1話

「タスク…ベッドの下から出てきたこの本は一体何?何処で手に入れて、何の為に使っていたの?」
「知らねぇ…そんな本、買った覚えも」
 レオナは手に持っていた本をベッドへ投げつけると、視線を外してひゅうと口笛を鳴らした男に詰め寄った。
「そんな見え透いた嘘でしらばっくれる口は…この口!?」
「ひょげぇ! やめへやめへ…れほなちゃわ!!!」
 指を突っ込まれ、通常の3倍はある横幅まで引き伸ばされた口唇を震わせ、タスクが悲鳴をあげた。
 レオナはタスクの口に指を突っ込んだまま彼の頭を強引に引っ張り、そのままベッドへと投げ捨てるように押し倒す。
「むひゃあ!」
「さぁ、答えなさい…この本は何に使っていたのか…!!」
 本を再び手に取るレオナ。表紙には悩ましいポーズをとった金髪の女性が、レオナを挑発するかのように股間を晒していた。
「いたた…だってさぁ、レオナちゃん…俺がこんなに愛してるのに、少しも応えてくれないしさぁ」
 ふくれっつらになり、とぼけた口調でレオナの問いに答えたタスク。そんな彼の態度、そしてなによりも、本の表紙の女性がレオナに似ていた事が、彼女の怒りを頂点まで押し上げた。
「この…っ!! 馬鹿!! 馬鹿!!」
「れ、れおなちゃん!?」
「あなたなんか…あの時、ヒラメに食われたら良かったのよ!!」
「なっ…!」
「馬鹿ーーーっ!!!」
は手にしていた本で、あっけにとられた男の顔を何度も殴打した。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 ぴくりとも動かなくなったタスクの腫上った顔を見て、レオナははっとなった。宇宙ヒラメとの戦いから戻ったタスクの、憔悴しきった血まみれの顔。あれは、私を守るために…
「うぅ…タスク…私は…」
 ふらふらとベッドから立ち上がったレオナは、そのまま部屋のドアを開けて廊下に出た。
「お、レオナじゃねぇか。タスクの部屋でお前、何をして…」
「!」
 カチーナと鉢合わせになったレオナは思わず駆け出した。背後でカチーナが何か大声でわめいていたが、レオナは足を止めない。そのまま彼女は自室に駆け込むと、へなへなとベッドに座りこんでしまった。
「タスク…何故…こんな本を…」
 レオナにとって、全てが衝撃だった。自分そっくりな女性の、いかがわしい姿の写真集。陰部も隠さず、むしろ見せつけるようにカメラへ向いているのであろうか? モザイクやボカシの修正さえ入っていない女性器は。女性であるはずのレオナも初めて目にするものだった。
(なんという破廉恥な…!)
 レオナは本を床へ投げ捨て、枕へ顔をうずめた。涙で枕へしみ込み、その感触が頬へ直に伝わってくる。
 しばらく何も考えずすすり泣いていたせいか、いくぶん冷静さを取り戻したレオナはゆっくりと顔を上げた。
「まさか、タスク…」
 身を起こし、ベッドの際に落ちていた本を拾い上げた。おそるおそる、ページを捲り始めたレオナ。
「…」
 胸を揉み上げながらこちらを睨み付けた写真。椅子に座り、背中を反らして乳房を強調している姿。
「タスク、あなた…こんな女が…好きなの?」
 レオナには想像もつかない世界だった。恥じる事なく、むしろ自らの性器をアピールする女性。
「こんなのって…」
 レオナは無意識の内に、自らを写真の女性に重ね合わせ始めていた。写真のポーズに合わせ、気がつかない内に手が乳房に伸びているのだ。
「…っ」
 息を飲み、僅かに喘ぐ。顔が熱くなり、胸から鳩尾の奥に未経験の感覚を覚え始めた時、ページをめくる彼女の手がぱたりと止まった。
「あ…?」
 壁に背中を預けた写真の女性が、股を大きく開き…股間に手を添えている。左手で女性器を大きく拡げ、右手の指先を割れ目の中に突っ込んでいた。
(一体何を…あんなところに…?)
 早まった心臓の鼓動が彼女の頭に響く。大きく膨らみ始めた好奇心が、彼女の手を、身体を動かした。
 まるで写真の女性に操られているかのように、レオナは壁に背中をあずけた。足を前に投げ出し、スカートをゆっくりとめくり上げ、股間を開いてみる。そして止めていた息を吐きながら、ショーツの上から秘部に指を当てた。
「んくっ…!!」
 次の瞬間、彼女の体躯を強烈な閃光が突き抜けた。背中が一瞬痙攣し、自分でも聞いたことのない声が部屋の中に響き渡る。
(い、今の…何なの?)
 呼吸を整え、股間の状態を確認した。見た目は特に変化がないが、恥丘の下から身体の奥にかけてどんどんと熱い何かが吹き出しそうになってくるのが伝わってくる。レオナは唾をぐっと飲み込み、もう一度指をショーツに押し当てた。
「あっ…あんん!」
 二度、三度と身体が痙攣する。思わずショーツから離しそうになった指を強引に押さえ込み、指先の感触を確かめた。
「これは…」
 明らかに人肌とは違う熱さが指から感じられた。写真で晒されていた女性器の形状を思い出しながら、割れ目の方向にそって指を動かしてみる。
「んっ…! ぁあ!…ぁぁ」
 ショーツが僅かにであるが、何か熱い液体で濡らされている。そして、割れ目の上方で感じられた突起を指先が通過する旅、最初に感じた電撃が彼女の五感を揺らした。
「何…んっ! これっ…は…んぁ!」
 痛みやくすぐったさとは違う…ぶっちゃけていえば『快感』だった。味覚や嗅覚とは違い、ダイレクトに脳へ伝わってくるこの感触を、彼女はもっと味わいたくなった。指をいったん股間から離し、ショーツを乱暴に脱ぎ捨てたレオナは、枕元にあった鏡を股間にかざした。
「こんな…」
 鏡に映し出された桃色のひだが、彼女とは違う生物のように蠢き、その奥に湛えられた蜜がとろりとあふれ出てきている。まるで何かを求めるようなその動きに、レオナは最早あがなう事が出来なかった。
「ひ…っ!! んぁあ゛っ!!」
 乱暴に指を突っ込み過ぎたせいか、今までにも増して強烈な快感の波が彼女に襲いかかった。他人の悲鳴にも似た喘ぎ声が、レオナの欲望を刺激する。
「んん…っ…あん…うぁ…ひぁ…っ!!」
 指先を自らの蜜壺に差しいれ、かき回す。快楽の波はやがてまとまり、津波のように彼女の理性と意識を押し流し始めた。
「んくぅ…くぅ…あんっ…い…いい…!」
 指先を更に加速させた彼女の脳裏に、一人の男の顔が浮かび上がった。
「タ…スク…ぅ…わたし…わたし…あんっ…んん…んん゛〜〜〜〜〜っ!!!!」
 快楽が渦巻き、彼女の意識が白く飛んだのと同時に、部屋のドアが開いた。
「はぁい、レオナちゃん…カチーナ中尉が心配してたわよ…って、おやまぁ…」

2話

「レオナちゃん!?」
 切り払った筈のミサイルが至近距離で爆発し、ガーリオンカスタムはコントロールを失ったのか、錐揉みを伴いながらふらふらと宇宙ヒラメに接近していく。
「ちょ、レオナちゃん! 奴が来る!!」
「う…ぁあ…」
 余程の衝撃だったのだろうか、無線機のスピーカーから弱々しいレオナのうめき声が返ってくるだけだ。
「くそっ!!」
 タスクはジガンスクードのスラスターを焼き切れんばかりに吹かし、今まさに宇宙ヒラメの餌になりつつある恋人の元へと向かった。
「もっと…もっと早く!」
 宇宙ヒラメの巨大な口へと吸い込まれていくガーリオンカスタム。
「レオナっ!!」
 間に合うか? タスクは宇宙ヒラメの歯牙を掠めるように、ジガンスクードをガーリオンカスタムの傍らへと滑り込ませた。
「ぐぁ…っ!!」
 鈍い音が聞こえたかと思うと、ジガンスクードのコクピットはシェイカーのごとく振り回された。
 額に激痛が走り、タスクの眼前が一瞬赤い飛沫で満たされる。
「くぅ…」
 シートの緩衝装置が衝撃を吸収し切れず、パネルへ思い切り頭をぶつけてしまったようだ。
 一部が割れてはじけとんだバイザーの向こうで、宇宙ヒラメの口からガーリオンカスタムが離脱するのが見えた。
「…ギガ…ワイドブラスターっ!!!」
 音声入力装置へ武装選択コマンドを叫び、操縦桿の発射スイッチを押し込む。機体を震わせながら光の閃光がジガンスクードの胸部から発射され、宇宙ヒラメの体を貫いた…筈だった。
「あ、あれ?」
 タスクは何度もコマンドを叫び、発射スイッチを押す。しかし、最強の盾から光の刃が発されることは二度となかった。
「メインスラスター使用不能…ブラスター系全武装、発射不可能!?」
 眼下のコントロールパネルに、普段見る事もないような警告があふれんばかりにどんどん表示されていく。焦るタスクを尻目に、グラビティテリトリーの出力レベル低下を警告するビープ音がけたたましく鳴り響いた。
「くっ! ガンドロ…しっかりしろよ!! 俺達のやることは…わかってるだろ!」
「無様ね、タスク・シングウジ少尉」

「レオナちゃん?! 無事だったんだな!」
「あなたに心配される理由などないわ」
「ところでさぁ、レオナちゃん」
 ずきずきと響く痛みをこらえ、いつもの軽い調子でレオナへと語りかける。
「わりぃけど、あの隕石のかけらを追っかけてくれねぇかな」
「…」
「いや、実はさっきので推進系の調子がおかしくなっちゃってさ」
「そう、わかったわ」
「へ?」
「丁度いい機会だわ、あなたはそのままヒラメに食べられてしまいなさいな」
「ちょ、ちょっとレオナちゃん? 冗談きつすぎっすよ!?」
「気安く私の名前を呼ばないで…そもそも、あなたにファーストネームを呼ばれる言われもないわ」
 その声にタスクは聞き覚えがあった。彼が初めてレオナと出会った日の、他者を全て拒むような冷たく鋭い声。
「レオナちゃん!?」
「大体あなたは馴れ馴れし過ぎるのよ。それに私はあなたの恋人でもなければ友人でもないわ」
「ど…どうして…」
「あなたはグラビアの破廉恥女の尻を追っかけてるのがお似合いだわ…憐れな勘違いさん」
「!!」
 ガーリオンカスタムはジガンスクードに背を向け、スラスターを噴射して彼方へと飛び去っていく。
 その姿をおいかけようと手を伸ばしたが、コクピットのモニタが突如として真っ暗になった。コントロールパネルが各部装甲の破損を無慈悲に告げたかと思うと、コクピットの壁がめきめきと大きな音をたてて内側へひしゃげてきた。
「そんな…俺はそんなつもりじゃ…」
 ひしゃげた壁が、タスクの身体を押しつぶし始めた。金属片が身体のあちこちに刺さり、その痛みがタスクの心を折っていく。
「れ…レオ…」
 愛する女性の名前を叫ぼうとした瞬間に頭の左右の隔壁が破れ、宇宙ヒラメの歯がタスクの顔面を押し潰した。
 パイロットスーツがはじけ、嫌な音をたてながら身体がひしゃげていく。
「…レオナ…?…れおなぁあ!!!」

「う…レオ…ナ…」
 病室の一角で、包帯だらけの男が呻き声をあげている。
「随分とうなされてるね、タスク。大丈夫かな」
「へっ…こいつがこれぐらいで死ぬタマかよ」
「死にゃしないだろうけどさ、レオナもあんな事になってるし…」
「心配すんなリューネ、そこんとはきっちりとフォローしてあるぜ」
 元も子もない言い分だが、きちんと筋が通っているのがカチーナだ。そんな彼女に全面的な信頼を置いているからこそ、民間人であるリューネは彼女達に協力している。
 「う…うう…」
「…カチーナの言う通りね」
 そうこう言っている内、タスクは目を覚ました。とはいえ、その目の焦点は合っておらず、ゆっくりと周囲を見渡しているようだ。
「さぁ、さっさと起きやがれ! てめぇには言いたい事が山ほど…」
「れ…れおなぁぁああ!!!」
「うぉあ?!」
「レオナぁ! 待ってくれ…俺は…俺は…あれ?」
 彼の知っている柔らかさとは違う、芯の通った固い身体。レオナ程大きくない胸の谷間に顔をうずめ、タスクは自分がとんでもないミスを犯した事を悟った。
「なにすんだこの、ど助平野郎!!!」
 カチーナの怒号が病室に響いたのと、彼女の鉄建がタスクの顔面にめり込んだのは殆ど同時のことだった。






「あんたの部屋、相当汚かったもんねぇ…」
「…そんな訳で、彼女が俺の部屋に掃除しに来てくれたんです」
「ほう、それで…この本の所在が見事にバレた、ってことだな」
「うわ! そ、それは!!」
「っと、リューネは見るなよ…こいつはお前にゃまだ早過ぎるわ」
「言われなくても大体察しはつくわ。まったくもう、なんでこんなの置いてるのよ」
「それは…その…」
「まぁそう攻めるな。こいつぐらいの歳になったら、こんな本の一冊や二冊は確保してるもんさ」
「さっすが隊長! お察しの通りで」
 当初に比べて2割程巻き増しされた包帯の隙間から、タスクのにんまりとした顔が覗く。
「まだ包帯が巻き足りないか? このスペシャルH野郎」
「いや! もうこれで充分であります!!」
「…ったくてめぇは…こんな本が問題じゃねぇんだよ」
「へ?」
「へ、じゃねぇよ。お前、レオナに向かってなんと言ったか覚えてるか?」
 未だにずきずきと痛むタスクの頭に、数時間前の出来事が徐々に蘇ってくる。
「…俺は…レオナちゃんに…その…」
 自分の言葉を聞いた瞬間、目に涙をじわりと湛えたレオナ。無茶をした後に泣かせた事は何度かあるが、口喧嘩であのような表情を見たのは初めてのことだった。

「…俺の愛に応えてくれない…からって…」
「ったく、てめぇって野郎は…ほんっとに馬鹿だな…ぁあ?」
 カチーナの罵声を浴び、タスクは俯いたまま言葉を失った。レオナはきちんと自分の欲求に応えてくれていたのではないか? 何故自分は、あの時あんなことを彼女に言ってしまったのか?
 タスクの思考は、深遠に閉ざされた迷路にハマりこみつつあった。
「自信がないんだ」
「りゅ、リューネ?」
 後ろから不意に聞こえた台詞に、カチーナが驚く。
「…え?」
「自分のやってることに、自信がないんだろ? だから、自分の事を棚に上げて、レオナばかり攻めて…」
「ち、違う!」
 ムキになって否定するタスク。腫上って熱をもった額を、冷たい汗が流れる。
「いいや、違うことなんてないね。本当に自信があるなら、そんなことは言わない筈だよ!」
「おい、リューネ…それはちょっと言いすぎ…」
「この際だからとことん言わせてもらうよ…タスク、あんたが宇宙ヒラメにやられた後、退院してからレオナのガーリオンを見たのかい!?」
「あ、あぁ…ぼろぼろになって、ひでえ有り様だった。俺が入院してる間、そんなに戦闘があったのかと…」
「…レオナはね、あなた以外がガーリオンを弄るの嫌だって、自分で修理しながら載ってたのよ」
「え…」
 タスクは退院してから見たガーリオンの状態を思い出した。修理したにしては、整備士が触ったとは思えないような応急処理があちこちに見られ、いつ動けなくなってもおかしくない状態だったのだ。
「病院から帰ってきて、『また看護士の女の子に手を出してた」って、泣きながら修理してたわ…ここの基地、頼めばきちんと直してくれる整備士だっているのに」
「レオナが…」
「そこまでしてあんたの事を想ってくれてる女の子に、『俺の愛に応えてくれない』なんてことを言うなんざ…勝負師も地に落ちたもんだね!!」
「俺は…俺は…」
「なんとかいいなよ!!レオナの事、本当に好きなんだったら!!」
「リューネ、それぐらいにしとけ」
 リューネの肩を掴み、カチーナが宥めた。
「だってこいつ!」
「…見てみな」
 改めてタスクを見たリューネは、それ以上攻める気を失った。俯いたままぶつぶつと呟き続ける包帯男にかけるようなハッパは、既にどこを探しても見つけようがなかったからだ。
「タスク…」
「もういい、リューネ。後はこいつ次第だ…俺達に出来ることはもうねぇよ」
 カチーナはタスクに絡むリューネを強引に引っ張り、部屋を後にした。
(あとはエクセレンが上手くやってくれるのを祈るのみ、だな)

「ぐすっ…えぐっ…」
「レオナちゃん、少しは落ち着いた?」
 ベッドの端で膝を抱え、泣き続けるレオナの背中をさすりながらエクセレンが話しかけた。
「はい…」
「ノックせずに入ってごめんねぇ…まさかロックもせずに、あんなことしてるなんて思わなかったから」
「いえ、ブロウニング少尉の言う通り…悪いのは私ですから…」
「もう、女の子同士なんだから固い事言わないの!エクセレンでいいわよ、エクセレンで」
「はい…」
「それにしても…」
 いくら恋人同士とはいえ、相手の男の部屋の中で、オナニーをするのは中々出来る事ではない。
 体液でぐちゃぐちゃになったシーツを端に寄せ、改めてレオナの状態を確認するエクセレン。
 掃除をしていたまま事に至ったせいで、髪の毛や服がほこりまみれだった。もし、今スクランブルがかかれば彼女はとんでもない恥をかくことになるだろう…それだけではない、エクセレンの計画までおじゃんになってしまう可能性大だ。
「レオナちゃん…とりあえずさ、お風呂入りにいきましょうか」
「え…あ、はい…」
「涙やらなんやらで、可愛い顔が台無しよん。それにここの基地、お風呂はしっかりとしたいいのが揃ってるらしいのよねん」
「ええ…わたしやリューネがかなり要望を出しましたから…それに、カチーナ中尉も協力してくれましたし」
「なんだかんだ言って、部下の面倒見いいわよね…彼女」
「ほかにも色々とお世話になって…感謝しています」
「ほらほら、またお固くなってるわよん。お風呂できちんとほぐしちゃいましょ」
 レオナの手をとり、エクセレンがベッドから立ち上がる。まだ少し震えてる足をいなしながら、レオナもゆっくりと立ち上がった。そのまま二人は女性用フロアへ上がり、レオナの部屋の前で別れた。
「んじゃ、お風呂場で待ってるわよん」
「わかりました」
 自室に入り、鏡に見入るレオナ。そこには乱れた髪の毛に服、そして汗と体液まみれで小刻みに震える下肢を手で押えている、小汚い女がいるだけだった。
(無様…だわ…)
 一刻も早く、先程の出来事を忘れたかった。鏡を伏せ、用意を整えた彼女は部屋をでると、エクセレンが待つ風呂場へと向かった。

「はぁい、お先に失礼してるわよん」
 風呂場の扉を開けると、奥にある木製の湯船につかっていたエクセレンがひらひらと手を振った。流石に身体を流しただけで湯船に入るのはためらわれたので、先に身体を洗う事にする。
「どうも」
 軽い会釈だけをしたレオナはシャワーに近づき、タオルを身体から外した。エクセレン並とまではいかないが、豊満といえる乳房がぷるんと弾ける。
「ふぅ…」
 軽く身体をシャワーで洗い流し、椅子に座る。「ケロ○ン」と底にかかれた風呂桶は、リューネの強い希望でわざわざ日本から取り寄せた逸品ということだった。
(たまにはセントーとやらの気分に浸るのも悪くない、か)
 溜め息をついたレオナはスポンジを手に取り、ボディシャンプーを振りかけた。何度かスポンジを揉み、泡立てた上で身体をゆっくりと擦り始める。腕、肩、上半身。そのままいつものように、下半身へと。
(…)
 股間に差し掛かったところで、レオナの手がとまった。彼女の脳裏に、つい30分程前の出来事が鮮明に再生されてくる。
(あの時の…)
 太股をいつもより大きめに開き、そっとスポンジを添える。普段の入浴時には気に掛けることもなかった部位が、今再び熱くなり始めていた。
(確かこうやって…)
 エクセレンには見えないよう、手首だけを使ってスポンジを上下に動かしてみる。割れ目の上部についている突起をスポンジが通過する度、レオナの下腹部を電撃のような快感が突き抜ける。
「…っ! ん…く!」
 声を押し殺し、手の動きに集中する。ふわふわとした快感がレオナの脳を包み始めたその時、彼女の背中に柔らかく大きなものが押し当てられる感触が伝わってきた。
「ひゃんっ!!」
「あ〜ら、レオナちゃん…こうしてみると、思ってたよりスタイルいいわねん」
「なななな、なんですか一体!?」
「いやー、なんかボーってしてるもんだから、まだ湯船に使ってもないのに逆上せたかなぁと思って」
 鏡で自分の顔を確認すると、真っ赤に染まった頬が目に入った。上気していることがバレたら何を言われるか判ったものではない。レオナは慌てて、身体の泡をシャワーで落としにかかった。
「きゃん! ちょっとレオナちゃん、シャワーそんなにぶっかける事ないじゃん〜!」
「あ…ごめんなさい!!」
「まぁ、急に後ろから襲ったあたしも悪かったわよねぇ…ふふん」
「お、襲うって…」
 レオナがぎくしゃくしている間、エクセレンは既に身体を洗い終えていたようだ。自らシャワーを浴びた後、そのまま湯船に腰掛けるエクセレン。中腰に近い姿勢で頬をつき、太股は肩幅程度に開いている。
(…奇麗)
 谷間がより強調された乳房、細いウェスト。安産が見込めるであろうヒップ、そして股間の陰り…そこに視線が移った瞬間、大きな鼓動をうち鳴らした。そのままじっと見入ってしまうレオナ。

「見るものも見たようだし…じゃ、本題に入りましょうか」
「…え?」
 視線を上げると、そこには先程とは別人のように真剣な眼差を湛えた、大人の女がいた。

3話

 エクセレンの表情は優しく、しかし毅然とした雰囲気を醸し出している。普段とはあまりにも違う彼女に気圧され、レオナは全てを滞ることなく打ち明けた。
「なるほど、事情は把握したわ」
「私、タスクに酷い…事を…」
「まぁねぇ…男って、時々抜かないと冗談抜きで大変な事になるから。そういう類いの本、全く持ってない方がむしろ心配になっちゃうわね」
「そういうものなんでしょうか…」
「うん、そんなもんよ。でもね、あたしはそれより、もっと気になる事があるのよねぇ」
「はい?」
「レオナちゃんってさ、自分でしたことってある訳?」
「したって…何を?」
「どうやら本当ににやったことないみたいね…ぶっちゃけて言うわよ…オナニーよ、オナニー!」
「は、はぁ!?」
 言葉だけなら聞いた事がある。自分自身を慰める行為…しかし、彼女にとってそれは汚らわしい行為以外の何者でもなかった。少なくとも、昨日までは…
「さっきから目が泳ぎっぱなしなのよねぇ。時々あたしの胸とか見てるし」
「そ、それは…エクセレンが魅力的だからで…」
「嘘つかなくていいわよ。見たいんでしょ? あたしのあそこ」
「…」
 あそことは言わずもがな。先程からレオナが何度もエクセレンの股間を覗こうとしていたのは誤魔化しようもない事実だ。
「…ま、減るもんでもないし…丁度いい機会だわ。お姉さんが、AからZまで全部教えて上げる」
「AからZって、一体…って!?」
 レオナが言い終わらない内に、エクセレンは前触れもなく太股を左右に開いていた。少し腰を突き出しながらも前かがみになり、陰毛を丁寧に指で左右にかきわけた。
「…その様子だと…これだけ近くで見るの、初めてなのね」
 レオナは黙って頷き、唾をごくりと飲み込んだ。股間に咲いている桃色の花弁、そしてその中に雌しべが一つ、レオナを誘うように時々ぴくりと痙攣している。エクセレンは両手の指で花弁を左右に押し分け、花弁の奥で揺れている蜜壺をレオナに見せつけた。
「これは…」
「ふふ…花びらの奥には膣口があって…ここで、”男”を受け入れるのよ」
「ま、まさかその”男”って…ぺ…ぺ…ペニ…」
「その通り、ペニスね。それも、ギンギンに勃起した太い奴…タスク君はどうか知らないけどね」
「わ、私も知りません! 知る筈がありませんわ!!」
「あらあら、そっち方面もまだなのよね…って、そりゃ当然か」
「もう!」
 顔を赤くしてそっぽを向くレオナ。しかしその視線だけは、エクセレンの陰唇に釘付けだ。
「続けるわね。割れ目の上のあるのはクリトリスで…そこを弄ると、女の子はとっても気持ちよくなるの…さっきのレオナちゃんみたいにね」
「!!」
 身体を洗っていた時の行為がもろにバレていた事を知った瞬間、レオナの下腹部にその時の快感が蘇った。下唇をぐっと噛み、片手で股間を押えて声を出すのを堪える。
「…っ」
 快感が通り抜けた後、視線を上げるとそこにはエクセレンの秘所が晒されていた。蜜壺の内壁がひくひくと蠢き、風呂場の照明を反射して所々きらきらと光っている。
「あ…」
 レオナは無意識の内に、腹を押えていないもう片方の手をエクセレンの蜜壺に伸ばしていた。
「…触ってみる?」
「え…?」
「触りたいんでしょ? 手が震えてるわよ」
「こ、これは…」
「自分に素直になりなさいな…レオナちゃん」
「…はい」
 レオナはもう一度唾を飲み込むと、そっと指先を花弁の淵に添えた。
「ん…」
 ほんの少しだけ、エクセレンの身体が震えた。レオナは大陰唇の上端から下に向けて指先をつっと滑らせ、今度はそこから小陰唇に移る。
「…ふぁ…んっ…」
 音量は小さいが、艶めかしい声がレオナの頭上から聞こえてくる。彼女はその声をもっと聞きたいという欲望にかられた。
「あっ?! ああぁんっ!!」
 レオナの指先は小陰唇を飛び越え、エクセレンに教えられた雌しべの先端へ一気に辿り着いた。途端にエクセレンが喘ぎ、太股がぶるぶると何度も痙攣している。
「ご、ごめんなさい!」
「んんっ…もう…もっと優しくしてよん…一番敏感なとこなんだから…ぁんっ!!」
 今度は親指と中指で、ピンク色の豆粒をそっと揉んでみた。蜜壺が大きく震え、壺の淵からとろりとした液体が溢れ出してくる。
「…っ!」
 レオナは我慢の限界に達していた。この蜜壺が、雌しべが自分の股間にもあるのだ。股間を押えていた手がいつのまにか自らの割れ目を激しく虐め始めていた。
「ぁ…んくぅ…はぁ…ひっ!!」
 風呂場の床にへたりこみ、エクセレンの股間から引いたもう一方の手を股間へと導く。
「はぁう! …っ!! あんっ…ああんっ!!」
 両手の指を己へ乱暴に突っ込み、蜜壺の中身をかきまわす。両手の親指の爪を使い、クリトリスを潰すようにこねくりまわす度、レオナの視界は何度も何度もホワイトアウトした。
「う゛ぁっ!! ひぁ! んぐ…あ゛っ!」
「ナ…レオナちゃん…レオナちゃんってば!!」
 気がつくと、レオナはエクセレンに抱き抱えられていた。涎が口の端から幾筋もこぼれ、涙があふれている自分がそこにいるのに気付き、レオナは自室での行為を思い出した。
「わ、私は…また…」
「やれやれ…自分に素直になるのはいいんだけど…これじゃまるでお猿さんよ」
「うぅ…ぐすっ」
 自らの行為を恥じ、そして悔いた。今ここに居るのはレオナという人間ではない…自慰に溺れた、汚いメスザルだ…そう思うと、涙がどっと溢れ出した。
「泣かないで…ね? オナニーは別にいやらしくもなにもない、しなくてはならない行為なのよ」
「でも…私…これじゃ…」
「大丈夫よ、私が教えて上げるから…ほら、泣かない泣かない…」
 エクセレンはレオナの頬に軽くキスをし、背中を優しくさすってやった。やがて嗚咽が小さくなったレオナを、湯船の際にあったスノコの上に座らせる。自分は先程レオナが座っていた椅子へちょこんと座り直した。
「私の言う通りやってみなさい…まずは、太股をゆっくりと開いて…」
「こ、こう…?」
 言われるがままに、レオナはおずおずと太股を左右に開いた。まだ咲き切っていない、彼女の花弁が露になる。
「そうそう、じゃあ次は…あなたのその花を、一度咲かせてみましょうか」
「…」
 エクセレンがやってみせたように、レオナは花弁に手を添えた。左右に花びらを押し分けていくと、雌しべと蜜壺がその姿を現す。
「わぁお…奇麗よ、レオナちゃん」
「お世辞は…よしてください」
「お世辞なんていってないわよ。本当に奇麗なんだから…タスク君ってば幸せものよねぇ」
「なっ…!!」
 レオナの脳裏に、タスクの顔が突如として浮かび上がった。彼女の顔が、まるで火でもついたかのように真っ赤に火照りだす。
「ふふ、やっぱり好きなんだ…タスク君のこと」
「だ、誰があんな男なんか!」
「あら、まだ素直になれてないのね…でも、言ってる事とやってることが全然逆よん」
「…っ!」
 レオナの両手は彼女自身の言葉に反し、ぐねぐねと花弁をこね始めていた。雌しべを潰さんとばかり、蜜壺の端が大きく撓む。
「あっ! 駄目駄目! 最初からそんなに激しくやっちゃ…さっきの二の舞いになっちゃうわよん!」
 エクセレンは慌てて椅子から立ち上がり、レオナの手首をつかんで無理矢理股間から引き剥がした。
「だって…そんな…こと…言われても…」
「仕方ないわねぇ…はいはい、もっと力を抜いて…」
 だらりと垂れ下がったレオナの手首をそのまま持ち上げ、乳房へかぶせるように置いてやる。更にその上から自分の手を重ね、ゆっくりとレオナの胸を揉みしだき始めた。
「…ぁ…んんっ…」
「どう…? 気持ちいい?」
「んぁ…気持ち…いい…です…あんっ…」
 レオナが落ち着いたのを確認すると、エクセレンは自分の手を離してみた。レオナの手はそのまま動き続け、豊かに実った乳房を優しく揉みくだいている。
「あっ…胸が…こんなに…んっ…気持ち…いい…っ…なんて…ふぁあ…」
「そう、そうやって気持ちよくなってきたら…ここで初めて、クリトリスを…そうそう…優しくしてあげるの」
 レオナの右手を掴み、改めて蜜壺へと導いてやる。野獣のような動きはすっかり身を潜め、赤子の肌を撫でるようにそっとクリトリスを弄り始めた。
「んくぅ…ああ…んっ…あんっ…ぁあ…」
「そう…よ…そのまま…」
 エクセレンはレオナの前に立ったまま、左手を自分の乳房へと伸ばした。
「ぁあん…ん…んんっ…」
「ふふ…っ…レオナちゃんのを見てたら…あたしまで…んっ…」
 エクセレンの胸の頂きは、まるでルビーのように固くいきり立っていた。それを指先で摘み、こりこりとしごきあげ始める。
「ん…んっ…すごぉ…いぃ…」
 お堅い事で有名だったレオナが、自分の導きで淫靡な声をあげているのだ。その声を聞き、艶めかしく動く身体を見れば見るほどエクセレンの体内を快感が駆け巡る。それはキョウスケとの行為では決して得られることのない、異次元の感覚だった。
「…レオナ…ちゃん…っ…ああ…」
 腰を抱いていた右手がついに股間へと伸びた。ぬちゅっと淫らな音をたて、膣口へ彼女の中指が差し入れられる。
「あんっ!」
 エクセレンが思わず床へしゃがみ込むと、その勢いで股間から蜜がたらりと糸を引いて落ちた。呼吸は乱れ、心臓が早鐘を打ち続ける。
「エク…セレン…?」
「レオナちゃん…」
 エクセレンはそのままレオナに擦りより、彼女の身体を抱き寄せる。
「もっと…もっと気持ちよくなること…教えてあげるわ…だから…」
「んっ…!」
 口唇が重ねて互いの身体を抱きしめ合ったまま、二人はスノコの上にその身を横たえた。

4話

 エクセレンの指が恥丘をなぞり、レオナの秘所へゆっくりと這い落ちていく。その間、レオナは何度も身体を細かく痙攣させ、喘ぎ声を漏らした。
「ねぇ、レオナちゃん」
「な…なに…んっ…」
「今まで自分でしたことって…なかったの?」
「そ、それは…」
 自分で明らかな性欲を感じたのは、トロイエ隊に入隊してからだった。己の体内にゆらめく疼きを抑えるのに酷く苦労した事もある。そのような事になったときは、トレーニングで体全体を虐めて無理矢理沈めていたのだった。
「ふぅん…じゃあ…」
 エクセレンの指先が、割れ目の上端で止まった。そのまま小陰唇を器用に拡げ、露出し掛かっているクリトリスを親指と中指で摘み上げ、それを包んでいる鞘をしごきあげる。
「あ…っ! そこは…っん!!」
「こういうのを他人にしてもらうのって、当然初めてよねぇ」
「私…は…ひっ!! んぁん!!」
 顔を覗かせているクリトリスの先端を、人さし指で軽くはじく。爪の先がひっかかるごとにレオナが悲鳴のような喘ぎ声をあげた。
「あ…あっ…あぁ…あん…んんんっ!?」
 レオナの唇が、暖かい何かで塞がれた。目を開けてみると、エクセレンの顔がいつのまにか眼前で僅かに動いている。
(私…キスされて…る…でも…こんな…気持ちいい…)
 エクセレンの舌が、レオナの口唇を割って入ってくる。唇の裏を舌先が這いずり回り、次に歯茎をくまなく探り始めた。最初はされるがままだったレオナも、より強い快楽を求め、自分の舌先をエクセレンの舌先へ触れさせる。
「ン…んん…」
「ふぅ…んむ」
 互いの口唇を密着させ、より複雑に舌同士を絡み合わせる。ぬるりとした暖かな感触が、レオナの下半身を更に熱くさせた。
(身体の芯が…熱い…)
「んっ!」
「っ…はぁ!」
 口唇を放し、息を整える二人。互いの口唇を糸のような唾液が繋いでいたが、エクセレンの荒い吐息がそれを断ち切った。
「中々の舌使い…じゃあ今度は…」
「…?」
 エクセレンは顔を上げ、そのまま後ずさった。レオナの太股を左右に開き、股間に顔をうずめる。
「そんなところ…一体何を…っ!?」
 スノコが大きくがたつく程、レオナは身体を大きく反らした。今までとは比べ物にならない快感が、股間から脊髄を通り、彼女の脳髄を一瞬にして貫いたからだ。
「ひぃあっ!! んんぁ!! あ゛っ!! ん゛っ!!」
 何をされてのか全くわからなかった。ただ、強い快楽が彼女の脳を貫くたびに意識が白く飛ぶ。
「ふふ…こんなに感じるなんて…こういうことをすると、更に大変な事になっちゃわない?」
 再び顔を自分の股間にうずめたエクセレンを見て、レオナは直感した。自分のあそこを舐められている…そう思った瞬間、彼女の脳裏に一人の男の顔がぼんやりと浮かび上がった。
(…タスク?)
 何故彼の顔が…? そう思った瞬間、今度は物理的な刺激が彼女の股間を貫いた。ずぶっという音が聞こえるぐらい彼女の感覚が全てそこに集中する。
「ふあっ! ……っ!!〜〜〜っ!! あ゛うっ!!」
 クリトリスからの感覚に加え、固い何かが彼女を貫いているのだ。その先端が身体の芯を強くこすり、そこから例えようのない快感がレオナの脳を”焼いて”いた。彼女の両腕は無意識に自分の乳房を強く揉み、固く尖った頂きを摘み回す。
「あっ! んんっ!! ひあっ…あっ…あん゛っ!!」
 レオナの脳裏に浮かんでいた男が、はっきりとその姿を現した。
(タ…スク…?)
 タスクは無表情のまま、彼女に近づいてきた。そして、その手は彼女の股間に伸び…
「ん…っ…あなた…が…あっ…タスク…欲し…い…」
 男の名前を口にした瞬間、彼女の感覚を焼き続けていた快楽の雨が止んだ。同時に、タスクの姿がゆらいだかと思うと、急激にその姿が薄れていく。
「何故…? どうして…どこへ行くの…待ちなさい…待って!」
 手を伸ばした先に、暖かい感触があった。思わず身体を起こし、その感触を抱きしめるレオナ。
「ちょ、ちょっとレオナちゃん?」
「嫌よ…行っては…お願い…」
「大丈夫? レオナちゃんってば!」
 エクセレンはレオナを引き剥がそうと肩を掴み、はっとなった。レオナの肩が、小刻みにワナワナと震えていたのだ。
 それは快楽によるものではない。
「タスク…タスクぅ…うぅ…」
 エクセレンは肩から手を離し、背中に回して優しくレオナを抱きしめた。
「レオナちゃん、大丈夫よ…タスク君はそんな薄情な男じゃない」
「でも、私…あんな事を言ったから…」
 レオナの力が緩んだ事を確認し、そっと彼女の身体を引き離す。そして、静かに接吻を交した。
「…お風呂から出て落ち着いたら、もう一度タスク君のお部屋を掃除してみなさいな」
「掃除…?」
「そうしたら、レオナちゃんが求めてるものが出てくるわよん」
 エクセレンが軽くウィンクを決める。いつもの仕草だが、レオナはそれに勇気づけられた気がした。
「はい…」
 レオナはふらふらと立ち上がると、シャワーを軽く浴びて身体を清めた。

「…ありがとう、エクセレン」
「どういたしましてん…続きはまた今度やりましょ」
「考えておきます」
「あまり背伸びばかりしてちゃ駄目よ?」
「…からかわないでください」
「ふふ、それでこそレオナちゃんだわ」
 レオナは踵を返し、風呂場を出た。残されたエクセレンが背伸びをし、自分の身体をぎゅっと抱きしめる。
「…やれやれ、本当に素直じゃないわねん」
「本当にね…でもエクセレン、それは貴女もじゃない?」
 聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。
「ラ…ラーダさんっ!?」
「随分とお楽しみだったようで…あまりにも長引くもんだから、サウナの中でミイラになるかと思ったわ」
 汗で肌に貼り付いた髪を、手で払いのけるラーダ。
「あの…いつからお聞きになられてました?」
「最初から最後まで全部。あそこまで想いをため込んでいたなんて、普段見てる私でも気付かなかった」
「後はタスク君の方がどこまで立ち回ってくれるか…」
「大丈夫よ、きっと。カチーナ達が上手くやってくれてるわ。ところで」
 エクセレンはぎょっとなった。ラーダのエメラルドグリーンの瞳が、見た事もないぐらい潤んでいる。
「途中で終わっちゃったみたいだけど…それってあんまりよねぇ」
「え、あの、その」
 エクセレンは後ずさりをしたが、数歩下がったところで風呂場の壁に背中がついた。
「さっきのを見てたら…私も…久しぶりに濡れちゃったのよね…」
「あ…」
 ラーダの視線に見据えられたエクセレンは、身体が動かなかった。逃げようという考えとは裏腹に、身体の芯が再び熱く燃え盛ってきていたからだ。ラーダがエクセレンに乳房を押し付け、顎をつと持ち上げる。
「大丈夫よ、こういう時にも生かせるアサナはきちんとあるから…」
「ちょ…待って…んっ!」
 ラーダとエクセレンは互いに手足を絡ませ、風呂場の床へ静かに転がった。
「さて…深層意識の欲望を開放するアサナは…」

 その次の日、エクセレンはげっそりとした顔で姿を現したが、彼女の口からその理由が語られることはなかった。

385 :タスク×レオナ 第4話(5/5):2008/02/19(火) 22:22:33 ID:pP78MjaX
「…改めて来てみたけど、タスクはこの部屋に戻ってきてないのかしら」
 エクセレンに言われた通り、レオナはタスクの部屋の掃除を再開した。タスクの部屋はあの出来事があってから全く手をつけられてないようで、彼女が”あれ”を発見した時のままだ。忌まわしい記憶を振り払うように頭を振り、ちらかったクローゼットを整理しはじめた。
「ん…?」
 クローゼットの棚に詰め込まれた服の固まりを取り出すと、固まりと一緒に小さな箱が飛び出してきた。
 レオナはそれを拾い、しげしげと正体を確かめる。
「これは…アルバム?」
 箱から取り出したものは、小サイズのアルバムだった。電子データで写真や動画を保存する今の世の中、銀塩写真の存在そのものが貴重なのだ。
「なんでこんな古風なものを…」
 アルバムをめくろうとした手がふと止まった。まさか、また私以外の女を…そう思った時、エクセレンが風呂で言っていた事を思い出す。
「これが…私の求めているもの…ってこと?」
 止まっていた手を、再び動かす。カバーをめくり、最初の写真が見えた瞬間、レオナの視線は写真に釘付けとなった。
「…私の…写真…」
 見覚えのない、自分の姿。カメラ目線も全くない…何時、誰に撮られたのか? いや、そんことよりも…
「笑ってる?」
 アルバムに収録されている彼女は、皆笑っていた。ページを捲るごとに、その表情は徐々に優しく、柔らかいものに変わっていっているようにも見える。
(私、こんな風に笑ってるんだ…)
 トロイエ隊にいたころは、自分から笑う事は滅多になかった。こんな風に笑うようになったのは…覚えがある…そう、彼に出会った頃から…
「レオナ…ちゃん?」
 背後から聞こえた声に振り返ると、そこには見覚えのある男が立っていた。
「タスク…」

5話

 レオナはアルバムを手に持ち、タスクに向かって立ち上がった。腰に手を回し、足を膝の辺りで交差させ、すらりとした仕草を見せる…タスクと問答する時に取る、いつものポーズだ
「タスク、これは何?」
「レオナちゃんの写真…」
「私が聞いているのは、そんなことではなくてよ」
 レオナはゆっくりと、アルバムのページをタスクへ見せるようにめくり上げていく。
「見事なぐらい、全部私が笑ってる顔。こんなもの、どうするつもりなの?」
 言葉を失い、立ち尽くすタスク。顔から生気がみるみる内に引いていく。
「…答えられないのね。どうせそんなことだろうと思ってたけど」
「レオナちゃん、俺は…その…」
「はっきりと答えなさい!タスク・シングウジ少尉!」
 レオナの目つきが険しくなる。
「ずっと、見ていたかった」
「は?」
 予想外の返答だった。きっといつものように、しどろもどろな返答をすると思っていたのだが、タスクは真剣な顔つきで答えを返してきたのだ。
「俺は、レオナちゃんの笑顔を…ずっとそばに置いておきたかった…」
「…」
 タスクが目を上げると、レオナの冷たい視線がもろに突き刺さった。
「べ、別にやましいことなんか、全然…考えてもなくてさ…ただ単に…」
「ただ単に?」
「レオナちゃんの笑顔ってさ…俺にとっちゃ可愛いとかそういうのを越えてて…」
「越えてて?」
「宝物…なんだ…」
「宝物?」
「ああ、そうだ」
 タスクは一瞬レオナの顔を見つめ、表情を少し緩めた。
「ほら、レオナちゃんってプライド高いし、高潔だし、俺の前で滅多に見せてくれないから、いろんな手を尽くして集めたのが…」
「これって訳ね」
 レオナはアルバムを閉じ、暫く間を置いてから…無造作にタスクの目の前へ投げ捨てた。
「な…なにすんだよ!?」
 タスクは慌ててアルバムの側に駆け寄ってしゃがみ込み、アルバムを拾い上げてホコリを払った。
「…く…くくく…」
「?」
 漏れ出した笑い声が、タスクの耳を包んだ。
「ふふ…ふふふっ…あはははっ!!」
「なんだよ…何が可笑しいんだよ!?」
「だって…これが笑わずにいられるもんですか」
 タスクは呆気に取られるしかなかった。レオナがここまで笑うのは、見るのも聞くのも初めてだったからだ。
「ふふふ…貴方は勘違いしているわ…タスク」
「な…っ!」
 夢の中で聞いた台詞を思いだし、タスクの背筋を冷たいものが駆け抜けた。
「私のプライドが高い? それで高潔…? くくく…っ」
「レオナちゃん…」
「貴方、本当に私の事をわかっていなかったのね…それでよく恋人だとか、大切なものなんて言えた事」
「なんだよ…一体…何が言いたいんだよ!!」
 流石のタスクも、このレオナの一言が琴線に触れたようだ。普段はレオナに見せない怒気をはらませた表情で、彼女の嘲笑を押さえ込もうとした。
「いいこと? これから、本当の私を見せてあげる」
「本当の…?」
 立ち上がりかけていたタスクだったが、レオナからただならぬ雰囲気を感じ、再びしゃがみこんでしまった。
「そうよ、これが…」
 レオナはスカートの裾に手をかけ、そのまま裾をめくり上げていった。
「ちょ…レオナちゃん…!?」
 タスクの目の前に現れたのは、レオナの生まれたままの姿の下半身だった。真っ白な肌の谷間に埋もれた、金色の陰りにタスクは目を奪われた。
「もっとよく見なさい、タスク」
 レオナの言葉で我に返ったタスクは尻餅をついてしまった。そのままの体勢で後ずさりしながら、片手で視線を遮ろうとする。
「何で履いて…ないんだよ!?」
「そういったところから勘違いしてるのよ、貴方は…」
「意味がわかんねぇよ!」
「どうせ私が、高級な下着でも着けてるとか思ってるんでしょ?」
「…まさか」
「まさかも何もあったもんじゃないわ」
 レオナは上着を片手で器用に弄り、右胸をはだけさせた。
「!」
 上着のみで押え付けられていた豊かなバストが、縛めを解かれた勢いでぷるんと弾け出る。つんと上を向いた桃色の頂点が、レオナ自身の手で摘み上げられた。
「んっ…」
 ぶるっと小さく身体が震わせ、目をつぶって恍惚の表情を浮かべるレオナ。
「レオナ…?」
「ん…あぁ…」
 摘んだ指を一旦離し、手の平でたわわな果実を包み込んだ。そのまま果実をゆっくりと揉みしだき始めるレオナ。
「…っ…ぁ…まだよ…目を逸らさないで」
 レオナは乳房とスカートに手をかけたまま、タスクの背後に回り込んだ。タスクもその動きにつられるかのように体勢を反転させる。
「そうよ、いい子だわ…」
 レオナは両足を肩幅より少し広めに拡げた、ドアに身を預けるようにもたれかかった。
「…」
 タスクは固唾を飲んで、彼女の一挙一動を見守るしかなかった。目を逸らそうにも、彼の男としての本能がそれを拒否しているのだ。そんなタスクの眼前で、レオナはスカートを脱ぎ捨てる。
「これが…本当の私…」
 ぱさりと乾いた音を立て、スカートが床に落ちた。自由になった片手が太股に沿ってじわりじわりと金色の茂みへ上っていく。
「…ああっ!」
 指が茂みの中に入った瞬間、レオナの喘ぎ声がタスクの部屋に響き渡った。太股を一瞬閉じて身体を大きく奮わせた後、再び大きく太股を開きなおす。
「も…もっと…近寄って見て…」
 タスクは言われるがまま、レオナに身体を寄せる。
「あ…あん…あぁ…んっ…んんっ」
 淫らな水音をたてながら、レオナの指が割れ目の中をかきまわすように動いていた。時折はみ出る指先が、部屋の照明を反射してテラテラと輝いている。
「私は…貴方の思ってるような…んぁあっ!」
 ひくひくと動いている陰唇を片手で拡げ、深く突っ込んだ指を外へ出し、また再び蜜壺の中へと差し入れる。その度にレオナは何度も身体を痙攣させ、下半身を上下左右に小さく振った。
「人前で……濡れるような女が…」
 膣口と指先の間で引いていた糸を追いかけるように、透明の粘液があふれ出てきた。レオナは更に指を差し込み、蜜をかきだすように動かす。
「んっ…痴態を晒す…ああっ…女が…」
 指でかきだされた愛液が、そのままの勢いで床に滴っていく。
「私は…私は高潔でも…あん…なければ…プライドも…あ゛っ!!」
 一際大きな喘ぎ声を響かせたレオナ。彼女の親指と人さし指が、クリトリスを摘み上げている。
「ひぁ…んぁ…ああんっ…」
 彼女のもっとも敏感な場所を覆っている鞘を摘み、乳房を弄っていた片手を下ろして股間に添える。
「タスク…あなたの思っているような…んくぅ…女…ああっ…じゃ…」
 身体を奮わせる度、彼女の乳房が細かく揺れた。ぐちゅぐちゅと音を響かせながら、レオナは更に自分を攻め立てていく。
「俺は…」
「だまりなさい…っ…ああっ…最後まで…んんっ!!」
 タスクは呆然と相方の行為を見るだけだった。彼の中で、何かが音を立てて崩れていく。
「ひぃ…あ…んっ…何かが出て…あっ…」
 指の動きがどんどん激しさを増していく。それに従ってレオナの声が、タスクも聞いた事がないようなうわずった喘ぎ声に変わっていった。
「あ゛っ…! んん゛っ…い…いぐっ…あああっ!!!」
 レオナは一瞬身体を硬直させた。間髪おかずに彼女の割れ目から、暖かな潮が噴出する。
 がくがくと身体が揺れ、噴出された潮が撒き散らされた。
「…っ!?」
 ぱたたっと湿った音をたて、潮が床のスカートを濡らした。彼女の手にふりかかった潮の飛沫が、タスクの顔面にも飛び散っていく。
「レオナ…」
「んぁ…はぁ…はぁぁ…」
 レオナはドアにもたれ掛かったまま、ずるりと床に座り込み、そのまま果てた。

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