最悪だ。
 ジュネーブはぶっ壊されるし、イングラムの野郎が裏切ってクスハを連れ去りやがった。
 それに……ラッセルに殴られた。自分じゃいつものことだったが、あいつは相当心配してたんだろうな。いつか言おうと思ってたのが、限界にきたんだろう。相当ヤキが回ったみたいだ。
「なあ、ラッセル……あたしって軍隊に向いてないのかな」
 あたしはラッセルを部屋に呼び出して、こう持ちかけた。
「あたしはいつも先走っちまうだろ。ホワイトスターを目の前にしたときもそうだし、タクラマカン砂漠でもそうだった。そのたびに、お前に尻拭いさせちまってる」
「いえ、中尉が気にする必要はありません」
 直立不動のラッセルが、ベッドに腰掛けてるあたしを見下ろしている。
「我慢してたんだろ、ラッセル。だから、あん時あたしを殴ったんだろう?」
「いえ、あの時はカッとなっただけです、すみません。だけど、それだけです」
「なあ、ラッセル……疲れるだろ、あたしの下じゃ」
「……いいえ、自分は中尉をお守りするのが役目です」
「……艦長に頼んで配置換えをしてもらおうか?」
「なっ、何を言うんですか中尉!?」
「そうすりゃ、少なくともあたしのことで我慢することはなくなるだろ。キョウスケの下で戦ったほうがお前もいいんじゃないのか?」
「ふざけないでください、中尉! 自分をそんな風にしか見てくれていないのですか!」
「あの時、自分は中尉をずっと守っていくと言いました。中尉は信じてくれないのですか?」
「中尉が厳しく訓練してくれたおかげで自分はここまでこれました。いまの自分があるのも中尉のおかげです。それに……」
 ラッセルが言いよどんでる。
「それに……自分は中尉が好きです」
「は?」
「はい、上官としてだけでなく、一人の女性として自分は中尉が好きです」
「……本気かよ?」
「自分は本気です! 勢いで言っているわけじゃありません!」
「嘘つけ」急な告白に、あたしの鼓動が急に早くなった。
「嘘なんかじゃありません」
「信じられないね」
「……じゃあ、これで信じてもらえますか?」
 そういうと、ラッセルはあたしに近づき膝をついた。そして、顔が近づいて……あたしにキスをする。短く軽いキス。だけど……
「これで信じてもらえますか?」
 心臓がマシンガンの乱射を始める。やばい、息がしづらい。身体も急に熱くなってきた。
「な、何をしやがる……」
 今のあたしには、これが精一杯の反応。ラッセルがあたしの肩をつかむ。
「自分にとって中尉は大事な人です。これからもずっと、ずっと守っていきます。今日みたいなことは二度と言わないでください」
 ラッセルがしゃべっている間、あたしは顔をじっと見ている。いつもは頼りなさそうな顔をしているが、今は頼もしい男の顔になっている。「あ、ああ、分かった」とうなづくと、ラッセルは立ち上がった。
「……今の無礼をお許しください。それじゃ、失礼します」
 ち、ちょっと待て。ラッセルはあたしをこのまま放っておくつもりなのか? 冗談じゃない。あたしは声を上げた。
「ま、待て!」
 ラッセルは立ち止まった。何とか大きく息を吸えたあたしは言葉を続ける。
「今のは本気のキスだよな?」
 はい、とラッセルは答える。
「あたしを大事に思ってるんだよな? だったら……だったら、このまま帰るのつもりなのかよ。あたしをドキドキさせたまま帰るのかよ?」
 あたしは、胸の奥から言葉を振り絞った。
「す、好きだと言うのなら……責任とってくれよな」
 今度は長く優しいキス。唇を重ねているうちに、身体から力が抜けていくのが分かる。ラッセルの手があたしの髪を撫でる。撫でられるだけで身体が熱くなってくる。
 ラッセルがあたしをゆっくりとベッドに押し倒す。体中が熱く、目を開けていられない。
「んっ……」
 すると、ラッセルはあたしの服を脱がし始めた。シャツのボタン、パイロットスーツのベルト、ファスナーをゆっくりと丁寧に。ラッセルの手があたしに触れるたびに声を上げる。普段のあたしじゃ絶対に出さない声。出すまいと耐えようとするけど、口の端から声が漏れていく。
「はぁん、んんっ」
 ラッセルの手がブラジャーに伸びてきた。なすがままにブラジャーをはずされる。恥ずかしい。
「綺麗です、中尉」
 その言葉を聞いた途端、何故か急にエクセレンやガーネットの姿が頭に浮かんだ。二人ともグラビアに出てくる理想の姿。
「……嘘だ、エクセレンらには負けてるよ」
「そんなことはないです、中尉が一番ですよ」
 初めて言われた言葉に涙が出そうになる。
「ありがとうラッセル。だけど、何度も中尉って呼ばないでくれ」
「す、すみません。じゃ、じゃあ……」
「今だけでいい……ちゃんと名前で、カチーナって呼んでくれ」
「わかりました……カチーナ」
 あたしの名を呼んでくれたラッセル。胸が温かくなる気がした。もう、耐える必要はない、ラッセルにすべてをまかせよう。
「ああっ……あん! はうんっ!」
 ラッセルがあたしの胸をもむ。胸を吸う。あたしの恥ずかしいところに指をもってくる。
「やっやめろ、ラッセル……はあんっ!」
 ラッセルの手は止まらない。
「だ、だめ、やめ……あああっ! やっ……あああああっ!!」
 頭の中にモヤがかかる。体にぜんぜん力が入らない。衣擦れの音が聞こえる。なんとか顔を向けると、ラッセルが裸になっていた。目が自然と一点に集中する。間近であれを見た。アレがあたしの中に入る、そう思った途端、急に逃げ出したくなった。
「い、いや! 怖い……」
「ど、どうしたんですか?」
 後ずさりするあたしにラッセルが近づく。
「う、ううん、なんでも……」
『はじめて』を悟られたくない。知られたくない。怖い。ここまできたのに、一つになれるはずなのに、逃げ出したい。そんなあたしをラッセルは抱きしめた。
「大丈夫、じぶ……俺を信じてください」
「ラッセル……」
 ラッセルと抱き合うと、ドキドキしているのが分かる。あたしと同じだ。
「いきますよ……」
「うん……あっ……ああっ!!」
 ラッセルのが入ってきた。痛い。でも、体の奥が暖かい。ラッセルと一つになってる。嬉しい。
「い、痛かったですか?」
 知らないうちに泣いていた。心配そうな顔をするラッセルに首を振る。
「う、ううん、大丈夫……嬉しいんだよ。一つにつながってることが」
「ゆっくり動きますね。痛かったら……」
「大丈夫……あたし、初めてだけど痛くない。ラッセルの好きに動いていいよ」
 ラッセルが腰を動かし始める。ゆっくり、時々早く。ラッセルが動くたび、あたしの中に電気が走る。
「やっすごいっ……ああっ! ん、んんっ! はぁん!」
 もう、何も考えられなくなってきた。ただ、ラッセルが欲しい。ラッセルが欲しい。
「うんっ、い、いいっ! あんっ! ああ、ああっ! ああっ……だ、だめっ! なんか、なんか、くるっ!」
「お、俺も……も、もう……」
「う、うん、いっしょに、い、いっしょにっ! あ、ああっ、あああああああっ!」


「目が覚めましたか」
「あ、ラッセル……あたし……」
 喋ろうとすると、ラッセルの指があたしの口に触れる。
「今はこのままで……」
「いや、はっきりさせるよ、ラッセル。あたしはお前が好きだ」
「カチーナ……」
「お前がずっと近くにいたせいで、お前が、ラッセルが好きだってことに気づかなかった。でも……お前に抱かれたことではっきり分かったんだ」
「ありがと、ラッセル」
「いいか、ラッセル。あたしをずっと守っていくと言ったこと、忘れんじゃないぞ。お前はあたしにとってはじめての男なんだからな」
「わかりました」
「だからといって、馴れ馴れしくするんじゃないぞ。図に乗ったら容赦しないからな」
「は、はい。大丈夫です」
「それと、名前だけで呼ぶのもなしだ」
「はい」
「いいな、あたしを『カチーナ』って呼べるのは、二人っきりのときだけだからな」
「はい、わかりました。カチーナ」
 ラッセルの髪をくしゃくしゃにしてする。ラッセルが笑っている。たぶん、あたしが笑ってるからだろう。
「さて、ラッセル。このまま一緒に寝るぞ」
「はい」
「今日はいい夢が見られそうだ……おやすみ、ラッセル」
 おやすみ、大好きなラッセル。

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