東方キャラとウフフにイチャつくまとめ

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始まりはほんの些細な出来心だった。
言い訳になってしまうかもしれないが、悪気なんて一切無かった。
だが、故意か錯誤かなど重要では無い。
罪を犯してしまったという事実――それこそが重く圧し掛かる重要なのだ。
そして、罪を犯してしまった者はその罪を償わなければならない。
司法に則った刑罰にしろ、当事者同士による示談にしろ、だ。
示談の場合、お互いが納得すればそれで解決になる事もある。
例えどんな理不尽な条件であっても。
『納得してしまったら』その条件が謝罪の手段となってしまうのだ。
そして今、○○も理不尽な条件を納得してしまっていた。
もはや、逃れる事は叶わない。
 
(くそ、なんでこんな事に……!)
 
追い詰められた現状から逃避する為か、○○はどうしてこうなってしまったのかに想いを馳せ始めた――。
 
 
 
「ただいま〜」
 
仕事を終えて帰宅した○○は住処の引き戸を開けた。
だが、誰も○○の言葉に応える者はいない。
 
「……リリー?いないのかー?」
 
いつもなら嬉しそうに飛びついてくる恋人――春告精リリーホワイトがいるのだが、今は姿がどこにも無かった。
○○が不思議そうに首を傾げ、頭を掻く。
 
「まだ買い物にでも行ってるのか?」
 
今日はいつもより早く仕事が片付いたため、帰宅の時間も早かった。
いつもなら日が沈んで夕闇が幻想郷を支配し出す頃なのだが、今日はまだ太陽が少し傾いた位だ。
その時間差を考えれば、買い物で家を留守にしていても不思議では無い。
 
「まあいいか、待ってればその内帰ってくるだろ」
 
そう独り言を言いながら○○は家の中に入った。
とりあえずお茶でも淹れようかと思い、台所に向かう。
 
「えーと、茶葉はっと……ん?」
 
ふと、急須と茶葉を探していた○○の目に何かが入った。
台所の戸棚の中に何かが置いてある。
皿の上に何かが置いてあり、布が被せられていた。
 
「なんだこれ?」
 
見慣れないそれが気になり、○○は戸棚に近づく。
そのまま布に手を掛け、取り払った。
すると、ほんの少しだけ甘く香しい匂いが○○の鼻腔をくすぐった。
四角く切りそろえられた小麦色のパンの様な物。
○○はそれに見覚えがあった。
 
「カステラか……?」
 
カステラはここ幻想郷においても人気のある和菓子だ。
砂糖をふんだんに使用している為少々値は張るが、茶会の席などでよく出されている。
だが、○○は少し不思議に思った。
 
「アイツ、買うなんて言ってたかなぁ……?」
 
カステラは菓子にしては少々値が張る為、気安く買える物では無い。
今までにも何回か買った事はあるが、それは給金が出る日等ある程度余裕が出来た時だ。
今回そんな物を買うという話は聞いていなかった為、不思議に思ったのだ。
 
「……まあ、アイツが帰って来てから聞けば良いか」
 
だが、○○はさして気に留めなかった。
仕事終わりで思考が若干単純化していたのもあるかもしれない。
だが、それ以上に目の前の物に対する食欲が本人が思っている以上に働いていたからである。
 
「……美味そうだなこれ」
 
思わず溢れてきた唾液を飲み込んだ。
いつもより早い時間に帰ってきたとはいえ、仕事を終えた○○の腹は空腹を訴えている。
更に先程から漂う甘い香りがそれを促進させる。
ふとその時、○○の腹が鳴った。
 
「うっ……」
 
思わず腹を抑える。
まるで目の前の物を早く食わせろと身体自身が訴えているかの様だ。
初めて○○は、自分が思っている以上に腹が減っている事を自覚した。
○○は辺りを見回す。
その挙動は不審そのもので、何か後ろめたい事をしようとしている様でもあった。
 
「ひ、一つくらい食べても……良いよな……?」
 
言葉が先だったのか、手が先だったのか。
気が付いた時には○○の手にはカステラが一つ摘ままれていた。
恐る恐るそれを口へと近づけていく。
そして、ゆっくりと齧った。
カステラはほとんど歯ごたえを感じさせず、少しの咬合力で十分なほどにふわふわしている。
齧ったカステラを少しの間咀嚼し、飲み込んだ。
 
「……美味ぇ」
 
思わず○○は呟いた。
心地良い食感と素晴らしい塩梅の甘味である。
身体が渇望していた糖分を摂取出来て、幸福を感じる脳内物質が分泌している様に思えた。
だが――。
 
「……」
 
一度欲求を満たされる事でもたらされた快楽は、すぐさま新たな快楽を求め始める。
更なる甘味を求めて、食欲が蠢く。
再びカステラに手を伸ばした。
今度は先程の様な躊躇しているような手つきでは無かった。
 
「もう一つくらい、大丈夫だろきっと」
 
その言葉は誰に向けて話したものだったのか。
一度禁忌を犯した者は、次の禁忌を犯すのに抵抗が無くなる。
今の○○は後ろめたさをほとんど感じなくなってしまっていた。
二個目のカステラも咀嚼して飲み込む。
 
「あー、やっぱ美味いなこれ……」
 
嬉しそうに顔を綻ばせながらカステラを口に運んでいく。
そして二つ目も食べ終えると、さも当然の様に三つ目へ。
最早一切の躊躇も、言い訳染みた独り言すらも無かった。
己の食欲に突き動かされ、黙々とカステラを食べ続ける。
カステラが全て無くなるのに、そう時間は掛からなかった。
 
「んぐっ……はぁ、美味かった」
 
思うがままにカステラを貪った○○は満足した様に声を漏らした。
だが少し時間が経って幸福感が引くと、目の前にある空になった皿が嫌に目に入る。
流石に全部食べてしまったのは拙かったのではないか――そんな心配が少しだけ湧いてきた。
 
「……まあ、今度代わりを買ってくれば大丈夫だろ」
 
だが、○○は楽観的であった。
食べてしまった分、自分の持ち金から出して買い直せば良いだろう――そう考えていた。
だが○○は後に思い知る事になる、自分が犯してしまった罪の重さを。
発端に悪気があったにしろ無かったにしろ、行ってしまった行動は取り返しがつかないという事を。
そして、罪には罰が与えられるという事を。
身を以って、○○は味わう事になるのだった――。
 
 
 
その後○○は暫くの間、薪割りをしていた。
風呂を沸かすにも料理をするにも、薪は重要である。
幻想郷では何かと用途が多い為、多くて困るという事は無い。
 
「さて、と……こんなもんかな」
 
腰に手を当てて身体を伸ばす。
空の太陽は沈み始め、宵闇が迫っていた。
そろそろ片付けるか――そう思っていた矢先。
 
「あれ、○○さん?」
 
丁度見知ったが帰ってきた様だった。
○○の恋人であり、春告精のリリーホワイトである。
手提げ袋を持っており、袋からは野菜が顔を出している。
どうやら買い物に行っていたようだ。
 
「今日は早いですね、どうしたんですか〜?」
「ああ、今日は仕事が早く終わってな。折角だから薪割りしてた所だ」
「そうだったんですか〜。じゃあ、もう晩御飯の準備始めちゃいますね〜」
「ああ、頼む。俺も片付けが終わったらすぐに戻るから」
 
リリーは家へと入って行った。
自分も早く片付けて家に入ろう、そう思っていた瞬間――。
 
「あぁー!!」
「な、なんだ!?」
 
突如家の中から驚きと悲鳴が混じった様なリリーの大声が響いた。
あまりに突然の事に、驚いてビクリと身体が跳ねる。
慌てた様にリリーが家から走って出てきた。
その形相は今まで見た事が無いほどに焦っている。
○○はリリーを落ち着かせるように、こちらに向って来たリリーの両肩を掴んだ。
 
「ど、どうしたんだよあんな大声出して」
「な、無くなってるんです!」
「無くなってるって、何がだよ?」
「台所に置いておいたカステラが無くなってるんですよ〜!!」
 
その瞬間、○○の表情が強張った。
言うまでも無い、その無くなってしまった現象の犯人なのだから。
 
「○○さんが帰ってきた時にはまだありましたか!?」
「さ、さあ分かんねぇな〜。特に変な様子は無かったと思うが」
 
人間、嘘を言う時は目が右上を向くものらしい。
例にも漏れず、○○も無意識の内に目が右上を向いていた。
そして、リリーはその些細な挙動を見逃さなかった。
リリーにそんな知識があったかどうかは定かでは無い。
ただ、答える時の○○の様子が明らかにおかしいと分かった。
それは、長い時間○○と一緒に過ごしていたリリーだから気付いたのである。
先程までの狼狽ぶりが一気に落ち着き、代わりに怪訝な表情を浮かべる。
 
「もしかして○○さん、何か知ってます……?」
「いや、俺は何も知らんぞ、うんホントに」
「へぇ〜……」
 
リリーが半目でこちらを覗き込んでくる。
明らかにこちらを怪しんでいる。
訝しげな視線から逃れる様に、○○は目を逸らした。
だが、リリーはそれでも覗き込んでくる。
ただただ覗き込んでくる。
視界に入っていなくても、肌が疑念の視線に痛いほど晒されているのが分かった。
やがて、その無言の圧力に耐えきれなくなった○○は遂に屈した。
 
「スマン……俺が、食べた」
「……いくつ食べたんですか?」
「ぜ、全部……」
 
途端に、半目でこちらを見ていたリリーの目が吊り上がった。
見ると目に涙が浮かんでおり、泣くのを堪えている様である。
正確には怒りに身を震わせながら、泣くのを堪えているという状態だが。
 
「うぅ〜……!!」
「リ、リリー?」
「なんで全部食べちゃうんですか〜!!」
 
想像を遥かに超える取り乱しぶりに、○○は思わず狼狽える。
駄々っ子の様に、握った掌で胸を叩いてくるのを甘んじて受け入れるしかない。
 
「わ、悪かった!!許してください!!」
「ダメです、絶対許しません〜!!」
 
正直な所、○○には彼女がここまで怒る理由がよく分からなかった。
勿論大事なカステラを食べてしまったという事はあるが、それだけでここまで大荒れするものだろうか?
兎に角、気を納めて貰わないといけない状況なのは間違いなかった。
 
「だ、だから悪かったって!今度代わりに同じカステラを買ってきてやるから、な?」
 
それを聞いたのか、リリーは○○を叩くのを止めた。
ようやく収まる――と、○○は胸をなで下ろした。
なんとか怒りは鎮めて貰えたらしい、と。
だが、実際は違った。
 
「……○○さんはアレ、どこで買ったか知ってますか?」
「え、し、知らないけども……」
 
リリーが俯いたまま話しかけてきた。
その声色は先程までに比べると不自然に落ち着いていて、○○は妙な不安感を覚えた。
 
「あのカステラ、買うのに半月前から予約しないと買えない人気のお菓子なんですよ?」
「げっ!?マジか、あれがあの店の!?」
 
今人里で超が付くほどの人気を誇る菓子屋があるのは、○○も知っている。
連日店先に行列ができ、買えるかも安定しない程の人気だ。
どうりであの美味さだ――等と現実逃避染みた思考が過ぎる。
そんな店の予約なんてそもそも取る事自体が難しい可能性も十分にあり得る。
もしかして自分はとんでもない代物を貪り食ってしまったのではないか――。
その結論に至り、○○は全身から血の気が引いていくような気がした。
 
「○○さんと一緒に食べようと思ってたのに……」
「え〜と、その……リリー、さん?」
 
何故か無意識の内に『さん』付けになってしまった。
とにかく何か話さなければ。
その思考だけが先行して声を出したものの、後にどう繋げれば良いのか全く考えていない。
○○が顔を引き攣らせて思案していると、リリーが顔を上げた。
――いつも通りのニコニコした笑みを浮かべながら。
 
「え……えっ?」
 
あまりに想像していなかった表情に○○は戸惑った。
もっと泣きそうな顔か、怒っている顔を想像していたからだ。
この状況に不似合いな笑顔に、○○は先程以上の不安感を覚えた。
いや、不安と言うよりも悪寒といった方が正しいかもしれない。
リリーが何を考えているのか、まるで分らないのがそこはかとない恐怖を感じさせた。
ニコニコしているリリーは、○○から身体を離した。
 
「分かりました、○○さんの事はもう知りませんよ〜」
 
それだけ言うと、リリーは踵を返して家へと向かい始めた。
○○は呆気に取られていたが、すぐに我に返った。
 
「おい、リリっ……!?」
 
思わず名前を呼んで止めようとした。
だが、○○は彼女の名前を最後まで紡げなかった。
何故なら、彼女の背中から尋常ならざる気配を感じたからだ。
――尋常ならざる怒りの気配を。
リリーは確かに怒っている。
それも、尋常では無い程に、だ。
話掛けるなと言わんばかりのオーラを出し続けるリリーは、そのまま家へ入ってしまった。
後に残されたのは硬直する○○のみ。
今になって、○○は自分の仕出かしてしまった事が想像以上に深刻だった事を思い知った。
 
「あ、ああ……マジかよぉ……」
 
○○は頭を抱えて呻いた。
足元からゾワゾワと罪悪感と自己嫌悪感が入り混じった嫌な感覚が這い上がってくる。
だが、呻いた所でどうにもならない。
一度ひっくり返した盆の水は元には戻らないし、犯してしまった罪が消える事は決して無いのだ。
夕日は完全に地に沈み、幻想郷に闇と夜が訪れる。
その宵闇の中に、男の呻き声が溶けて掻き消えていった――。
 
 
 
次の日、○○は形容し難い心地悪さに苛まれていた。
結局昨日のあの後、別段変わった事は起こらなかった。
そう、何も起こらなかったのだ。
強いて違った所を挙げるとするならば、用意された夕食の量が異常に少なかったり、リリーが出た後に入った湯船がやたらぬるかったり、就寝時に自分の布団だけ敷かれていなかった事くらいである。
更に、当のリリーは昨日からずっとニコニコと笑みを浮かべている。
いや、もはや笑顔の仮面が貼り付いていると言った方が正しいのかもしれない。
不自然な状況での不自然なまでの良い笑みが、ここまで人を不安にさせるのかと○○は痛感した。
そのリリーは今、洗濯物を畳んでいる。
勿論、笑顔のままでだ。
○○に対する当て付けなのは明白であった。
更に運が悪い事に、今日は休日である。
必然的にリリーと同じ空間で過ごし、この居た堪れない空気に晒され続ける必要があった。
別に意味も無く外出して逃避すれば良いのかもしれないが、それでは何の問題解決にもならない。
ただ問題を先送りするだけで、結局は自分が何とかしてこの状況を解決しなければならない事に変わり無いのだ。
とにかく謝らなければ――それが○○の考えであった。
勿論、すんなりと許してもらえるとは思っていない。
だが、時が解決してくれる事もある思っていた。
とにかく謝罪の意だけはなんとしても伝えておきたかったのだ。
正直、今のリリーに声を掛けるのはかなり気が引ける。
だが、いつかはやらねばならないのだ。
○○は腹を括り、深く息を吐き出た。
 
「な、なあリリー?」
「…………」
 
――無視された。
一瞬怯んだ○○であったが、すぐに次の行動に移った。
身体をリリーの正面に移動させ、正座する。
その体勢のまま両手を床に付き、頭を深々と下げた。
 
「……すまなかった」
 
見事なまでの土下座だった。
頭を下げている為リリーの様子は窺えないが、少なくともこちらの話に聞き入って作業を止めている様には思えなかった。
だが、○○は構わずに謝罪を続ける。
 
「勝手に菓子を食べてしまって本当にすまない、ほんの出来心だったんだ……。いくら知らなかったとはいえ本当に悪い事をしてしまった」
 
そして続く謝罪の中で○○は発してしまう。
あの禁断の言葉を――。
 
「俺に出来る事だったら『何でもする』!だから、許してくれリリー……」
「……本当ですか?」
「えっ……!?」
 
リリーが返答した事に驚き、○○は思わず声を上げた。
顔を上げるとリリーが真剣な表情をして、こちらを見つめていた。
 
「本当に、『何でも』してくれるんですか?」
 
ここしか許しを貰えるチャンスは無いと確信する。
○○は情けない笑みを浮かべて首を縦にぶんぶんと振った。
 
「ほ、本当だ!流石に自害しろとかそういうのは無理だけど、俺に出来る事だったら『何でもやる』から……」
 
リリーは何も言わずにじっとこちらの目を見つめてくる。
まるで、その言葉に嘘偽りは本当に無いのか問いかけている様でもあった。
その視線に晒され、思わず○○は媚びるような笑みを浮かべる。
 
「……分かりました、今回だけですよ〜?」
 
一瞬の沈黙の後、リリーは少し困った様な笑みを浮かべながら言った。
今度の笑みは顔に貼り付く仮面の様な笑みでは無い。
本心からの笑顔だと、○○には分かった。
その笑顔を見て○○は強張らせていた身体から自然と力を抜けた。
 
「はぁ〜……良かった……」
 
大きなため息を付き、安堵する。
これでようやくあの居心地の悪い空気の中で生活せずに済む。
今の○○にとってはそれが何より喜ばしい事であった。
やはり素直に誠心誠意謝罪する事は重要だと、○○は改めて噛み締めていた。
 
「じゃあ、買い出しに行ってきますね」
「え、何の?」
 
その問いに対してリリーは、楽しそうに笑った。
 
「○○さんは『何でもしてくれる』んですよね?」
「あ、ああ……」
「ふふ……じゃあ、楽しみにしていてください」
 
そう言いながら嬉しそうな笑みをリリーは浮かべる。
とても良い、満面の笑みを。
 
「……!?」
 
ほんの一瞬だけ、○○は何か悪寒めいたものを感じた気がした。
何か、本能か何かで感じ取った気がしたのだ。
推測や思考で説明が出来る気がしない、そんな類の予感である。
一体何を買いに行くのかリリーに聞けないまま、彼女はそのまま外へと出てしまった。
もしかして自分は何かとんでもない見落としを犯してしまっているのではないか?
そんな考えが一瞬だけ過ぎる。
 
「気のせい、か……?」
 
だが、○○はその事について気にしなかった。
いや、気にしない事にしてしまったと言った方が正しいのかもしれない。
リリーの許しを得て、安堵し切った脳がこれ以上の厄介事を考えるのを無意識の内に拒否してしまったのだろうか。
 
「……まあ、良いか。アイツも許してくれた事だし」
 
程無くして○○は思い知る事になる。
自分が見落とし、犯してしまった過ちの重大さを。
そして、その条件に則った謝罪として何が行われるのかを――。
 
 
 
「ただいまです〜」
 
半刻程過ぎた頃、リリーが帰った来た。
手には紙で出来た袋を下げている。
先程言っていた『買い出し』で購入した物が入っているのだろうか。
 
「な、なあリリー。それ、何買って来たんだ?」
 
流石に何を購入したのか気になっていたので、○○は袋を指さしながら聞いた。
 
「えへへ、秘密ですよ〜」
「秘密って……なんでだよ?」
「あれ、○○さんは『何でもしてくれる』んですよね〜?」
「あ、ああ。そうだけども……」
「じゃあ別に秘密でも良いですよね〜?」
「…………」
 
冷静に考えればリリーの理論は少し強引な所がある。
だが、○○も『何でもする』なんて大見得を切ってしまった以上、それを言われるとそれ以上に何も言えなくなってしまった。
 
(本当に大丈夫なんだろうな……?)
 
思わず不安な気持ちになるが、今更どうこう出来る話でも無い。
リリーの言う通りに従う、今の○○にはそれしか道が無かった。
 
「さて、と……それじゃあ始めましょうか○○さん」
 
遂にその時が来た。
緊張からか、唾を飲み下す。
 
「それじゃあ……まず、あの柱に寄りかかる様に座ってください」
「へ?」
 
正直、拍子抜けをした。
もっと変な事を言われるのではと身構えていたのだ。
 
「なんだ、そんな事で良いのか」
 
容易い要望に、○○は軽く答える。
だが、安堵した事と簡単な要望で○○は警戒心を無くしてしまっていた。
言われたように○○は家の中にある柱によりかかるように座った。
 
「これで良いのか?」
「そうしたら次は腕を後ろに出す様にしてください」
「こ、こうか?」
 
またも容易い要望。
だが、リリーが一体何をしようとしているのかが全く分からない。
ほとんど思考停止に近い状態で、○○は言われたように腕を後ろに向かって伸ばした。
その瞬間、両手首を誰かに掴まれた。
思わず後ろを振り返る。
柱を挟んだ後ろ側にいつの間に後ろに回り込んだのか、笑みを浮かべるリリーが居た。
 
「え、リリー?」
「ふふ、この手は……こうしちゃいます」
 
リリーは掴んでいた両手首を交差するように重ねた。
次の瞬間、リリーは固定するように縄で両手首を縛り始めた。
 
「え……はぁ!?」
 
ぼおっとしていた○○であったが、手首に感じる違和感の正体に気づき素っ頓狂な声を上げた。
思わず逃れようと両腕を前に出そうとしたが、すでに遅い。
既に縄で○○の両手首はしっかりと縛られてしまっていた。
 
「お前、なんでこんな……というかこの縄どっから持って来たんだよ!?」
「ああ、これはさっきの買い物に行った時に買って来たんですよ〜」
「おまっ、最初からこのつもりだったのか!?」
「そうですよ〜。じゃあ、次に行きますね〜」
 
そう言いながらリリーは買い物袋の中をまさぐる。
取り出した時には、新たな縄が握られていた。
縄を持ったリリーは再び○○の後ろに回り、そのまま屈んだ。
そのまま縄を後ろから○○の腹部前を通して、○○を柱へと縛りつけていく。
身体を捩って抵抗しようとした○○であったが、既に手首を縛られてしまっている為、大した抵抗にならなかった。
結局なす術も無く、○○の身体は柱へ縛り付けられてしまう事となった。
まるで盗みを犯した罪人の様な有様である。
――実際それに近いものなのだが。
腹部に回された縄と、柱の後ろに回されて縛られた両手首のせいで満足に身体を動かす事も出来ない状態だ。
○○は反抗的な目付きでリリーを見上げる。
 
「おいリリー……どういうつもりだよ?」
「えへへ〜、これはお仕置きですよ〜」
「……お仕置き?」
「そうですよ〜。○○さんが勝手にお菓子を全部食べちゃったお仕置きです」
「あれはもう許してくれたんだろ?」
「そうですね〜。でも○○さん言ってましたよね?『何でもする』って。それってつまりこのお仕置きも受けてくれるって事ですよね〜?」
 
言った、確かに言った。
あの時の自分は『何でもする』と確かに言ってしまっていた。
あの時はとにかく許して貰おうと必死だった。
だが、こんな展開は誰が想像出来るというのか。
 
(くそ、なんでこんな事に……!)
 
思わず心の中で悪態を付く。
だが、責任は自分にある事は○○本人も自覚していた。
言ってしまった以上は、この言霊を反故にする事は出来ないのだ。
○○は呻き声が漏れそうになるのを堪え、リリーを見上げた。
彼女はいつもの様にニコニコと楽しそうに笑みを浮かべている。
いつもなら可愛いと思えるこの笑顔も、今の状況では底見えぬ恐怖を与えてくる。
 
「はぁ……」
 
○○は深いため息を吐きながら、ガックリと項垂れた。
どの道こんな状況なのだ。
自分が拒否した所で事態が好転する事など塵芥ほどもあり得ない。
そして、経緯はともあれ自身が発してしまった言葉なのだ。
ならばその言葉を履行しなければ格好が付かないと○○は思った。
要するに男としてのプライドなのだ、意地なのだ、矜持なのだ。
 
「……好きにしろよ」
 
ぶっきらぼうに吐き捨てる。
最早彼女の言う「お仕置き」を受けない事にはこの状況から脱する方法は無いと観念したのであった。
 
「えへへ、楽しみですね〜」
 
○○の言葉を聞いたリリーは、楽しそうなのを隠そうともせずに言った。
 
(悪魔だ……悪魔がいる……)
 
楽しそうなリリーを○○は怪訝な表情で見上げる。
顔に似合わず何となく『そんな気』はあると思っていたが、ここまで楽しそうに趣味を披露されるとは思っていなかった。
 
「それじゃあ、次に行きますね〜」
「はぁ!?まだ縛るのかよ!?」
「安心してください〜次が最後ですよ〜」
 
手首、胴体と来て次はどこを縛られるというのか。
まさか首を縛って軽い窒息プレイに持ち込むのでは――と、嫌な予測が脳裏を過ぎる。
そんな心配を他所に、リリーは準備を続ける。
彼女が袋の中から取り出したもの、それは黒い紐だった。
いや、紐と言うよりは布と言った方が正しい。
 
「これをですね〜……」
 
布を折って細めの帯にしたリリーは、それを手にゆっくりと○○に近づいた。
布がゆっくりと○○の頭部付近へと近づいてくる。
やはり首か――と覚悟したが、少し違うようだ。
首よりももっと上、顔の辺りを目指している様だった。
そして、どこを縛ろうとしていたのかすぐに理解する事になる。
 
「こうしちゃいます」
「ちょっ、待てって!」
 
気が付いた時には、○○の視界は暗黒に支配されていた。
なんて事は無い、先程の黒い布で目隠しをされただけだ。
だが、黒の布は光をすべて吸収し、完璧な闇を○○に提供する。
 
「おい……何をする気だよ?」
 
視界を奪われた○○は、思わずリリーに問いかける。
 
「さぁ、何をされちゃうんでしょうね〜?」
 
楽しそうなのを隠そうともしない声で、リリーはその問いをはぐらかした。
目に見えないが、彼女がとても嬉しそうな笑顔を浮かべているのがありありと想像出来る。
そのリリーが一体何をしてくるつもりなのか、全く予測が付かない。
だが、訪れたのは意外にも静寂であった。
何かをしてくるでも無く、何かを話しかけてくる訳でも無い。
言うなれば放置されているような状況だった。
 
「な、なあ、おいリリー……?」
 
思わず彼女の名を呼ぶ。
その声は、○○自身も気付かない内に少し震えていた。
 
(おいおい、こんな状態で放置されるとかシャレにならねぇぞ……)
 
嫌な想像が思い浮かんでしまう。
リリーの事だからそんな事はあり得ないと分かってはいるのだが、一度こびり付いてしまった嫌な想像は中々振り払う事が出来なかった。
その瞬間――。
 
「ふぅ〜……」
「――ッ!?」
 
突然耳をむず痒い感覚が襲った。
いきなりの事に、○○の身体がビクンッと大きく跳ねた。
変な悲鳴を上げなかったのは奇跡的だった。
 
「な、何するんだよ!?」
「ふふ、○○さんの身体ビクンってしてましたよ〜」
「コイツ……」
 
リリーが楽しそうに笑う。
今になって、○○は何をされたのか分かった。
リリーに耳へ息を吹き掛けられたのだ。
 
(成る程、そういう事ね……)
 
○○は彼女が何を企んでいるのか理解した。
リリーは視界を奪われている自分にちょっかいを出して、その反応を楽しもうとしているのだ。
狙いが分かってしまえばなんて事は無い、変な反応をしなければ良いのだ。
 
(見てろよ……お前の思い通りにはならんぞ)
 
○○は大きく息を吸い、深く吐き出す。
もう先程の様な醜態は見せまいと気合を入れて、改めて身体を身構え直した。
リリーがいつ、何をしてきても良いように身体に力を入れる。
そして、再び静寂が訪れた。
今度は油断せずに身構え続ける。
だが、それも長くは続かない。
人間の五感という物は、大部分が視覚によって占められている。
だが、今はその視覚が一切遮断されている状態だ。
そして、生物には欠損部を補おうとする自己補完機能がある。
視覚を疑似的に欠損してしまっている○○の身体も同じで、欠損した感覚を補う為に残った感覚が鋭くなっていた。
普段より些細な物音が聞こえ、いつもだったら感じないような僅かな空気の流れも感じられるような気がした。
鋭敏になった○○の身体は、多くの情報を脳へと伝達する。
普段以上、必要以上の信号を脳が受け取ってしまう。
そして視覚を奪われているというこの状況だ。
存在するのが当たり前の物が突然消失した時、精神的不安を覚えるのが人間というものだ。
その不安の度合いは依存度が高ければ高い程に大きくなる。
奪われた物が視覚ともなれば、その不安は計り知れないものになるだろう。
リリーに備えて身構え力を込めた筋肉、いつも以上の外的情報、そして有る物が存在しない不安感。
それらが着実に○○を疲弊させ、気力を削いでいった。
流石に○○も自分が消耗している事が分かった。
それでも○○は警戒態勢を解くつもりは無かった。
ここで解いてしまっては、リリーの思う壺だと分かっていたからである。
だが、疲労は○○の想像以上に溜まっていたらしい。
彼が解くつもりが無いと思っていても、身体はそれを是としなかったのだろう。
休息を求めて無意識の内に身体中から力を抜き、張り詰め続けていた気を緩めた。
その瞬間――。
 
「ちゅっ、れる……」
「――!?」
 
突如耳に襲い掛かった不気味な感覚に、全身が粟立った。
温く、湿って、柔らかい『何か』が、耳を這い回る。
生理的に悪寒が走る感覚に、身体が思わず跳ねた。
だが、○○の身体を戒める縄がそれを許さず、ただ縄が軋むだけの結果となる。
なんとかその感覚から逃れようと首だけでも動かす。
しかし、そうはさせないと○○の頭をリリーが掴んだ。
 
「はむっ、ん、ふっ、れろ、ちゅる……」
「お、おいリリー、やめ……っ……!」
 
耳元で聞こえる粘つくような水音、熱っぽい吐息。
そしてこの耳を襲うこそばゆい感覚。
その瞬間、○○は今自分が何をされているのか悟った。
 
「ちゅっ……んふふ、○○さん耳を舐められる度にビクビクってしちゃってますね……」
 
耳元でリリーが楽しそうに囁く。
その声色は既に普段の少女のそれでは無かった。
熱に浮かされ、淫らに男を誘惑する雌の声色。
いつもより敏感になっている聴覚に、その声色は普段より興奮を誘った。
 
「声を出しちゃっても良いんですよ〜……じゅっ、じゅる……」
「ぐっ……うっ……」
 
甘く絡みつく様な囁き、敏感な耳を舐られる快感。
音と感触が○○を責め立てる。
だが、○○は歯を食いしばって必死に声を殺して耐えていた。
それでも、我慢し切れなかった吐息が歯の隙間から漏れ出る。
唯一自由に動かせる脚に力が入り、強張る。
そんな事をしても意味は無い。
だが、今この身体に与えられる快感に耐える為にはその無駄な行為で身体の力を逃すしか無かった。
暫く○○をいたぶっていたリリーだが、やがて彼の耳から口を離した。
責めから解放された○○は脱力し、荒い呼吸を繰り返す。
 
「も、もう満足しただろ……そろそろ解いてくれよ……」
 
疲労を色濃く滲ませた声を○○が漏らした。
もはや顔を上げる気力も無いのか、力無く項垂れる。
 
「え〜、まだまだこれからですよ〜?」
 
だが、リリーは不満そうな声を漏らした。
どうやらまだ許してくれないらしい。
 
「くそっ……」
 
思わず悪態を付く。
そうでもしなければ自身の心が折れてしまいそうな気がしたからだ。
だが、この責めはあと一体どれくらい続くのか?
この後自分は何をされるのか?
そんな不安が頭の中で渦巻く。
先行きが見えない状況はゆっくりと、しかし着実に○○の心を軋ませていった。
不意に○○の太ももの上辺りに何かが圧し掛かってきた。
それと同時に、リリーの妙に艶っぽい笑い声が目の前から聞こえる。
圧し掛かってきた物体の重さと、その吐息で圧し掛かっているのが彼女なのだと○○は直感で分かった。
そして突然、両耳を何かで塞がれた。
柔らかく、そして温かい感触。
状況からして、リリーの掌で塞がれているのだろうか。
 
「おい、今度は何を――」
 
する気なんだ――その言葉が最後まで紡がれる事は無かった。
何かが○○の口を塞いだからである。
 
「――ッ!?」
 
いきなりの事に戸惑い、思わず全身が強張る。
反射的に首を捩って顔を背けようとした。
だが、両手でしっかりと顔を掴まれてしまっている以上それは無理な事だった。
口を塞ぐ物体は何やら柔らかく、そして温かった。
これと似た感触を先程まで味わっていた気がする。
そうだ、これは――。
 
「ちゅる……」
 
○○が正解に辿り着こうとしたその瞬間、突然蠢く何かが唇をこじ開けて侵入してきた。
湿っていて、ヌルヌルとした粘り気のある軟体。
言うまでも無く、リリーの舌だ。
そう、彼女は自身の唇で○○の口を塞いでいたのである。
止めろという制止の声を上げようとした。
だが、口を塞がれているのでその声はただの呻き声にしかならない。
為す術も無く、リリーの舌の侵入を許す事となった。
 
「ちゅ、じゅる、れる、じゅるる、くちゅ……」
「――ッ!?」
 
その瞬間、○○は今までに無い感覚に襲われた。
勿論彼はリリーと幾度となく舌を絡ませ合う濃厚な口付けをした事がある。
だが、今回の口付けは今までの物とは何かが違った。
何かは分からないが、ゾクゾクする快感が全身に走る。
 
(なん、だ、これ……!?頭ん、中、舐められ……!?)
 
頭の中を淫らな水音が反芻する。
まるで脳髄を直接で舌で舐られているような――そんな風に感じられた。
実際、それはあながち間違った表現では無かった。
耳を塞がれている○○が今感じられている音は、骨伝導によるものである。
外音を鼓膜で感じるのではなく、頭蓋骨で感じているのだ。
頭全体で口付けの水音を感じる。
ただでさえ視覚を奪われて聴覚と触覚が過敏になっているのだ。
そんな状況でこんな事をされてしまっては脳髄を直接舐られている様に錯覚するのも無理は無かった。
音が、感触が、状況が、全てが○○を責め立る。
彼の反骨心が萎え、心が折れるのは致し方ない事であった。
 
「ちゅっ……ぷはぁ……クス、気持ち良かったですか〜?」
 
リリーの少し荒い息遣いと共に、楽しそうな声が聞こえる。
暴力的な快感の凌辱から解放された○○は何も答えない。
ただ、ぜぇぜぇと息を切らして呼吸を整えようとするのが精一杯であった。
首元に何かが触れた。
感触と形からリリーの手だろうか。
その手がゆっくりと、肌を優しく撫でながら下へと降りていく。
下へ降りていく過程で、徐々に○○の衣服が肌蹴ていった。
最早○○は何も言わない。
いや、言えないといった方が正しかった。
反抗の心を折られてしまった今の○○には、最早抵抗という手段は持ち合わせていなかった。
服を肌蹴させながらも進む手は胸部を過ぎ、腹部まで到達した。
だが、そこでもリリーの手は進みを止めない。
それ以上行くと何があるのか――そんな事は明白であった。
 
「あっ……」
 
不意にリリーが嬉しそうな声を漏らす。
それとほぼ同時に○○の身体が僅かに震えた。
何故ならば、リリーの手が彼の股座に添えられたからだ。
そこに存在する物体――○○の肉棒は言うまでも無く硬く膨張していた。
敏感になった状態であれほどまでに音と感触で嫐られたのだ、無理もない。
リリーはゆっくりと、そして軽く○○の陰茎を撫でる。
 
「あれ〜?耳を舐めてキスをしただけなのに、なんでこんなになってるんでしょうね〜?」
 
リリーがねっとりと蕩けるような声色で、責める。
○○は違うと、首を力無く振る事しか出来なかった。
だが、心も身体も消耗した今の彼にはその快感に抗う事は出来ない。
リリーの手の動きに合わせて身体が勝手に震え、吐息が漏れ出てしまう。
 
「このままだと辛そうですから――」
 
彼女の手が○○の下衣のを掴み、下へずり下ろし始めた。
下半身が少し肌寒く感じられた。
肌が露出して、外気に触れたからだろう。
そのまま褌にも手を掛けられたのが分かった。
しばらくすると結びを解かれ、取り払われる。
最早下半身が一糸纏わぬ姿になっているのは感触で明らかだった。
 
「ぅあっ……」
 
突然怒張した肉棒を掴まれ、情けない声が口から零れ出た。
肉棒を掴む手は柔らかく、とても気持ち良かった。
何か動く様な物音がした。
リリーの吐息が横の間近から聞こえる。
どうやらリリーが身体を○○の側に寄り添わせたらしい。
 
「気持ち良くしてあげますね……」
 
不意に、耳元で囁かれた。
ほとんど吐息の様な囁き。
脳髄に直接沁み込み、融けそうになる甘い囁き。
悦楽の感覚に浸っていると、股座からの甘い痺れで意識を引き戻された。
肉棒をゆっくりと扱かれる感覚。
その快感に喘ぐと、リリーは愉しそうに笑った。
 
「ふふ、○○さん可愛い……」
 
うっとりとした様な声色でリリーが呟く。
恐らく、間近でこちらの痴態を眺めているのだろう。
それを意識すると、羞恥で顔がより一層熱くなるのが自覚出来た。
男子が女子によって情けなく喘がされ、感じさせられ、良い様にされている。
きっとそれは男として屈辱であり、恥辱なのだろう。
だが、今の○○にはその感覚すらも快感に感じられてしまっていた。
被虐的な悦びに身体が震える。
徐々にリリーの手の動きが早くなる。
それは当然、○○に与えられる快感もより大きくなる事を意味していた。
最早声を抑える事など出来なかった。
ただ与えられた快楽に身体を慄かせ、喘ぎ声を漏らす。
今の○○に出来る事は、それだけであった。
 
「あっ、透明なお汁が出てきましたよ〜……」
 
リリーが逐一○○の身体の状況を報告する。
それにより、彼はより一層羞恥に苛まれる事となる。
次第に下腹部から何やらにちゃにちゃ、と粘質な音が聞こえる様になってきた。
それと同時に、肉棒に与えられる快感も増しているような気がした。
どうやら先程から滲み出ている先走り汁を手に塗して扱いているらしい。
粘度がある液体の為、摩擦も少なくなり○○に快感をより与える。
リリーは更にわざとらしく音を立てて扱き始めた。
 
「○○さんのお汁、ヌルヌルしてるからエッチな音が鳴っちゃってますね〜……」
 
リリーの甘い言葉責め。
絶え間なく与えられる快楽、部屋に響く淫猥な水音、理性を蕩かす甘い声。
 
「あ、あぁ、あぁぁ――」
 
だらしなく開かれた○○の口から、声が垂れ流れる。
もう彼には声を抑える事など出来なかった。
そんな物らに晒されて、理性を保っている事など不可能である。
ただ、与えられた刺激に対して声を垂れ流し、身体を痙攣させるだけの生物へと成り果てていた。
 
「もっともっと、気持ち良くなって良いんですよ〜……」
 
リリーの一言一言に身体が震える。
その声が聞こえるだけで気持ち良い。
全身から与えられる快楽は○○の思考をぐちゃぐちゃにかき乱し、やがてある一点へと集束していく。
彼の股座――肉棒へと。
 
「リ、リィ……!!」
 
殆ど獣の様な呻き声。
だが、その声は確かに呼んでいた。
自分の側に寄り添っている者の名を。
その名を呼ぶ事の意味は定かでは無い。
許しを請う為なのか、もっとして欲しいという催促なのか。
それでも、一つだけはっきりしている事があった。
○○の限界は、もうすぐなのだと。
リリーも分かったのか、クスと小さな笑いを漏らした。
 
「良いですよ〜……○○さんがイクところ、ちゃんと見ててあげますね〜……」
 
そう言うとリリーは肉棒を扱く速度を一気に速めた。
まるで止めと言わんばかりに。
その突然の攻勢に、○○が耐え切れる訳は無かった。
 
「あっ、イッ――」
 
――瞬間、快楽が弾けた。
全身が最高級の快感に掌握され、震える。
肉棒が脈動し、精が迸る度に快感が電流の様に脳髄へ流れ込む。
人間の身では到底耐えられない刺激に、ただ情けない喘ぎ声を漏らす事しか出来ない。
 
「わぁ……すごぉい……」
 
うっとりと熱に浮かされた様なリリーの声がした。
時折、荒い吐息が漏れるのが聞こえる。
 
「いっぱい出ましたね〜……ふふ、気持ち良かったですか〜?」
 
先程までとは違う優しげな声。
精を放った後の肉棒をゆっくりと扱き続ける。
じんわりと与えられ続ける刺激に、肉棒は萎えずに尚も怒張し続けていた。
それでも、全身を支配していた快感も徐々に引いていく。
代わりに現れたのは疲労感と倦怠感、そして若干の不快感。
達した直後は快楽に意識が蕩けていて気にならなかったが、それも引いて冷静な思考が戻り始めると徐々に気になり始めた。
その原因は○○の腹部から胸部に掛けてへばり付いている、白濁しているであろう粘液である。
リリーの手によって絶頂させられた○○は、その肉棒から迸った精液を自身の身体で受け止める事となった。
生温かく気色悪い温度を伝えてくる体液、這い上がってくる饐えた臭い、そして自分の精液を自身で浴びるという情けない状況。
それらが○○を惨めな気持ちへと打ちのめしていた。
 
「あ、ちょっと待ってください。綺麗にしてあげますね〜」
 
今の状況を見かねたのか、リリーがそんな事を言った。
次の瞬間、下腹部辺りに温かくて柔らかい何かが触れた。
一瞬濡らした布かとも思ったが、それにしては面積が小さすぎる。
何より、こんなにもぬめる様に蠢く物が布の訳が無い。
ぬめり、蠢く何かはそのままゆっくりと身体を上っていく。
 
「うあっ……何、やって……ッ!?」
 
こそばゆい感覚に、思わず声が震える。
 
「ちゅ、ちゅる、じゅる、はむ、れるぅ……」
 
同時に聞こえる何かを舐め取り、啜るような音。
時折聞こえる熱っぽい吐息。
そして自分が今何をされているのか悟った。
リリーは自分の身体に付着した精液を舐め取っているのだ。
彼女は精液を舐めとりながらゆっくりと、ゆっくりと上へと向かっていく。
腹部、鳩尾、胸部、首筋。
精液が付着していないであろう箇所も丁寧に舐め、啜り、啄む。
やがて、全て舐め取ったのかリリーが顔を離した。
 
「んっ、んふふ……」

楽し そうにリリーが笑う。
口を開けて笑っていないのは、まだ咥内に舐め取った精液が残っているからだろうか。
不意に両肩を掴まれた。
また何かをする気なのか、そう思った瞬間――。
 
「ん……んく……ごく……」
 
喉を鳴らし、何かを飲み下すような音。
この状況で飲み下す物など一つしかない。
ゆっくりと何度にも分け、○○の精液を嚥下していく。
まるでどれだけの量だったのか、どれほどの粘度と濃さを誇っていたのか音で分からせ、辱める様でもあった。
やがて全て飲み切ったのか、リリーが息を震わせながら吐き出した。
 
「はあぁぁ……ふふ、とっても美味しかったですよ○○さん」
 
リリーが嬉しそうに笑った。
だが、○○にしてみたら恥ずかしい事この上なかった。
ただ羞恥に身を震わせる事しか出来ない。
 
「飲み込むのが大変なくらいドロドロの精液がいっぱい出てましたよ、気持ち良かったんですね〜。でも……」
 
再び肉棒を掴まれた。
短い呻き声が漏れる。
 
「でも、○○さんのおちんちん……まだこんなに硬いです……」
 
うっとりとしたような声色でリリーが呟く。
そんなのは当たり前だ。
絶頂に達した後もじわじわと快楽を与える様に軽く扱き、先程の精液を嚥下する音をわざとらしく厭らしく聞かされたのだ。
これで興奮せずに肉棒が萎える事などありえない。
既に一度精を放ったにも拘らず、○○の肉棒は獲物を狙う蛇の首の様に鎌首を擡げていた。
早く楽にしてくれと訴えかけるかのように脈動し、小刻みに震えている。
 
「リ、リリ、ィ……」
 
助けを求めるかのように○○は呟く。
彼が何を求めているのか、そんなものは明白であった。
 
「クス……良いですよ〜。それにリリーも……」
 
言葉はそこで途切れた。
代わりに聞こえてきたのは布が擦れる音。
そして軽いながらも多少の質量を持った物が床に落ちるような音。
不意に何かが下腹部辺りに圧し掛かってきた。
 
「な、何だ……?」
 
そのまま下腹部だけでなく、胸部辺りまで何かが覆い被さってきた。
左右から何かで胴体を軽く包まれる。
肌に触れる部分の感触はとても温かく、柔らかい。
特に胸部に当たる柔らかさは形容し難い程の気持ち良さを生んでいた。
間違いない、間違えるはずが無い。
この感触は、この物体の正体は――。
 
「リリーもさっきから熱くて、ドキドキが止まらないんです……えへへ」
 
リリーが抱き着いていたのだ。
それも、一糸纏わぬ裸体を晒しながら。
癖になる程柔らかく心地良い感触に、○○は一瞬で夢中になる。
ふと、○○はリリーが触れている下腹部辺りが少し濡れている事に気が付いた。
その部分が接しているのはリリーの股間部分――。
つまり、そういう事なのだろう。
リリーが首に腕を回したのか、対面座位の様な状態となり肌の接触面積がより大きくなった。
熱っぽく、艶やかな吐息が○○の耳介と鼓膜を擽る。
 
「はぁ……んっ……大丈夫ですよ〜、リリーが全部してあげますから……だから――」
 
頬に彼女のそれが触れた。
そして――。
 
「今度は一緒に、気持ち良くなりましょう……」
「――ッ」
 
殆ど吐息の様な囁き。
だが、○○にはしっかりと分かった。
自分の股座が疼くのが自覚出来た。
 
「あっ、○○さんのおちんちん今ビクッてしましたよ〜……」
 
○○の肉棒を掴みながら、リリーはゆっくりと腰を上げた。
そして亀頭に何かが触れる。
柔らかく、熱く、濡れた物に。
くちゅり、と粘質な音が響いた気がした。
 
「じゃあ、挿れますね〜……」
 
その瞬間、亀頭が柔壁に包まれた。
 
「んんっ……!んぁ……」
 
リリーが嬌声を上げた。
だが、腰を下ろすのは止めない。
○○の肉棒を包む柔壁は徐々に下へと降りていく。
十分な程に蜜を垂らすリリーの蜜壷は抵抗を全く感じさせずに○○の肉棒を咥え込み、飲み込んでいった。
肉棒によって押し広げられた膣内はその形に沿うように形を変えて彼の肉棒を擦り、吸い付いて快感を与える。
目が見えていないのに、むしろ目が見えないからこそ肉棒に与えられる感触を鮮明に感じられた。
 
「○○さんの……凄く、硬い……あっ……」
 
上擦った声でリリーが啼く。
悦びに蕩けているのが顔を見なくても分かった。
やがて腰を下ろし切ったのか、リリーが動きを止めた。
首に腕を回し、身体を密着させてくる。
全身にリリーの柔らかい感触を感じる。
 
「はぁ、はぁ、あぁ……ん」
 
耳元に艶めかしい吐息が掛かった。
その響きは、○○の興奮を掻き立てる。
 
「気持ち、良い……でも、もっとぉ……」
 
動きは無いものの、○○の肉棒を包む膣壁は蠢いて彼に刺激を与え続ける。
だが、いくら快感や興奮を得た所で『そこ』に至るにはまだ足りない。
だがらリリーは再び腰を動かし始めた。
彼も自分ももっと気持ち良くなるために。
――そしてもっと幸せな気持ちになる為に。
リリーが腰を動かす度に、接合部からぐちゅぐちゅ、と淫猥な水音が響く。
その水音が、二人が感じ合っている事を証明していた。
同時に動きに合わせてリリーの口から嬌声が零れ出る。
そんなものを耳元間近で聞かされる○○は堪った物では無い。
過敏になった身体が快感を感じ取り、思わず四肢に力が入った。
我慢し切れずに呻き声が漏れ、脚が無意識の内にガクガクと震える。
 
「○○さん……好きっ、すきぃ……」
 
蕩け切ったリリーが甘ったるい愛の言葉を漏らす。
それは意識しているのか、無意識の内なのかは分からない。
だが、心からの本心の言葉である事は間違い無かった。
 
「リリ、ィ……リリー……!!」
 
呼応するかの様に、○○も彼女の名を呼ぶ。
その言葉には様々な感情が込められていた。
そして、リリーには彼が何を思っているのか分かっていた。
身も心も繋がっている今、分からない事など何も無かった。
 
「んんっ……!良いですよ〜……リリーも一緒に……ひぅっ……!」
 
互いに『その時』は近かった。
動物としての本能が快楽を求め、渇望する。
全ての意識はその事に向けられ、それ以外の事は意識の外へと追い出されていく。
襲い掛かる快楽に耐えきれず、身体の震えを止める事が出来ない。
許容し切れない快感が全身を侵していき、痺れるような感覚を覚えた。
そして、その痺れは徐々に股座へと集まっていく。
欲望と、本能と、獣欲を煮詰めたドロドロとした物が。
だがそれはリリーも同じ様だった。
首に回された腕に力が入り、全身が震えている。
吐き出される上擦った吐息からも、もう余裕は無いのだろう。
それでもリリーは腰を動かすのを止めない。
腰を動かし、○○の肉棒に貫かれる度に脳髄を焼き切るかの様な快感を覚える。
そして、その快感は彼女を上へと押し上げていった。
そして――。
 
「ひ、ぅ、あああぁぁ――!!」
 
――その瞬間は訪れた。
先に達したのはリリーの様だった。
先程までとは比べ物にならない最高の快感。
それが稲妻の様に全身へ駆け巡る。
前後不覚になるかの様な感覚。
快感しか感じられなくなってしまったかの様な状態。
小さなリリーの身体では収まり切らなかった刺激が、嬌声として外に漏れ出る。
膣内は雄の精を一滴でも多く搾り取ろうと先程まで以上に妖しく、厭らしく蠢いていた。
雄に快楽を与え、精を搾り取る事に特化した動き。
そんな物に耐えられる男などどこにも居なかった。
 
「あっ、ぐぅ、があぁ……!!」
 
程無くして、為す術も無く○○は絶頂を迎えた。
欲望と本能と獣欲をグチャグチャに掻き混ぜた粘液が迸る。
肉棒が脈動する度にそれが吐き出され、全身に快感が走る。
身体の内側から込み上げてくる快感、脳が直接的に感じ取る快楽。
声を抑えられるはずは無かった。
互いに身体が融けて、融け合ってしまうのではないかと思えるほどの幸福な時間。
暴力的なまでに幸せな瞬間。
やがて、その幸せな時間も緩やかに過ぎていく。
不意に、身体を柱に縛り付けて縄が緩んだ気がした。
いや、気のせいでは無い。
今度は手首を縛っている縄が緩み始めたからだ。
その時、指先に何かが触れた。
瞬間、○○は理解した。
リリーが自分を縛り付けていた縄を解いてくれているという事に。
戒めから解き放ってくれる救いの手は、○○の腕を軽く擦りながら徐々に上へと上がって行く。
そのまま腕から肩、首筋、頬を軽く撫でてくる。
やがて、その指先は○○の視界を奪っている目隠しに触れた。
 
「ちょっと待ってくださいね〜……」
 
憔悴しているようだが、どこか優しげなリリーの声。
彼女の指が目隠しの結びをゆっくりと解いていく。
そして、遂に目隠しが取り払われた。
 
「――ッ」
 
久しぶりに感じた光に、思わず目が眩んだ。
光に目を慣らしながら、ゆっくりと目を開けていく。
目を開けると、そこには愛しい彼女の顔があった。
頬を上気させながらも、穏やかな笑顔を浮かべている。
ものの四半刻程しか経っていないのも関わらず、とても久しぶりにその顔を見た様に思えた。
すると、リリーがまた首に腕を回して抱き着いてきた。
それに応える様に、○○も解放されたばかりの腕で彼女の身体を抱きしめ返す。
ぎこちない動きながらも、しっかりと。
その瞬間、○○の罪はようやく赦されたのだった――。
 
 
 
「はぁ〜……気持ち良いですね〜……」
 
その後二人は様々な体液に塗れた身体を洗う為に湯船に浸かっていた。
リリーは湯の温かさに頬を緩ませ、笑顔を浮かべている。
 
「えへへ、とっても楽しかったですね〜」
「……どこがだよ」
 
一方の○○はお世辞にも楽しそうな気分では無さそうだった。
恨めし気にリリーを見ながら、押し殺したような低い声で応答を返す。
冷静に考えてみればあんな痴態を晒される羽目になったのだ、楽しいはずが無い。
今思い出すだけでも羞恥で居た堪れない気持ちになる。
 
「あんな事をするなんて聞いてねぇぞ……!」
「でも悪いのは○○さんですよ〜。カステラを全部食べちゃうんですもん」
「うっ……」
 
それを言われると何も言い返せなくなる。
非があるのは明らかに自分であり、自覚もしている。
だが、そうだと言ってもあんな事をされるとは誰が想像出来るだろうか?
頭では分かっているつもりだが、心が納得いかずにもやもやとした気分だけが残った。
無意識の内に呻き声が出る。
 
「……そもそもどこで仕入れてきたんだよあの内容?」
「あ、それはですね〜ミスティアさんに教えてもらったんですよ」
「ミスティア……?あの八目鰻の屋台やってる?」
「はい、そうですよ〜」
 
その八目鰻の屋台には何回か行った事がある。
屋台の女将であるミスティアの彼氏は知り合いであり、その付き合いで行っていたのだ。
だからこそ、あんな内容の知識が彼女から出てくるのが少し不思議だった。
 
「彼氏さんとえっちする時に、鳥目にすると良い声で啼いてくれるって教えてくれたんですよ〜」
「あ〜……」
 
納得がいった。
その光景が容易に想像出来たからだ。
 
「だからって俺にも試すなよ……」
「ふふ、ビクビクしてる○○さんとっても可愛かったですよ」
「うるせぇ……」
 
思わず片手で顔を覆う。
湯のせい以外で赤くなっているであろう顔を見られたくなかった。
 
「……今度あのカステラ買ってきてやるよ」
「え?でも……」
「いつになるかは約束出来んけどな。でも美味かったからお前にも食ってもらいたいしな」
「○○さん……」
 
リリーが嬉しそうに笑った。
そのままゆっくりとこちらに抱き着いてくる。
応える様にこちらも優しく抱きしめ返してやる。
 
「もし……」
「ん?」
 
不意にリリーが口を開いた。
 
「もし、そのカステラをリリーが全部食べちゃったら……どうなっちゃうんでしょうね……?」
 
全部食べてしまったら――前例に従うならその処遇は決まっている。
現に先程それを執行されたばかりなのだ。
 
「そりゃお前――」
 
リリーの意図が分かった○○は自然に口角が上がって行くのが分かった。
勿論、止めるつもりも無かったが。
 
「『お仕置き』を受けてもらうしかねぇよなぁ?」
 
リリーが楽しそうに吐息を漏らすのが分かった。
少し身体を離すと、彼女と目が合う。
その瞳には婀娜っぽい光が灯っていた。
 
後日、○○の家に買い置かれたカステラ。
そのカステラがどのような運命を辿ったのかを知るのは、二人だけである――。



メガリス Date:2017/03/03 23:25:53

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