――最初は、ちょっとした悪戯のつもりだった。
自室での打ち合わせが終わった後、僕は帰ろうとする彼女を抱き寄せて唇を重ねた。
サヤは一瞬驚きに身を竦ませたが、そっと髪を撫でると緊張を解いてくれた。
だから僕は調子に乗って、動けないくらいに強く抱きしめて、もっと深く口付けた。
「…!」
先程よりもずっと分かりやすく、細い身体が震えた。
彼女の全身は、どこもかしこも甘くて美味しい。唇もまたそうだ。
音がしそうな程に大胆に舌同士を絡ませ、ゆっくり丹念に口内を味わう。
時折遠慮がちに、僕の口内に攻め入ろうとするのも、可愛くて仕方が無い。
しばらくそうして戯れているうちに、ん、と鼻にかかった少々苦しげな声が聞こえた。
そろそろ限界か、と思い唇を離す。
「…いきなりは反則です、アーニー」
見上げる視線と言葉は恨めしげだが、声は甘く、頬もすっかり上気している。
そして僕の胸に、力の抜けた身体をすっかり預けきっている。
「腰が、抜けてしまいました。…これでは、部屋に帰れません」
「なら、元に戻るまでここにいればいい」
反論を言う隙を与えず、僕はサヤをベッドに押し倒した。
「…明日の朝まで、帰れない気がしてきました」
呆れ半分の笑顔で、サヤは上にのしかかる僕へ手を伸ばす。
「多分、気のせいじゃないだろうね」
彼女の腕に抱かれながら、僕は次にキスすべき場所へと顔を寄せた。

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