レオナは困っていた。
 家事以外の全てをそつなくこなす才女は、月の女神が如き相好に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

 艦内に割り当てられた個室は、整理整頓が行き届いている。
 レオナは借りてきた猫のように、簡素なベッドの上に腰掛け、両手を膝の上にちょこんと乗せたまま。ロダン作考える人よろしく、石像になってしまったように座ったまま動かない。
 そうしていると、部屋の扉が軽快に叩かれ、それよりも軽やかな声が言った。
「おぅい、レオナ。メシ一緒に食べにいこうぜ」
 その声にレオナはハッと顔を上げ、扉を見て。驚いたように時計を見た。――更に驚いた。
 こうして――ベッドに腰掛け、考えごとを始めてより。どうやら5時間経過していたのだから無理もなかったが。
 5時間経ったにも関わらず、悩みは一向に晴れそうにも無い。
 彼女は重たいため息をつき、部屋の外で鼻歌を歌い始めている者の名を呼び。考えるレオナであることを一旦やめた。

『考えるまでもねぇだろ、私がプレゼントですって据え膳してやりゃいいんだよ』
――とは誰の言葉だったろう?

……ん?
 彼――タスクがそのことに気づいたのは、昼食を食べ始めて10分も経っていない。気づけたのはただの偶然だった。
 最初こそ勘違いかと思ったが、二度、三度と(タスクが気づく前より、気づかなかったのを含めれば、もっと多かったのかもしれないが)続き。タスクは勘違いかとも思いながら。
 タイミングを見計らい――顔を上げた。
「あ」驚いたような吐息をレオナが漏らした。
 レオナの知性を示すようなシーブルーの瞳に、みるみる驚きが拡散していき、すぐにそらしてしまったが、まるでなんでもないわという風に。再びタスクへ、今度は鋭められた氷柱の如き視線を浴びせ。
「私の顔になにかついてる」といった。 タスクはポリポリと頬を掻き「いや、なにも」小さく肩を竦めた「綺麗だよ」
「そう」
 レオナはそらすようにして、食事が盛られたトレーを睨みつけた。

 レオナはああ言ったが。タスクは確かにレオナの視線を捉え、重ねれた。
 それは一つの事実を提示している――レオナがタスクのことを見ていた。
 何か言いたいことでもあったのかもしれないが、レオナはそれ以後食事中はなにも言わず。食べ終えると、さっさと自室に籠もってしまった。
 それは――籠もるのはいい。
 タスクはパイロットでありながら人手が足りない時には、整備兵としても働いている。今は新兵装の組立・調整のために、いつもより忙しいため。正直レオナとはあまり話せていない。
 一瞬、それで拗ねているのかもしれない。なんて甘ったるい妄想がよぎったが。多分それはない。
 最近じゃ、味はともかくとしても、手料理を優先して食べさせてくれるようになったが、まだ『そういった関係』ではない。ようやくダイスに恋人になる目ができたにすぎない。まだ予断は許されない。
 ここからの努力が重要なんだ――
 
 とか考えていると。
 もの凄い勢いでタスクの頬を削り、金属スパナが整備していた機体の装甲で跳ねた。跳ね返っても勢いを失わないスパナを掴み、それを見てタスクは口端を歪めた。
――これぶつかってたら死んでたって。
 こんな笑えない冗談を、平然とやってくるのは一人しかいない。
 タスクは振り返って。

「好意はありがたいっすけど、今はこれ使わないんで返しまーす」
 振り返り様投げ返すと、狙いは違わず投げてきた相手の頭へ向かったというのに。相手――カチーナ・タラスクは事も無げに中空で掴み。
 ニタリと獰猛な肉食獣が如き笑みを見せると、「頭はここだぜ」と言わんばかりに、スパナの端で頭をコンコン叩いた。野良のくせに毛並みはいい猫のような金色の髪は、その度に揺れ。
 瞳には愉しげな色が宿っていた。
 タスクがスパナを投げ返してきたことが、楽しくて仕方ない様子で。もう一度投げつける――振りをして。
 スパナを持った手を腰にあて、いつも以上の声量で、まるで格納庫中に聴かせるように。
「レオナがお呼びだ、部屋に来いよだと」
 スパナを回避するために屈んでいたタスクは、予想外の言葉へ。思わず聞き返していた
「……ハイ?」
 カチーナの笑みに凄みが増し。
 更に声を張り上げ。
「ヤらせてくれるってよ、レオナが」
 一瞬、『もしかして……』なんて馬鹿な考えが頭をかすめたが。『それはない』とやはり頭の中で打ち消した。
「いったい、なんなんすか」
 怒鳴り返しながら、カチーナの方へと跳び降りた。
 カチーナの口唇が笑っていた。
 無重力空間に慣れた者が見せる宇宙遊泳――三次元移動は、水の重たさがない水泳に近い。違うのは、宙で反動をつけられないことくらいである。
 そうなにもない中空では、方向転換はできない。
「ったく、なんなんだか」タスクはぶつぶつと呟きながら、ゆったりとカチーナの元へと落ちていく――手の届く範囲には、掴めそうな物はなにも無かった。
 そう、なにも。
 カチーナは笑ったまま、華麗なオーバースローで、的へ向け金属スパナを投げた。
「ちょ、まっ――ガフッ!」
 爆流のような大笑いが格納庫内に響く――憐れタスクは、スパナが腹にぶつかり。中空で身体の勢いが殺され、ぐったりと何処かへ流されていく。
 その姿を見て、カチーナは更に楽しげに笑った。
「…………死ぬ」ぐったりとしたまま、水に浮いた藻のごとくふわふわとタスクは流されていった。
 笑えるだけ笑ったからか、「早く降りてこい」なんて身勝手なことを言い。
「『味見』を頼みたいそうだ」
 ニヤニヤしながら言った。
 タスクは
「今日は厄日か」と流されながら思った。
「一通り終わったら来いってよ」
「……あ、はい」
「入ってイイ?」
 リズミカルに扉をノックすると、部屋の中から「キャッ」だの「えっ、もう」だの。できれば間近で聴きたかった声が聞こえた。
 数秒ほどして、「入って良いわ」と言われ、鍵が開けられたことを示す電子音が短く鳴った。いつもなら扉を開けてくれるのに、今日はなぜか開けてくれなかった。
 そういえば、なんで「今日」は調理室ではなく、レオナの私室で。 なんで「今日」はタスクが忙しいのがわかっているにも関わらず、呼んだのだろう。―
―最近は少なくなってきたが、『味見』の後は燦々たる状態になるのを。レオナもわかってるはずなのに。
 一応、胃薬は持ってきていたが、できれば使わないで済めばいいなぁ。
「おっじゃましまーす」
 淡い期待を込めて、扉を開け、室内に入る――室内はなぜか暗く、ひっそりとしていた。――レオナの姿が、どこにも……なかった。
「あれ? レオナ」返事があったのだから居るはずなのに、一歩踏みだす。扉が自動的に閉じ、鍵を閉めたことを示す電子音が――鳴った。
「……え?」
 自動的に閉まりはするが、鍵を閉めるのは手動操作が必要なはず。
 けれど鍵は勝手にしまった。
 なんとなく気になり、振り返ると――そこに誰かが立っていた。
 その誰かは、タスクに抵抗する暇も与えず、タスクの口元になにかあてがい―
―タスクは意識がホワイトアウトしていくのを感じながら。
 ミステリみてぇだ、と暢気なことを考えていた。


 ばたっとタスクはくずおれた。


「――ん…………あれ?」
 タスクは目を覚ました――はずだった。
 まだ寝ぼけていたが、確かに目を開けたはず。
 なのに。視界は暗く、真っ黒に染まっていた、今どこにいるのかすら分からない。背中の感触から仰向けに寝かせられているのは、なんとなく分かる。
「なんなんだよ」呟いたところで何も変わらず。
 とりあえず。光が失われたわけではなく、目の上に何か乗っかっていて、視界が塞がれているのかどうかを確かめるため。手を伸ばす――伸ばせない。
 動きすらしない。
「なっ? ハアッ?」喚き、身体をバタつかせようとしたが。まるで張り付けられているかのように手も足も動かせない。身体を仰け反らせようとしたら、腹部が少し痛んだ。
 時計も確認できないため、何分そうしていたかは分からないが。
 少しでも身体を動かせないものかと、色々試したが。その全てが、言うまでもなく、失敗に終わった。
 その代わりに――というにはあまりにも小さな見返りだが――漠然とであるものの、幾つか現状を判断する材料を見いだせた。
 1.現在タスクは目隠しをされているが、鉢巻のような長い布で縛っているだけであり、結び目は後頭部ではなく、側頭部にある。
 2.物音や話し声が聞こえず、どうやら室内にはタスク一人らしい。
 3.両腕・両足を縛っているのは、伸縮性があまりない紐。

 1、3は身体を動かしている内に直ぐ気づけた。
 1の結び目は、頭を左右に動かしている時に。右側頭部と頭の下に敷かれている、おそらく枕の間に小さく堅い物が挟まっていて。それを動かすと、目隠しもわずかにズレたことからそう考えた。
 3は簡単だ。動かせる範囲を確かめていたら、縛られている部分に食い込んだ。ただそれだけだが、そうと判断するに十分だ。
 ただ、2に関しては勘に過ぎず――直ぐに2の状況推測は、崩された。
 短く鍵を解除したことを告げる電子音が鳴り、普段なら気づかないほど小さな扉が開く音が聞こえた。
 入ってきた誰かは足音を隠すことなく、自然に歩いているようだ。それでもその足音の小ささから、お淑やかな印象を受ける――お淑やか。極一人を除けば、ヒリュウ改の女性クルー全てがあてはまる。
 いや、お淑やかだからといって女だと推測するのは間違っている。もしかすれば――いや、できればそれはあまり考えたくなかったが。
 足音が近づいてくる。
 別に怖いわけではなかったが、タスクは口を閉じていたし、動きを止めていた。誰かからは、寝ているようにしかみえないはずだ。
 その通り、誰かはタスクが寝ていると考え小さく含み笑いをしていた。
 涎でも垂らしているのではと、あまり嬉しくない考えだが。そういう経験がないわけではないし。誰かの目的が分からない以上、油断させておくのも手だ。タスクは少しの間、狸寝入りすることにした。
 けれど、見られていないのかもしれないが。側に誰かが立っていて、自分のことを見下ろしている。
 なんとも座り心地――いや、寝心地の悪い話だ。とタスクは思った。
 誰かは呟いた、まるで本当に「寝てる」かどうか確かめるために、「のか」小さく呼びかけてきた。
 寝ている――振りをした――相手にそう聞くのは、いささか無駄な行為ではないかとも考えたが。まあ関係ないと、無視するだけである。
 それにしても、随分と用心を重ねているようで。
 呼気を感じるほどの近さで呼びかけられた時には、思わず声を出しそうになってしまったが、なんとか堪えることができたのはたまたまとしか言いようがない。
 心臓がかつてないほど大げさに動悸してる、顔が紅潮していなけりゃいいけど。心配しても仕方ないこととは言え。
 先ほどから呼気が近い、目と鼻の先に誰かの顔があるのかもしれないが。目隠しされていては確認のしようもないが、頭を少し持ち上げればぶつかる距離。
 そんな距離で誰かはぽつりと
「……クスリの量が多かったか」心許なげな声でいった。
 クスリ――薬、それ以外当てはめにくいが。そういうことならこの事態への、分かりやすいアンサーが出る。
 誰かはタスクをなんらかの目的によって拘束するために、レオナの私室へと呼び出し、薬を嗅がせた。
 なんのために――かはタスクには分からないし。
 今時ミステリでも使われない、危険な手をこうじた理由もしれない。あの状況・タイミングならスタンガンででも昏倒させれば良かったはずだ。そちらの方が危険性が少なかったはずであり――誰かの思考としても、そちらが優先されそうなものだ。
 しかし、そんなことは些末なことだ。
 分からないのは理由だ。――なぜ、こんなことをするのか。その目的がみえてこない。
 本来なら、それが分かるまで動かない方がいいかもしれない。
 短く舌打ちの音が聞こえた。
「叩けば、起きるか?」ボソッと<誰か>が呟いた。
 それは自問なのだろうが、問いかけられたのかと思って。『常日頃』からの癖で思わず身体を反応させてしまった、声を出さなかったのは暁光と言える。しかし、<誰か>が見逃してくれるわけもないのは予測できた。
「…………お……」
「ん?」タスクの漏らした呟きに、<誰か>が反応する。
 声を出してしまったからには、後には退けない。
「……オナカいっぱい」
 口をもにょもにょさせ言った。
 タスク自身、馬鹿みたいな言い訳だとは思ったが。目の前にいる<誰か>の中で、自分がこういうキャラクターだと思われている――だろうと推測して呟いたが。
 どうやら誤魔化せた様子だ、「ククッ」と喉を鳴らして笑っている。

――その笑い声で確信できた――

 <誰か>は焦れてきたのか、行動を起こした。
 腹部に手をあてられ、カチャカチャという音が――ベルトを外そうとしている。
 何故? と思う前に身体を動かしてしまっていた――ベルトを外す手が止まる。
「……あ?」
 冗談なのかもしれない。
 ただの冗談、手が混んでいるだけで、ただの冗談なのだろう。じゃなければ、ドッキリだ。こんなのは嘘だ。なんで――
「起きてるなら返事しろ」
 答えられなかった。
 <誰か>がタスクの身体に身体を重ねてくる、見た目よりも軽い重みがのしかかる。いつもに比べ優しい触り方。
 頬に手があてられる。
……まさか、嘘だろ。
 タスクは思考が混沌としていくのを感じながらも、抵抗できなかった。それはインプリンティング、恐るべきは習慣――なのかもしれない。
「動くなよ」
……なんでなんだ――
 無造作に唇になにかがぶつかる、荒々しいベーゼに思考が停まる。
 混乱のあまり頭がホワイトアウトしそうだ。


「……ぃ…………カチーナ中尉」


(´・ω・`)視点が混乱してる。


 まるで貪るような荒々しい口唇の動き。
 突然のこと――ではなくとも、四肢を縛られ、目隠しをされていては。なんの対処もできない。いや、拘束されていなかったところで、獅子の捕食の如き口陵は。すると事前に言われ、四肢が自由であっても。タスクが抵抗できるような、女々しいものではなく。
 焔が酸素を喰い尽くすように、どんな状況下でも抵抗できそうになかった。
 唇を、舌を、口内をレイプされていく。
 頭の中が真っ白になっていく、理解できるのは――自分が辱められている――という感情だけ。それだけだというのに。
 心臓が痛むほど烈しく高鳴り、自制の効かない陰茎はズボンの中で早く出せと騒いでいる。
 舌を牙のような歯が甘噛み引っ張られた。
 舌の裏側へ滑らかにカチーナの舌が這いり、ざらついた表皮が、普段はあまり触られない裏側を触れ。カチーナの舌が器用にストローのごとき形を作り、タスクの口内に溜まる涎を吸っていく。ストロー代わりの舌を通り、カチーナの口内に入り、嚥下される。
 カチーナはストロー型にしていた舌を、裏側を舐めるようにして、自身の口の中へと戻した。
 捕食者の口唇は満足げにその端を吊り上げ、タスクの口からこぼれていた涎を、愛おしむように舌先ですくった。
 再び口唇が重なり、今度はそのままゆったりとついばんできた。
「ん……ふぅ……ククッ」カチーナは愉しげに吐息を漏らす。
 鼻にかかったようなその声は、タスクが聞いたことがあるわけもない、卑猥な臭いが絡みこまれた声。
 挑発するようでありながら、二人のペースを合わせるための吐息。弄んだ張本人だというのに。弄ばれて呼気が、鼓動が乱されたタスクの表情を愉しむような微声と、抱擁のような口づけ。
 急から緩へと変わったキスに、タスクの舌は震えながらも進み出て、カチーナの見た目より柔らかな口唇に触れ。
 触れてきたことに、カチーナは驚かず。ただタスクの舌へ自身のを絡ませた。
 振り付けの決められていないダンスを踊る。タスクのまだ若く荒い動きを、カチーナは全て受け入れ、リードしていた。
「……ぃ…………カチーナ中尉」
 溢れる熱い吐息に、カチーナは喉を鳴らして答えた。
 初先のキスとは違う甘い舌の性交は、たっぷりと涎が絡ませあった後。ツっと糸を引いて静やかに終わった。
「ククッ」カチーナが喉を震わせた。
 タスクは荒く息し肺へ酸素を送った。
 数分にも満たなかったはずなのに、まるで全力で走った後のように呼気が乱れていた。こめかみを汗が流れ落ちるのが、ひどく鮮明に感じられた。
 感覚がいつもより鋭くなっているのか、カチーナの呼気が肌に感じられた――いつもと変わらない風なのが、少し悔しかった。
「おい」鼻が摘まれた。「酸素ボンベにでもなってやろうか」
 クツクツと笑っている。
 タスクは鼻を摘まれたことに――カチーナの指先が触れたことに、ビクリと身体を震わせた。愉しげな笑い声が聞こえ――顔が真っ赤になっているのが目に浮かぶようだった。
 頭の中で誰かのため息が聞こえた。


――コンコン。
 小さくノックしたまま、レオナは鉄扉の前で返事を待った。
 その顔色は優れず、まるで合否発表を見に来た受験生のような、普段の彼女ならばあまり見せないような表情をしている。
 ちょっと押せば泣いてしまいそうにすら見える。
 返事はなかなか返ってこない。
 作業が終わって、さっさと出ていったと格納庫で聞いていたのだが。
 疲れて寝てしまっているのだろうか?
 だとしたら出直した方が良いのかも知れない。
 レオナは視線を落とした。その先、手には――


 ひどく悲しげな、ため息だった。
 そのおかげかは分からないが、少しばかり頭が冷め。
 事態に流されている自分にタスクは気づいた。
 ここで押し負けてはマズい。
 今は『まだ』キスしかしていない、そう『たかが』キスだ。
 キスくらいなら、レオナに露見しても。機嫌を損ねる程度で済む――と良いが。信じなければ救われないのが世の常だ。
 けれど、この先。
 キスより先までしてしまえば、言い訳のしようはない。
 潔癖性のレオナのことだ、二度と口を聞いてくれなくなるに違いない――それだけは避けなくては。
 となると、この状況から抜け出すのが最優先事項だが……
……無理そうだ。
 白い羽をはやしたレオナが、呆れたようにため息をつくのが目に浮かんだ。
 先輩と後輩、上官と部下、ボクサーとサンドバッグ。
 元より勝てる相手ではない。
(だからって、諦める理由にしちまえねぇよなぁ)
 半分諦めてる自分を奮起させるために、ハッパをかけようとしたが、特に効果はなかった。
「おい」軽く頬を叩かれる。
 突然のことに、大きく海老反ってしまう。腹が軋むように痛んだ。
「おねんねにゃ、まだ早いぜ」
 虎に喰われるまえの鹿はこんな気持ちだろうか?
 耳に吐息が触れ、背筋が凍る。
「折角招待してやったんだ、楽しんでけよ」
 耳の裏側に熱い舌先が触れた。
 舌先は耳をじっ くりと、かと思えば弄ぶようにペロペロしてくる。耳たぶを甘噛みしながら、カチーナは耳のそばで、
「寝てるフリしてんなよ、バカみてぇにおっ勃ててるくせに」
「……」
 なんか、どんな選択をしても駄目な方向へ進んでしまいそうで。答えていいのかすら分からない。
 ただ、一つだけ分かった。

 どうやらカチーナ中尉は本気のようだ。
――本気。
 カチーナはなにが楽しいのか。あむあむと耳たぶをはみ続けてる。
 本気、なのかも知れない――けれど、分からない。
 この状況が。
 シーツにでもくるまれて、サンドバッグ代わりにボコボコにされるのなら納得できる。――けれど、今されているような意味でカチーナから『肉体を求められる』なんて考えたこともなかった。されている今でさえ嘘のように思える。
 それに、できることなら。今からでもサンドバッグにしてもらったほうがいい。
 今なら喜んでサンドバッグにでもなんでもなる。
 だから、嘘だと、冗談だと、言ってほしい。
 カチーナは耳を舐めていた。
 タスクの身体の上をカチーナの手が這っていき、服越しに緊張した陰茎に触れた。
「キスしただけでこんなか。溜まってんなぁ。え、おい」
 カチーナは服の上から陰茎を掴むと、「――くっ!?」
 タスクの身体が電撃でも浴びたかのように、ビクッと跳ねる。
 形と大きさを確かめるように、手全体を使って肉棒揉む。そうして勃起していることを確かめ、愉しみながら。親指を亀頭へと伸ばし、揉み潰すように動かす、パンツの布で擦られ。
 かと思えば、中指が付け根に触れてくる。グイグイと押してくる動きは、次第に奥へと進み。普段の自慰では触れないような触れてくる。
 同時に二つの場所を攻めてくる刺激に、亀頭から熱いにじみが生まれ、パンツへ吸い込まれていく。
「――や…………ひゃぁ」
 カチーナの笑い声が耳の穴に吹き付けられ、身体がうねる。
「女みてぇな声だして、いっちょ前に興奮してんのかよ」
 攻める動きが烈しさを増す。
 カチーナの力が全て、タスクの下半身の高鳴りへと変わる。すでに亀頭は触れられるだけで痛むほど、緊張していた。
「……ゃ…………ぁ………」
 濡れた喘ぎがタスクの口から漏れ落ちる、乱れた吐息が甘いブレスとなって、カチーナのサディスティックな心が掻き立てるのか。カチーナは耳から舌を離し。三度目のキスを交わした。
 先ほど吸われたにもかかわらず、タスクの唇は濡れていた。それを愛おしむように、唇を重ね合わせ。舌を絡ませようとして――拒まれた。
 タスクの歯牙がカチーナの舌に噛みついていた。
「――ヅっ」
 カチーナの顔が離れ。「なにしやがるっ」怒鳴った。
 手は未練がましく、握ったままのカチーナへ。
「なんでこんな……」
 絞り出すようにタスクは、声を荒げた。
「なんでこんなことするんすかっ、カチーナ中尉っ」
「――ア?」
 タスクは自分が出した声に自身で驚きながらも。
「冗談なら、冗談でしょ。……こんな。こんなこと」
 どう言えば、
 どう言ったらいいのか、分からなかった。
 けれど、こんなことは間違ってる――それだけは、ハッキリとしている。
「冗談なら……へへっ。早く離してくださいよ。俺、もう、手首痛くて…………ホント」
 カチーナは何も喋ろうとはしなかった。
 ただ、タスクの口唇を塞いだ。
 荒々しくも、ゆったりとも、愛撫せず。ただ唇を重ね合わせたまま、少しの間沈黙し、やがて離すと。
「……寝言の多い奴だ」
「中尉っ!!」
 激昂するタスクに対し、カチーナはあくまで落ち着いた声音で言った。
「テメェは寝てただけだ。ただ、寝てただけだ。――いいな」
 有無を言わせないドスの効いた声。なのに優しい色が混ざって、目隠しされたタスクでは視えない。
「なんで……俺なんすか」タスクが聞いた。
 カチーナは「さあな」とぶっきらぼうに答えた。「たまたまだ」
「な――!?」
 カチーナの顔が離れていくのが分かった。
 ベッドのマットが浮き沈み、下半身の方へと動いていく。
「そんなっ、たまたまって。ゲームじゃあるまいし」タスクは喚いたが、返事は無かった。
 カチーナは既に答える気はないようで、ベルトを弛め、ズボンとパンツを一気に脱がせてタスクの下半身を露わにした。
 いきりたった陰茎の登頂はぬめりと既に濡れていて、タスクの呼吸にあわせて小さく揺れていた。
「今ならなにも、なにも無かったことにして。今まで通りにすることだって」
 タスクはまだわめいていた。
 それを黙らせるように、タスクの意のままにならず、興奮しきっている陰茎を掴み。強く握りしめる。
 タスクが呻くのに、カチーナは口唇をつり上げて笑った。
「それに、こんなにしたまま帰れないだろ――それとも」
 握られたせいでか、どくんどくんと陰茎が脈打つ。熱を増していく。
「部屋に戻って。レオナのことでも考えながらヌく気か? アタシに勃起させられたチンコ握って」
 カチーナの握力が強まっていき、そして――ふっ、と消えるように、力が弱まった。
「レオナに操立てでもするって言うなら、セイゼイださないようにしろよ」
 言いながら、カチーナの手がタスクのペニスを擦り始めた。
 そのリズミカルな上下の運動は、カチーナの性格を表した、荒々しい動きで興奮した陰茎には。少々どころではない刺激を与えてくる。
 痛めつけるようにゴシゴシと擦っているだけかと思えば、亀頭の先端の切れ込みを人差し指でなぞるようにして。溢れ出す透明な滴で、指先と亀頭に塗りつけていく。
 それだけでも射精してしまいそうだというのに、カチーナは更に、反対側の手で玉袋を掴む。二つの急所を、カチーナは女性にしては大きな手に納め、転がすように弄ぶ。玉と玉とを擦り合わせるように動かし、ちょっと力を強めて、刺激を大きくする。
「く……ぁ…………うう……やめ……ぉ」
 人指し指が亀頭から離れ、代わりにそこへ濡れた何か――舌先が触れ。ざらついた表皮で、たっぷりと先走り液で濡れた切れ込みを刺激する。タスクの身体が跳ねるように仰け反り、亀頭がカチーナの歯先へ触れ。
「――ひぁっ」タスクは処女のような悲鳴をあげた。
 カチーナはそのリアクションに満足げに、震えるタスクの陰茎を掴み。
「噛まれるのが好きか?」愉悦に満ちた顔で言った「身体、あんま動かすなよ。痛くして欲しくないんならな」
 言うと片手で陰茎をしごき、陰嚢を揉みしだきながら。
 亀頭を優しく甘噛みした。
 タスクの身体が激しく波打ち、歯が更に食い込む――タスクが痛みに身を捩らせる。
「やっ――やめっ、そんな……ムリ…………うああ」
「女かお前は」といいながらも、カチーナは歯を外し。亀頭にキスをした。
 亀頭を唇で、先走りと自分の涎とを混ぜ合わせながら、揉む。
 タスクの身体はビクッビクッと脈打ち、先ほどの刺激のせいか、わめきが大人しくなった。
――それはそれでつまらなかったが、カチーナは陰茎を自分の口の中へと招待した。
 こぼれていた先走りをすくいとるように、舌を陰茎に這わせ、カリまで一気に刺激してから。今度は、タスクからでるヤラシイ液体を、全て吸い取ってしまうのではと錯覚するほど、強く吸引する。
「――ひっ!!?」
 前後にピストン運動しながら、タスクの勃起を卑猥な唇でしごく。カリが唇の柔らかさに刺激され、裏筋を舌がカバーし。陰茎に歯が当たる度にタスクは震えた。
 反り返るペニスは、ピストンするたびに上顎に触れ。亀頭が強烈なぶつかりに刺激され、先走りを口内へまき散らしていく。
 カチーナの口唇から涎がこぼれ、陰茎を伝わり、陰嚢を濡らす。濡れた陰嚢を滑らかに弄くる、先ほどよりも強く、早く、熱く。痛いとすら感じるほどの動き。けれど、それすら快感だった。
 タスクは快感に頭が白んでいき、強い射精感が襲ってくるのを理解して――堪えようとしたが。普段から自分を虐げてきたカチーナが、自分の陰茎を口に含んでいる。この事実が、タスクに火を付け、満足感という炎を生み出す。
 ブチッと、何かの枷が外れたようなビートがタスクの体内で、テンポをあげていく。
 既にタスクの心から、あの少女の顔が消え。まっさらになって暴走していく。 暴れ狂うような欲情が陰茎の中で、その濃度を増していき、抑えきれずに。煮えたぎる汁が、尿道口からドピュッと飛び出す。
「ぅぅ……――うわぁっ!!」
 タスクは思わず叫んでいた。
 どぴゅうっ!! 射精液がもの凄い勢いでカチーナの口中へと、思い切り吐き出された。
 尿道から射精された、燃えるような濃い精液の塊が、カチーナの口内を犯していく。
 カチーナはそれを喉に受けると、全て受け止めるかのように動きを緩めた。
 既に止めようがなくなった濁流を放ちながら、タスクの身体が激しく痙攣し。いつのまにか握っていた手は、解き放たれると、汗にまみれていた。
 三十秒もの間、タスクの陰茎は溜まっていた精液を吐き出し続け。カチーナの口の中を満たした。
 射精し尽くすと、タスクの身体から強ばりが一気に抜け。ぐったりとして。
 充足の吐息を漏らしてしまっていた。
「……っ…………は……――ふぅ」

 しかし、陰茎からカチーナの口の感触は消えておらず。二人しかいない部屋に、ごきゅっごきゅっと何かを飲み下す音が響く。
「…………ちゅうイ?」
 カチーナは、タスクの絡みついたままのザーメンを舌で拭っていた。
 興奮が未だ冷めぬ幹を、刺激しすぎぬよう配慮した舌の動きはカチーナらしくはなかったが。愛おしむような動きは、されている側としては嫌な物ではなかった。
 カチーナは最後の一滴まで舐め尽くすと、ちゅばっと音をたてて、陰茎を離し。口元に手をあてて、ごくりと全てを飲み込んで、笑い。
「イヤイヤ言っても、身体は正直――てな」挑発するように言った。
 悔しいが、反論する言葉は。タスクにはなかった。
 当たり前だが、自分でするよりも数倍イイ行為。自分でシたところで得られぬ満足感と、解放感。それらにタスクの頭は酔った。
 そんなタスクへ、カチーナが含み笑いながら。
「まだ、いけるな――?」
 当然イエスと答える、ノーと答えても聞かないというような口振りだった。
 タスクは思わず――頷いてしまっていた。
 その反応にカチーナはフッと鼻で息し「よし」頷き、褒めるようにタスクの陰茎を撫でた。
 未だ萎えてない勃起に満足げにキスし。
 ベッドをギシギシ揺らしながら、膝立ちでタスクに跨り、陰茎を掴む。タスクの身体がビクリと揺れる。
 カチーナは肉食獣の笑みを浮かべ。
「抵抗しないのか」
「できるように見えます?」タスクは言った「ていうか、嫌だって言っても。止める気ないんでしょ? だから、諦めましたよ。もう」
 言い切ると、フンとカチーナは鼻を鳴らし。ペニスから手を放した。
 そして、
「こっちとしちゃ、このまま放置しても構わないんだぜ」
「そんな――」
「お前次第さ。挿入させて欲しければ……分かってるよな?」クツクツと喉を鳴らす。
 タスクの頭の中で、誰かが『やめろよ』と冷静なアドバイスをくれたが。既に頭は熱暴走して、やめられそうにもなかった。
「やらせて……いれさせてください」顔から火が出そうだった。
 目隠しされたままで、良かった。面と向かっては言えなかったろうから。
「お願いします、だろ?」
「お願いしまーす」できるだけ陽気にタスクは言った。
 カチーナはふっと自嘲めいた笑みを目に浮かべたが、直ぐに消し。ニヤリと獰猛に口端をつり上げ。
「――こっちが満足するまで付き合ってもらうからな」
「ぜ、善処します」
……一回で済めばいいけど。タスクは自身の陰茎へ、同情の念を向けた。一回射精しただけだというのに、触られるとヒリヒリと痛んだ。
 カチーナのクスリとした笑いが聞こえた。
「なんだそりゃ」
 カチーナはタスクの陰茎を掴むと、ぬらりと既に濡れている秘唇に、登頂をあてがう。
「入れるぜ」
 言って間断なく、タスクの男根になんの遠慮もなく、一気に秘裂の中へと招く。
「くっ」
「うっ……あアっ……」
 タスクの喘ぎがカチーナの呻きに重なる。
 すんなりと受け入れたというのに、媚肉はぴたりと肉根に張り付き。愛液に濡れた無数の襞と微細な肉の粒が、まるで羽毛のブラシのように、タスクを撫でさすっていた。
「……う…………っ」タスクは思わず呻いていた。
 陰茎を吸い込むような収縮運動が強い快感を生む。――まるで自分のために作られたんじゃないかとさえ、思ってしまうような蜜壺のうねり。
 挿入しただけだというのに、気を抜けば、射精しかねないほど気持ちよかった。
 そこへ――カチーナはゆっくりと腰を動かし始めた。
 ぬちゅ、ちゅぷっ、ぱちゅんっ、ぐにゅうぅっ。動かす度に透明な蜜が溢れ。ピストンの度に蜜襞が、ねっとりと絡みついてくるのがたまらない。
 本当に自分のためではないか? ――と思えるほどに、相性がよかった。いや、カチーナが名器なだけかもしれない、ほかの女の肉壺も同じなのかもしれない。
 けれど今は、不規則なうねり、吸い上げ、収縮し、タスクを休ませようともしないし。亀頭の裏、エラの縁、タスクの弱い部分を知り尽くしているように責めてくる。
 まだ十回も動かされてもいないというのに、タスクのまだ若い陰茎は、射精への欲求が高まっていた――手淫された直後だというのに、既に熱くたぎっている。
 指先でタスクの乳首を弄くっていたカチーナへ、
「も、出そうっす」情けないことを言った。
 一瞬、腰の動きが止まったが。――直ぐにカチーナはピストンを再開した。
「ちょ……カチーナ中尉」慌てた。
 一応それなりの学歴もあるタスクは、中で出すという行為の危険性を理解して
いた。カチーナも同じはずだ、なのに――
「……なんだ……ン……もう一回目か」などと豪放なことを言った。
 腰の動きが更に速まり、気のせいか締め付けがキツくなり、襞がさきほどより絡んでくる。
「ちょ……ぁ…………ひ…………うっ」
 びちゃっ、ぬちゅんっ、ずぷうぅっ!! どんどんと腰の振りが速まる
 カチーナの淫猥な蜜壺がタスクのたぎりを受け止めようとするが、許容量を越える射精。秘裂から溢れていく。
 射精されながらも、カチーナは腰を動かし続け、タスクを絞り続ける。
 気づけば一分も射精は続いた。
 射精し尽くした後には、激しい虚脱感が襲ったが。それ以上に、射精したという事実への想いが胸を満たした。
「ううっ……は……はぁっ……はぁっ…………イッ!?」
 なのに、カチーナは腰の動きを止めようとしなかった。陰茎が取れるのではないかと錯覚しそうな痛みが走る。これ以上は出せそうにない。
「…………カチーナ……中、イ?」息も切れ切れに訊くと。
 カチーナはさも当然のように。
「まだ、アタシがイッてない」
「――まさか」
「アタシがイクまで付き合ってもらう……当然、だろ?」
……嘘だろ。タスクは想いながらも、果たしてカチーナがイクまで、自分は何回イクだろうか? してもなんの意味もない、賭をした。



 昼時前の空いた食堂、一組の少年と少女が二人がけのテーブルに、向かい合って座っていた。
「――どう」
 天上世界の戦乙女が、誤って地上に光臨してしまったかのような容貌の少女が、捨てられそうな子犬のような瞳で。タスクの顔を覗き込む。
「うん」タスクは幾分疲れた様子で「美味しいよ」答えた。
 滅多ない評価だが――タスクの顔色は優れない。
 レオナはわずかに顔を曇らせ、
「お……美味しくないなら、ハッキリと言いなさい」きっぱりと言ったが。
 その実、自信作であったため。タスクの反応に、思わず泣きそうだった。
 タスクもその様子に気づいたのか、取り繕うように笑い。
 目の前に置かれた器から、口へと運び。
「うんっ、美味い。さっすがレオナ」いってみたが。
 やはり白々しすぎたのか、レオナは椅子を跳ね飛ばすように立ち上がり。器をタスクから取り上げると。
「分かったわ」とだけ言い残して歩き去ろうとする。
「ちょっ、待って」追いかけ「ホントだって」
 レオナの肩を掴んで止めると。
「美味しすぎて驚いてただけで――」
「……」
「味付けは、なんでレモンが入ってるのかは分からなかったけど。良かったし――」
「…………ッ」
「いやあ、こんな料理を食べれる俺って幸せ、みたいな――」
 タスクなりの精一杯の言い訳も、レオナの頬を染めさせ、涙を目尻に浮かばせるしか効果はなく。
 タスクは心の中で『イチバチだっ』と唱えると、
「だから――」
 レオナの肩を強く引き寄せ、今までのタスクからすれば、強引とも言えるやり方で。――唇を重ねた。
 見開かれるレオナの瞳を見ながら、タスクはカチーナにされたように、激しくレオナの唇を貪った。
 強ばっていた体から力がぬけ、

――ガシャンッ
「熱っ!!?」
「ぬわっ!!?」
 二人の悲鳴が重なり、陶器の中にはいっていたおかゆにしては白すぎる液体が床に散乱する。
 二人は反射的に互いの身体に抱きつき――額と額がぶつかって、痛みに思わず
――やはり二人同時に頭を下げたせいで、登頂をぶつけると。
 少しの間、そうしていたかと思えば。どちらともなく、笑いだし。
 ひとしきり笑いあうと
「片づけよっか」タスクが言った。
「ええ」レオナは頷いた。

 そんな二人の様子を見て、丁度食堂の出入り口まで来ていたカチーナは足を止め。含み笑った。
 やはり、勝ち目はない――か。
 二人でいることが自然なあの二人を見ていると、こんな想いを抱いていた自分に嫌気が指す。これではただの間女だ。
 カチーナはふっと笑みを消した。
『なんで俺なんすか』
 タスクの言葉を思い出していた。あの時は誤魔化したし、決して言う気はない。
――けれど。
 あと少しだけ、せめて冷めるまでは抱いていてもいいだろ? 誰にともなく問いかける。
「こっちとしちゃ……鳶に油揚げ盗ってかれた気分なんだからよ」







――END

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