極東支部の昼休み。
昔、極東支部の食堂は日替わりのみの固定メニューだったのだが、ある人物が中心になった活動のおかげで、ここの食堂のメニューは味も種類も豊富になっている。
そんな食堂でコロッケそばにおひたしとゆで卵といったメニューのイングラムと、カツ丼の大盛りのリュウセイが会話をしていた。
「で、隊長。どの子が好みのタイプだったんですか?」
「結局は黒髪の…カティアだったか?」
「ええ、そうですね。俺はテニアを選びましたけど。」
その内容は昼休みの息抜きといった感じだった。
「やはりそうか、リュウセイの好みのタイプだとは思ってはいたが……」
「隊長の方こそ予想通りでしたよ。」
「そうか? カティアかメルアで悩んだんだがな。」
支部内でそういう話が出来て嬉しいのか、リュウセイは楽しそうに会話をしていた。
そんなリュウセイとは対称的な人物がいる。
少し離れた場所でトレーに日替わり定職Cセットを載せて立ちすくむ女性。
レオナ=ガーシュタインその人だった。
『ま、まさかイングラムさんが合コンをしていたなんて……』
イングラムの側に座ろうとしたほんの少し前に聞こえてきた会話。
つい足を止めて会話に聞き入ってしまった。
知っている人間にとっては何の事かすぐに分かる会話だったが、残念ながらレオナは知らない人である。
すっかり考えが悪い方へ悪い方へと向かっていった。
『どんな人かしら、黒髪なのは聞いたけど。でも、イングラムさんの恋人は私だし、付き合いで合コンに行っていたとしてもそんな、そうよ、イングラムさんが合コンなんて行くはずは無いわ。だとすると……。』
そこでふと、軍である計画が進行していたのを思い出す。
『まさか…、機体のパートナーとか…』
リュウセイの機体であるR-1とイングラムの機体であるR-GUNパワード。
この二体には専用のPTキャリアを作る計画があり、その機体の完成はもうすぐだと聞かされていた。
ドッキングしてしまえば1人でも動かせるのだが2体とも戦闘時は単機で変形する事が多いためにPTキャリア側にもパイロットが必要かどうかの会議が近々行われるはずだった。
『私がパートナーになりたかったけど……。ダメよ、公私の区別はつけなくては。イングラムさんが選んだ女性なら、私も認めてあげなくては。』
イングラムを、そしてイングラムが好きな自分を信じ、心を落ち着かせる。
ゆっくりと息を吸って、吐き出そうとした。
「ひぁっ! んぁぁぁぁっ!!」
吐き出した息が色っぽい声に変わる。
突然背中に感じた刺激。
レオナは振り向きその刺檄を与えた人物に講義をする。
「な、何をするのクスハ!!」
「そんな所に立ってるとみんなに迷惑だよ、レオナ。」
「ごめんなさい。でも、いきなり背中を指で刺激しないでちょうだい。びっくりして食事を落としそうになったわ。」
「ごめんなさいね、レオナ。」
突然の真剣な目にレオナは一瞬たじろいだ。
「まぁ、そんなには怒ってはいないわ。」
「今の声、イングラムさん以外に聞かせたくないもんね。」
「!!!!」
真っ赤になって絶句するレオナを置いて、クスハは逃げるようにイングラム達のいるテーブルに向かっていった。
「もぉ…。ちゃんと栄養を考えて食事しないとダメだよ、リュウセイ君。」
リュウセイの隣に座るやいなやクスハは注意を始めた。
「健康の事に関してはユキコおばさまから頼まれてるんですからね。ちゃんと野菜とかも食べないと……」
「あ、クスハさん、質問。質問があります。」
「え? なにかしら?」
「コロッケって野菜じゃないんですか?」
妙な質問につい、レオナとクスハはイングラムの食べているコロッケを見てしまった。
「コロッケってジャガイモ……よね?」
「だからといってカツ丼にコロッケのせたら、怒るよ? リュウセイ君。」
「違いますよ。スパロボJやってたら、野菜を食べなさいってシーンの後にコロッケが出てきて……」
「カティアが『野菜も食べなさい』と言ったのに対してテニアが『じゃあコロッケトッピングで』と、カレーにのせようとして怒られるシーンだったな。」
リュウセイの良く分からない説明をイングラムは分かりやすく修正する。
その説明を聞いてレオナは自分の過ちに気がついた。
『って…事は…カティアってゲームのキャラクターなの? 私、ゲームのキャラに嫉妬して…ヤダ、馬鹿みたい…。』
「生野菜って意味で言ってると思うけどね、栄養素的にも。それにコロッケって揚げ物だから…」
「あと…、『ポテトコロッケ定食』ってどんなんです? ふつーのコロッケですかね?」
「ポテトコロッケってわざわざ言ってるんだから、お肉の入ってないコロッケとかポテトサラダがつくとか…、まぁ、普通のコロッケかもしれないけど。」
納豆をかき混ぜながら説明するクスハ。
その横でレオナは少しうつむきながら大学いもを箸でつついていた。
『私もゲームとかをやった方がいいのかしら…』
リュウセイはともかくイングラムでさえ楽しんでる様子のゲーム。
この前見た領収書によって値段も知っている。
映画のディスクより少し高い程度なら、ためしに買ってみてもいいかもしれない。
そんなふうに考え込んでいるレオナをイングラムは心配そうに見ていた。
「ねぇ、クスハ。この辺にゲームを売っているお店を知らないかしら。」
「バックギャモンとか?」
更衣室での帰り支度中のレオナに話しかけられ、鏡を見ながら髪をとかしつつ答えるクスハ。
「違うわ。その…、スーパーロボット大戦ってやつなんだけど……」
かつーん。
クスハさんご愛用のブルーのブラシが床に落ちる。
「レ、レオナまでマニアに……。 お給料日のたびにマニアショップへ行く人に……」
「違うわ! それにイングラムさんはマニアじゃないわ! 多分…」
「多分って。えっと、レオナもゲームをやりたいと、イングラムさんと共通の話題を持ちたいと。」
「……ええ。値段もこの前の領収書で見てたから……」
その言葉に小首をかしげる。
「うん? でもレオナは本体を持ってないでしょ? ゲームボーイアドバンス。」
「ゲームだけでは出来ないの?」
「『ゲームソフト』だもん、ワープロソフトもそれだけじゃ使えないでしょ。」
「ええ、そうね……」
「じゃあ、本体は借りましょう。ね?」
そう言って携帯を取り出すクスハ。
自分には良く分からない世界なので、レオナはおとなしく言うことを聞くことにし着替えを続けた。
「あ、もしもし…え? ゴキブリ怪獣って……。この前、月に現れた鎌と銃を持った怪獣でしょう? あれはグレー判断。
うん、敵意は無さそうだけどこっちにはコンタクトとってこないみたいだし。そうじゃなくて、お願いがあるんだけど、
借りっぱなしのSP…うん、それ、レオナに貸してもいいかしら? ……ありがとう、お礼に明日ご馳走作るね。 うん、待ってるね。」
恋人との何気ない会話。
いずれ自分でもあんなふうに気軽に話しを出来る日が来るのだろうか?
レオナはふと、そんなことを思ってしまう。
「で…、最後に聞きたいんだけど、誰が好みだったの? やっぱり…、うん、ありがとう。じゃ、明日ね。」
会話を終えて携帯をハンドバッグにしまうのを見て着替え終えたレオナが尋ねる。
「どうだったのかしら?」
「ん、メルアだって。」
「え?」
「あ、ごめんなさい。OKだって、家にあるから帰りに家に来る?」
レオナ達が着替えを終えた頃。
30分後に始まる会議の書類整理を終えたイングラムが事務室に1人いた。
医務室がクスハの仕事場というならば事務室はレオナの仕事場といっても過言ではないだろう。
30分の空白の時間が出来たことと事務室に居るということがイングラムにレオナの事を考えさせた。
時おり見せる寂しげで考え込んでいる表情。
また何かレオナを傷つけているのはないかと思うと落ち着かなくなる。
自分に何かしてやれればいいんだが……。
と、そのときジャケットの胸ポケットにメモが入っていたことを思い出す。
カサカサとそれを開くと、リュウセイの字で『隠し要素メモ ばーじょん0.7』と書いてあった。
何気なく眺めたイングラムの視線がある所で止まる。
「ボン太くん……か。」






「まったく! 町が襲われているのに軍は何をしているの!」
クスハのマンションで、ダージリンティーの入ったカップがのった掘り炬燵で暖をとりながらレオナは文句を言っていた。
ゲーム機に。
「そのゲームの軍は当てにならないから期待しないほうがいいよ。」
トントンとリズムよく包丁を使いながらクスハがキッチンから声をかける。
レオナ=ガーシュタインという女性。
彼女はどうも映画や本に感情移入しすぎるらしく、クスハと映画を見ては泣いたり笑ったり……登場人物に文句を言っていたりもした。
それでいて普段は冷静に大局を見ているのだから意外だ。
まぁ、恋愛については例外だが。
「軍がそれではエルピス事件のような事が起きてしまうわ。」
「……それ以上の事起きてるんだけど、そのゲーム。」

エルピス事件とは、レオナやクスハが16歳の時に起きたテロ事件で、レオナの従兄弟のエルザム=V=ブランシュタインの妻カトライアを人質にし、エルピスコロニーの人々をBC兵器で毒殺しようとした事件である。
その時に、たった4人でテロリストの計画を阻止し、カトライアを救出したのがイングラム達だった。
その後、テロリストたちから入手した情報により地球連邦軍の一部の腐敗と反コロニー派の計画が判明、無血でコロニーが独立する事となる。
ちょうどその時期から地球に怪獣が発生し始め、凶悪宇宙人が何度か侵略をしてきた。
地球とコロニーを往復し少ない被害でそれを防いだものイングラム達で、そしてその事が再編された地球連邦軍とコロニー統合軍両方の推薦でイングラムを中心とするSRX計画が始まるきっかけとなった。
SRX計画の中心である極東支部にコロニー出身の者が多いのは、イングラム達を認めたコロニー連合軍総司令のマイヤー=V=ブランシュタインの協力があっての事だろう。
「自分のおかれた状況を冷静に判断しなさい! 紫雲統夜!」
「いや、平和に暮らしてた男の子が戦いに巻き込まれて成長していく話だから。」
「ロボットに乗れば男の子は喜ぶものではなくて?」
「兵器だよ、それ以前に。」
文句を言いながらも楽しそうにゲームを続けるレオナ。
そんなときに彼女の携帯が振動する。
「あら? え? イングラムさん?」
着信を見て慌てて通話のボタンを押す。
時間はちょうど会議が終わる頃。
何か書類に不手際でもあったのだろうか?
「も、もしもし。レオナです。え…ええ!」
突然の声に驚いてクスハがキッチンから出てくる。
そこには炬燵からでて立ち上がったレオナが見える。
「はい、はい! 大丈夫です! 9時ですね、はい。わかりました。」
そういって携帯を切り、深呼吸をして……。
「夢……じゃ、ないわよね。」
と、呟く。
「ほっぺた抓ってあげましょうか? 明日まで跡が残るくらいに。」
「ダ、ダメよ! 明日はイングラムさんと遊園地でデートなんだから!!」
「遊園地なんだ、そっか…ん…ってことは……」
言わなくていい事まで言って赤面してるレオナを置いてクスハはキッチンへ戻っていく。
「レオナ、今日泊まっていったら? 明日の服とか選ぶの手伝ってあげる。」
「……そうね、お願いするわ。」
元々、レオナはクスハとルームメイトだった。
クスハに彼氏ができた事に気を使ったレオナが近場にマンションを借りたのだが、クローゼットが狭いために服の半数はこのマンションに置いてもらっていた。
もっとも、クスハがちょくちょく家に招くためにレオナの使っていた家財道具やベッドは今もここの寝室にある。
食事と明日の準備を終え、2人はパジャマ姿でベッドに入っていた。
「クスハ……、もう寝てしまったかしら?」
「起きてるよ、何?」
「ちょっと、聞きにくいんだけど、その、えっと…」
そう言ってからしばらく沈黙が部屋を包む。
「女性から望んだりしては……嫌われるかしら?」
「デートの事?」
「ちがうわ、その…」
「私は……、甘えるのが好きだから。」
「え?」
「自分の好きな人に何かされたいと思うのが『恋』なら、何かしてあげたいと思うのが『愛』なら……。『恋愛』をしてるなら両方の感情を求めても良いと思う。」
「クスハ……」
「TVか漫画か小説で見たのか、私が勝手に思いついただけかもしれないけど。甘える時にはそういって自分を納得させてたかな。」
「……ありがとう、クスハ。 少し、楽になった気がするわ。」
「明日は楽しんでね。おやすみ、レオナ。」
「おやすみなさい。」






昨日2時間ほどクスハと選んだのは、男性物にも見えるグレーのスーツ姿だった。
飾り気のないスーツと低いヒールの靴ながらも、長くウエーブのかかった髪をなびかせながら歩いている美女の姿は、道を行く男性はもちろん女性さえも惹きつけるほどの魅力だっだ
「レオナ?」
突然背後から声をかけられた。
振り向くとそこには、
「イングラムさん?」
ジャケットを羽織ったいつもよりラフな格好のイングラムがいた。
待ち合わせの場所へ突く前に出会ってしまった事に多少戸惑いながらも、二人は目的地に向かい歩いていった。






しばらく遊園地を満喫した後、2人は観覧車に乗っていた。
午前中に入園した2人を今は夕焼けの日差しが照らしている。
窓の外を眺めているイングラムの横顔をレオナはそっと見つめていた。
「いいもの……だな。」
口を開いたのはイングラムだった。
「きっと、ここから見える人達も皆、楽しんでいるのだろうな。」
「私も楽しいです。」
一番シンプルにレオナは感想を口に出した。
昔は遊園地でのデートなんて子供っぽいと思っていた。
ましてや社会人になって来る事なんて無いと思っていた。
でも、実際は違っていた。
大人向けの施設も多くあったし、何より、恋人と遠くの見知らぬ町を歩いているような気がして……。
映画の中の登場人物になった気がして、嬉しかった。
「昔、仲間に言われた事があるんだが……」
窓から目を離し、レオナを見つめながら話し始めた。
「意地の悪い継母や義姉にいじめられていた少女が、王子に見初められるおとぎ話があるだろう?」
「はい、知っていますけど……」
レオナはこの話が嫌いだった。
自分からは何もしなかったくせに、他人の力と運の良さで幸せになった女の話。
自分はそんな女にはなりたくなかった。
「昔の俺はその話で例えたなら、魔法使いかガラスの靴を拾って王子に届ける役か……。いや、裏方が多かったかもしれないな、舞台劇ならば。」
そしてまた、窓の外へと視線を外した。
「言われたよ、『お前が王子になっている舞台があっても良いんじゃないか? お前の幸せを望んでいる観客も多いんだから。 ガラスの靴は俺達が拾ってお前にぶつけてやるよ、お前が結ばれるようにな。』とな。」
その言葉にレオナは息を呑んだ。
灰をかぶっていた少女を誤解していた事。
そして自分も同じだった事。
失恋が、嫌われるのが怖くて震えていた私を、言葉の魔法で着飾らせてくれた親友。
クスハがいなかったら、今ここで2人でいる事も無かったかもしれない。
「レオナ……。俺は君の…、君にとっての王子役を務められているだろうか?」
告白もした、両想いになれた、身体も結ばれている。
それでももっと先はある、先に行ける自信はある。
『2人はその後、幸せに暮らしました。』
おとぎ話はそれで終わる。
言葉にすれば一文でしかない。
でも、今までの話に比べれば、もっと長く、もっと幸せになれる大切な未来。
その為に自分の力が必要になるという事を、あの話は伝えていたのかもしれない。
そう思いながらレオナは立ち上がり、イングラムの隣に座った。
イングラムが自分の方に振り返るのを待ってから……
「私にとっての王子様はイングラムさんだけです……そして、イングラムさんは最高の王子様です。」
そう伝えて目を閉じた。
顔を少し近づけながら。
……しかし、しばらく待ってもキスをされる事は無かった。
『やはり少し……はしたなかったかしら。』
何か話題を変えようとイングラムのいない方の窓の外を見る。
気がつけば辺りは真っ暗になっていた。
キラキラと輝くイルミネーションが今までとは違った世界を色取っている。
その美しさにしばし目を奪われた後、イングラムが突然レオナの肩を抱いた。
「え?」
振り向きざまに唇を重ねられる。
「んっ……んむっ……」
一瞬レオナの頭がパニックになる。
どういう事か考える前に、レオナの顔を花火が照らした。
次々と打ち上げられる花火が、2人を次々と照らしていく。
2人は観覧車が終わる寸前までキスを続けていった。
「なかなか上手くはいかないものだな。」
観覧車を降りての第一声がそれだった。
「花火の時間は分かっていたんだが……。」
「では、私と……その、キスをするために観覧車…いえ、遊園地に?」
しどろもどろにたずねるレオナに優しい目をしながら答える。
「遊園地に行こうとしたのは別のきっかけだが、ここを薦めてもらった時に、思いついてな。」
「あの、ありがとうございます! 私、嬉しかったです。」
「そう言って貰えると、ほっとするな。」
「私も何かしてあげたい……その、今日、イングラムさんの家にお邪魔してもよろしいですか?」






レオナは料理が苦手だ。
学生の頃から何度クスハに教わっても上達どころか食べられるものが作れたためしがない。
だからという訳ではないが、クスハと同居する事になってからは料理以外の家事はほとんどこなしてきた。
綺麗好き……というよりも整理好きなのかもしれない。
イングラムの家についてからレオナはテキパキと掃除、洗濯、整理整頓とこなしていった。
「なるほど……、見事なものだな。」
いつの間にか部屋の隅に追いやられたイングラムが呟く。
「そんな、慣れているだけです。」
軽くまとめていた髪を解き、換気のために開けていた窓を閉める。
「晴れた午前中でしたらお布団も干したかったですね。」
「そうだな……。レオナ、シャワーを浴びられるようにしてあるから浴びてきたらどうだ?」
「ありがとうございます。では、お借りしますね。」
『私ったら……、何をしてるのかしら……。』
シャワーを浴びた後、ソファーに座りうつむきながらレオナは思った。
ここに来た時と同じ格好で。
『でも、どうすれば良かったのかしら。イングラムさんがシャワーを浴びている間中バスタオルだけではいられないでしょうし、ベッドで待っているのも…、でも、そういうものなのかしら…。』
悩みながらも内心は後悔していた。
服を着てしまっているという事は、今日はこのまま帰るつもりという表現のようなものだと。
本心を言えば愛し合いたい。
1週間前に初めて愛し合ってから、男の人との行為を知ってから……。
1人で寝る時は枕を抱きしめ、愛しい人の名を呟き、火照った身体を毎日のように慰めていた。
『欲しい……』
淫らな考えだとは解っている。
でも、前回は自分からは何もしてあげられなかった。
『私も何か…してあげたい。』
レオナは立ち上がり。
イングラムのいるバスルームに向かう。
一歩一歩近づくたびにシャワーの音が大きくなり心臓の鼓動が早くなる。
『私…これから抱かれるんだわ…。抱かれるために…バスルームに向かってる…求めている。』
体が火照っている。男の人を…イングラムの身体を欲しがって。
立ち上がったときは声をかけるつもりだった。
『ベッドで待っています』と。
でも、もう、我慢が出来なかった。
バスルームの扉の前に立ち…その扉を開いた。
「どうした? レ…」
名前を呼ばれる前にレオナは行動をしていた。
服を着たまま、シャワーを浴びているイングラムに抱きついたのだ。
「イングラムさん……」
抱きついたまま、全身にお湯を浴びたままレオナはキスをしようと上を見上げる。
一瞬、イングラムも戸惑ったが黙ってレオナを受け入れた。
「キス……しますね。」
両手を相手の首に巻きつけ、背伸びをしながら唇を重ねた。
「んっ……んむぅ…、はっ…んっ…ちゅっ……」
息をするのももどかしくキスをするレオナ。
その間も彼女の服は濡れていき、シャツが透け、白いブラが見えてきた。
しばらくキスを続けた後にレオナはシャワーを止めた。
荒く息を切らせながら跪いてイングラムのペニスに手をかける。
「気持ち良く…しますから…。 がんばりますから…」
何かを言われる前に、両手でペニスを刺激する。
お湯に濡れた肉の棒をやさしくやさしく撫で始める。
やがてそれが硬く勃起してきた。
『大きい……熱い……硬い……』
濡れた髪がぽたぽたとペニスにむかって雫をたらす。
しかし、お湯では潤滑油には不十分なために刺激を続けるうちにレオナの指がペニスに引っかかり始める。
「クッ…」
今まで何も言わずにこの行為を受け入れていたイングラムのうめき声が聞こえた。
その声にレオナは身体を強張らせる。
「あっ、ごめんなさい…ごめんなさい!」
お湯とは違ったもので目じりを濡らしてレオナはイングラムの顔を見上げる。
「レオナ…、無理はしなくてもいい…」
以前、徹夜で書類整理をしたときと同じ言葉と表情でやさしい言葉をかけられる。
いつもなら素直に従うその言葉だが、今日は違う。
その言葉には甘えたくはない。
でもそれ以上に、自分の無理を通すために甘えたかった。
『もう一度…濡らせば…』
そう思い、ペニスを舌で濡らそうとする。
その前に一瞬戸惑い、キスをした。
「ちゅっ…」
「レオナ……」
「もうすこし、させて下さい」
何度かキスを続けた後、ようやく舌を這わせた。
ゆっくりとペニスの根元から先端に向けて舐めあげる。
指で触れたとき以上に感じるペニスの熱さがレオナの女の部分を刺激していく。
ぴちゃっ…ぴちゃ…。
口内の唾液をすべて舌に乗せて舐めているために、猫がミルクを舐めているかのような音がしはじめる。
だが、イングラムにとっては焦らされているかのような物足りない刺激だった。
そしてそれは手での奉仕になっても変わらず、ゆっくりとした動きに段々もどかしくなってくる。
痛みを与えないようにゆっくりとやさしく動いているのは理解できる。
頭では理解できた。
しかし、体の欲望は我慢が出来なかった。
目の前で、ずぶ濡れのスーツ姿の女性が自分に奉仕をしている姿。
限界だ。
欲望を抑えていた鎖が切れた。
イングラム本人も知らなかった本能が目を覚ました。
「もう……いい。」
「え? あの……」
自分の行為では満足させられなかった事でレオナはうつむいた。
『こんな事なら、少しはそういう勉強をしていればよかったかしら…』
そんなレオナの髪をつかみ、イングラムを上を向かせた。
「きゃっ…、イングラムさ…んぐっ!!」
口の中に突きこまれるペニス。
突然、熱に犯された口内に一瞬気を失いそうになる。
「う…ぐっ…ちゅぶっ……」
喉奥や口内をえぐるようにペニスが動き出す。
その苦しさに涙を浮かべ始めた目が見たものは、鏡に映るレオナ自身だった。
『あれが…私?』
愛しい人が相手だとはいえ、まるで道具のように扱われる自分。
その事を否定したくレオナは舌を使い始めた。
「んむっ!! んじゅぷ……じゅくっ……」
無規則に動くペニスを何とか刺激しようと努力をする。
自分も奉仕をしていると、その行為で何とか思い込もうとする。
どれくらい突かれたかも分からなくなってきた頃、ペニスがビクビクと痙攣し、レオナの口内へと射精を始めた。
ビュルビュルと音を立てながら大量に吐き出される精液のため、レオナはペニスから口を離してしまった。
その為、残りの精液がレオナの顔へと降りかかる。
どろどろと濃い、生臭い液体が口の中と顔へとそそがれ、レオナはどうする事も出来ずに放心しバスルームの壁に寄りかかってしまった。
さだまらない意識で鏡を見る。
初めて見る自分の顔。
声もそうだが、確かにこんな顔は他の人には見せたくはない。
何かを言おうとした口の端からドロリと液体がこぼれ、お湯で濡れたブラウスを別の液体が汚していった。
そのして、レオナは意識を失った。






「んあっ……はっ…はぁ…くっ、ひくっ…ふぁっ!」
レオナの意識がハッキリしたのは、イングラムに激しく抱かれている最中だった。
ブラウスが破かれブラをずり上げられ、下半身はパンツが脱がされ、ブラウンのパンストを破かれ、白いショーツをずらしてペニスが挿入されていた。
抵抗するつもりは無かったし、早くつながりたいとは思っていたが、自分が気がつかないうちに事が進んでいたのが少し悲しかった。
イングラムの表情は見えない。長い髪で隠されているからだ。
最初の夜のように優しく身体を愛撫する事はない。
だたレオナの腰をつかみ、膣内を求めて動いているように見える。
それなのに。
レオナは感じていた。
じわじわと快楽が身体を支配していく。
暖かいベッドではなく今じゃ冷え切ったバスルームの床なのに、まるでレイプされているかのようなボロボロの服装なのに、ただ荒々しく犯されているだけなのに……。
「きもち…いいです。もっ…と……」
口に出してしまうほどの快楽だった。
その言葉に反応しているのかどうかは分からなかったが、イングラムの動きが早くなっていく。
また失いそうになる意識を何とか保ちながら、レオナは何かに頼ろうと手探りで辺りを探した。
しかし手に触れるのはシャワーの残り湯……いや、冷え切った水しかない。
その間も快楽はレオナを襲っていく。
下半身のみの刺激に手を胸へと伸ばした。
水によって冷えた手が、熱く火照った胸に触れる。
自分で慰めているかの様に、激しく揉み、乳首を抓み、乳房を刺激した。
「ふぁっ……ダメ…ダメです! イク! イク! イッちゃいます!!」
絶頂がそこまできている。
またも無意識に出た言葉に反応したのか、レオナの腰がつかまれて空中に浮いた。
「んああぁっ!! あっ…イク…。 イク! ああああっ!!」
今までとは違う角度での挿入にレオナはすぐに達してしまった。
その直後、レオナの膣内へと熱い液体が注がれた。





「イングラムさん……」
事が終わり、息を切らせているイングラムにレオナは話しかけた。
その手には脱ぎ散らかされた服が握られている。
「俺は…、俺はなんて事を……」
震えていた。
SRXチームの隊長のイングラム=プリスケンその人が。
「俺はレオナを傷つけ……」
言葉は最後までいえなかった。レオナが抱きついてきたからだ。
「私は、イングラムさんを、愛しています。」
一言一言ハッキリと告げた。
今迄で一番落ち着いている告白だった。
震えをとめるように強く、いたわるようにやさしく抱きしめながら。
「このくらいの事なら、平気。 すこし、驚いただけです。」
「レオナ……」
「私は…イングラムさんを嫌いになったりしませんわ。 絶対に。」
少し体を離し、目を見ながら続けた。
「お互いに、甘えたって良いでしょう? 愛し合っているのなら、それで良いでしょう? 私が本当に傷つくよりも、私を傷つけたと思って落ち込んだイングラムさんを見るほうが辛いわ。」
いつものような敬語ではない、普段の言葉でレオナは伝えた。
そのほうが伝わると思ったから。
「……何も言わなくて良いですけど、抱きしめてくれませんか?」
レオナは強く抱きしめられた。
イングラムの表情は見えなかったが、それで良かった。
ただ、強い人も泣く事があるんだと、そう思った。
「くちゅん!」
極東支部内更衣室で、可愛らしいくしゃみの声がした。
その声の主はクスハ=ミズハ……ではなく。
「む…、レオナさん。 風邪ですか?」
くしゃみの主はレオナ=ガーシュタインだった。
バスルームで抱き合った時間はかなり長かったようで、すっかり身体を冷やしてしまったからだ。
もしかすると、服を着替えるために、明け方に借りた服で家に帰ったためかもしれない。
「大丈夫よ、熱はないみたいだし……」
「素人の診断は大病につながります、あとで医務室に寄ってよ? レオナ。」
「平気よ、これくらいなら。」
「健康の事に関してはカトライアさまから頼まれてるんですからね。ちゃんと野菜とかも食べないと……」
「リュウセイじゃないんだから…。 わかったわ、後で寄らせてもらうわ。」
「この季節、朝帰りには気をつけないと……」
「!!!!」
レオナが赤い顔で絶句しているうちにクスハは着替えを終える。
「ど、どうして……」
「イヤリングが家をでた時と同じだったからです。 簡単な推理だよ、ワトソン君。」
別のチームの推理好きパイロットのような事を言い出すクスハ。
レオナは、自分のイヤリングを指で玩ぶくらいしか出来なかった。

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