スーパーロボット大戦シリーズのエロパロまとめwiki - pandora
――宇宙歴145年
 地球消失事件を機に地球圏防衛の為の軍事同盟……ノヴァンブル条約を成立させた。
 異星人の襲来やその他の地球情勢を鑑みて、それらの解決を図る為に主義や民族、星を問わない地球を守る為の一団が出来上がった事は、後の地球圏統一構想の火付け役となった。
 同時に、武力解決を行う手段として、ネオジオン、OZを主体とし、移民船団、旧統合軍、リガ・ミリティア、並びに民間協力者を加えた独立戦闘部隊、ブルー・スウェアが結成された。
 ……地球を守る為の盾にして矛。
 地球圏最強と言って過言では無いその部隊に一際異彩を放つ兄妹が居た事は後世の歴史家達の間では語り草になる程だった。

 興味本位から地球を閉鎖空間に押し込め、破滅の軍勢を呼んだ男。……同時に、それによってネオジオンのアクシズ落しから結果的に地球を守った或る意味英雄である男。
 フェリオ=ラドクリフの実子であるジョシュア=ラドクリフ。そして、その養女であるクリアーナ=リムスカヤの二人だ。


 ズール皇帝の直轄宙域に殴り込みを掛け、ギシン本星にて諸悪の根源を打ち破ってから数日が経過しようとしている。
 フォールドタグであるガイド・ドッグを乗り捨てたラー・カイラムの乗員達はズールの超能力によって荒廃したギシン星の復興を手伝いながら、ワープカタパルトの修理が終わるのを待っている。
 突然、ぽっかりと出現した異星での休日に戸惑いながら、各々が自由な時間を満喫とはいかなくても享受していた。
 ……彼等もまた、そうだった。

――戦艦ラー・カイラム ジョシュア私室 
「ハア……はっ、んっ……! んあぁ……」
 パツパツと水が跳ねる様な音がしている。それに合わせて揺れる女の影と淫らな息遣いが真っ暗な部屋に響いている。
 士官用の個室。トップエースとして君臨して長いジョッシュに割り当てられた部屋。床には酒瓶や食事の入っていたと思われるトレイが散乱し、使用済みのサックが彼方此方にバラ撒かれている。
 部屋の主の精神状態を表した様な荒んだ室内状況だった。
「あっ! あっ! あんっ! ぁ、アニ、キぃ……!」
「・・・」
 生臭い性臭に満ちた檻の様な部屋。そんな中でジョッシュは寝台に寝そべり、その上で腰を振るリムを見ようともせずに、只管暗い天井を眺めていた。

 昼間は仲間と共にギシン星に降りて、慣れない復興の手伝いに汗を流し、日が暮れれば部屋に帰り付くなり義兄と義妹は情事に身を委ねる。
 それ位しか楽しみを見出せないジョッシュとリムの苦肉の策だ。
 だが、ジョッシュは半分それにも飽きている。リムの体に飽きたと言う意味ではなく、精神的に悦を見出せなくなってきているジョッシュの持つ贅沢な悩みだ。
 枯れるには未だ早い二十歳にもなっていない青年は色々と多感な時期に居るらしい。
 ……そんな義兄の心内を義妹はしっかり理解していた。だからこそ、何も言わなかった。
「あぁっ! ハアっ! んっ!! ぁ、ああ゛!!!」
「……ん?」
 打ち付けられる腰の動きが早くなり、交合が深くなって、纏わり付く襞と壁が痙攣して強く収縮する。それに意識を向けさせられたジョッシュはリムの顔を見上げた。
「あ……あ……あん♪ っ、ふうううぅぅ〜〜……!!」
 リムはギュッと目を瞑って、涙を眦に溜めて痙攣していた。オルガの波に身を曝し、ジョシュアの胸に両手を付いてふるふる震えるリムは、少女ながらもそれに似つかわしくない艶やかさを振り撒いている。
 そうして、一頻り竿を喰い締めていた雌肉が弛緩すると同時に、リムの強張っていた身体から力が抜け、ジョッシュに覆い被さった。
「アニ、アニキぃ……」
 十七歳にしては豊満と言える乳肉をジョシュアの胸板に密着させ、リムは上擦った声で囁く。その顔は紅潮し、絶頂によって蕩けていた。
「力尽きたか?」
 そんな義妹とは対照的に、義兄は感情が伺えない様な表情をして義妹の瞳を射抜く。
「う、ん……ゴメンね。アタシ、もう、動けないよぅ」
「そうか」
 リムの鞘に納まったジョッシュのファルシオンセイバーは未だ未だ暴れ足りないと言った具合でリムの中で熱を放っている。
 だが、既に体力を使い果たし動けなくなったリムは膣を締める事は出来ても、動く事はこれ以上無理だった。
「仕方が無い。今度は俺が乗っかるぜ」
「ええっ!? ちょ、待って! アタシ、逝ったばっかりだからもう少……きゃうんん!」
 リムの言葉は途中で悲鳴によって塗り潰された。リムを引っ繰り返して、多少乱暴に腰を突き入れ出したジョッシュは最初から彼女の言葉を聞く気は無かった。
「ああんっ! アニキぃ! もっと、もっと優しく……ぅ!」
「我慢しろ」
 リムは涙目を通り越し、涙を頬に伝わせていやいやと首を振る。
 ……ジョッシュの腰遣いが乱暴で痛いのではなく、乱暴だからこそ逝って敏感になっている身体には辛かったので動きを抑えて欲しかったのだ。
 だが、やっぱりジョッシュは聞く耳を持たない。寧ろ、そんなリムの声や表情がそそる為に更に動きが激しくなると言う悪循環を見せる。
 こう言う時に義妹に優しくない義兄と言うのはどうかと思うが、ジョッシュの頭の中にはリムに対する気遣いが端に追いやられているので、それは期待するだけ無駄だった。
「ふああっ! っ、ひぃううぅ!!」
「っ、喜んでくれてるみたいだな。良い具合に締まってるぞ? お前の穴」
「やあああああ!!!」
「んっ……ふ、はは。その調子で頼む」
 快楽に翻弄され、最早喘ぐ事しか出来ないリムの姿に、嗜虐的に口を歪ませるジョッシュ。
 劣情に比例して昂ぶっていく身体の熱をリムの身体を使って冷ます様に腰を突き入れ、淫らな穴の抱擁に一物を委ねる。
 力強いストロークは衰える事を知らず、益々勢いを増してリムを肉欲に塗れさせていった。

「ぁ、うああ……! また、ま、また来る……来ちゃうよう……!」
 蹂躙する肉棒は何度も何度も陰道を往復し、長い時間を掛けてリムを蝕んでいた。
 耐久力の限界を超え、何度目かの大きな絶頂の気配に恐怖とも恍惚ともつかない表情を晒すリムは自然とベッドシーツを握り締めた。
「ぉ……っ! そろそろ、こっちも逝かせて貰う。もっと強く締めてくれよ……?」
 そうして、ジョッシュもまた己の限界を知り、限界近く迄腰の動きを激しくてリムの膣を穿った。
「アニキ!! ぁ、アニキィ!!!」
 それが堪らないリムは悲鳴混じりの嬌声を上げ、身体を収縮させると、一気に弾け跳んだ。
「んああああああああ――っ!!!!」
「つうっ……!」
 同時に、限界迄搾られた膣がジョッシュの一物を強く抱き締める。それに引き摺られる様にジョッシュは精を放った。

「あっ……あはぁ……」
「ふうう。……よっと」
――ぬぽ
「んあぁ♪」
 射精後の気だるさを身体に行き渡らせながらも、ジョッシュはリムの中から己の分身を引き抜く。抜く時に敏感な場所を擦られたリムが鳴いた。
「・・・」
 抜かれた一物は半立ちで、滾った血の半分以上が抜けてしまっている様な頼りなさを見せ付けて来ている。
 装着していたサックの先端には射精した事を示す様に白く濁った液体が少量だが溜まっていた。
 若い盛りだと言うのにきっちり避妊をする辺り、ジョッシュはマメな部類に入るのだろう。
 ……否。或る意味、それが当然なのだが疎かにする輩は多いのだ。
「ん……」
 義妹の汁で滑る薄いゴムの皮膜を一物から引っぺがし、使用済みのそれの口を結んでジョッシュは床に投げ捨てた。どうやら、部屋が汚れる事については御構い無しらしい。
「此処迄、だな」
「ぁ……」
 一度だけ、ジョッシュは寝台に沈んだリムを見やると、その後は興味を失せた様に視線を壁にと向ける。
 そうして、ベッドの下を漁って灰皿と煙草、ライターを手繰り寄せるとそれに火を点けてスパスパ吸い出した。
 傭兵の紛い事をしている時から手放せないそれをジョッシュは滅多に人前では吸う事が無い。
 ……有るとすれば、それは彼が苛付いている時が殆どだ。
「アニキ……」
 当然、リムはその事を知っていた。長い付き合いであるジョッシュの癖など彼女にはお見通しだったのだ。
 此処最近、そんなジョッシュを見る事が日常的だったリムもまた、眉間に皺を寄せた彼を見るのはうんざりだった。
――好い加減にして欲しい
 敢えて火中の栗を拾う真似はしたくはないが、そうするのが今は正しいと思ったリムは寝台に身を横たえながら、ジョッシュが煙草を吸い終わるのを待った。


 彼等は普段から仲の良い兄妹だった。しっかり者の兄とドジで愛嬌ある、時々勝気で元気一杯の妹。
 南極に居を構え、インベーダーと戦いながら、その家を出た後も兄は妹を守り、妹も兄を支えながら生きてきた。
 断じて、最初から今の様に生臭い関係だった訳ではない。
 そうして、そうなってしまった原因と言うのは確かに存在したのだ。
 ……父親の手によるファブラ・フォーレスの解放と地球消失。
 宇宙(そら)に跳ばされた兄と欧州に跳ばされた妹。義兄妹は自分達の意思とは関係無く地球圏を取り巻く騒乱に巻き込まれた。
 その途中で出会ってしまった破滅の軍勢達。
 精神の共感と魂の共鳴。そして……拒絶。
 死の淵から生還を果たした二人は以前の彼等とは少しだけ違っていたのだ。
 ……求めたのは、果たしてどちらからだったのか?
 もう、そんな議論をする段階には無い事だけは確かだった。

「アニキさあ」
「む?」
 吸い終った直後、間髪入れず二本目を咥えようとするジョッシュの背中にリムは若干、鋭さが見える言葉を吐き掛けた。
「何時迄、そんなしけた面してる気なの?」
 リムが言いたい事はその言葉に要約されていた。
 色々と取り巻く状況は厳しいし、どうしたって心が荒れるのは理解出来るが、それでは周りとの摩擦が増えるだけだと言う事が理解出来ているリムは今のジョッシュが許容出来ない。
 元々が仏頂面で、表情のバリエーションが少ないジョッシュが不機嫌を隠そうとしないで居る事は、それだけで周囲にある種の威圧感を与えているのだ。
「どうでも良いだろ。そんな事」
 しかし、当のジョッシュはその事を気にする素振りすらない。
 普段の彼ならば真っ先に気にしそうな事だが、それが無いと言う事は、今のジョッシュが相当に重傷だと言う事の裏返しだった。
「良くない!」
「あ?」
 当然、そんな投げ槍な姿勢を見せられれば、幾らリムだってジョッシュに対し苛立ちを覚えるのは必至だった。
 リアナが前に出て来ているのだから尚更だ。リムは寝台から跳ね起きると、ジョッシュの肩を掴んで、無理矢理に向き直らせた。
「ここの処、ずっとじゃないの! アタシ達と居る時は特に!」
 ジョッシュがそうである様にリムだって色々と言いたい事が溜まってしまっている。
 しかも目に付くのは兄の不機嫌は自分と一緒に居る時が最も顕著だと言う事だった。
 ……不満があるのなら言って欲しいし、悩みの類ならば話しても欲しい。
 だが、ジョッシュは徒に臍を曲げるだけでちっとも話してくれないのだ。
 深い関係になったと言うのに、それが無性に悲しいリムは怒りの感情に身を任せる。

「考え過ぎだ。其処迄過敏に反応する事じゃないだろ」

 だが、妹の女心の発露を嘲笑う様に、兄は冷え切った顔と言葉で妹を斬って捨てた。
「……!」
「(リアナ! 駄目だよ! 抑えて!)」
 温度の差を感じさせるジョッシュの態度と振る舞いには流石にリムもグサリと来てしまった。
 泣き出しそうになるのを、手が出そうになるのをクリスの説得により何とか堪えたリアナは大きく深呼吸し心を平静に戻した。
「何なのよ、もう! …………はあぁ」
 此処まで兄が荒れるのは滅多に無い事だ。その理由についてを朧げだが理解する妹はそれに触れてみる事にした。
 最早、それ位しか出来ないのは分かっていた事だし、触れる事が出来るのも自分達しか居ない事も知っている。
 兄との接触により、心に浮かんだヴィジョンはそう多くは無いが、そのどれもが深い内容で、ジョッシュが荒れるには十分な理由に成り得たのだ。
 リムはそれを口にする。黙っている場面では無かった。

「父さんの、事?」
 リムが汲み取った中で一番強いイメージであり、恐らくそれが最も正解に近いモノだ。
 全ての根本に関わる事象、且つジョッシュが息子として責任を感じざる得ない事柄。
 仲間達に全てが明かされた今となっても、義理の娘である自分達ですらそれが原因で未だに眠れぬ夜を過ごす事がある程だ。その心労は想像を絶するのだろう。
「…………さあな」
「癇に障る態度ね、全く……!」
 一瞬、眉を動かしたジョッシュだったが、直ぐにリムの問いをはぐらかす。口元を歪めて薄く笑うと言うおまけ付だった。
 それが嘲笑に見えたリムは血が沸騰するのを確かに感じた。蓋をした怒りが溢れ出し、言うつもりは無かった言葉を喋らせる。
「じゃあ、きっとあの人の事ね! ……そうなんでしょう!?」
 父親の事以上に触れるのが憚られる、或る意味での禁忌だった。心の何処かに何時もついて回っていた負い目にも似た感情。
 お互いにとっての運命の分かれ目だったと言っても良い、過ぎ去った出来事が未だに義兄妹を縛っていた。
「何?」
 流石のジョッシュも驚いた顔をしてリムを見やる。このタイミングで触れてくるとは思わなかった故に、完全に意表を突かれた台詞だった。
 そうして見やったリムは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「グラキエースの事。あの人が心から離れないんでしょ……?」

「待て。何を言って……リム?」
 何故、妹がそんな事を言い出すのかが兄には理解出来なかった。
 ……ジョッシュとしては忘れたい過去。だが、消そうと思っても完全には消せないトラウマにも似た心に付いた染みだ。
 シュンパティアを通して繋がった、氷の名を冠した女。上位存在を名乗る歪な心を持つ人の形を模した何か。
 当然、ジョッシュもリムもその末路については知っている。
 その女は機能不全を引き起こした欠陥品として、アイスランドの施設と運命を共にしたのだ。
「アタシ達じゃあ、代わりには、ならないのよね」
「……っ」
 その言葉には恨みや悲しみと言った負の感情の他に、どうにもならない事に対する諦め、そして羨望や憧憬にも似たモノも含まれている様にジョッシュには感じられる。
 代わり、と言う言葉が指すモノの意味が知れたジョッシュの顔が醜く歪む。よもや、リムがそんな闇を抱いているとはジョッシュとて見えない事柄だったのだ。
「それでも構わないって思ってたけど……やっぱり、辛いよ」
 身体で繋がり、心にも触れている筈なのに、完全には見えなかったリムの心の底だ。
 それを垣間見させられたジョッシュの心に罪悪感が沸き立ち、堪らない気持ちにさせた。

「リム……いや、リアナ」
「え」
 だが、ジョッシュの内に現れたのは決して罪悪感だけではなかった。
「それが、お前とクリスの総意なのか? 本当にそう思って?」
 燻り始めたそれをそのままにし、ジョッシュはリムを正面から見据え、真剣な顔で問うた。
「それは」
「(お兄ちゃん、怒ってる? リアナ、これ以上は……)」
 それは純然たる怒りの感情だった。そして、その全ては目の前の妹に向けられたモノだ。
 クリスもそれには気付いた様で、明確な怯えをリアナに伝える。
「(黙って)……そうよ。そう思っちゃうよ。アニキの態度を見てると」
 しかし、リムは引き下がらない。クリスはそうでもないが、少なくともリアナには下がる気等毛頭無かった。
 ジョッシュが怒っていようが関係無い。一度堰を切った不信感はそう簡単には拭い去れないし、恨み言の一つだって言ってやらねば収まりが付かないのだ。
 深く交わりながらも、その心にあるのは既に存在しない別の女の影。クリスもリアナもそう思っているのは間違い無い事だった。
「そっか。そうなのか。……はは、参ったな」
「っ!」
 リムがそう言い切ると、ジョッシュは今迄の不機嫌な顔が嘘だった様に顔全体に笑みを満たした。
 だが、それが異質な事と気付いたリムは背筋に冷たい物が走るのを確かに感じた。
 その顔は確かに笑っていた。だが、その目は凍り付く程に冷たかったのだ。
 怒りに燃えながらも、こうも冷たい瞳が出来る兄に妹は触れてはならない物に触れた事を知ったが、全ては遅かった。
「なあ、リムよ」
「な、何よ」
 そして、ジョッシュは笑い顔をリムの鼻先に近付け、こう言った。

「自惚れるのも体外にしろ、餓鬼」

「ひっ」
 引き攣った声がリムの喉を通過する。言葉と同時に笑っていたジョッシュの顔は崩れ、憤怒と侮蔑に満ちた感情をそのまま映した様な空恐ろしい顔に変わっていた。
「俺が何時、お前を代わりに扱ったって? 馬鹿を言うな。お前はお前で、アイツはアイツだ。代わりに何て成る訳無いだろうが」
「だ、だって……それ、は」
 口調は荒くは無いが、それでも低くて良く響くジョッシュの声が殊更恐怖を煽って来る。リムは声を震わせながらそう言うのが精一杯だった。
「その台詞はそっくり返そう。寧ろ、重ねているのはお前の方だってな」
「な……! っ、何を」
 そして、ジョッシュもリムと同じ様にまた、言ってはならない言葉を吐き捨てる。
 売り言葉に買い言葉。兄妹喧嘩には良くある話だ。
 そして、怒りと言う感情に支配された者は衝動で動く事は常だ。例えそれが相手を傷付けるモノだったとしても、大抵の場合はそれに気付けない。
 ジョッシュだって例外ではなかった。

「俺はあの男……ウェントスじゃあ、ない」

 リムと繋がったメリオルエッセ。風と言う名の最初の上位存在。
 出来損ない、失敗作と他のメリオルエッセからは淘汰されて来た男もまた、グラキエースと共に自らの望みの通りに消滅していた。

「その顔……図星か?」
 歪んだリムの顔を見て、ジョッシュは口の端を釣り上げる。
 ジョッシュが言いたいのは、リムがその男を自分に重ねているのでは? ……と言う事だ。
 そう思っているからこそ、グラキエースの事も引き合いに出すと考えたからだ。
 そして、ジョッシュはそれが正解だと思った様だった。
「ち、違う! そんな事思って無いよ!」
 だが、リムは当然反論する。
 竦んでいる場合ではないので出来うる限り大きな声で叫ぶ。それだけはどうしたって訂正したい事柄だった。
「どうだかな」
 そんなリムの言葉は届かなかった。猜疑心塗れのジョシュアは完全に臍を曲げていた。
「本当に、本当に違うの! 信じて!」
「馬鹿らしい。信じられるか。……お前と一緒だぜ」
 閉じた心とはこう言う状態を言うのかと、妹は涙を堪えきれなくなる。自分の本心を何とか伝えようと必死になるが、兄は依然としてそれを聞こうとはしなかった。
 同じだ、と言われてリムは自分の浅はかさを呪った。
 信じ切れていなかったからこそ、禁忌に触れてしまった。その時の自分と今のジョッシュは全く同じだったのだから。
「……っ! くっ、うぅ……」
 そうして、とうとう堪えていたものが噴出した。目から伝うそれは流れを刻んで頬を伝う。
「う? なっ……おい? ちょ……!」
「アニキの、馬鹿ぁ……!」
 ……泣かれた。
 リムの本気の涙に狼狽した様にジョッシュは言葉にならない言葉を発しておたおたしだした。
「チッ……ったく。これじゃ、どっちが餓鬼だか判りゃしねえな」
 そうして、少しだけ頭の芯が冷えたジョッシュは自分の馬鹿さ加減に嫌気が差した様に溜息を吐く。
 ……一体、何をやっているのだろう?
 そう考えると、頭を占めていた怒りやら苛立ちは次第に薄れていった。
 こんな事をしたかった訳ではないのだ。


 兄妹がグラキエース、そしてウェントスと出会ったのは太平洋の火山島で早乙女博士と決着を付ける直前だった。
 暗く冷たい想い。死と破壊を誘う衝動のみを与えられた、凡そ人とは思えない心を持った歪な存在。それがグラキエースと言う女だった。
 それとは逆に、破壊や負の感情を求める意思が見えない、只管に幽寂、且つ無垢な心を持っていたのがウェントスと言う男だ。
 同じ存在……家族やら兄妹とも言えるかもしれない間柄にあって、全く真逆な属性を持つこの二人はシュンパティアを通して、ジョッシュとリムの心とリンクした。
 一時的に双方の心は繋がったが、その後にリムは南極調査隊の護衛としてブルー・スウェアを離れ、ジョッシュは中核メンバーとして部隊に残った。
 ……それから暫くして、ジョッシュは降下したモトラッド艦隊を追って再び地球に降りた。
 その後に再び、ルイーナと対峙したジョッシュはグラキエースのみならず、不在であるリムの代わりにウェントスとも接触を持った。
 一方、リムの方でも、彼女がウンブラに敗北を喫する迄の間、やはり氷と風との間に一悶着あった様だった。
 怪我を負ったリムが部隊に合流し、お互いの無事を喜んだのも束の間、事象は急速に収縮を始めた。
 それはOZ地上軍がアイスランドにルイーナの生産拠点発見した事に端を発する。
 其処で彼等を待ち受けていたのはアクイラとコンターギオ。そして、センターコアとしてシステムに組み込まれたグラキエースとウェントス。
 悪意も、生への執着も無い彼等の心がシュンパティアを通して変性してしまった故だ。
 不完全な心に完全な人のそれが触れた為に起こった悲劇。
 その結果、在り得ない筈の機能不全を引き起こしたグラキエースは、ウェントスと共に廃棄処分される運命を当然の様に受け入れていた。
 壊れた人形は捨てられるのみだと、グラキエースはその事に何ら疑問を持っていなかった。
 そして、それを認識し、未来も現在も過去も自由にならない事を憂いていたからこそ、ウェントスは己の消滅と引き換えに呪縛からの解放を望んでいた。
 ……そんな歪な魂の在り方に違う方向性を示してやれるのはジョッシュしか居なかった。少なくともその時はだ。戦列に復帰出来ないリムにはどうやっても無理だった。
 そして、その結末は……。

「そう思われてるとは、心外だったな」
「あ……」
 そっと。ジョッシュはリムの背中を抱き締めた。その突然の抱擁に些か吃驚した様にリムは身体を震わせるが、直ぐにそれに身を委ねた。
「でも、確かにこっちにも誤解させる要素はあったよな。……悪かったよ」
「アニキ?」
 今までの態度とは打って変わって優しげな兄に妹は内心、喜びつつも疑念が尽きなかった。
 何だっていきなり態度が豹変するのかが理解出来なかったからだ。
 無論、それはリムが見せた涙にジョッシュが反省を促されたからであるが、リム自身はそれに気付いていなかった。
「正直言うとさ。確かに、完全に吹っ切れた訳じゃない。
 後味の悪さは残ってるし、他にやりようが有ったんじゃなかったかって今でも思うよ。でもさ……」
 リムの言う通り、ジョッシュの心には未だにグラキエースの影があった。
 だが、それは面影と言うか触れた心の残滓の様な物で、ジョッシュとしては何時までも引き摺る程の過去では無いと半ば受け入れている。
 リムとしても同じだ。ウェントスの事は思い出したく無いが、それでもその痕跡を心から消せなかった。
 仕方の無い事だった、と割り切る必要性が生じているが、それでもそう出来ないのは二人の感傷なのかも知れない。
 或いは……それが彼等が残した呪いだと考えれば納得が行く。
 若しそうなら、それは恐らく生涯消え去る事は無いのだろう。
「でも……?」
 ジョッシュが語ろうとしているのは今までリムには言わなかった心の内だ。
 そうしなかったのは、リム自身がとっくに知っている事柄だと思ったから語る必要性が見出せなかったのだ。
 ……否。実際はそんな上等なものではなく、単に素直になれなかったからだけかも知れない。
 だが、もうそんな事は言っていられない。だからこそ、ジョッシュは素直にそれを曝け出し、リムの耳元で囁いた。

「俺の心にあったのはお前なんだ。アイツ等に芽生えつつあった心を拒絶してまでさ」

「っ」
 その言葉が真実。リムは瞬間目を見開き、息を飲んだ。


 本物の人間との心の共有によって、仮初の肉と心の寄せ集めである上位存在に、人のそれが生まれつつあった事はジョッシュもリムも何となくだが判っていた。
 グラキエースもウェントスも認めないだろうが、それでも彼等は宿命からの解放を、そして生の謳歌を何処かしら望んでいたのだ。
 その心の叫びはジョッシュとて無視出来るモノでは無かったが、それでも彼の心にあったのは何時もリムだった。
 何時から意識し始めたのかは大した問題ではない。重要なのは、その想いが氷と風に向けられる憐憫にも似た情に比べて遥かに強かったと言う事だ。
 その想いが邪魔したのか、それとも功を奏したのか、ジョッシュはメリオルエッセの心に深く踏み入るチャンスを目前にしながらも、シュンパティアをカットして彼等との接触を拒絶してしまった。
 そしてその直後、ブルー・スウェアに合流してきた怪我を負ったリムの姿を見て、ジョッシュは己の心を理解するに至る。
 後は簡単だった。

「だから、引鉄を引いた」

 あの時、負の感情の奔流に満たされつつある施設内でジョッシュは味方を撤退させ、一人だけその場に残った。
 死者の想念と負の感情による強固なフィールドに機体が捕まるのも省みず、コアに繋がれたグラキエース達からルイーナの情報を聞き出したかったのだ。
 だが、そんな危険を冒しても結局、末端と変わりない彼等からは必要な情報の一切を聞きだす事は叶わなかった。
 そうして、何時まで経っても出て来ない兄を心配した妹は怪我をしているにも関わらず死線に飛び込んだ。

『アニキが居なくなったら……アタシ達、どうかなっちゃうよ』

 その言葉にどれ程ジョッシュの魂が振るわせられたのか、本人以外は知り得ない。
 ジョッシュだって男だし、情に絆される事もある。あの世とこの世の境目でそんな熱い想いを聞かされては、厭でも思ってしまうだろう。
 ……この女は死なせない。絶対に生きて帰る、と。
 だが、それでも制限時間が迫ってきていたのは事実だった。機体は碌に動かず、脱出するにはコアを破壊してシステムを止めるしかない。
 ジョッシュはそれを猶予う事は無かった。

『諸共に死にたくなければやるんだ! 躊躇わずに!』

 最後の最後にウェントスが叫び、それが合図になった。
 ジョッシュはリムの見ている前でグラキエースとウェントスを……祭壇にくべられた生贄であり供物を打ち抜いた。
 皮肉にもそれは、ウェントスの望みをリムに代わって叶えた事になったのだが。

「ひょっとしたら、俺とお前のどっちかが居なくなってたかも知れない。
 だから……こうやってお前と抱き合ってさ。一緒に戦えてるって、俺にとってはそれだけで嬉しいんだ」
「え……?」
 こうしてお互いに生を繋いでいるのは奇跡に等しい。どちらかが……否、両方があの施設と共に心中していてもおかしくない状況だった。
 それを乗り超えてからは確かに、二人の関係は変わったのだ。
 こうやって情を重ねて、共に戦場を駆けるのが嬉しいと言うのは一昔前のジョッシュでは考えられなかった変化だ。
 リムが戦場に出る事はジョッシュとしては無視出来る事では無かった。
 それこそ、命の危険は無数にあるし、生き残れたとしてもその両手を厭でも血に染める事にもなってしまう。
 だが、少なくともジョッシュは今の状況を受け入れていた。ずっと一緒に支えあって生きてきた二人の絆の強さは無敵だと信じている。
 共に汚れ堕ちるならば、それも一興だとすら思っている程だ。
「前はお前が戦場に出るってのは反対してたけど、今はお前の存在が大きな支えになってるんだ。……いや、最近じゃあお前に甘えてばかりだな」
「そ、そっか」
 そんな自分の気持ちを認めてしまえば随分とジョッシュは楽になった。その所為で、他人には見せられない姿を曝け出す様にもなった。
 リムの前では眉間に寄った皺が増えるのも、それは生の感情が露になっているだけであり、決して辛く当たろうとしている訳では無い。
 リムにだけ見せている本来の顔であり、同時に構って欲しい事の裏返しでもある。甘えていると言うのはそう言う事だ。戦場だけに限った話では無い。
 此処に至りやっと、リムはその意味が理解出来た様だった。
「何だかんだで、リムは俺の好きな娘だからさ。代わりに何て、本当に思ってないんだ。そんな根拠に弱い理由じゃあ、義理でも妹とはこんな事は出来ないぜ」
「ふえっ!? やっぱり、そうだったの? アタシ達の、妄想じゃ無かったんだ//////」
 そうして、看過出来ない台詞が吐かれ、リムは全身を真っ赤に染める。
 今迄一度たりとも明確な好意の台詞を聞いた事が無かったリムにとっては非常に破壊力のある言葉だった。
 実際、妹は兄の気持ちは何となく判っていた。肌を重ねる度、情を重ねる度にその想いが身体に流れて来たからだ。
 が、それを素直に受け止める程、彼女は育ちが宜しく無い。幻想だ、錯覚だとそう思い込みながら、それでも兄のその気持ちが真であれと願っても居た。
 そして現実は……リムの願い通りだった。
「お前達の気持ちは知ってた。だから、俺も口に出して言わなかったけど……やっぱそれじゃ駄目だったみたいだな」
「アニキ//////」
 ジョッシュだって同じだ。リムの好意を知りながらも、それに胡坐を掻いて自分の気持ちを表そうとしなかった。
 もっと早くにそれを口に出していれば、今回の様に拗れる事も無かったかも知れない。
 だが、それはジョッシュの持つ抱え込む性分を考えれば、彼が素直になれない事もまた当然だった。
 変な所で子供っぽいと言うか、天邪鬼とも言えるそれに気付けなかったリムはそれを恥じながらも、兄の言葉に身体を熱くしていた。


 施設のシステムを破壊しても、蓄積されたエネルギーは臨界に達していた。
 解放されたそれに曝される直前、ガナドゥールとストレーガのシュンパティアは共鳴し、ガナドゥールの行動不能状態を解いた。
 そして、二人はギリギリの所で施設から脱出すると言う奇跡を起す。
 その後、気が付いた時、二人は医療タンクの中だった。爆発の直撃を回避はしたが、その余波により瀕死の重傷を負ったが故だ。
 そして、敷島博士が軽井学の作った治癒力を高める試薬を勝手にタンクに混入した為に、二人はエリオス人並の治癒力を手に入れ、僅か数日で復活を果たすと言う離れ業をやってのけた。
 ……変化が見られたのは其処からだ。何となくだが、お互いに考えている事が判る。
 グラキエースやウェントスの間に見られた様な強い繋がりでは無いが、確かに心の何処かが繋がっている気がしていた。
 距離の概念があるのか、少し離れれば曖昧になってしまう希薄な繋がり。だが、直接触れれば……粘膜的な接触であるならば殊更心身の連結が際立つ。
 当然、考えている事なども全てではないが伝わってきた。
 それなのに、今まで二人がそれを認知しなかったのは擦れ違いがあったからだ。
 ジョッシュは知っていながら黙っていたし、リムに至ってはそれを否定したかったのだから。

「俺とお前がウェントスやグラキエースと繋がったみたいに、今は俺達が繋がってるんだよ」
「そうなんだ。アニキと、アタシ達。……何か、恥ずかしいね」
 お互いに気持ちが判っていた理由はそう言う事だ。
 シュンパティアを通じた感応には相性があるが、ジョッシュとリムがそれに至ったのは二人の間の絆が熟達した事に他ならない。
 今迄有った家族愛を超えて、お互いの存在を求めたが故にシュンパティアはそれに応えた。
 リムが恥ずかしいと言うのも納得だ。
 完全ではないとは言え、こうやって抱き合う間柄である以上は隠したい事も嘘も、淫らな欲望迄その殆どが相手に知られてしまうと言う事なのだから。
「……最近じゃ、矢鱈甘い物とかゲテモノが好きになって来たしな」
「ええっ!? アタシ達も、最近苦いコーヒーや薄いココアの方が好きになって……」
「だろ? 冗談で済ませたい処だけどな」
 そうして、そうなってしまった事には色々と弊害が付き纏う様だ。
 自他の境界が曖昧になり、自身の価値観やら知りえない知識の共有等が起こっている。
 お互いの趣味がごっちゃになって来ているのが良い例だろう。
 今はこの程度で済んでいるが、シュンパティアを積んだあの機体に乗り続ける限りは、この弊害は緩やかに強まっていくに違いない。
 だが、それを考慮しても尚、この魂の共鳴にはとてつもない利があるのだ。

「えと、あの……ぁ、アニキ」
「何だ?」
 互いの気持ちは判った。
 ジョッシュが口に出してくれたからこそ、より深く心に刺さったその言葉に込められた感情が、リムの鼓動や思考を加速させる。
 その勢いに乗って、リムもまた自分に正直に言った。
「アタシ達も! アニキの事、大好きだから//////」
「ああ、知ってる。でも、ありがとな。こう言うのは、ちゃんと口に出す冪だよな」
 クリスも、リアナも。クリアーナと言う女はジョシュアと言う男が好き。
 リムは赤面しながらも確かにそう言い切り、そしてジョッシュもそれに微笑んだ。
 ……義理の兄妹だが、それを超えた想いが確かにある。それを放置する事は双方にとってはもう苦痛だった。
 だからこそ、お互いにそれを受け入れるのだ。
 交わされた想いの結実は異性に対する愛情と言う形となって現れる。
 義兄妹で好き合う事に対し、二人は今更疑問を持たなかった。
「うん。だから、さ。アニキ」
「え」
 ジョッシュの言葉は正論だった。想いは口にしなければ伝わらない。心が触れていようが、考えが読めようがそれは変わらないのだ。

「も、もう一回、言って欲しい。好きだって」

 だからこそリムはもう一度、それを表すジョッシュの言葉が欲しかった。

「……っ//////」
 義妹なりの可愛いおねだりだ。それに一瞬クラッと来た義兄は途端に真っ赤になってしまった。
「ねえ、お願い」
「な、何度も言えるか! そんな恥ずかしい台詞……!」
 もう一度言うのが純粋に恥ずかしかった兄は首を縦には振らなかった。
 素直になれない訳で無いが、羞恥心を捨て切れない事は或る意味でジョッシュの持つ可愛さであろう。
「ちえっ。残念」
 妹は少しだけ無念に思ったが、ジョッシュを困らせる気にはなれないので、それ以上その言葉を求める事はしなかった。
 言葉には出なくとも気持ちは知っているし、何時か別の機会にそう言って貰えればリムとしては十分だったのだ。
「それでも……ちゃんと、伝わったよ。今もアニキの想いが流れて来てる」
「あ、ああ」
 逃げる様に寝台に潜って、タオルケットを頭から被ったジョッシュは妹に背中を向けた。
 そんな兄貴の隣に潜り込んで、リムはジョッシュにそっと抱き付く。
 お胸の感触が背中に伝わってきた事に少しは慌てたジョッシュだったが、それは理性が崩される程の事では無かった。

「でもさ……父さんの事、本当は悩んでるよね。アタシ達以上に」

「うっ」
 それ以上に聞き逃せない台詞が吐かれ、ジョッシュが明確な狼狽を露にする。
 何だかんだでうやむやになりそうだったが、ジョッシュの不機嫌の理由は未だに解決されていない。
 父親との決着が近いと言う現状は変わらずに、それは未だにジョッシュの心に重く圧し掛かっている。
 ジョッシュに触れる限り、リムにはその事が厭でも判ってしまう。
 もう一度だけその事をジョッシュに聞いてみた。
「……筒抜けか。そりゃあ、そうだよな」
「うん。アタシ達も、ね」
 お互いに隠し事が通用しない事にジョッシュはとうとう諦めた。だが、それだけだ。
 ジョッシュは何も言わなかった。……言わなかったが、リムにはジョシュアの持つ迷いやその他の複雑な感情の一部が見えていた。
 だから、リムはそれを受け入れる事にした。兄には兄なりの葛藤があり、自分はそれを支えるだけで良いと思ったのだ。
「……多くは言わないつもり。でも、約束して。一人で抱えちゃ、駄目だよ?」
「……そう言う気遣い、素直に有難いよ」
 リムもまた口には出さないが、ジョッシュだってリムが向けてくる心が感じられている。
 好きにさせる事と引き換えに、自分達を頼ってくれと心に訴えるリムにジョッシュは頭が下がりそうになった。
 男を男として生かし、また立ててくれるリムはジョッシュにとっては確かに大きな支えとなっている。
 自分達だって辛い筈なのに、それでも優しさを注いでくれるリムに、ささくれ立った心が少しは癒された気がしたジョッシュだった。

――だがそれでも彼の抱える闇は尚大きかったのだが

 ……それから数日が経過し、地球圏へと舞い戻ったジョシュア達を待ち受けていたのは破滅の軍勢による最後の抵抗だった。
 地球を再び閉ざし、破滅の王をこの宇宙に呼び込む事を阻止する為にブルー・スウェアは南米・パラナ川流域のルイーナの拠点を急襲。
 施設を破壊し、或る程度の時間を稼ぐ事に成功する。
 残るは最大にして最後の拠点。ルイーナの本拠地である南極の遺跡。
 ジョシュアとクリアーナは最終戦に臨もうとしていた。

――戦艦ラー・カイラム 展望室
 目的地の到着迄、一日を切った。
 フォークランド諸島を通過し、南極半島の先端にブルー・スウェアは差し掛かっていた。
 展望室の窓からは行進を祝う紙吹雪の様な雪が舞っているのが見える。
 凍える様な冷気が心臓すら氷付かせる様な錯覚を与えてくる。
「……遥々帰って来ちまったな、南極へ」
「うん。本当は、来たくなかったけどね」
 上からの命令で原則としてパイロットはあらゆる作業が禁止されていた。
 各自が決戦に向けての準備、若しくは最後の時を過ごしている中、ジョッシュとリムはたった二人、義兄妹水入らずで時を待っている。
 ……艶っぽい展開の一つや二つ出そうなモノだが、残念ながら二人の間にあったのは重苦しい空気だった。
「話を聞く限りじゃあ……親父、既に死んでるっぽいがな」
「鵜呑みにする訳にはいかないけど、そう考えて良いのかな? こうなっちゃったら」
 破滅に魅入られた生命体は、その?は残っても魂は喰らい尽くされ、何処にも残らないとシビルは言っていた。
 破滅の王とやらこの宇宙で最初に接触した生命体がフェリオだとするならば、既にその男は死んでいる事になる。
 真偽は定かでは無いが、今の所それが最も確率が高い事象だった。
「まあ、親父が生きてて、正気だったとしたら……こんな事をする理由は無いけどな」
「だよね。じゃあ、お父さんはやっぱり……」
 例え、フェリオが命を繋いでいて、その上で騒動を引き起こしたとするならば、もうフェリオがまともな状態でない事は間違い無い。
 幾ら、研究に取り憑かれた男であっても、破滅の軍勢を率いる様な分別の無い真似はしない事を息子と義娘は知っている。
 それが自分の意思か、精神操作の類か、はたまた魂の無い死体が操り人形になっているだけなのか……今となってはそれを議論する場合では無い。
「どっちにしたって、斃す他は無いな。生きてようが、死んでようがに関わらず」
「・・・」
 正解がどれにせよ、フェリオを放って置く事はもう出来ない。これだけの惨劇を引き起こした傍迷惑な親父を捨て置く事だけは天地が引っ繰り返っても在り得ない。
 もう既に、ジョッシュもリムもその辺りの覚悟は決めていたのだ。
「憐れなもんだ。死して尚、その骸を利用されてるかも知れないんだからな。いや……それとも、生きながら木偶人形にされてるだけか?
そのどっちでも素晴らしくて涙出てくるぜ」
「お兄ちゃん! 幾ら何でも、それは……!」
 死んでいると仮定すれば、今の父親は哀れだ。生きていても、操られてこんな真似をさせられているならば、それはもっと最低に憐れだろう。
 だが、それが彼の好奇心の代償だとするのならば、同情の余地は何処にも無い。
 自分だけでなく、周りの者をも巻き込んだ父親の馬鹿さ加減にほとほとジョッシュは呆れていたのだ。
 リムは言葉が過ぎると思い、ジョッシュの台詞に文句を言う。
 確かに、言いたい事は尤もだが態々口に出して言う必要も無い事だと、胸に仕舞っておいて欲しかったのだ。
 そうでなければ、リムが蓋をしていた色々な感情が中から溢れそうになるからだ。
 断じて、父親を擁護する気はなかった。

「だからこそ」
「え?」
 ジョッシュの続きの言葉が紡がれる。
 別に今のは父親を貶すだけの言葉ではない。その半分以上は……そう思う事でこれから自分がやる事を正当化しようとする心の表れだった。

「ちゃんと、葬ってやらないと。これ以上、悪行を重ねる前に。その存在が穢れる前にな」
 
 ……父親を殺す事。魂は死んでいても、その肉体を殺す。生きていても、やっぱり殺す。
 それが、フェリオに許されたたった一つの贖罪であり、解放なのだ。

「……っ」
 肉の呪縛を解き放たれれば、フェリオの魂は神の御座に召され、裁きを待つのみ。
 既に魂が喰われていると言うのなら、その朽ちぬ屍を支配から解き放ち、埋葬するだけだ。
 理解はしていた事だが、それが眼前に現れれば、覚悟が揺らぎそうになるリムだった。
「それが責任だ。俺が、負わなくちゃならないさ」
 それが、あの父親を持った息子の果たす冪責務だと、ジョッシュは信じて疑わなかった。
「……それは、違うよ」
「何?」
 ……その言葉に込められた悲しい決意。
 リムはそれが痛い程判っていたからこそ、口を挟まざるを得なかった。
 ジョッシュは慌てて聞き返す。
「お兄ちゃん、もう忘れてる。抱え込まないでって、前に言ったでしょ?
一人でどうにかしよう何て、それは違うよ」
「だが……」
 責任と言う言葉に押し潰されそうになっているジョッシュは危険な兆候にある事をリムは見逃さなかった。兄の考えなど、妹にはお見通しだ。
 ジョッシュはそれに反論しようとしたが、リムにそれを止められた。

「自惚れちゃ駄目」

「う」
 矢の様な言葉がジョッシュの心にグサリ、と刺さる。
 心に沸き立つ不安感やら迷いを断ち切って漸く至った決意をただの自惚れと一蹴された事もそうだが、何よりもリムにそう言われた事がジョッシュにはショックだった。
 そのダメージは思いの外大きく、ジョッシュは血を吐きそうになった。
「気負って勝てる程、甘い相手じゃないよ。それにお兄ちゃんは……一人で戦ってる訳じゃない。それを忘れないで」
「リム……」
 リムとてジョッシュにこんな厳しい事を言いたい訳ではない。
 ただ、戦場では妄執に囚われた人間から死んでいく事を経験的に判っていたリムだからこそ、ジョッシュには思い直して欲しかったのだ。
「そんな事言ったら、皆怒るよ? ギュネイさんや鉄也さんは特に」
 自分達は、一人で戦っている訳ではない。多くの人間の力を借りて自分達が此処迄来れた事を忘れてはならなかった。
 今の言葉を聞いたら、ジョッシュと懇意である似非ニュータイプや戦闘のプロは激怒する事だろう。
 築いた信頼を崩して迄拘らねばならない想い等、溝にでも捨ててしまえとリムは暗に言っている様だった。

「……判ってる。判ってるよ、本当は。でもさ……」
 ジョッシュも心の中では理解していた。最早、一人で収集を付けられる状況では無くなっている事を。
 だが、それでもジョッシュは責任と言う名の脅迫観念を捨てられないでいた。
 この手で決着を付けねばならないと言う想いに突き動かされている様だった。
「それならせめて……私達だけでも頼ってよ」
「!」
 無論、簡単に兄が拘りを捨ててくれるとは思って居ない妹は妥協案を出した。
 一人気負って戦うなと言う意味では、味方が一人でも居れば状況は大分マシになる。
 リムなりの精一杯の譲歩だ。
 ジョッシュの顔には苦痛と共に悲しみが浮かんでいた。
「私達もお父さんの子供だよ? 血は繋がってないけど、そう思ってる。
お兄ちゃんが背負うなら、私達も背負うのが当然でしょう?」
 ……妹の言葉が遠い。
 耳に入るのは何処の国の言語とも付かない凡そ理解出来ないノイズ混じりの声だ。
――やっぱり、こうなったか
 引いていく血の気と共にジョッシュの頭を占めたのはそんな言葉だった。
 どうしてこんな事に……と過去を呪っても現状は変わらないが、それでも思わずそう考えたくなる程、ジョッシュの心は悲鳴を上げていた。
 そうして、過冷却され、凍り付いていく脳味噌に冷えた血を回して何とか思考のブレを取り除いたジョッシュは小さく、それでもはっきりと呟いた。

「それは、駄目だ」

「ええ!?」
 明確な拒絶な言葉だった。それが信じられないリムはそれが聞き間違いと思いたかったが、残念ながらそうではなかった。
「それだけは……それだけは絶対に許可出来ない。父親殺しの罪、今迄やって来た殺生とは訳が違う」
 それは、父親との対決以上にジョッシュが避けたかった事だ。
 もう、リムの全身が血に染まっている事をジョッシュは知っているし、それが洗い落とせない程の量に達している事も知っていた。
 自分がそうだし、それを許容してしまった時点で覚悟していた事だった。
 許しは請わないし、懺悔する気も更々無い。生きる為にやってきた事だと寧ろ、正当化されて然るとすら思っている事だ。
 ……だがそれでも、リムにだけは父親の血は吸わせたくない。
 尊属殺人になるかは微妙な所だが、後々になってそれが大きな心の傷になる事をジョッシュは見越していたのだ。
 兄としての妹への気遣いと言うには間違っているかも知れないが、何を言われようともジョッシュはそれだけは曲げたくなかった。
「そんな……」
「これだけは譲れない。……親父が原因で始まったんだ。
我儘だって知ってるけど、俺がこの手で終わらせなくちゃならない事なんだよ」
 他人に父親の首をくれてやるなぞ以ての外。妹の手を汚させる事はそれ以上に在り得てはならない。
 これは俺の役目。……そんな言葉でリムが納得するとは到底思えない。
 だがそれでも、今はそれを通すしかなかった。

「……やだ」
 当然、リムはそれに抗った。
「え――」
 俯いて、搾り出す様に言ったリムに只ならぬモノを感じたジョッシュは悪寒に身を震わせる。
 そうして、顔を上げたリムは大きな声で叫んだ。
「厭だよ! そんなの!」
「リム……っ!」
――ドンッ
 その迫力に気圧される暇も無く、リムは両拳で胸板を叩いてきた。
 その衝撃に身体をよろめかすジョッシュだったが、何とか倒れる事だけは耐えた。
「勝手に決めないでよぉ! 何処まで一人で格好付ける気なのっ!?」
「っ」
 遠慮無しに拳を叩き付けるリムは半分泣いていた。
 普段はおっとりしていて大人しいクリスが此処迄の怒りを発露させるなど、ジョッシュとて殆ど経験に無い事だ。
 逆鱗に触れ、本気で怒らせてしまった事にジョッシュはうろたえながらも、リムが落ち着くのを只待った。

 ……散々に喚き散らし、腕を振り上げる事も億劫になったのかリムは沈黙し、その額をジョッシュの胸に当てて身体を預ける。
 そして、内に在る闇を纏ったかの様なとてつもなく重い言葉を吐き捨てた。
「汚れるのは自分だけで良い何て本気で思ってるなら……お兄ちゃんの事、許さないから」
「・・・」
「私も、リアナも」
 恨み言であり、また兄を呪う言葉であるそれ。しかし、その中には一抹の情が見え隠れしている事がジョッシュには知れる。
 それこそが妹の心の底である事に兄は居た堪れなくなってしまう。
 リムの為にそうする事が正しいと思った。だが、そんなモノは結局独り善がりに過ぎない愚考だった。
 そんな事は他ならぬリム自身が望んでいなかったのだ。
「何もかも、お兄ちゃん一人に背負わせない。お兄ちゃんが譲れない様に、私達もこれだけは譲れないよ」
 その言葉は実に素直にジョッシュの心に届いた。
 ……同じ境遇にあって、ずっと一緒に生きてきた自分達はその末路だって揃って同じだとリムは思っている。
 此処に至って仲間外れにされる事は許せないし、汚れ役を買って出る真似もさせたくなかった。
 行き着く先が冷たい墓場の中でも、そこにジョッシュと一緒に入るのならばリムは怖くなんかなかった。兄から放り出される事に比べれば遥かに生易しい事柄なのだから。
 ……共に同じ罪を背負う。その為に父親を手に掛ける事だって恐れない。
 些か倒錯しているが、リムは疑問など感じない。それ程に、彼女は病んでいる。

「俺は……」
 そして、病んでいるのはジョッシュとて同じだ。
 妹の事を考えて……そんなお題目を唱えながらも、結局の所それは私怨に過ぎない。
 父親に対する複雑な感情は殺意が伴う責任感と言う形になって既に現れてしまっているのだ。
 幾らそうする必要があると言っても、父親殺しを自分の手で成す事に執心している事が歪たる証拠だ。
 普通ならば、他人の手に委ねたいと思うだろう。責任なんて誰にとっても曖昧な言葉や、息子だからと言う安直な理由ではそれを成す事なぞ出来やしない。
 為らば、何故それに拘るのか? ……答えは簡単だ。殺す以外に目的があるからだ。

 ……自分の手で父を始末する事で、自分に向けられている批難の視線や言葉を封じ込める為。

 犯罪者の身内を持つ家族の感情そのままだ。贖罪行為を行う事で全ての禍根を断ち切りたいのだ。
 全てはジョッシュの都合だ。
 そんな御為倒しが同じく病んでいるとは言え、正論を含むリムに通る筈が無かったのだ。
「皆と一緒に、戦おう? それが無理なら、私達だけでも連れて行って。私達だって同じ事を……考えなかった訳じゃ無いんだよ?」
 シュンパティアを通じて繋がっている二人には隠し事は無意味だ。
 そんなジョッシュの打算に塗れた真意にはリムも共感を覚えていた。同じ事を考えたのだから当然だった。
 しかし、リムはそれが不毛だと気付いたからこそ、贖罪の感情は既に捨てている。今の自分に出来る事をする為に、最後の戦いに臨もうとしている。
 父親の事を意識していない訳では無いが、それでも仲間達、兄と一緒に戦って生き残るヴィジョンをリムは見出しているのだ。
「そう、か……」
 その拘りを捨て切れないジョッシュだけが、迷妄に囚われていた。
 だが、漸くジョッシュは自分の幼稚な考えを認め、自身を見詰め直す事が出来た。
 リムも自分と同じで、それを捨てたと言う事実は自分の餓鬼臭さを殊更痛感させて来る。
 ……そして、それももう終わり。
 ジョッシュはやっと独り善がりを止め、素直になれた。

――ぎゅっ
 ジョッシュは力一杯リムを抱き締めた。
「あうっ」
 突然のきつい抱擁にリムが驚きの声を出す。押し当てられる兄の胸板から、その鼓動と温もりが伝わってくる。
「済まん、リム」
「お兄ちゃん?」
 ジョッシュは謝罪していた。その意味を掴みかねるリムはどきどきする自分の拍動を隠そうとせず、窮屈そうに兄の胸の中で身じろいだ。
「お前達には、背負わせたくなかった。だけど、それすら俺の感傷なんだな」
 その理由は最早語るべくも無い事だ。
 色々と思う所はあるが、リムに父親殺しをさせたくないと言うのはジョッシュの持つ願いにも似た感情だ。
 だが、もうそれすら叶う段階に無い事を認識したからこそ、ジョッシュは謝る事しか出来なかった。
 妹にも罪を背負わせる事は、兄にとっては父親を屠る以上の罪悪だったのだ。
 それなのに、自分が汚れる事を顧みずに手を差し伸べるリムの女としての強さに、自分の卑小さや矮小さにほとほと嫌気が差すジョッシュ。
 そして、それに縋ってしまう事は己の弱さをも浮き彫りにした。
――守ってきた筈の女に、今は逆に守られている
 ……だが、そんな感傷も所詮は一時のモノに過ぎない事は判っている。
 避け得ないそれに向き合う事はお互いの関係と現状を鑑みれば、それこそどうしようもない事なのだと納得するしかなかった。
「そうだよ。だから、安心してよ。誰もお兄ちゃんを責めてないよ。そんな人が居るなら……私達がやっつけてやるから」
 そんなジョッシュの不器用な優しさがリムにとっては辛かった。逆に傷付いた程に。
 だが、もうそんな事は瑣事に成り下がる。漸くジョッシュは自分達と向き合い、対等な立ち位置でその力を求めてくれたのだ。
 ……後は、自分達本来の役割である、兄を守ると言う戦いをするだけ。
 リムはそう出来る事が何よりも嬉しかった。

「済まん……本当に、済まん。俺と一緒に、地獄に落ちてくれるか?」

「ついていく。ずっと、一緒だから」
 父殺しの片棒をリムに担がせる事。ジョッシュにとっての大罪はもう回避出来ない。
 ……だが、それと等しく救いも齎されていた。
 リムと言う女の存在があれば、ジョッシュの魂はそれを成した後も救われるだろう。
 リムもまた、ジョッシュと同じ罪を背負い、地獄の中で共に生きていく事を選んだ。
 端から見ればこれ以上無い程に、二人は呪われていた。

「あの、お兄ちゃん」
「うん?」
 選んだ道は茨道だ。だが、もう針路変更するつもりは二人とも無い。
 リムは上目遣いでジョッシュに視線を向けた。
「……お願いがあるんだけど」
「……それは?」
 お願い、と聞いて何やら不穏な予感がしたジョッシュは訝しがる。
 こんな糞重たい話をした後でされるお願いとやらは何なのか?
 ……何となく想像は出来たが、ジョッシュは言葉を待った。

「簡単な事。私と、しよ?」

「なぬっ!?」
 やっぱりお約束な展開だった。半ば予想しつつもそれを告げられて狼狽するジョッシュはその老け顔に似合わず、少年の様な慌て振りだった。
「これで最後になるかも知れないでしょう? だから……刻んでおきたいの。お兄ちゃんを」
「待て。最初から死ぬ気か? お前は」
「そうじゃないよ。生きて帰るつもり。でも、どうなるか何て分からないから」
「……確かに」
 こう言う決戦の前には色事は行わないのが常だ。それを犯ってしまえば確実に未練の一つが減ってしまうからだ。
 しかし、リムの言う通り、先の事なぞ誰にも判らない。少ないながらもどちらかが死んでしまう可能性がある。無論、両方がそうなる可能性もだ。
 それならば、残された時間でお互いの肉を貪り合うのも間違いではない? ……と、一瞬思ってしまうジョッシュ。
「それに……お兄ちゃんから愛を貰えば、私はどんな敵とでも戦える。例えお父さんが相手でもね」
「・・・」
 この局面でリムは弱みを見せた。内なる迷いを完全に拭えては居ないらしい。
 だがそれも、ジョッシュが抱いてくれれば解消される問題だとはっきり伝えて来ているリムは女の打算に満ち溢れている様だった。

「駄目、かな」
「いや……」
 今直ぐにお兄ちゃんに愛して欲しい妹は自慢のバストが拉げる程に兄に密着する。それがちょいと苦しい兄は曖昧な返事と共に視線を泳がせる。
「じゃあ、問題ないよね?」
「う……で、でもなあ」
 どうにも要領を得ないジョッシュの言葉にそう言う事で良いのかとリムは尋ねる。
 ジョッシュは頬を掻きながらやっぱり曖昧な返事しかしない。
「駄目なの?」
 駄目なら駄目でその理由を聞きたいリムはかなりしつこく食い下がる。この場面で必死になるのは女としては或る意味で死活問題だからだ。

「駄目って言うかその…………この前でスキン全部使い切っちまったんだ」
 
 リムの尋問じみた問いかけにとうとうジョッシュは口を割った。
 本当は、そうしたい気分で満々。しかし、そうしたくても此処最近は犯り放題だったので避妊具が底を尽いていたのだ。
――クスッ
「何だぁ。そんな事かあ」
 だが、そんなジョッシュの言葉にリムは可笑しそうに微笑んだ。
 その程度の事は障害にすらならないとでも言いたそうな顔だった。
「重要な事だろうが」
 ジョッシュとしては無視出来ない事柄だ。女を抱く時は男の側に常に責任が付き纏う。
 どんな時でもそれを忘れないジョッシュは些か固い。

「生で、良いよ」
「それはっ! ……拙くないか?」
 だが、それはあくまでジョッシュの都合であり、リムはその事をさして重要とは思っていない。
 無いのならば、その存在はきっぱり忘れて下半身で繋がる事を楽しめば良い。
 ……と、言うか妹は大好きなお兄ちゃんとの目交いを薄っぺらいゴムの皮膜で邪魔等されたくなかったのだ。
 ジョッシュにとってはリムのその言葉は悪魔の囁きに他ならない。
 幾ら妹でも、かなり上玉の女にそんな事を言われれば男である以上は意識してしまう。
 でも、やっぱり避妊は怠れないジョッシュは揺らぎそうになるのを懸命に堪える。
「平気だよ。私、今は安全日だし」
「冗談は止めろ。そもそもお前、基礎体温付けて無いだろが」
 中々付け入る隙を見せない兄に妹はそんな事をのたまった。
 が、兄はそれが出鱈目だと言う事を知っている。例えそうだったとしても、安全日等と言う言葉は幻想で、占いに頼る様な不確かさが常について回る事を兄貴は理解していた。
「うう〜〜、こんな時だけ目敏いお兄ちゃん」
「嘘は吐けないぞ? 俺にはな」
 その頑なな態度が良い意味で呆れを誘ってくる。もう少し本能に、下半身に忠実になっても良いのではと思うリムだった。

「別にさ、私達は構わないよ? 赤ちゃん、出来ても」
「おい、リム」
 兄が気にしているのは身篭る可能性に他ならない。
 ジョッシュとしては若い身空で子供を作る気は無いので其処迄頑なになっているのだろうが、リムとしては別にそうなっても構わなかった。
「寧ろ、欲しいかな。お兄ちゃんとの子供なら」
「そりゃ嬉しいけど……浅はか過ぎんか?」
 リムは嘘を言っていない。愛して欲しいのは本当の事だし、その果てに身篭る事があっても、それは愛する男との間に出来た子なのだ。
 それを望んだとしても罰は当たらないとリムは思っていた。
 ジョッシュはそれだけ自分が愛されている事を嬉しく思ったが、幾ら何でも性急過ぎると考えを改めさせようとした。
 全てが終わってお互いに生き延びた時の事を考えると、そんな分の悪い賭けは怖くてさせられない……否、出来なかった。
「うん。でも、決戦前に愛し合って、それが当たっちゃってさ。生まれた子供が成長した時に、こんな事があったって語るのも乙だと思わない?」
「夢見過ぎだぞ。少なくとも俺は未だ孕ませる気は……」
 妹が何を言いたいのか兄は理解に苦しんでいる。其処迄リムを駆り立てるのは何なのかと考えてみるも、それは今の状況とリムの愛が混ざった結果としか思えなかった。
 ……何にせよ、この歳で父親には流石に成りたくない。成った所で責任を果たせない事は目に見えていた。
 それ以前に、それはお互いにとっての死亡フラグになりはしないだろうか……?
「じゃあ、何時なら良いの? それって、何れは私達を孕ませるって事でしょう? なら、今でも大差は無いって、そう思うな」
「うぐっ」
 リムは諦めると言う言葉を知らないらしい。と言うか、そんな都合良く解釈するなとジョッシュは叫びたかった。
 ……確かにリムの言う通りだが、自分達は戦う事以外には抱き合う位の共同作業しかしていない。
 もっと、恋人同士らしい甘い展開をジョッシュだってしてみたかったのだ。
 それなのに、ジョッシュはどうしてか言葉に詰まり、反論する事が出来なかった。

「でも、それを抜きにしてもさ。……私としたいって思わない? お兄ちゃんは」
「そいつは……っ」
 リムはジョッシュの揺らぎを感じ取った。チェックメイトまで後少しだと確信したリムは一気に畳み掛ける事にする。
 戸惑いの表情を浮かべ、理性と肉欲の鬩ぎ合いに苦しむジョッシュの心の天秤を傾かせる為に耳元でリムは囁いた。
「熱々のオマ○コにぶっといのガチハメして……一杯ズボズボして、私の一番奥にザーメンミルクどぴゅどぴゅしたいって、思わない?
今なら幾らでも搾り取って、気持ち良くしてあげるわよ……?」
 その顔には妖艶な笑みが張り付いていた。誘惑する事に長けている訳では無いが、揺らいでいるジョッシュを揺さぶるにはこれ位ダイレクトに言ってやった方が良いとリムは思ったのだ。
「こ、こら! そんなはしたない言葉を使うんじゃありません! ってか、何処で覚えてくるんだそんなん!」
 そうして、ジョッシュは案の定喰い付いて来た。釣り針に掛かった獲物は釣り上げられる時を待つだけだが、魚はその事に気付いていない。
「お兄ちゃんの持ってる本が大半よ?」
「づうっ!? ……っ、く、そんな事出来るか!」
 リムの言葉に些かショックを受けたジョッシュは倒れそうになってしまう。
 ブルー・スウェアに入ってからと言うもの、女を買う金も暇も無いので性欲の発散手段は自然と自慰行為に委ねられる様になってしまう。
 その一助である恥ずかしい本をジョッシュも何冊か保有しているが、それが妹の目に触れていたと言う事実は、兄としては大ダメージだ。
 最後の抵抗……否、苦し紛れの虚勢を張ってみるも、そんなモノは無駄だった。
「口ではそう言ってても、息子さんはかなぁりやる気みたいよぉ?」
「ぬうっ!?」
 股間を撫で上げるリムの指にジョッシュは情けなくも喘いでしまった。
 心で否定しようとしても、身体はリムの色香に惑わされてしまったのか、ズボンの中の一物はパンパンに膨れ上がっていた。
「おにいちゃあん……オマ○コ……したいよぉ」
「・・・」
 それを確認したリムは止めを刺した。猫撫で声でのおねだりはジョッシュの理性の大半を掻き消し、抑えていた欲情に油を注ぐ。
 内に湧き始めたリムを貫きたいと言う衝動にジョッシュはとうとう屈した。
「……やる、か」
――俺の負け
「うん! しよ♪」
 リムの身体を優しく抱いたジョッシュは男の性が心底悲しかった。
 そして、望む展開を引き入れたリムはジョッシュの胸板に顔を埋め、大きく深呼吸して兄の匂いを肺一杯に満たした。


――戦艦ラー・カイラム ジョシュア私室
「リム」
「お兄ちゃ……ぁん」
 妹の手を引き、兄は自室へと取って返し、敷居を跨いで室内に飛び込んだ瞬間にその身体をしっかと抱き締めた。
 突然の行動に固まってしまったリムの顎に手をやって上を向かせると、ジョッシュは躊躇わずにその唇を啄ばんだ。
――ちゅく
「うん……んっ、んふ……あんっ」
「ん……っ、っく、む……ぅ」
 普段以上に熱くなって感じられる身体は心の状態を素直に表している様だった。
 本来はこんな大胆な真似をジョッシュはしないが、それをすると言う事は彼が肉欲に飢えている事を意味していた。
 滅多に無い兄の荒々しい求愛に妹は息をするのが苦しい程に唇を貪られる。
 絡む舌と粘膜の感触が何時にも増して生々しく、煙草の苦さ以上に甘く感じられたリムはジョッシュの口付けに合わせて自分もまた、激しくジョッシュを求め出す。
 心の表面に触れるジョッシュの思念に引き摺られ、身体が鋭敏に反応しそうになりながら、舌で歯茎を突付き、歯の裏を撫で、自分の唾液を送ってジョッシュのそれを啜り上げた。
 粘着く口同士の交合。リムの心が何を欲しているのかが厭でも判ってしまうジョッシュはリムの唾液を飲みながら考えて少しだけ当惑する。
 この互いを欲すると言う情動の元がどちらのモノなのかが本格的に判らなくなって来た。
 どちらが大本で、どちらが引き摺られているのかはもう自分自身では判別が殆ど付かなかった。
 ……だが、そんなモノは今の段階にあっては然したる問題ではない。
 問題なのは、送り合う思念の波が際限無く増幅されていくと言う一点だった。
 理性と言う防壁が意味を成さなくなる欲動の氾濫には一抹の恐怖を感じざるを得ないジョッシュ。
 高が深い口付けだけでこうなるのだから、剥き出しの下半身で繋がればどうなるのかが過去の経験から既に見えているのだ。
 歯止めが利かなくなるのが危険に思えたからこそ、ジョッシュはリムとのそれに何時も避妊具を用いていたのは、妊娠を回避する以外にもそう言う目的があっての事だ。
 そして今回は、何時もは壁になっていたそれが無いのだ。
「はむっ……んっ、ふぅ……んく……っは! ……はあ」
「ふううう……っ」
 長めの口淫ですっかりベトベトになった二人の口の周りは唾液塗れだ。
 下半身がお互いに相当にヤバイ事になっているのが共感によって知れた二人は触れ合っていた唇を離し、互いを見やる。
 透明な糸が心と身体を繋ぐ鎖の様に二人の口元を伝って、宙空でふつり、と途切れた。

「ふ、普段以上に情熱的ね。……そんなに興奮してる?」
「態々聞くなよ。知ってる癖に」
 義兄妹は揃って同じ顔をしていた。紅潮した顔面に荒い吐息。そして、とんでもなく物欲しそうな顔。
 違いがあると言えば、リムは潤んだ瞳にそそる仕草で、ジョッシュはそれとは逆に苦しそうな顔で平静を何とか保とうとしている様だった。
 だが、そんなジョッシュの中には絶賛燃焼中の欲動が存在している事を知っているリムは聞く必要も無いのにそう問うていた。
 返って来た答えは、まあジョッシュらしい簡潔な物言いだった。
「ゴメン。……本当は、こんな事してる場合じゃないんだよね」
「そうだ。……だけど、誘ったのはお前だ。そして、俺もそれに乗った。
今更、無かった事にしてくれってのは通らないからな」
 リムは少しだけ罪悪感を持っている様だった。
 父親との戦いの前に兄を誘い、享楽に耽ると言うのは理屈じゃないが好ましい事では無いと妹は知っている。
 幾ら最後になるかも知れないと言っても、根底あるのはその時迄ジョッシュと一緒に過ごしたいと言う欲望だ。リムはそれに勝てなかったのだ。
 しかし、ジョッシュはリムの考えは知っているし、今更それを突っ撥ねる真似もしない。
 ジョッシュだって、リムと一緒にそうしたいと言う気持ちがあったのだから、その辺はお互い様だった。
「そんな気はないよ。ただね……」
「何だよ?」
「私の我儘に付き合わせちゃったなって」
「気にするなよ。……可愛い妹のお願いだ。兄貴としちゃ、聞いてやりたいだろ?」
 兄貴の部屋に来ているのにそれを撤回する気は妹には更々無い。
 だが、やはり自分の身勝手なお願いに付き合せてしまったと言う思いだけは拭えないリムは少しだけ俯いて、元気の無い声で呟く。
 ジョッシュはそんなリムを受け入れる様に優しい声で言ってやると、その長い髪の毛をそっと撫でた。
「……そっか。ありがとう」
「まあ、ちょっと悩んだけどな」
「そうだね」
 こう言う優しさを時折見せてくれるジョッシュにリムは敵わないと思いながらも、頭を撫でる掌の心地良さに身じろぐ。
 ……ジョッシュとしてもリムの色仕掛けには困惑したが、結局はそれに折れた。
 否定したってどうしようも無い事だと気付かされた事がジョッシュの敗因だ。
 だが、それを素直に受け入れる事は兄としては少し格好悪かったのだ。妹はそんな兄の若干照れた様な姿に思わず微笑んだ。

「私がするわ。……良いよね? それ位やっても」
「うっ、お、おい?」
 ジョッシュが愛を以って受け入れてくれるのならば、リムとしても愛で返すだけ。
 元々、そう言う目的があってリムはジョッシュを誘ったんだからそれは当然だった。
 リムはジョッシュの静止を振り切るとその場に跪き、ズボンのジッパーを下げて窮屈そうに収まっているジョッシュの分身を解放した。
――ぶるんっ!
「ひゃあっ!」
 飛び出したそれに思わずリムは悲鳴を上げた。
「……ぃ、何時にも増して凶悪、ねぇ」
 見慣れている筈の兄の一物。それでも妹は息を呑む。
 深く穿ち、抉る事に長けた長物と言える兄の武器。
 だが、青筋立てて臍迄反り返る今のそれは普段のファルシオンセイバーを超えてライアットバスターだったのだ。
 ……いや、ニュートロンバスターやネオビームブレードかも知れないが、兎に角ジョッシュの竿は気力限界を突破して全力全開絶好調だ。
 何時もは細身の幹は目算で二割増し位に太いし、何とか全部咥え込めていたその長さも今日のそれはほんの少しだけ丈が余りそうだ。
 厳つい男のフォルムのグロテスクさや粘液による光沢に、リムは自分の鼓動が早くなるのを確かに感じた。
「いや、そんな事は」
 褒められているのか呆れられているのかが微妙だったジョッシュは遠慮がちに言葉を漏らす。
 ジョッシュとしては血が滾っているとは言っても、自分自身で普段とのサイズの違いが良く判っていなかった。
「そう? ……はむっ」
「くっ」
 だが、第三者の立場からそんな事は在り得ないと半ば結論付けながら、リムは黒光る先端を口に含む。
 突然の生暖かい感触にジョッシュも堪らず呻く。
「ん……っ、ふっ……」
「リ、ム……っ」
 竿全体が体温以上の熱を放っている。口腔の唾を亀頭に擦り付け、口を窄めて尿道を吸ってやると先走りのしょっぱさが舌に伝わってきた。
 汗の匂いしかしない兄の一物を、キャンディーをしゃぶる様に舌の上で転がしてやると、ジョッシュは苦しそうに息を吐いた。
 こうされるのが堪らないらしく、リムのほんの少しのおしゃぶりで装甲の一割を持っていかれた様だった。

「はっ……ぁ、んふ……んっ、凄……ガチガチだあ」
 亀頭のみでなく、裏筋や幹にも舌を這わせて唾液を塗り込んでいくリムはうっとりとした表情で自分の頬を竿に擦り付けた。
 この熱さと硬さが兄の持つ劣情と若さの証だと思うと、この肉棒が愛おしくて堪らなかった。
「これ絶対、普段以上の元気の良さだよ。何か嬉しいな」
「そりゃ……この状況で滾らなかったら男じゃないって言うかさ」
 ゆるゆると竿を扱きながら、リムは上目遣いにジョッシュを見る。
 ジョッシュは先走りを滴らせながらも、冷静に言い切る。どうやら、ハンドジョブでは今の装甲を抜くのは難しいらしかった。
「ふふ。お兄ちゃんのむっつりスケベ」
「今更否定はしないぜ」
 唇を舌で嘗めて艶やかに哂うリムの姿に何となくだが魅入られた気がしたジョッシュは危険な予感を感じては居たが、それが避けられないと端から判っていたので別段取り繕う真似も抗う真似もしなかった。
「それじゃ、正直なお兄ちゃんにはサービスしたげよっかな」
「それ、は」
 ……やはり来た。
 好機見るや間髪入れずにそれを成す妹は中々の手錬らしい。
 まあ、それも兄貴限定だが、その標的がジョッシュなのだから当然と言えば当然だ。
 ジョッシュはリムの言うサービスと言う言葉に目を若干細める。
「ちょっと待ってね。お兄ちゃんは座って? 立ってるとやり難いから」
 リムは一言そう言うと、立ち上がってジョッシュから数歩退いた。
 そして、ネクタイを外すとノースリーブのシャツに手を掛けてそれを脱ぐ。
「……あーー、まさか」
 突然脱ぎ始めたリムの様子を見ながらジョッシュは次に何があるのかを半ば確信した。
 薄い青色のごく普通のブラジャーを外してそれを床に投げると、リムはベッド端に腰掛けているジョッシュの前にとことこ歩み寄り、その脚の間にしゃがみ込みそれを成した。
「えいっ」
――ぽふん
「やっぱりか!」
 ギンギンの魔羅に触れる柔らかくて弾力のあるお肉の感触がちょっと気持ち良い。
 何時もはネクタイを挟んでいる妹のお胸は兄の御神木を挟む為に使われる。
 思った通りになってしまった事にジョッシュは歓喜する所か、逆に落胆させられた。
 ……サービスと言うには些か行き過ぎの様な気がしたからだ。

「好きでしょ? おっぱいで挟まれるの」
「待て。人聞き悪い事言うな。俺は別に……っ」
 ジョッシュはリムの言葉を咄嗟に否定する。
 おっぱい自体が嫌いな訳では無いが、挟まれて喜ぶ様な歳でもないし、嗜好も無い事だけは己の名誉の為に是非とも明言して置かねばならなかった。
「説得力無いなあ。ん〜〜?」
「うお……」
 ジョッシュの必死な態度が可愛かったリムはぎゅっと乳肉で息子さんを押し潰してやると、その感触にジョッシュも堪らず喘ぐ。
 口では何と言っても、実際に気持ち良い事は確かな様だった。
「まあ、どっちでも良いけどね、私は」
「本当はお前がこうするのが好きってだけなんじゃ」
「ん……そうかもね」
「おい」
 寧ろこの場合はリム側の嗜好と見て間違いないと踏んだジョッシュはお乳の誘惑に負けずにそう問うと、リムはあっけらかんと言い切った。
 それには流石のジョッシュも突っ込まざるを得なかった。
「だって、重いし肩も凝るし、赤ちゃんも居ないのに役に立つって言えばこう言う時以外に無いんだもん。有効活用しなきゃ」
「奔放な奴だなあ。兄ちゃん、少し複雑だよ」
 その理由はまあ……真っ当と言えば真っ当と言えるモノだった。
 授乳以外にはセックスアピールとそれ位しか価値が見出せない脂肪細胞の無駄遣いは本人にとってみても色々と苦労の種らしい。
 だが、それを迷わず自分への奉仕に使うと言うのはジョッシュにしてみては嬉しい以前に困惑モノだった。
 性に対するオープンさは勝気なリアナにあると思われがちだが実際は逆だ。
 普段の天然さの反動か否かは定かでは無いが、その辺りの積極性はクリスが大きく差を付けているのだ。
 寧ろ、奥ゆかしさと言う点ではクリスが半ば失ってしまった物をリアナは持っている。
 ……だが、何だってこうなってしまったのか? その原因がまるで判らない。
――ひょっとして、接し方……否、育て方を間違えたかしらん?
 ……思わずそう思ってしまったジョッシュだった。

「お兄ちゃんが近頃、処構わず揉むんだもん。またサイズが大きいの買わなくちゃいけなくなったんだよ?」
「馬鹿な事言うな! 人目は流石に気にしとるわっ! って、また、大きくなったのか?」
 ブラのサイズがまた大きくなってしまった。サイズが大きくなるにつれて可愛いデザインのモノは減っていくのでその辺りで此処最近は迷惑を蒙っている。
 そして、その原因は兄の手による場所を選ばない乳揉みにあると妹は言う。
 ……そんな問題発言が妹の口から飛び出し、兄を叫ばせる。
 そんな衆目を恐れない真似をした覚えは兄には無かった。
 しかし、妹の乳を揉んでいた事実を否定しない辺り、やはり原因は兄にある様だった。
「うん。育っちゃった。感無量でしょう? 自分で育てた胸に挟まれるって」
「……そうですね」
「うんうん。じっくり堪能してね♪」
 軽いパイタッチ位では急激に乳に育ったりはしないのだ。
 ひょっとしたらあるかもだが、少なくともジョッシュがリムの乳に触れていたのは間違い無い。
 ずっしり重く、そしてぷるぷる揺れるリムのお胸に圧迫されながら、ジョッシュは気の無い返事を返すしかない。
 リムは乳肉を使ってジョッシュの肉棒を愛し始める。

「よいしょ……っしょ……」
「う、く」
 熱を放つ硬い棒を蒸かし立ての饅頭で包むが如く、リムはジョッシュの竿を乳で挟みながら上下に懸命に動かす。
 ジョッシュも胸で奉仕される事は何度かあったから少しは耐性が付いているが、それでも装甲はどんどん剥ぎ取られていく。
「はっ、はっ……はあっ……どう? 気持ち良いかな?」
「ん……け、結構来るなこりゃあ」
 見下ろせば、紅潮して上目遣いの妹が大きな胸を拉げさせて肉棒を擦っている様が目に飛び込んでくる。
 その卑猥さには胸の感触と摩擦以上に胸がカッと熱くなる兄貴。
 一物に流れ込む血流が更に増す。
「凄く、びくびくしてるよお。また濡れて来たし……可愛い……♪」
――ちゅっ
「くおっ!?」
 滴る先走りに光る肉棒の先端を乳で挟みながら口付けるリム。その刺激にジョッシュは吃驚した様に仰け反った。
 此処迄されてしまえば幾ら乳にはさほど興味が無いと言っても、物理的に抗うのが辛い。
 先端部への啄ばみと汗ばんだ乳肉がしっとりずっしり絡み付く感覚は既知ではあったが、耐え難い気持ち良さを与えてくる。
「お兄ちゃん……♪」
「つう……! 糞、良い傾向じゃないよな」
 亀頭へのキスの雨は止まらない。着実に食い潰されていく装甲値はこのままでは危険な事になるとジョッシュの頭に警鐘を鳴らす。
 それに、このまま一方的に翻弄されるのは流石に趣味じゃない。
 受け一辺倒で居るなど我慢ならないジョッシュはささやかながら反撃を試みた。
「ひゃああ!?」
 びくっ。
 下半身を襲った突然の感触にリムは飛び上がる。断続的にやって来る女性器への刺激はジョッシュが反撃に出た事の証だった。
「やっ……んんっ! ……もうっ! お兄ちゃんってばあ」
「されっ放しってのも悪いからな。これ位、構わんだろ?」
 ジョッシュは靴の爪先で器用にリムの割れ目を下着越しに擦っていた。
 ぐりぐりと絶妙な力加減で硬い靴の先端を押し当てられるリムはその威力に多少、肉棒への奉仕が疎かになった。
 子供の様に拙い振る舞いに口を少し尖らせるリムだが、ジョッシュは別段悪びれる様子は無かった。
 口に出した言葉がそのまま心情を語っていた。

「しょうがないなあ。じゃあ、私も本気でやるわね?」
「ぬっ!? ぐおっ!」
 ジョッシュの取った行動は自身の首を絞める結果になった。
 竿を襲う快感の波に一瞬、堪えが利かなくなったジョッシュは唇を噛んで暴発しそうになった息子を無理矢理に宥め賺す。
「んん〜〜……」
――ちゅううう……
 舌を激しく動かしながら尿道を激しく吸い上げるリムのフェラは実に堂に入っていてプロ顔負けだった。
 しかもそれだけでなく、エレクトした乳首で雁をコリコリ刺激しながらそれをやるものだから、ジョッシュだって悶絶したくなる。
「く、ぉ……ま、負けるか!」
 だが、兄貴は負けない。
 滲み出るリムの愛液が下着越しに靴を汚すが、その間にカウパーは啜られ、またせり上がる射精への欲求は徐々に抑えられなくなる。
 それでも、この分の悪い戦いを諦めたくないジョッシュは足を大胆に動かしてリムの快感を高める。
 リムもまた、激しいパイズリを展開してジョッシュを何とか負かそうと必死になる。
 実に馬鹿っぽくて、生臭い攻防は暫くの間膠着状態を見せた。
 ……まあ、結局は先に限界を迎えたのはジョッシュの方だったが。
「ま、拙い……っう!」
 もう歯を食い縛って耐えると言う段階を過ぎて、飛び出しそうになる欲望は下半身に蟠る。
「あは♪ 膨らんだ。射精ちゃうんでしょ? ねえ、ぴゅって射精してよお」
「ぐっ、ぬう……!」
 勝ちが見えたリムは鈴口から口を離すとぎゅっと胸を寄せてジョッシュの肉棒を圧搾する。
 一瞬、それに誘われそうになったジョッシュだったが、その誘惑はギリギリの所で断ち切った。
「此処迄だな……! は、離れろリム!」
「あんっ!」
 強制的にパイズリを終わらせる為にジョッシュは離脱する事にした。
 ベッド端から立ち上がると、膝立ちだったリムは後ろに倒れた。
「危なかった……」
「んもう。何なの?」
「い、妹に潮噴かされる訳にゃいかないよ」
 その行動がどうにも腑に落ちないリムは身体を起してジョッシュを睨む。
 何とか射精を耐えたジョッシュはそう言って大きく溜息を吐く。
 流石にそれをやられては兄貴としての沽券に関わるのでジョッシュは奉仕の中断を敢行した。面子が潰れるのはジョッシュとしては大問題だったのだ。

「何でさあ。私、お兄ちゃんのミルク好きなのに……」
「男が立たないんだよ。って言うか、あんな苦しょっぱい物を口にするんじゃありません」
 その辺りが女であるリムには理解出来ないらしい。寧ろあのまま射精させて、搾りたての精液を味わおうとすらリムは思っていた。
 ジョッシュはその不味さを知っているので、そうしたかったと言うリムを宥めた。
「それに……何だ。ど、どうせ射精すならさ。その……」
「! ああ……そう言う事なんだ」
 だが、ジョッシュはプライドとかそんなモノの為だけにリムの奉仕から逃げた訳では無い。
――絶頂するならば、相応しい場所がある
 そんなジョッシュの心の声が聞こえたリムはにんまりと笑う。
「俺、今日は全部……リムの中にさ」
「そうだよね。外は、勿体無いよね」
 逝くならば、それはお前の膣内で。そんな男心を零すジョッシュは恥ずかしそうに頬を掻いていた。
 その仕草が胸にきゅんと来たリムは、ジョッシュの望む通りにしてやろうと思ってしまう。
 ……と言うか、奉仕しながらもリムだって本当はそうされたかったのだ。
「良いよ? 来ても」
「リム?」
「私もさ、もう一杯一杯だから。……しながら、感じちゃってたの。お兄ちゃんに弄られたらもっとね」
 兄が破壊一歩手前の機体状況である様に、妹もまた中破程度の損傷を負っていた。
 竿をしゃぶりながら、股間を熱くしていたのは事実だし、爪先でされた時は軽く逝きそうになった程だ。
 その証拠に、リムのパンティは汁を吸って、くっきりと割れ目の形が浮いて見える程だった。
 スカートの裾をたくし上げてそれを見せると、ジョッシュは生唾を飲み込む。
「……そっか。じゃあ」
「うん。お兄ちゃんが、欲しい」
 準備はお互いに完了している。後は、繋がるだけ。
 リムは可愛らしく頷くと、ジョッシュも同じ様に頷き返した。

 勃起して久しい息子を露出させたまま、ジョッシュは履いている靴に手を掛けて妹の汁で片方の爪先が湿っているそれを脱ぐ。
 続いて靴下もさっさと取り払い、裸足になるとそれを床に投げて、次はトレードマークであるファー付きのジャケットを外した。
 ずっと着ていると些か暑い上着の中には汗を吸ってしっとり重たい赤いシャツが肌を守っている。
 それを脱ごうと袖から腕を抜く最中、ジョッシュはリムの方を見る。
 床に落ちた濃い青色のミニスカート。既に裸足になっていたリムはパンティの端に手を掛けていた。
 妹が纏う最後の布切れが自らの手でパージされる瞬間だ。白と水色のストライプのパンティはリムのお気に入りなのか、何度もジョッシュは目にしていた。
 ……魅入られている場合ではなかった。
 ジョッシュはリムに気付かれる前にとっとと肌着を脱ぐ作業に戻った。
「お兄ちゃん」
「うおっ」
 シャツを脱ぎ終えて前を見ると、既に全裸になったリムが居てちょっとだけジョッシュは吃驚した。気配が全く感じられなかったのだ。
「私の方はもう良いけど……」
「……おう。そうだな」
 此処で日和ったら馬鹿みたいなので、ジョッシュはリムの手を取って寝台へと誘導した。

「・・・」
 ベッドに寝かせたリムの裸体をジョッシュはじっくり見やる。
 身長160cmと、まあ女性としては標準的な身長の妹は自分の身長と比べて頭二つ分は低い。
 明るいオレンジ色の特徴的な髪色はアンダーヘアもまた同じで、見れば見る程その色を脳裏に刻んでくる。
 その身体は未成年とは思えない程成熟していて、態々触れなくてもその柔らかさを伝えてきていた。
 先程迄お世話になった豊満なバスト、ムチムチの太腿、そして丸くて美味しそうなお尻のお肉が食欲を掻き立てる。
 だが、それは太っていると言う事ではない。出る所は出ているのにも関わらず、その他の部分は驚く程に細かった。
 総合的なバランスは悪いのかも知れないが、それでも並みの男ならば、こんな美味しそうな肢体をちらつかされれば堪らない気持ちになるのは必定だった。
 兄であるジョッシュとて例外ではない。布切れ一枚すらない妹を隠すものは一つも無く、惜しげ無く晒されるその美しさは確かに目の毒だった。
「視線が……熱いよ」
 穴の開くほど見詰める兄の視線に妹は何処かに置き忘れていた羞恥心を思い出した様だった。
「そ、そうか?」
「は、恥ずかしいよお。あんまり見られると」
 肌を晒す事に抵抗は無いと思っていたジョッシュはその反応が少しは懐かしく感じたのか、ジロジロ見てしまった事が恥ずかしかった。
 見ても見られても恥ずかしい兄妹は中々に相性が宜しいらしい。

「いや、悪い。エロい身体だって改めて思ってさ」
「酷い。太らない様にこれでも気を遣ってるんだから」
 そんなエッチな身体をしてるリムが悪い。視線を彷徨わせながら、それでもチラチラとリムの肢体を盗み見るジョッシュはやはり男だった。
 軽口混じりの褒め言葉を吐き出すと、リムはそれに口を尖らせた。
「そう言う事じゃないよ。何かこう……餡掛けチャーハンって言うか、新日暮里って言うかさ」
「・・・」
 何て言うか、エビ臭い? それとも最近だらしねぇな? 的に?
 ……そんな訳の判らない台詞には流石にリムも顔を引き攣らせた。
「どした」
 ジョッシュとしてはリムが肥え太っていると言いたいのではない。
 だからそんな言葉を吐いたのだが、何だってリムがそんな顔をするのかジョッシュには理由が見えない。
「肉感的とか、グラマラスって言われて悪い気はしないけど……ガチムチって女の子に掛ける言葉かな? 普通」
 答えは単純だ。言われて嬉しくなかったのだ。
「・・・」
 自分の吐いた言葉を反芻し、顎に手をやって良く考えてみるジョッシュ。
 ……確かに、今のが失言だった事が直ぐに理解出来た。
「……済まん。忘れてくれ」
「うん」
 女の子相手に何を戯けた事を言ってしまったのか、ジョッシュは自分でも判らなかった。
 案外、テンパっている事の証明かも知れなかった。

「じゃあ、するか」
「良いよ。しようよ」
 ……馬鹿な事を言ってる時じゃなかった。
 抱き合う為に此処に居る。時間も限られているのに、それを浪費するのも阿呆らしい。
 ジョッシュが挿入の旨を告げると、リムは脚を開き、ジョッシュを受け入れる体勢を取った。
「リム、先に謝っとくぜ。数分と保たないと思うからな」
「遠慮しないでね。一回で終わりじゃないんでしょ?」
 張り詰めた一物の中で炎が燃えている様だ。寸止めに近い状況で継戦していたジョッシュの装甲は紙に等しい。
 汁を垂らして打ち震えるジョッシュの剣を一度視界に納め、リムはそんな事は気にするなとジョッシュを気遣う。
 そもそもが一度の射精で終わる様な淡白な目交いにはならない事はお互いに百も承知なのだ。
「ああ。兄ちゃんも頑張るよ」
「可愛がってね……」
――ちゅっ
 精一杯やらせて貰う。兄はそんな気持ちを胸に宿らせて妹の唇を啄ばむ。
 妹も兄には存分に愛して欲しかった。

「ぁ……ん、あ……」
 リムの両の指で一杯に広げられたピンク色の粘膜が天国へ誘う様だった。
 カウパーを吐き出して既に汁に塗れている一物を割れ目に擦りつけ、全体に愛液を塗した。
 その微妙な気持ち良さにリムが喘ぐが、そんなモノはこれからやってくる快感を想像すれば児戯に等しい。
「さぁて。分の悪い賭けをする気は無いけど」
 ……正直、ジョッシュは少しだけ怖い。
 生で妹に踏み入るのは初めてでは無いが、その快楽は今の状態では抗えない程のモノだ。
 そして、粘膜同士の直の接触が心に訴えるモノはそれ以上だと言う事も知っている。
 妹は遠慮するなと言ったが、それでも獣にだけはなりたくない兄貴。
 だが、止まる事も出来ないのも事実だった。それならば……
「そうも言ってられんか!」
――ズンッ!
 ジョッシュは一物を一息に根元まで突き入れる。
 どうせ負け戦なのだから、最初は華々しく散ってやろうと一点突破を仕掛けた。
「っあ」
 普段以上の滾り具合の息子さんを無理矢理に捻じ込まれた衝撃は内臓を振るわせ、リムの肺から息を抜けさせる。
 奥迄串刺しにされたリムの心にジョッシュのそれが触れた。
「――お?」
 反応は一瞬だった。根元まで一物を納めた刹那にリムの媚肉は痙攣も何もかもすっ飛ばして、剛直に牙を突き立てる。
 その余りの速さにジョッシュは現状の理解が出来なかった。
 そして、喉から母音の一つが通過した時、リムは弾け跳んだ。
「あああああああああああ――っ!!!!」
「なあっ!? ぅ……糞、が……!」
 みっちり締まった柔らかい熱々のお肉が火傷する事も恐れずに肉塊に噛み付いた。
 いきなり搾り立てるリムの膣の圧迫に破壊寸前だったジョッシュが耐えられる道理は無かった。
 流れ込むリムの想いに思考をジャックされながらジョッシュはリムの胎へ供物となる白い血液を注ぎ込む。
「ぐお……やっぱ、無理だった、か!」
「んああ……! あ、ふあっ! あんんっ!!」
 搾られてぶるぶる痙攣しながら、熱い滾りを妹に注ぐ兄はその気持ち良さ以上に無理矢理自分の中に入り込み、蝕むリムの想いの方が厄介だった。
 その全てが減衰無く伝わっている訳では無いが、男では凡そ感じる事の出来ない多幸感が頭を占めて、他の思考を強制的に端の端に追い遣っていく。
 これだけはどう頑張っても、何度やっても跳ね除けられない、リムと抱き合う限りは何処までも付き纏う現象だとジョッシュは納得していた筈だったが、その破壊力は本当に凄まじかった。
 女はこうして絶頂するのかと脳味噌を冒されながら、ジョッシュは絶頂するリムに更なる白濁を放出し、満たしていった。

「ふう……ふう……ゴメン、お兄ちゃん。私の方が我慢、出来なかったよお」
「いや、そりゃこっちが驚いてるけど……っ」
 肉体的にと言うよりは精神的にフラフラなジョッシュは未だに止まらぬ射精に戸惑いつつも、絶頂してぐったりしているリムの橙色の髪を撫でる。
 先に負けると踏んでいたのに実際先に力尽きたのはリムの方だった。知らぬ間に魂でもかかっていたのかと考えてみるも、その理由は判らない。
 そして、答えはリムの心が語ってくれた。
「奥に熱いの、来てるよお……♪ オチ○ポひゅくひゅくって、震えてる……♪」

『ずっと、欲しかった』

「う」
 ……不覚にも、心の表面を撫でるリムの想いに涙が出そうになった。受け入れた女の喜びの一端を知ったジョッシュには、その心の声は愛の告白以上に胸を穿つ。
「えへへ。何だろ。凄く嬉しくて、泣けてきちゃったよ」
 迷いや衒い、疑念等が一切感じられない純粋な恋慕の情。その深さと味が魂に沁み込む様だった。
――よもや此処迄、好いていてくれるとは。求めてくれていたとは
 リムの想いに侵食、洗脳されていっている事をジョッシュは気付きつつも、それから逃れる事は出来なかった。
「っ!」
「きゃん!?」
 ジョッシュが示せる誠意はそれ位だった。
 頭で考えるより早く、リムを折れんばかりに抱き締める。散ったリムの涙の粒が宙を舞い、ベッドに、ジョッシュの背中に落ちていく。
「お、兄ちゃん?」
 突然の兄の行動に目をぱちくりさせる妹。こんな熱烈なハグを経験した事は嘗て無かった。
「いや、正直済まんかった」
 ジョッシュの口から呟かれたのは謝罪の言葉。自分の事ばかりでちっともリムの気持ちに応えてやらなかった事に対する懺悔だった。
「え、と……え?」
「寂しい思いさせて悪かった。埋め合わせは今日からしてくから、勘弁してくれ」
 リムはその意味を掴みかねるがジョッシュは構わず続ける。
 捨て切れなかったリムに対する遠慮やら躊躇い、我が身可愛さをかなぐり捨ててジョッシュは己の心をリムのそれにぶつけてやった。
 そうしてやらなかった分は、時間を掛けて補填していくとジョッシュは誓いにも似たモノをリムとの間に結ぶ。
 ……今、この時限りではなく、戦いが終わった後もずっと。
 ジョッシュはそうしたくなった。
「うん! 足りなかった分、私を満たして」
 互いの気持ちが本当に繋がった事を知り、リムは満面の笑みを浮かべ、ジョッシュにしがみ付く。
 ……義兄と義妹。血の繋がりは無くとも、周りからは真っ当では無い関係。
 それに疑問を抱く事は最早無いが、それでも心の底では距離感や温度差を確かに感じていた。
 だが、その垣根を越えてジョッシュは素直に自分を求めてくれた。
 やっと女として自分を見てくれた兄にせめて報いたい妹は心のままに兄を受け入れ、またその想いを真っ向から受け止めたかった。
「なら、その手始めに仕切り直そうぜ? もう一度だ」
「ええ。今度はじっくり、ね」
 射精後の気だるさは微塵も無く、再びリムを求めたいジョッシュの一物は熱い媚肉に包まれながら元気一杯だった。
 活力やらゲージやらを共有でもしているのか、リムの内で再び燃え上がる肉欲の炎は鎮火が困難な程の激しさで己を焼き、それはジョッシュの精神にも飛び火した。
 お互いに未だ足りないと言うのが兄妹の本音だった。

「くっ……俺自身が敏感になってやがる。お前も膣内が痙攣しっ放しだ」
 抽挿を再開して凡そ十分。射精により耐久力が復活した筈のジョッシュは既に瀬戸際に追い込まれていた。
 先走りは懇々と滲み出て、ビクビクとリムの内で打ち震える。
 不定期に搾り上げ、粘り付くリムの秘肉の熱さや肉感は彼女が相当に昂ぶっている事を示す様に一物を包んで来ている。
 そんな熱烈な抱擁に、兄貴は早くも堪えが利かなくなってしまった。
「な、んか……か、身体の、抑えが、上手くっ! 出来ないの……!
……おかしい、な。どうして、こんなにっ」 
 兄の剛直の熱さは最早火傷する程の熱さにリムは感じられる。
 浅めの挿入で敏感な箇所を何度も何度も擦られて、引っ掛かるえらばった雁が膣肉に絡んで、粘膜が外に引きずり出される様な感覚はずっと耐えない。
 ゲージがMAXでフィーバーにでも突入してしまったのか、リムは浅い絶頂が止まらなくなっていた。
 半分逝きっ放しの状態は声を出す事は愚か、呼吸するのも億劫な程に身体を呪縛している。もう、理性やら慎みやら何もかもが瑣事に成り下がる程にリムの頭は真っ白だった。
「シュンパティア、か。やっぱり、或る意味恐ろしいもんだ、よっ!」
「ひああああ!」
 浅めの挿入から深い挿入に切り替えたジョッシュの先端とリムの最奥が口付けを果たす。
 兄も背中に手を回して仰け反る妹は淫らに喘いだ。
「つぉっ! くうう……」
「ひんんっ!!」
 今のでまた天辺近くまで昇ったリムがお返しとばかりに一物を抱き締め返す。
 それで同時に頭に流れ込む思念の波にジョッシュの肉茎は過敏に反応した。
 ……ジョッシュ自身、早くも無ければ遅くも無い、まあ平均的な耐久力を持っていると言う自負はあった。
 似非傭兵として各地を回っていた時に初体験は行きずりの女と済ませていたし、偶に抑えられない時は女を買ったりもしていた。
 経験も技術もそこそこだし、ベッドでそう簡単に負ける事は最早無いと自信もあったジョッシュだったが、本気のリムが相手ではそんなモノは意味を成さなかった。

「はっ、はあっ……! こ、こりゃあかんわ」
 みっともなく泣き出しそうにジョッシュはなってしまった。決して、今の状況が辛いとか、負けそうだとかそんな事では無い。
 寧ろ、嬉しくてそうなってしまった。
 ……リムの身体は生で抱けば抱くほど深みに嵌る。
 身体の相性が良いと言う事もあるが、それ以上にシュンパティアによる精神感応は繰り返せば麻薬の様な常習性を持つ。
 泣きそうになっているのも、その想いの元がリムから流れ込んだモノだとジョッシュは知っていたが、抗える類のモノではない。正気を保つ事すら一苦労だ。
 男が決して感じ得ない女のユーフォリアは共有していない筈の感覚迄同調させた様に敏感にさせ、弾け飛ぶ瞬間はそれこそお互いの意識が混然として境界が曖昧になる程の危険を孕んでいる。
 それでも、その感覚は一度味わえば誰だって病み付きになる。
 意志の強弱に関係は無く、相手を想う気持ちがそうさせる。強く求めれば、それを超える物を相手は返し、それ以上の物を再び送ると言う悪循環だ。
 兎角、女性はエクスタシーを感じる際に精神的な要因を必要とするが、男性にはそれが無い。
 リムが感じているモノを受け取ったジョッシュの理性やらその他の感情は、波に曝された砂の城の様に洗い流され、裸になったジョッシュの心はリムの愛に包まれて溺れる。
 正に、禁断の実こそが至福の果実……ジョッシュとてそう考えたくなる程だった。

「んぁ……! く、来るよぉ……また、また大きいのがあ!!」
 そうして、腰を無遠慮に打ち付けていると、リムが切羽詰った声で叫び、腕の他に脚をもジョッシュに絡ませて奥へと誘う。
 今度のは小さいのではなく本格的なオルガらしく、ギュッと結んだ眦には涙が溜まり、口の端からは一筋の涎が伝っていた。
「そうらしいな。我慢せずに逝っちゃえよ。な?」
 ジョッシュを包むリムの柔肉も酷い事になっていた。愛液と先程の精液の混合液を結合部から垂れ流し、泡立ったそれが生臭い匂いを放って双方の堪えを擂り減らす。
 ジョッシュは止めを刺すべく、破壊手前のリムの奥を狂った様に突き捲った。
「う、うん! ぁ、あぁぁ……逝く! 私、わたし! また逝っちゃうよう!!」
「逝っちまえリム! 付き合う!」
 リムの雌穴が限界を訴え収縮を開始する。その穴に身を投じていたジョッシュはそれを直ぐに見抜くと、可愛い妹の耳元に口を寄せ、力強く言い放つ。
 ジョッシュ側の耐久力は未だに残っていた。だが、リムの絶頂に引き摺られる様に呆気無くゲージは空になった。
「お兄ちゃ……ジョシュア――――っ!!!!」
「くお、おっ……!」
 官能の叫びが耳朶を震わせて木霊する。
 態々、普段の様に『お兄ちゃん』ではなく名前で呼んでくれたリムに心を刈り取られたが如く、ジョッシュはリムの絶頂に合わせて白濁液をブチ撒ける。
「う、うわ……痛烈だなあ、おい」
「あはあ……し、幸せぇ……♪」
 リムの持つありったけの『好き』と言う感情が流れてきて頭が馬鹿になる様だった。
 尿道を迸る欲望の液体を盛った女の最奥へと注入しながら、ジョッシュは眩む視界に酔いつつ、しっかりとリムの胎内に種付けする。
 熱を放つジェルの感触に意識を釘付けにされながらも、リムは膣全体を優しく戦慄かせると、兄から愛を搾り取る動きを加速させる。
 リムは女の幸せの真っ只中に居て、それを心の底から噛み締めた。
 ……この幸福感は自分だけのものだと。優しい兄を占有出来る事を自分だけの特権に想っている様だった。

「ホント、いかんなこいつは」
 ……癖になる。
 搾り取られた気だるさの中、ジョッシュは額に冷汗を伝わせつつ思う。
 予想はしていたが、此処迄強烈だとは思わなかった。甘い見積もりをしていた訳では無いが、それでもリムとの目交いは度を超えていた。
 こうならない為に色々と自制してきたが、いざその時を迎えると人間はこうも弱いのかとジョッシュは自分を叱り付けたかった。
 男と女。だが、同時にリムと己は義兄と義妹の関係にある。思わずそれをブッチ無視したくなるような、素晴らしい塩梅だった。
 不覚にも、ジョッシュの一物は再起の兆しを見せる。
「お兄ちゃん……♪」
 それを察知したリムは汗塗れの身体でジョッシュの肌にすりすり身体を擦り付けた。汗の匂いに混じるリムの甘い体臭がジョッシュの口腔に涎を溢れさせる。
 刺さりっぱなしの兄の一物は身体だけでなく、心にまで劣情を刻んでくる。
 身体のみでなく、同時に心をも犯されている様な妙な感覚。
 常人なら忌避するであろうこんな危ない目交いもリムにとってはジョッシュとの親交を深め、愛を知る大切な行為だった。
「ちょ、ちょっと休憩だ。身体がやばい」
 まるで底が無い様に更なる精液を求めるリムの性欲にはジョッシュとて圧倒させられる。
 活力がほぼ共有だと言っても、弾が供給される訳ではないのでその分だけジョッシュは不利だ。ただでさえ勃起しっぱなしの抜かずの二連射を決めた後だ。
 敏感になっている身体は虚脱感以上にもっと大切なモノと引き換えにブーストしている。
 一息吐かなければこのまま意識を飛ばしてしまいそうだった。
「えへへ、好きだよジョシュア……♪」
 その考えがはっきり見えたリムは兄の耳元で優しく囁き、膣を柔らかく締めた。
「……//////」
――ぎゅっ
 その台詞がツボに入ってしまったジョッシュは赤面しつつ、妹の背中に手を回して抱き締める。
 ここぞと言う時に名前を呼ぶリムは想像以上に悪辣だった。
 義兄妹ではなく、恋人同士のそれを求める事は、今の自分達が名も無い男と女である事を強調する。
 熱病にうかされる様にジョッシュの頭はくらくらしていた。

「さて、少しは落ち着いたけど」
「え?」
 お互い抱き合う事四半刻、やっと活力が戻り動ける様になったジョッシュはリムに一言言う。
 その言葉にリムは少しだけ思考と動きを止めた。
「交代だ、クリス。リアナを出せ」
 今迄ジョッシュが相手をしていたのはクリスの方だ。だが、クリアーナと言う女を愛する以上はもう一人の方も平等に愛さねば嘘になってしまう。
「あ……う、うん。ちょっと待ってね」
 そんな兄の言葉に妹はちょっとだけ残念に思いながらも、心の奥に潜むもう一人に主人格を譲った。
 そうして、瞳を閉じて半ば見捨てられていた身体の同居人に声を掛けると、クリスの意識は強制的に裏幕に引きずり込まれた。
「・・・」
 そうして、リアナが漸く表に現れた。
「出て来たな」
 空気が変わったのがジョッシュには直ぐに判った。
 一時期、シュンパティアに囚われて入れ替わりが困難になっていたクリスとリアナだったが、ジョッシュとの精神感応を引き起こしてからと言うもの、その症状は緩和されていた。
 その気になれば自力で何時だって意識の表層に上がって来られるリアナだが、今迄何も動きを見せなかったのは、単純にジョッシュと肌を重ねる際のローテーションに逆らえなかったからだ。
「今迄、ほっぽっててゴメンな。でも、お前とクリスが居てのクリアーナだからな。無視する訳に「待たせ過ぎだよアニキィ!」
「んぐ」
 言葉の途中でリムはジョッシュの首に腕を回し、その唇を奪った。
 順番だとは言っても、クリスとジョッシュの情事を目にしていたリアナは自分が忘れられている事に嘆きつつも、盛大にじらされていた。
 そしてやっと気付いて、出番が回ってきた事に歓喜しつつ、もっと早く気付いて欲しかったと恨み言を混ぜつつ、兄貴の顔にキスの雨を降らしていった。

「アニキ……アニキぃ……♪」
 ガタイが良い事を示す、分厚い胸板に汗塗れの乳肉がしっとりと吸い付く。
 肌の触れ合う感覚だけで心臓はバクバクと熱い血を全身に送って来た。
 翠色の視線と髪色と同じ濃い藍色の視線が交差した。渋めの端正な兄の顔を眺めていると、それだけで扇情的な気分になり、自然と身体がビクビクと震え出す。
 先程からかなり長い時間、身体を貫いている剛直の熱さや硬さはクリスには兎も角、リアナにとっては馴染みが薄いモノだ。
 意識せずとも雌の本能で雄のシンボルに媚肉を絡ませて、快楽と精液を強請りながら、リムは一層トロトロに蕩けた身体でジョッシュに迫った。
「お前の声、ちゃんと届いてたぞ」
 もう一人の妹の熱烈な愛情表現を受け止めながらジョッシュはその耳元で囁いてやった。
 クリスとの最中にリアナが言葉を発する事は無かったが、それでも送られる思念の中に確かにリアナが発した劣情や肉欲が含まれていたのをジョッシュはちゃんと分かっていた。
「酷いよぅ……! クリスとばっかり見せ付けて!」
「臍、曲げないでくれよ。交代した以上は、最後までこのままなんだろ? なら、俺はもうお前のモンだ」
 頬を膨らませ、涙目で睨むリムの顔は怒っていると言ってもとても可愛らしいモノだった。それに癒されながら、ジョッシュは尚も甘い声色で囁いた。
「アタシ、の?」
「ああ。何か、無いのか? して欲しい事とか。待たせた分、今なら大抵の事は聞くぞ?」
「あ……//////」
 それにハッとした様にリムは顔を固まらせ、次の瞬間にはそれを崩して恥ずかしそうに俯いた。
 クリスにはこの手の駆け引きは余り通用しないが、リアナ相手にはとても効果的な手段である事は経験上ジョッシュは知っている。
 中の人間が入れ替われば、思考も変わるし、心身の弱い部分だってガラリと変わる。
 一人分で二度美味しいリムは非常に稀有な存在であり、ジョッシュはその手綱をしっかりと握っていた。
「え、と……ね?」
「ん?」
 そうして、リムは漸くして欲しい事を見繕う事が出来た様だ。
 その顔は相変わらず俯いていて、どんな顔をしているのかが分からず、同時に何をお願いされるのかがジョッシュには検討が付かなかった。
 心を読もうとしても、欲しいと言う言葉しか読み取れなかった。

「か、掻き回して欲しいの……!」

 突然、顔を上げたリムの顔は桜色に染まり、涙の滲むそそる表情をしていた。

「ぐちゃぐちゃに掻き回して、オマ○コの奥で赤ちゃん汁、一杯飲みたい……!」
 リアナがして欲しい事は、今迄クリス相手にしていた事そのままだった。
 欲しいと言う心の声そのものであり、矛盾もしない。
「アニキのオチ○ポの形と味、もっとアタシに覚えさせて欲しい! このオマ○コ、アニキ専用の穴だって証を刻み付けて欲しいの……」
「つっ……」
 だが、それを直接口に出して告げられるのと黙っていられるのとは破壊力が段違いだ。
 何も其処迄エロい言葉を織り交ぜなくても良いのでは? そう思いつつ、ジョッシュは下半身を襲った激痛に顔を歪める。
 もう既にパンパンに腫れた一物に更なる血液が流れ込み、海綿体の限界を超えて一物を膨らませた結果だ。みっちり詰まった妹の穴が更に拡張される程の膨張具合だった。
 此処に至り、急に難易度が上がった気がするジョッシュ。今迄灰で来ていたのに突然、難付きの穴を突き付けられた様だった。
 だが、叩けない譜面ではないので、このままゴリ押しで何とかなる……とか何とか思っている訳は無かった。
「アニキィ……//////」
「何て危険なおねだりだ、こん畜生」
――やっぱり、相性はリアナの方が良い
 クリスには悪いがジョッシュはそう思ってしまった。
 こんな歯の浮く様な懇願めいたおねだりはやってくれと言ってもクリスには絶対無理なのだ。だが、それを自然と言ってのけるリアナは必然的に受け属性であると言える。
 ジョッシュは受けも攻めも器用にこなせるが、どちらかと言えば攻める方が好きだ。
 やや攻めであるクリス以上に、リアナとのマッチングは宜しかった。
 ……涙目の上目遣いで腰を捻りながら迫るリムの今の姿にぞわぞわと背筋を奔る怖気が非常に心地良いジョッシュは男としては堪らないシチュに酔いそうだった。
「あの、そう思ってくれるのは嬉しいけど、アニキ……?」
「う、え」
 バツが悪そうな顔で視線を送ってくるリムに現実に引き戻された。どうやら、強く想い過ぎた結果、それがダイレクトにリムに伝わってしまったらしい。
「く、クリスが怖いからさ。その、ね」
「……事実だ。あくまで相性なんだから、膨れない様にお前が説得しろ」
「うう〜〜、後が怖いよぅ」
 リアナの裏で歯噛みしているクリスが容易に想像出来た。だが、取り分けジョッシュは言い訳もせず、その全てをリアナに委ね、知らんぷりを決め込む。
 怒ると怖いクリスの説得役を押し付けられたリアナは兄の明確な好意の感情を嬉しく思ったが、それ以上に貧乏籤を引いた気分になってしまった。

「じゃあ、動くぞ」
「う、ん……ふっ、ふああ……♪」
 断りを入れてゆっくりと腰を深い部分で前後させると可愛い声でリムが泣く。
 奥側……取り分け子宮口を小突かれる事が好きなのか、リアナは身体をぴくぴくさせて挿入される肉棒に雌肉を絡ませる。
 クリスの時と微妙に違う内部の反応を楽しむ余裕は残念ながらジョッシュには無い。
 我ながら堪えが無いとは思いつつも、もう既に一物はアラートマークが真っ赤に点灯しそうな機体状況だった。
 勿論、それはリムだって一緒だが、分が確実に悪いのはジョッシュの方だ。弾は尽き掛けているし、リムは遠慮なく装甲を削り、その想いを心に訴えてくる。
 耐えるに難しい状況は男にとっては快楽の天国であり、兄貴としては男が立たない地獄だった。
「っ……きっついな、こりゃあ」
「も、もっと……! もっと動いてぇ!」
 堪えれば堪えるほどキツイ状況。心を空にする事や、別の事を考える事が出来ないのでどんどんダメージは蓄積される。
 その状況で激しく動く事を催促されると、身動きが取れない。
「あ、ああ。……んぐっ」
「あっ……ああっ!!」
 だが、可愛い妹のお願いは極力聞いてやりたい。だから兄は唇を強く噛んで腰を派手にグラインドさせる。その動きが堪らないリムは悶え、嬌声を上げた。

 膣を掻き混ぜる肉棒がぶちゅぶちゅと卑猥な水音をけたたましく鳴らす。粘着く精液と愛液のカクテルでリムの陰道はヌルヌルを通り越して、納豆の様に粘々だ。
 糸を引いて擂粉木に纏わり付く白く濁った雄汁と雌汁のカクテルは生臭い臭いを放ち、ジョッシュのズボンに染みを作る程の量に達していた。
「ああ……何か、頭がボーーっとしてきた」
「あーーっ! あふっ! んあああっ!!」
 リムを組み伏して、腰を引っ掴み、深く差し込んだ肉の槍で子宮口を丹念に突くジョッシュにリムは泣かされっ放しだ。
 突く度に膣内は締まり、スケベな涎は湧き立ち、心を冒すリムの声はどんどん大きくなっていく。
 もう既に蕩けて境界が霞んで来ている下半身の結合部からは快感だけがリアルに伝わって来ていた。
 だが、その刺激がどうしてかジョッシュには鈍く感じられる。視界が揺れて、色が褪せて見え、耳を打つリムの甘い喘ぎが何故だか遠い。
「アニ、キぃ! アニキ! もっと奥ぅ!!」
「っ……!? ヤバイ、今、魂抜けてたか。危ない危ない」
 緩慢になった腰の動きに不満を持ったリムが大声で叫び、ジョッシュの魂はその体に何とか戻る事が出来た。
 ……どうやら、感応により脳の処理能力が低下し、本当に解脱しそうになっていたらしい。やはり、女の多幸感は男の脳味噌では耐えられないモノであるらしい。
 ジョッシュはそれを身を以って知った。
「く……これは、もうどうしようもないなあ」
 そうして、体の自由を取り戻してジョッシュはその状態を確認し諦めた。発射まで秒読み段階、もうどうやっても射精を回避する術は無かった。
 血流によって膨れ上がった一物は痛みを与える程に猛り、その内部にいかんともし難いしこりが解放を訴えている。
 計器はお花畑の様に真っ赤。HUDの表示は消えて、警告音も鳴り止まない。ベイルアウトすら不可能な状況だ。
「も、無理、だな。……リム、こ、このまま、お前の、膣内に……!」
「来てぇ!! アニキのホットミルク!! 妹マ○コの奥で全部飲ませてぇ!!」
 状況はもう予断を許さないのでジョッシュはリムに射精を宣言した。それが分かっていたリムは憚る事無く恥ずかしい台詞を吐き散らし、腰をぐいぐいと押し付ける。
 種付けによる兄の愛を噛み締めたい妹は鬼気迫る、且つそそる表情で兄を煽り、その起爆を促す。
「っ……Wilco」
「うっ、くっ!? んううううう……っ!」
 了解し、遂行する。ジョッシュは最奥に到達しているに関わらずに尚も腰を突き入れ、堤を力尽くで砕く様に竿を奥にめり込ませる。
 容量を超えて入り込む肉の楔に奥行きを拡張されるリムは唇を噛んで唸る。
 痛いのか、それとも穿たれる感覚が気持ち良いのかは不明だが、ジョッシュの精神には特に嫌悪的な思考は流れては来なかった。

『飲ませて』

……脳味噌一杯に木霊するリムの心の声。それ以外は全く聞こえない。

「んじゃ、逝くからな……?」
「は、はいっ!」
 そうして、リムが余っていた丈を全て飲み干した所でジョッシュはアフターバーナーをふかした。
 FOX4上等な無茶な突き入れで、蟠るモノを解放しようと円蓋部と子宮口をこね回すジョッシュは程なく絶頂に達する。
「全部、飲めよっ!」
 ジョッシュは熱く熔けた欲望の弾丸を打ち出し、射精の開放感を味わった。
「ぁ、ぃ……! ぁ、熱いぃ――――!!!」
 放たれた弾丸はリムの奥の奥に着弾し、理性やら何やらを破壊し尽くして絶頂へと誘う。
 比喩抜きでザーメン塗れにされていく子宮は嬉しそうに子種を啜り、その味を自身へと滲み込ませて行く。
「う……ん、ん……っ、また、相打ちか」
「熱ぃぃ……! オマ○コあちゅいよう……♪」
 揃って同じタイミングで痙攣しながら精をぶち撒け、またぶっ掛けられる。
 溶けて攪拌された意識は混沌とし、どちらが何を言っているのかやっているのかも良く分からない程蒙昧だ。
 射精しているのか、それとも射精されているのか……今の二人にはそれが判別出来ない程だった。

「も……弾切れだ。ふう……満足したかい?」
「んあ……っ……まあ、程々には。欲を言えば、もっと欲しいかもね」
 子宮奥に着弾した生暖かい兄の子種。熱を放つそれが内部から焼く様で、その感触がどうにもリムを捕らえて放さない。
 下腹部を撫でながらリムは、これ以上は辛いと音を上げているジョッシュにそう言った。
 取り合えず、疼いていた物は取り除けたが、そんなモノは一時的なモノだ。
 時間が許す限りはもっと子宮で精液を飲みたいし、もっともっと可愛がって欲しいと言うのがリムの本音だった。
「無理言わないでくれよ。こっちは三連発だぞ。流石に痛くなってきたって言うか……」
 そんな言葉が少しだけジョッシュを戦慄させる。
 幾ら若いと言っても限度はあるし、何か1000m走を全力でやってのけたような虚脱感と疲労感を感じている。
 上半身は互いに汗塗れで顔は唾液塗れ。下半身は汁塗れ。それ以上に下腹部の一部にずっしりと圧し掛かる鈍痛が切に限界を訴えていた。
 ……そりゃあ、兄貴としては愛する妹のおねだりを聞いてあげたくはある。
 しかし、どれだけ懇願されようと、消費された弾薬は補充されないし、無理をすればくたくたの状態で最終作戦に挑まねばならないと言う間抜けを犯さねばならない。
 ジョッシュはそれだけは御免だった。だからこそ、何とかこれで手打ちにして貰いたかったのだが……

 なあに。世の中そう上手くはいかないものさ。……そうだろう?

「ひゃんっ!!?」
「あーー……え?」
 瞬間、ジョッシュは耳を疑う。戦闘は終わった筈なのだ。それなのに聞こえてくるリムの悲鳴。
 身体を動かしている覚えは無いのに、竿に再び纏わり付く媚肉の感触。
 一体これはなんなのか? 
 鳥でファイナルステージを終え、リムとの睦合いはこれっきりの筈なのに。
「は、あっ……んん、何よ、未だアニキもしたりなあっ!」
「う、あ? ちょ、待て。な、何だこれ」
 悩ましい吐息、蕩けた表情。甘い声色で腰を浮かして身体をくねらせるリムの様子は行為の最中に見せる姿を晒していた。

「……ま、マジかよ? これ、本格的にヤバイぞ?」
 そして、その理由に気付いた時、ジョッシュは愕然とする。
 ……腰が勝手に動いている。脳味噌の命令を無視して体が一人歩きしていた。
「んうっ……嬉しい♪ アタシを未だ可愛がってくれるのね?」
 リムはジョッシュがどう言う境遇にあるのか判っていない。いや、そもそも判る必要が無いので展開する肉欲の弾幕に身を委ねるだけで良かった。
 ずっぽりと嵌った兄の剛直に襞の舌を伸ばして丁寧にしゃぶり、引き絞る壁の圧迫は餓えた野良犬の様に肉棒に喰い付く。
 ピクピク痙攣しながら果ての無い欲望と言う名の渇きを癒す為に再び火傷しそうに熱い精液を強請っている辺り、リムは何処までも女の本能に忠実だった。
「いや、そうで無くて! か、体が勝手に動きやがるぞ」
 リムはジョッシュが自分を悦ばせる為に力を振り絞っていると思っている様だが、そんな事は無い。
 この状況はジョッシュにすら制御不能の異常事態であり、リムにとっては嬉しい事なのだろうが、ジョッシュにとっては自殺行為以外の何物でも無い。
 体力ゲージは点滅しているし、SPは無論、エネルギーと弾倉も共に空だ。そんな状態で射精を行う事は何か大切なモノが犠牲になる事が判りきっている。
 魂やらLPが確実に減ってしまう事だろう。
「アニキ……好き……アニキ……!」
「う、お……! と、止まってくれよ、なあ? もう本当に弾が……!」
 ジョッシュは懸命に呼び掛けた。
 背中に腕を回して胸が潰れる程に密着し、腰に脚を絡めて腰骨に恥骨をぶつけてくる発情している妹に。
 そして、主の命令に全く従わずに妹の子宮口を鈴口で磨き上げる不忠者の身体にだ。
 だが、そんな言葉でリムは止まらず、ジョッシュの身体が自由を取り戻す事は無い。
 まるでAUTOさんに操られている様にリムの弱い場所を的確に刺激する自身の体は見ていて腹立たしくなる程に普段の自分より上手かった。

「は、はあっ! はんんっ……! ううんんん……♪」
「畜生……まるで犬っころだぜ。……いや、なら俺は猿以下だな」
 オクターブ高い声を上げ、懸命に腰を捻りって鳴くリムはジョッシュには綺麗に映る。だが、それ以上に浅ましく、下賎な輩の様に見えてしまうのも或る意味仕方ない事だった。
 だが、それはリムに限った話ではなく、自分もそうだと気付いた時にジョッシュは顔に汗の雫を伝わせて、自嘲気味に哂う。
 凡そ文明人とは思えないケダモノさ加減。兄だの妹だの色々面倒臭い制約はあったが、今の自分達の姿を見ればそんなモノには説得力は皆無だ。
 人間は、所詮動物。こうやって裸で目交えば、胡乱な柵なぞ全て灰燼に帰するのが道理と言うモノだ。
 現実がそれを教えてくれている。自分は男で、リムは女で……それ故求め合う事に余計な理由は必要無かった。
「好きぃ……大、好きぃ! アニキ……!」
「……っく!?」
 一物を根こそぎ刈り取る様な強烈な締め付けが襲ってきた。もう既に飛ぶ直前である事は間違い無く、リムの全身には玉の汗が浮き、ビクビクと打ち震えている。
 もう弾は無い筈なのに、鈍痛が続く下腹部に何度目かの火が点いた気がするジョッシュ。
 一瞬、目をリムの顔に向けた時、僅かな隙に心を抉られた気がした。
 涎と涙でぐしょぐしょのリムの顔は酷いモノだったが、今迄見たどんな彼女の顔よりも美しく見えた。
 ……リムの内面の全てを語るその表情をその脳裏に焼き付けるジョッシュ。
 だが、無常にもお互いの絶頂がそれを邪魔した。もう少し見ていたかった気がしたのに残念な話だ。
「ジョシュアぁ……!」
「く、ぅ……つっ……リアナ!」
 まただった。また名前で呼ばれた事に心と体が大きく反応するジョッシュ。
 だが、ジョッシュとて今回はそれで終わらない。
 愛しい男の名を呼ぶ女の名前を何時もの略称ではなく態々指定して呼んでやる。
 お互いを名前で呼び合いながら、ジョシュアはリアナの体をきつく抱き、リアナもジョシュアに懸命にしがみ付いた。
 そうして、注がれる最後の液体がお互いの意識を斬り落とす。
「ひっ!? ……っ、っ!! ひぃいあああァああぁあアあ――――ッッ!!!」
「く、お……ぉぉ!? あっ……ぐ、ぬぅ……ぅぁ!!」
――Mayday! Mayday! Mayday! I`m wounded! Eject! Eje……oh,god!!
 機体大破。戦線復帰不能。陰嚢の中身を妹の中枢目掛けて派手に射出する。
 子宮底を叩く兄の愛が灼熱感を以って妹の意識を灰にした。
 都合四度目の射精とは思えない良質、且つ大量の精液がザーメン塗れを超えて子宮そのものをザーメン漬けにしていく。
 白い飛沫が降り注ぎ、臍の裏にびちゃびちゃ跳ね回る。兄の愛と欲望の化身がその味と匂いを刷り込みながら妹の内部をマーキングしていく様だった。
「ひっ! ひぅっ! んいっ! っ! っ…………ん、ぁ、ぁぁ……」
 ミルクを溜めてずっしり重い子宮の感触に酔いながら、天地が逆転した様な浮遊感を軽い引き攣けを起しながら味わう。
 リムは完全に堕ち、体も心もジョッシュにトロトロのメロメロだ。
 そうして、ふわふわと覚束無い恍惚としたリムの頭は、夢現の境にある意識の手綱を容易に手放させた。

「ぅ……」
 意識を消失したリムに引き摺られる様にジョッシュもまた、軽い酩酊感にも似た意識消失過程を体験している。因みに、負傷は一切無い。
 意識はもう無いのに、それでも一物を喰い締めて精を啜るリムの蜜壷の感触はエナジードレインを超えて、最早スピリットドレインの領域だった。
 崩れそうな上体を腕で支えながら、一滴も無駄にはしまいと生命力を引き換えに急造した白い液体をリムの奥に塗り込んでいく。
 尿道を迸る粘度の高い液体による愛撫はもう痛み以外は伝えては来ないが、それでも心に一抹の達成感を生じさせた。
 惚れた女に少しは報いてやれた。……それだけで御の字の成果だった。
 普通そんな考えは浮かばない筈だが、それが出ると言う事はリムにとことんイカれてしまった事の証拠なのだが、ジョッシュはそれに猶予う事はもう無いのだ。
「死んで、しまう、な……こ、これ以上は」
 ジョッシュの体は限界を超えていた。空元気すら貼り付けられない消耗振りに上半身を支える腕がガクガクと笑っている。
 それにしても、一体今のは何だったのか? 理由は要らないと思いながらも、そうなった原因の究明は精神衛生上、必要だった。
 考えられるのはシュンパティアによる共鳴だ。それによって感応・増幅された互いを求める気持ちが身体をジャックし、本能に忠実に突き動かしたに違いない。
 シュンパティアは只のインターフェースではなく、想いを力に変えると言う側面を持った装置だ。
 為らば、それに魅入られた自分達のシンパシィが高まれば、身体が主を裏切る事だって十分考えられる事だろう。
 ……現実にそんな事があって堪るか。
 一瞬、そう思いかけたジョッシュだったが直ぐに思い直した。何故なら、この身はアンリアルな世界の住人故に。
 道を歩いていて隕石が頭に直撃する事はあるだろうし、風が吹いて核兵器が発動する事なんて普通にありそうな世界だ。
 それなら、こんなエロ漫画的な展開も在り得ないとは言い切れないだろう。
 ジョッシュはそう納得する事にする。……そう思う事しか出来なかった。
 こんなエクストラステージは金輪際御免だとも思った。
「げ、ん界、か。……駄目だ。意識が、遠の…………」
 そして、ジョッシュは思考を閉じる。リムがブラックアウトした時に意識の半分を闇の底に持っていかれている。
 そんな半分の精神、且つ疲労困憊の体で意識を覚醒状態に保つのは不可能だった。
 電源が切れる様に視界が暗転する。顔から肉のカーテンに着地するが、それがリムの身体だと確認する前にジョッシュの意識は途絶える。
 最後の瞬間迄、リムの秘肉はジョッシュの分身を優しくしゃぶっていた。

――Just Barely Bonus得点+1146000



――凡そ半日後……

 作戦開始時刻迄もう間も無い時刻となっていた。
 散々に搾り取られ、逝き狂った義兄妹は遅い目覚めに若干慌てながらも、お互いの汁でべとつく体をシャワーで洗い流し、新しい装いに着替えて一応身支度を整えていた。
 汗と汁に塗れたベッドシーツがマットから引っぺがされて床に転がっている。ジョッシュはシーツの無いベッドの端に腰掛けて、悠々と煙草を吸っている。
 そして、リムはそんなジョッシュの傍らにぴったりと寄り添い、首に腕を回して密着していた。
 最後の時まで一緒に居たいと言う二人の思いがそのまま形になった光景だった。
「ねえ」
「ん?」
 そんな一歩間違えたら恋人同士にも見えかねない格好で密着している二人。
 先に声を掛けたのはリムの方だった。
「煙草、少し控えたら? あんまり良くないわ」
「これで吸い収めになるかも知れない。固い事は抜きでな」
 余り五月蝿い事は言いたく無いが、それでも最近目に見えて本数が増えている兄貴への妹のなりの気遣いだ。
 しかし、兄はそんな妹の言葉をひらりとかわし、ぷかぷか紫煙を燻らせるだけだ。
 本当は煙草だけでなく、酒も飲みたい気分だが、酒臭い息で出撃して、戦闘機動で胃の中身をイジェクトするのも馬鹿らしいので流石にそれは控えていた。
 それだけでも評価して欲しい兄だったが、妹はそれを判っていながら無視した。
「帰って来るつもり無し? って、どっかで聞いたやり取りね」
「そうだな」
 自分で口にしていて違和感を覚えるリム。それもその筈、その台詞はジョッシュを誘う時に自分が口にしたものだからだ。身に覚えがあって当然だった。
「で、それ、そんなに美味しい物? そうなら頂戴よ、アニキ」
 まあ、そんな過去のやり取りはどうでも良い。
 兄とて煙草の害については熟知している筈だが、それを手放さない事がどうにも腑に落ちない妹。
 少し、煙草に興味を持ったリムはジョッシュにそれを強請った。
「吸いたいって? ……ほれ」
「ん」
 未成年だが分別のあるジョッシュは頭ごなしに願いを突っ撥ねたりしない。
 寧ろ、リムの好奇心を満たしてやる為にソフトパックから一本取り出すとそれを咥えさせてやった。
「別に止めはしないが……フィルターを吸わんと火が点かん。……オーケーだ」
 そうして咥えさせた煙草の先端にライターの火を近付ける。喫煙初心者宜しく息を止めている為に中々火が行き渡らなかったが、その問題も直ぐに解決した。
「んむ……ぇと、スウゥ……っぷ!? くっ、えほっ! げっほ!」
「ハハ。初めから肺にとはチャレンジャーだな。勇ましい」
 フィルターを吸って口腔一杯の煙を肺にほんの少し取り入れた瞬間にリムは盛大に咽た。
 ジョッシュの煙草はニコチン、タール共にかなりの強さを誇っているらしい。涙目晒した妹の面白い姿を目の当たりにした兄は少しだけ顔を綻ばせた。
「ぅ、あ……けほっ。うわ、何これ。頭が、馬鹿に……っ」
「ニコチンによる血管収縮。俗に言うヤニクラだ。脳梗塞の軽度版って考えれば良い」
「の、脳こ……怖っ!」
「そうだな。行き過ぎれば本当の脳梗塞も在り得る。だから、止めておいた方が懸命だ。お前には似合わん」
 微妙に戦慄している妹に煙草の怖さを教えつつ、それでも紫煙をふかす兄貴。
 どうにも釈然としないので妹はくらくらする頭のまま兄に問うた。
「んむむ……じゃあ何だってアニキはこんな危ないの吸ってるのさ」
「手放せないからだ。中毒性があるのさ。だから止めとけ。俺は断じて勧めない」
「ん。止めておく。お酒の方がマシだわこりゃ」
「ああ。それで良いさ」
 中毒性と毒性では或る意味、ご禁制の白い粉に準ずるのが煙草だ。
 ジョッシュは我が身を反面教師としてその怖さをリムに教え込む。これで、リムは悪い道に反れる事は無いだろう。
 ……端から見れば、非常に平和的なカップルの乳繰り合いだ。だが、その裏で後数時間足らずで父親の存在を抹消する未来が彼等を待っているなど、それは明らかに普通ではない。
 それでも平静を崩さないのは兄妹なりの痩せ我慢なのかも知れなかった。
 だとするならば、神は随分と残酷な運命を彼らに課している事になる。二人が平静を装っているならば、尚更それは重たい事だろう。
 ジョッシュもリムも、覚悟を決めたからこその今の状態と考えると、それは同情を誘う程に気丈な出で立ちだった。

「あーー……そう言えばな、リムよ」
 そんな表面上は平和なやり取りの中、ジョッシュは或る事を口にしようとする。
「何?」
 リムは極めて普通にそれを尋ねた。
 ……口から声が出た瞬間、リムは異常に気付く。ジョッシュの表情は明らかに様子がおかしいと分かる程に妙だったのだ。
 何を語られるのか身構えようとした矢先、ジョッシュは青褪めた唇を動かした。

「親父、さ」

「――え?」
 短い母音しか出て来ない。リムは一切の思考が停止し、ジョッシュを見据えたまま、ベッド上に座った状態で固まってしまう。
 まさか、今更父親の事を兄の口から聞くとは思わなかった。故に完全に油断していた。

「あの事故が起こった時、俺、遺跡に飛び込んだろ?」
「ぅ、うん」
 ……呆けている場合ではないので再起動したリム。どうやら、父親に対する恨み言や愚痴の類ではないらしい。
「少しだけど、親父と話した」
「……初耳だけど」
「ああ。言わなかったからな」
 ジョッシュはあの全ての始まりの時に遺跡深層で実の父親と実質最後になってしまった会話を交わしていて……その内容をリムに伝えようとしていた。
 リム自身、聞いた覚えが無くて当然だ。ジョッシュがそれを口にするのはこれが最初だからだ。
「……それで、父さん、何だって?」
 どうして今迄黙っていたのか問い詰めたい気分だったが、それは後に回す事にしてリムはジョッシュに内容の開示を求めた。

「巻き込んでしまって済まん、だとさ」

「・・・」
 リムは眉間に皺を寄せる。当たり障りの無い月並みな言葉。……もっと意外性のある別の言葉を期待していたのかも知れない。
 だが、何を願っても通過した過去は兄の口を通じて、一つの真実しか語らないのだ。
「上手く聞き取れなかったけど、お前達の事は特にだったな。アレはアレで責任を感じてたのかも知れん」
「……そっか。そうなんだ」
 父親は最後迄己のした事に責任を感じていた様だ。それが明らかになった事でリムの心は少しだけ軽くなった気がした。
 それ以上の感慨は湧かず、ただゆっくりと目を閉じ、父親の最期の光景を頭の中に思い巡らす。
 ……兄の直ぐ傍らで、それでもたった一人で最期を迎えたかも知れない父は何を思ったのだろうか?
 考えれば考える程、それが悲しくて仕方が無かった。

「……何か無いのか? 黙ってられると息苦しいが」
「何て言って欲しいの? アニキはさ」
 動きを見せない妹が少しだけ怖いのだろう。重苦しさを感じた兄はそう言って妹を動かそうとするが、妹は兄の予想以上に落ち着いていた。
「む……別に催促してるって訳じゃ無いんだがな」
「じゃあ、何だって今になって? もっと、早くに言って欲しかったよ、アタシ達」
 見るからにジョッシュは切羽詰っている印象を与えてくる。
 リムはそんな兄を苛める訳では無いが、ちょっとだけ唇を尖らせてジト目で睨むと、ジョッシュはバツが悪そうに苦笑した。
「それを言われると辛いんだがな。お前達と再会するまでゴタゴタしてたし、俺もすっかり忘れてたんだよ。で、今ふっと思い出した。
今言わないと墓の中まで持って行きそうだったから、このタイミングになっちまったんだ」
「そう。なら、仕方ないか」
 理由を聞く限り、嘘は無さそうだった。宇宙と欧州に分かれて、その後に合流する迄は確かにお互いに忙しかった。
 こんな話をするタイミングを計るのは難しいし、直ぐにリムは南極調査隊の護衛に回ってしまって、その機会すら無かった事を考えれば兄を責めるのはお門違いだった。

 ……聞けば何て事は無い父親との間の出来事。人間呆気無いモノと無理に笑おうとはしたが、実際に笑みを零すほど無神経じゃない。
 寧ろ、今迄その事を心に溜めていた兄が馬鹿らしく、またどうしようもなく憐れに映ってしまう。
 馬鹿な考えを持ってしまうのも納得だと思いつつ、リムは溜息を吐く。
――ふう
 ……ジョッシュの言葉で、もう完全に吹っ切れたのだ。
「許すよ、アタシ達は」
「む」
 それで心の中の葛藤とは決着だ。
 否、本当はずっと前から許しているし、憎しみは持っていない。
 だが、その言葉を未だ殺意と罪悪感の間で僅かでも揺れている兄に聞かせるのは必要な事だと妹は思った。
「父さんがその事を悔いてたって言うなら、アタシはそれに向き合うし、受け入れる。
だってそうでしょう? 今になって怒り狂うのは遅すぎるし、それを恨んで破滅の王様に力を与えるのは馬鹿らしいでしょ」
 実に合理的な考え方を展開するリム。
 戦場に出る者は私情を、憎しみを持ち込んではいけないとちゃんと理解している。
 それをすれば犬死する者は増え、自分達すらその渦に飲まれる事を知っている様だった。
「それで良いのかよ? 逆に俺はアイツの息子として申し訳ない気持ちで一杯なんだが」
「それはアニキの気にする事じゃない。……生真面目過ぎるのよ、アニキは。もう少しお気楽に生きてみても世界は滅んだりしないよ?」
 やっぱり兄は罪悪感を拭い切れていない。だが、妹は気にするなと簡潔に示して薄く笑うだけだ。ジョッシュはそれが眩しく感じる。
「お前……ははっ。強いんだな」
 此処迄精神的な強さを見せ付けられれば厭でも心が動いてしまう。
 何時も後ろに付いてきていた妹は、今はこうやって不甲斐無い自分の尻を叩き、元気付けようとしてくれている。
 それが何だか嬉しかったし、褒めてあげたい気持ちでジョッシュは一杯だった。
「違う。気の持ちようって奴よ。アニキもそうしたら? 世界の色、ガラっと変わるよ?」
 基本的に生き方の違いと言う奴なのかも知れない。心で体で繋がろうとも、根本的に違う人間同士なのだからその差異は埋まらない。悲しい事だが。
「キャラじゃないから止めておく。……ってか、お前のお陰で既に変わってるぜ」
『それなら、お前達が俺の欠損を埋めてくれ』
 ジョッシュは言葉には出さず、リムの心に直接思いを投げ掛ける。
「アタシ達も。アニキに、染められちゃった」
『シリアスなのはアニキに任せた。でも、仏頂面は極力笑顔に変えてよね』
 リムからの返事は真面目とも冗談とも付かないモノだった。だが、それが本気だと言うのなら、ジョッシュも迷ったりしない。
 彼女達が傍に居れば、笑う回数が増える。それだけは判っている。
「リム……」
「ぁ……アニキ//////」
 リムの言う通りに顔に笑顔を引いたジョッシュはリムの髪を梳きながら、その顎を持ち上げて軽く唇を啄ばむ。
――ちゅっ
 少しの戸惑いを見せ、顔を真っ赤にするリムだったが、後は自然にキスを受け入れ、流れに身を任せた。
 普段は敬遠する煙草の苦味すら、今では捨て難いモノに感じるリム。一分一秒でも長くこの瞬間を伸ばそうと、リムは必死にジョッシュにしがみ付いた。

 灰皿の吸いかけの煙草がゆらゆらと煙を立ち上らせている。放置されたそれは吸われる事も無いまま炎にその身を焼かれ、灰になりながら身を紫煙に変えている。
 それが二人を最後の地へと誘うカウントダウンの様で、言い知れぬ高揚感やら何やらを奔らせる。
 ……お互いがお互いの色に染まっているのは事実であって、否定など仕様が無い。迷いも、疑問ももう持たない。
 ここ迄来た以上は最後迄突き抜ける他は無いのだから。それ以外は許可されない。

<<全パイロット及び当該職員はブリーフィングルームへ集合せよ。繰り返す全……>>

「出撃、か」
 永いキスの終わりにスピーカーから物々しさを感じさせない聞き慣れた管制官の声が響いてきた。……出撃のアナウンス。終焉のギャラルホルンだ。
「行進のお時間が来たね。アニキ?」
 一筋の唾液の糸を伝わせて、それを拭わずにリムはジョッシュを見た。答えは決まっている。
 迷いの無い、良い表情でジョッシュは頷き、リムも頷き返す。
 ジョッシュは灰皿で消えかけていた煙草の一つを引っ掴むと、それを大きく吸って最後のニコチン補給をする。
「ああ。……行こうか、終わらせに」
「うん。これで、全部……」
 その火を消すと、ジョッシュはリムを連れて部屋を出て行った。

 ジョシュアの胸に光るフェザーのペンダントトップがキラリと光り、リムがしている同系の髪飾りに光を鋭く照り返す。
 義兄妹で対となる昔からしている小物。お互いにとって兄妹の証みたいなものであり、それを送ったのは他ならぬ父親のフェリオだった。
 ……その送り主を抹消する事が、彼等に課せられた任務。
 誰もそんな事を望む訳は無い。これが不幸の連続の終点だと言うのなら、成る程。
 確かに、この世に神は居ない。

――出撃前 フォルテギガス コックピット
「ふう……」
 愛機のシートに座り、目を閉じて精神集中するジョッシュ。
 開戦からこっち、死線を潜り抜けてきた勝利者の名を冠する機体。
 それも今ではリムの乗る魔女と良く分からない合体をして、強き巨人としてハンガーの一角を占領している。
 その強大さ、堅牢さは他を寄せ付けない威厳に満ちていて、王の風格と言った物を備えている様だ。
 ……ブリーフィング自体は簡素なモノだった。
 ゲペルニッチが地球を破壊する迄は一刻の猶予がある。その制限時間内に門を閉じ、生還する事が作戦目的だった。
 交戦規定は生き残れの一つだけ。この戦争は最後の最後迄自分達を死なせてはくれないらしい。
 言う程楽では無い事は皆知っている。でも、それでも……
「ねえ、アニキ?」
 考えに耽っていると、ストレーガのシートに居るリムから通信が入った。
 思考を中断して、ジョッシュはコンパネを手早く操作して通信に出る。
「何だ? 用件は手短に頼む」
 作戦発動まではもう間が無い。と言うか、カタパルトが空くのを待っている状況なので私語をしていては怒られる状況なのだ。
 何の用かは知らないが、とっとと済ませて欲しいとジョッシュは思った。
「……怖い? 今のアニキは」
 前置きは一切無かった。どれだけ覚悟を決めても拭えない物。リムは少しだけ神経質になっている様だ。
「おいおい。当たり前の事聞くな。小便ちびりそうだ」
 ジョッシュは虚勢を張らない。寧ろそれを認めてこそ器の広さに天地の開きがあると核心している様だった。
「そ、そっか。アニキもそうなんだ」
 その言葉を聞いてリムはホッとした様だった。
 別にこの作戦に限った話ではない。出撃する時は何時だって怖かったのだ。
 打ち落とされれば終わり。燃えて飛び散って死んでしまう事もある。
 それでも戦い続けたのは、何かを守りたいとかそんな押し付けがましい考えが理由じゃあない。最初はそうだったが、そんな考えは直ぐに霧散してしまった。
 夢想や理想で戦場を駆ける事は死に直結する事が判ってしまったからだ。
「だけどそれ以上に奮い立ってもいるが、な」
「え」
 ……其処では確かに生きている実感が得られるから。
 それが最も真実に近い動機なのかも知れなかった。
 今だってそれは変わらない。
 それをリム……否、リアナに伝えると、彼女は言葉に詰まってしまった。
「そうだろ、リアナ。親父を倒して終わりじゃない。寧ろ、倒してからが本当の始まりだろう。お前にも、見えてる筈だ」
「! ……そっか、あはは。そうだよね。生きて、帰るんだもんね」
 この戦いが終われば、暫くは生死の交差する狭間からは抜けられる。そして待っているのは皆が望んでいる終戦だ。
 無益な殺生は望まない。だが、何時の間にかこの身は血と死に塗れて汚れてしまった。生き残る強さと引き換えに薄汚れた我が身。穢れを洗い落とすにも時間は必要だろう。
 だが、血に染まって真っ赤な全身はとても拭えない程の死臭を放つ。
 この先に何が待つかは判らないが、地獄で生きていく事だけは確定している。
 それがエースの証であり、負わなければならない責務なのだ。

「そうだ。だから、次を紡ぐ為に、終わらせよう。新しく始めるのは俺と、お前だ」
 これは終局ではない。新たな始まりへの分岐路。
 ちょっと物陰を見れば、次の始まりが出番を待っている。
 それを拝む為には生き残らねば意味が無いのだ。
「ええ! 馬鹿な父さんを打ん殴って、次のステージに行こうよ!」
 それを二人で始める為に。
 リアナは恐れを更なる勇気に変えて最後の戦いに臨む。ジョッシュも同じだ。
「上等だ、リアナ。俺の背中、預けるぞ」
「了解。アニキは絶対、守るから」
 言う必要の無い言葉を吐き出して、生き残る旨を妹に伝える。
 守り、護られ、義兄妹は生き残ってきた。今更、それを変える必要は無い。
「じゃあ、始めよう。やれる筈だ。俺とお前、そしてフォルテギガスなら」
 発艦の許可が出た。これが最後の殺し合い。
 互いの正義を決める為に、信念に従い行動する。それだけだ。
 カタパルトに上がり、射出を待つ。結局、最後迄私語は止まなかったが、別に注意される事は無かったのでそれはそれで構わないのだろう。
「最後の親孝行だね。終止符打ちはアタシとアニキ。そして皆で」
「主役は俺達だ。親父の墓穴は俺達で掘るぞ……!」
 決着は二人で付ける。もう先走りはしないし、拘ってもいない。だけど結局そうなる事だけは目に見えている。
 私情を持ち込まないのが戦いのルールだが、それに従う限り、最後の場面でそれが絡むのだ。例外は無い。
 脚本に従って劇を進めてきたが、それももう終わる。私情が全ての根幹にある三文芝居。付き合うのも馬鹿らしいそれを終わらせられるのは、舞台に上がっている主役達のみ。
 主人公はジョッシュとクリアーナの二人。ショウダウンは彼等の手によってなされる事が決まっている。
 悲劇とも喜劇とも付かない芝居に幕を引く為に、フォルテギガスが南極の凍て付いた空に飛び出した。
 最後の地、運命の空。……二人を出迎える様に、雪が降り始めていた。


 ……凡そ二時間後。宇宙要塞バルジにて南極で大規模なエネルギー反応が確認された。
 ゲペルニッチが指定したタイムリミットギリギリでの奇跡に管制室は歓喜に沸き立つが、それも一瞬のモノに過ぎなかった。
 その直後の通信にて、トレーズ=クシュリナーダの訃報が伝えられた。


――全てが終わった地にて
 ……頬を切り付ける冷風が心に燻る一切の有象無象を凍り付かせる様だった。
 降り立った雪原には嘗て其処にあった遺跡の面影は何一つ無く、只管に広い白い大地が広がるのみだ。
「全部、消えちゃったね。たった数ヶ月で、何もかも埋もれて、もう真っ白」
「殺風景なモンだ。雪と氷に閉ざされて……この場所で何年と生活してたなんて、もう信じられないよな」
 最終作戦は無事終了。生き残った義兄妹は昔の生活の跡を求めて遺跡のあった場所に二人で来ていた。
 当然、遺跡はファブラ・フォーレス破壊に伴って雪原の奥深くに沈み、その跡地に彼等が求める面影や痕跡は何一つ認める事が出来なかった。
「うん。最初から何も無かったんじゃないかって、そう思いたい気分だよ」
「気持ちは分かる。でも、俺もお前達も生きてる。その下地には遺跡での生活があったって事だけは否定出来ないぜ」
「知ってる。でも、もう掘り起こす事も出来ないよね。思い出が、あの場所には沢山詰まってたのに」
 其処に住み、幼い頃から少し前迄寝食を行ってきた彼らの家はほんの一時の間にもう二度と手に入らない存在と化してしまった。
 辛い思い出、忌々しく、また苦い記憶が詰まったその場所は浮かんでは消える泡沫の如く消え去った。
 だが、彼等自身に刻まれた思い出は消え去った訳ではない。目を閉じれば、その時の光景がありありと浮かんでくる。
 原初にして終焉の地。其処に刻まれた物がどれ程大切な物だったのかはそこの住人であった義兄妹にしか判らないだろう。
「餓鬼の頃から親父の研究の手伝いはしてたけど……あんまり役に立った記憶、無いんだよな」
「良く覚えてるよ。寧ろ、邪魔ばっかりだったよね。構って欲しくて、悪戯をしてはお兄ちゃんと一緒に倉庫に放り込まれてた」
 父親は多忙な人だった。取り憑かれていると言う表現がピッタリなワーカーホリック。
 そんな父の姿は親の愛に餓えていた二人には或る意味辛かった。
 唯、構って欲しくて。見て欲しくて。色々と馬鹿をやった事は幼少期の数少ない思い出だ。
「平和だったよ。でも、偶に良いアイデアを出すと親父、凄く褒めてくれたよな。一緒になって、色々頭に詰め込んだりしたっけか」
「そうそう。……楽しかった、あの頃は。世界はインベーダーだらけなのに、切り離されたみたいに別世界だった」
 頭を煩わす悩みも、世間の柵からも無縁な極地の家で二人は伸び伸びと成長してきた。
 学校、等と言うモノには行った経験は無いが、それでも周りの研究者連中に教えを乞い、時には独学で知識を磨いてきた。
 其処で見て、喰らい、血肉として来たモノは確かに二人の中で生きている。
 ……一体どうしてこんな事になってしまったのか? 
 原因は父親の興味本位の愚行にある訳だが、こんな救いの無い結末なぞ見たくは無かった。
 寧ろそれを見たく無いからこそ、二人は戦いに魅入られる事を恐れずに、沢山の返り血を浴びて来た。
 結果は、その最も見たくないモノを見せられていると言うあまりにも無惨な終わり方だった。それを悔やんだ所で、終わってしまった事をやり直す事は出来ない。
 そして、彼等の物語も幕を閉じた訳ではない。生き残ってしまった二人には新たな物語が用意されているのだから。

「インベーダーと戦うのを決意したのもさ、最初は守りたかったからなんだよ。……親父やお前達を。自分の世界をさ」
 狭い世界に埋もれているだけで良かった。それがどんなに酷い場所だろうとジョッシュにとっては楽園の居心地だった。
 それを守りたかったから、その場所に居る大切な人達を守りたかったから、この身を戦いに投じる事に躊躇は無かった。
 真っ直ぐで綺麗だったジョッシュの決意は時を追う毎に変質し、終には戦闘そのものを楽しみ、父親殺しを犯す程に歪んでしまった。
 それは彼の罪では無い。周りの状況が、時勢が彼にそうなる事を強要していただけだ。
 ジョッシュはその事を恨まないし、悔やまない。
 少ない選択肢の中、自分で選び、掴み取り、その果てに今の己があるのだからそれが失敗だったと思いたくは無かった。

「私とリアナが此処に居るのはお父さんの実験の所為だけど……私達、恨んでなんてないんだ。だって、私一人じゃ、きっと生き抜けなかった」
「(寧ろ、今は感謝してる。その実験が無ければ、アタシは生まれなかった。皆と知り合う事も無かったし、此処に居なかっただろうから)」
「今なら思い出せる。実験は辛かったし、厭な事も色々と多かったよ。でも、それでもね? お父さん、私達には優しかった」
 リムだってジョッシュと同じ感慨を持っている。状況がそうさせたと思い込まなければやってられない状況だった。
 誰かの所為にはしたくないし、それがベストな選択肢だったと思わなければ今の自分の立場が無かった。
 フェリオの実験についてもリムはそう思っている。
 今になって蘇る過去の記憶は辛い物ばかりで、自分自身で目を背けたくなる程だ。
 だが、それも見方を変えれば、今回の戦争を生き残る為の下地作りだったと思えば一概に忌避するモノでは無いだろう。
「判ってる。血の通わない人間では無かった。寧ろ、非情になり切れなくて苦労している人間の典型だった」
「格好良い終わり方じゃなかったよね。自業自得だし。……それでも、お父さんにはこれだけは言わなきゃ」
 今でも父親の姿は思い出せる。嫌わせる態度。出てくる言葉は想いとは反対の事ばかりだった。それでも伝わってきた優しい波。偶に見せた安らぐ寝顔。
 触れる指先に不安なんかは吹っ飛んで、優しい笑顔に飲み込まれた。
 泣いたり、笑ったり叫んだりもした。それでも……一緒に過ごした時間は、決して無駄では無かった。
 脳裏を過ぎる沢山の想い出達が瞳から溢れそうになる。涙の数だけ輝いたそれ。

「ありがとう、お父さん」

 私を拾ってくれて。野垂れ死ぬ運命を変えてくれて。
 リアナと引き合わせてくれて。お兄ちゃんを守る力を、与えてくれて。
 父さんと居て、私は変われた。大きくなれた。……強く、なれた。

「降って来たな。直に吹雪になるな、こりゃ」
「異常気象が続いてる。こんな急に天候が変わる事、無かったのに」
 少し長居し過ぎたらしい。見上げれば厚い雲が天を覆い、北半球とは逆に動く太陽の光も遮られて薄暗い。
 終末はとうに過ぎたが、この世の果てである南極の僻地は人を拒む様に天候を荒げさせる。降り始めた雪と強さを増した風が防寒具を超えて激しい冷気を伝えて来ていた。
「……戻るか。居心地の良い場所じゃあ、無いよな」
 最早、この場に留まり続ける意義も無い。少しだけナイーブになったのか、ジョッシュはその場で回れ右をして少し離れた場所に置いた機体に戻ろうとする。
「あ、待ってお兄ちゃん」
「何だ? 早く戻らないと……」
 そんな兄貴を妹は足止めする。ジョッシュはこれ以上何の話があるのかとリムの方に振り返り怪訝な顔をした。
 リムの顔を見る限り、大事な話が未だし終えていない様だった。
「少しだけ。……あの、お兄ちゃんはさ、これからどうするつもり?」
「これからって、身の振り方かよ」
 振られた話題はそれ。確かに重要と言えば重要だが、態々こんな所でする冪話題でも無いと苦笑するジョッシュ。
 しかし、リムの顔は真剣だったので少しだけ付き合う事にした。
「うん。何か、お金を貰えるって話になってるらしいけど」
「ああ、恩賞は出るらしいがな。流石に一生遊んで暮らせる額じゃないだろうな」
 報奨金の額については定かでは無いが、これまでの自分達の働きを考えれば貰わなければ逆に礼儀に反するとでもジョッシュは思っているのだろう。
 それを受け取る事は決定事項だが、其処から先は決めていなかった。
 少し、戦いを忘れてのんびりしたいと言うのがジョッシュの本音だが、リムとしては早目に決路して欲しい様だった。
「それで、どうするの? 色々と、声は掛かってるんでしょう?」
「まあ、な」
 返事を先延ばしにしてはいるが、関係各所の殆どから二人の腕を当てにしてのラブコールが掛かっている。
 リガ・ミリティア、プリベンター、ネオ・ジオン、連邦宇宙軍、各所研究所や果ては移民船団の護衛の誘い迄来ている程だ。
「……正直、決めかねてる。どれも魅力的だけどさ」
「迷うよね」
 そのどれもがやりがいがある仕事だろうし、食いっ逸れる心配も恐らく無い。
 猶予期間は未だあるが、ジョッシュとしては一つに搾りきれていない。
 戦争の後に待っているのは平和ではなく、先ずは戦禍に対する復興だ。その後に漸くやって来る平和を維持し、守っていくのも勝者の使命。
 ……分かっては居るが、それがどうしてかジョッシュには他人事に見えて仕方が無い。

「逆に聞くが、お前はどうしたいんだ? クリス」
「私? う、ん……私は、その……」
 もう少し時間が欲しいと言うのがジョッシュの回答だ。
 一時、クリフの補佐に回ろうかとも思ったがそれは思い直した。流石にこれ以上、彼の手を煩わせる事は罪悪だったからだ。
 ……では、それを聞いてきたリムはどうなのだろうか? 
 もう決めているのならそれに肖るのも悪くないと思っていたジョッシュは尋ねるが、リムは中々言い出そうとしなかった。
「何だよ? 口が重いな」
「そうじゃないよ。私は、お兄ちゃんについて行くだけだから。リアナもそう言ってるよ」
 リムは漸く重い口を開いた。どうやら、進路決定は兄に従うとの事だ。
 それを聞いたジョッシュは神妙な顔で聞き返す。
「……俺に、か?」
「ん……駄目、かな」
 まあ、こう言う展開もありそうだと予想を立てながら、いざそれを目の当たりにすると言葉に詰まる自分の小市民振りに思わず笑いたくなる。
 ……って言うか、そんな泣きそうな顔をするんじゃありません。
 ジョッシュはお約束のように言葉を掛けてやった。
「いや、駄目じゃない」
「ほぅ……良かった」
 予定は未定だが、今更切って切れる関係ではなし、寧ろ放り出す真似もジョッシュはしたくなかった。
 だから、リムの言葉が少し嬉しかったりするのはジョッシュだけの秘密である。まあ、心で繋がっているのだからその辺は筒抜けだったりするのだろうが言わぬが華だ。
 だが、それを認識すると同時にジョッシュの中に新たな問題が持ち上がった。
「……って、待て。要するに俺の選択がお前の身の振り方に直接影響するって事か?」
「うん、そうなるね。しっかりしてね、お兄ちゃん。路頭に迷うのは厭だよ?」
 つまり、そう言う事だ。リムも可愛い顔をして中々意地の悪い事を言ってくれる。
「ぐっ……こう言う時だけ重要な選択迫るなよな」
「くすくす……お兄ちゃん、ふぁいと」
 責任の全てを兄に丸投げした妹はのほほんと構えて笑ってなど居たりする。この図太さは見習いたくないとジョッシュは心の中で悪態を吐く。
 それが判っているリムは全く動じずに微笑を浮かべるだけだった。
「気張ってどうにかなる問題じゃないだろ。……はあ、全く」
 精神論も時には必要だが、それでどうにかなるほど世の中甘くは無い。
 重要な選択を課せられ、強くなっていく雪と風の中、ジョッシュはふと漏らした。

「それならいっその事、所帯でも持つか?」

「――」
 瞬間、世界の時間が止まった。
 ……否、止まったのは自分の思考だと言う事が直ぐに知れた。
 口上を止めない兄の軽口混じりの声に耳を傾けながら、妹は自然と早くなる動悸に身を委ね、兄の顔を見る。
「これからずっと一緒に居るなら、その方が都合が良い気がする……って、リム?」
 妹の様子が妙に映った兄は歩を進めると妹の顔を覗き込んだ。
 感情を感じさせない表情。だが、翠色の双眸は何かの情念が混じっているかの様に鋭い光を放っている。
 ジョッシュは直感した。冗談では済まなくなった、と。

「…………それは冗談? それとも」
 響いてくる妹の声は風の中でもしっかりと耳を打ち、その意思の輝きを伝えてくる。
 冗談で済ますならば、今この時を於いて他に無い。これ以上踏み込むならば、それは双方にとっての決断の時。……そう妹は語っている様だった。
「む、からかうつもりならもっとマシな事を言うよ」
 一瞬、妹に気圧されそうになった兄だったが、竦んでいる場合ではない。
 それに吐いた唾を飲むタイミングを逸している事は明らかなので、兄は妹と向き合う為に声のトーンをわざと低くし、真剣さをアピールした。
「そう。……そう、だよね。本気、なのよね、お兄ちゃんは//////」
「う……//////」
 それが伝わったのか、妹は顔を俯かせる。そして、顔を覆って兄の言葉の意味を噛み締める素振りを見せた。
 少しだけ見えた妹の顔は見た事が無いほど真っ赤で、それに中てられた兄も釣られて大きく赤面する。
「ぁ、い、いや……別に今直ぐって事じゃないぞ? 突然だと面食らうだろうし、お前達にも考える時間が――」
 しどろもどろになりつつ雄弁を展開する兄はこんな場面でしか見られない程慌てている。
 そんな兄に先制攻撃を仕掛けたのは妹だった。
――ドンンッ! ドサッ 
「っ、痛え……な、何なんだ? っ、おい、リ……ム?」
 言葉半ばで炸裂した妹のタックルに背中から雪の中に転倒する。
 その衝撃と痛みに若干涙目になって上を見上げれば、其処には馬乗りになった妹が居た。
「……本気」
 その顔は泣き出す半歩手前。積みの状態を作りながらそんな事を聞く妹の迷いや自信の無さが図らずとも伝わって来た。
「・・・」
 兄は一端目を閉じ、深呼吸して紡ぐべき言葉を脳内から探し出す。
 恐らく、一生で一度。男の花道と言っても過言ではない大舞台だ。それを彩る言葉を兄は必死に探した。
「本気に、しちゃうよ? そんな事、言われたら私……っ」
 今更本気も糞も無い。寧ろ、こうなるのが歩んできた道程から見れば必然であろう。
 妹は待っていた。兄の発するその言葉を。
 掛けて欲しい言葉。だが、女の側からそれを求めるのはルール違反だ。だからこそ妹は兄を追い詰めた状態で久遠とも思える刹那を必死に耐えていた。
「疑うのか。なら、一回しか言わない。聞き逃すな」
 脳内の検索は終了した。だが、気の利いたフレーズや格好良い言葉、臭い台詞の一切が引っ掛からなかった。
 喉にあるのはたった一つの言葉だけ。それを言わなければ終わらない。終われない。
 声帯を震わせて、それを発した時、義兄妹の想いは結実する。
 兄は紺の瞳で妹の翠の瞳を見据え、言った。

「一緒になろう」

「――――っ!」
 ……止めを刺された。とっくにメロメロにされている心にそんな言葉を捻じ込まれれば、解脱を通り越して成仏しそうになってしまう。
 無骨だが鋭利。飾り気は無いが、それでも暖かさが満ちた兄の告白は妹の心の蔵を抉り、甘い痛みが全身を支配して一抹の情を掻き立てる。
 一人の男を愛すると言う事を知った少女の瞳に涙が溜まり、下にある青年の顔へ、凍て付きながら落ちていった。

「決める処は決めるさ。こう言うのは、野郎の側からってのが鉄則だからな、へへ」
 文句無しの効力射。妹のショットダウンを確認した兄は降り注ぐ氷った涙を顔で受けながら、爽やかな笑顔を妹に向ける。
「うん……うん……っ! 私達も、お兄ちゃんと……!」
 妹の心は一つだ。何時からか欲しかった言葉を聞けた。為らば、後は新たに開いた道を進むだけ。兄の求婚を受け入れた妹は泣きながら笑っていた。
「一応確認するけど? ……俺で良いのか。 金も職も無い。ほんの少し人殺しが上手くて、お前を愛してるだけの詰まらん男だぞ? それでも……」
「一緒だよ、私達も。それでも……お兄ちゃんが、良いの」
 そんな事は百も承知。だが、是非は無い。寧ろ、血生臭いのはお互い様と妹は舞い上がりそうになりながら、兄を受け入れる。
 固く結束した義兄妹の絆は昇華し、或る名も無い男女の間の愛情と言う形へと姿を変えた。。
 それがどれだけ常軌を逸しているのか、またどれだけ尊い事なのかは本人達が一番良く知っている。
「そっか。なら、返事を聞かせてくれ。クリアーナ=リムスカヤの総意を、な」
「はい! 私……ううん、私達をお兄ちゃんの、ジョシュアのお嫁さんにして下さい……!」
 潮は満ちた。もう、二人が離れる事は決して無いだろう。吹雪になりつつある氷原で交された一コマは、二人にとっての大きな転換点となる。
 夫婦の契りを交した義兄妹は、晴れて番として生きていく未来を掴み取ったのだった。
「これで、夫婦(仮)だな。まあ、指輪はもう少し待っ……んむ!?」
「んふ……ちゅ……っ、ジョシュア……♪」
 馬乗りになったまま、兄に覆い被さる妹は未来の夫へ熱烈なキスを見舞う。誰も見ている者が居ない場所だと言っても些か羽目を外し過ぎと言う感は否めない。
「おいおい。ヒートアップし過ぎだぞ、ったく」
 ……だが、それも悪くない。きっとこれからはこのやり取りが日常的になる事を考えれば、これ位は可愛いモノだろうと兄は妙に納得してしまう。
 降り止まぬ妻(予定)からキスの雨に呼応する様に、吹雪は強さを増していく。

「済まんな、リム」
「何が……?」
 キスの合間に妹の背中に手をやって抱き締める。節々が凍り付いて感覚が無くなっているが、そんな事は瑣事だった。
「俺、お前達の自慢になる良い兄貴で居たかったよ。でも、やっぱり無理だった。ゴメンな」
「どうして、謝るの?」
 これ以上無い位に顔を寄せた妹は兄の言葉の意味を確かめようとしている様だ。だが、正解が語られるまで妹は答えが判らなかった。
「自分自身への謝罪かな。俺は……兄貴失格だ」
「……そうだね。でも、私だって妹失格だよ。義理の兄を、好きになった。でも、それっていけない事?」
 妹を守り、模範となる兄になる事。そんな誓いにも似たモノが兄の中にはあった。だが、蓋を開ければ、現実は理想とは程遠かった。
 男としての部分が優先され、何時の間にか妹を一人の女として愛し、それに疑問を持たなくなっていた。
 軽い自己嫌悪を覚えながらも、妹を嫁に貰う事が出来て嬉しいと想う気持ちの二律背反だ。確かに、兄貴失格と自分を嘆いても仕方ない状況だった。
 しかし、それは妹自身にも言えた事だった。結局、最後に勝ったのは兄ではなく男を想う気持ちだった。
 元々が血の繋がらない男女が家族ごっこをしていただけだと思えば、世間やら何やらには申し訳が立つ気はする。
 だが、それは逃げでしかない。
 為らば、この感情を素直に認めれば良いだけだろう。籍も別、産みの親も別。こうなってしまった事に異議を唱えられる人間なぞ、本人を含めても居やしないのだから。
「いや? 寧ろ、こうなった事は僥倖だな。……兄じゃない。お前達の唯一人の男として、クリスもリアナを守れるんだからな」
「私も幸せ。ジョシュアに愛されて、一人ぼっちじゃ無くなって。……ずっと、一緒に居られるよね?」
 そう。これは立場が変わっただけなのだ。義兄妹は夫婦と名を変えるが、やっている事は義兄妹だった時のまま。
 その繋がりが、愛情が底無しに深くなっただけ。お天道様に顔向け出来ない事等何も無いのだ。
「無論だ。覚悟してくれ? 落ちる地獄は一緒、なんだからな」
 放す気は無いし、離れる事もきっと無い。今はそうしたい。それで良いとも思う。
 何故なら、二人共こんなに好き合っていて、お互いを必要としているのだから。
「うん。死んでも一緒だよ。……愛してる、ジョシュア」
「ああ。俺も愛してるよ、クリス。リアナもな」
 あなたを愛した自分を、誇りに思っていたい。俺の、私達の大切な人。
 ジョッシュとリムは再び唇を貪り合う遊びに戻った。

 ……それから一時間後、何時まで経っても戻って来ない義兄妹を心配した戦闘のプロが現場に駆けつけると、そこで雪達磨になりながら兄に覆い被さる妹の姿を発見したと言う。
 双方とも軽度の凍傷を負い、その全治には一週間を要した。


 ……そして数年後 


「また来やがった……何て軽口は言わんでくれよ?」
「久し振り、父さん。早いもんだよね、一年なんて」
 零下の氷原は閑散とし、動く物の無い死んだ土地だった。
 そのど真ん中にたった二つだけ動く人影がある。世界の果て。行くのも来るのも一苦労な場所に随分と酔狂な輩が居るものだ。
「あんたみたいな大罪人に態々花を手向けに来てるんだ。邪険にはするなよ」
「或る意味分かり易いわね、終戦記念日が命日って。まあ、本来の命日はその何ヶ月も前なんだろうけどさ」
 ……此処は彼等の父親の墓。この荒涼とした白い大地そのものが彼の墓標だ。
「文句言える立場じゃないさ、親父は。……ホレ、アンタが好きだった酒だ。去年は開けた瞬間に凍り付いたけど、今日は過熱して魔法瓶で持参だ。良く味わってくれ」
 昨年の失敗が教訓になっているのか、かさ張るだろうに態々持って来た魔法瓶から熱い琥珀色の液体を雪の上に散布する。
 気化された強いアルコールの匂いが雪原の風に乗り、掠れていく。
「お花は……此処で良いかな? 去年と微妙に位置が違う気がするのは気のせいかな、ジョシュア?」
「仕方無いって。目印に卒塔婆立てても直ぐに埋まっちまうんだ。ま、その辺は我慢して貰おう」
 献花しようとしても、その場所がどうにも良く分からない。
 毎年続く異常気象で、墓を立てても直ぐに雪の下に埋まってしまうのが南極の実情だ。
 しかし、うだうだ言ってても始まらないので、適当な場所に花を置いてしまう事に決める。冷気に晒された花は既に凍り付いていて、触れれば砕ける脆さだった。
「何でこんな場所に骨を埋めるかなあ。アタシ、泣いちゃいそうよ」
 こんな僻地でなく、南国の島とかだったらどんなに良かったか。
 どれだけそれを嘆いても、死んだ父親が選択を誤ったと諦めるしかなかった。
「ま、冗談はこれ位にしてさ。……よう、親父。元気に死んでるかい?」
「アタシ達は元気だよ。ちゃんと、生きてるから」
 二人は花の前に片膝を付いて、静かに黙祷を捧げた。世間は終戦記念日と言う事で賑っては居るが、二人にとってそれは興味の範疇外だ。
 優先すべきが他にある。世間から忘れられたこの場所であった物語を語り継ぎ、また忘れない様にする為の大事な仕事がある。
 ……斃れた父親の眠りを穏やかなものにする。それもまた、遺された彼等が負うものだった。

『・・・』

「じゃ、行こうか。体に障るといかん。済まん、親父」
「そうだね。……ゴメン、父さん。今年はこれで」
 思い出せばキリが無い。只でさえ若気の至りで凍傷を負った苦い過去があるのでその二の轍も踏みたくない。
 それ以上に、今年は長居出来ない理由があるのだ。急いで駐機中の愛機の場所に戻ろうとした。

「大分……目立ってきたな、お腹」
「安定期には入ったけど、道中半分だよ。気は抜けない」
 横を見れば、歩くのが少し辛そうなお腹をした身重の女房が隣に居る。
 こんな寒さが厳しい場所に長居すれば、防寒具装備と言っても取り返しの付かない事態になりかねない。
「それなら今日は家で大人しくしてて欲しかったんだが」
「何言って。それを何とかするのが、だ・ん・な・様☆の勤めでしょ♪」
 旦那としては、家に置いて来たかった。しかし、女房は断固としてそれを拒絶した。
 一緒に行動して長いし、左手薬指に同じ指輪を嵌めてからはそれこそ影の様にお互いがぴったりと寄り添っている。
 それが仲の良さの秘訣なのだろうが、それで無茶をされては堪らない。
 元気なのは良い事だが、もう少しだけ今の自分の体を労わって欲しいと思う旦那。 
 もう一人の身体では無いのだから。
「無茶言うな阿呆」
「痛っ! こら! 妊婦は労われ!」
――ぽこっ
 軽口を叩く嫁の頭を軽く小突くと、大仰に痛がって喚く。
 まあ、心配した所でこれならば母子共に緊急事態に陥る事は無いだろう。
 旦那は女房の姿を安心した様に見詰めた。
 そして、シリアスな顔付きになると、もう一度父親の眠る場所に振り返る。女房もそれに続いた。
「……ま、そんな訳でさ。次来る時は、初孫の顔を見せてやるよ、親父」
「父さん……アタシ達、お母さんになるんだよ。……祝福、してくれるよね?」
 新たな命はその産声を上げる時を母親の胎内で待っている。
 あの糞っ垂れ戦いを経て、妹が最高に良い女だと気付き、優しい兄が夫として傍に居てくれる。
 それが戦争で得た報酬だったとするならば、それは望外の幸運に他ならない。
 そして、それを確かめる術はお互いの心の中にこそある。
 だから、お決まりの台詞で幕を閉じる。続きは、また来年。新しい家族も交えて。

「今度こそさよならだ、親父。……またな」

 凍空は亡き父親の心を代弁する様に澄み切っていた。


 開けてはならない扉を開いた男が居た。
 開いたパンドラの箱からは形容し得るあらゆる災厄が飛び出し、世界はそれに埋もれていくだけに見えた。
 だが、箱を開ける前に抑止力は既に放たれていた。
 その男の息子が、義娘が、絶望を打ち砕く希望だったのだ。

 ……為らば、その二人が開いてしまった禁断の箱。その中に詰まっていたのは、果たして何だったのだろうか?

 約束された未来? 胸一杯の希望? 先の見えない闇か? それとも、共に汚れ堕ちる救いの無い終焉だろうか?

――ひょっとしたらそれは、中身の無い箱だったのかも知れない
 からっぽの箱だってあるだろう、世の中には。
 だが、中身が空だからこそ、そこに沢山の思い出を詰め込んでいける筈だ。
 それだけの思い出を作れるだけの明るい未来に想いを馳せて……

 夫婦の契りを結んだ義兄妹は幸せな毎日を送っている。


――ジョシュアとクリアーナ
 無双の活躍を見せ、華々しい戦果と共に常に前線での士気向上に大きく貢献したこの二人のその後については様々な憶測が飛び交っていた。
 たった数ヶ月間だけ戦場を駆け、公式記録にその証を残した彼等。戦後、その行方は杳として知れない。消息は不明だ。
 一説には移民船団と共に外宇宙へと旅立ったと言う出所不明の怪情報もあるが、信憑性の程は定かでは無い。
 ……彼等に付いての噂にはこんなモノもある。
 地球消失に端を発した戦乱は終息したが、その後の統一政府樹立に伴うゴタゴタは地球圏の彼方此方に転がっており、小規模な火種はそれこそ無数に点在し続けていた。
 統一政府構想に異を唱えるものが、様々な要因で団結し、武力を以って蜂起する等と言う事は明かされないだけで事例はごまんとあるのだ。
 そんな華々しいとも言えない片田舎の小競り合いの最前線に居る兵士達の間に実しやかに囁かれていた噂だ。
――加担した陣営に確実に勝利を齎す二人組みの傭兵の逸話
 曰く、彼等は夫婦で、嘗ては地球圏最強と言われたノヴァンブル条約同盟軍の花形、ブルー・スウェア所属のエースであり、その戦い振りはどんな絶望的な戦況をも引っ繰り返し、敵兵の士気を容易く打ち砕くと言う。
 勝利者、魔女、時には強き巨人の名を持つ機動兵器を駆る彼等は、同じ意匠の施されたペンダントと髪飾りを常に身に付けていたらしい。
 ……この逸話は場所も時間も異なる様々な戦場で一時期囁かれた噂であったが、或る時を境に彼等の噂は途絶えた。
 嘗てのブルー・スウェアのメンバー達はこの噂を信憑性の高いものと断定し、世界規模で二人を探して回ったが、その姿に迫る事は出来なかったと言う。
 彼等がどうなったのか、どうしているのか……公式の記録からは、見つけ出す事は出来ない。

――ただ、終戦記念日に地の果てである南極遺跡跡地を訪れ、墓標に花を手向ける一組の家族が居る事が、クリフォード=ガイギャクスを含む一部の人間にのみ知られている――


〜了〜