專利，猶謂之盜，王而行之，其歸鮮矣。榮公若用，周必敗也。」厲王不聽，卒以榮公為卿士，用事。

王行暴虐侈傲，國人謗王。召公諫曰：「民不堪命矣。」王怒，得衛巫，使監謗者，以告則殺之。其謗鮮矣，諸侯不朝。三十四年，王益嚴，國人莫敢言，道路以目。厲王喜，告召公曰：「吾能弭謗矣，乃不敢言。」召公曰：「是鄣之也。防民之口，甚於防水。水壅而潰，傷人必多，民亦如之。是故為水者決之使導，為民者宣之使言。故天子聽政，使公卿至於列士獻詩，瞽獻曲，史獻書，師箴，瞍賦，矇誦，百工諫，庶人傳語，近臣盡規，親戚補察，瞽史教誨，耆艾修之，而後王斟酌焉，是以事行而不悖。民之有口也，猶土之有山川也，財用於是乎出：猶其有原隰衍沃也，衣食於是乎生。口之宣言也，善敗於是乎興。行善而備敗，所以產財用衣食者也。夫民慮之於心而宣之於口，成而行之。若壅其口，其與能幾何？」王不聽。於是國莫敢出言，三年，乃相與畔，襲厲王。厲王出奔於彘。

夷王崩じて、子の厲王胡立つ。厲王位に卽きて三十年、利を好みて榮の夷公を近くにす。大夫汭良夫厲王を諫めて曰く、「王室其れ將に卑しからんとするか。夫れ榮公、利を専にすること好みて大難を知らず、夫れ利は百物の生ずる所なり、天地の載す所なり。是を専らにすること有らば、其の害多からん。天地の百物、皆將に取らんとす。何ぞ専らにすべけんや。怒る所甚だ多くして、大難に備へず、是を以て王に教へば、王其れ能く久からんや。夫れ人に王たるは、將に利を導きて之を上下に布かんとす者なり。神人百物をして、極を得ずといふこと無らしむるも、猶ほ日に怵惕して怨の來らんことを懼るなり。故に頌に曰く、『文ある后稷を思ふに、克く彼の天に配せり、我烝民を立て、爾の極に匪といふこと莫らむ。』と。大雅に曰く、『陳き錫ひて周を載す。』と。是れ利を布きて難を懼るるならずや。故に能く周を載し以て今に至れり。今王利を専にすることを學べば其れ可ならずや。匹夫利を専にする、猶ほ之を盗と謂ふ。王にして之を行はば、其れ歸すること鮮けん。榮公若し用ひらるれば必ず敗れん。」と。厲王聽かず、卒に榮公を以て卿士を爲して、事を用ひしむ。王暴虐を行ひて侈傲なり。國人王を謗る。召公諫めて曰く、「民命に堪へず。」と。王怒る。衞の巫を得て、謗る者を監せしむ。以て告ぐれば則ち之を殺す。其の謗ること鮮し。諸侯朝せず、三十四年にして、王益嚴なり。國人敢て言ふ莫し。道路目を以てす。厲王喜び、召公に告げて曰く、「吾れ能く謗りを弭めぬ。乃ち敢て言はず。」と。召公曰く、「是れ之を鄣ぐなり。民の口を防ぐは、水を防ぐより甚し。水壅りて潰へば、人を傷ること必ず多し。民亦た之のごとし。是の故に水を爲むるは、之を決して導かしむ。民を爲むるは、之を宣べて言はしむ。故に天子の政を聽くや、公卿より列士に至るまで、詩を獻じ、瞽は典を獻じ、史は書を獻じ、師は箴し、瞍は賦し、矇は誦し、百工は諫め、庶人は傳語し、近臣は規を盡くし、親戚は補ひ察し、瞽史は教誨し、耆艾は之を脩めしむ。而して後に王斟酌す。是を以て事行われて悖らず。民の口有るは、猶ほ其れ山川のあるがごとしなり。財用是に於いて出づ。猶ほ其れ原隰衍沃有るがごとしなり。衣食是に於いて生づ。口の言を宣ぶるや、善敗是に於いて興る。善を行ひ敗に備へば、財用衣食を産する所以なり。夫れ民之を心に慮り、而して之を口に宣べ、成して之を行はんとす。若し其の口を壅がば、其れ能く幾何ぞ。」と。王聽かず、是に於いて國敢て言を出す莫し。三年、乃ち相與に畔きて、厲王を襲ふ。厲王彘に出犇す。

彘　現在の山西省霍州市。　Wikipedia（厲王）　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%B2%E7%8E%8B

夷王が崩御して、子の厲王が即位した。厲王が即位してから三十年、利益を好んで榮の夷公を近くに置いた。大夫の汭良夫は厲公を諫めて言うには、「王室はもう衰微してしまいそうか。もともと夷公は、利益を独占することを好んで非常な困難をしらない。利は様々なものから生まれるものであり、天地から来るものである。これを独占することなどあれば、その弊害は多いだろう。天地の様々なものを皆独占しようと取りはじめるだろう。どうして独占していいだろうか。夷公に怒る者が多く、非常な困難に備えず、王にそういった態度を示せば、王は長く在位できようか。そもそも人に王として君臨するのは、利を民に導いて、全人民に広げようとするものだ。神も人も万物を、偏るところなく至らしめるのも、毎日おそれて遠慮するほどだ。だから、人を褒める詩に言うことには、『国家を思うに、すべて天下に利を配り、我も大臣も民も支え、あなたの隠し持っているものはない。』と。大雅に言うには、『平らに利をいたし、周を作った。』と。これは利を広く民にまで施して難を恐れたのではない。利益を天下に広く施したからこそ、周を建国でき今に至った。今、王が利益を独占することを学べば、それは良くない。つまらない者は利益を独占する。これを盗人ともいう。王でありながらこのようなことをするならば、従属している者は少なくなるだろう。榮公がもし用いられられれば、必ずいづれ国は敗れるだろう。」と。厲王は聞かなかった。とうとう榮公を卿士にして、政治をさせた。王は暴虐で傲慢だった。国民は王を謗った。召公が諫めて言うには、「民は王の命令に我慢できません。」と。王は怒った。衛の占い師を登用し、謗る者を監視させた。そうして悪口を言えば言った者を殺した。悪口を言う者は少なくなった。諸侯は周に来朝しなくなった。三十四年で、王はますます政令を厳しくした。国民は決して悪口を言わなくなった。目くばせで王の悪口を言い合った。厲王は喜んで、召公に言うには「私は悪口を止めることが出来た。国民は全く言っていない。」と。召公が言うには、「これは民の口をふさいだということだ。民の口をふさぐのは、水をふさぐより酷い。水があふれ洪水になれば、人が多く傷つく。民の場合でも水のようなものだ。だから、治水は、流路を定めてはけ口を導くもだ。民を治めるのは、水と同じで言わせておくのだ。だから、天子が政治をすると、公卿から兵士まで、詩を献上し、文盲は本を差し出し、官吏は書を献上し、側近は戒めの言葉を述べ、盲人でも賦役に行き、愚かでも王の偉業を口ずさみ、職人は改まり、庶民は偉業を後世に伝え、家臣は規範となし、親戚は足りないところを察し補い、楽大師と太史は手本に教え、老人は王を飾り立てる。そののち王は状況を斟酌する。このようにして政治が行われれば道理に背かない。民に口があるのは、地に山川があるようなものだ。財などはここから出てくる。広く豊かな平原があるようなものだ。衣食はここから生まれる。口で物事を言うことから、善や悪は生れる。善を行い敗に備えれば、財や衣食住は生れてくる理由となる。そもそも、民は心の中でこれを慮り、言葉にして口に出し、これを行おうとする。もし民の口をふさげば、どれほど成せるか。」と。王は聞かなかった。そうして、国中は決して言葉にするものがいなくなった。三年後、互いに反乱を起こしあい、厲王を襲った。厲王は彘の地に逃亡した。

靜（宣王）　在位　前828年 - 前782年

厲王太子靜匿召公之家，國人聞之，乃圍之。召公曰：「昔吾驟諫王，王不從，以及此難也。今殺王太子，王其以我為讎而懟怒乎？夫事君者，險而不讎懟，怨而不怒，況事王乎！」乃以其子代王太子，太子竟得脫。

召公、周公二相行政，號曰「共和」。共和十四年，厲王死于彘。太子靜長於召公家，二相乃共立之為王，是為宣王。宣王即位，二相輔之，修政，法文、武、成、康之遺風，諸侯復宗周。十二年，魯武公來朝。

宣王不修籍於千畝，虢文公諫曰不可，王弗聽。三十九年，戰于千畝，王師敗績于姜氏之戎。

宣王既亡南國之師，乃料民於太原。仲山甫諫曰：「民不可料也。」宣王不聽，卒料民。

厲王の太子靜召公の家に匿る。國人之を聞き、乃ち之を圍む。召公曰く、「昔吾驟^しばしば王を諫めたれども、王從はすして、以て此の難に及べり。今王の太子を殺さば、王其れ我を以て讐として懟み怒ると爲さん。夫れ君に事ふる者も、險なれども讐として懟まず、怨めども怒らず。況や王に事ふるや。」と。乃ち其の子を以て王の太子に代る。太子竟に脱することを得たり。召公周公二相政を行ふ。號して共和と曰ふ。共和十四年
厲王彘に死す。太子靜召公の家に長ず。二相乃ち共に之を立て王と爲す。是を宣王と爲す。宣王の位に卽くや、二相之を輔けて、政を修め、文武成康の遺風に法る。諸侯復た周を宗とす。十二年、魯の武公來朝す。宣王籍を千畝に修めず、虢の文公諫めて曰く、「不可なり。」と。王聽かず、三十九年、千畝に戰ふ。王師姜氏の戎に敗績す。宣王旣に南國の師を亡ひ、乃ち民を太原に料へんとす。仲山甫諫めて曰く、「民は料ふべからずなり。」と。宣王聽かず、卒に民を料ふ。

籍を千畝に修めず　参考資料②（有朋堂書店の『史記　巻一』P.113に「天子親ら耕する田を籍田といふ、宣王之を耕さず」とある。
千畝　現在の山西省継秀市の南　Wikipedia　https://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%83%E7%95%9D%E...

厲王の太子である靜は召公の家で匿われた。国民はこれを聞いて、召公の家を囲んだ。召公が言うには、「昔私は王を数回諫めたが、王は従わず、そうしてこの擾乱に至った。今王の太子を殺せば、王は私を敵だとして恨み怒るだろう。そもそも主人に仕える者も、厳しく接するが敵とは思わず、怨んでも怒らない。まして王に仕えるものはなおさらだ。」と。そうして召公の子を王の太子の身代わりとした。太子はやっと脱出できた。召公と周公の二人で共に政治を行った。名づけて共和と言った。共和十四年、厲王は彘の地で死んだ。太子の靜は召公の家で育った。二人の大臣は共に太子を立てて王とした。これを宣王とした。宣王が位につくと、二人は王を助け、政治を修め、文王・武王・成王・康王の残した方法に則った。諸侯は再び周を主君とした。十二年、魯の武公が来朝した。宣王は田を耕さなかった。虢の文公が諫めて言うには、「これではいけない。」と。王は聞かなかった。三十九年、千畝で戦った。王や軍師は姜氏の異民族に敗れた。宣王はついに南国の軍師を亡くし、民を太原で徴兵しようとした。仲山甫が諫めて言うには、「民を徴兵してはならない。」と。王は聞かなかった。とうとう民を徴兵した。

宮湦（幽王）※宮涅とも。　在位　前781年 - 前771年

四十六年，宣王崩，子幽王宮湦立。幽王二年，西周三川皆震。伯陽甫曰：「周將亡矣。夫天地之氣，不失其序；若過其序，民亂之也。陽伏而不能出，陰迫而不能蒸，於是有地震。今三川實震，是陽失其所而填陰也。陽失而在陰，原必塞；原塞，國必亡。夫水土演而民用也。土無所演，民乏財用，不亡何待！昔伊、洛竭而夏亡，河竭而商亡。今周德若二代之季矣，其川原又塞，塞必竭。夫國必依山川，山崩川竭，亡國之徵也。川竭必山崩。若國亡不過十年，數之紀也。天之所棄，不過其紀。」是歲也，三川竭，岐山崩。

三年，幽王嬖愛褒姒。褒姒生子伯服，幽王欲廢太子。太子母申侯女，而為后。後幽王得褒姒，愛之，欲廢申后，并去太子宜臼，以褒姒為后，以伯服為太子。周太史伯陽讀史記曰：「周亡矣。」昔自夏后氏之衰也，有二神龍止於夏帝庭而言曰：「余，褒之二君。」夏帝卜殺之與去之與止之，莫吉。卜請其漦而藏之，乃吉。於是布幣而策告之，龍亡而漦在，櫝而去之。夏亡，傳此器殷。殷亡，又傳此器周。比三代，莫敢發之，至厲王之末，發而觀之。漦流于庭，不可除。厲王使婦人裸而譟之。漦化為玄黿，以入王後宮。後宮之童妾既齔而遭之，既笄而孕，無夫而生子，懼而棄之。宣王之時童女謠曰：「厭弧箕服，實亡周國。」於是宣王聞之，有夫婦賣是器者，宣王使執而戮之。逃於道，而見鄉者後宮童妾所棄妖子出於路者，聞其夜啼，哀而收之，夫婦遂亡，奔於褒。褒人有罪，請入童妾所棄女子者於王以贖罪。棄女子出於褒，是為褒姒。當幽王三年，王之後宮見而愛之，生子伯服，竟廢申后及太子，以褒姒為后，伯服為太子。太史伯陽曰：「禍成矣，無可奈何！」

褒姒不好笑，幽王欲其笑萬方，故不笑。幽王為烽燧大鼓，有寇至則舉烽火。諸侯悉至，至而無寇，褒姒乃大笑。幽王說之，為數舉烽火。其後不信，諸侯益亦不至。

幽王以虢石父為卿，用事，國人皆怨。石父為人佞巧善諛好利，王用之。又廢申后，去太子也。申侯怒，與繒、西夷犬戎攻幽王。幽王舉烽火徵兵，兵莫至。遂殺幽王驪山下，虜褒姒，盡取周賂而去。於是諸侯乃即申侯而共立故幽王太子宜臼，是為平王，以奉周祀。

四十六年に、宣王崩じぬ。子の幽王宮涅立つ。幽王二年、西周の三川皆震ふ。伯陽甫曰く、「周將に亡びんとす。夫れ天地の氣は其の序を失わず、若し其の序を過つは、民之を亂すなり。陽伏して出づる能はず。陰迫りて蒸ぼる能はず。是に於いて地震有り。今三川實に震ふ。是れ陽其の所失ひて陰に填せるなり。陽失ひて陰に在れば、原必ず塞がる。原塞がれば國必ず亡ぶ。夫れ水土演^うるほひて民用ふるなり。土演ふ所無ければ、民、財用に乏し。亡びずして何をか待たん。昔伊洛竭きて夏亡び、河竭きて商亡ぶ。今周の徳二代の季^すえのごとし。其川原又塞がる。塞がれば必ず竭く。夫れ國は必ず山川に依る。山崩れ川竭くるは、亡国の徴なり。川竭くれば必ず山崩る。若し國亡べば十年に過ぎじ。數の紀なり。天の弃つる所、其の紀に過ぎじ。」と。是歳や三川竭き、岐山崩る。三年に、幽王襃姒を嬖愛す。襃姒の子の伯服を生む。幽王太子を廢せんと欲す。太子の母は申侯の女にして、后たり。後幽王襃姒を得て之を愛す。申后を廢し、幷せて太子宜臼を去て、襃姒を以て后と爲し、伯服を以て太子と爲さんと欲す。周の太子伯陽史記を讀みて曰く、「周は亡びん。」と。昔夏后氏衰へしより、二つの神龍有り。夏帝の庭に止りて言いて曰く、「余は襃姒の二君なり。」と。夏帝之を殺さんと之を去てんと、之を止めんとを卜ふ。吉なること莫し。其の漦を請ひて之を藏めんと卜ふ。乃ち「吉なり。」と。是に於いて幣を布きて策して之に告ぐ。龍亡げて漦在り。櫝にして之を去む。夏の亡びしとき、此の器を殷に傳ふ。殷亡びしとき、又此の器を周に傳ふ。三代の比^ころ、敢て之を發く莫し。厲王の末に至り、發きて之を觀る。漦庭に流れ、除くべからず。厲王婦人をして裸にして之を譟があしむ。漦化して玄黿と爲る。以て王の後宮に入る。後宮の童妾、旣^ことごとく齔にして之に遭ふ。旣に笄して孕む。夫無く子を生む。懼れて之を弃つ。宣王の時に、童女謡ひて曰く、「檿弧箕服、實に周國を亡ぼさん。」と。是に於いて宣王之を聞くに、「夫婦の是の器を賣る者有り。」と。宣王執へて之を戮さしむ。逃れて道に於いて鄉に後宮の童妾の弃てたる所の妖子の路に出づる者を見る。其の夜啼を聞き、哀れみて之を収め、夫婦遂に亡げて、襃に犇る。襃人罪有り。童妾弃てたる所の女子を王に入れて、以て罪を贖はんと請ふ。弃てたる女子は襃より出づ。是を襃姒と爲す。幽王の三年に當り、王後宮に之き、見て之を愛す。子の伯服を生む。竟に申后及び太子を廢し、襃姒を以て后と爲し、伯服を以て太子と爲す。太史伯陽曰く、「禍成れり。奈何ともすべき無し。」と。襃姒笑ひて好まず、幽王其の笑ひを欲す。萬方すれども故に笑はず。幽王熢燧大鼓を爲くり、寇の至る有れば、則ち烽火を擧げ、諸侯悉く至る。至りて寇無し。襃姒乃ち大いに笑ふ。幽王之に説び、爲に數々熢火を擧ぐ。其の後信ぜず、諸侯益々亦た至らず。幽王虢石父を以て卿と爲し、事を用ひしむ。國人皆怨む。石父人と爲り佞巧にして善く諛ひ利を好む。王之を用ひ、又申后を廢し、太子を去つればなり。申侯怒り、繒・西夷・犬戎と興に幽王を攻む。幽王熢火を擧げて兵を徴す。兵至る莫し。遂に幽王を驪山の下に殺し、襃姒を虜にし、盡く周の賂を取りて去る。是に於いて諸侯申侯に卽きて共に幽王の太子宜臼を立つ。是を平王と爲す。以て周祀を奉ぜしむ。

三川　参考①（二大漢籍国字解）に「涇・渭・洛の三川なり」とある。
玄黿　参考①に「蜥蜴のことなり」とある。
檿弧　参考①に「檿は山桑なり、孤は弓なり」とある。
箕服　参考①に「箕は木の名なり、服は矢房なり」とある。
驪山　陝西省にある秦嶺山脈の山　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A9%AA%E5%B1%B1

四十六年で、宣王は崩御した。子の幽王である宮涅が即位した。幽王の二年、涇水・洛水・渭水で地震が起こった。伯陽甫が言うことには、「周は今にも滅びようとしている。そもそも天地の気は秩序を失わず、もし失うとしても、民が乱したからである。陽気は隠れて出てこれず、陰気は迫ってきて昇華できない。そうして地震が起こる。今三川が揺れた。それは陽気の場がなくなって陰気が充満しているのだ。陽気が無くなり陰気があれば、地上は陰気でふさがれる。地上が陰気で満ちれば、国は必ず亡ぶ。さらに、水や土が潤って、民がこれを利用する。しかし、土が潤わなければ、民は利用できなくなる。そんな状態で亡びないで何を待とうというのか。昔、伊水・洛水が乾いて夏王朝が滅び、黄河が乾いて商王朝が滅んだ。今、周の徳は滅んだ王朝の末期のようだ。川や地上は陰気に満ちている。満ちれば必ず川は乾く。国というのは必ず山川に頼っている。山が崩れ川が枯れるのは滅亡の兆しだ。川が枯れれば必ず山が崩れる。もし国が亡ぶとすれば、十年ももたないだろう。十は数の一番最後だ。天が見捨てるのは、それ以上にはならない。」と。この年に三川が乾き、岐山が崩れた。三年に、幽王は襃姒を寵愛した。襃姒は幽王の子である伯服を産んだ。幽王は元居た太子を廃位しようとした。その太子の母は申侯の娘であって、妃であった。その後、幽王は襃姒を得て寵愛した。申后を廃位し、それと共に太子の宜臼を追い出し、襃姒を妃として、伯服を太子としようとした。周の太史は伯陽史記を読んで言うに、「周は必ず亡びるだろう。」と言った。昔、夏后氏が衰えてから、二尾の神龍がいた。夏帝の庭に立って言うには、「私は褒国の主君である。」と。夏帝はこれを殺そうと、追い出そうとして、占いをした。結果は、吉でなかった。次に龍のよだれを求めて、所蔵しようとした。占うと「吉。」と出た。そうして幣を敷いて龍によだれの泡を出すよう告げた。龍は逃げてよだれの泡だけが残った。この泡を箱にいれておさめた。夏が滅びたとき、周がこの箱を受け継いだ。夏・殷・周の三代にわたって全く開かなかった。厲王の末になって、箱をひらいて見てみた。泡は庭に流れ、掃除できないほど残った。厲王は婦人を裸にして、泡を騒いで呼ばせた。泡はトカゲになった。そうしてトカゲは王の後宮に侵入していった。後宮の女官の童女が、幼くしてこのトカゲに遭った。この時童女は髪を結ったとき、トカゲの子を妊娠した。夫がいないまま、子を生んだ。周囲は怖がってこの子を捨てた。宣王のときに、ある童謡を童女が歌って言うには、「檿弧箕服、實に周國を亡ぼさん。」という歌があった。そうして、宣王がこれを聞いて、「夫婦で、檿弧箕服を売る者がいる。」と言い、捕まえて部下に処刑させた。夫婦はとうとう逃げ出して、逃げた場所で、後宮の童女が捨てた子が道で歩いていたのを見た。その夜泣きを聞き、かわいそうに思って引き取り、夫婦は褒国に逃げ込んだ。褒の人で罪がある者がいた。童女が捨てた子を王に差し出して、それで罪を償おうと請願した。捨てられていた子は褒から出た。この子を襃姒と名付けた。幽王の三年にあたって、王は後宮に行き、一目見て襃姒を愛した。子の伯服を産んだ。とうとう元からいた申后・太子を廃位し、襃姒を后とし、伯服を太子にした。太史の伯陽は「王国に禍が起きた。どうしようもない」と言った。襃姒は笑うことを好まず、幽王は襃姒の笑顔を見たかった。万事を尽くしたが笑わなかった。幽王はのろし・太鼓を作り、他部族の攻撃があれば、のろしをあげ、諸侯が集まってくる仕組みだった。あるとき、のろしをあげたが攻撃が無かった。襃姒はそのとき大笑いした。幽王はこのことを喜び、襃姒のために度々のろしをあげた。集まっても何もないので、諸侯はのろしを信じなくなった。諸侯はますます集まらなくなった。幽王は虢石父を登用して卿とし、政治を行わせた。国民は皆虢石父と王を怨んだ。虢石父の性格はゴマすりが上手で、よく王の機嫌をとり、利を好んだ。王は石父を用い、申后を廃し、太子を追放した。申侯は怒り、繒・西夷・犬戎といった民族とともに幽王を攻撃した。幽王はのろしをあげ、兵を集めた。しかし兵士は来なかった。とうとう幽王は驪山のふもとで殺され、襃姒は捕虜にされ、異民族は尽く周を略奪して去って行った。それから諸侯は申侯に従い、協力して太子の宜臼を立てた。これを平王とした。それから周を祀った。

この時、平王と虢公翰が擁立した携王とが並立していたという記録もあるが、史記には記述されていない。
Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%90%BA%E7%8E%8B

東周

宜臼（平王）　在位　前771年 - 前720年4月16日

平王立，東遷于雒邑，辟戎寇。平王之時，周室衰微，諸侯彊并弱，齊、楚、秦、晉始大，政由方伯。

四十九年，魯隱公即位。

五十一年，平王崩，太子洩父早死，立其子林，是為桓王。

平王立ちて、東の方雒邑に遷りて戎寇を辟く。平王の時に周室衰微し、諸侯の彊は弱を幷す。齊・楚・秦・晉始めて大なり。政方伯に由る。四十九年に、魯の隠公位に卽く。五十一年に、平王崩じぬ。太子の洩父蚤く死す。其の子の林を立つ。是を桓王と爲す。

方伯　「周代には，諸侯または諸侯の長の意味で用いられた。」　コトバンク　https://kotobank.jp/word/%E6%96%B9%E4%BC%AF-132398...

平王が即位して、東方にある雒邑（洛邑）に遷都して野蛮人の攻撃から避難した。平王のときに、周の王室は衰退し、諸侯のなかで強い国は弱い国を併合した。斉・楚・秦・晋が最初に強大となった。政治は方伯に頼った。四十九年に、魯の隠公が即位した。五十一年で平王が崩御した。太子の洩父は早くに死んでいた。その子の林が即位した。これを桓王とした。

林（桓王）　在位　前719年 - 前697年3月19日

桓王，平王孫也。

桓王三年，鄭莊公朝，桓王不禮。五年，鄭怨，與魯易許田。許田，天子之用事太山田也。八年，魯殺隱公，立桓公。十三年，伐鄭，鄭射傷桓王，桓王去歸。

二十三年，桓王崩，子莊王佗立。

桓王は平王の孫なり。桓王三年に鄭の莊公朝す。桓王禮せず、五年に鄭怨みて魯と許田を易ふ。許田は天子の事を太山に用ふる田なり。八年に魯隠公を殺して、桓公を立つ。十三年に鄭を伐つ。鄭射て桓王を傷く。桓王去りて歸る。二十三年に、桓王崩じてこ、子の莊王佗立つ。

鄭莊公　在位　前743年 - 前701年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8D%98%E5%85%AC_(...
許田　参考①に「魯の許田と鄭の祊の地とを易へしをいふ」とある。　
魯隠公　在位　前722年 - 前712年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9A%A0%E5%85%AC_(...
魯桓公　在位　前711年 - 前694年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%93%E5%85%AC_(...

桓王は平王の孫である。桓王三年に鄭の莊公が来朝してきた。桓王は敬意を表さず、桓王五年に鄭は怨んで魯と許田を交換した。許田とは天子が太山の祭事を行うときに用いる田である。八年に魯の隠公を殺して、桓公が即位した。十三年に、鄭を征伐した。そのとき、鄭兵に射られて桓王は傷を負った。桓王は撤退して帰った。二十三年に、桓王は崩御して、子の莊王である佗が即位した。

佗（莊王）　在位　前696年 - 前682年

二十三年，桓王崩，子莊王佗立。莊王四年，周公黑肩欲殺莊王而立王子克。辛伯告王，王殺周公。王子克奔燕。

莊王四年に、周公黑肩莊王を殺して王子克を立てんと欲す。辛伯王に告ぐ。王周公を殺したり。王子克は燕に犇れり。

周公黒肩　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%A8%E5%85%AC%E...
克　百度百科　https://baike.baidu.com/item/%E7%8E%8B%E5%AD%90%E5...
　　参考①に「莊王の弟なり」とある。

荘王四年に、周公黒肩が荘王を殺して王子の克を立てようとした。辛伯が謀反のことを王に告げた。王は周公を殺した。王子の克は燕の地に逃亡した。

胡齊（釐王）　在位　前681年 - 前677年

十五年，莊王崩，子釐王胡齊立。釐王三年，齊桓公始霸。

十五年に莊王崩じぬ。子の釐王胡齊立つ。釐王三年に、齊の桓公始めて覇たり。

斉桓公　Wikipedia　

十五年に莊王が崩御した。子の釐王である胡斉が即位した。釐王三年に、斉の桓公がはじめて覇者になった。

閬（恵王）在位　前676年 - 前675年・前673年 - 前652年

五年，釐王崩，子惠王閬立。惠王二年。初，莊王嬖姬姚，生子穨，穨有寵。及惠王即位，奪其大臣以為囿，故大夫邊伯等五人作亂，謀召燕、衛師，伐惠王。惠王犇溫，已居鄭之櫟。立釐王弟穨為王。樂及徧舞，鄭、虢君怒。四年，鄭與虢君伐殺王穨，復入惠王。惠王十年，賜齊桓公為伯。

五年に釐王崩じぬ。子の恵王閬立つ。恵王二年に、初めて莊王姬姚を嬖し、子の穨を生む。寵有り。恵王の位に卽くに、其の大臣の園を奪ひて以て囿と爲す。故に大夫邊伯等五人亂を作す。謀りて燕衞の師を召び、恵王を伐つ。恵王慍に犇る。已して鄭の櫟に居る。釐王の弟穨を立て王と爲す。樂徧舞に及ぶ。鄭虢の君怒る。四年に鄭虢君と伐ちて王穨を殺す。復た恵王を入る。恵王十年、齊の桓公に賜ひて伯と爲す。

園・囿　参考①に「園は苑にカキ※（たけかんむりに潘）を設けたるもの、多くは草果を樹う、囿は苑の外園に垣のあるもの、多くは禽獸を飼育す、共にソノと訓む」とある。
五人　参考①に「蔿國・邊伯・詹父・子禽・祝跪なり」とある。
慍（温）　現在の河南省焦作市温県　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%A9_(%E5%9B%BD...

釐王五年、王が崩御した。子の恵王閬が即位した。恵王二年に、初め、荘王は王姬姚を寵愛し、子の穨を産んだ。穨は荘王から可愛がられた。恵王が王位に就くとき、大臣の畑を奪って牧場とした。だから、大夫の辺伯ら五人が反乱を起こした。共謀して燕・衛の師を呼び、恵王を攻撃した。恵王は慍に逃亡した。そうして鄭の櫟に避難した。釐王の弟の穨を立てて王とした。楽を広く舞ったりした。鄭・虢の君主がこれに怒った。鄭・虢の君主と共に辺伯らを攻撃して対立王の穨を殺した。再び恵王が王位に就いた。恵王十年に、斉の桓公に伯位を与えた。

鄭（襄王）在位　前652年 - 前619年

二十五年，惠王崩，子襄王鄭立。襄王母蚤死，後母曰惠后。惠后生叔帶，有寵於惠王，襄王畏之。三年，叔帶與戎、翟謀伐襄王，襄王欲誅叔帶，叔帶奔齊。齊桓公使管仲平戎于周，使隰朋平戎于晉。王以上卿禮管仲。管仲辭曰：「臣賤有司也，有天子之二守國、高在。若節春秋來承王命，何以禮焉。陪臣敢辭。」王曰：「舅氏，余嘉乃勳，毋逆朕命。」管仲卒受下卿之禮而還。九年，齊桓公卒。十二年，叔帶復歸于周。

十三年，鄭伐滑，王使游孫、伯服請滑，鄭人囚之。鄭文公怨惠王之入不與厲公爵，又怨襄王之與衛滑，故囚伯服。王怒，將以翟伐鄭。富辰諫曰：「凡我周之東徙，晉、鄭焉依。子穨之亂，又鄭之由定，今以小怨棄之！」王不聽。十五年，王降翟師以伐鄭。王德翟人，將以其女為后。富辰諫曰：「平、桓、莊、惠皆受鄭勞，王棄親親翟，不可從。」王不聽。十六年，王絀翟后，翟人來誅，殺譚伯。富辰曰：「吾數諫不從。如是不出，王以我為懟乎？」乃以其屬死之。

初，惠后欲立王子帶，故以黨開翟人，翟人遂入周。襄王出奔鄭，鄭居王于汜。子帶立為王，取襄王所絀翟后與居溫。十七年，襄王告急于晉，晉文公納王而誅叔帶。襄王乃賜晉文公珪鬯弓矢，為伯，以河內地與晉。二十年，晉文公召襄王，襄王會之河陽、踐土，諸侯畢朝，書諱曰「天王狩于河陽」。

二十四年，晉文公卒。

三十一年，秦穆公卒。

三十二年，襄王崩，子頃王壬臣立。

二十五年恵王崩じぬ。襄王鄭立つ。襄王の母は蚤く死にたり。後の母を恵后と曰ふ。恵后叔帶を生みて、恵王に寵有り。襄王之を畏る。三年叔帶戎翟と謀りて襄王を伐つ。襄王叔帶を誅せんと欲す。叔帶齊に犇る。齊の桓公、管仲をして戎を周に平げしめ、隰朋をして戎を晉に平らげしむ。王上卿を以て管仲に禮せんとす。管仲辭して曰く、「臣は賤しき有司なり。天子の二守國高の在る有り。若し春秋を節とし、來りて王命を承けば、何を以て禮せん。陪臣敢て辭す。」と。王曰く、「舅氏、余乃の勳を嘉みす、朕の命に逆ふこと毋れ。」と。管仲卒に下卿の禮を受けて還る。九年に齊の桓公卒しぬ。十二年に叔帶周に復歸す。十三年に鄭滑を伐つ。王游孫・伯服をして滑を請はしむ。鄭人之を囚ふ。鄭の文公恵王の入りしとき、厲公爵を與へざりしを怨めり。又襄王の衞に滑を與へたるを怨む。故に伯服を囚へたり。王怒り、將に翟を以て鄭を伐たんとす。富辰諫めて曰く、「凡そ我が周の東に徒りしとき、晉鄭にこれ依れり。子穨の亂にも、又鄭に之れ由りて定まれり。今小怨を以て之を弃つ。」と。王聽かず。十五年に、王翟の師を降して以て鄭を伐つ。王翟人を徳とし、將に其の女を以て后と爲さんとす。富辰諫めて曰く、「平・桓・莊・恵、皆鄭の勞を受けり。王親を弃て翟を親むは、從ふべからず。」と。王聽かず。十六年に、王翟后を絀く。翟人來り誅めて譚伯を殺す。富辰曰く、「吾數々諫むれども從はず。是のごとくにして出でずんば、王我を以て懟みとせんか。」と。乃ち其の屬を以て之に死す。初め恵后王子帶を立てんと欲す。故に黨を以て翟人を開く。翟人遂に周に入れり。襄王鄭に出犇す。鄭王を氾に居く。子帶立ちて王と爲る。襄王の絀けん所の翟后を取りて與に慍に居る。十七年に、襄王急を晉に告ぐ。晉の文公王を納れて叔帶を誅す。襄王乃ち晉の文公に珪鬯弓矢を賜ひて伯と爲し、河内の地を以て晉に與ふ。二十年に、晉の文公襄王を召す。襄王之に河陽の踐土に會す。諸侯畢く朝す。書して諱み曰く、「天王河陽に狩りす。」と。二十四年に、晉の文公卒しぬ。三十一年に、秦の穆公卒しぬ。三十二年に、襄王崩じぬ。子の頃王壬臣立つ。

天子の二守　参考①に「天子の命を受けて齊の守臣となれる二人なり。」とある。
國高　参考①に「國子と高子となり」とある。
陪臣　参考①に「陪は重なり、諸侯の臣は天子より見れば二重の臣なり、故に諸侯の臣を陪臣といふ、またけらいなり」とある。
舅氏　参考①に「伯舅の使臣のことなり、伯舅とは天子が異姓の諸侯を尊稱する語なり」とある。
譚伯　参考①に「周の大夫なり」とある。
黨　　参考②（有朋堂書店　史記第一巻）に「其與黨と謀って翟人を誘ひ道を開き導かしむ」とある。
珪鬯　参考①に「珪は圭に同じ、諸侯の天子に見ゆる時に執る所の玉なり、格式によりて異れり、鬯は香酒なり」とある。
踐土　今の河南省原陽県の西南　Web漢文大系　https://kanbun.info/shibu02/montai10.html
書諱　参考①に「魯の春秋に書して諱みしなり」とある。

二十五年に恵王が崩御した。襄王の鄭が即位した。襄王の母は早くに死んでいた。継母を恵后と言った。恵后は叔帯を産んで、恵王に寵愛されていた。襄王は叔帯が王になるかもしれないとこれを恐れた。三年、叔帯は戎狄と共謀して襄王に反乱を起こした。襄王は叔帯を殺そうとした。叔帯は斉に亡命した。斉の桓公は管仲を派遣して周に居る戎を平定させ、隰朋を派遣して晋にいる戎を平定させた。王は上卿として管仲にお礼をしようとした。管仲は辞退し、「私は身分の低い官吏です。天子の命を受けて斉の守臣となっている国子と高子がいる。もし春秋に、王命を受ければ、何を礼として与えるのか。家来は辞退しようとする。」と言った。王が言うには、「あなたさま、私はあなたの功績を褒めたたえます、あなたは私の命に逆らわないように。」と。管仲はとうとう下卿の礼を受けて帰って行った。九年に斉の桓公がお亡くなりになった。十二年に叔帯が周に帰ってきた。十三年に鄭が滑を征伐した。王游孫・伯服に滑の地を要求させた。鄭の人はこの使節を捕らえた。鄭の文公は恵王の復位のとき、厲公に爵位を与えなかったのを怨んでいた。また、襄王が衛に滑を与えたのを怨んだ。それゆえ伯服を捕らえた。王は怒り、翟を差し向けて鄭を攻撃しようとした。富辰が諫言して言うには、「だいたい私たち周が東遷したとき、晋や鄭に頼って移った。子穨の乱のときにも、また鄭に頼って平定した。今、ささいな怨みでこの功績を捨てるか、いや、捨てない。」と。王は聞き入れなかった。十五年に王は翟の師を勢力に入れて鄭を攻撃した。王は翟人に感謝し、翟の女性を妃にしようとした。富辰がまた諫言して言うには、「平王・桓王・荘王・恵王は皆、鄭の恩恵を受けていた。王は親しい鄭を捨てて狄と親しくするのは、従うことは出ない。」と。王はまた聞き入れなかった。十六年に、王は娶った狄の妃を退けた。翟人が来襲して、大夫の譚伯を殺した。富辰は「私は何度も諫めたが王は聞かなかった。このような事態になって、自ら動かなければ、王は私が王を怨んでいるとするだろうか。」と。そこで私兵を率いて翟と戦い戦死した。はじめは恵后は王子の帯をたてようとした。だから翟人を引き入れた。翟人はとうとう周に入った。襄王は鄭に出奔した。鄭は王を氾に留置した。子の帯が即位して王となった。襄王が退けた妃を娶って一緒に慍に居た。十七年に、襄王が晋に緊急事態を告げた。晉の文公は襄王を周に戻し、叔帯を殺した。襄王はそこで文公に褒美の玉・酒・弓矢を与え伯とし、河内の地を晋に与えた。二十年に、晋の文公は襄王を呼び出した。襄王はこの呼びかけに河陽の踐土で会合した。諸侯は皆来朝してきた。春秋ではこれを諱み、「天王が河陽で狩りをした。」と書いている。二十四年に晋の文公がお亡くなりになった。三十一年に、秦の穆公がお亡くなりになった。三十二年に、襄王が崩御した。子の頃王である壬臣が即位した。

壬臣（頃王^けいおう）在位　前619年 - 前613年・班（匡王）在位　前613年 - 前607年・瑜（定王）在位　前607年 - 前586年・夷（簡王）在位　前586年 - 前572年・泄心（靈王）在位　前572年 - 前545年

頃王六年，崩，子匡王班立。匡王六年，崩，弟瑜立，是為定王。

定王元年，楚莊王伐陸渾之戎，次洛，使人問九鼎。王使王孫滿應設以辭，楚兵乃去。十年，楚莊王圍鄭，鄭伯降，已而復之。十六年，楚莊王卒。

二十一年，定王崩，子簡王夷立。簡王十三年，晉殺其君厲公，迎子周於周，立為悼公。

十四年，簡王崩，子靈王泄心立。靈王二十四年，齊崔杼弒其君莊公。

二十七年，靈王崩，子景王貴立。

頃王六年にして崩じぬ。子の匡王班立つ。匡王六年にして崩じ、弟の瑜立つ。是を定王と爲す。定王元年に、楚の莊王陸渾の戎を伐つ。洛に次り、人をして九鼎を問はしむ。王王孫滿をして應へしむ。設くるに辭を以てす。楚兵乃ち去りぬ。十年楚の莊王鄭を圍む。鄭伯降りぬ。已にして之を復す。十六年に楚の莊王卒しぬ。二十一年定王崩じて、子の簡王夷立つ。簡王十三年に、晉其の君厲公を殺して、子周を周に迎へ、立て悼公と爲す。十四年に、簡王崩じて、子の靈王泄心立つ。靈王二十四年に、齊の崔杼其の君莊公を殺しぬ。二十七年に、靈王崩じて、子の景王貴立つ。

陸渾の戎　春秋時代の異民族の一つ。　陸渾は河南方面の伊水流域　コトバンク　https://kotobank.jp/word/%E9%99%B8%E6%B8%BE%E3%81%...
楚荘王　在位　前614年 - 前591年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8D%98%E7%8E%8B_(...
晋厲公　在位　前581年 - 前573年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%B2%E5%85%AC_(...
晋悼公　在位　前573年 - 前558年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%BC%E5%85%AC_(...
崔杼　斉の政治家。　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B4%94%E6%9D%BC
晋荘公　在位　前553年 - 前548年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8D%98%E5%85%AC%E...

頃王は六年で崩御した。子の匡王である班が即位した。匡王も六年で崩御した。弟の瑜が即位した。これを定王とした。
定王元年に、楚の莊王が陸渾という異民族を討伐した。洛水に宿営し、人に九鼎の軽重を問わせた。王は王孫満に答えさせた。王孫満は断った。楚の兵士はそうして去って行った。定王十年に、荘王は鄭を包囲した。鄭伯は降伏した。そのうち鄭を解放した。定王戎六年に、楚の莊王がお亡くなりになった。二十一年で定王が崩御した。子の簡王である夷が即位した。簡王十三年に、晋がその君主である厲公を殺し、子の周から迎えて悼公として立てた。十四年で簡王が崩御して、子の霊王である泄心が即位した。霊王二十四年に、斉の崔杼がその君主の莊公を殺した。二十七年で、霊王は崩御し、子の景王である貴が即位した。

貴（景王）在位　前545年 - 前520年・猛（悼王）在位　前520年・丐（敬王）在位　前520年 - 前476年・仁（元王）在位　前476年 - 前469年・介（定王）在位　前468年 - 前441年・去疾（哀王）在位　前441年・叔（思王）在位　前441年・嵬（孝王）在位　前440年 - 前426年

二十七年，靈王崩，子景王貴立。景王十八年，后太子聖而蚤卒。二十年，景王愛子朝，欲立之，會崩，子丐之黨與爭立，國人立長子猛為王，子朝攻殺猛。猛為悼王。晉人攻子朝而立丐，是為敬王。

敬王元年，晉人入敬王，子朝自立，敬王不得入，居澤。四年，晉率諸侯入敬王于周，子朝為臣，諸侯城周。十六年，子朝之徒復作亂，敬王奔于晉。十七年，晉定公遂入敬王于周。

三十九年，齊田常殺其君簡公。

四十一年，楚滅陳。孔子卒。

四十二年，敬王崩，子元王仁立。元王八年，崩，子定王介立。

定王十六年，三晉滅智伯，分有其地。

二十八年，定王崩，長子去疾立，是為哀王。哀王立三月，弟叔襲殺哀王而自立，是為思王。思王立五月，少弟嵬攻殺思王而自立，是為考王。此三王皆定王之子。

景王十八年に、后と太子蚤く卒しぬ。二十年に、景王子朝を愛して、之を立てんと欲す。崩ずるに會ふ。子の丐の黨與に立てんことを爭ふ。國人長子猛を立て王と爲す。子朝攻めて猛を殺す。猛悼王と爲す。晉人子朝を攻めて丐を立つ。是を敬王と爲す。敬王元年に、晉人の敬王を入れんとするや、子朝自立せり。敬王入ることを得ずして、澤に居れり。四年に、晉諸侯を率ゐて敬王を周に入る。子朝は臣と爲り、諸侯は周に城く。十六年に、子朝の徒復た亂を作す。敬王晉に犇る。十七年に、晉の定公遂に敬王を周に入る。三十九年に、齊の田常其の君簡公を殺す。四十一年に、楚陳を滅す。孔子卒しぬ。四十二年に、敬王崩じて、子の元王仁立つ。元王八年にして崩じぬ。子の定王介立つ。定王十六年に、三晉智伯を滅して、分かちて其の地を有つ。二十八年に、定王崩じて、長子去疾立つ。是を哀王と爲す。哀王立ちて三月にして、弟の叔襲ひて哀王を殺して自立す。是を思王と爲す。思王立ちて五月にして、少弟嵬攻めて思王を殺して自立す。是を孝王と爲す。此の三王は、皆定王の子なり。

澤　参考①に「周の地名なり」とある。

景王十八年に、妃と太子が早くも亡くなった。景王二十年に、王は子朝を愛して、立太子しようとした。景王の崩御にあたって、王の子の丐の勢力も王位に就こうと子朝と共に争った。国民は長男の猛を立てて王とした。子朝は猛を攻撃して殺した。猛は悼王とされた。晋の人は子朝を攻撃して丐を立てた。丐を敬王とした。敬王元年に、晋人が敬王を周に入れようとするにあたって、子朝は王位を宣言し自立した。敬王は周に入れず、周の澤に居た。敬王四年に、晋は諸侯を率いて敬王を周に入れた。子朝は臣下となり、諸侯は周に従った。敬王十六年に、子朝の勢力が再び反乱を起こした。敬王は晋に亡命した。敬王十七年に、晋の定公は敬王を周に入れた。敬王三十九年に、斉の田常が君主の簡公を殺した。敬王四十一年に、楚が陳を滅ぼした。同じ年、孔子がお亡くなりになった。四十二年で敬王が崩御して、子の元王である仁が即位した。元王はは八年で崩御した。子の定王である介が即位した。定王十六年に、晋は智伯が殺され、晋領が三分裂した。二十八年で定王が崩御して、長男の去疾が即位した。これを哀王とした。哀王が即位して三か月で、弟の叔が哀王を襲って殺し自ら王位に就いた。これを思王とした。思王が即位して五か月で、弟の嵬が思王を攻め殺して自ら王位に就いた。これを孝王とした。この三人の王は皆定王の子である。

午（威烈王）在位　前425年 - 前402年・驕（安王）在位　前402年 - 前376年・喜（烈王）在位　前375年 - 前369年・扁（顯王）在位　前368年 - 前321年・愼（慎靚王）在位　前320年 - 前315年

考王封其弟于河南，是為桓公，以續周公之官職。桓公卒，子威公代立。威公卒，子惠公代立，乃封其少子於鞏以奉王，號東周惠公。

威烈王二十三年，九鼎震。命韓、魏、趙為諸侯。

二十四年，崩，子安王驕立。是歲盜殺楚聲王。

安王立二十六年，崩，子烈王喜立。烈王二年，周太史儋見秦獻公曰：「始周與秦國合而別，別五百載復合，合十七歲而霸王者出焉。」

十年，烈王崩，弟扁立，是為顯王。顯王五年，賀秦獻公，獻公稱伯。九年，致文武胙於秦孝公。二十五年，秦會諸侯於周。二十六年，周致伯於秦孝公。三十三年，賀秦惠王。三十五年，致文武胙於秦惠王。四十四年，秦惠王稱王。其後諸侯皆為王。

四十八年，顯王崩，子慎靚王定立。慎靚王立六年，崩，子赧王延立。

孝王十五年に崩じて、子の威烈王午立つ。孝王其の弟を河南に封ず。是を桓公と爲して、以て周公の官職を續がしむ。桓公卒して、子の威公代り立つ。威公卒して、子の恵公代り立つ。乃ち其の少子を鞏に封じて以て王に奉ぜしむ。東周の恵公と號す。威烈王の二十三年に、九鼎震ふ。韓・魏・趙に命じ諸侯と爲す。二十四年に崩じて、安王驕立つ。是の歳、盗楚の聲王を殺す。安王立ち、二十六年にして崩じぬ。子の烈王喜立つ。烈王二年に、周の太史儋、秦の獻公に見えて曰く、「始め周秦國と合ひて別れたり。別れて五百載にして復た合はん。合ひて十七歳にして覇王は出でん。」と。十年に、列王崩じて、弟の扁立つ。是を顯王と爲す。顯王五年に、秦の獻公を賀す。獻公伯と稱す。九年に文武の胙を秦の孝公に致す。二十五年に、秦諸侯を周に會す。二十六年に、周伯を秦の孝公に致す。三十三年に、秦の恵王に賀す。四十四年に、秦の恵王王と稱す。其の後諸侯皆王と爲る。四十八年に、顯王崩じて、子の慎靚王定立つ。慎靚王立ちて六年にして崩じぬ。子の赧王延立つ。

西周公　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E5%91%A8%E...
東周公　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E5%91%A8%E...
鞏　河南省鄭州市鞏義市　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9E%8F%E7%BE%A9%E...
楚声王　在位　前408年 - 前402年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%B0%E7%8E%8B
秦献公　在位　前384年 - 前362年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8C%AE%E5%85%AC_(...
秦孝公　在位　前361年 - 前338年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%9D%E5%85%AC_(...
秦恵王　恵文王とも言う。　在位　前337年 - 前311年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%81%B5%E6%96%87%E...

孝王が十五年で崩御して、子の威烈王である午が即位した。孝王は弟を河南に封じた。これを桓公として、周公の官職を継がせた。桓公がお亡くなりになって、子の威公が代わりに即位した。威公がお亡くなりになって、子の恵公が代わりに即位した。そこで末子を鞏に封じて王に奉仕した。東周の恵公と号した。威烈王二十三年に、九鼎が震えた。韓・魏・趙を諸侯に命じた。二十四年で威烈王が崩御して、安王である驕が即位した。この年、楚で盗賊が声王を殺した。安王が即位して、二十六年で崩御した。子の烈王である喜が即位した。列王二年に、太史公の儋が秦の献公に会見して言うには、「始め周は秦と一体であってのちに分離した。分れて五百年でまた合併するだろう。合併して十七年で覇王となる者が出るだろう。」と。十年に、列王が崩御して、弟の扁が即位した。これを顕王とした。顕王五年に、秦の献公が來賀してきた。献公は伯と称していた。九年に、文王・武王を祀る供え物を秦の孝王に渡した。二十五年に、秦は諸侯を周に呼び寄せた。二十六年に、周は伯位を秦の孝公に与えた。三十三年に、秦の恵王が來賀してきた。四十四年に、秦の恵公は王を称した。その後、諸侯は皆王を名乗った。四十八年に顕王が崩御して、子の慎靚王が即位して六年で崩御した。子の赧王である延が即位した。

延（赧王）

１

王赧時東西周分治。王赧徙都西周。

西周武公之共太子死，有五庶子，毋適立。司馬翦謂楚王曰：「不如以地資公子咎，為請太子。」左成曰：「不可。周不聽，是公之知困而交疏於周也。不如請周君孰欲立，以微告翦，翦請令楚（賀）［資］之以地。」果立公子咎為太子。

八年，秦攻宜陽，楚救之。而楚以周為秦故，將伐之。蘇代為周說楚王曰：「何以周為秦之禍也？言周之為秦甚於楚者，欲令周入秦也，故謂『周秦』也。周知其不可解，必入於秦，此為秦取周之精者也。為王計者，周於秦因善之，不於秦亦言善之，以疏之於秦。周絕於秦，必入於郢矣。」

王赧の時に、東西に周分れて治す。王赧徒りて西周に都す。西周の武公の共太子死す。五の庶子有り。適として立つもの毋し。司馬翦楚王に謂て曰く、「地を以て公子咎に資へ、爲に太子を請はんには如かじ。」と。左成曰く、「不可なり。周聽かずんば是れ公に知困んで、交周疎からんや。周君に孰をか立てんと欲するかを請ひ、以て微かに翦に告げ、翦請ひて楚をして之を賀するに地を以てせしめんとするに如かず。」と。果たして公子咎を立て、太子と爲す。

八年に秦宜陽を攻む。楚之を救ふ。而して楚は以へらく「周は秦の爲にす。」と。故に將に之を伐たんとす。蘇代周の爲に楚王に説きて曰く、「何ぞ周は秦の爲にすと以へる、之禍なるなり。周の秦の爲にするは楚より甚しと言ふ者は、周をして秦に入らしめんと欲するなり。故に周秦と謂ふなり。周、其の解くべからざるを知りて、必ず秦に入らん。此れ秦、周を取るの精を爲す者なり。王の爲に計るに、周、秦に於いてするも因りて之を善しとし、秦に於いてせざるも、亦た言に之を善しとし、以て之を秦に疎くせよ。周、秦に絶たば必ず郢に入らん。」と。

蘇代　戦国時代の縦横家　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%98%87%E4%BB%A3
宜陽　河南省洛陽市　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%9C%E9%99%BD%E...
郢　楚の首都　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%A2

王赧の時には、東西に周が分かれて統治していた。王赧は西周に都をおいていた。西周の武公の共太子が死んだ。五人の庶子がいたが、皆適任ではなく即位する者がいなかった。司馬翦が楚王に言うことには、「土地を公子咎に与え、太子になるのを要請することが一番良い。」と。左成が言うには、「駄目だ。周側が受け入れなければ、あなたの知略は失敗し、周との交流は疎くなるだろう。周の君主に、『誰を立太子するつもりかを聞き、こっそり翦に告げ、翦が、楚に土地を割譲させて立太子を祝わせようと願うという手筈が一番良い。」と。結局公子咎を立太子した。

赧王八年に、秦が韓の宜陽を攻めた。楚が宜陽を救援した。そうして楚は「周は秦のために韓の攻撃に参加している。」と疑った。だから周を攻撃しようとした。蘇代が周のために楚王に説いて言うには、「どうして周が秦のために出兵に参加したと思ったのか。これは禍いである。周が秦のために出兵するのは、楚よりも大規模な支援であると言う者は、周に秦の勢力下に入らせようとしているのだ。だから周秦と言うのだ。周は秦のしがらみを解こうとしても解けないのを知って、必ず秦に取り入るだろう。秦は周を取ろうとするのに精力的な国だ。王のために考えれば、周は秦と親密になっていても、そこで親密を善いものと考え、秦と親密でないのも善いと言い、周を秦から引きはがせ。周は秦との関係が絶たれれば、必ず郢に訪問しにくるだろう。」と。

２

秦借道兩周之閒，將以伐韓，周恐借之畏於韓，不借畏於秦。史厭謂周君曰：「何不令人謂韓公叔曰『秦之敢絕周而伐韓者，信東周也。公何不與周地，發質使之楚』？秦必疑楚不信周，是韓不伐也。又謂秦曰『韓彊與周地，將以疑周於秦也，周不敢不受』。秦必無辭而令周不受，是受地於韓而聽於秦。」

秦召西周君，西周君惡往，故令人謂韓王曰：「秦召西周君，將以使攻王之南陽也，王何不出兵於南陽？周君將以為辭於秦。周君不入秦，秦必不敢踰河而攻南陽矣。」

東周與西周戰，韓救西周。或為東周說韓王曰：「西周故天子之國，多名器重寶。王案兵毋出，可以德東周，而西周之寶必可以盡矣。」

王赧謂成君。楚圍雍氏，韓徵甲與粟於東周，東周君恐，召蘇代而告之。代曰：「君何患於是。臣能使韓毋徵甲與粟於周，又能為君得高都。」周君曰：「子茍能，請以國聽子。」代見韓相國曰：「楚圍雍氏，期三月也，今五月不能拔，是楚病也。今相國乃徵甲與粟於周，是告楚病也。」韓相國曰：「善。使者已行矣。」代曰：「何不與周高都？」韓相國大怒曰：「吾毋徵甲與粟於周亦已多矣，何故與周高都也？」代曰：「與周高都，是周折而入於韓也，秦聞之必大怒忿周，即不通周使，是以獘高都得完周也。曷為不與？」相國曰：「善。」果與周高都。

秦道を兩周の間に借りて、將に以て韓を伐たんとす。周恐れて之を借さば、韓に畏れ、借さざれば秦に畏る。史厭周君に謂て曰く、「何ぞ人をして韓の公叔に謂はしめて曰はざる。秦の敢て周に絶ちて韓を伐つ者は、東周を信ずればなり。公何ぞ周に地を與へて、質使を發して楚に之かしめざる。秦必ず楚を疑ひ、周を信ぜじ。是れ韓伐たれざるなり。」と。又秦に謂ひて曰く、「韓彊ひて周に地を與ふるは、將に以て周を秦に疑はしめんとするなり。周は敢て受けずんばあらず。秦必ず辭して周をして受けざらしむる無し。是れ地を韓に受けて秦に聽くなり。」と。

秦、西周の君を召す。西周の君往くを惡む。故に人をして韓王に謂はしめて曰く、「秦、西周の君を召す。將に以て王の南陽を攻めしめんとするなり。王何ぞ兵を南陽に出さざる。周君將に以て秦に辭すること爲さんとす。周君秦に入らざれば、秦必ず敢て河を踰えて南陽を攻めじ。」と。

東周西周と戰ふ。韓西周を救ふ。或人東周の爲に韓王に説きて曰く、「西周は、故の天子の國にして、名器重寶多し。王兵を案じ出すこと毋んば、以て東周に徳すべく、而して西周の寶、必ず以て盡くすべし。」と。

王赧成君に謂ふ。楚雍氏を圍む。韓甲栗とを東周に徴す。東周君恐れ蘇代を召す。之に告ぐ。代曰く、「君何ぞ是を患ふ。臣能く韓をして甲栗と周に徴すること毋からしめん。又能く君の爲に高都を得ん。」と。周君曰く、「子苟に能くせば、請ふ國を以て子に聽ゆるさん。」と。代韓の相國に見えて曰く、「楚の雍氏を圍むや、三月を期せしなり。今五月にして抜くこと能はず。是れ楚病めるなり。今相國の甲と栗とを周に徴せば、是れ楚に病めるを告ぐるなり。」と。韓相國曰く、「善し。使者をして行くこと已めしめん。」と。代曰く、「何ぞ周に高都を與へざる。」と。韓の相國大いに怒りて曰く、「吾れ甲栗とを周に與へ、亦た已に多なり。何の故に周に高都を與へんなり。」と。代曰く、「周に高都を與へば、是れ周折けて韓に入らん。秦之を聞けば必ず大いに怒りて周を忿り、卽に周の使を通せざる。是れ幣れたる高都を以て、完き周を得るなり。曷ぞ與へざることを爲さんや。」と。相國曰く、「善し。」と。果たして周に高都を與ふ。

王赧謂成君。楚圍雍氏　参考①に「文に省略ありて解し難し、今其の意を敷衍す、是れより先兩周相敵視す、故に西周の赧王は東周を困めむとて其の臣成君に謂つて楚をして韓の雍氏の地を圍ましめたるなり、此くの如くせば、韓は必ず甲兵と粟とを東周に徴すればなり、楚成君の言を用ひて韓の雍氏を圍みしなり」とある。
韓相国　参考①に「公仲侈なり」とある。　百度百科　https://baike.baidu.com/item/%E5%85%AC%E4%BB%B2%E4...

秦は東西両周の領土に通路を借りて、韓を攻撃しようとした。周は秦に恐れて道を貸せば、韓に恐れることとなり、貸さなければ秦に恐れることになる。史獻は周の君主に言うことには、「どうして使者を送って韓の公叔に事情を言わせないのか。秦が無理に周を分断して韓を攻撃しようというのは、西周が無理なら東周が貸してくれると信じているからだ。あなたはどうして東周に土地を与え、楚に物品と使者を行かせないのか。秦は必ず周と楚の友好を疑い、東周を疑い信用しないだろう。これで韓は攻撃されない。」と。また、秦に言うには「韓は無理に周に土地を割譲したが、これはまさに周に秦を疑わせようとしている。周は受け入れなければならない。秦は必ず断って周に受けさせないようにさせなくてもいい。これで土地の割譲を韓から受けて、秦の命令を聞くようになる。」と。

秦は西周の君主を呼び出した。しかし西周の君主は嫌がったので、人を韓王の所に行かせて言うには、「秦が西周の君主を呼び出しました。今にも王の所有する南陽を攻めようとしています。王はすぐ南陽に守備兵を出した方がいいでしょう。周君は秦の呼びかけを辞退しようとしています。周君が秦の陣営に入らなければ、秦は決して河を渡って韓を攻めはしないでしょう。」と。

また、東周が西周を攻撃して戦争になった。韓は西周を助けた。ある人が東周のために韓王を説得しようとして言うには、「西周は昔天子の国であり、名器や宝物を多く持っている。王は兵を出さず、東周に慈悲を与え、西周の宝を全部韓の物にするべきだ。」と。

王赧は成君に言った。楚が韓の雍氏を囲んだ。韓は甲兵と粟を東周から徴収した。東周君は恐れて蘇代を呼び寄せた。蘇代に事情を言うと、蘇代は「あなたはどうして心配なんかしているのでしょう。私は韓に甲兵と粟を東周から徴収するようなことを防いでみせます。また、あなたのために高都を得てみせましょう。」と言った。周君は「お前が本当にそうできれば、どうか国政をあなたに任せたい。」と言った。蘇代は韓の相国に会見して「楚が雍氏を包囲している。これは三か月間を予定していた。今五か月経って陥落させることが出来ていない。これは楚が疲弊しているからだ。今、相国が甲兵と粟とを周から徴収すれば、楚に韓も疲弊していることを知られることになる。」と交渉した。韓の相国は「わかった。使者に徴収に行かせるのはやめよう。」と返答した。蘇代は「どうして周に高都を渡さないのか。」と言った。韓の相国は激怒して「韓は甲兵と粟を周に与え（譲歩し）、また以前からいろいろ渡している。どうして高都を与えることなどするか。」と言った。蘇代は「周に高都を与えれば、周は態度を軟化させ韓の傘下に入るだろう。秦が之を聞けば激怒して、周を怨み、周の使者を受け入れなくなり、断交する。こうして疲弊している高都で、丸ごと周を得るのだ。与えた方が良い。」と。相国は「わかった。」と了解し、結局周に高都を割譲した。

３

三十四年，蘇厲謂周君曰：「秦破韓、魏，撲師武，北取趙藺、離石者，皆白起也。是善用兵，又有天命。今又將兵出塞攻梁，梁破則周危矣。君何不令人說白起乎？曰『楚有養由基者，善射者也。去柳葉百步而射之，百發而百中之。左右觀者數千人，皆曰善射。有一夫立其旁，曰「善，可教射矣」。養由基怒，釋弓搤劍，曰「客安能教我射乎」？客曰「非吾能教子支左詘右也。夫去柳葉百步而射之，百發而百中之，不以善息，少焉氣衰力倦，弓撥矢鉤，一發不中者，百發盡息」。今破韓、魏，撲師武，北取趙藺、離石者，公之功多矣。今又將兵出塞，過兩周，倍韓，攻梁，一舉不得，前功盡棄。公不如稱病而無出』。」

四十二年，秦破華陽約。馬犯謂周君曰：「請令梁城周。」乃謂梁王曰：「周王病若死，則犯必死矣。犯請以九鼎自入於王，王受九鼎而圖犯。」梁王曰：「善。」遂與之卒，言戍周。因謂秦王曰：「梁非戍周也，將伐周也。王試出兵境以觀之。」秦果出兵。又謂梁王曰：「周王病甚矣，犯請後可而復之。今王使卒之周，諸侯皆生心，後舉事且不信。不若令卒為周城，以匿事端。」梁王曰：「善。」遂使城周。

三十四年蘇厲、周君に謂ひて曰く、「秦、韓・魏を破り、師武を扑し、北、趙の藺・離石を取る者は、皆白起なり。是れ善く兵を用ふ。又天命有り。今又兵を將ゐ、塞を出でて梁を攻む。梁破るれば周危ふし。君何ぞ人をして白起に説かしめざるや。曰へ、『楚に養由基といふ者有り。射を善くする者なり。柳葉を去る百歩にして之を射る。百發して之に百中す。左右觀る者數千人、皆善射と曰ふ。一夫其の傍らに立てるもの有り。曰く、『善し。射を教ふべし』と。養由基怒りて、弓を釋て劍を搤て曰く、『客安んぞ能く我に射を敎へんや。』と。客曰く、『吾能く子に、左を支へ右を詘することを敎ふるに非ず。夫れ柳葉を去る百歩にして之を射る。百發して之を百中す。善を以て息まず。少くありて氣衰へ、力倦み、弓撥り、矢鉤り、一發して中らざるものあらば、百發盡く息まん。』と。今韓・魏を破り、師武を扑し、北の方趙の藺・離石を取る者、公の功や多し。今又兵を將ゐ塞を出でて兩周を過ぎ、韓に倍き、梁を攻む。一擧得ずんば、前功盡く弃てられん。公、病と稱して出づること無きに如かず。』と。」と。

四十二年に、秦華陽の約を破る。馬犯周君に謂ひて曰く、「請ふ梁をして周に城かしめん。」と。乃ち梁王に謂ひて曰く、「周王病む。若し死なば則ち犯必ず死なん。犯請ふ九鼎を以て王に入れん。王九鼎を受けて犯を圖れ。」と。梁王曰く、「善し。」と。遂に之に卒を與へ、周を戍ると言って、因りて秦王に謂ひて曰く、「梁は周を戍るに非ざるなり。將に周を伐たんとす。王試しに兵を境に出して以て之に觀せしめよ。」と。秦果たして兵を出す。又梁王に謂ひて曰く、「周王病甚ゆ。犯請ふ後可にして之を復たせん。今王卒をして周に之かしむ。諸侯皆心を生ず。後に事を擧ぐるも、且に信ぜざらん。今卒をして周の爲に城きて以て事端を匿さんには如かず。」と。梁王曰く、「善し。」と。遂に周に城かしむ。

華陽の約　参考①に「華陽は魏の地名なり、華陽の約は秦と魏とが華陽にて結びたる盟約なり」とある。
梁　戦国時代には梁
馬犯　参考①に「周の臣なり」とある。
心を生ず　参考①に「疑心を生ずるをいふ」とある。

三十四年に、蘇厲が周君に「秦は韓・魏を破り、魏の軍師である武を倒し、北では趙の藺・離石をしたのは、全部秦の武将の白起である。白起はうまく兵を用いる。これまた秦に天命があるということだ。今また兵を率いて、城塞を出て梁を攻撃している。梁が敗北すれば周が危うい。あなたは使者を送って白起を説得した方がいい。そのときは、『『楚に養由基という者がいた。弓での射撃が得意だった。柳の葉を百歩離れたところから射た。百発射て百中した。左右で見ている群衆は数千人、皆『善射』と養由基のことを言った。そばで見ていたある男が、『よし。私が射を教えよう。』と言った。養由基は怒って、弓を投げ捨て剣を手に取って、『どうしてあなたは私に弓を教えるのか。私は教えなんていらない。』と言った。客が言うには、『私はあなたに左で弓を支え、右手で矢筈を持つことを教えるのではない。そもそも柳の葉を百歩離れて射るというのは、善いと言われて気が休まず、若くして気力が衰え、力がたるみ、弓が歪んで矢はまがり、一発でもあたらなかった矢があれば、百発の命中は全部水の泡となるだろう。』と。今、秦は韓・魏を破り、軍師の武を倒し、北方では趙の藺・離石を攻略したのは、あなたのおかげではないか。今、また兵士を率いて城塞を出て東西両周を過ぎて、韓に背いて梁を攻めている。一回功績をあげられなければ、以前の功績はすべて無駄になるだろう。あなたは病と偽って出陣しないのが一番良い。』と言って交渉しなさい。」と。

四十二年に、秦が華陽の約を破った。馬犯は周君に言うには、「どうか梁に周を守る城を築かせてください。」と。それから梁王に「周王は病気にかかった。もし王が死亡すればわたくし犯も必ず死ぬでしょう。どうか王権の象徴である九鼎を梁王のものにしてみせましょう。王は九鼎を受け取り、犯をお守りください。」と。梁王は「分かった。」と承諾した。とうとう梁王は周に兵士を送り、周を守ると言ったが、犯は秦王に「梁は周を守るのではありません。周を滅ぼすつもりです。秦王よ、試しに兵を国境から派兵して、兵士に事の次第を見させてください。」と言った。秦は兵士を派遣した。また、馬犯は梁王に言うには、「周王は病気が回復した。どうか将来ちょうど都合が良いときに今回の作戦は実行させてください。今、王は兵士を周に行かせています。諸侯は皆疑心を生じています。後々に行動を起こそうとも、信用されないでしょう。今は、兵を周を守るために派兵して、今回の偽装作戦を隠すことが一番です。」と。梁王は承諾して、周にいる梁軍は周を守った。

４

四十五年，周君之秦客謂周（最）［聚］曰：「公不若譽秦王之孝，因以應為太后養地，秦王必喜，是公有秦交。交善，周君必以為公功。交惡，勸周君入秦者必有罪矣。」秦攻周，而周聚謂秦王曰：「為王計者不攻周。攻周，實不足以利，聲畏天下。天下以聲畏秦，必東合於齊。兵獘於周。合天下於齊，則秦不王矣。天下欲獘秦，勸王攻周。秦與天下獘，則令不行矣。」

五十八年，三晉距秦。周令其相國之秦，以秦之輕也，還其行。客謂相國曰：「秦之輕重未可知也。秦欲知三國之情。公不如急見秦王曰『請為王聽東方之變』，秦王必重公。重公，是秦重周，周以取秦也；齊重，則固有周聚以收齊：是周常不失重國之交也。」秦信周，發兵攻三晉。

五十九年，秦取韓陽城負黍，西周恐，倍秦，與諸侯約從，將天下銳師出伊闕攻秦，令秦無得通陽城。秦昭王怒，使將軍摎攻西周。西周君犇秦，頓首受罪，盡獻其邑三十六，口三萬。秦受其獻，歸其君於周。

周君、王赧卒，周民遂東亡。秦取九鼎寶器，而遷西周公於憚狐。後七歲，秦莊襄王滅東（西）周。東西周皆入于秦，周既不祀。

四十五年に、周君秦に之く。客周最に謂ひて曰く、「公秦王の孝を譽め、因りて應を以て太后の養地と爲さんには如かず。秦王必ず喜ばん。是れ公秦交有り。交善れば、周君必ず以て公の功と爲さん。交惡ければ、周君に勤めて秦に入りし者必ず罪有らん。」と。秦周を攻めんとす。而して周最秦王に謂ひて曰く、「王の爲に計れば、周を攻めず、周を攻むとも實は以て利とするに足らず、聲は天下を畏れしむ。秦畏れば、必ず東の方齊に合はん。兵周に弊え、天下を齊に合はせば、則ち秦王たらじ。天下秦を弊さんと欲す。王勤めて周を攻めしむ。秦天下と弊へば則ち令行はざらん。」と。

五十八年に、三晉秦を距ぐ。周其の相國をして秦に之かしむ。秦之を輕んずるを以て、其の行を還す。客相國に謂ひて曰く、「秦之の輕重、未だ知るべからず。秦は三國の情を知らんと欲す。公急に見え、請ふ王の爲に東方の變を聽かしめんと曰はんに如かず。秦王必ず公を重んぜん。公を重んずるは、是れ秦、周を重んじ、周を以て秦を取るなり。齊の重きは周より周聚有りて以て斉を収むればなり。是れ周、常に重國の交を失はざるなり。」と。秦、周を信じて、兵を發して三晉を攻む。

五十九年に、秦韓の陽城の負黍を取る。西周恐れて、秦に倍きて、諸侯と從を約し、天下の鋭師を將ゐ、伊闕を出でて、秦を攻め、秦をして陽城に通ずるを得ること無からしむ。秦の昭王怒りて、將軍摎をして西周を攻め、西周の君秦に犇り、頓首して罪を受け、盡く其の邑三十六と、口三萬とを獻ず。秦其の獻を受け、其の君を周に歸す。

周君と王赧と卒しぬ。周民遂に東に亡ぐ。秦九鼎・寶器を取りて、西周の公を𢠸狐に還す。後七歳にして、秦の莊襄王東西の周を滅す。東西の周皆秦に入る。周旣て祀らず。

周最　西周の公子　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%A8%E6%9C%80
太后　参考①に「秦の昭王の母の宣太后羋氏なり」とある。
周聚　参考①に「周最に同じ」とある。
韓陽城負黍　地名　Wikipedia摎のページ　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%8A%E6%91%8E
伊闕　現在の河南省洛陽市洛竜区　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B4%9B%E7%AB%9C%E...
　　　伊闕の戦い　紀元前293年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E9%97%95%E...
秦昭王　前306年 - 前251年　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%AD%E8%A5%84%E...
秦莊襄王　前249年 - 前247年7月6日　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8D%98%E8%A5%84%E...
摎　Wikipedia　https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%8A%E6%91%8E
西周公参考①に「武公の太子の文公なり」とある。

赧王四十五年に、周君は秦に赴いた。客は周最に「あなたは秦王の孝を褒め称え、応の地を太后の保養地とするのが一番良い。秦王は必ず喜ぶだろう。あなたは秦王と交流がある。その仲が良ければ、周君は必ずあなたの功績とみなすだろう。仲が悪ければ、周君を積極的に秦に入れようとしているあなたは必ず罪を蒙るだろう。」と言った。あるとき、秦は周を攻めようとした。そこで周最は秦王に「王のために考えてみると、周を攻めなくてもよく、周を攻めても実利は十分にはなく、秦が天子国の周を攻めたという評判は天下を恐れさせる。天下が秦を恐れれば、必ず東方の斉が秦に対して出兵し合戦となるだろう。兵は周攻略に疲弊し、天下が斉のものとなれば、秦は王となれない。天下は秦を疲れさせたいと思っている。王は積極的に周を攻撃している。秦と天下が疲れれば、事はうまくいかない。」と言い、攻撃をやめさせようとした。

五十八年に、晋から分裂した三か国（韓・魏・趙）が秦を協力して防いだ。周は宰相を秦に派遣した。秦はこれを軽んじて、その道を引き返した。客が言うには、「秦が使節を軽んじているか重んじているかは、まだわからない。秦は妨害している三国の情勢を知ろうとしている。あなたが急いで面会して、王のために東方の情勢をお話ししようと請願するのが一番良い。そうすれば秦王は必ずあなたのことを重んじるだろう。あなたを重んじるということは、秦は周を重んじることになり、周と秦との関係を重視することになる。斉が周と親密なのは、周出身の周聚が居て斉をつなぎとめているからだ。常に周は大国との交流を失っていないのだ。』と言った。秦は周を信じて、兵士を派遣して三晋を攻めた。

五十九年に、秦が韓の陽城の負聚を取った。西周は恐れて、秦に反して、諸侯と同盟を締結して、天下の精鋭の将軍を率い、伊闕を出発して、秦を攻撃し、秦が陽城を通れなくした。秦の昭王は怒って、将軍の摎に周を攻撃させ、西周君は秦に出頭し、頓首して罪を受け、所領の三十六の邑と人民三万人を差し出し降伏した。秦はその献上を受け、西周君を周の地に返した。

西周君と赧王が逝去した。周の民は王の死亡を機に東方に逃れた。秦は九鼎・宝物を取り、西周公を𢠸狐に返した。そののち、七年後に臣の莊襄王が東西の周を滅ぼした。東西の周の勢力は皆秦の支配下となった。周王室は滅亡して、宗廟も祀らなくなった。

太史公曰：學者皆稱周伐紂，居洛邑，綜其實不然。武王營之，成王使召公卜居，居九鼎焉，而周復都豐、鎬。至犬戎敗幽王，周乃東徙于洛邑。所謂「周公葬（我）［於］畢」，畢在鎬東南杜中。秦滅周。漢興九十有餘載，天子將封泰山，東巡狩至河南，求周苗裔，封其後嘉三十里地，號曰周子南君，比列侯，以奉其先祭祀。

太史公曰く、「學者皆周紂を伐ちて、洛邑に居ると稱す。其の實を綜ぶるに、然らず。武王之を營み、成王召公をして居を卜ひ九鼎を居えしむ。而して周復た豐・鎬に都す。犬戎の幽王を敗るに、周則ち東の方洛邑に徒る。謂ふ所の周公を我が畢に葬れといへり。畢は鎬の東南の杜中に在り。秦周を滅し、漢興れり。九十有餘載、天子將に太山に封ぜんとす。東に巡狩し、河南に至り、周の苗裔を求め、其の後の嘉を三十里の地に封じて、號して周の子南君を曰ひ、列侯に比べ、以て其の先の祭祀を奉ぜしむ。

杜　参考①に「甘棠なり」とある。

太史公が言うには、「学者は皆周が紂王を放伐して、洛邑に都をおいたと言っている。その事実を確認すると、そうではない。武王が洛邑を作り、成王が召公に遷都を占わせ九鼎を据えさせた。それから周はまた豊京・鎬京に都をおいた。犬戎が幽王を打ち負かしたときに、周は東方の洛邑に逃げてきた。いわゆる周公を我が畢に葬ったということだ。畢は鎬京の東南にアマナシの林の中にある。秦が周を滅ぼし、漢が秦を滅ぼして興った。漢建国から九十数年、天子は今にも太山の祭りを行おうとしている。東に巡狩し、河南に至り、周の末裔を探し、その子孫の嘉に三十里の地を与え、周の子南君と名付け、諸侯に列し、周の祖先を祀らせた。」と。

このページを編集するこのページを元に新規ページを作成

印刷する

コメント（0）

カテゴリ：
学問・文系
総合

周本紀第四 - 史記書き下しwiki 先頭へ

コメントをかく

名前	ユーザIDを使用しないで書き込む	ユーザーIDを使う	ログインする
画像コード	画像に記載されている文字を下のフォームに入力してください。
備考	「http://」を含む投稿は禁止されています。
本文
利用規約をご確認のうえご記入下さい

史記書き下しwiki

はじめに

西周

后稷

不窋・慶節・皇仆・差弗・毀隃・公非・高圉・亞圉・公叔祖類

古公亶父

公李・昌（西伯・文王）

發（武王） 在位 前1046年? - 前1043年

１

２

３

４

５

誦（成王） 在位 前1042年 - 前1021年

釗（康王）在位 前1020年 - 前996年

瑕（昭王） 在位 前995年 - 前977年

滿（穆王） 在位 前976年 - 前922年

1

2

3

繄扈（共王） 在位 前922年 - 前900年

囏（懿王）在位 前899年 - 前892年・辟方（孝王）在位 前891年 - 前886年・燮（夷王）在位 前885年 - 前878年

胡（厲王） 在位 前877年 - 前841年

靜（宣王） 在位 前828年 - 前782年

宮湦（幽王）※宮涅とも。 在位 前781年 - 前771年

東周

宜臼（平王） 在位 前771年 - 前720年4月16日

林（桓王） 在位 前719年 - 前697年3月19日

佗（莊王） 在位 前696年 - 前682年

胡齊（釐王） 在位 前681年 - 前677年

閬（恵王）在位 前676年 - 前675年・前673年 - 前652年

鄭（襄王）在位 前652年 - 前619年

壬臣（頃王けいおう）在位 前619年 - 前613年・班（匡王）在位 前613年 - 前607年・瑜（定王）在位 前607年 - 前586年・夷（簡王）在位 前586年 - 前572年・泄心（靈王）在位 前572年 - 前545年

午（威烈王）在位 前425年 - 前402年・驕（安王）在位 前402年 - 前376年・喜（烈王）在位 前375年 - 前369年・扁（顯王）在位 前368年 - 前321年・愼（慎靚王）在位 前320年 - 前315年

延（赧王）

１

２

３

４

評論

コメントをかく

Menu

メニューサンプル1

メニューサンプル2

最近更新したページ

2025-08-30

2025-02-05

2024-03-14

2024-03-12

2022-08-23

最新コメント

2022-08-27

QRコード

アクセス解析中

后稷　