ラミア=ラヴレスはただ自室で、ぼ〜っ、としていた。ベッドに腰掛けては軽く体を揺すってそのスプリングの具合を確かめてみたり、時折ベッドを無意味にごろごろと転がっては仰向けの姿勢で天井を見上げている。
 シャドウミラー。スパイ。W17。人造人間。アクセル隊長。レモン様。
 なぜか最近、色々と考えてしまう。
 指令を受けねば、何も出来ぬ自分。
 命令に従うとする自分と、シャドウミラーへの疑問を抱く自分。
 ここ最近、自分で自分がわからなくなる。
 騙しているはずのこの場所に、どうしようもないぐらいの居心地の良さを感じてしまう。それこそ、本当に自分は故障してしまっているのではないと思うぐらいに。
 今はこの状況に甘んじてはいるが、私はそのうち――

 こんこんこんっ

 不意に打ち鳴らされたノックが、思考を巡らせているラミアを現実世界に引き戻した。上半身を起き上がらせて、ラミアはドアの向こうに問い掛ける。
「はい、どちら様でございますでしょう?」
 言語中枢の故障による妙な敬語――通称“ラミア語”による、あいかわらずの変な言葉遣い。
「神隼人だ。構わないか?」
 神隼人。十代後半にして、その資質を見こまれゲッターチームに所属した天才。
 ラミアがロンド・ベル隊の中に溶け込む中で、もっとも障害となった人物である。
 不審な動きのある自分を事あるごとに注視し、ボロを出しそうになった事も何度もある。
(気づかれたか……?)
 それでなければ、必要以上に人とのかかわりを持たない自分の部屋に、彼が訪ねてくる理由が見つからない。
 神隼人が万が一、自分に情欲を抱いていたりしていなければ、の話ではあるが。

 言われ、自動ドアを開き、神隼人がラミアの部屋の中に足を踏み入れる。
 何もない、殺風景でシンプルな部屋。テーブルも椅子もないこの部屋で、腰掛けられるものと言えば、ラミアのベッドぐらいだ。
 隼人の視線に気づいたラミアが少し移動し、その横に隼人が腰掛ける。
 気まずい沈黙。
 身構えるようにして、ラミアは隼人の言葉を待った。
 そして、ゆっくりと、隼人が口を開く。
「その……いきなりでなんなんだが。一度、謝っておこうと思ってな」
 身構えていたラミアは、思わぬ隼人の言葉に、えっ、と一瞬呆然とした。
 謝る――とはどういう事だろう。謝られなければならない事を、自分はされただろうか?
「何の……話だ」
 思わず、ついいつものしゃべり方になってしまった。
 が、正直このほうが自分でも話やすい。
 隼人のほうも、別段気にする様子はない。ならば、このまま続ける事にしよう。
「今までお前さんの事を、やれ『怪しい』だの、やれ『スパイ』だの言ってただろ? あれを、謝っておきくてな」
 ああ、その事か。
 事実、ラミアは神隼人から並々ならぬ気配を感じていたが、最近ぱったりとそれが止むようになったのは、彼が自分を信用してくれるようになったからだったのだろう。
 本来なら、これは賞賛すべき事である。ロンド・ベル隊の中でも自分と最も付き合いが長いと同時に、自分の事を最後まで怪しんでいたのは、この神隼人だ。ロンド・ベル隊は“おひとよし”の集まりだ。
 彼に信用されたと言う事は、ロンド・ベル隊の中でもほぼ完全に信用されていると言ってもいいだろう。

「いや、気にするな。疑う事は悪い事ではない。むしろ当然の事だ。そのような者も居なければ、軍隊としては成り立たん」
 これはラミアの正直な感想だった。彼の知識と頭の回転の早さに関しては、ある種尊敬に近い念を抱いていた。
 ラミアがロンド・ベル隊の中であなどれない人物を挙げるとすれば、年齢による経験の差を考えると、神隼人はその中でも一、二を争う。
 それに、自分は元々スパイだ。事実なのだから、謂れのない事を、と憤慨する必要もない。
「それに、謝ると言う事は私を信用してくれるようになったんだろう? なら、問題はない」
 そうか、と安堵の笑みを浮かべた隼人を見て、ラミアはなぜか少しだけ苦しくなった。
 ロンド・ベル隊の中に溶け込む。
 それが本来の任務であり、この事は成功だと言える。喜ぶべき事のはずなのだ、これは。
 それなのに、なぜかとても苦しい。喉の奥がチリチリする。
 悲しいような、切ないような、虚しいような。
 なぜだ、とラミアは自問する。裏切るもなにも、元々自分はシャドウミラーの人間だ。そもそもこちらの世界の住人ですらない。人間の不利をした、紛い物だ。
(罪悪感……と言う奴か?)
 心の中で呟いて、「馬鹿な」とラミアは思った。
 けれど、それでないと説明がつかない。この気持ちは、罪悪感以外の何であると言うのか。
「……話はそれだけだ。じゃあな」
 考え込んで沈黙してしまった事を別の意味で捕らえたのか、それともただ単に照れくさくなったのかは分からない。隼人が立ち上がり、去ろうとする。
「あっ……!」
 考えるよりも先に、身体が動いていた。
 気がつけば、立ち上がろうとした隼人の腕を掴んでいた。
「ラミア……?」
 顔が、かぁっ、と熱くなるのがはっきりと分かった。見下ろしてくる隼人の顔を、直視する事ができない。
 なぜだ。嫌な予感がした。どうして。このまま行かせたくなかった。今でないといけないような気がした。
 離れてしまえば、もう会えないような気がした。こうしなければ、自分は後悔する。後悔したくない。

「隼人……!」
 強く彼の名を呼び、ラミアは彼の首筋に抱きついた。
 一体、何がどうなっているのか。
 ラミアのいきなりの積極的な行為に、隼人はただただうろたえるしかなかった。こうなってしまえば、普段はクールでキザな彼も形無しである。彼はまだ二十歳にも満たないのだ。こういう事にあまり面識がなくても、仕方のない事である。
「隼人……」
 全てを洗いざらい告白してしまいたかった。
 けれど、それはできない。スパイとして、それは許されない行為。それこそ本当の裏切りなのだ。
「ラミア……」
 腰を屈め、隼人は優しくラミアを抱き寄せた。背中に回される彼の両腕が、優しく、心地よい。
 いっそ、全てを忘れてしまいたい。
「部屋の鍵を、かけて――」
 何を言っているのだろう、と思った。
 自分の口を動かして声を出しているのが、まるで自分ではないかのように思えた。身体全体が火照って、灼けるように熱い。
 これが、恥ずかしい、と言う感覚だろうか。緊張、とも言うかもしれない。
 隼人の耳朶に唇を寄せ、消え入りそうな声で呟く。
「――明かりを消して欲しい……頼む」
 意味は伝わったはずだった。しばしの沈黙の末、「分かった」と隼人はドアの横に向かった。スイッチを殴るように叩き、乱暴にドアをロックする。部屋の明かりは、どこだろう。
(レモン様……私は故障したか、失敗作のどちらかだ。間違いなく)
 それでもいい、とラミアは思った。

 隼人の右手が、櫛のようにラミアの髪を何度も撫で付ける。時折、左耳に当たる彼の手が、妙に熱い。 さらさらとした彼女の髪に触れるのは心地よかった。
 ずっとこうしていてもいいのだが、それだけでは満足できないのが男の悲しい性である。自身の手をラミアの頭の後ろに回し、彼女の顔を抱き寄せながら隼人は自分の顔を近づける。

「んぁ……っ」
 重ねられた唇の間から、ラミアの甘い声が漏れる。
 どのぐらいそうしていたのだろう。
 三十秒か、一分か、それ以上か。
 あるいはもっと短かったかもしれない。
「ダメだな……」
 紅くした顔をそらしながら、隼人がぶっきらぼうに呟く。唾液でべたべたになった口元を右手の甲で拭う。
「どうにも、キスって奴は苦手だ」
 照れ隠しに言っているのがラミアにも分かった。くすくすと笑うラミアを見て、隼人は安心したような笑みを浮かべる。
 キスなどした事があるはずがなかった。知識としては入っているが、体験したことはない。
 どんなキスが上手いキスで、どんなキスが下手なキスかは分からなかった。

 けれど――

 唇を指でなぞり、さきほどのキスの感触を確かめる。触れていたときに感じた、あの心地よい感覚。
 正直気持ち良かった。
 この時間が、この瞬間が、この行為が、この男が。
 今、何よりも心地よい。
「隼人」
 口の中で彼の名前を転がして、ラミアは隼人にゆっくりとしなだれかかった。
 両手で彼の右手をしっかりと握り、潤んだ瞳で隼人の顔をじっと見上げる。
 近づいてくる彼の気配を感じ、ラミアはゆっくりと目を閉じた。
 隼人の腕が腰の辺りに這うように回され、キスをされながら抱き寄せられる。

「ふぁ……っ」
 唇を、そして歯を割り、半ば無理やりのようにねじ込まれた隼人の舌が、ラミアの口内をゆっくりと犯していく。
 くちゅくちゅと淫靡な音を立て、隼人の舌がラミアを求める。
 自分の中で蠢く“他人”におずおずと舌を絡め、ラミアは自分の身体が内側から火照ってくるのを明確に感じていた。
 舌の絡まる唾液の音と、二人の荒い息遣いだけが部屋の中に響く。

 かけられてくる彼の体重にしたがって、ラミアはベッドに身体を横たわらせた。
 首筋にくすぐったいキスを落とされながら、隼人の手がラミアの背中をまさぐり、奇妙な形をした服の止め具を探して這いずり回る。
「首、の後ろに、フックがあっちゃったりしま……――ひゃぅっ!」
 耳を甘噛みされ、ラミアは思わず甘い声をあげた。
 自分の行為で身悶えるラミアを見て、隼人はますます興奮する。まるで破くような乱暴さで服を引き剥がし、服の下に隠された双丘をあらわにした。
 ラミアが、下着一枚だけの姿になる。
 弾力のある大きな二つの乳房が、ゼリーのようにぷるぷると揺れていた。
 柔らかさを確かめるように右手を添え、円を描くように揉みしだきながら、先端にそそり立つ桃色の突起を指先で刺激してやる。
「ぅんぁっ……くぅ…んっ………ひゃぅっ!」
 空いている左手をしとどに濡れた下着に伸ばし、薄布の上から秘所を刺激する度、舌を絡めたラミアの唇から女の甘美な声が漏れ、その湿り気がゆっくりと増して行く。
 ラミアが持っているのは、あくまで“知識のみ”である。スパイとして潜入する事を想定されて色々な知識を得てはいるが、実際に体験するのとでは勝手が違いすぎる。
 むしろ、なまじ知識があるだけ敏感に感じてしまう。
 初めて経験する、全身を駆け抜ける電撃のような快楽に溺れそうになりながらも、ラミアは懸命に自我を保っていた。顔は既に真っ赤に上気しており、目尻には涙がたまっている。
 ディープなキスを繰り返されている唇はすでに唾液でべとべとで、ラミアは自分の太腿に隼人のそそり立つ“モノ”の感触をズボン越しに感じていた。
「隼人は、脱いでくださらないんで、ぁんっ、ございま、すかぁ――んっ!?」
 下着の中に侵入した指を秘所に直接挿入され、ラミアの肢体がびくりと大きく痙攣した。
 ねっとりと滑りけのある、とろりとした熱い液が溢れ出て、隼人の手をぐっしょりと濡らす。
 指同士を擦り合わせ、その感触を確かめる。
「ほら、こんなに濡れてるぞ」
「そん…なの、言わないで欲しかっ、たりしちゃいますぅ……んっ!」
 唇を解放し、隼人はラミアに意地悪い笑みを浮かべて見せた。女の匂いのする愛液を塗りたくるように両胸を愛撫され、片方の突起を舌で転がされてまた敏感に反応する。

 隼人が上手いのか、それとも自分が敏感なのか。知る術はない。
 自分ばかり感じているのが、なぜだか妙に癪に障った。快楽を感じながらも、ラミアは唇を尖らせて隼人に聞こえないように独り言を呟いた。
「隼人ばっかり、ずるいでございます……」
 隙を見つけ、ラミアは得意の体術で隼人をベッドに仰向けに寝転がさせた。
 転がるように彼の体の上に移動し、ラミアは隼人の両腕を抑えつけながら有無も言わさずその身体の上に腰掛けた。うろたえる隼人のシャツのボタンを全て外し、しまりのある肉体をさらけ出させる。
 ラミアは胸を押し付けるようにして隼人に覆い被さると、厚い胸板に舌を這わせた。隼人の肌の味を感じながら、彼女の舌はゆっくりと隼人の下半身へと向かって行く。

 ズボンの上からでもはっきりと分かるほどに大きく膨らみ、今にも脈動しそうな隼人の“モノ”に指先で軽く触れる。
 隼人の身体がぴくりと反応し、驚いた彼が上半身をわずかに起き上がらせる。
「お、おい、ラミア――」
 止めようとするが、ラミアにとっては関係がない。自分がされた事に比べれば、この程度の事、どうと言う事はない。
「……じっとしていろ」
 命令するような強い口調で言われ、隼人は黙ってラミアに従った。
 ズボンのジッパーが下ろされ、ズボンに夜押さえつけから開放された、常人よりも大きいだろうと思われる隼人の“モノ”が、トランクスを突き破ろうかと言う勢いで、一瞬だけ跳ね上がった。
 恐る恐るトランクスを引き下ろすと、ラミアの目の前にほぼ真上に向かって直立した隼人の“モノ”が出現する。本来の彼の肌よりわずかに黒みを帯びたそれは、正直言ってグロテスクな代物だった。

(思ったよりも大きいな……)
 もう少しシンプルなものを想像していたが、やはり理想と現実は違うと言う事だろうか。
 ラミアは竿の部分を優しく握り、割れ目のある先端の丸い亀頭の部分に、ちゅっ、と口付けた。妙な味がしたが、気にしない事にする。

「くぁ……っ!」
 口付けた途端に隼人の“モノ”がぴくんと跳ねるように反応し、それが面白くてラミアは何度も隼人の“モノ”に唇を触れさせる。
 唇が触れ、指が優しくなぞる度に隼人の“モノ”がぴくぴくと反応し、隼人の顔を見ると快楽による声を出すまいと、何とも妙な表情を浮かべていた。
 ラミアの口の動きは徐々にエスカレートし、“モノ”全体を湿らせるようにある程度舐め回すと、そのまま彼女は先端から一気に口に含んだ。
 さすがに全部銜えきるのは不可能だったので、“モノ”半分ほどを咥え込むと、ラミアは舌で丹念に舐め上げながら顔を上下に動かした。

「うおっ!?」
 これには隼人も声をあげた。フェラチオをされたのは、無論初めての経験である。舌の絡み付いているぬるぬるとしたラミアの口内が気持ち良くて、気を抜くとすぐに果ててしまいそうになる。
 しかし、快楽に身を任せてすぐに出してしまうのは、彼自身のプライドが許さなかった。戦いで鍛え上げた忍耐力を見せつけ、隼人はラミアの責めに耐えた。時々イキそうになりながらも、少しでも長く耐えようと懸命に努力する。
「ふぉうへほはひはふへひょう?(どうでございますでしょう?)」
 もう少しで果ててしまいそうになったところで、ラミアが問いかけてきた。
 思わず怒りを覚え、快楽に耐えながら叫ぶ。
「言わな、くても……分かるだろ、が!」

 それもそうである。苦悶と言うか、快楽に落ちる自分を引き止めていると言うか――こんな表情を浮かべて「気持ち良くなかった」と言い張る人間が居るならば、それこそ一度拝見してみたいものである。
 では、と隼人の“モノ”から唇を離すと、唾液と隼人の分泌液による銀糸がぬらりと輝いて、ラミアの唇と隼人の“モノ”を繋ぐ糸を引いていた。手の甲で居とを軽く拭い、からかうような笑みを浮かべて問う。
「口よりも、胸がよかったりしちゃいます?」
 完璧にリードを奪われてしまった。さきほどまでの口調とは打って変わって、しかも彼女のしゃべり方には随分と余裕がある。
何か文句を言えばこのままお預けを食らってままになってしまいそうだったので、隼人はかろうじて「……胸がいい」と言った。
 了解した、とラミアは互いの体位を整えると、そそり立つ“モノ”を己の乳房で挟み込んだ。

(やばい……みこすり半の世界を見せられそうだぜ……)
 隼人の“モノ”が二つの乳房に根元からすっぽりと挟み込まれ、前後に揉みしだかれながら、先端の部分をちろちろと舌で刺激される。
 ちらりとこちらを見上げてくるラミアの瞳が「気持ちいいか?」と聞いていた。
 パイズリをされるのは初めてだったが、ラミアのほうもするのは初めてだった。本当に気持ち良くなっているのか、どうにも不安になる。
 隼人が紅い顔をしながらこくりと頷くと、ラミアは嬉しそうに、それでいて悪戯っぽく笑った。彼女はさきほどよりも強い力で隼人の“モノ”を挟み込むと、もっと早い速さで前後に動かし始めた。

「ラ、ラミア……っ!」
 苦しそうな彼の声が、もうそろそろ隼人が限界である事をはっきりと知らせていた。舌に触れる“モノ”がびくびくと何度も脈動し、今にも暴発してしまいそうだった。
 おそらく、もう数分と保たないだろう。
(私で、感じているのか……)
 そう思うと、嬉しさが恥ずかしさと一緒になって、胸の奥からじんわりと溢れてくる。少しでも気持ち良くなってもらおうと、ラミアは不器用に初めてのパイズリを続ける。

 と。

 隼人の“モノ”が、ラミアが肉眼でもはっきりと確認できるほど激しく、びくんっ、と脈動した。
「くっ……出すぞ……!」
 言うが同時。隼人の“モノ”が痙攣するようにびくびく震え、一度、二度と大きな脈動を繰り返しながら、それに合わせて“モノ”の割れ目からびゅくびゅくと白濁した粘り気の強い液体が吐き出される。
 まず最初に、顔に射精された。水鉄砲のように勢い良く飛び出した、温かさを持った白濁液がラミアの頬に襲いかかり、その周辺を白く染めていく。続いて、顎から首筋にかけての辺りに吐き出される。
 普段からの戦闘で、溜まりに溜まっていたのだろうか。まだ足りないと言った風に吐き出された彼の欲望が、ラミアの髪を、顔を、胸を汚し、彼女の身体を白く染め上げる。

 やっと満足したか、十回近い回数の脈動で、隼人は射精を終えた。荒く息をしながら額に浮かんだ汗を拭い、頬と耳を紅く染めて上気したその顔は、快楽に余韻に浸っている。
 男の精特有の何とも言えない独特の匂いがラミアの鼻腔をくすぐり、わずかに口の中に入ってきた白濁液が彼女の舌を苦く刺激した。指ですくってみると、卵の卵白のような感触がある。

(これが、隼人の……)
 自分の目の前でまだびくびくと痙攣している隼人の“モノ”を再び恐る恐る咥え込むと、彼女はそこにこびりついた彼の精液を丹念に舐め取り始めた。尿道に残った分は口をすぼめて吸ってやる。
 口の中に溜まって行く精液が、何とも言えぬ苦味でラミアの味覚を刺激する。後味が残りそうだったが、この程度なら我慢できる。うん、大丈夫だ。
 一度射精して通常のサイズに戻った隼人の“モノ”が、ラミアの舌による愛撫の刺激に反応して、むくむくと再び勃起し始めた。

「お、おい、ラミア……」
 焦ったような声を出したのはラミアが自分の精液を飲み込んでいる事に驚いたのか、それとも射精したばかりのはずなのに再び起き上がり始めた自分の“モノ”に気づかせようとしたのか。
 おそらくは両方だろうが、ラミアはそれを前者として受け取った。隼人の“モノ”から唇を離し、口の中に溜まった彼の欲望を、まるで嫌いなものを我慢して飲み込む子供のように喉の奥へと押しやる。
 ねばっとした精液が喉に絡まって、ラミアは一瞬だけ顔をしかめた。心配そうにこちらを見る隼人に気づき、ラミアは形の良い唇をきゅっと吊り上げ、精液のこびりついたままの顔に微笑みを浮かべる。

「少し苦かったりしちゃいますが……これぐらいなら我慢できなさりますです」
 彼女のその言葉に照れくさくなり、喜びを感じると共に、悲しいかな、男というものが反応して“モノ”が再び完全に復活してしまった。バツの悪そうな顔をする隼人を見て、ラミアがくすくすと微笑んだ。
 とりあえず、ラミアの顔や胸についた精液を綺麗に拭いてやる事にする。
 精液に濡れたラミアの姿は上気して紅くなった顔とあいまって、見ているだけで興奮するほどとても艶やかなものだったが、さすがにこのまま放っておくのは何か悪いような気がした。

 何か拭くものを――ティッシュか何かないだろうかと探してみるが、あいにく見当たらない。仕方がない、とラミアの肌についた己の欲望を、隼人は自分の着ていたシャツで拭き取った。
 少し臭いがつくが、気に入らなければ捨てればいいし、洗濯すれば着られない事はないだろう。その場合、自分の部屋でこっそり手洗いする羽目になるだろうが。
 自分の苦味がわずかに残るラミアの唇に口付けながら、隼人はくびれた身体のラインをなぞるように手を這わせ、ぐっしょりと濡れているラミアの秘所に手を伸ばした。

「ふぁ……っ!」
 もう愛撫の必要がないほど、彼女の秘所は充分に濡れていた。濡れたショーツの上からなぞる指に、甘い声を上げながらびくりと反応する。
「もう、いいか?」
「んっ……」
 隼人の問いに照れるように小さく呟いて答え、ラミアは恐る恐る両足を開いた。彼女自身の愛液はすでに太腿まで達しており、ぐっしょりと濡れて透けてしまったショーツは、もう下着としての機能を果たしていない。

 下着を脱ぐと、秘所とショーツがぬらりと透明色に輝く糸でつながっているのが見えた。びしょびしょのショーツをベッドの下に放り出し、覚悟を決めたように俯いたラミアが、隼人の首に腕を回す。
「隼人……」
 上気した頬。潤んだ瞳に溜まった涙。汗でわずかに額に張りついた前髪に、形の良い真っ赤な唇。憂いにも似た切なげな表情を浮かべ、今まで見たことのない“女”としての顔でこちらを見つめている。
 間近ではっきりと見るラミアの表情にどきりとしながらも、汗ばんだ顔をゆっくりと手で撫でてやる。額と頬に口付けを落とし、お互いの唇を重ね、ラミアの口内に舌を差し入れた。
 舌が絡み、滑る唾液が淫靡な音を立てる。
 たっぷりと三十秒を超えるディープキスを交わし、隼人は一糸纏わぬ姿になったラミアをゆっくりと観察すると、低く押し殺した声で宣言するように呟いた。

「ラミア、挿れるぞ……」
 顔を真っ赤にしながら伏せ目がちに目を伏せると、ラミアは少しの躊躇の末に、こくりと首を縦に振った。

 ラミアの秘所に隼人の“モノ”があてがわれ、お互いに一度だけ深呼吸をする。
「ひぅっ!」
 挿入される感触に、ラミアの身体がびくんっと跳ね上がる。
「ひ…あぁ………ふあぁ……は、隼人ぉ……っ!」
 甘く切ない、甘美にも似た喘ぎ声。隼人の“モノ”が奥深くに挿入されればされるほど、ラミアの身体はますます激しい反応を見せる。隼人の背中をぎゅっと抱きしめ、彼の肩に唇を押し当てて声を押し殺す。

 隼人の“モノ”がラミアの一番深い場所まで届いたところで、二人は一度静止した。お互いにもう一度深呼吸すると、緊張しながら次なる段階に移行した。
「動くぞ」
「ふむぅぅんっ! んんんんっっっ!」
 一度、二度、三度とゆっくり行われる前後のピストン運動に、敏感なラミアの身体が激しく反応する。調子を合わせるようにラミアが一緒に腰をくねらせ、少しでも気持ち良くしようと懸命に努力している。 
 だが、隼人はそれだけでは止まらない。
 左手でラミアを抱き寄せながらも、その右手は自分の“モノ”を咥え込んでいるラミアの秘所へと伸ばされていた。手探りでクリトリスを探り当て、人差し指と中指で挟むようにしながら親指でこりこりと刺激する。

「ひいぃあぁっ!?」
 不意に三本の指で刺激され、いきなり襲ってきた快楽の波に溺れそうになるラミアの身体が、弓なりに反り返る。意識が白濁し、何も考えられなくなる。
 頭の中にびりびりと電撃が走り、また自分は故障したのではないかと錯覚する。陰核が刺激される度に、ラミアの膣が挿入されている隼人の“モノ”をさらに激しく締め上げる。
「が、我慢するな。叫んじまえ……っ!」
 きゅっきゅっと締め上げられる膣内の快楽に耐えながら、耳朶に吐息が触れるほどの距離で優しく囁いて、隼人は彼女の耳に甘く噛みついた。

 そして、ラミアのたがが外れる。

「は、隼人ぉっ! いいぃ、でございますっ! 気持ちよかったりしちゃいますぅっ!」
 隼人に強く抱きつきながら、ラミアは彼の耳元で甘美の声をあげた。
 叫びにも近しい喘ぎ。膣内から“モノ”が出入りする度、愛液に濡れたラミアの秘所からぐちゅりぐちゅりと淫猥な音を立て、その音がラミアの敏感な部分をさらに刺激する。

「はやっ、とぉっ! も、少し、ゆっくりしてほしかっ、たりしゃちゃうのです、が――ふぁあんっ!」
 ラミアが言うが、隼人はお構いなしに前後するそのスピードを増していく。
 秘所から手を離し、ラミアの豊満な胸を愛液に濡れた右手で愛撫する。

「む、胸っ! 乳首はだめぇっ! そこは弱かったりしちゃったりして――ひぃあっ!」
 乳首が弱いと言うのは事実らしい。
 指で乳輪をなぞり、乳首を弾くように触れる度、秘所に触っている時よりも強い締め付けが隼人の“モノ”を襲う。意外なほどまでに締め上げられ、隼人は自分の限界が近い事を悟った。
「ラミア!」
 調子の変わったその声を意味する事が彼女にも理解できたのだろう。いつもまにか己の右腕で自分の右胸を愛撫しながら、彼女は狂ったように腰を動かしている。

「隼人、隼人、隼人、隼人ぉっ!」
 壊れたようにお互いの名を呼びながら、二人は頂点にまで昇りつめる。
 先に達したのは、ラミアだ。

「あ……い……ぅあぁ……っ!!!」
 声にならない叫びをあげ、全身をびくびくと何度も痙攣させる。
 それに合わせて、ラミアの膣が隼人の“モノ”を今だかつてないほどに締め上げ、同じように頂点まで昇ってきていた隼人が、限界に達する。

「ラミア、出すぞ……!」
(……あたた、かい……?)
 彼の苦悶の声と共に、温かさを帯びた隼人の精液がラミアの中を満たしていく。内側で吐き出される精に、絶頂の余韻に浸っていたラミアに更なる追い討ちをかける。
 ぐったりとベッドに沈むラミアから自分の“モノ”を引き抜くと、愛液と交じり合った隼人の欲望が、半透明の白い粘液となってラミアの秘所から溢れ出る。
 疲れ切った表情を浮かべて全身から力を抜くと、隼人はラミアと同じようにそのままベッドに沈んだ。
 そのまま黙ったまま、お互いに数分間、絶頂の余韻に浸る。

「すまん……な。中で出しちまった……」
 はあはあと荒い息を整えながら謝罪する隼人に、ラミアはふるふると首をふるふると横に振った。
 中で出されても何の問題もない。人造人間が、妊娠などするはずがないのだから。もしそうなったとしたら、生んで、育てればいいだけのことだ。
「ラミア」
 隼呼び声に顔を上げ、ラミアが彼のほうを見ると、隼人はその顔にとても優しげな微笑みをたたえていた。
 大きく深呼吸して、彼は一言だけ言い放つ。

 「愛してる」と。

 隼人の言葉に照れ笑いを浮かべてから、二人はもう一度、深いキスを交わした。


 じゃあ、また明日。
 そう言って、神隼人はこそこそと辺りを見回しながら部屋に戻っていた。
 自分はシャワーでも浴びるか。――そう思ったところで、どこからか通信。

 回線オープン。会話。通信終了。

 シャドウミラーから連絡があった。
 時が来た。ロンド・ベル隊を裏切れ、と。
 隼人が去った部屋で、ラミアは泣いた。
 壊したくない、この場所を。
 生きて欲しい、彼に――みんなに。
 自分とロンド・ベル隊。
 元々あってもないような命だ。天秤が傾く方向など、明らかだった。
 覚悟は、とっくの昔に決まっていた。

「ケーン・ワカバ准尉、行くぞ」
「……おう」
 ラミアに促され、ドラグナー1カスタムがデッキを飛び出す。
 彼は裏切る。母親を人質に取られた、優しい少年が、ロンド・ベルを。
 誰も居ないデッキ。この場で稼動しているのは、自分の愛機アンジュルグのみ。
 暗く狭苦しいコクピットの中で、目を閉じる。
 ふと浮かんだ神隼人の顔を思い出し、ラミアは静かに呟いた。
 さよなら、と。
 瞳の奥が熱いのは、どうしたなのだろう、と思った。

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