第九話 たった５文字
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slashjoule 2019年12月03日(火) 19:44:22履歴
風が丘の上の草原を撫でるかの様に吹き抜けていく
草原に座る女性の髪の毛が吹き抜ける風に靡いた
戦いを終えたカサシスクは束ねていた髪を解き
優しく吹く風にその長い髪の毛を預けている
「終わったな」
「あぁ終わった」
「勝ったんだな」
「あぁ勝った」
淡々と質問するカサシスクに
同じく淡々と返事を返すアメリィブレイカー
「これにて失礼、
拙者はベコウに戻る
殿に報告をしなければならんのでな」
「あたしもベステンに帰るわね、
今回の騒動で受けた被害の復興
しっかり手伝わなきゃだからっ」
エーデルワイスはベステン区域に
無極はベコウ大陸にそれぞれ戻った
「今頃月の女神も喜んでるさ
報告に行くのが楽しみだな」
アメリィの言葉にカサシスクは寂しげな表情を浮かべる
「どうした？カサシスク」
「理由は知っているはずだ」
そう返すとカサシスクは草原に転がる魔魂へと視線を移す
魔王を倒し戦いは終わった、でもそれで全てが終わった訳では無い
漆黒の魔魂を再び大地の中へと戻すと長き時を経て漆黒の力を吸収し続ける
様々な状況が重なる事で結果どうなるかは分からないが
次に世界に生み出された時にまた同じ災いが繰り返されてしまうかもしれない
魔魂を魔剣にする職人次第な部分もあれば生まれる魔剣の性格にも関係する
漆黒はあくまで漆黒であり、邪悪とするにはあまりにもレッテル貼りで決め付けだ
ただ……、そういった問答を頭の中で繰り返す必要はカサシスクに無かった
どうすればいいか、どうするかはもうここに来る時に決めていた
月光の護封剣
ルナの騎士が使う剣技の中で
対象を大地の中に封じてしまう事が出来る技だ
魔魂を破壊してしまうという方法もあったが
世界のバランスを崩す事を嫌う月の女神の方針によって
カサシスクは魔王を魔魂へ戻し月光の護封剣で封じてしまう事に決めた
「ここまで上手く行ったんだ
後は月光の護封剣で全てが終わる」
「……そうだな」
相変わらずアメリィの言葉に寂しげな表情でカサシスクは答えた
普段からここまであからさまに表情に感情を出すほうではない彼女に
少しだけアメリィブレイカーが戸惑う
「お前まさか……」
「寂しいのか？」
突然のアメリィの確信を突く言葉にカサシスクの目が大きく見開いた
「こいつは参った」
困るアメリィブレイカーにカサシスクが言う
「当たり前じゃないか、
ずっと一緒に戦って来たんだ」
「ま……、そうだな」
カサシスクが寂しそうな表情を浮かべる理由はただ一つ
月光の護封剣を使う事によって訪れる別れだった
月光の護封剣はその名前の通り
月の聖剣を大地に突き刺す事で
対象を大地に縛り付けてしまう封印の剣だ
当然カサシスクがこの技を使うという事は
アメリィブレイカーとの別れを意味する
最初にこの技を使おうと切り出したのは
アメリィブレイカーではなくカサシスクだった
一人と一本は長い話し合いを経て技を使う事で合意した
カサシスクから使うと言い出した月光の護封剣に
彼女はとっくに決意をしているとアメリィは思っていた
でも今目の前に居る彼女は今にも泣き崩れそうな表情をしている
「決めた事さ、そうだろ？」
「実感が湧いて来たんだ」
宥めるアメリィにカサシスクが駄々を言う
これではいつもと逆だなとアメリィは思った
「お前がそんなんじゃ俺が困る
しっかりしろ、ルナの騎士」
いつも冗談交じりにカサシスクと話すアメリィが
真剣な声でカサシスクに話しかける
「ここでお別れだとしても、
今まで一緒だった記憶は残るんだぜ」
思いつく限りの言葉を並べ
アメリィはカサシスクを説得する
これ以上彼女が決断を鈍らせてしまうと
自分自身の覚悟も鈍ってしまう気がしていた
カサシスクがアメリィとの別れを寂しく思うのと同じく
アメリィブレイカーもカサシスクと別れるのが辛かった
「横でピーチクパーチクうるさい俺に
お前さんはいつも怒らず耳を貸してくれたっけ」
アメリィがつい口から出してしまった感謝の言葉に
カサシスクの瞳から大粒の涙が零れ落ちた
「でっでもあれだ、
俺は月の聖剣だからな！
お前もルナの騎士だしよ！」
「これもまぁ運命だよな運命！」
再び思いつく言葉を投げかけていくアメリィ
その言葉に返事はしないまま少しだけ笑うと
カサシスクは魔魂を拾って丘の上へとゆっくり歩き出す
流れる風がカサシスクの瞳から涙を奪った
丘の上に到達すると未だに地面に刺さったままのアメリィに振り返り
カサシスクは精一杯の笑顔と大きな声で彼へ思いを伝えた
「ありがとうっ！！」
たった５文字
その５文字に精一杯込めた感謝の気持ち
アメリィブレイカーはただ静かに
丘の上から涙ながらに自分に向かって微笑む
ルナの騎士、カサシスクを見つめていた
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草原に座る女性の髪の毛が吹き抜ける風に靡いた
戦いを終えたカサシスクは束ねていた髪を解き
優しく吹く風にその長い髪の毛を預けている
「終わったな」
「あぁ終わった」
「勝ったんだな」
「あぁ勝った」
淡々と質問するカサシスクに
同じく淡々と返事を返すアメリィブレイカー
「これにて失礼、
拙者はベコウに戻る
殿に報告をしなければならんのでな」
「あたしもベステンに帰るわね、
今回の騒動で受けた被害の復興
しっかり手伝わなきゃだからっ」
エーデルワイスはベステン区域に
無極はベコウ大陸にそれぞれ戻った
「今頃月の女神も喜んでるさ
報告に行くのが楽しみだな」
アメリィの言葉にカサシスクは寂しげな表情を浮かべる
「どうした？カサシスク」
「理由は知っているはずだ」
そう返すとカサシスクは草原に転がる魔魂へと視線を移す
魔王を倒し戦いは終わった、でもそれで全てが終わった訳では無い
漆黒の魔魂を再び大地の中へと戻すと長き時を経て漆黒の力を吸収し続ける
様々な状況が重なる事で結果どうなるかは分からないが
次に世界に生み出された時にまた同じ災いが繰り返されてしまうかもしれない
魔魂を魔剣にする職人次第な部分もあれば生まれる魔剣の性格にも関係する
漆黒はあくまで漆黒であり、邪悪とするにはあまりにもレッテル貼りで決め付けだ
ただ……、そういった問答を頭の中で繰り返す必要はカサシスクに無かった
どうすればいいか、どうするかはもうここに来る時に決めていた
月光の護封剣
ルナの騎士が使う剣技の中で
対象を大地の中に封じてしまう事が出来る技だ
魔魂を破壊してしまうという方法もあったが
世界のバランスを崩す事を嫌う月の女神の方針によって
カサシスクは魔王を魔魂へ戻し月光の護封剣で封じてしまう事に決めた
「ここまで上手く行ったんだ
後は月光の護封剣で全てが終わる」
「……そうだな」
相変わらずアメリィの言葉に寂しげな表情でカサシスクは答えた
普段からここまであからさまに表情に感情を出すほうではない彼女に
少しだけアメリィブレイカーが戸惑う
「お前まさか……」
「寂しいのか？」
突然のアメリィの確信を突く言葉にカサシスクの目が大きく見開いた
「こいつは参った」
困るアメリィブレイカーにカサシスクが言う
「当たり前じゃないか、
ずっと一緒に戦って来たんだ」
「ま……、そうだな」
カサシスクが寂しそうな表情を浮かべる理由はただ一つ
月光の護封剣を使う事によって訪れる別れだった
月光の護封剣はその名前の通り
月の聖剣を大地に突き刺す事で
対象を大地に縛り付けてしまう封印の剣だ
当然カサシスクがこの技を使うという事は
アメリィブレイカーとの別れを意味する
最初にこの技を使おうと切り出したのは
アメリィブレイカーではなくカサシスクだった
一人と一本は長い話し合いを経て技を使う事で合意した
カサシスクから使うと言い出した月光の護封剣に
彼女はとっくに決意をしているとアメリィは思っていた
でも今目の前に居る彼女は今にも泣き崩れそうな表情をしている
「決めた事さ、そうだろ？」
「実感が湧いて来たんだ」
宥めるアメリィにカサシスクが駄々を言う
これではいつもと逆だなとアメリィは思った
「お前がそんなんじゃ俺が困る
しっかりしろ、ルナの騎士」
いつも冗談交じりにカサシスクと話すアメリィが
真剣な声でカサシスクに話しかける
「ここでお別れだとしても、
今まで一緒だった記憶は残るんだぜ」
思いつく限りの言葉を並べ
アメリィはカサシスクを説得する
これ以上彼女が決断を鈍らせてしまうと
自分自身の覚悟も鈍ってしまう気がしていた
カサシスクがアメリィとの別れを寂しく思うのと同じく
アメリィブレイカーもカサシスクと別れるのが辛かった
「横でピーチクパーチクうるさい俺に
お前さんはいつも怒らず耳を貸してくれたっけ」
アメリィがつい口から出してしまった感謝の言葉に
カサシスクの瞳から大粒の涙が零れ落ちた
「でっでもあれだ、
俺は月の聖剣だからな！
お前もルナの騎士だしよ！」
「これもまぁ運命だよな運命！」
再び思いつく言葉を投げかけていくアメリィ
その言葉に返事はしないまま少しだけ笑うと
カサシスクは魔魂を拾って丘の上へとゆっくり歩き出す
流れる風がカサシスクの瞳から涙を奪った
丘の上に到達すると未だに地面に刺さったままのアメリィに振り返り
カサシスクは精一杯の笑顔と大きな声で彼へ思いを伝えた
「ありがとうっ！！」
たった５文字
その５文字に精一杯込めた感謝の気持ち
アメリィブレイカーはただ静かに
丘の上から涙ながらに自分に向かって微笑む
ルナの騎士、カサシスクを見つめていた
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