リョウトがヴィレッタに愛を告げ、ヴィレッタがそれを笑顔で受け入れてから数ヶ月が経過したある夜の事。
「ヴィレッタさん」
うつ伏せになり、リョウトからの子猫を可愛がるが如き優しい愛撫を受けて夢心地になっている最中に、不意にリョウトから声をかけられて、ヴィレッタは「ふぁ」と子猫のくしゃみの如き声を出した。
いつもならば決して見せるはずの無い醜態に頬が赤く染まる。
リョウトには気付かせまいと枕にぎゅうと顔を押し付けるが、透き通るように白い肌のヴィレッタでは、多少赤面しただけでも顔以外の部分に出るものらしい。
押し殺した笑い声を漏らすリョウトに耳たぶや項をそっと撫でられて、ヴィレッタは顔を枕に押し付けたまま「ぅぅ…」と悔しそうに小さく呻いた。
「もう少し力を入れた方が良いか訊こうとしたんですけど…調度良いみたいですね」
リョウトは悪戯っぽくくすりと笑った。
ヴィレッタはそんなリョウトの態度に腹立ちを覚える一方で、微かな満足感も覚える。
リョウトとヴィレッタが最初に行為に踏み切った時等、リョウトはヴィレッタに触れられただけでガチガチに固まってしまったというのに、今では女豹を子猫にしてしまうほど慣れた手つきでヴィレッタの体に触れているのだから。
これも自分の教育の賜物であろう、と心密かににんまりと微笑む。
「私はこのままでいいけれど、我慢できないのなら…」
「貴方の好きにしなさい」と続けずにヴィレッタは口を閉ざした。
そこから先は言うまでもなく理解できるであろうし、どの道リョウトが自分から仕掛けることなどまずないと思い出したからである。
2人が肉体的な関係を持つようになってから随分と経つが、未だリョウトからほとんど性的なもののない優しい愛撫以上の行為を仕掛けてきた事は無い。
任務上已む無くではあるが少なくは無いヴィレッタの男性履歴を照らし合わせても例のない事で、自身の肉体に自信を持つ彼女にとっては少しだけ屈辱的なことである。
だが、いくら体を重ねても残っているリョウトの初心さに、そしてただヴィレッタと心休まる一時を共有する事を重視している彼の優しさに、少なからず惹かれているのだろうと思うと、不思議と腹は立たなかった。
案の定、今日もリョウトはヴィレッタをあやす事を選んだらしく、何も答えずに優しい手つきのままヴィレッタの背中を撫で擦る。
(もう少し積極的でも良いのにね)
苦笑しながら胸中でそう呟きつつも、心地よさに耐えられず、ヴィレッタの意識は再び夢の世界へと踏み込もうとしていた。
「ヴィレッタさん…」
またしてもリョウトの突然の呼びかけに、夢の扉に手をかけていたヴィレッタの意識は急速に現実へと戻る。
今度は妙な声を出さなかった事を内心安堵しつつ、先程と同じリョウトの呼びかけと動きを止めない指から、先程とは異なる緊張を含んでいる事を耳と肌で感じ取り、ヴィレッタは首をそれと分からないほどに小さく傾げた。
(もしかして、本当に我慢できなくなったのか?)
淡い期待と共に初めて男に抱かれるような錯覚すら覚えて恐る恐るリョウトの方に首を曲げる。
ヴィレッタが起きている事を確認したリョウトは、何やら決意した様子でごくりと息を呑んだ。
「ヴィレッタさんは、僕の事どうお思いですか?」
「可愛い」
即答した後、脱力して「はぁ」とため息を吐く。
(期待した私が馬鹿だった)
そう思う一方で、酷く安心している自分に気が付く。
(矛盾、だな)
ヴィレッタが自嘲染みた笑みを浮かべる一方で、リョウトはヴィレッタの返答が気に入らない様子であった。
「茶化さないでください」
「茶化してなどいない。本気よ」
リョウトは絶句した後、恥ずかしそうに顔を俯けて頬を指で掻く。
顔を隠したいところなのであろうが、リョウトはうつ伏せのヴィレッタの横に座っているのだから、下から見上げるヴィレッタにとっては大した差は無い。、
「ですから、僕の事を男としてどう思っているか…」
やはり恥ずかしいのだろう。
先程より小さく囁くような声になっている。
「やっぱり、可愛い男の子だな」
ヴィレッタはまたも即答した。
この返答に流石にリョウトの気恥ずかしさも薄れてきたらしい。
不機嫌そうな視線をヴィレッタに向ける。
…怒ると怖いが、このくらいだと中々に可愛い。
「もしかして、分かって言ってません?」
「言わずもがなの事を言わせようとするからよ」
既に男と女の関係でありながら、「どう思っている?」も無いものだ、そう思い、ヴィレッタは呆れたようにまたもため息を吐いた。
「でも…」
リョウトは萎縮しつつも食い下がろうとするが、ヴィレッタはにべもない。
「言葉なんて、使えば使うほど空虚になっていくものよ。殊に、愛を告げる言葉はね」
「ですけど…」
「…言いたい事があるならはっきりと言いなさい」
厳しい調子のヴィレッタの言葉に、リョウトは涙目になりながら叫ぶような声を出した。
「だって、僕、まだ一度もヴィレッタさんから好きだとも愛しているとも告げられて無いんですよ!」
と。
リョウトの言葉がちくりと心に突き刺さる。
言えない理由は、分かっているのだ。
瞑想するように閉じた目蓋に1人の男の姿が浮かぶ。
(イングラム…)
決して忘れる事の出来ない人、ヴィレッタのたった一人の家族。
己を縛る枷も、他人の定義に当てはめられる事も嫌い、ただ、望むままに己の分身たるヴィレッタを愛した男。
少なくとも地球人の倫理に当てはめれば決して一般的ではないイングラムの愛し方を、ヴィレッタは何の抵抗もなく受け入れた。
彼を受け入れられるのは、彼の分身である自分しかいないと少なからぬ喜びと共に自負していたから。
そして、ヴィレッタは今も彼の事を―
(愛して、いる)

つきん

胸を刺す痛みと共に感じたのは、甘い記憶と未だ衰えぬイングラムへの思慕。
そして、目の前の少年に対する罪悪感。
過去と現在の想いが混ざり合って膨張し、心が内側から破裂しそうになるような苦しさを紛らわすように上半身を起こし、シーツで胸を覆ってリョウトを見据える。
「貴方は…?」
「え?」
「貴方は、私の事をどう思っているの?」
自分の出した質問をそのまま返されて、リョウトは微かに恥らうように、それでも自信に満ちた顔で囁く。
「愛して、います」
「そう」
そっけなく返す言葉に羨望が混じる。
素直になれない心の内で罪悪感が暴れまわる。
それでも、決意と覚悟を胸に遠くに投げたフリスビーを拾ってきた子犬のような顔をするリョウトの顔をじっと見据えて口を開く。
いや、開こうとした。
「私も…」
膨れ上がった罪悪感のはけ口に初めての言葉を囁きかけようとしたヴィレッタの胸を鋭く、刺すような痛みが襲う。
喉がひりひりと痛み、出かかった言葉が急速に萎む。
「ヴィレッタさん、お加減でも…?」
おねだり顔もどこへやら、心配そうに声をかけてくるこの少年を裏切るのが恐ろしくて、イングラムへの想いを振り払うようにリョウトに飛びつき、唇を塞いだ。
「ん…」
「んんっ!?」
リョウトの口から出かかった抗議の声を押し込むように舌を彼の口内に侵入させ、舌や歯肉、頬の内側を舐り尽くす。
「あ…はぁ…」
「ふぅ…」
リョウトの体から力を抜けるのを感じ取り、ゆっくりと体重をかけて押し倒し、官能に染まった熱い息を吐きながら顔を離した。
「また、言ってくれないんですね」
頬を染めながらどこか寂しそうなリョウトの呟きがまたもヴィレッタの胸を貫く。
痛みを押し隠し、無理に微笑みながらヴィレッタはリョウトの顔に、体にキスの雨を降らせた。
「ちゅ…ちう」
「!……んん」
唇と舌が開発中の性感帯のどれかに触れたのか、女の子のような押し殺した喘ぎ声が響く。
リョウト本人も気にしているその声は思わずからかいたくなるほど可愛らしいものであったが、告白も無しに押し倒されたのがよほど腹に据えかねたのか、拗ねたような顔つきで顔を背けるリョウトにこれ以上機嫌を損ねられるのも不本意で、少しでも彼の機嫌が直ればと、口での愛撫を続ける。
目についたのは、ヴィレッタが以前から念入りに開発している薄いピンクの小さな突起。
「…んむ…ちぅぅ」
「あぅ…ッ!」
しっかりと筋肉を纏ったリョウトの胸で、2箇所だけ敏感なそのうち1つを指で押し潰さんばかりに強く抓み、もう1つを口に含んで強く吸い上げながら舌で弄ると喘ぎ声は一層高くなる。
「ひぃうぅぁっ!」
かり、と犬歯で強く噛みつつ先端を舌でつついてやると、一際高い声を出してリョウトの体がびくりと震えた。
(…軽くイったか)
リョウトの反応の敏感さに自分の調教の成果を満足げに見つめ、表情に悔しさが混じる頬をぬろんと舌で舐めあげ体に手を這わせる。
次なる目標はー
「っ痛!」
トランクスの上から股間の一物をぐいと掴み、反射的にリョウトが腰を浮かせるや、トランクスを一気に引き降ろすと、既に戦闘態勢になった肉の棒がぶるんと勢い良く飛び出し、腹筋にぶつかりぺちりぺちりと音を立てる。
(…しかし、何度見ても…)
ぬらりと鈍く光って硬質感を与える亀頭、耳をそばだてれば血が流れる音が聞こえてきそうなほどに脈打つ肉茎、外見的特長だけでもグロテスクでリョウトには似つかわしくないのに、彼の場合、人並みはずれて大きいのだ。
全く以って持ち主とは不釣合いなその威容に畏怖すら覚えてごくり、と唾を飲みながら、彼をその身に初めて受け入れた時の痛みと快楽を思い出して眉を顰めながらもにんまりと微笑む。
「あんまり、まじまじ見つめないでください」
不機嫌そうなまま注意され、照れ隠しに肉棒を指でぺちんと弾く。
「ぁん!」
リョウトの甲高い悲鳴に嗜虐心を掻き立てられつつ、手を肉棒に這わせると、常人より体温の低いヴィレッタの指は、只でさえ敏感な上に熱を持つそこには体の他の何処に触れられるよりもはっきりと感じられるのか、リョウトは「くぅ」とくぐもった呻き声を出した。
「拗ねているようでも体は正直ね。いつもより硬くなってない?」
ひどくオジサン臭い台詞であるとこっそり嘆息しつつも、その言葉でリョウトが顔から火が出るほどに赤面しているのを見れば満更悪い気分でもない。
「声、出した方が楽よ」
リョウトがその言葉に反応するよりも早く、ヴィレッタはぎゅっと肉茎を掴んだ。
「ううっ!」
親指の腹を先走り汁があふれ出る亀頭の先端にぐりぐり押し付けながらしゅりしゅこと擦るように優しく、引っ張るように強くしごきあげると、リョウトの熱い部分は今にも破裂しそうなほどにびくん、びくんと震えては、硬度と光沢を増していく。
この手の中で今にもリョウトが尽き果てようとしている、普段ならそれだけで己を昂らせる事も出来るのだが、相も変わらず快楽を必死で押し殺し苦痛にも似た表情を浮かべるられてはちくりちくりと胸が痛む。
が、すぐに淫靡に微笑むと、剛直を掴んだ手の動きはそのままに、彼の耳元にそっと顔を寄せた。
「素直に気持ち良いって言わないと、手以外使わないわよ」
これまた酷く悪趣味な言葉ではあったが、ヴィレッタによって性感を必要以上に敏感に開花させられ、彼女の口の、胸の、脚の、その他、それ自体口にはし辛かったり、口には出来ても普通はそういう事には使用しない様々な部分の魅力と威力を知り尽くしたリョウトには決して抗えない淫魔の誘惑のはずだったのだが、
「自分は言わなかったくせに」
視線を合わせようともせずにぽつりと呟く。
よほど根に持っているらしい。
「ふぅん。ま、どこまで我慢できるかしら」
無理に笑みを作って手淫を続けるヴィレッタではあったが、リョウトの硬化した態度への戸惑いは自然、動作にも作用する。
本来ならばとうに逝き果て、白く濁った快楽の証をその先端から尽きることなく吐き出させられる程に手淫を続けているのに、リョウトの分身はギリギリの限界で踏み止まったままその先に逝こうとしない。
(イングラムでも、もう尽き果てたでしょうに)
自分のイングラムへの奉仕を、そしてヴィレッタ同様、冷徹なイメージすら与える外見にそぐわぬイングラムの熱情的かつ嗜虐的な愛し方を思い出し、笑みがぎこちないものから微かに照れを帯びた自然なものへと変わる。
余人なら決して気付かないであろうその変化を、顔を背けてのわき見でありながらもリョウトは見逃さなかった。
「っ!!」
「え…っきゃ!?」
体に力を込め、回想にかまけて手の動きが疎かになったヴィレッタごと転がって互いの位置を入れ替える。
両肩のすぐ上に手をついて押し倒される格好になり、虚を突かれて可愛らしく悲鳴を上げたヴィレッタの表情に動揺が浮かぶ。
(彼から仕掛けることなんて今まで無かったのに)
予想外の事態に、そしてリョウトの真っ直ぐな視線に体が強張る。
「貴女は…」
「何を…」
ぽつり、と小さく呟いた言葉が聞き取れず、聞き返そうとしたまさにその時、リョウトの熱く、硬く、限界ギリギリまでに膨れ上がったそれがヴィレッタの一番敏感な部分に押し当てられた。
「いきます」
「リョウト、待っ…ひぃ…ああああッ!」
制止の声も聞かずに大きすぎる剛直を強引に、一気に捻じ込まれ、
乗り気で無いリョウトへの奉仕に徹して十分に体と心の準備の出来ていなかったヴィレッタは苦悶と快楽の混ざり合った叫び声をあげた。
何度も突き込まれると、女陰が濡れそぼり、一時の緊張を脱して緩くなりかけた括約筋は快楽を求めて自発的に引き締まる。
欲望を吐き出すか出さないかの限界近くまで昂らされたままではヴィレッタの肉壷の感触はあまりに刺激的であろうに、尚もリョウトは激しく幾度も腰を打ち付け、ヴィレッタはその度に体を震わせた。
「うぅっ、あ…はぁ」
「はぁっはっは…」
止まる事の無い快楽だけでなく、受身に徹してただ快楽を享受するという久しく味合わぬ悦びに、心が焼かれて意識がぼやける。
(こんなの、いつ以来…)
思い出すのはまたも彼。
しかし、快楽に溺れたヴィレッタには、もはやそれを心の奥底だけに封じ込めておく事はできなかった。
「いんぐら…むぅ…」
ぴたり、とリョウトの動きが止まった。
ぼやけた意識のヴィレッタは、何が不味いのかも分からずに、更なる快楽を求めて動きなさいと言わんばかりにリョウトの腰に手を回す。
一瞬の後、
「うわああぁぁッ!」
「ひぃぁっ、あはっ!」
絶叫と共にさらに激しく腰を動かされ、ヴィレッタの口からさらに高い嬌声が漏れる。
口からはだらしなく涎が垂れ、リョウトの表情すら確認できないほど焦点がずれる。
最早己を抱く人間が誰かすら忘れて快楽を貪るヴィレッタの頬に、熱い雫が滴り落ちた。
「んん…?」
リョウトの腰から手を離し、ぽたりぽたりと雫が落ち続ける頬をそっと撫ぜる。
稚気から指をぺろりと舐めるも、塩っぽい味に顔を顰めた。
(なみだ…涙…リョウト、の?)
醒め行く意識、目の前にあるリョウトの瞳には、いくら流れても尽きぬほど涙が浮かんでは頬や睫を伝って滴り落ちていた。
「リョウ…ト…」
自分が何を言ってしまったか気が付いて、或いは、リョウトの顔をこれ以上見つめる事を心が拒絶して、ヴィレッタの瞳からも涙が浮かんで視界を遮る。
しかし、リョウトの動きはまだ止まらない。
燃え尽きる前の蝋燭の最後の輝きと言うべきか、加速し続けてお互いを最後の瞬間に近づける。
受け止め切れない、彼の体も、心も。
既に体は快楽に耐えられず、肉棒を締め付けようともせずに愛液を溢れさせる。
悲鳴とも嬌声とも嗚咽ともつかない叫びが迸る。
「ああ、あぁ…っりょ…とぉ」
「貴女は…」
「ひぐぅ…ああっ」
「貴女はもう、僕のものだ」
ダメ押しとばかりにリョウトの口から出た言葉に、ヴィレッタの心は決壊した。
言葉にならぬ言葉を叫びあった次の瞬間、体の中にマグマのように熱い粘塊が迸るのを感じる。
そのままマグマに体の内側から焼き尽くされたかのように、ヴィレッタの意識は遠のいていった。

「愛しているわ」
ベッドに横になったまま、リョウトが目覚めているかも確認せずに囁く。
「イングラムと、同じくらいにね」
「そういう事は」
リョウトがぐるんと寝返りをうってヴィレッタの方を向く。
「相手の目を見て、言ってください」
ヴィレッタを見つめるリョウトの顔は、嬉しそうで、それでもやはり寂しげで、ヴィレッタの胸は、ちくりちくりとまた痛むのだった。

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