「辛い時は我慢しちゃ駄目です!!」
「いや、本当に健康面でも問題ないし精神面も至って……」
「何故そんなにアサナを嫌がるんですか!」
「何故そんなにアサナを勧めるんだ!!」
そう、何故ゲシュペンストの調整をしていてヨガを勧められなければならないのだ。
妙に食い下がってきて……言い逃れは不可能。
こんな狭い高い所で詰め寄られたら逃げるに逃げられない。
飛び降りれば捕まらないだろうし俺ならせいぜい足がしびれる程度だろうが、
普通なら死ぬ高さだし「これ」さえなければ良い友人である彼女を無碍にはできない。
「ほら、ちょっとこうするくらいですから」
「だからやめろと言っている! やめ」

意識が覚醒する。天井に、机の上の教導隊の写真。
……夢、か。
久々に見た夢がこれかと思うと少々情けない。
しかも夢の中の話だからと笑い飛ばせないから嫌になる。
俺の夢はだいたいが予知夢だからだ。
仲間殺しとかそういうのでなくて良かったと喜ぶべきなのかもしれない。
もっと嫌な夢なんていくらでもあった。
しかし未経験の痛みを恐れるのは仕方のないことだ。
昔某黒服集団に捕らえられた時に大抵の拷問は経験した俺だが、
関節を笑顔で悪意なしに痛めつける拷問はさすがに奇妙な作戦で知られる某黒服集団もしてはこなかった。
拷問扱いしたら彼女は当然怒るだろうが、ヨガをすると言ったが最後スペシャルメニューを喰らうことはどうやら確定事項らしい。
痛みを越えて人は強くなるが、やはりわかっているからには出来る限りは避けたいのは当然だと思う。
失恋の痛み、なら一度は経験してみたいかもしれないが。
……馬鹿なことを考えていないで仕事の準備をするとしよう。
未来は行動如何でいくらでも変わる。
いくらでも変わる未来のことを心配するより、寝癖を直してとっとと仕事をした方が遥かに有益に違いない。

「ねえ、オクスタンランチャーの射程、もっと伸ばせないの?」
「ブースターの余裕はないですか?」
「どっちも駄目。また戦闘があればパーツをぶんどれるかもしれないけど今はなぁ……」
私とエクセレンは同時にため息をついた。機体の強化はパイロットにとっての一番の関心。
とはいえパーツも資金も足りない貧乏所帯……思い通りにはいかないものだ。
「なかなかうまくいかないわね、エクセレン」
「そうねぇ〜、まあ私は突撃趣味のダーリンを援護するためにもっと欲しいってだけなんだけど。ラーダさんは?」
「私は……ほら、シュッツバルトって足が遅いから、なかなか戦闘に参加できないじゃない?」
「まあでもそのかわり補給装置があるでしょ?」
「そうなんだけど、ね」
そう、本当ならそれで充分。正直に言えば私の理由もエクセレンと同じようなもの。
ただし何だかんだ言っても恋人同士なエクセレンとは違い私の方は完全に片思い。
『やらないか』の人種でないことは確かだろうが女性に興味があるかどうかも相当怪しいあの人。
……ギリアム・イェーガー少佐。

ゲシュペンストMk-IIを届けた時から私は少佐が好きだった。想っているだけ、ではあるけれど。
やはり少し、いや、かなり変わっているが……むしろそんな所があの人の魅力なのだ。
……無論欠点でもあるけれど。
例えば、その突撃趣味。黒の機体が戦場を舞い敵を撃破していく様子にはうっとりする。
言うなれば『漆黒の堕天使』……我ながら酷いネーミングセンス。
ただし、普通では援護タイミングが計れないという重大な欠点がある。
それが出来る教導隊の方々に是非とも聞きたいところだけど、多分余計訳がわからなくなるのが関の山。
ましてシュッツバルトでは突撃力を強化したゲシュペンストにはついていけない。
ブースターを探していたのもそのため。でも出来ていたとしても正直焼け石に水だったと思う。
援護で少しでもポイントを稼ぐというのは無理な話……
ただでさえ少佐はヨガのことを不必要に恐れているというのに。
そうでなくったって少佐はこちらのアプローチを自然に回避してしまうというのに。
……そういえば、ヴィレッタも援護できていたんだ。
彼女は……うまくできていた。R-GUNはゲシュペンストについていけた。
似たもの同士であるせいか、会話も。
まあ、あの二人の性格からしたら仕事のことしか頭になかったに違いない。
だけど大きな差なのだ。私はどうしても警戒されてしまうのだから。

「……やっぱり武器も色々欲しいわよね。羽子板とか。あら、どしたの?」
「あ、大丈夫よ。ちょっと考え事」
「そーお? ならいいんだけど。あ、吹き矢とかどう? 面白そうじゃない?」
「それはちょっと……」
……負けられない。ヴィレッタはその気になれば難なく……
少佐も今はその気がなくても、想えばきっと一途な人だから。
やはり想っているだけでは駄目なのだ。
そう、恐れをなくすため少佐にヨガへの正しい認識を叩き込み、
そして私のことを理解してもらう、これこそがこの恋を叶えるのに必要なこと!
例えちょっと強引だったとしても……!
「そうそう、また美容のためのアサナを教えて欲しいんだけど」
……とりあえずこっちが先かしら?

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