あ〜あ、疲れた。とっても疲れた。すっごく疲れた。どれくらい疲れたかというと、体がジャムとチョコの中に沈みこんでいく感じがするぐらい。
 ウェンと一緒に哨戒をずぅぅっと頑張ったけど、結局成果はなし。なのに、その後すぐに交戦開始。
 もう今日は何もしたくないなぁ。ウェンには悪いけど、今日は食事に付き合うのは断って、部屋に戻るとシャワーも浴びずにそのままベッドにダイブ。すぐに瞼が重くなって、夢心地の中を私は彷徨いはじめていた。
 ちょっと待って、クリス。何かおかしいよ。なにか声がする。
『う……あ……うう……』
 まどろむ頭を働かせて、私は今の割り当てでは、ちょうどお兄ちゃんが、隣の部屋で生活してることを思い出した。けれど、聞こえてきたのは、女の人の呻き声だった。
 おかしい、妙だ。なんでお兄ちゃんの部屋で、女性の呻き声がするんだろう。どう考えてもおかしいよね、リアナ。
「……お兄ちゃんなの? どうかしたの?」
 コンコンと壁を叩いて、壁越しに私は話しかけた。一瞬、驚いたような、けれど小さな短い叫び声が聞こえたような気がした。
『あ……ああ、リムか。なんでもないよ、ラキと一緒にいる『だけ』だから』
『そ、そうだ。だから何も気にするな』
「あ、そう。 なんでもないんならいいんだ。 おやすみ」
『ああ、お休み』 
 なんだ、それだけかぁ。
 それだけに決まってるじゃん、クリス。明日も早いんだから、もう寝るよ。
 またベットに突っ伏して、私は軍の支給の割には、ふかふかの真っ白な布団に、体を沈みこむままに預けた。
 頭の中に白いカーテンがかかっていって、そのままゆっくりと落ちていくような気分になって…そのまま…。
『う……ああ! ダメだ、そんなところを…揉んじゃダメだ!』
 咄嗟に、ガバッ、と跳ね起きた。今のは悲鳴だ、間違いないよ、クリス。分かってるよリアナ。
「お兄ちゃん!? どうしたの!?」
 さっきまでお兄ちゃんの部屋からカタカタと音がしていたのに、私が声を上げた瞬間、その物音が止んだ。
 なにか変だなぁ。
『リ…リム…起きてたのか?』
「当たり前だよ、いきなりラキさんが叫ぶんだもん! 本当に何やってるの!?』
『ハァ…ハァ……ュア……はや……づきをして……くれ……』
 ラキさんの熱っぽい、運動後みたいな気だるい声が聞こえてくる。
 運動? 何やってたんだろ?
 わかんないよ、部屋の中で運動って、何ができるっていうの?
『ま、まて、ちょっとまっててくれ、ラキ……うう……ええと……
 そ、そう、マッサージだ』
「マッサージィ?」
『そう、マッサージ。ちょっとラキの体をほぐしてやってただけさ』
「マッサージ……」
 なるほど、なら呼吸も荒くなるよね、全身マッサージ結構大変だし。
 そうだね、クリス。
「そっかぁ……大変だね。後で私が健康グッズ貸してあげるね。でも、もうちょっと静かにしてくれないかなぁ?」
『あ、ああ。わかった。気をつける。今度こそお休みな。リム』
「うん、お休み」
 大変だねぇ、お兄ちゃんも。兄貴は昔っから苦労性だしね。
 昔っから、ああだものね。女の子とか目もくれないで、いっつも生真面目で、でもたまに結構熱くなって……そういうとこが…昔っから……好き……なんだけど
 バカ……そういう………意味…………じゃなくて……………兄妹………………とし………………て


 ……………………
『……ラキ……ラキ……!』
『ジョシュア……もっと……もっとぉ……!』
 ……ねぇ、リアナ。
 うん……おかしいね。
 おかしいよね。
 今日のお兄ちゃんとラキさんもなんかおかしいけど……私、なにかおかしくなっちゃった。
 おかしいよ……なんで私、スカートに手を差し込んでるんだろ……。
 おかしいなぁ……どうして兄貴がマッサージしてる声を聞いてるだけなのに、体が火照っちゃってるんだろ…
 お兄ちゃんもおかしい、ラキさんもおかしい、けど、ああ、どうしよう、私もおかしくなっちゃった。私もマッサージされたくなっちゃった。
 ねぇ、ウェン、シュンパティアは通じてる? 聞こえてる? ねぇ、早く来て。ウェンも一緒に、おかしくなってくれる……?
 一人だけじゃ、マッサージはできないよぉ……

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