プレシアはベッドの中で何度目かの寝返りをうった。
眠れない。
その原因となった人物の名を、小さくつぶやいた。

お兄ちゃん…。

義理の兄とリューネが気安くじゃれ合う姿や、愛情のこもったまなざしを注ぐウェンディを見ると、胸が痛みで張り裂けそうになる。
彼に大切にされていることが最初は嬉しかったけれど、それは大きな勘違いだと分かった。
家族では恋愛の対象にはなれない。プレシアにだけは、好きになる資格すらないのだと――。

お兄ちゃんとウェンディさんはキスしたことがあるって聞いた。
キスってどんな感じがするんだろう?
プレシアは自分の唇に自分の指を這わせてみたが、それは満足するような感触ではなかった。
少し落胆しながら小さな口を開き、指をふくんでみる。
「ん…」
軽く歯をあてて指を丹念に舐め、舌をからませる。ちゅく、ちゅくと音をたてて吸い上げる。
指を舐めるだけ。別におかしなことをしてるわけじゃない。
だけどお兄ちゃんのことを思っていると、それだけの事でも何だか変な気持ちになってくる。
左手がつつ、と胸の上を這う。
すでに肌は敏感になっていて、寝巻きの布地の上からでも甘い刺激に変わった。
プレシアは性行為について大した知識は持っていなかったが、何も分からないというほど幼くはない。自分が恥ずかしい行為をしようとしている自覚もある。
(もしもお兄ちゃんが、こんなふうにあたしにさわってくれたら――。)
そこまで考えて、ふるふると首を振った。
お兄ちゃんをこんなふうに貶めちゃいけない。
いけないと思うのに、自らを愛撫する手を止めることが出来ない。
胸元をはだけさせ、中に手を入れる。ふくらみはじめたばかりの幼い胸を手のひらで包み揉んでいく。指先で乳首をつまむと、思わず切ない声が漏れた。
「あぅ…っ、あんんっ」
プレシアは胸に触れながら、反対の手を寝巻きの下履きの中に入れ、太ももを上下に撫でた。
くすぐったい。でもすごく気持ち良い。
ここも気持ち良いけど、でも本当に触りたいのはここじゃない。
少し足を開いて内側の方に手を移動させる。内股の柔らかい肉は敏感に快感を送ってきた。
プレシアはしばらくためらった後、膝を立てると、下着の上から自分の大事な場所をつーっと撫でた。
「…あ…っ」
びくんっ、とのけ反ってしまう。
体の中心部が甘く疼き、もじもじと両足をすりあわせる。
(どうしよう、こんなことしちゃいけないのに――。)
欲しくてたまらない。
こんないやらしい欲望で大好きな人を汚してしまうなんて、そんなのは嫌なのに。
しかし甘く淫靡な誘惑は、無垢な少女の潔癖さを容易に侵し、崩してゆく。
下着の中にそろそろと手を入れる。
女性の秘められた部分。プレシアは自分自身でも構造が良く分かっていないその部分を、生まれて初めて、自ら慰めるために触れる。
確かめるように指を侵入させてゆくと、わずかに湿った襞が指にまとわりついた。
プレシアの罪の意識と裏腹に、その部分は歓喜にふるえるように指を迎え入れる。
「…っ! んんっ」
襞をかきわけ、その深い谷間の奥へとおそるおそる指を差し入れてみると、細い指はたやすく根元まで飲み込まれた。
女性の内部は温かく潤っていて、弾力があるが柔らかい感触で指を包みこんでくる。
(ああ…、ここに男の人が入るんだ…。)
父親以外の異性の性器を見たことはなかったが、プレシアの中でイメージが思い人の裸体へすりかわる。
お兄ちゃんが、あたしのここに…。お兄ちゃんのあれが…。
そう思うだけで、かあっと頬が熱くなり、吐息が荒くなる。
どくんっ。
ふいにきゅうっ、とその部分が収縮してプレシアの指を締め付けた。とろりと熱い液体が流れ出し、指にぬるぬるとからみついた。
「はぁっ…、あ、んっ…」
中指を体の中に埋め込んだまま、残った指で他の場所を探っていく。
濡れた指を滑らせ、間もなく体の中でもっとも敏感な部分を探り当てた。
「ん…っ、あんっ、あ、あっ…」
指の腹で撫で、さらにぐりぐりと押しつぶすように刺激を与える。その動きに合わせて体が大きく跳ね上がり、喘ぎ声が高くなっていく。
「あっ、あっ、あっ、あんっ、や…、あぁん…あぁっ!」
腰をくねらせて身悶えしながらも、指は休まずに動かし続ける。
あふれた液は秘所と指をたっぷりと潤し、今にもぐちゅぐちゅと音が鳴りそうだ。
「あっ、…ぁ、あんんっ…、お、お兄ちゃん、お兄ちゃ…あっ…んんっ」
もしも今、お兄ちゃんがここにやって来て、この痴態を見られたらどうしよう。
彼がプレシアの寝室にいきなり入ったりするはずはないのだが、快楽を得れば得るほど怖れの気持ちも膨らんでいく。
その一方で、いっそこの恥ずかしい姿を全て、彼に見せつけてやりたいとさえ思っているプレシアもいる。
あたしがこんなことをしてしまったのも全部、お兄ちゃんのせいなのに。
お兄ちゃんの――。
頭の芯が痺れてくる。股間に体中の血が集まり、熱くとけてしまいそうだ。
「あぁ、もっと、さわって…お兄ちゃ…、あぅ…あっ…あんっ、や…っ」
もう限界に近い。
小さな胸を無理矢理かき集めるように揉みしだくと、乳首をつねるようにひねった。
同時に反対の手は、きゅっと陰核を強くつまみあげて揺すった。
「あぁあああぁあっ!!」
耐え続けた快感が、一気に飽和点に達して振り切れた。
「もう、だめえぇーっ!!!」
大きく体をのけぞらせてニ、三度喘ぎ、プレシアはくたりと力を失った。


お兄ちゃん――。
足をだらしなく開いたまま、プレシアはぼんやりと宙を見つめる。
股間も、そこから引き抜いた指も、べたべたと液体で粘ついている。
それが急速に熱を失って冷えてゆくのが、愛のまがいものに過ぎない行為を象徴しているようで、ひどく寂しかった。
泣きたくなる衝動を抑え、プレシアは無理矢理目を閉じる。
明日も早いんだから、もう眠らなくちゃ。
あたしが朝ご飯を作って、お兄ちゃんを起こしてあげなきゃいけないんだから。

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