「は〜……」

大空魔竜通路、猿渡ゴオは病んでいた。度重なる戦闘、突如訪れた三角関係、過去の自分との比較に苦しみ、彼の精神は限界に近づいていた。
もう疲れた、この苦しみを紛らわせるものはないか、通路の真ん中でぼんやりと思考し続けているのみである。

「どうかしたんですか、猿渡さん!」

立ち止まっていると、背後から声をかけられた。振り向くとそこには、見る者を和ませる爽やかな笑顔を浮かべた美形の青年が立っていた。
彼の名はミスト・レックス。ゴオの所属するダンナーベースの雑用係であり、機動兵器レヴリアスのパイロットである。
ミストの身の上はそれだけではない。彼は異星人である。惑星アトリームという星の生き残りで、数多くの苦難を生きてきた男だ。

「いや、なんでもない……用がないなら格納庫の仕事に行ってこいよ」

ゴオはそっぽを向きながら、ミストに冷たく言った。今のゴオには他人に気を使う余裕すらなかった。

「猿渡さん……お疲れみたいですね。俺でよかったら、話し相手位にはなれますよ?」
「ミスト……サボリの口実に俺を使おうとか考えてないだろうな」

親身に相手をしてくれるミストにゴオの心も少しだけ余裕が生まれた。ゴオはミストに冗談を言った。

「そ、そんなことないですよ!俺はいつだって真面目に働いてますよ!」
「ドジばっかりやってるけどな」
「それは言わないお約束ですよ、猿渡さん〜」

更に畳み掛けるゴオ。ミストは困った様に慌てて、頭を掻きながら上目遣いにゴオを見つめる。
そのミストの視線を受けたゴオは、ときめいた。

(こ、こいつ……なんて可愛い顔しやがんだ!)

「猿渡さん、顔が赤くなってますけど、やっぱり体調がよくないんじゃないですか?」
「!?な、なんでもねえよ、馬鹿!」
「ば、馬鹿ってことはないでしょう、猿渡さん!」

頬を紅潮させながら照れ隠しにミストを罵倒してしまうゴオ。
ゴオは、ミストを怒らせてしまったか不安に思う。
それは杞憂だった。目の前のミストはゴオに微笑みながら言った。

「そんなに元気そうなら本当に心配なさそうですね、猿渡さん」
「あ、ああ、すまない。心配かけちまったな、お前と話してて楽になれたよ」
「いつも猿渡さんや皆さんに心配かけてるのは俺の方ですからね、たまには俺も皆さんの役に立たせてくださいよ!」
「そんなに気にすることないぞ、お前は十分役に立ってるさ」

ミストを労いながら、ゴオの視線はミストの全身をくまなく眺め回した。内面の美しさに負けない均整の取れた肉体、さらさらした髪、聴く者の脳を蕩けさせる美声。
ゴオの心の奥底からフツフツと欲望が湧いてきた。その欲望はゴオの股間へと進行しながら、心を支配しようとしている。こいつをやらないか、と。
ゴオが自身の欲望と戦う間、ミストの言葉は続いていた。

「俺が受けた恩に比べたらまだまだですよ、行き倒れの異星人の俺を拾ってくれたのがダンナーベースの人々でよかったと思ってます」
「ミスト……」
「もしも地球軍や反宇宙人の人間に拾われてたら、今頃俺は殺されてるか、実験体になっていたでしょうからね」
「人として当然のことをしたまでだ、気にすることでもない」
「いえ、二度も星を失って、希望を失いそうだった俺に、あんなにも優しく温かく、仲間として迎えてくれた皆さんへの感謝の気持ちは言葉では言い表せません」
「そうさ、仲間としてお前を大切にしようとするのは当然のことさ」
「だから!俺も仲間として猿渡さんのことが大切にしたいんです!俺に出来ることだったらなんだって言ってください、力にならせてください!」

純粋で優しい心の中を、偽りなくゴオにぶつけるミスト。そんな彼を見つめるゴオの欲望はもう抑えようがなかった。ゴオの心はミストの純粋な心と反比例するように邪悪に染まった。

「お前がそんなに思いつめてるとは思わなかった。よし!今日は俺の部屋で酒を酌み交わしながら腹を割って話そう!」
「は、はい!」

ゴオはミストを自室へと案内した。

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