トレイラー<ヴァルストークファミリー>の母艦にして、家でもある武装輸送艦ヴァルストークの食堂。
 かつては――
 <鷹の目>とあだ名される父/ブレスフィールド。
 その子供である長女シホミ、次女アカネ、息子カズマ、末娘ミヒロ
 そして、ブレスフィールドを崇拝する。<ヴァルストークファミリー>唯一、血族ではないホリス・ホライアン。
 ――の六人だったのが。
 偉大なる父、ブレスフィールドが死に。
 カズマの半年にも渡る家出の後。
 今では家族が四名増え、計九名の家族が集う食堂は、以前より賑やかになっていた。
 カズマは喧嘩できる兄妹が増えたことに、表面上煩がり、内心喜び。
 ミヒロは新しい姉からの溺愛に辟易とし。
 シホミは社長代行業に頭を抱え。
 アカネは…………

 そんなある日のこと、

「ふと、思ったんですが」
 アカネが作ったハンバーグなのかマヨネーズなのか分からない料理を食べながら、ホリスが不意に言った。
「――いえ、以前から考えていたことなんですが」
「なんだよ、もったいぶって」
 ――と、カズマ。マヨネーズとハンバーグを分けながら。
「レギュレイトさんとお会いした頃からなんですが、最近のミヒロさんを見ていて確信しました」
 名前を呼ばれ、レギュレイトはたおやかな動作で
「はい?」
 と応え。
 アリアの膝の上に乗ったミヒロは、なんだろう? と眉をひそめた。
「アーディガン――カズマのお母上の家系は、基本、胸がふくよかなのだと」
「……あ?」
 突然の――そして、予想もしない答えに、カズマはしばし呆然とし。緩やかに、視線を巡らせる。
 母と瓜二つのレギュレイト、母似のシホミの胸にぶらさがる釣鐘。
 下着をつけていないのか、それとも胸が強調されるような服を着ているからか、揺れているのがハッキリ分かる
アリアの生意気そうなおっぱい。
 来年十三になるミヒロ、少し前まではまな板だった胸は。ブラジャーが必要になるくらいには豊かになってきている。
 そして――
 家族の視線が、ほぼ一箇所に集まる。
「なっ、なによ。あんたたち」
 見られている側――アカネが声を上げた。/その声に、ホリスの声が重なる。
「つまり、アカネさんの胸はブレス艦長の血が色濃くでたから、ということではないかと。そこのところ、どうなんでしょうか?」
 僅かな沈黙

「……いや、ブレスフィールドの母は、記憶が正しければ小さくはないな」
 ――破ったのはアプリガント。
 ホリスはおやと呻き。
「では、アカネさんは」
 その先、ホリスがなにを言おうとしたかは、ホリスと飛んできたマヨネーズのボトルしか知らない。
 マヨネーズをホリスに投げつけた張本人/アカネは顔を紅潮させ。
「馬鹿ホリスッ!!」
 と、叫ぶや、荒々しい足取りで食堂から出て行ってしまった。



 ――三時間後。
 こんこん
 短いノックの音が、アカネの部屋に響いた。
「……起きてますか、アカネさん」
 扉越しのホリスの声。
 布団に潜っていたアカネは飛び起き、飛び起きた自分に少しだけ腹が立った。
(これじゃまるで、あいつを待ってたみたいじゃない)
 少し悔しかったため、直ぐには応えないことにした。
 みんなの前であんなことを言ったのだ、少しは私の怒りを知りなさい――無言の意思表示。
「アカネさーん……おや、寝てしまったんでしょうか」
 ホリスの残念そうな声――アカネ、内心ほくそえむ。
 その後も、ホリスは三度呼びかけてきたが。アカネは応えないでいた、すると。
「仕方ない、では諦めることにしましょう。仲直りは」
 その言葉に、アカネの唇が反射的に開かれた
「あっ」
 という形に。
 そして――

 ――様々な逡巡と迷いの結果、ホリスの足音が決断させた。
「……起きてる」
 立ち去っていく足音を止めるため、ベッドから抜け、部屋から出――ぶつかった。
「いてて……」
 てっきり立ち去ったと思っていたホリスが立っていたのだ。
 いったいどういうことかと、アカネが驚いていると。ホリスはその場で足踏みしてみせた。
「……あ」
「どうしたんですか、アカネさん」
 微笑むホリスがなにより憎たらしかった。
 仲直り。二人の符号。
 いつのころからか、どちらとも無く言い出した暗号。暗喩。
 皮肉の利いていない、子供じみた言葉遊び。簡単なロジック。
 蜜月の二人がする自然な行為。
 猫背気味の巨体を縮め、彼女の用意ができるまでの時間を作るために、ちまちま服を脱ぐホリス。
 パンツを脱ぎ、靴下を脱ぐのを見計らっていたように声がかかった。
「いいよ」
 弱気な声。まだ両の手に至らない行為の回数を示すような。
 ホリスはいつもと変わらぬ顔で振り返り、口元を緩めた。
「なに? ニヤニヤして」
 呆れたような、けれど楽しげにアカネが問う。
 ホリスは口元を手で覆い隠し。
「いえ、いじらしいものだなと思いまして」
「?」
「既に何度か見させているというのに。まだ恥ずかしいのだな、と」
 ホリスの迂遠な――ある意味挑発的な言葉。
 アカネは首を傾げ、直ぐに思い至る。
「これは、別にそういうわけじゃ」
 身体をくるむ、薄手の掛け布団をぎゅっと手繰り寄せ、反論――途中で方針転換。
「あんたが、私の体のこというから」
 言葉の意味に顔を赤めながら。
「……私だって少しは気にしてるのよ…………結構」
「体のこと? はて? なんでしょうか?」
 そうとぼけるホリスに、アカネは身体を縮め、しかし声は強め。
「胸のことよ」
 と応えた。
 しかし、ホリスは首を傾げ。
「はて、わかりませんね。アカネさんの胸について、私、なにかいったでしょうか? 
思い出せないので、出来れば見せていけませんか」
 かしこまったものいい。
 ちょっとしたお遊び。ままごとのような言葉のじゃれあい。
 アカネは小さく
「馬鹿ホリス」
 と呟きながら、掛け布団を掴んでいた手を離した。
 上半身が露になる。
「ほう」
 ちいさなホリスの呟き。
 アカネは俯いてしまった。
「そんなに見ないでよ」
 ホリスが静かに歩み寄り、アカネの隣に座る。
 耳元で
「ここだけの話ですが。私、気が強くて胸の小さい女性が好みなんです」
 囁く。
「あと、脚が綺麗で、口より手のほうが先にでるような。ああ、そうそう。その上、輸送艦の砲撃手で次女だったらたまりません。
その上、アカネという名前なら文句はありません」
 アカネの父親並みに太い腕が、アカネの腰を抱く。
 似ていない。尊敬すべき父親とはまったく似ていないのに、その包容力に心を委ねてしまうのは何故だろう。
 気づかれないように、身体を寄せる。
 ホリスの軽口を聞きながら。暖かな厚い胸板に頬で触れる。
「そんな女性を知りませんか?」
「……馬鹿ホリス」
 呟きは胸に溶け、アカネはじゃれるようにホリスの胸板に頬を擦りつけながら、顎を上げた。
「ここにいるよ」
 なんて言葉は、言えない。代わりに
「胸の大きな子は嫌い?」
 問う。
 ホリス――無言で顎を振る。
「ならさ、手伝ってくれる?」
「……何をですか?」
「私の好きな人はね。いつも、胸の大きな子のことばかり見てるし。ことあるごとに私の胸が小さいって言うんだけど」
「ほう。それはそれは、女の敵のような奴ですね」
「ふふ…そいつのためにもさ、胸、大きくしようと思ってるんだけど」
「健気なことですね、全く。その男が羨ましい」
「手伝ってくれない」
「はて? なにをです?」
「胸、大きくするの。揉むと…大きくなるらしいよ」
 言葉と顎へのキスで求める。
 ホリスは頷き、アカネの唇に自らの唇を重ね。
 それから、アカネの腰を掴み、華奢な身体を持ち上げると、自らの上に乗せた。
 対面する二人。
 再びのキス。
 僅かに漂うマヨネーズの酸味に、二人は言葉を乗せる。
「硬くなってる」
「少し湿ってるようなきもしますが、まあ気のせいでしょう」
 言い合い、好い愛う言葉に、くすくすと笑い合う。
「キスして」
 アカネの言葉。
 言われたホリスは従者のように従おうとする、そこへご主人様の更なる言葉。
「口じゃなくて、ね」
「分かってますよ」
 まるで分かっていたかのよう。
 ホリスは体を縮め、吸い寄せられるようにアカネの乳頭にキスをした。
 小ぶりな乳房に似合った、ツンと尖った乳首を舌で触れる。
「あっ」
 漏れる微かな声。
 自分で言っておきながら、分かっていながら、堪えられない小さな呻きと喜び。
 彼が吸いやすいようにと、ない胸を自らの手で寄せる。
 乳首だけといわず、小さな乳房が吸われ。男の唇で甘くはむはむと噛まれる。
「あかちゃんみたい」
 呻き声を隠すような挑発に、ホリスは笑った。
「……アカネさんが母親ですか」
「なに、悪い?」
 水音を断続的に、わざとらしくたてながらホリスはアカネへ言う。
「後数年は無理でしょうね」
「なんで。あ、そこ。もうすこし、強く……ン」
「簡単な…話ですよ。こうですか? …もう少しの間、独り占めにしておきたい。貴女のことを」
 甘く優しい軽口にアカネは、いつも簡単に載せられてしまう。
 それは、アカネがホリスに好意を抱いているから。
「ホリス……」
「いえ、冗句ですが」
「――ホリスっ」
 だから、ホリスも安心してアカネに軽口を言える
「私も、早くアカネさんの子供が見たいですよ。父親として」
「………ホリス」
「――となれば、ことは簡単です。トレーラー心得『膳は急げ、据え膳喰わぬは男の恥』です」
「……そんなの、あった?」
 首を傾げるアカネ。
「有りますよ。それより、もう入れても構いませんよ」
「いいの……って、それじゃまるで私が早くいれてほしいみたいじゃない」
「――え?」
「え、ってなによ。えって」
「いえ、てっきり。下腹部をこすりつけてきているので、早く欲しいのかと思っていただけです。
そうですよね、もう少し愉しんでからでも」
 ホリスの言葉は、自分の体がしていたことを理解してしまったアカネの悲鳴によってかきけされた。
 どうやら、無自覚だったようで、アカネは両手で顔を覆うと。
「別に、これは、その」
 目がぐるぐるまわる、思考も高速バレルロール。顔は瞬間湯沸しで沸かしたように。
 ホリスはそんなアカネを見守りながら、掛け布団の中に隠された陰茎に触れた。
 自らの物か、アカネの物か、充分過ぎるほど濡れていた。
(一週間ぶりだから、ということでしょうか)
 艦の修理補修中は時間が作れずなかなかする機会がなかった。
 だから、アカネを怒らせ、他の家族がアカネの部屋に近寄らないようにし。こうして訪れたが、間違っていなかったようだ。――ホリスは安心し、
「アカネさん、お困りの途中申し訳ありませんが」
「だ、だからね――って、困ってないわよ。ていうか困らせたのはあんたじゃない」
 支離滅裂な言葉に、ホリスは頷き微笑む。
「そろそろ我慢できそうにないので、してもかまわないでしょうか」
 その言葉に、アカネの動きが停まり――
「うん」
 おずおずと頷いた。
「では」
 掛け布団の中、ホリスの手がもぞもぞと蠢く。
「少し、腰を浮かせてください」
「あ、うん」
 ホリスはアカネの割れ目を押し開くと、
「――ひっ」
「なんですか、その声は」
「だ、だって、なんでそんなゆっくりなのよ」
 ホリスはああと頷き。
「今、私が下ですよね。下側が動かすのは大変なんです、できれば上のアカネさんが動いてくれるとありがたいのですが。下側が無理に動くと、腰を壊します。ええ、間違いなく」
「そうなんだ……」
(嘘ですけどね)
「……分かった」
 アカネは頷くと、ホリスの肩に手をつき。
「う、動かすよ」
「お願いします」
 ゆっくりと、アカネの緊張そのままなペースで、張りのある尻が降りていく。
 ゆっくりと、アカネの中へ招かれるホリス。
 すこしずつ、ホリスの陰茎が入ってくる。
 まず感じたのは異物感、それは愛液によってまどろみ、直ぐに馴染んでいく。
「ね、ねぇ…いま、どこまで入った?」
 アカネは真っ直ぐにホリスを見つめる。少し涙目で。
「半分くらいといったところでしょうか、後一息です」
 その言葉に驚いたのか、アカネは
「こんなに長かったっけ」
 ホリスは、笑えばいいのか、照れればいいのか、どうしたらいいのか分からず。
 とりあえず。 
「私の陰茎は、まだ少し伸びますよ」
 冗句で返した。くだらない。どこまでも、ただの悪ふざけな。ただの冗談。
 それでも
「う、うそっ」
 信じてしまうアカネを見ると、ついついそんな軽口が楽しくなってしまう。
「興奮の段階に応じて、伸び縮みするんですよ。だから、頑張ってください」
「わかった」
 その言葉通りに、アカネの腰が近づいき――密着する。
 アカネは切ない吐息を漏らした。
 膣の中一杯の陰茎を出すのを惜しげに、腰を左右に揺らしながら、ゆっくりと抜く。
 まず一往復。
 くわえこむのは素早く。
 出すのはゆっくり。
 それも、回数を重ね、愛を交わし、快感を共有しているうちに変化。
 先端だけをくわえ込み、弄繰り回し。
 かと思えば、深くくわえこんだまま、短い間隔で、ハイペースにピストン。
 ただ、どの動きも熟達しているというわけではなく。
 ひたすらガムシャラ、とにかくチャレンジ。
 ホリスの顔を見つめながら、或いはキスを交わしながら。
 どうすれば気持ちいいのか探る、探る、探る。
 じゅぱ、じゅぱ、じゅぱっ。
 強い吸い付き、熱い抱擁、切ないまでの情熱。果てなどこなければいいという程に、互いを欲し、互いに与え、互いを知り尽くしていく。
 目が眩むほどの快感。
 昇りつめていく感覚。
 二人のほかになにもない、暗黒と閃光が重なる。
 情熱がままに求め合う。
 昇り、暗い、喰らい、咆哮/cry―cry―cry―cry
「――っと」
 そして訪れる――
「もっと、もっとォッ!!」
 ――圧倒的な、快感。


 www

 ――翌朝。
 
 結果的に一晩中、当然のごときその結果に、アカネは後悔を感じていない。
 なんだったらもうワンラウンドくらい……
「おはよう」
 背後から声をかけられ、振り返る。
 立っていたのは
「ああ、姉さん。おはよ」
 いつもと変わらない、穏かな姉――あれ?
「クマできてるよ、徹夜したの?」
 アカネがそういうと、シホミはゆっくりと微笑み
「昨晩はおたのしみだったわね」
「うっ」


えんど

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