BellKnight - 第四話 カサシスク
乾いた音が2つ鳴る
道を駆ける足音が2つ鳴る

「っつーわけで俺達は
 漆黒の魔王を倒しに来た訳だ」
「成る程」

お喋りなアメリィは移動しながら
自分達がここに来るに至った経緯を
聞かれてもいないのに無極へ話した

「しかしまぁ……、
 月の女神もなぜその様な者を
 殺さず捕らえていたのか」
「漆黒の魔王を倒した際に
 息の根を止めておけば
 こんな事にもならなかったろうに」

無極の言葉にカサシスクは何も言わず
表情ひとつ変えないまま全速力で走り続けている
口数の多いアメリィがカサシスクに合わせ
何も言わなくなったのを見て無極は
よくない事を口にしてしまったのだなと理解した

「失礼した、
 誰でも自分の尊敬する者を
 あんな風に言われると気分が悪いな」

無極は申し訳なさそうに頭を垂れると

「いいんだ、気にしないでくれ」

カサシスクがすぐに返した
気まずかった空間に出来た裂け目を
すかさずアメリィが追いかける

「侍っていうのは
 空気も読むのか」

「空気を読むのは得意なんだ、
 真空を司る魔剣…だけにな」

無極の気の利いた返しに
アメリィは何も言わない
二人の目の前には
暗闇の中に腰を据える城の入り口が見えていた

カサシスクが小さく、こぼす

「着いた、城の入り口」

「このまま突破する」

カサシスクが力強く言う

「心得た」

無極が返すと二人はそのまま
全速力で漆黒の魔王が居る城の中へと駆けて行った



「カサシスク、あなたをルナの騎士に任命する」

月の女神はそう言うと月の聖剣
アメリィブレイカーを彼女に渡した

「これはその証だ」

「ありがとうございます」

月の女神の言葉に一礼し、一歩後ろへと下がる

「お前のその力、
 月の為に貸しておくれ」
「ルナの騎士として、
 覚悟はしているつもりです」

そうカサシスクが答えると
月の女神は静かに微笑んだ

あたしはこの笑顔を知っている、それもずっと昔から

「お母さん……」


「カサシスク危ない!」

突然の声に意識を取り戻す
気付けば視界は天を眺め体は宙へと浮いていた

食らった、油断していた
虚ろだった瞳に力が入ったと同時に
カサシスクはバランスを取り着地した

「まるで猫の様だと思っただろう」

アメリィが台詞を言い終える前に駆け出す
お返しの一閃が漆黒獣を引き裂いた

「カサシスク後ろ後ろー!」
背後から漆黒獣の追撃が来る
構えるカサシスクに無極が言う

「心配御無用」

漆黒獣は突如雄たけびを上げ
見えない何かに刻まれて消滅する

「真空を撒いておくのは
 戦いの基本なので」

誇らしげな表情を浮かべる無極に

「しらんがな」

とアメリィが返すと少しだけカサシスクが笑った


再び二人は先へと進み始める
油断して攻撃を受けたのは自分の責任
カサシスクはそんな自分を心の中で律した

月の女神はカサシスクにとって
月を治める女神であると同時に母親だった
漆黒の魔王を殺さずに牢に入れた件は
月の住人達にも相当バッシングを受けた
無極が言う事に自分も同じ意見を持っている

だが…それと同時にカサシスクは
母親の苦悩も同じ様に見てきた
勿論、全てを話してくれた事は無かった
でもきっと何か漆黒の魔王を
殺さなかった事には理由があったんだろうと思う

漆黒の魔王討伐の命を自分に伝える際、
月の女神である母親は今にも泣き崩れそうな表情だった

「私のせいで……、
 あなたに辛い仕事を」

カサシスクは何も言わず笑顔で頷いた

辛いなんてまったく思わない

この手で漆黒の魔王を討てるのは本望だし
娘である自分が奴を始末すれば
母に対するバッシングも少しはマシになるだろう

「あたしは母とは違う――」

誰にも聞こえないくらい小さく呟いた

「ルナの騎士だ」

力強く呟いた


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