東方元ネタwiki 2nd - 摩多羅隠岐奈

摩多羅 隠岐奈/Matara Okina

名前

  • 摩多羅(またら)
    • 摩多羅神(またらじん)から。
  • 隠岐奈(おきな)
    • 隠岐(おき)
      • 令制国の名前で、現在で言う島根県の隠岐諸島に該当。
      • 同じ島根県の出雲に因む八雲紫と対比か。
      • 隠岐の神話と言えば因幡の白兎の大国主。彼女はルーツをマハーカーラとして居る為、大黒天と同一のイメージか。同音である大国主とも習合されるようになったとか。
      • 隠岐(おき)とは沖の意味でもあり、奥(おく)の転訛でもある
      • 隠岐次郎左衛門広有。広有射怪鳥事 〜 Till When?
      • 本作のサブタイトル「Hidden Star in Four Season」よりHidden(隠された)。
      • 「鬼(おに)」の語源である「隠(おん)」
      • 隠れ里。理想郷、山岳信仰、常世の国の観念が合わさった仙郷。マヨヒガなどもその一種。
      • 隠田集落、隠田百姓村。隠れ里の一種。中世、落武者や貧農などが山の奥に開いた当時の政治行政的体制から離脱した集落。白川郷などが有名。
      • 山の隠れ里に住んだ山の民。天狗とも関連。
      • 岐の神(フナドノカミ)。
      • 道祖神や猿田彦と習合されており、分岐点や境界において疫病や災害が集落に入るのを防ぐとされる神である。
      • 数少ない摩多羅神の祭りである広隆寺の「牛祭り」でも、摩多羅神は防疫神として悪鬼達を追い払う神とされている。
      • 香霖堂第一話にて、幻想郷に数ある道祖神の神体のうちの一つとして登場している。道祖神は、旅の安全や交通の神として信仰されており、幻想郷の各所にもその姿を確認することができる。
      • 外国語の音訳に用いられる。
      • 奈落。仏教における地獄。
      • 奈落。劇場における舞台の下や歌舞伎の花道の床下の空間の通称。由来には、華やかな舞台の裏の嫉妬という説も。
    • 翁(オキナ)
      • 男性の老人。ZUNいわく「翁ですよ名前は。お爺ちゃんだ」。

備考
  • 「摩」「羅」の字
    • 摩羅
      • 仏教における魔神、悪魔、魔王。
        瞑想中の釈迦の前に現れ、様々な誘惑や恐怖を与えて悟りに至るのを妨害しようとした。
        ヒンドゥーでは愛の神カーマと呼ばれる。
        煩悩の象徴とされたことから、日本では転じて男性のイチモツをさす隠語「魔羅(まら)」としても使われる。
      • 「魔」と言う字は元々は「摩羅」の省略体。
        仏教用語における「魔」は「仏道の修行や人が行う善事を妨害する」存在全般を指す。
      • 摩多羅神は、障礙神(しょうぎしん)。障碍神(しょうがいしん)。
        「摩羅」が「多」く、それが逆説となり「魔」を払う神であることを名で現していると考えられる。

      • STAGE5 童子は狂気を跳ね踊る Into Crazy Back Door
        STAGE6 開けるなかれ、見るなかれ 後ろの扉に秘天あり Hidden Star in Four Seasons
ZUN マーラ自体が言ってしまえば「摩」であり「魔」なわけですよ。日本で言うところの「魔」ってだいたいそこから来てるんじゃないだろうかなって。
   だいたいの使われ方が「魔が差す」みたいに「魔」の一文字で済ませることがほとんどだけど、その語源はわからない。
   そこまでいくと「魔」の言葉は向こうから来たのかな。魔法とも繋がっていたのかな、なんて想像が膨らみますよね。基本的にアヤシイものなんですよ。
東方外來韋編 肆

二つ名

  • 究極の絶対秘神(東方三月精も同様)
  • 威風堂々たる神秘


備考
  • 秘神
    • 東方においては、鍵山雛の二つ名「秘神流し雛」でも使用されている。

能力

  • あらゆるものの背中に扉を作る程度の能力
    • 摩多羅神は後戸の神。
    • 後戸以外に「背中の扉」モチーフとして挙げられるのは、各地の大仏など巨大仏の背中にある胎内や納骨堂へ出入りする扉。それはこの世とは異なる悟りの領域「あの世」への入り口ともいえ、人の心に広がる内面宇宙を準えたものともいえる。「背中の扉」とはすなわち「境界」を表すと思われる。
    • コンピュータプログラムにおけるバックドア。正規の手続きを踏まずに内部に入ることが可能な侵入口。
  • 気づかないうちに生命力や精神力をコントロールする能力
幻想郷を外の世界から守り、その何処にでも移動出来て、気付かないうちに生命力も
精神力もコントロールしてしまう不思議な能力で、幻想郷のバランスを取る役目を
負っている。 おまけテキスト
    • バックドア等を利用して相手のコンピュータに不正侵入し、内容を改竄および不正利用するクラッキング行為。
    • コンピュータゲームにおいて、ゲームを実行中のメモリに細工してパラメータを書き換える等して、不正にゲームを優位に進められるように改竄するチート行為。
    • 「玄旨灌頂私記」によると、爾子多が肉体そのものを顕す五識に加えて意識を合わせた「六識」を、
      丁禮多が寝ていて意識がない時も自己に執着し続ける潜在意識である「末那識」を、
      摩多羅神が末那識と六識を生み出し、人が世界だと思っているものを生み出している、末那識よりさらに下の最深層にある通常意識される事の無い「阿頼耶識」を表しているとされ、
      三体揃って一心三観を表していると解釈される。

種族

  • 秘神

見た目

  • 服装
    • 「輪王寺摩多羅神二童子図」における摩多羅神の服装を忠実に再現したもの。
    • ただし、「輪王寺摩多羅神二童子図」とは異なりシンボルとしての茗荷の紋様は無い。
      「星神」としてのポジションを強調するように北斗七星の紋様が垂れ下がる前掛けに刺繍されている。
  • 6ステージの椅子に座った姿
    • 摩多羅神のモチーフとされる「新羅明神像」に酷似している。
    • 摩多羅神の「障碍の神」というポジションから。
むしろそういう人(障碍者)たちのほうが強いぞ、くらいのところを見せたかったんです。(略)
当初ラスボスは車椅子に乗って出てくるというイメージだったんだけど、本当に難しくてね。その名残で今は椅子に座っています。
東方外來韋編 肆
    • 車椅子に乗った姿は、後に東方三月精 〜 Visionary Fairies in Shrine.で描かれた。
      • ZUN氏は過去に、「車椅子の物理学者」と呼ばれた理論物理学者スティーブン・ホーキング博士をモチーフとする車椅子の未来宇宙という曲を発表している。

備考
  • 椅子に座った時のポーズ
    • 鼓(つづみ)を持ち座す像は数少ない摩多羅神を模した図や像のほとんどを占めるが、基本的には腰掛に座し、背凭れがついた椅子にかけている坐像は見受けられない。
  • 金髪
    • 秦河勝はネストリウス派キリスト教徒のユダヤ人であるという説が最初期の日ユ同祖論者から提唱されている。摩多羅神と同一視される秦河勝がユダヤ人であるとすれば、摩多羅神もユダヤ人であることになる。アシュケナージ系ユダヤ人は金髪である。
    • しかしながら、当初のユダヤ教の中核を担ったとされる西アジアのセム人は毛髪は黒か茶である。
  • 真のポーズは、「女神転生」シリーズに登場する「秘神キンマモン」のポーズに似ている
    • キンマモンも同じく、琉球神道において常世の国より出ずる精霊の王であり、正体も真の姿も秘匿された絶対神であり、弁財天と習合された信教の融合神である。
  • 度々描かれる「北斗七星」は妙見菩薩の化身としての影響を受けてか、摩多羅神自体のイメージ星座として度々描かれる。「輪王寺摩多羅神二童子図」や「広隆寺牛祭の頭巾」も参考にされたし。
  • 車椅子
    • 女神転生シリーズには、車椅子に乗ったスティーヴンが登場する。
      スティーヴンは悪魔召喚プログラムを開発したプログラマーであり、物語全般に大きく関わってくる非常に重要な位置づけをされているキャラクター。
      • スティーヴンは理論物理学者スティーブン・ホーキング博士が元ネタとされる。

摩多羅神

  • 摩多羅神(またらじん)
    摩多羅神は仏教の神。天台宗の常行三昧堂に「秘仏」*1として祀られていることで知られる。
    様々な存在への信仰が習合し、多様な要素を同時に持ち合わせている神とされる。
    • 天台宗の常行三昧堂の守護神であり、江戸時代に邪教として弾圧された玄旨帰命壇の本尊とされた。頭に唐制の幞頭(はくとう)をかぶり、和様の狩衣を着、鼓を打つ姿をしている。左右に笹葉・茗荷を持って舞う童子がいる。天台宗の僧侶「円仁」(えんにん)が唐への留学から帰国の際、摩多羅神が空中から呼びかけたとされる。円仁はこの体験から、比叡山に常行堂を建立したとする。また、天台宗の僧侶「源信」(げんしん)が摩多羅神を念仏の守護神として勧請した記録が京都の広隆寺に残る。広隆寺で行われる牛祭では、現在も摩多羅神が祀られる。*2
      • 常行三昧堂(じょうぎょうざんまいどう)
        比叡山延暦寺にある阿弥陀如来を本尊として祀ったお堂。
        「常行三昧の行」という「90日間阿弥陀如来の周囲を念じながら歩き続ける修行」を行うための仏堂。
      • 広隆寺
        京都の太秦にある真言宗の寺院。
        広隆寺の開基は摩多羅神と同一視される「秦河勝」。同寺は秦氏の氏寺でもある。
        広隆寺の霊宝殿には、秦河勝像と伝えられる「神像」が安置されている。
      • 牛祭の様子 参照:You Tube:京都 太秦牛祭り
    • 諸要素の簡単なまとめ
      民俗学書『闇の摩多羅神』では、「踊る神」。人間の心身に宿る、「踊り狂う神」。「」(おきな)、「宿神」(シュクジン)、「後戸の神」(うしろどのかみ)とも呼ばれる。摩多羅神はサンスクリット語の母に由来し、鬼子母神(ハーリーティー)と「本質的に同一神と考えざるをえない」とされる*3
      • 民俗学・文化人類学書『精霊の王』では、摩多羅神は摩訶迦羅天、吒枳尼天、人食いでもある。こうした人食いは、荼枳尼天のようなカンニバルであり、仏教的には障礙神・守護神、民俗学的には荒神、とされている*4
    • 現代の摩多羅神
      摩多羅神を本尊とする玄旨帰命壇(げんしきみょうだん)は、江戸時代に「淫祠邪教」として弾圧された。大日本帝国の成立前後には「神仏分離令」・「廃仏毀釈」が行われたこともあり、以降急速に信仰が廃れた。
      現存している摩多羅神の伝承は常行三昧堂、延年舞、牛祭、古文書、古美術品、遺物などがあり、詳細については現在も研究途上である。『闇の摩多羅神』は、「摩多羅神的なもの」は滅んでいないとし、現代文化やオウム真理教への流れを挙げている。
    • 概要
      • 猿楽の芸能神で、「翁」の成立に関係する。*5
        摩多羅神と同一視される「秦河勝」は能の祖ともいわれ、芸能の神として信仰される。これにより、後の時代の芸能者が河勝の子孫を名乗っている。
      • 摩多羅神は守護神、護法神の一種*6
        読みは「マタラジン」「マタラシン」「マダラジン」「マダラシン」など。
        伝承途中で音が変化しており、「マタラ神」「マタリ神」ともいう。
        漢字表記は「摩多羅」「摩吒羅」「摩多利」「忙怛哩」「魔多羅」など。
      • 「翁」と同じく「後戸の神」であり、中世芸能「後戸の猿楽」の神*7
      • 宿神としての摩多羅神
        宿神(シュクジン)である秦河勝の実体は摩多羅神であるという伝承にあるように、摩多羅神と秦河勝は同一視された。宿神は「元来はシャグジ,シュグジなどと称された」*8とされる。また石神など、別名が無数にある。祟符「ミシャグジさま」も参照。
      • 後戸の神としての摩多羅神
        「後戸」とは、仏堂の背後の入口で、本尊の背後にある。後戸には本尊の護法神や、より根源的な神仏が安置される。法会儀礼のなかで「後戸の神」をまつる呪法は芸能化し、中世芸能が誕生した。また修正会では古来、後戸から鬼が出現する*9
      • 『精霊の王』によると、シャグジや後戸の神は、現代哲学でいうアントニオ・ネグリの言うところの「構成的権力」によく似ている。
        通常の制度や体系を支える権力は、自分自身では活動力を持てない。そのままでは秩序の世界は、安住・停滞へと向かう。しかし「構成的権力」は、背後から秩序の世界を揺り動かし、変化と創造に駆り立てていくことができる。同じように後戸の神も、秩序・体系の神の背後に潜んでいる。そこで後戸の神は自分自身を激しく振動・励起させ、世界を力動的なものへと作り変えていく。
        後戸とは、地理的・歴史的には「アフリカ的段階」である。真理を語るのが哲学だとすれば、後戸は、真理そのものが生まれ出てくる「前哲学的な空間」と言える*10

      • 摩多羅神は荒ぶる神、障礙神、祟り神などの側面も持っている。
        摩多羅神の宗教は、「踊る宗教」の一種に分類される*11
  • 民俗学的・歴史学的ルーツ
    • 大地神
      • 『闇の摩多羅神』は、「摩多羅」とはサンスクリット語で母という意味の「マター」“mātṛ”の複数形「マターラ」“mātaraḥ”の音写であり、これは「諸母天」を意味したに違いない、としている。
        宋の天息災が訳した『大方広菩薩蔵文殊師利根本儀軌経』では、「摩多羅」は“mātaraḥ”の音写に使われている。それに近い「摩怛羅」も、不空が訳した『蕤呬耶経』では“mātaraḥ”の音写である。『日本天台史』の別冊にある『摩怛利神記』という文書には、「天竺で母となった女性を摩怛利(まうちり)と呼ぶ。これは七母天のことである」とある。
    • マターラ神
      • 古代ヴェーダ語で「マター」は「母親」のことで、その複数形「マターラ」は夫婦・両親を指す。その原初の神格は、女神・母神だった。「マターラ神」はその語源からして、訶梨帝母・鬼子母神などの母神・女神として容易に「メタモルフォーゼ」した。または「訶梨帝母、鬼子母神こそが、『マターラ神』の本性だったともいえる」。著者の川村の主張では、世界の各地域・各宗教で「MA」の音を頭文字に持つ女神・母神は、すべてを生み出す「母胎」の力であると同時に、「死と破壊」の神でもある。これを信じる者には生と福を授け、信じない者にはあらゆる「障礙(しょうげ)」を与え、生きている人間を「喰う」ような「怖ろしく、おぞましい死の破壊の神」であると、川村は言う。
        また、インドには数多くの神がいるが「マターラ」もしくはこれに類する名前の神は存在しない。つまり、「マターラ神」という独自の神がいるわけではなく、様々な女神・母神の集合的な名前、総称である、としている。*12
      • ギリシアから東西への大地母神
        訶梨帝母・鬼子母神の像は、左手で胸に小児を抱き、右手に石榴(ざくろ)を持つ。古代ギリシアの母神は、やはり石榴を母性の象徴としており、さらにキリスト教の聖母マリア信仰へと繋がっていく。つまり、根源的な大地母神のシンボルは「ギリシア世界から東西へと流れていった」ものであり、その一つは中国から日本への流れの中で、摩多羅神として登場した*13
    • 多羅菩薩・救度菩薩・多羅観音
      • 多羅観音はインドでは、ヴェ―ダ以前の古い女神の中で「最高の崇敬を受けるもの」と呼ばれた。チベットでは最も人気のある慈悲観音と同一視されることがある。また多羅観音は救いと星の意味を被せ持った神であり、多羅観音は語源的にはサンスクリット語で川を横切る、運ぶ、超越する、また解放するなどの意味合いがある。このことから境界神とも言われ事実チベット地方では冥界との境界においてこの女神が救いの手を差し伸べてくれると伝えられておりこれらから救度菩薩、境界神とも言われている。
    • その他のルーツ
      • 平安初期の天台宗の僧円仁が唐から帰朝する際に、船中に現れた神とされる。記録に表れるのは11世紀。
      • 岩手県毛越寺の常行堂や日光輪王寺の常行堂などに祀られている事が知られているが、「秘神」とされ、像が一般公開されているものは極めて少ない。
      • 「輪王寺摩多羅神二童子図」の掛け軸に描かれた姿が有名である。唐風の幞頭(はくとう)に日本風の狩衣を纏い、笑みを浮かべて鼓を打つ老人の姿で描かれている。併せて足元には笹と茗荷を持って踊る丁禮多(ていれいた)と爾子多(にした)の二童子が、頭上の雲の中には北斗七星が描かれる。
      • 掛け軸の系統は京都の妙法院由来のものもあり、そちらでは二童子が風折烏帽子を被っておらず、摩多羅神だけでなく丁禮多も鼓を持っている。
      • 民間信仰において、下述した通り断罪を以てして救済と為す神たる摩訶迦羅天や、神道の始原の神「天御中主神」、或いは妙見菩薩などと習合し、時には邪神、時には福をもたらす神とされる。
      • 妙見菩薩は菩薩信仰かつ、神仏習合の一種。「北辰妙見」ともいう。
        これは北辰のような星宿信仰に、大陸の道教や日本古来の説話や神道が融合する事で発展した伝承であり、形状をもたない。これも混合の神である摩多羅神と習合した切掛けであろう。比較的名の知れた菩薩であるが、固定図が無い為かイメージにばらつきがある。変幻自在にいろんなものに姿を変える今作のキャラクターも、摩多羅神の境遇や、或いは妙見信仰を準えたものであると思われる。また、日本に於ける重要文化財の像は一つだけである。
      • 荼枳尼天を制御するもの、病気治療・延命の祈祷としての「能延六月法」と関連付けられることもあった。また一説には、広隆寺の牛祭の祭神は、源信僧都が念仏の守護神としてこの神を勧請して祀ったとされ、東寺の夜叉神もこの摩多羅神であるともいわれる。
      • 天台宗に於いては生と死を司る神として描かれる。
      • 江戸時代、天台教観を正そうとした天台僧である霊空が、自身が著した玄旨帰命壇を批判する「闢邪篇」を時の法親王である公弁法親王に上書した。
        その結果、玄旨帰命壇は立川流の流れを汲む淫祠邪教であるとして弾圧され、秘神信仰は急速に失われていったとされている。
  • 翁(おきな)
    • 能などに使う老人の面、翁面。文芸研究者の水谷靖によれば「老人の笑顔」を写したと言われており、天下泰平・五穀豊穣などを祈る「神の面」として昔から神聖視されている*14
    • 翁面は「ナタラ神」とも呼ばれる。ナタラ神は、「摩多羅神」の訛った伝承、または誤記*15
    • 翁と老人
      • 「翁」は、古くから伝わる神事儀礼の舞曲も指す。五穀豊穣・延命長寿・子孫繁栄・天下泰平・国土安穏を寿(ことほ)ぐ。翁面を使う。「式三番」ともいい、中世の猿楽能・田楽能・人形浄瑠璃・歌舞伎・神楽・田遊び・延年でも演じられる*16。田楽老体の神があらわれて祝言・祝舞を行う。
        文学・水産学者石井康夫によれば、そもそも神事雑芸能で、「豊穣や寿詞を述べるのは老人の役割であった」。摩多羅神などの神々として祀られる翁は、そうした老人に相当する。老人面は、時代に連れて土俗的な形相が少なくなっていく。より古い老人面ほど「野趣に富み」、「庶民の老人の顔の様相」を写している*17
    • 翁信仰と星宿・宇宙信仰
      • 中世の猿楽師である金春禅竹は、秘伝書『明宿集』において、翁とは宿神であり、宇宙創造の始まりから既に存在すると述べた。
      • 『明宿集』の信仰では、翁式三番は大日如来・阿弥陀如来・釈迦如来の一得三身を表しており、しかも翁とは神々である。
        これに関して『闇の摩多羅神』は、「信仰の中心に翁面は宿神という秘義があった」と論じている。
      • また『明宿集』では、翁面に目鼻口耳の七つの穴があり、それは北斗七星を示していると語られている。
        これは「翁すなわち宿神信仰が、七星信仰すなわち星宿信仰と重ね合わせられるもの」と見られる。
        そうした信仰は、禅竹や世阿弥などの猿楽芸人たちが共有していた。その信仰では、宇宙や天体の支配者たる「マクロコスモス」の神と、「ミクロコスモス」の聖具とが、一瞬で重ね合わされ結合されている。『闇の摩多羅神』によれば、彼らの神学的信仰において、自らの「業」のために用いる「面」が神であり、それは無限に姿や形を変える星宿神に、つまり「絶対神」に帰り着いていく*18

摩多羅神と翁

「摩多羅神的なもの」

備考

隠岐奈: 後戸の神であり障碍の神であり能楽の神であり宿神であり星神でありこの幻想郷を創った賢者の一人でもある ーー「天空璋」
表の顔は、地母神、能楽の神、星の神、養蚕の神、障碍の神、被差別民の神、等多岐にわたる。 おまけテキスト
  • 後戸の神
    • 護法神、阿弥陀仏・念仏の守護神
    • 後戸に入り込む悪鬼を追い払う神
    • 仏堂の背後の空間や床下への畏怖そのもの
  • 障碍の神
    • 「障碍」は、「ショウゲ」と読み、障害・妨げのこと。仏教では、悟りの障害となるもの。*26
我が名は摩多羅神 即ち障礙神なり
我を崇敬せざる者は浄土往生叶わざる者なり
仍って大師、常行堂にこの神、勧請せり
      渓嵐拾葉集
    • 摩多羅神の側面の一つ
      • 不敬をなす者にはあらゆる願望成就の妨げとなり、信じる者には大きな力となる障礙神
      • 仏法の妨げとなる障礙の力をもって同じ障礙である天狗を調伏する、魔を妨げる神
      • 習合されている秦河勝や荼枳尼天、遠くは根の国のスサノオ等に見られる荒神
    • ZUN氏は「障碍者の神」という意味でも用いている
    • 歌舞伎に「健忘といふは卽ち業病。もし何ぞの障碍ではあるまいか」という一節がある。
      業病とは「前世の悪業(あくごう)の報いでかかるとされた、治りにくい病気。難病」*27
    • 石神は、「人間や作物等に障害を与えるもの」を防ぐ神とされている*28
  • 能楽の神
    • 能の始祖とされる秦河勝との習合
    • 猿楽能で神聖視される翁との習合
    • 寺院に属していた猿楽師は、仏法守護の神を勧請し結界・除魔等密教的行法を行う呪師の役を代行するようになり、後戸の神を祀る呪法は芸能化し後戸の猿楽と呼ばれた
  • 宿神
    • 漂泊する芸能民の守護神の総称
    • 世阿弥の娘婿である金春禅竹は、『明宿集』で、翁とは宿神であり、秦河勝の化現であるとした
    • 芸能研究家服部幸雄の研究によれば、摩多羅神が芸能民の神の本体であり、外部から秘匿されていたとされる
    • 宿神は星宿の神、各地の地域鎮護の神であるシュク・シャグジ、境界の神である道祖神など、様々な他の信仰と習合され、複雑なまつられ方をしている
  • 星神
    • 北辰信仰・星辰信仰・妙見信仰
    • 金春禅竹は『明宿集』で、宿神とは翁・星宿の神・後戸の神であるとした
    • 『日本霊異記』に、秦氏の里で妙見菩薩が信仰されていた記述がある
  • 地母神
    • 摩多羅はサンスクリット語の母の複数形matarahの音写であるとする説があり、「諸母天」を意味する
    • 仏教の天部の摩怛哩天との混同。摩怛哩天の元となったインド神話の神サプタ・マートリカーは地母神
    • 大地を神格化したバラモン教の女神、プリティヴィー。男神として描かれる事もある。宗教的変容を遂げ結果、仏教の神々の一柱へと移ろいだ。密教上では堅牢地神や地蔵菩薩とされており、地鎮の神として日本中に祀られている。
    • また、京都国立博物館に収められている「十二天像 地天」は輪王寺摩多羅神二童子図のものと形象が全く共通しているもので、両側に二対の后を携えている。
      • 地蔵菩薩との関連から矢田寺成美との関連も考えられる。
  • 養蚕の神
    • 養蚕技術を大陸から伝えた渡来人である秦氏の祖神、あるいは常世の神を屠った伝説からだろう。
  • 被差別民の神
    • 摩多羅神は芸能民・職能民や、「夙の者」といわれた被差別民にも関連する神*29である。
      • 歴代、掌墓、産所、 巫 も京都府では被差別民とされている。産所は夙と同じように人形芝居など芸能民・職能民の土地。
    • 村境や辺境に坐す神は、シャグジ・宿神・夙神などがある
    • 中世の芸能民達は、夙(シュク)の者、傀儡子などとも呼ばれ、被差別民の一つだった
    • 民俗学者柳田国男の『石神問答』によれば、坂・境・避・裂・避・崎・尖・岬・底・塞などはいずれも同根の語で、“隔絶”を意味し、
      換言すれば、此処と彼処とを隔てる“境”、即ち民俗学でいう“境界”と同意と考えられるとした。
      宿の元の音はおそらくスクで、都邑の境または端れを意味し、具体的には村はずれ・河辺・坂・峠などを指し、
      そこは人の住むには適しない辺境で、神や精霊といった霊的なものが往来し居付く聖なる場所とされ、
      そのような境・辺境に坐す神すなわち宿神は、外からの邪神・悪霊・疫病神などの侵入を遮る神として崇められ、
      また、一般社会から阻害・排斥された人々が集まり集落をつくり生活し、
      集落は宿、住民は宿人・夙人(シュクウド)と呼ばれた、という。
    • 朝鮮には、身体障害者、精神遅滞などの片輪者をまねた、「病身舞(ピョルシンジュム)」と呼ばれる伝統的な芸能がある。一説によると摩多羅神は朝鮮から伝来した芸能の神であること、芸能は専ら河原者の生業であった事を踏まえると、彼らの信奉する「職業の神」に古今東西の神々が融合したものとも考えられる。
      ピョルシンジュムは朝鮮の新羅時代から続く歴史的な仮面舞踊・タルジュムと結び付けられて演じられる事もあり、タルジュムは狂言や我が国の能学同様、申楽にベースがあると指摘されているが、現在のタルジュムと狂言とでは、演目や舞台設計、詞などの様に決定的な違いがある。
      • 類似した芸能には、「疱瘡踊」というものがある。摩多羅神同様に完全なる出自は失われてしまっているが、鹿児島県全土に類似した芸能が存在する。直接的な関係があるとすればこちらだと考えられる。
      • 参考程度に、疱瘡も垂迹の方法や様相などの類似性の指摘される新羅明神同様、同時期に新羅より伝来し猛威を振るった疫病である。

スペルカード

テーマ曲

登場

参考

wikipedia:摩多羅神
wikipedia:翁
ピクシブ百科事典:摩多羅神
摩多羅神は何処から来たのか(2023年4月1日現在、リンクが機能していません)
神旅 仏旅 むすび旅:摩多羅神〜北斗七星の神格化〜(2023年4月1日現在、リンクが機能していません)
四季歩のつれづれ:摩多羅神(またらじん)/日本の神々の話
日光山 輪王寺 公式サイト:摩多羅神
真言宗 梅松山 円泉寺 公式サイト:中部・北陸地方の 妙見菩薩付 摩多羅神 摩多利神
CiNii (学術情報検索システム):「摩多羅神」検索結果

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岩井國臣の世界:摩多羅神  まだらじん http☆//www.kuniomi.gr.jp/togen/iwai/madaraji.html
岩井國臣の世界:摩多羅神についての特論 http☆//www.kuniomi.gr.jp/geki/iwai/eros12.pdf