シベリアの森の中に、二体の巨人が膝をついている。
 夕暮れの太陽がオレンジ色の光を真横に投げつけて、水色のビルトファルケンの装甲が夢に出てきそうな色合いに照り映えている。冷え切った手足をさする手を休めて、しばらくそれに見とれていると、ファルケンの膝のあたりから声がした。
「アラドー? そっちはどうなの?」
「だいたい終わったよ。火起こして飯にしようぜ」
「大体って何よ、もう……」
 膝装甲の裏から白い脚がにゅっと出てきて、ミニスカートの尻が出てきて、最後に頭が出てくる。ひらり、と凍った地面に降り立つと、ゼオラはいつものお説教顔で俺の方へ歩いてきた。
「そんなことだから、ビルガーの調子が上がらないのよ。ただでさえこんな所じゃ、普段よりずっと念を入れて整備しないとまともに動かないのに、あなたの雑な整備じゃ、せっかくの最新鋭機が勿体ないわ」
 目の前まできて、腰に手を当てて肩をいからすと、大きな胸がぷるん、と揺れる。見せつけているようにも思えるが、全然そんな意識がないのがこいつの困ったところで、細かいことにいろいろ気がつくくせにこういう所だけ時々無頓着なのはなんでだろう。
「明日発つ前にもういっぺん点検するよ。それより、飯だ飯。体洗ってこいよ」
 白い肌のあちこちに機械油がついて、きれいに切りそろえた銀髪も汚れてしまっている。放熱板の上で温めておいたお湯のバケツを差し出すと、ゼオラは今になってそんなことに気付いたらしく、顔を赤くしてひったくるようにバケツを取って向こうへ行ってしまった。こういうとこ、女の子ってのは大変だよな。



 オルファンとかシャア大佐とか暗黒ホラー軍団とかバラルとか、いろんなのがダマになった例の大戦争が終わったあと、いくつか紆余曲折があったあげく、俺とゼオラはスクールの仲間を探してビルガーとファルケンで世界中をフラフラしている。
 軍用兵器というのは厄介なもんで、民生用の機械とは比較にならない性能を持っているかわり、何倍も念入りに整備してやらないと使い物にならない。そんなものを旅の足代わりにするなんて勿体ないというより狂気の沙汰なのだが、何しろ一応俺達の持ち物だし、またこれ以外に俺達の持ち物なんて何一つないので、やむを得ずこんな真似をしている。テスラドライブのおかげで半永久的に飛んでられるのがなかなか便利だ。人目のある所へは迂闊に降りられないが、俺達の目的地は大抵こんなような人里離れた場所なのでそれほど困らない。
 昨日見てきたイルクーツクの施設で三つ目。いまだ収穫は、ない。

 濃いオレンジ色の太陽がギザギザした森の影の向こうに消えるころ、俺が大格闘のすえ捕まえてきた兎と、携帯レーションの中身で簡単なシチューを作って、夕食になった。
「あ、うまい」
「でしょ?」
 俺がスプーンを口に入れると、ゼオラが嬉しそうに笑った。
 この旅をはじめて一月あまりになるが、それにつけてもαナンバーズにいてよかったとしみじみ思うのは、あそこの女の子達やレーツェルさんに仕込まれたおかげで、ゼオラの料理が多少なりともまともになったことだ。
「味薄いけど、肉からダシが出ててうまい」
「あ、味が薄いのは塩を節約したせいよ! 調味料は貴重なんだから」
 つい半年前まではどの調味料でどんな味がつくかもわからず、右から順に入れたりしていたのだから、これだって相当の進歩なのである。

「……しかし、なかなか見つからねえもんだな」
「まだ三つだもの、そんなに簡単にはいかないわ。ヴィレッタさんのリストはまだまだあるのよ」
 おかわりをよそってくれながら、ゼオラが言った。自分にも俺の半分くらいの量をよそって、ふう、ふうと冷ましながら食べている。
 そう、まだたった三つ調べただけで、先はまだまだ長い。不安になっているのは俺じゃない。ゼオラはなんだかさっきまでよりしっくりしたような顔で、口の中でスープを転がして味を確かめたりなんかしている。こういう時に俺が代わりに弱音を吐くのは、なんというか昔からの呼吸ってやつだ。
 俺はむしろ、先が長いのも悪くない、なんて思い始めている。いや、もちろん最終的にはオウカもラトゥーニも見つかってくれなきゃ困るんだが、それはそれとしてこういう状態はちょっと悪くない。こういうというのはつまり、
「寒い時にあったかいもの食べるのって、幸せだよな」
「うんうん」
 ゼオラと二人で、その、何というか。
「お湯まだあるよね。食後にコーヒー、飲むでしょ?」
「おう」
 お揃いのコップを準備したりなんかして。いやサバイバルキットの備品だから、お揃いで当たり前なのだが。
 ゼオラも同じ気持ちなのか、どうなのか知らないが、やっぱり少しだけ楽しんでいるように見えるのは、俺のひいき目だろうか。
 違うといいなあ。


 大鍋をあっという間に空にして、腹をさすって一息つくと、あたりはもう物凄いほど真っ黒な闇に包まれていた。火事にならないよう念入りに火を消すと、灯りはPTのコクピットの光だけだ。
 強い風が吹いて、どどう、と森中が揺れ動いた。
「……すごいね」
 黒い壁のような四囲の森を見回して、ゼオラが軽く身震いをした。炎が消えると、闇と一緒に寒さも一気に押し寄せてくる。一応耐寒耐熱のパイロットスーツを着ていても、シベリアの夜は半端じゃない。何しろ腰をかけている尻が冷たくて座っていられない。立っていてもすることがないから、すぐ寝ることになる。
「おやすみ」
「明日ちゃんと起きるのよ」
 それぞれのコクピットから、いつもの挨拶をかわして、ハッチを閉じる。空調を少し暖かめにして、スーツをゆるめて、毛布を引っぱり出して、さあ寝ようと思ったら、ハッチが開いた。
 ゼオラが、毛布を持って立っている。
「……あ、あの、ね。その…………一緒に、寝てもいい?」
「え?」
「ほ、ほら、二機分のコクピット暖房するなんて、エネルギーがもったいないし。も、毛布も二枚の方があったかいでしょ」
 とか言いながら、そそくさと入ってくる。顔が真っ赤だ。たぶん、俺の顔も赤いだろう。とりあえず、寒いからハッチを閉めた。
「えっと、じゃあ俺の膝の上でいいか」
「う、うん」
 いいかも何もそれ以外に場所はない。俺がシートに深めに座って、その膝の上にゼオラがちょこんと乗って、その上から二枚の毛布を巻きつける。

「…重くない?」
「結構重い」
 思いっきり向こう臑を蹴られた。
「失礼なこと言うんじゃないのっ!」
「自分で聞いたくせに……」
 俺が悶えている間に、ゼオラは膝の上でもぞもぞ動いて、収まりのいい体勢に落ち着いた。ふうっ、と、体の力が抜けて、背中とか、手とか、頭とかが、俺に預けられてくる。
「……」
「……」
 さらさらの髪が、俺の鼻の先をくすぐる。やーらかい尻と太ももが、俺の膝の上に乗っている。背中を通して、かすかに心臓の鼓動が響いてくる。お互いの体温が徐々に毛布の中に染みわたって、じんわりほこほこと暖かくなってくる。このまま眠りたいような、そうでもないような、微妙な時間が過ぎる。
 先に我慢できなくなったのは、僅差でゼオラの方だった。
「…………アラ、ド……」
 かすれた声で、顔を真っ赤にして、そおっと振り向いてくる。困ったような上目遣いの瞳がたまらなくて、俺は夢中でその唇をふさいでいた。
「……ん…………」
 毛布の中で手が動いて、ゼオラの体を抱きしめる。ゼオラは首を懸命に曲げて、俺の唇に吸い付いてくる。俺の手が、ゼオラの胸に触れると、ぴくんとふるえた。だが、抵抗はしない。
 唇を合わせたまま、まるい乳房をそっと撫でまわすと、子犬が甘えるような鼻声をもらして、ゼオラは身をよじる。乳房ってのは思ったより冷たい。脂肪しかないからだ。何だかかわいそうになって、俺は大きな胸を包み込むように両手でつかんだ。
「ふぁん……!」

 はずみで唇がはずれて、体勢が元にもどる。俺はゼオラを背後から抱いた形のまま、冷たい水風船みたいなふたつの乳房をゆっくり、ゆっくり揉み込んでいった。
「あっ、あっ、アラド、っ、ふ…………」
 手の熱が少しずつ乳房につたわっていくにつれ、先端に固いものがあるのがスーツごしにでもわかってくる。パイロットスーツのへりを指で探り当てて引き下ろすと、けば立った毛布に乳首がこすれてゼオラが息を吐いた。
 厚手の毛布にくるまった中で、俺の手とゼオラの胸がもそもそ動いている。なんだか、いやらしい眺めだ。普通にするより、秘密のことをしているような気がする。ゼオラにそう言ったら、
「バカっ……!」
 真っ赤になって怒ったが、やっぱり同じことを思っているみたいだった。
「ん………」
 ゼオラの耳たぶを唇ではみはみと噛みながら、片手で重たい胸を揺らしたりこねたりして愛撫する。乳首にはなるべく触らないように気をつける。別に焦らしてるわけじゃなくて、ゼオラのそこはあんまり敏感なので、へたにいじるとそれだけで何度でもイッてしまうのだ。今は毛布が上にかぶさってるから、それがこすれるだけでもちょうどいい刺激になっているようだった。たふ、たふと揺らすと、それに合わせてリズミカルにゼオラの声も揺れる。
 もう片方の手は毛布の中をすべって、ミニスカートの下の太ももに触る。よくこんな格好で寒くないと思うが、ネリーさんの山小屋でも終始この格好だったし、寒さには相当強いらしい。白熊みたいだと言ってかかとを喰らわされたことがある。
 むっちりした太ももは火照っていて、見えないけどきっとピンク色に上気しているんだろう。何度か撫でまわすと、しっとりと汗ばんでくる。もじもじと脚をよじり合わせた拍子に、尻がこすりつけられて、俺は軽くうめいてしまった。それで、ゼオラも気付いたらしい。
「アラドの…………?」
 俺の股間は堅く立ち上がり、その先端がゼオラの尻に押しつぶされていた。

「熱いね……これ」
「そりゃ………あう、う」
 ぐりぐり、とゼオラは尻をねじって押しつけてくる。胸ほどではないが肉付きのいい、やわらかい尻が俺をはさみこんで動くものだから、思わず声が出てしまって、それが嬉しいらしくてゼオラはますます強く尻をこすりつけてくる。
 負けじと俺も手を伸ばし、ぴったり閉じられたゼオラの太ももの間に入り込む。ぷにぷにする肉を押しわけてミニスカートの下の付け根にたどり着くと、すでにぐっしょり濡れた布の感触が……ない。
 かわりに、ヌルヌルと濡れた肌の、直接の手触り。
「ゼオラ、お前もしかして、穿いて……?」
「……だ、だって」ゼオラのうなじが真っ赤になって、うつむいた口の中で何かもごもご言う。「その、するって思ってたから。よ、汚れちゃうし……」
「スカートとかに染みるのはいいわけ?」
「それは……どうせ、激しくしたら同じだし……」
「………何かお前、どんどんエッチになってない?」
「ばっ、ばかぁぁぁっ……!!」
 じたばたと膝の上で暴れるゼオラを押さえるために、そこに触れた指を軽く動かした。それだけでくちゅ、とこもった音がして、とたんにゼオラがおとなしくなる。
「ふぁんっ……」
 ひくん、と腰を引いた動きがまた俺自身を刺激して、俺がうめく。俺がゼオラのそこをいじると、ゼオラが悶えて、それが俺自身に伝わってくる。そんな、奇妙に釣り合いのとれた循環がしばらく続いた。毛布の下から湿った、いやらしい音が漏れてくる。ほんの小さなその音のせいで、狭いコクピットの中がよけい静かに感じられる。十キロ四方に俺達以外、人間はいない。人に聞かれる心配なんか絶対ないのに、なぜか声を殺して、湿った音と、二人分の息づかいだけが、静かにコクピットの中を満たしていく。
 今度は、我慢できなくなったのは俺の方だった。

「ゼオラ……俺もう、たまんねえッ……」
「ん……」
 耳元にささやきながら毛布をはねのけると、ゼオラも待っていたように腰を浮かせた。シートの上で体をいれかえ、向かいあって俺の膝にまたがる。その間に俺はスーツの股間を開いて、もういいだけたぎり立っている俺自身をひっぱり出した。
「すご……もう、こんなに……」
「お、お前だって」
 ミニスカートをたくし上げ、ノーパンで俺にまたがってるわけだから、当然ゼオラのそこは全開になっている。さっきから触っていたから見ないでもわかってるが、あらためて見るとそこは真っ赤に充血して、キラキラと濡れた光を放っていた。水をふくませたスポンジみたいに、押したらつゆが出てきそうだ。
 あんまり見ていると怒られそうなので、目を上げてゼオラを抱き寄せ、軽くキスをする。それからボリュームのある尻を抱き上げて、ゆっくりと俺の腰の上に降ろしていった。
「ん………ん、んっ、ふぅぅぅ……」
 押したらつゆが出てきそうな、とろとろのゼオラが、俺をゆっくり呑み込んでいく。少しずつ、俺がゼオラの中に入っていくごとに、ゼオラはたまらないような甘い息をもらした。俺のは普通より大きめらしくて、この体勢で最後まで入れると、先端がちょうどゼオラの一番奥に触れるか触れないかくらいになる。その状態から腰を突き上げると、一番奥の壁をつつくことになって、それがゼオラは気持ちいいらしかった。
「あっ! あっ、あっ、アラド、あ、アラド……!」
 俺が突き上げるのに合わせて、ゼオラも腰をはずませて、よりストロークを大きくする。最近、あまり考えなくてもこのリズムが合うようになってきた。
 俺とゼオラがこの旅をはじめて一月あまり。その間、するのはもちろんこれが初めてじゃない。というより、ほとんど三日とあげずに俺達は、その、なんだ、愛し合っている。

 だって、仕方ないじゃないか。ガキの頃から一緒にいて、ずーっと好きだった奴に、ようやく気持ちを伝えられたと思ったら両想いで、それで二人っきりで旅に出て、それもこんな人気のない所ばかりうろついていたら、我慢できるわけがない。我慢する必要もたぶん、ない。ゼオラが嫌がったことは一度もないし、今日みたいにゼオラから来ることだってある。きっと、ゼオラも同じ気持ちなんだろうと思っている。
 さっき俺がはだけた、二つの大きな乳房が目の前で揺れている。ぶるん、ぶるんと俺の動きに合わせるように、はずんで形を変えるそれへ、俺は吸い付いた。
「ふあっ……!?」
 それだけで、ゼオラは俺を一段きつく締めつける。片手でゼオラの背中を抱き寄せ、片手で尻をつかんで、俺は赤ん坊みたいに、甘くやわらかい乳首を口中で吸い立て、転がし、噛み、しゃぶる。赤ん坊はこんなことしないか。
「はっ、はヒッ、ひにゃッ、あっ、アラドっ、そこはッ、そこは駄目、あ、や、ンンッ、ん、ンにゃあああーーっ!! あっ!? あッ、あッ、あにゃ、にゃーっ、にゃああっ、ああーっ!!」
 乳首を責めると出てくるゼオラの猫みたいな鳴き声も、だいぶ聞き慣れてきた。別に猫の真似をしてるわけじゃなくて、ろれつが回らなくなりすぎてこんな声が出るらしい。にゃーにゃー鳴いてる間のことは夢の中みたいでよく覚えていないのだと、ゼオラは言う。ぷにぷにしたゼオラのおっぱいは気持ちよくて、いい匂いで、ほどほどにしておこうと思っても俺はいつもやりすぎてしまう。
「はにゃーっ、にゃああっ、やぁぁっ、あッ、ひッ……!」
 俺の背中に回されていた腕に痛いくらい力が入ったと思うと、ふっと抜けた。またやりすぎてしまったらしい。おそるおそるゼオラの顔をのぞき込むと、目に涙を浮かべて睨み返された。
「……アラドのバカぁ……っ!」
 ぎゅううううとほっぺたをつねられる。この一月ですっかりゼオラの得意技になっちゃって、俺は爺さんになったらほっぺたが垂れてくるんじゃないだろうか。でもこの状態でゼオラが力むと、あそこも締まるのでちょっと気持ちいい。

 なんてことを考えながら痛がっていると、ゼオラがつねるのをやめて抱き付いてきた。俺の肩に顔を埋めて、小声で、
「今度は、一緒に……ね?」
 俺の首筋に当たっている、ゼオラの頬が熱い。恥ずかしさで真っ赤になった顔が、見なくても目に浮かぶようで、それだけで俺はたまらなくなってゼオラを抱きしめていた。
「ん……んっ、ふッ、あッ、アラド……」
「ふぅッ、ふッ、ゼオラ、ゼオラ、っ……!」
 ゆさり、ゆさりとさっきとはまた違うリズムをつけて腰をゆする。今度は胸には触らないかわり、唇や、まぶたや、鼻の頭や、首筋や、至る所にキスをする。ゼオラも熱い息をつきながら、俺のあちこちにキスを返す。ゼオラの上半身をぎゅっと抱き寄せているから、乳房は俺の胸板にこすりつけられる形になって、それはそれで気持ちいいらしい。
 ゼオラはイったばかりで敏感になってるし、俺はさっきから我慢して溜まっている。二人とも、限界はすぐに来た。
「あっ、あっあ、アラド、あらど、あぁあああ……!!」
「ゼオラ、っく…………!!」
 最後の瞬間、俺はゼオラの頭をかかえるようにして、唇にむしゃぶりついた。ゼオラも応えてきて、お互いの舌がからまった瞬間に電流みたいなものが走って、俺はゼオラの中に思いきりぶちまけていた。白くて柔らかいゼオラの肢体がびくん、びくんと波打って、全身で俺の精液を飲みくだしているみたいだった。

 残らずゼオラの中に注ぎ終わり、ゼオラの痙攣がおさまった後も、まだ俺達はつながったまま長い長いキスをしていた。やがて、しぶしぶ体を離して、色々ドロドロになったあちこちを拭いて、ついでに後戯というか、かるいキスや愛撫なんかもして、服を着直して、あらためて毛布にくるまる。二人一緒に達した後はクタクタになって、そのまま眠っちまいたくなるんだけど、前に一度それをやったら翌朝濡れてるわ冷たいわ気持ち悪いわで大変だったので、面倒でもきちんと後始末をすることにしている。
 ゼオラは満足しきった様子で、俺の胸に背中をあずけて体をまるめている。手の中の銀色の髪をゆっくりなでていると、急に振り向いて俺の顔を見た。目が、少しうるんでいる。快感のなごり……ではなさそうだ。
「ねぇ……見つかるよね? みんな、みんな生きてて…………探してれば、いつか会えるよね?」
 泣きそうな顔の、目尻に浮いた涙を、俺はそうっと指でぬぐった。
「大丈夫だよ。俺みたいな落ちこぼれでも、こうやってピンピンしてんだから。みんなどっかで元気にやってるに決まってるさ」
「…………ありがと」
 まだ泣きそうな顔のまま、ゼオラはにっこり笑って、もそもそと毛布を引っ張り上げて、中へもぐり込んだ。ちょうど俺の心臓のあたりに、ゼオラが頭をおしつけている。母親の心臓の音を聞くと、赤ん坊は安心するそうだ。そんなことを思い出した俺は、毛布の中でゼオラの頭をぎゅっと抱きしめた。

 フォローするつもりがだんだん思わぬ方向へ口がすべっていきそうな俺に、毛布の中から、くぐもった声が返事をした。
「…………でも……私も」
 一緒だよ。と、続いた言葉はかすれるほど小さくて、俺は耳というよりもゼオラが囁きかけた胸板の、その振動で聞いた。
「……おやすみ、アラド」
「おやすみ……」
 照明を落として、ゆっくり目をとじる。音のないコクピットの中で、俺とゼオラの心臓の音だけが、ことん、ことんと響いていた。その音に連れて行かれるように、ゆっくり意識がどこかへ溶けていく。
(大好きだよ……)と、誰かが言ったのはゼオラの寝言か、俺の寝言か、よく覚えていない。
 翌朝、陽がすっかり高く昇って、ゼオラが目を覚まして、どうでも起きない俺を引っぱたいて叩き起こすまで、俺はゼオラをしっかり抱きしめたまま放さなかった。


End

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